日差しが厳しくなり始める中で本日も鎮守府に向かう。今日は鎮守府の全建築物調査と、ついに敷地の外へ足を踏み入れる日だ。
建築物調査は基礎部分を調べて何所かにハクビシンが棲み付いたりしてないかを確認する。加えて周辺に存在を示すような痕跡の有無も。屋根の所の隙間なんかも危険だがそっちは夕張さん率いるドローン班にお願いした。
これで色々と絞り込めれば後々が楽になる。筈……
ぶっちゃけ行動半径も移動経路も全く判明してないのでまず"棲み付いた可能性"を排除出来れば目的が捕獲・撃退・駆除から侵入の対策になってこっちもやり易い。そしてフェンスの向こうにもし痕跡が無ければ、あの死骸となった1匹以外の個体が存在しない事の証明にもなって一石二鳥。
そんな手抜き的思考から生み出されたのが今回の調査って訳です。
さて到着しましたのでいつも通り許可証のスキャンが終わったら司令部棟に行きましょう。
司令部棟・執務室
「おはようございます」
「おはようございます。日中は気温がまぁまぁ高くなるそうですからご注意下さい」
提督さんもすっかり半袖だ。そして今日の秘書艦は加賀様。
「集合を掛けます」
内線であちこちに連絡すると10分ぐらいでメンバーの一部が揃った。寮長とは限らず今日居る面子で諸々を任せられる人員らしい。
「あまり舵取りをするような経験はないが、引き受けた以上は役目を果たしてみせようぞ」
「よ、よろしくお願いします」
「大丈夫よ。全員でやれば怖くないわ」
1号棟、初春様。2号棟は風雲ちゃん。サポートが叢雲様。まだ2号棟は色々不慣れだから1号棟で助けるようだ。
「この前は山城の件で世話になったな。あれからは特に問題なさそうだ」
戦艦寮から長門さん。寮長は扶桑さんだが出払っているらしい。
「Hallo、本格的な手伝いは初めてかしら」
空母寮はホーネットさん。加賀さんが任せられるって事は相応に優れていると推測出来る。
「お疲れ様です」
重巡寮の方は安定の古鷹さん。
「はーい、小さな変化も見逃しませんよー」
軽巡寮……前に会ったけど那珂さんでしたかね……
「昨日着任した娘たちを連れて来ました。私が居ない時は色々と対応して貰いますので、よろしくお願い致します」
潜水艦寮はやっぱり大鯨さん。そして見知らぬ艦娘2人。
「迅鯨型潜水母艦、1番艦の迅鯨と申します」
「2番艦の長鯨でーす。分からない事だらけですけどお手伝いしまーす」
何かこう、大鯨さんに比べて大きい気がする。何所とは言わない。色々大きく見えるます。
って訳で今回の調査を説明。基本的に各寮や建造物は個々で基礎部分や周辺の調査をやって頂く。今日は普段なら会う事もない職員の人たちも協力して貰うので規模としては過去最大だろうか。
「何か質問等あれば」
「仮にの話しだが出くわした場合はどうすればいいだろうか」
長門さんの質問。これは今日の調査で最も難しい所だ。
「距離が離れているんでしたら刺激せず、大っぴらに気付いて騒ぐような事はしないで下さい。もしも出入りしている場面に目の前で遭遇した時は専用の撃退スプレーを持って来ましたので、それを撒けば追っ払える筈です。行方が分からなくなる可能性は高いですが安全第一でいきましょう。念のため肌の露出もしないようお願いします」
あ、駆逐艦寮周辺に仕掛ける用の超音波器具を忘れた。今日使う撃退用と虫除けスプレーの類は先に送っていたからいいけど、器具類は故障が怖いから自分で運ぼうと思ってたのに何でか頭から抜け落ちていて今思い出した。どうしよう。
「……後は大丈夫でしょうか」
一瞬黙ってしまったが違和感なく再開。出来たと思う。駆逐艦3名は別に普通の表情だ。悪いけど後日搬入って事で。
「はーい。見つけた場合は連絡が必要?」
お次は那珂さん。
「仕事用携帯の方へお願いします。自分は敷地の外を調べるので直ぐに現物の確認は行えませんが、一報頂けると有難いです。発信が皆さんの個人端末ですと番号が特定出来ませんので、今回は各寮の固定電話から掛けて貰えれば大丈夫です」
「これがその番号よ。みんな目を通しておいて。こっちは各寮の番号」
加賀様が数枚の小さい紙を配る。仕事用の番号が書いてあります。俺も逆に各寮の番号が書かれた紙を貰う。
「ありがとうございます」
「悪戯電話をすればどうなるか、分かっているわね」
「悪戯電話をする理由がありませんが……」
「ならいいわ。この辺は情報の扱いに関わって来る所だから、そのつもりで」
後に先にも敷地の外で詳細を漏らした事は御座いませぬ。大手なら何かしら手打ちに出来る手段があるかも知れないけどこっちは零細ですけん。事あらば一発で出禁は確実。
「では他に何もなければ作業に掛かって頂きたいと思います」
全員が動き出した。俺もこのまま外に、と言いたい所だがドローン班に顔出しをしないといけない。場所は隣の部屋。初めて入ります。
