某日。在庫補充とアナグマ対策及び新たな野生動物の痕跡がないか&アシナガバチのその後を確認するべく鎮守府へ向かった。
「……お、馬運車」
郊外なんかの道を走っているとたまに見る、競走馬を載せてるデカいやつだ。これにぶつけたりしたら相当な賠償金を払わないといけないらしい。噂では億を超えるとかどうとか。対物無制限なら本当に払えるのだろうか?
「くわばらくわばら」
まぁ安全運転で参りましょう。車間距離は大きく開けておきます。
鎮守府正門
「どうもー」
「お疲れ様です。前の方にどうぞ」
許可証のスキャンが終了。研修の一環で来てた人たちも提督候補生が居なくなったと同時に異動していたようだ。今居るのはいつもの人たちである。
「まずは重巡寮から」
裏にある雑木林からは何が出て来るか分からない。なので在庫は多めにしておいた方がいい。ここは忌避剤メインで補充しよう。
「お疲れ様でーす」
「んー? 配達? 誰宛て?」
「いえ、在庫の補充になりまして」
何となく男っぽ風貌だけど長い髪を後ろで束ねている。誰だっけ。あー、古鷹さんの妹さんか?
「あ、すいません。そこに積んでおいて下さい。後で運びますから」
お姉さん登場。
「承知しました」
「なぁ古鷹、誰?」
「加古ってば1度会って……寝てたっけ、あの時」
「え? いつ?」
「後藤田さんだよ。色々とお世話になってるからちゃんと挨拶して」
やっぱ古鷹さんはしっかりしていらっしゃる。でも俺なんてそんな大した人間ではありませんよ。中身は結構適当ですけん。
「マジ? そっかぁ。えーと、古鷹型2番艦の加古ってんd」
そこで徐に加古の腕を抓る古鷹。
「いった! 分かったって! 古鷹型重巡洋艦2番艦の加古です! よろしくお願いします!」
何か今、教育的指導が見えた気がする。
「よろしくお願いします。害虫害獣駆除をしている後藤田です。得体の知れないのとかやばそうなのが出たら連絡をお願いします」
「やばそうって言えば何日か前にデッカい蜘蛛見なかった? 炊事場の辺り」
「私は何も……」
「……それ、大体でいいのでどれぐらいでした?」
「んー、足の長さを入れると手のひらよりは大きかったかな。あれ? と思ったらもう視界から消えててさ」
手のひらぐらいで恐らく素早い。もしや……
いや、今日は道具が無い。仮に想像した通りの存在だとしたら放っておいて問題ないだろう。下手すると騒ぎにはなるかも知れないけど……
「もしまた見掛けたらご連絡下さい。ではこれで」
その後は方々を回って倉庫裏の確認。アナグマは影も形も掘り返した土も見えないから大丈夫そうだ。超音波器具を交換して潜水艦寮へ行き戻り蜂を探すも見つからず。引っ越しは上手くいったようで何より。
「えーと……駆逐艦寮が最後だな」
2号棟用の在庫セット(試作)を持って来たからこれを置かせて貰う。中身は彼女たちの意見を取り入れ今後足したり引いたりして必要な物だけにしていく感じだ。
って訳でハイエースを駆逐艦寮へ向ける。1号棟は用が無いのでスルー。車ごとそのまま裏に回った。
2号棟管理室
「こんちゃーす」
「あー、この前は悪かったね。オオゴキブリはあれから出てないよ」
「何か御用でしょうか」
長波&風雲が居た。夕雲型もその内に増えていくのだろうか。
「在庫のセットを持って来たから何かあれば使って。これが欲しいとかあれがあったら便利だとか、そういう意見も取り入れて中身を変えていくから宜しく」
無事に受け渡し終了。今日はここまでだ。車に戻る途中で何かが飛ぶ音が聞こえた気がしたけど姿は見えない。まぁ問題になるようなら連絡があるでしょう。
3日後……
店番中にLIENの通知音。防除連絡網でした。今は客も居ないので開いてみる。
吹「イヤなの居た~」
2号棟側に面している窓を写した画像。窓ガラスにくっ付いたハエっぽい虫。
