鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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大分遅れました。


夜盗と書いてヨトウと読む2

 引き続き作業中。香取さんが持って来たバケツを花壇の近くに置いた。こっちでも用意したバケツは控えにしておき、タライで蓋したのを少し遠くへと運ぶ。神威さんが満杯にさせたボックスと、イタリアさんが落としてしまったウゾウゾの方も回収しタライを退かして中に全部入れてしまった。

 

「殺虫剤殺虫剤」

 

 小さいスコップ片手にバケツの中へ殺虫剤を撒く。5秒ぐらい噴射したらスコップで掻き回して馴染ませるのだ。そうすれば1分とせずにヨトウムシは動かなくなっていく。

 

 しかしこれで全体の何割を駆除出来たのか……

 

「香取さーん。ちょっとこの中身をゴミ袋に入れて来ますんで席外しますね」

 

「……あ、はい。こちらは見て置きますので」

 

 うん? 何か変な間があったような。気のせい? バケツの中身を見せたから?

 

 もしかしてだけど、鹿島さんがヤスデ軍団に恐怖したあの時の記憶が正しければ、ウゾウゾ系は苦手な姉妹だったり? でも今の作業で鹿島さんは別に普通だ。

 

「では失礼します」

 

 まぁ、あんまり勘ぐっても仕方ない。ここで無理に距離を詰めて変態呼ばわりでもされたらたまったもんじゃないですよ。取りあえずそういう事なんだと思っておく。

 

「ゴミ袋ゴミ袋」

 

 ハイエースのバックドアを開ければ黒いゴミ袋があるので広げる。そこに流し込んで口を閉じた。

 

「戻りましょうかね~」

 

「あ、ごめんなさい。忙しいですか?」

 

 おやおやこんな所にザラさんが。

 

「作業中ですんでちょっと今は。急ぎの件ならお話だけ」

 

「いえお仕事ではないんですけど、イタリアさんとローマさんに少し会えればそれで」

 

「あー……でしたら大丈夫だと思いますよ。裏の方に居ますんで」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 パタパタと裏に走って行った。別に追い掛ける訳じゃないけどその後を歩いて行く。そして裏に出ると……

 

「Volevo davvero vederti.!」(とても会いたかった 的な感じ)

 

 うわ、イタリアさんに抱き着いてる。こう見ると姉妹のようにも……

 

「ザラ? いつのまに甘えん坊になったのかしら」

 

「聞いて! もうポーラがポーラでポーラなのはポーラなんだけど!」

 

「ザラ、落ち着きなさい。どっちの言語でも成り立ってないわ。話なら後で聞くから」

 

「作業中ですよ」

 

「あ、香取さん……」

 

 眼鏡の光った香取様にたじろくザラさん。やっぱそういうキャラクターを演じている?

 

「緊急でしょうか」

 

「いえ、すいません、出直します」

 

 帰ってしまった。少しタイミング悪かったですねこれは。

 

 それから1時間ばかりが経過。バケツは1回だけ取り換えた。最初と違い時間の経過に対して捕獲した数が少ない。やはり昼間の内は難しいらしい。

 

「居なくなっちゃったね。これで全部?」

 

「いや、土の中にまだまだ隠れてる筈だ。名前が現す通り夜の方が見つけやすいのだろうな」

 

「しゃがんでるの疲れちゃいましたね」

 

 伊勢・日向・鹿島組は手が止まっている。ボックスの中は10匹ちょっと。殆ど空っぽだ。

 

「近場は全部見つけたみたいです」

 

「この辺には姿が無くなったわね。まだ中心部が残ってるけど」

 

「掘っても出て来なくなりました」

 

「居ませーん」

 

 イタリア組&補助艦艇組も見つけられなくなったようだ。こっちのボックスは20匹前後だろうか。

 

(ここらで休憩……いや中断だな)

 

 やはりこうなってしまったか。取りあえず山城さんと相談しましょう。

 

「どうします? 日中はこの辺が限界に思えますけど」

 

「夕方に再集合でいいわ。みんな休んで。私はもう少しだけ探すから」

 