「お疲れ様でーす」
「準備出来てますよー」
旧棟の時みたいな監視基地が出来上がっていた。人数分のモニターやパソコン類が並んでいる。
「うぃ~す、外あっついね」
「ここ、涼しい。出たくない。最高」
すっかりドローン班として固定されたらしい初望と……
「なーんでアタシまで巻き込まれるんだよー」
「結構ゲームやってるっしょ~。腕前見させて貰おうかな~って」
「噂は聞いてる。仲間になろう。一緒にオンゲーやろう」
「アタシはあんたらと違って自分のペースで出来るやつがいいんだってば」
敷波の姿もあった。意外にゲーマーらしい? 更にまだ誰か居る。
「む、難しいデス」
「水上機とは別モンじゃこりゃ」
えーと……名前が思い出せないのが2名。誰だったっけ。片方は海外艦なのは間違いない。もう1人。巫女さんみたいな服装。
「大丈夫よコマちゃんすぐ慣れるから」
コマちゃん。そんな名前の海外艦……あ、水上機母艦で海外艦が居ましたねそう言えば。って事は隣も恐らく水上機母艦か。にしてもあんな恰好の娘は居ただろうか。
「こりゃあ速度はどうやって変えりゃぁいいかの」
「速度はこっちのボタンよ」
「ほぉほぉ」
「あ、センスいいー。にっちゃんさすが」
にっちゃんね。水上機母艦でにっちゃん…………日進って名前の娘が居た気がする。記憶が正しければ1回しか会ってないが。
「ドローン班増えましたね」
「もうちょっと人数欲しいんですけどねー。こっちも始めちゃって大丈夫ですか」
「お願いします」
さて全体が動き出しましたよ。外に出て車を動かし、倉庫地帯に向かった。
近付くに連れて人の姿が見えて来る。今日のメンバーは俺と警備隊お馴染みの伊藤さん&高橋さん。プラス2名で初めて会うけど総務から土地の管理を担当している人たちが参加。この2名が何所までが鎮守府の土地になっているかを知っているそうなので、案内役になってくれる。
そんな人たちを部外者の俺が率いるってどんな冒険者パーティーでしょうね。
「おはようございます。本日はよろしくお願い致します」
「お疲れ様です。準備の方は一通り終わってまして、あとはこちらで用意した物を装備して貰えれば」
そして武田さんもいらっしゃる。装備する物はオレンジの警告チョッキと空調服に作業用ヘルメット。作業服と安全靴は自前だ。手早く装備したら総務の方にご挨拶。
「後藤田と申します。今回はご協力頂きありがとうございます」
「鎮守府総務の
初老っぽく見える。課長とか係長やってそうな感じ。
「同じく総務の
大してこちらは自分より少し年上? 30代半ばだろうか。そして地図を受け取る。結構広そうだけどしょうがない。
「お借りします」
あとは小物入れも装備。中はスポドリと塩飴だの。他には威嚇用の爆竹や殺虫剤、マーカースプレー。更に手持ちで……多分これは武器? 木製の長い棒だ。足元なんかの確認にも使えそう。
「当方の地敷ですが大っぴらに銃器は使えませんので、今回はこれで凌ぎましょう。ただ危険な生き物と遭遇した場合は無理せず伊藤と高橋にお任せ下さい」
「……壊さないようにはします」
棒を受けとる。それなりに重い。2種銃猟を取ってれば空気銃が使えたんだろうけど、それもあんまり良くない感じがする。空気銃とは言え外部から武器を持ち込むのは何かに引っ掛かりそうですわ。
因みにどうでもいい話しだけど2種銃猟は1種に比べて税金が安いです。この辺は各自治体によって値段が異なりますので悪しからず。
「それでは……行きましょう」
ヤスデの時に往復を繰り返したフェンスの出入口に進んだ。南京錠が外されて大自然に足を踏み入れると日光が木々に遮られていい感じ。ちょっと涼しい。
「まずフェンスに沿って移動しつつ糞や足跡がないかを確認します。資料はこちらですので見ながらお願いします」
4人に資料を配る。足跡と糞の画像をくっ付けたやつだ。色んなパターンを載せたから素人目でも大体判断がつく筈。取りあえずここから陸地側に向かって進みつつフェンスを調査し、戻りながら二重チェックして海側を目指す。
足元はあんまり良くないからゆっくり進んだ。行きは特に問題なし。道路と敷地を隔てる別のフェンスが見えて来たので陸側はここまで。だが戻っている最中、総務の2人が何かを見つけた。
「これ足跡ですかね」
「そこのフェンスの隙間が少し広いと思うんですが」
しゃがんで地面を見つめる。これはどうだろう。ちょっと消えかかってて断言出来ない。足跡はフェンスの隙間に続いているから何かしらが出入りした痕跡ではある。位置関係的にも駆逐艦寮が近い。そしてこの隙間だとハクビシンなら通れる可能性が……
「……取りあえずマーカーしておきます。海側に急ぎましょう」
適当な石を拾ってそれにスプレー。フェンスから少し離れた所に置いた。前進再開します。
