2号棟でまた空の段ボールを借りて死骸に蓋。雑紙の束で重しにしてハエ・アブが集るのを防止する。
って所で鎮守府の全建造物調査も一先ず終了。報告会があるので前に草刈りの打ち合わせで集まった建物に行く。その報告会で2匹目の死体以外にも痕跡が見つかった事が判明。なんと食堂裏のゴミステーションに溜め糞である。ゴミステーションの下は空間があるのでそこに見つかったそうだ。幸い出入口は南京錠が付いているので中のゴミに被害は無い。
更にドローン班の報告では取りあえず注意しないといけなそうな類の隙間はなかったらしい。細かくは見れてないので今後も時間を作り小まめに確認するとの事。
問題の溜め糞だが、今日の内にゴミステーションを一旦解体して清掃と消毒、溜め糞除去の流れになった。備品管理の人たちがゾロゾロとやって来て作業が始まる。中のゴミ類は食堂の厨房へ戻す事に。
「……まだ新しい感じだな」
解体されたゴミステーションの下にある溜め糞は少なかった。最近になって出来たらしい事が伺える。この棒状は正にハクビシンの物だ。
因みにタヌキはイヌ科なので犬っぽい形。臭いが強い。イタチは細長くてこれも臭いが強烈。対してハクビシンは棒状で臭いがそこまで強くないのが特徴。日義さんに見て貰う用の写真を撮っておいて糞は除去する。ゴミステーションの底板はしっかり掃除して念のため車に積んであった専用の消毒スプレーを掛けた。糞があった所の土も回収して違う所から採取した土を新たに被せる。
もう1度組み立てたゴミステーションは足場が全部入るだけの穴を掘って隙間が出来ないようにした。連中は意外にも穴掘りが出来ないからこれで再侵入は防げるでしょう。次いで忌避剤散布。例の超音波器具も急いで持って来ないといけない。
さて、この糞が1匹目もしくは2匹目の死骸によるものなのか、それとも更に別の個体がしたものかは不明だが、夕方に画像データを日義さんに送って見て貰った所、ハクビシンである事がはっきり分かった。これでとうとう侵入の痕跡が見つかったため、それに対処する全体的な案を考えなくてはいけなくなる。
3日後
超音波器具は調査の翌日に持ち込んで設置も終わる。んで店番の傍らに撃退方法を組み上げていた矢先、防除連絡網からDMが届いた。アカウント名は「KG」でアイコンは「加」だ。
(いやぁ? まさか本人な訳……)
KG「仕事中に悪いわね。見て欲しい動画があるわ」
本人ですた。
後「どんな映像でしょう」
KG「執務室の窓にスズメバチが張り付いていたのよ」
タイムラインに動画が添付される。再生すると音も聞こえて来た。
「加賀さん危ないですよ!」
「ガラスをどうこう出来る生き物じゃないわ。心配無用よ」
「スズメバチだな。この大きさは女王蜂かも知れないぞ」
最初のは鹿島さん。続いて加賀さんに提督さん。映っているのは窓に張り付いたスズメバチ。
「うーわ、マジか」
季節性の出現らしい。土の中に居たのはとっくに群れが崩壊している筈だからご新規のようだ。周囲が森で囲まれているとやっぱり安定した縄張りを求めてやって来るのだろうか。
って訳で先輩方に連絡。今回もスケジュール&資機材の管理で戦おう。と思ったが……
「今ちょっと遠くに居てさ、まだ数日は戻れないんだけど大丈夫かな」
えー……
「一旦確認します」
「どうしてもってヤツなら直ぐに帰るから、宜しく」
もう1度KG様にご連絡して事情を説明。
KG「あなたの体の件もあるから急かさないつもりよ。むしろ準備が整うまで近付かない方がいいんじゃないかしら」
有難い限りで御座います。先輩方に急ぎではないのを伝え、向こうのスケジュールが終わり次第で行く事に決定。
2日後、戻って来たとの連絡が入った。スケジュールを再調整して鎮守府へ向かう予定を立て、その後の動向を聞き出す。この2日間は追加情報が来なかったので鎮守府内部における進展はなかったものと思われるがやっぱその通りだった。
「んーと……俺は司令部棟の前まで運転して具体的なお話しは先輩方にお任せ。周りを見て貰って安全を確保、と」
鎮守府には明後日向かう。店まで来て貰ったら乗せて行く感じだ。
にしても何所へ遠出していたのか。まぁ立ち入った事を聞くのもあれだし向こうから話題にしてくれるのを待ちましょう。
当日。先輩方が店に来たのでハイエースに乗って頂く。
「広樹ちゃんお土産」
