このイーブイはとてもちーとです。でも、最終的には一つの進化を選ぶ。
だけど、レッドくんが手を加えるのでなんとかなる予定です。
エリカの私室に案内されたあと、無事回復したイーブイをエリカから返してもらった。先程まで苦しそうにもがいていたイーブイであるが、いまは至って普通に振る舞っている。パーティーの中では一番のもふもふポケモンなので、レッドの手は昔飼っていた猫を撫でていたように、ひたすらイーブイでもふもふを味わっていた。
その間エリカが屋敷の敷地で取れた葉を使った紅茶を入れながら前に座る。カップを手に取り紅茶を一口飲む。
相変わらず何が美味いのかわからない。
今でも変わらず好きなのはブラックコーヒーなので紅茶を楽しめる舌を持ち合わせていなかったのだ。そんなレッドの些細な動きからエリカは見抜いたのか、
「やはり男性の方は、コーヒーの方が好きなのでしょうか?」
「あ、顔に出てた?」
「はい。いかにも、何でこれが美味いんだって。そんな感じですわね」
「ふ。さすがジムリーダー。洞察力も優れていると見た」
「ありがとうございます。では……何からお話しましょうか」
カップを置いて改めて真剣な顔つきで語るエリカ。
「まずそのイーブイについてお話しましょう。その子を知ったのは我々のスパイが入手した資料で知りました」
「資料?」
「はい。こちらになります」
渡された分厚い資料のタイトルは『イーブイ改造計画』と書かれていた。軽くパラパラめくっていく。書いてあるのは専門用語ばかりであまり理解できそうにない。それも見透かされたのかエリカが簡単に説明してくれる。
「イーブイには3つの進化ができ、もしそれが自由自在にできるなら大きな戦力となる。まあこんな所でしょうか」
「その成功例がこいつってわけか」
エリカはコクリと頷いた。
「ロケット団にとって誤算だったのはこの子が脱走したことでしょう。それをスパイから聞いた私達も必死に保護を試みようとはしたのですが……結果はこの通りです。タイプを自由に変えられるというのは厄介ですわ」
「……そうだな」
イーブイを撫でながらまだ進化の可能性が5つ(いまのところは)もあることを胸にしまいながら同調する。
「ジムリーダーとして不甲斐ないとは思っていますが、このタマムシのどこかにロケット団の研究施設があるのですわ」
「場所は割れてるんだろ?」
「ええ。ゲームセンターにその研究所に繋がる基地があるのは掴んでいます。ですが場所が場所なだけに、おいそれと踏み込むことができない状況です」
「……素直に俺の力を借りたいと言ったらどうだ?」
レッドは我慢できず率直に伝えた。
この部屋で二人きりで話しているのも誰かに知られないためであり、あくまで表向きは協力関係ではなく、独自に……好き勝手動いてほしいのだろう。騒ぎを起こせばジムリーダーとしての職務を理由に活動できるからだ。
そのことにエリカは顔を少し曇らせる。
「本当は、あなたのような子供にこんなことを頼みたくはないのです。本来ならそれは我々大人の務め。それをいくらロケット団が手をこまねいているトレーナーだとしてもです」
「別にそんなことを思ったことないよ。何て言うか、使命なんだよ」
「使命、ですか?」
「うん。きっと俺がやらなきゃいけないんだと思う」
ゲームの流れ的に。なんて言えるわけはなかった。けれど、実際にロケット団のしてきたことを目にすれば、ヒーローごっこと言われようが正しいことをしなくてはいけない気にはなる。
「レッドは……強いのですね」
「弱いよ俺は。まだまだ弱い。だから鍛錬を欠かさず、日々ポケモン達と高みを目指してるんだ」
「目標はチャンピオンですか?」
「うーん。まあそうなるのかな。あんまり興味ないけどね」
「本当、変わったお方ですわ。ところでレッド」
「ん?」
「もう時間も遅いですし、今日は我が家に泊っていってくださいな。ご飯もご馳走しますわ」
「ゴチです!」
「はい。でもまずは」
「へ?」
パチンとエリカが指を鳴らすと部屋に入った数名のメイドがレッドを取り囲んだ。
「離せこら!」