 一旦解散。眼光が鋭くなった山城さんだけ残るらしい。道具は戦艦寮の壁に集めて置いておく。夜の作業もメンバーは同じだ。

 

 

 さて俺はどうするかな。店に戻ってもいいけどまた来るのもちょっと面倒くさい。ハイエースでずっとひっくり返ってるのも何か見た目悪いし……

 

「……2号棟の様子でも見に行きますかね」

 

 暇つぶし兼状況確認だ。アブのその後も気にはなってるし動物の痕跡が見つかるかも知れない。作業の前は久しぶりに食堂で晩飯だからそれまで軽く御用聞きして、司令部棟の物書きスペースでハクビシン対策を練ろう。

 

「あ、死骸のゴミ袋は下ろしとくか」

 

 どうせまた使うし、車内で口が開いたりしたら事だ。道具と一緒にしておこう。

 

「よーし完了。2号棟2号棟」

 

 ゴミ袋を置いて出発。1号棟から歩いて行くとアブが怖いので裏に回って2号棟の前で停車。少し様子を見るも窓ガラスにくっ付くのは居なかった。

 

 取りあえず車から降りる。飛翔音なし。車体にくっ付いているのもなし。諸々が上手くいったかな?

 

「大丈夫っぽいな。んじゃ管理室へ」

 

 今日は誰が居るのか。ドアをノックします。

 

「こんちはー」

 

「はーい」

 

 元気な声と共に出て来たのは……大潮ちゃんでしたかね。あんまり会話した事ないからちょっと怪しい。もう1人は野分ちゃん。珍しい組み合わせに感じます。

 

 ん? ここは2号棟だから朝潮型も陽炎型も居ない筈。何がどうしたんだ。

 

「……2号棟の娘たちは?」

 

「司令官がスケジュール調整を間違えて全員留守にしちゃいましたー」

 

 そんな喜々とした感じで言う事ではないと思うんですがそれは……

 

「当面は2号棟の内部も把握しておかないととの事で、今回は私たちが」

 

 互いに行き来する機会もあるだろうからそういうのは大切だと思います。

 

「んーと、ハクビシンの件は聞いてるかな」

 

「最近になって夜の見回りもするようになりましたけど見てないでーす」

 

「あ、ちょっとお願いがあります。アナグマ対策に使ってるような超音波器具を幾つか設置して頂けると」

 

「今色々取り寄せてる最中だから届き次第で持って来るよ。もうちょっと待ってね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 その後、2号棟周辺を探ったけど痕跡は無し。近付かなくなったのか、やっぱりあの死骸だけだったのか、どうなのか……

 

 一先ず管理室にまた顔を出した。大丈夫そうな件の報告とアブについて少し聞き込み

 

「アブが飛び回ってたのも知ってると思うけど居なくなった?」

 

「新しい在庫の蚊取り線香を1日中外に出してたら2~3日で居なくなりました」

 

「外に出やすくて嬉しいです!」

 

 アブ対策の方は上手くいったらしい。ただ季節性の連中は毎年現れてしまうのが悩みの種でもあります。

 

「因みに、何か減りの早い在庫はある?」

 

「そうですね……虫除けスプレーでしょうか」

 

「網戸に吹き掛けるスプレーが欲しいって声もたまに聴きます」

 

「あーあー、そういや置いてなかったか。了解。何か仕入れて持って来ます」

 

 2号棟はこの辺で失礼。在庫に新しいのを追加しなくては。それと普通の虫除けスプレーも発注しておこう。ハクビシンの件もあるから次来る時はそれらを一緒に持ち込みたいけどこれはスケジュール次第か。

 

 その後、各寮を回ったけど追加情報はなし。防虫系のグッズに需要が高まっているようなので早急に数を揃えないといけないのが把握出来たぐらい。

 

「さて、それじゃちょっと色々と纏めなきゃ……」

 

 いや待てよ、間宮さんの所に寄るのも有りか。でも今のタイミングだと誰か居るかも。

 

「……夜は食堂だから注文する時にも会えるかな。欲張りは止めよう」

 