「……アブやな」
季節性の発生ですね。自然が多けりゃやっぱり出るもんです。
佐々波「蚊取り線香がある程度効くと耳にしましたぞ」
しぐ「普通のはダメらしいよ。専用のヤツじゃないと効果薄いって」
専用のは悪いけど在庫に持ち込んでないなぁ。ハエや蚊の類に効くのは置いてあるけど。
更に2日後。殺虫剤は撒いてるけども飛んでる音が凄くて近付けない&誰か噛まれた等の通知が相次ぐ。吹雪ちゃんから遠慮気味に「アブの件ですけど……」とDMが来たから出向く事に。
当日
「えーと……これとこれと、あとこれも」
試供品だったハチアブゴートゥーヘルは商品化されて"ハチアブバスターズ"と装いも新たになっていた。"ブ"の後に"バ"だと語呂が悪くないかと南海製薬の人に言ったら「いやぁこっちもその件は打ち合わせで何回か議題に上げたんですけどねー」との物言い。
それと秘密兵器が1つ。以前にアブの生態を調べてて分かった事があるので作っていた物だ。効果が出れば嬉しいが果たして。
まぁまぁの分量をハイエースに積み込んでいざ鎮守府へ。時間帯的に昼前の到着だから久々に食堂で昼を食えそうだ。
2号棟前
「……あちゃー」
フロントガラスに突っ込んで来るアブ、アブ。サイドガラスにくっ付くアブ、アブ、アブ。降りられない。
「退避退避」
バックして方向転換し1号棟の前に行った。こっちは無事らしいので降りる。取りあえず管理室に顔を出して……
「あら~、最近来てくれないから飽きられちゃったのかと思ったわ~」
どうしてこんな時に限って荒潮姫が。ってかどんな会話だよこれ。キャバクラの類じゃないんですよ。
「吹雪ちゃんは何所かな」
「新しい娘たちの案内してるわぁ。もうちょっとで戻って来る筈よ」
「んじゃロビーで待たせて貰います」
「いいわよぉ。折角だから、久々にゆっくりお話ししましょ~。ボトル開けるわね~」
何だこの茶番は。あらぬ疑いを掛けられるから勘弁してくれ。あとそこから出て来なくていいから。
「荒潮、変な芝居は止めなさい」
奥から出て来たのは叢雲様。例のトラ猫を抱っこしているのが妙に絵になる。いやその前にありがてぇ助け船で。
「えぇ~いいじゃなぁ~い」
「あんたのそれは分かってても何所か冗談に聞こえないのよ。いいから持ち場に戻って」
「はぁ~い」
「寅吉? トラ蔵? 元気そうだね」
「ニャ~」
「偉いわねトラ二郎。お返事が出来て」
相変わらず呼びたいように呼ばれているらしい。猫は呼び分けが苦手っぽいけど上手く順応しているご様子。
「きなこちゃんって言ってるじゃないのぉ」
「オスなんだからきなこちゃんはダメに決まってるでしょ」
「そんな事ないわよ~。ね、きなこちゃ~ん」
「オァ~」
不服そうだ。まぁ俺が首を突っ込む問題ではないからスルーしよう。
待つ事、約10分ちょっと。綺麗な金髪と……何だろう、茶髪まで濃くはない色? あと水色をもうちょっと薄くしたようなショートヘアの娘たちを連れた吹雪ちゃんが戻って来た。
「あ、お疲れ様です。お待たせしてすいません」
「大丈夫大丈夫。取りあえず色々と持って来たから試してみよう」
後ろに居る3人の内、金髪の娘はとてもにこやかである。何色と言っていいか分からない娘は腕を組んで訝し気な顔。もう1人はロビーの中をグルグルと見回している。
「2号棟に入る娘たち?」
「はい。荷物はちょっと前に届いてたんですけど今日から配属になりました」
説明をして貰い俺が不審者ではない事が分かったのか2人目の娘は表情を少し崩した。
「フレッチャー級駆逐艦ネームシップ、フレッチャーです。もし何かお手伝い出来る事があれば御申し付け下さい」
聞いた事があるような気がする名前にとても気品溢れるお姫様のような立ち振る舞い。初めて遭遇するタイプだ。