「抵抗しないでください!」
「三人に勝てるわけありません!」
「さぁ、行きますわよ!」
――レッドのわるあがき! ざんねんメイドにはこうがないようだ……。
40分ほど経過し、改めてエリカの私室にレッドは戻っていた。あのあと強制的に服を脱がされ、生まれて初めて見る広いお風呂に放り投げられ、美人のメイドさんたちにあちこちを綺麗に掃除されてしまった。そのあと豪華な夕飯を食べたあと、再びここに戻ってきた。
しかしバスローブってのは落ち着かない。
表現すると、とてもスースーしてよくない。とても開放的な感じで新しい扉が開きそうだ。それにいつもの服じゃないと何だか落ち着かないというのもある。
ならばと扉を開けて外にいるメイドに試しに聞いてみる。
「あの……」
「はい、何でしょうか」
「俺の服、乾いた?」
「ああそれでしたら、かなり痛まれていたのでこちらで新しく用意させていただきました。一応以前のもと同じものをお作りしました」
「あ、どうも」
綺麗に畳まれた服を受け取り扉を閉める。手に持って広げくんくんとなんとなく匂いを嗅ぐ。すごく新品の匂いだ。
着替えながらレッドはふとあることを思い出した。
「風呂に入ったのいつ以来だっけ……。いつもカメックスのハイドロポンプの応用でシャワー浴びてるからもう忘れちゃった」
着替え終えて何となく部屋を見渡す。まさにお嬢様に相応しい部屋だと感じる。特にベッドは天幕付き。これがお嬢様だよなと言っているようなものだ。
ちょっとぐらいいいよな。
レッドはゆっくりと腰かける。ふかふかだ。カビゴンのお腹よりふかふかだ。毎晩カビゴンの上で寝ているので野宿に不便はない。が、これは別格。これを味わったら普通のベッドになんて戻れはしないだろう。
実際に寝てみたらもっとすごいのだろうか。
ごくりと唾を飲み込み、男は度胸だと言い聞かせ前に倒れこむ。ぽすんとまるで包み込むような感覚。久しく感じてなかった優しい感じがした。
「なんだろう。すごくいい匂いがする。エリカの匂いかな……は!」
思わず正気に戻ったレッドはすぐに起き上がった。
「やべぇよやべぇよ! 俺匂いフェチでも何でもないんだって! でも……くんくん、いい匂い──」
「あら、レッド。どうかしたのですか?」
「イエ! ナンデモアリマセン!」
「あ、もしかして眠いのでしょうか? お疲れですものね」
「い、いや、本当に平気。別に眠くない!」
「そうですか。……よいしょっ」
「……⁉」
エリカはだんだんとレッドに近づいてくると、何故か隣に座った。彼女が座るとよりこのベッドが完成されているようにさえ思える。肩と肩が触れ合う距離、白い着物というか寝巻き。
そもそもなんでそんなに胸を強調しているのか、これがわからない。
レッドは思った。もっとこうシュッとしているものではないかと。しかもちょっとたるんでるのか、見えそうで見えなそうな演出を出している。なんだ、なんなんだこの女は。
かつてない程焦っていることにレッドはようやく気付く。
女性経験は人並みにあるはずだというのに先程からペースを掴まされているこの感覚。おかしい、おかしいぞ。ハナダのお姉さんの時とはまったく別のものだ。いや、あの時はそういう雰囲気だったのだ。乱暴された彼女を落ち着かせるためにずっと手を握ってあげ、気づけば真っ暗になった部屋でお姉さんが言ったのだ。「抱きしめて、くれませんか?」って。抱きしめたんだ、時には背中をぽんぽんと撫でてあげたり、大丈夫だよと声をかけて安心させたりと。そしたらその、お姉さんから耳元で囁かれたのだ。そのあとのことは……うん。素敵な一夜だった。今でもお姉さんとの思い出は昨日のことのように覚えている。
ああハナダのお姉さん、助けて。この状況をどうすればいいのかとレッドは遠く離れた彼女にSOSを送る。
「ねぇレッド」
「はいぃ!」
「あなたにはこれを受け取る資格がありますわ」
そういうと手を胸の谷間に入れ、そこからバッジ取り出して渡してきた。
「い、いや、なんでその……必要ある? 胸から」
「? いいですから受け取ってください。その資格があなたにあります」
