鎮守府出入り業者の俺   作:土管侍

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物陰注意報その1

 お疲れ様です、後藤田です。本日付で2台目の社用車が納入されました。軽自動車ですが小回りが利くんで自分的には嬉しい事です。一応、元々あったワゴンは親父用でこっちは自分用として貰ってます。

 

「さーて、新車で初仕事といくか」

 

 自分用の車とだけあって思い入れも一入である。いつものワゴンと比べて車高が低いので変な感覚になったが、すぐに慣れた。今日はこれであちこち回る予定だ。

 

 夕方に帰宅すると、町内会のおばさん軍団が家から出て来た所に遭遇。絡まれる俺である。

 

「広樹ちゃん車買ったの?」

 

「仕事用です。自分の物じゃないですよ」

 

「ちょっと広樹ちゃん、あんたお見合いしてみる気ない?」

 

 何を言っているか理解出来なかった。何で俺?

 

「店の経済状況がもう少しよくならないと嫁さんなんて夢のまた夢ですよ」

 

「いいじゃないの跡継ぎなんだし。それだけでも向こうにはメリットになるんだから」

 

「こんな所の社長夫人にさせる方が可哀想ですよ。ぶっちゃけお袋が実質的な経営者なんですから」

 

「あらやだウチの馬鹿息子が減らず口を」

 

「イデデデ!」

 

 耳を引っ張られて連行された。小言をグチグチ言われながら在庫整理をする。

 

「……嫁さんねぇ」

 

 もし例えばだが……間宮さんが嫁に来てくれたら

 

「……近所で噂話の種にされそうだな。だったら2人だけで住みたいわ」

 

 もう1人……大淀さん?

 

「…………いいかも、しれない」

 

 下らない妄想を振り払って仕事に専念する。店の電話が鳴ったので出ると、なんと大淀さんだった。

 

「お忙しい所を失礼致します。お時間よろしいですか?」

 

「大丈夫でせうよ、どうすました」

 

 びっくりしたせいで言葉が少しおかしいが気しない。話を聞いていると、どうやら今回も手強そうな相手だ。まず実物を見に行く事とし、鎮守府まで車を走らせる。

 

「後藤田プロテクトクリーンです、お世話になります」

 

「おや、新車ですか?」

 

「店用ですけどね。今後はこの車でお邪魔すると思います」

 

 毎度のやり取りを終え、駐車場に車を停めた。駐車場には既に、小さい子達を従えた大淀さんが待っている。

 

「早速ですが、実物を拝見致します」

 

「はい、こちらです」

 

 駆逐艦よりも小さな子達に取り囲まれた俺は、前回の件で建て替えの終わった司令部棟の裏手にある物置やらコンテナが林立した場所に辿り着いた。

 

「廃材置き場みたいな場所なんですけど、この子たちが変な蜘蛛を見たと」

 

「何所で見たか教えてくれるかな?」

 

「ひ!あ、あの!ごめんなさい!はぅぅ」

 

 怖い人に絡まれたみたいな拒絶の反応に思わず傷つく。その子を抱き上げる大淀さんが聖母のように眩しいです。

 

「松輪ちゃん。誰も怒ってないから、何所でその蜘蛛を見たか教えてくれる?」

 

「……奥の方です」

 

 彼女が指差した方へ向けて足を進めた。地面に直接置かれて鎮座するコンテナの中を歩く。

 

「そ、そのコンテナです」

 

 件のコンテナをよーく見回す。ふと、ドラム缶が置かれている事に気付いた。そのドラム缶とコンテナの接する部分を見てみる。

 

「…………なーるほど」

 

「どうですか?」

 

「取りあえずこの子らを遠ざけて下さい。次いで、この一帯に誰も立ち入らないよう勧告をお願いします」

 

 皆を連れ、提督さんの所へ向かった。まず報告をしなければならない。

 

「……セアカゴケグモですか。まぁ何時か出るんじゃないかと思ってましたが」

 

 鎮守府と言う立地上、外国船籍の船や各国の軍艦が停泊する事もあり、そこから何かしらの外来種が入り込む可能性は常に付き纏っているだろう。

 

「ちょっと前に欧州方面から物資を受け入れた時、もしかしたら何所かにくっ付いていたのかも知れませんね」

 

「3週間も前の話だな。所でコイツはどれぐらいの間隔で増えるんですか?」

 

「そうですね、一般的には3~4ヶ月程度と言われています。ですので、まだそこまで広範囲に生息域を広げてはいないと思われます」

 

 今ならまだ、捜索の範囲を限定的に絞って探せるだろう。1人でも十分に対処出来る筈だ。

 

「では海防艦の子達にも手伝わせましょう。あの辺は彼女らの遊び場みたいな所でして」

 

 提督さんが呼び掛けると、さっきの小さい子達がゾロゾロ入って来た。

 

「択捉型海防艦1番艦の択捉です!よろしくお願いします!」

 

 どうやら1番上のお姉さんらしい。しっかりしてそうだ。

 

「あ、あの……松輪…です」

 

 何故か怖い人認定されてしまったようだ。そこそこ傷つく。

 

「択捉型3番艦の佐渡さまだ。よろしく頼むぜ」

 

 あーこれは近所によく居るタイプの…

 

「対馬です。つ・し・ま、です」

 

 出ました謎の色気枠。荒潮ちゃんや村雨ちゃんの教育でも受けてるんですかね。

 