歩き続けて20分ほど経過。波の音が聞こえて来る。そうこうしてる内に視界が開けて海が見え出した。
「おー、こういう感じなんだ」
海岸線で岸壁にはなっていない。左の方を見ると港湾施設があった。
「ここからはどうしますか」
「入って来た所まで戻りつつまた二重チェックを?」
伊藤さんと高橋さんが次の指示を求めている。
「そうですね……このまま敷地が終わる所まで進んで見ましょう。5m間隔ぐらいで横に広がって、何か動物が居ないかを確認しながらでお願いします」
地図で見ると海岸線の形に沿って進めば最終的に道路側へ行き付くようだ。何かしらに出会える確率が高まる。
進み出して約10分後。何か動いて草木が揺れた。
「……よっと」
静かに近付きながら棒を突き出して左右に振る。コツっと当たった感触と共に飛び出して来たのはアナグマだった。流石に驚いた様子で道路の方向に向けて走り去る。
「まだ居るのかあいつら」
「フェンスから近からず遠からずの所まで来てウロウロしているのはたまに見ますね」
「あれから侵入はされてませんが週に1~2回は目にしていますか」
警備の2人がそう言った。まぁ入って来ないならここで生活する分には問題ない。先を急ごう。
「…………何か、地形が盛り上がって来ました?」
前の方が緩やかな傾斜を作り始めた。その先で森が終わって岩場になっている。
「そろそろ境界標がある筈です。たしか……あったあった」
大塚さんが前に出た。しゃがみ込んだ所に境界線を示す境界標が埋められているのが分かる。
「ここが鎮守府としての敷地の終点ですね。この先は正確に言うと国の土地になっています」
渡された地図と照らし合わせると、海岸線に沿って大きなカーブを描いている部分の手前までが鎮守府の敷地である事が判明した。道路に至るまでの所が大塚さんの言う国の土地らしい。
「……この先入れます?」
「我々が同行すれば問題無いかと。最後は断崖絶壁になってますんで気を付けて下さい。鍋島、先導してくれ。ここで待ってるから」
「はい」
鍋島さんを先頭に前進。次第に傾斜を増す地形。足元は岩になり進みづらい。軽いロッククライミングをしているような岩壁をよじ登ると、先端はまだ100mぐらい進めて結構広いのが分かった。数匹の海鳥が休んでいるのも見える。右手は海岸線に沿って作られた道路。目の前は大海原だ。
「ふー……すげぇ」
めっちゃ眺めがいいし風も心地いい。ただこの環境でハクビシンは生きられないだろうな。身を隠す場所も無いし。
「初めて来たぞここ」
「糞だらけだ。ウミネコやらのテリトリーになってるのか」
確かに足元の岩場は糞だらけだ。長居すればウミネコに突かれるかも知れないので退散しよう。
「戻りましょう。お手数をお掛けしました」
岩場から撤収する。この後は道路側に向けてまた5m間隔に広がって移動すると、さっき逃げて行ったアナグマがフェンスを背にプルプル震えながら威嚇に見えない威嚇をしていたので触らずに引き下がった。そのまま倉庫裏の出入口まで移動する。
さて、気にもしなかった携帯を取り出して着信の有無を確認。幸い無かった。
「……各寮や建物は問題無いようですね」
「やっぱりあの1匹だけしか居なかったって事ですか」
「もう少し大人数で分け入れば隠れていたのが出て来るかも知れないな」
それはそれで大変だなぁ。取りあえず今日はここまでだ。もし何かあれば後日相談って事になる。
「地図、ありがとうございました。本日の調査は以上にしたいと思います」
大塚さんに地図のコピーを返却して倉庫地帯に帰還。これで一息と思ったら携帯が震え出した。LIEN通話で相手は吹雪ちゃん。
「後藤田です」
「あ、吹雪です。あの、まだ森の中ですか?」
「さっき戻って来たばかりだけど」
「実はその、2号棟の裏に、またハクビシンの死骸が」
えー? 何それ。あの足跡の主?
「……取りあえず向かうね」
「お願いします」
警告チョッキ、空調服、ヘルメット、棒を武田さんに返して車を動かす。2号棟の前に行くと吹雪ちゃんが手を振っていたので正面出入口に停車。そこから裏に回ると、駆逐艦数名が取り囲んでいた。
「はーい、通りますよ」
「また死んでるにゃしぃ」
「不可解だな。ほんの30分前までは何も無かったぞ」
「エイリアンでも居たりして?」
「居る訳ないでしょ」
睦・長・深・叢が囲むハクビシンの死骸を見た。最初の1匹同様に食われた痕跡がある。大きさ的に成獣より前か。しかしどういう事なんだろうね。考えるのを放棄したくなって来た。
「……エイリアンかもねー」
「マジ? セントリーガン用意しようぜ」
「明石さんが作っちゃいそうだから黙ってなさいアンタは」
有料放送か何かで映画見たのかなー、なんて思いつつこの死骸を考える。有難いっちゃ有難いんだけど気味が悪いですねどうも……
(広樹です。さっぱり分からんとです。色々勉強し直した方がいいんでしょうか)