無理やり手を引っ張られバッジを渡される。エリカの手は自分と比べて小さく、とても柔らかかった。
「そ、その。ありがとう」
「礼を言うのはこちらです。それにまだ、個人的にあなたに恩返しをしたいですし。ふふふ」
「え、マジ──! エリカ」
「え、レッド⁉」
突然顔つきが変わったレッドはエリカを抱きしめそのままベッドに押し倒す。彼女は抱きしめられてやっと顔を赤く染めて慌てていた。そんな状態にも関わらず彼は耳元でつぶやく。
「そのまま聞いて。誰かに視られてる」
「え?」
「大丈夫。バレてない。だからそういう風に思わせるために電気を消してくれ」
「は、はい……」
ベッドの近くに置かれた台にライトを制御するリモコンを取ったエリカは電源をオフにする。辺りは真っ暗になり、カーテンから差し込む月の光だけが部屋を照らすだけになる。
1、2分ぐらいだろうか。レッドはゆっくりとエリカから離れて床に降りた。
「エリカはそのままで。俺はちょっと出てくる」
出ていこうとするレッドをエリカは呼び止めて言った。
「気を付けてくださいね」
「ああ。任せろ」
エリカの手を握ってレッドは笑顔で言うと、今度こそ部屋を出て行った。
残された彼女は握られた手をなんどもにぎにぎとさせながら布団に隠れた。
まったく見てられん。
エリカ家の屋敷の上空にて、ユンゲラーに補佐されながらナツメは監視していた。イーブイがあの少年の手に渡ったので、興味本位で監視というなの観察をしていたのだ。エスパーであると同時に透視能力もあるナツメにとって壁などないに等しい。
それ故に、少年がエリカを押し倒したところで視るのをやめだ。別に恥ずかしいわけではない。なんでこんなことをしてまで他人の行為を覗かなければいけないのかというだけだ。
しかし、年の割には鍛えていたな。
風呂から部屋で着替えをする時も彼の体を視ていたためか、脳裏に焼き付いてしまった。年相応ではない引き締まった筋肉に、どころどころある傷跡は彼の旅を語っているようだった。
まぁいい。もう戻るか。
「ユンゲラー。てれぽ──」
それは油断だった。警戒を緩めていたこの一瞬に、それは……赤い目をした何かが目前に迫るのに今気づいた。
「なっ!」
それがスピアーだと分かったのは腕に傷を負わされて通り過ぎた際に聞こえた羽音だ。再度テレポートを試みようとするがそれは叶わなかった。スピアーの後に続いて目の前を覆う巨大な影が迫ると、男の声が聞こえた。
「見つけたぜ、おらぁ!」
「ぐっ!」
首を掴まれた。かなり力強く締めているため息がうまくできず、これでは単独でテレポートすらできない。あれには集中力を使うため、こんな状態でテレポートすればどこに行きつく見当もつかない。
何とか相手だけでも確かめようとするが暗闇のためハッキリと見えない。だが天が味方したのか、雲で隠れていた月が姿を現し男の姿を映した。
「レッド──」
「ファッ⁉ ナツメ⁉」
相手の正体が自分だと知ると、掴まれている首の拘束が少し緩んだ。
「まさかお前もロケット団、なのか?」
「ふっ。だとしたらどうする? マチスのように私も倒すか?」
「……ああ。もちろん」
右手を手刀のように構えると、そこからバチバチと電気が流れ始める。一体どういう原理なのかは考えない。考えるだけ無駄だ。それに以前マチスが言っていたように一度死んだことによって何かに覚醒したのかもしれない。自分と同じサイコパワーのような力に。
しかし今はその力を使うことはできない。目を横にすればユンゲラーは先程のスピアーに槍を突き付けられ身動きが取れない。
八方塞がりなこの状況の中、ある異変が起きた。
「……どうした。手が震えているぞ」
一向に手を下さないレッドに違和感を覚えた。よく見れば彼の右手は震えていた。
「なんだ。女を殺すことに抵抗でもあるのか。存外、甘いんだな」
「ち、ちげぇし。こ、殺すし……」
「……?」
様子がおかしい。先程と違って冷静を欠いているようにも思える。ならばとレッドの頭の中を覗き込むナツメ。
──殺せるわけねぇじゃん!