 会えなかったらそれはそれで。司令部棟に移動します。執務室に顔だけ出して1階のスペースを暫く借りますと伝えた。今は提督さんだけしか居ない模様。2号棟の件は知らなかった事にする。

 

「まず発注分から」

 

 ノートPC出してお仕事お仕事。各寮で聞いた物をメモ帳に全部打ち込んだらエクセルの方にコピペしていく。直ぐにでも届きそうなのは今から発注してしまおう。そうすりゃ帰ってから慌てなくていい。

 

 小1時間経過。発注は済ませたのでハクビシンについて考える。

 

「……げ、もうこんな時間か」

 

 あーだこーだ考えてたらいい時間だ。一旦ここまでにして夜から使う機材の点検をしなくては。その後は1~2時間ぐらい横になって休みたい。

 

 点検終了。では失礼して横になります。

 

 アラームが鳴ったので起きる。時刻、16時半前。早いけど晩飯だ。

 

 

食堂

 

「お疲れ様です」

 

「あら、変な時間に来ましたね」

 

 間宮さんに会えました。ラッキー。

 

「夜から続きの作業になりまして、早めに済ませようかと」

 

「あんまり早いと後でお腹空きませんか?」

 

「いやその頃には家だと思うんで心配しないで下さい」

 

 お気持ちだけ頂戴しておきます。注文したのを受け取って食べ終わりトレイを返却し食堂を出た。

 

 

 さて戦艦寮の裏に到着です。まだ誰も居ない。集合予定時間まで1時間ちょいあるからこの間に準備を進める。取り出しましたるはLEDの屋外ライト。作業中はこれで周辺を照らすのだ。LEDは虫を寄せ付け難い性質があるから用意しました。

 

 ただし完全にとはいかないのでもう1つ秘密兵器。電撃殺虫機である。こっちは虫が好む波長の光を出すからそれに誘導されて突っ込むと電気で……まぁそういう感じ。

 

 車に積んでるバッテリーでの作動テストはさっき問題無かったので後は戦艦寮からコードリールを借りて電源確保。今の内にレイアウトを決めておこう。

 

「……まぁこんなもんでいいか」

 

 花壇を中心に四方から照らす。殺虫機はその周辺へ等間隔に設置。手元用の懐中電灯(LED)も人数分ある。

 

「大げさな感じですね」

 

「いやー、備えあれば何とやらって事で」

 

 香取様登場。

 

「道具の方は昼間と同じように?」

 

「そうですね。花壇の周りに置きましょう」

 

 一纏めにしていた道具類を取りに戦艦寮の壁へ近付くも、黒いゴミ袋を見た香取様の足が止まった。

 

「…………車に戻します」

 

「……いえ、見えない所にあればそれで」

 

 じゃあ表の方に出そう。ハイエースの横に置いて戻ったら戦艦組がほぼ揃っていた。それから10分ぐらいで全員がまた集合。気付けば暗くなり始めた。

 

「中心部を集中的にお願い。でも、昼間は居なかったのが出て来てる可能性もあるから、周りをもう1度見て欲しいわ」

 

 LEDが照らす中で作業再開。花壇に近付くと……

 

「うわ、すげぇ」

 

 昼間に見つけられなかったのと中心から移動して来たのがまた群がっている。だが何割かは減っているからゴールは近い筈だ。

 

「もう1度最初からやるような感じだねこれ~」

 

「仕方ない。名前が現す通りの生態な訳だ。逆を言えば今が全て取り除くチャンスでもある」

 

 ちょっと辟易した伊勢さんの隣で相変わらず涼しい顔の日向さん。まぁやるしかないですわな。

 

「お昼よりも多いように見えますね」

 

「この数はちょっと予想してなかったわ」

 

 イタリア組も少しお疲れっぽい。気持ち的に昼間で終わらせたかった所はあります。

 

「始めましょう。長引くと遅い時間になってしまいます」

 

 全員で花壇に取り付いてまた外周部から探っていく。しかし多いなぁ……

 

「あら、もうバケツが」

 

「新しいの持って来ますね」

 

「こっちは貰います」

 