「何スか」
「これで"にわかせんぺい"って読むんだってさ。面白いパッケージでしょ」
箱には「ニ〇加煎餅」と印字されていて謎の困り顔みたいなイラスト。なるほど、ニ〇加(にわか)ね。でも漢字の煎餅で"せんぺい"か。何か分からないけどむず痒い読み方。
「へー、何味なんですか」
「煎餅で売り出してるけど殆どクッキーみたいだね。後で食べて」
「あざす」
チラッと裏を見る。製造元は……福岡? そんな所まで行ってたのか……
「……じゃあ行きますよ」
エンジン始動。いざ鎮守府へ。
大体40分ぐらいで到着。正門でお馴染みのバーコード読み取り後、司令部棟にハイエースを横付けした。連絡すると提督さんが出迎えに来てくれたのでそのまま先輩方をお預けする。俺は車内で待機です。
30分後、司令部棟からゾロゾロと出て来た。ドアをノックされたので窓を下げる。
「建物の周りを見てくるからまだ待ってて」
「両サイドから回って裏で合流するか」
「殺虫剤下ろすぞー」
「あー、まだ筋肉痛が治らねぇや」
福岡まで行って何をして来たのか知らないが普段使わない筋肉を使うってのは何だろうか。更に15分経過。降りても大丈夫と言われたので居ります。
「この辺に巣はないね」
「飛んで行った方向を考えると南か?」
「しかし広いぞここ。単に南ってだけじゃ果てしないな」
「今日で見つけんのは無理だこれ。明日また来るけど広樹ちゃんどうする?」
「別件の話しがあるんで同行します。現地集合でいいですよ」
明日も来る事になりました。今日は可能な範囲で女王蜂を探します。
「今ぐらいの時期だと普通は巣がそこそこ大きくなってて、女王蜂なんて外に出ないもんだけどなぁ」
「縄張り争いか何かであちこち流れて来た末路ってか」
当然だが違うコロニーのスズメバチが縄張りに入ると普通に戦いが始まります。連中の縄張り意識はかなり強いのでどっちかが死ぬか抵抗出来なくなるまで続くのもままある。
因みにだが餌が少なくなると、その餌を得るため他の蜂の巣を襲撃し、幼虫やサナギを食料として奪っていく事もある。怖い怖い……
「そういや最近どう。忙しい?」
「ここでハクビシンが出ましてね。あれこれ準備してる最中です」
「あーハクビシンねぇ、町の中まで入って来てるの結構多いらしいよ」
「2つ隣の地区でイノシシの罠に掛かってたの居たってな。どうしたかまでは知らないけど」
噂には聞いていたけども都市部まで潜り込んでいるってのは本当だったようだ。その内にここ以外でも害獣案件で仕事する機会が増えるんだろうか。ちょっと面倒に思えてしまう。
大体1時間後。やっぱり今日で見つけるのは不可能そうとの結論に至った。明日また来てちょっと違う手段を使うらしいので勉強させて頂きます。
翌日
「スズメバチ用のトラップを仕掛けるよ。こいつで女王蜂が掛かれば御の字。そうじゃないのならもうちょっと方法があるから試してみよう」
本来ならこんな時期に仕掛けると不必要に蜂を集めてしまうが、巣を見つけたとの報告がないので潜んでいるのは少ないと判断。して、他の方法も気になる。
「人気があると寄って来ないから離れようか。結果を待つ間に足でも探そう」
あちこちにトラップを仕掛けていく。終わったら昨日は見れなかった場所を見て回った。
そして気付けばもう昼前ですよ。
「食堂に行きましょうか」
「大丈夫? 場違いじゃない?」
「小汚い恰好のおじさんたちが入っていい所?」
「口臭スプレーぐらいはしないとダメかな」
「お洒落なメニューばっかりなんじゃないの?」
「メニューは結構ありますけど迷ったら日替わりから選ぶのが楽です」
無駄にビビるおじさん4人を率いて食堂に入った。時間が少し早いお陰か席はほぼガラガラ。今の内ですわ。
「日替わり出てますね」
「おー、Bの八宝菜定食いいね」
「俺もBにしようかな」
「Aは横手風焼きそば、Cがアメリカンハンバーガーセットか。中々ボリュームありそうだ」
「あっちに数量限定でホウボウのフライ定食ってあるぞ、珍しいじゃん」
お、目ざとい。俺はまだ頼んだ事ないけどホウボウ自体は食った事ある。白身が美味しい魚です。ただ今日は野菜の気分なのでBかな。
「Bでお願いします」
「迷ってんならみんなBでいいかもう」
「どうするよ」
「血圧の薬減らしてぇんだよな、野菜食うか」
「んじゃ俺も」