「フレッチャー級、ジョンストンよ。そういう経験はないけど……まぁ出来そうなら手伝うわ」
ちょっと強気な感じ? まぁこれはその内に柔らかくなって貰えると有難い。
「ジョン・C・バトラー級護衛駆逐艦のサミュエル・B・ロバーツ。サムでいいですよ」
えー……ジョンシーバト……サミュエルビー……では遠慮なくその通りに。
「後藤田です。害虫と害獣の駆除、撃退をしている民間人です。たまにウロウロしていますが仕事中なんで気にしないで下さい」
「生活のある場所には必ず出て来るものです。よく分かります」
「虫は飛んでるのも這ってるのもあんまり好きじゃないわね」
「バタフライは綺麗で好きかな~」
蝶は成虫になってしまうと害は殆ど無いが幼虫の段階では色々と不都合が生じる。アゲハ蝶だってその幼虫は食害を引き起こす存在なのだ。
「それで、あの、アブの件ですが」
「取りあえず専用の殺虫剤と忌避剤、蚊取り線香の効果もあるけどハチとアブにも効くハチアブロックZってのを持って来たよ」
この相変わらずのネーミングセンス。上から下までこんな人間しか居ないのかあの
「ただいまー、ったぁ!」
元気に響く白露嬢の声。両耳を手で覆いながらロビーに入って来た。
「おかえりー。居た?」
「朝まで静かだったのに今通り過ぎた!」
耳元を掠めたらしい。リアクションがいつもより大きかった、
「あれ、来たんだ」
「呼ばれました」
「何持って来たのー?」
持ち込んだ道具が品定めされる。ハチアブバスターズを手に取った。
「これまた名前変わったんだ」
「効果は少し弱くなったけど飛距離が伸びたらしい」
俺が前に噴射距離をもうちょっと伸ばせないかって話した件が反映されてしまったようだ。いいんだか悪いんだか……
「2号棟の方はアブめっちゃ居るんだよね」
「小動物の死骸とかがもしかすると近くにあるかもね。ああ言うのに集るからな」
「ど、どうします? 今から始めます?」
「んー……先に昼を済ませて欲しいかな。実験して見たい事もあるし」
ここで視線を3人に向けた。早速だが手伝って貰おう。もちろん自由意志だけど。
「もし良ければ参加してくれる?」
「はい、ぜひ」
「……最初は見学したいわ」
「手伝いまーす」
管理室の2人も引っ張り出し……1人でもいいけどこれで総数は6人ほど。最大で8人か。
「じゃあまずお昼を食べましょう。んで休憩を挟んだ後に色々と説明します」
1号棟から飛び出して食堂へ向かった。その道中でとある2人に出会う。
「あ、ご無沙汰してます」
「潜水艦寮の方は問題ないだろうか」
大和&武蔵のご登場。
「お疲れ様です。向こうは大丈夫そうですね」
「大人数で移動か。何か作業を?」
「駆逐艦寮の方でアブが多いもんでして。作業の前に昼を済ませようかと」
「アブって言うと……血を吸う虫ですよね」
「ここ数日、急に増えたんです。何人か刺されちゃって……」
「飛ぶ音がある意味で敵機より心臓に悪いでーす」
敵機。あんまり耳にしない言葉が白露嬢の口から発せられた。こういう時は何か不思議な気分になる。
「ふむ。アブか。大きい物は3cmほどになると聞く」
「あの、差し出がましい事ですが、もし良ければお手伝いしましょうか?」
「…………ではお願いしたく」
人数は欲しい。それに戦艦組の協力が得られれば心強いのは確かだ。
「任せろ。その前に昼だったな。同行しよう」
「ご飯を食べないと元気が出ませんものね」
急な参入で吹雪&白露はテンションが上がった。何か分からないけどキラキラして見える。
「Oh、ヤマトクラスのお2人ですね。フレッチャーと申します」
「よろしくお願いしますね」
「本国には姉妹が多いそうだな。羨ましい限りだ」
「いえ……実を言うと顔を合わせた事がない姉妹も多くて……」
会話を小耳に挟みつつぞろぞろと食堂へ移動。久しぶりにここの飯が食える。何にしようかな。