「──は?」
「な、なんだよ」
「い、いやなんでも。早くしろ」
しかしレッドはトドメを刺さない。再び頭の中を見る。
──やべぇ、どうしよう。
──無理だって、無理無理のカタツムリ。
──ナツメを殺したらこの先どうなるか……。
──ていうか一番好きな女を殺せるかよ!
いま、なんと言った。好き? 私のことを? しかも一番?
今度はこちらがおかしくなりそうだった。
「ギャーオ!」
その時レッドの背後で巨大なポケモン、サンダーが心配そうな目をしながら彼に訴えてきた。
ナツメはなんとか話題を反らすための材料を手に入れた。
「分かってるって。やるって、マジでやっちゃう……やっちゃうよ?」
「ほう。やはりサンダーはお前が持っていたか」
「なに? それはどういうことだ」
「フフフ。私はエスパーだ。そういう事も分かるのだよ」
「だから話題を反らそうってか。いいか、マジでやるぞ。静電気でバッチっとするぐらいな感覚でやるからな!」
「おぉ怖い怖い。だけどな、レッド。死ぬ前に一つだけ聞かせてはくれないか」
「いいだろう。言ってみろ」
「では聞くが……サンダーがそこにいるのに、お前はどうやって空を飛んでいるんだ?」
そう。今までレッドはサンダーに掴まれて飛んでいるかと思っていた。だがよく見れば、自分と同じように宙に浮いている。
「ちょっとした電気の応用だ。でもまだ練習中で、今はサンダー(バッテリー)がいないと長くは飛べないんだがな」
「そうか電気か……」
ようは私の電気バージョンと言ったころかとナツメは勝手に納得した。
「実はレッド、お前に伝えたいことがあるんだ」
「なんだ突然。なら言えばいいだろう」
「だめだ。もっと近くに。大丈夫だ、いまの私には何もできないよ」
「……」
数秒レッドは悩んだ末に体を押し付けて近づけきた。距離にしてたった数センチの距離。ナツメはレッドの耳に近づけて卑しい囁きをする。
「──私もお前が一番好きだよ」
「ファッ⁉」
首を絞めていた手が離れ、ナツメは右手でレッドの腹に手を当てサイコキネシスを繰り出すといとも簡単に吹き飛んだ。一瞬の隙を見せたレッドは突然何が起こったのか理解が追いつかない。
「ユンゲラー!」
続いてスピアーにもサイコキネシスをかけてユンゲラーを解放させる。ユンゲラーはすぐにナツメを抱えて10メートルほど離れた場所にテレポートした。
「ハハハ! 油断したなレッド! 私はエスパーだぞ? お前の頭の中を読むことぐらい造作もないんだ」
「え、マジかよ……死にたい」
「次に会う時はもっと女の扱いを勉強しておけ。そんな乱暴な振舞では私のように簡単に手玉に取られるぞ? ああ、それとなレッド」
「……」
「お前、少しずつ落ちてるぞ。アハハ!」
「え──―」
「また会おう、マサラタウンのレッド!」
テレポートする瞬間目に入ったのは、マヌケな顔して地上へと落ちていく無様な姿だった。
「あぁあああああ!!! サンダぁああああ!!」
「……ギャ? ぎゃ、ギャーオ!!」
少し遅れて自分の主が落ちていることに気づいたサンダーはすぐに急降下してレッドを追いかける。しかしレッドがいた場所は地上から約20メートルの高さ、出遅れたサンダーでは間に合わない。
腰についているカビゴンのボールを地上に投げる。ボールからカビゴンが出てくるのと、レッドがカビゴンのお腹に不時着するのはほぼ同時であった。
ただカビゴンのお腹はまるでトランポリンのように弾力があり、レッドは何回か打ち上げては落ちてを繰り返しながらカビゴンに礼を言う。
「さんきゅーカビゴン」
「夜食のラーメンを所望する」
何とか無事に地上に戻ったレッドはサンダーとカビゴンを戻す。辺りを見回せばタマムシシティの郊外にある森のようだ。ここから街の方へ目指せばエリカのお屋敷に戻れる。