何か分からないけど全員で八宝菜定食になった。今日の厨房は運がいいのか悪いのか一般の調理師さんしか居ない。こういう日もあります。
と言うか、血圧を気にするならあなた方はまず酒を減らした方が宜しいのではないでしょうかね……
食い終わって先輩方は休憩。俺は執務室に連絡して少し時間を貰いハクビシンの件でお話し。それも終了し午後1時ぐらいに再集合。まず仕掛けた罠の確認から。
「ちっちゃいのばかりだ」
「カナブンとかそういうのだけか」
簡単には掛からないようだ。まぁそれもそうか。罠猟だって簡単じゃないし。
「んじゃあ、まだ見てない所でも探してみるかね」
「巣さえ見つけられりゃ手っ取り早いんだけどなぁ」
移動します。ふと一番可能性がありそうな場所を思い出したので案内する。
自然区画
「何ここ」
「癒しスポットみたいな所ですかね。色んな木や植物があります。季節によって咲く花とかも多いんですけど2回ぐらい仕事した事ありますよ」
「毛虫の類はどうしても出るよね~」
ここなら可能性は高そうだ。近場から注意深く観察していると……
「よーっす」
「お疲れ様でーす」
綾敷が現れた。おじさんたちにも嬉しい存在。主に布面積的な意味で。
「ちはーす。急で申し訳ないけどスズメバチ見てない?」
「連絡があった件ですね。残念ですけど……」
「駆逐艦寮周辺は安全だよー。ハクビシンを食ったヤツの正体以外は」
「そっちも急ぎで何とかします」
敷地内に居て他人行儀なのもあれだから2人にも先輩方をご紹介します。
「ハチの駆除専門の人たち。俺の大先輩です」
「「「「こんちはー」」」」
「綾波と申します。お世話になります」
「敷波でーす。よろしくお願いしまーす」
少し時間があるそうなんで手伝って貰える事に。しかし見つからない。20分ばかり経過したその時――
「お、みんな静かに」
声色が変わった。ゆっくり近付く。花の蜜を吸っている大きなスズメバチが居ました。働きバチより幾分大きい。間違いなく女王だ。
「大きさ的にコイツだな」
「ほい、例の物」
「上手く行けばいいなぁ」
「広樹ちゃんこれ俺たちが遠征した先で教えて貰ったやつね」
何をするんだろうと思っていると、花に夢中なスズメバチにこっそりと白い紐を括りつけた。これはどういう意味があるのだろうか。
「コイツが飛んだら追い掛けるよ。そのための目印だから」
「あっちじゃ結構走ったよなぁ」
なるほど、普段使わない筋肉ってのは相応に動き回ったって訳か。しかしこれ、見失ったらどうするんですかね……
「あ、飛んだ」
「ほいほい」
目印をヒラヒラさせながら飛ぶスズメバチを追い掛ける。何だかんだ言いながら4人共に年齢の割には俊敏な気がしました。追い掛けること数分、木々が濃くなっている場所にハチが入るのを見届けた。
「おー……ここか」
「また地中パターンかもね」
注意深く観察した結果、小さな穴を発見。そこからまた目印の付いたスズメバチが出て来るのも確認出来た。
「あったよー。多分出来たての巣だと思う。今からでもいいよ」
「ではお願いします」
「よーし防護服取りに行くか」
一旦離れて執務室に連絡した。俺は半ば役立たずなので見守るしか出来ないです。
「じゃあ始めるからね」
「終わったら連絡するよ」
「いやぁ上手くいって何より何より」
「意外と役に立ったな」
綾敷は本来の用事があるそうなのでお別れ。1人で司令部棟の物書きスペースに退避して続報を待つ。
「あら、どうされましたか」
「お疲れ様です」
大淀さんがやって来た。
「加賀さんから送られて来た動画でスズメバチの営巣が発覚しまして。今、巣の撤去をして貰っている最中です」
大してお話しも出来ない間に連絡が入る。やっぱり小さい巣は撤去が早いんですね。
「終わったよー。すげぇ小さかったわ。女王蜂が戻って来るまで待つね」
20分後、女王蜂を捕らえたとの報告。これで本件はお終いだ。
自然区画に行くと撤去された巣にご対面。大きさは15cmもない小さな物だった。このレベルで済むなら俺だって仕事は十分受けられるけど何事もタイミグってもんがあるっすねぇ。
「お疲れ様でした。報酬はまた提督さんとご相談願います」
今回の報酬は少なそうだけど仕方ない。仕事が無いよりはいいでしょう。
さて目前の厄介事が片付いたのでハクビシン案件がまた持ち上がって来る。ぶっちゃけこっちの方が面倒です……