「……てっきり関係者か何かのお子さん達かと思ってました」

 

「まぁ無理もないでしょう。こう見えて立派な艦娘たちですよ」

 

 それでは仕事に取り掛かるとしよう。しかしその前に…

 

「すみません、この敷地内に神社か何かはありますか」

 

 俺の発した言葉を提督さんも大淀さんも理解出来ていなかった。ポカーンとした2人を前に話を続ける。

 

「えーとですね、この前にお邪魔した際、どうやら土地の神様か何かの気分を害してしまったようでして、耳元で変な声が聴こえたんですよ。妙に甲高くて、まるで電子音声みたいな声なんですけどね。仕事の前にご挨拶しておこうかと思いまして」

 

 そう言うと大淀さんが笑いを堪え始めた。何故だろうか。不思議に思っていると、提督さんが苦笑いしつつ説明してくれた。

 

「後藤田さん、妖精の存在はご存知ですか?」

 

「はい。艦載機を操縦したり色々と手伝ってくれるんですよね?提督の素質を持ってないとその姿を見たり声を聴いたりする事は出来ないと言われている、あの妖精ですよね」

 

「実はですね、その妖精は鎮守府の土地に宿る一種の霊力的なパワーに長く触れていると、一般の方でも声を聴いたり姿を見たりする事があるんです。もしくは、妖精の側が興味を示した存在に近付いて自ら存在をアピールしたりもします。後藤田さんの場合、よく来て下さっている事で向こうが興味を持ったのと、長く敷地内に居た事で妖精の存在を感知出来る状態になった二重の条件が重なったのでしょう」

 

 言われて見ればこの鎮守府には仕事でしょっちゅう来ているし、日を跨いで帰った事もある。幽霊でない事が分かって安心したが、あんな声を出す存在に絡まれるのが良い事なのかはなんとも言えなかった。

 

「ヨウニイチャン、マタキテクレタノカ」

 

「ショッチュウヨンデモウシワケナイナ」

 

 唐突に耳元で聴こえた声に俺は飛び上がった。姿形は見えないが、何とも心臓に悪い連中である。

 

「仕事の邪魔をするな。暫く控えていなさい」

 

「シッケイシッケイ」

 

「マタアトデナ」

 

 提督さんが一喝すると声が聴こえなくなった。一安心と思っていいのだろうか…

 

「申し訳ありません、何せ気分屋な連中が多くて」

 

「ああいえ、ありがとうございます」

 

 そんなこんなで、俺は仕事の準備を進めた。諸事情で人手をあまり用意出来ないと言われたが、それでも10人近い艦娘たちが手伝いのため集まってくれる。大淀さんが用意してくれた資料を配布して、軽い説明を始めた。

 

「これはセアカゴケグモと言う毒蜘蛛で、海外では死亡例もある危険な種類です。このコンテナがある一帯に棲みつき始めてまだ間もない筈ですので、10匹や20匹居るなんて事はないと思いますが、用心しつつの捜索を心掛けて下さい」

 

 発見した所にはカラーコーンを置いて待機してて貰うから、こっちが見つけ次第に対処すればいい。そもそもが約50m四方の空間なので、1人で動き回っていても見落としはしないだろう。

 

「さてと、始めるか」

 

 すっかり顔馴染みの吹雪型や白露型とすれ違いつつ、セアカゴケグモが居そうな物陰やコンテナに掛けられたシートの裏側を見ていく。物の数分でカラーコーンは3つも置かれていた。

 

「後藤田さーん、ここに居るっぽーい」

 

「こっちにも居るわよ後藤田さん」

 

 夕立村雨コンビに声を掛けられた。どうにも珍しい組み合わせに感じる。

 

「後でやるから取りあえず捜し続けてくれ。そう言や今日は白露ちゃん居ないんだね」

 

「出払ってるから今日は居ないっぽい~」

 

「あらー?もしかして姉さんに会いたいんですかー?」

 

 その中学生が友達の恋仲を疑うような目付きは止めなさい。

 

「遭遇率が高いから居ない事が不思議に感じただけだよ。変な事を勘繰ってないで続けた続けた」

 

 狭い空間の割りに意外と捜す場所が多いのは盲点だった。しかもカラーコーンが10分単位で増えていく。どうしてここの仕事で相手をするのはいつも手強い連中ばかりなんだろうか。

 

「あー……ちょっと疲れたな」

 

 気付けば1時間が経過していた。この時点で置かれたカラーコーンは合計14個。まぁまぁの数が群生しているらしい。無情な光景を眺めていると、大淀さんが近付いて来た。

 

「休憩されますか?」

 

「そうしましょう。皆を呼び戻して下さい」

 

 休憩(意味深)と言う発想に直結する自分の脳をどうにかしたくなった。畜生め。

 

「お疲れ様です。間宮の方で軽食を用意してますので、召し上がって下さい」

 

 提督さんから嬉しい言葉が聞こえて来た。体重とか色々と気になり出してからは控えていたので、久々の訪問である。

 

「ありがとうございます。でも他の子達は」

 

「そちらは別で用意がありますのでご安心下さい。大淀、少し任せるぞ」

 

「了解致しました」

 

 こうして俺は提督さんに連れられて間宮へと向かった。いやまぁ、いいんだけどね、出来れば間宮さんとお話を楽しみたかったなぁなんて……うん




一回で書き上げたかったのですが分割します。次回、なるべく早く出来ればと思っております。
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