だがその前にと、レッドは周囲を見渡すと突然叫びだした。
「男の純情を弄びやがって────!! くそぅ、ちくしょうぉ……」
目の前にあったイシツブテに八つ当たりする。
レッド──いや、彼にとってナツメとはとても特別な人物である。カントー地方に登場する女の中では断トツにナツメが好きだったのだ。一応次に来るのはエリカである。
そんな彼女がまさかロケット団の幹部なのはショックで、もっと酷いのは頭の中を覗かれて自分の恋心を利用されて嘘をつかれたことである。
「ゆぐ……ロケット団絶対に許さねぇ!」
怒りの矛先をロケット団にすることでなんとか平静を保つ。
しかし改めて気づく。マチス、キョウ、ナツメ、カツラ──そしてロケット団のボス・サカキ。カントーのジムリーダーの半分がロケット団にいる。
「カントーってやっぱ魔境だって絶対」
困り果てた顔をしながら天を仰ぐレッド。記憶が正しければ、ジムリーダーが悪の組織側にいるのは初代以外になかったはず。となるとこれだけの戦力が敵側にあるということは、あまりにも不公平ではないのだろうかと。
考えても仕方がないとため息をつく。そのまま屋敷の方向へ歩き出そうとするがふと足を止めた。
「……やっぱ野宿しよ」
今まで野宿ばかりしていたのが祟ったのか、普通の暮らしがどうにも性に合わないことに気づいた。再びカビゴンを出してお腹に上って仰向けになる。
明日はゲームセンターを潰すか。次の目的を決めながら眠りにつくレッド。しかし大事なことを忘れているようなと思い始めると中々寝付けない。結局そのままポケモン達を全員だして、軽く運動したやっと眠ることができたのであった。
ヤマブキシティにあるシルフカンパニーにある一室。そこにナツメはテレポートして帰還した。すぐさま部屋の主であるロケット団のボスであるサカキに報告した。
「ボス。どうやらサンダーはやはりあの少年が手に入れていたようです」
「そうか」
「それだけですか?」
一言ですますサカキにナツメは首を傾げてそのまま尋ねる。
「何故だ」
「いえ。サンダーは我らの計画の要の一つ。アレを使うためにもサンダーは必要不可欠のはずでは?」
「エスパーという割には先が視えていないな、ナツメ」
「は……」
「問題ない。近々ファイヤーの捕獲作戦が始まり、フリーザーの所在もそろそろ発見できる頃だ。そしてサンダー。アレもここに来る」
「ロケット団を潰すためにレッドが来るからですか?」
口で笑うだけでサカキは答えなかった。彼と長い付き合いなるナツメでさえ踏み込めない領域もある。頭の中を覗こうなど一度も考えたことなどなかった。
サカキは椅子から立ち上がるとジャケットを羽織りはじめた。どこかに行くのだろうか。ナツメは聞いた。
「しばらく指揮はお前らに任せる。俺は少し外に出てくる」
「……どちらへ?」
「俺もそのトレーナーが気になった」
たったそれだけを言い残しサカキは部屋を出た。残されたナツメは、スピアーに傷つけられた腕を抑え体を震わせながら呟いた。
「お前はサカキ様が自ら動くほどの男ということか、レッド」
一番好きな女を殺せるかよ──
彼の頭の中で言った言葉がどうにも振り払えないナツメは、自身に渦巻く謎の想いに悩まされながらただ立ち尽くしていた。
メインヒロインであるナツメの描写を入れつつ、なぜかレッドの中でハナダのお姉さんの存在が大きいです。自分で書いている割にはよくわかってないです。
どんな人がいいかなとアニメキャラでイメージした結果、某痛快娯楽復讐劇に出てくるお姉さんしか思い浮かばなかった。
たぶん、知ってる人は納得すると思う。