 早々に補助艦艇組がバケツを満たしてしまった。交換用のバケツを取りに行く神威さんの横で俺は満杯のバケツを受け取り戦艦寮の壁際に移動。タライで蓋しておく。ついでにバケツを幾つか広げておこう。

 

「山城、そろそろバケツを取り替えましょう」

 

「ブツブツブツブツ」

 

「聞こえてないわ。フソウは傍に居てあげて。私が取り替えます」

 

 殺気立ったオーラを醸し出す山城さん。周りの声が聞こえてないっぽい。

 

「ここに置いていいかしら」

 

「ああどうぞ。新しいのはそっちに並べてあるヤツです」

 

「merci」

 

「すいません、こっちも満杯に」

 

「置いといて下さい」

 

 満杯一歩手前のバケツを運んで来た鹿島さん。やっぱりウゾウゾにある程度の耐性を持っているのか? ヤスデは大量も大量だったけどこれぐらいなら平気らしい。

 

「バチ!」 「バチバチ!」

 

「ひ!」

 

 急に聞こえた音にビックリした鹿島さんが固まった。あー、電撃殺虫機に虫が突っ込む音だこれ。初めて使ったけど意外に大きいんだな。

 

「え、何の音?」

 

「照明の横にあるヤツか。虫を光で誘い込んでいるみたいだな」

 

 驚いてキョロキョロする伊勢さんの横で謎に博識な見解を見せる日向さん。一目見てそこまで分かるのか。

 

「余計な虫がこっちに来ないようにと思って用意したんですが、耳障りなら止めます」

 

「顔の近くに飛んで来たら手元が狂うわ。このままでお願い」

 

 目に殺意を感じる山城さんの一言には従うしかありませんでした。作業継続です。

 

 約2時間経過。電撃殺虫器に虫が飛び込む音を聞き流しながらバケツをまぁまぁの回数取り換えては中身をゴミ袋行きにした。陽もすっかり落ちて僅かな夕焼けすら見えない。

 

「……大方、回収したと思いますが」

 

 もうヨトウムシの姿は無い。まだ隠れているかも知れないがこの段階でこれなら残りは少ない筈だ。

 

「ほぼ終わったわね。みんな、ここまででいいわ。ありがとう」

 

「ヤマシロ、今日はもうお終いよ。続きは明日からで。いいわね」

 

 いい感じに丸め込めたので作業は終了。お片付けです。

 

「ボックスはこれで全部です。それと懐中電灯も」

 

「ありがとうございます。車の中に置いといて下さい」

 

「すいません、明日の準備がありますのでお先に失礼します」

 

「今日はお疲れ様でした」

 

 瑞穂さんが色々と持って来てくれたのをハイエースに置く傍らで香取型姉妹が挨拶に来た。先に鹿島さんが帰ろうとした時、積み込もうと持ち上げたゴミ袋の口が開いて3分の1ぐらいの死骸が外に出てしまう。

 

 足元を照らすためにLEDライトを1つだけ点けていたせいでガッツリと目視出来る環境でした。

 

「げ!」

 

「っ!!」

 

 諸に見てしまった香取さんの口から正しく声にならない何か、と言う感じのヤツが聞こえた。振り返った鹿島さんの視界に入るのを阻止しようと体で隠す。

 

「え、どうかしました?」

 

「いえいえ大丈夫です」

 

「帰りましょう」

 

 そそくさと2人は退散。何か悪い事をしてしまった気がする。

 

「……また回収ですね」

 

「もう動いてませんから後は自分だけで大丈夫ですよ」

 

 アスファルトに落ちたのを急いで回収した。早くしないと帰りが遅くなる。

 

「では失礼します。たまに経過も見に来ますので」

 

「ありがとうございました」

 

 扶桑さんに挨拶を済ませて今日は終了。死骸は後で処分します。鎮守府を出て商店街と大体中間地点にある所のコンビニまで来ました。

 

(……広樹です。微妙に空腹を感じて来たとです)

 

 間宮さんの予言が当たった? でも太るしなぁ。飲むヨーグルトぐらいだったらいいか。コンビニへ入ろう。

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