拝啓。
薄暗いディグダの穴からリーフへ。
先日は大変申し訳ございませんでした。当方といたしましても、あれ以上付きまとわれるとその時以上にあらぬ疑いをかけられ、根掘り葉掘り聞かれると思ったためお暇させていただきました。
それと誤解がないように言っておきますが、エリカ嬢とは何もありません。色々あって彼女がお礼にと晩御飯をご馳走になったのです。大変美味しゅうございました。
さらに加えると、彼女のお屋敷で寝泊まりしておりません。ベッドの上には少しほどおりましたが。いいにお──いえ、なんでもありません。
なので再度申し上げますが、わたしとエリカ嬢とは何もありませんので悪しからず。
あと、わたしから二点お知恵をお送りします。
まず一つ。イーブイは大事に育ててあげてください。きっと将来リーフを助けてくれるポケモンになることでしょう。しかしあなた様のパーティーでいくと、でんきポケモンが足りておられないように見えますので、サンダースにするのも一考かと思われます。私情ではありますが、もう少し待った方が選択の幅が広がるのではないかと。
そして最後ですが……。
もし、ブルーの胸に嫉妬してるなら諦めろ。
追伸。多分二度と会うことはないでしょう。だって、隣にロケット団のボスがいるから。
ディグダの穴はクチバとニビを繋ぐ唯一のルートであるが、その距離は思った以上長い道のりである。ディグダが掘ったとされるこの穴は近年専門家の論文によると、まだ発見されていないだけでカントー中に繋がっているのではないか、という報告もあるぐらいだ。現に道中正規ルートではない道がいくつかあった。
化石マニアに扮していることもあって、その道のりは容易ではない。ただ私の運がいいのか、それとも彼の運がいいのか、いくつか化石らしきものが見つかった。これには我ながら驚いた。
彼──マサラタウンのレッドは、今私のために見張りをしている最中だ。時刻はすでに深夜。当然洞窟内で野宿ということになる。
歩きながら私はレッドを常に観察している。彼の腰にあるボールは全部で7つ。内4は報告にあるスピアー、ピカチュウ、カメックス(おそらくゼニガメから進化しているだろう)、そして我々が捕獲する前にゲットされてしまったサンダー。残りの3つはまだ分からない。
野宿する際、事前に持ち込んでいた枯木で焚き火をしているが、その火をおこすのも彼のほのおポケモンを拝めると思ったが残念。原始的な火打石で火を起こした。
寝てる振りをする前は、二人して仲のいい友人のような会話を楽しんでいたものの、こうして寝てるであろう人間に対して視線を注いでいる。
(くくっ。見抜いているのか、それとも)
まったく退屈しない男だと思った。私の正体──ロケット団のボスであるこのサカキだと知って警戒して、自分の手持ちポケモンを見せない素振りをしているのだろう。情報は力だ、彼のしている行動は全くもって合理的。敵に情報を与えまいとするその警戒心。本当に面白い。
面白いと言えばこいつの手持ちの一匹であるスピアー。不思議と今の顔が緩んでしまう程笑いそうになる。どこかに自分と共通する所があると思うと余計に。
結論から言えば、私達は夜が明けるまで互いに眠らない時間を過ごし、そのまま起きた振りをしながら出口へと向かうことに。
「うぉ、まぶし!」
「いやぁ、一日籠っていたから日の光がキツイなぁ」
「そっすね。そう言えば、化石はどのくらい見つかったんです?」
問われるとポケットから化石と思われるものを手に取ってレッドに見せた。
「それなりに見つかったけど、必ずしも化石とは限らないからね。ま、あっても大方ポケモンの歯とかその類だろうな」
「ふーん。やっぱり化石っていうのはそう簡単に見つからないもんなのか」
「当たり前じゃないか」
笑って答えるが、今のレッドの話し方には疑問を覚える。まるで、簡単に見つかるような言い草だ。問いただしたいと思っても、この状況では余計に今の関係をこじらせるだけか。
サカキは演技を続けることを選び進路をニビシティにある博物館へと目指す。
すると先を歩いていたレッドが足を止めて唸り始めた。
「んー?」
「どうしたんだ」
「いや、なんか暑くない?」
「言われてみれば……」
たしかにここら一帯の熱気は異常だ。おそらく野生のポケモンの仕業だろう。ほのおポケモンとなると性格を考慮してブーバーの可能性が高い。あれは性格的にも大人しい部類ではないからだ。
真相を確かめるためにレッドが走り出しそのあと追う。ニビシティに入ると、この原因がすぐにわかった。
予想通りブーバーのかえんほうしゃによって博物館が燃えているのだ。
(さて。偶然とはいえ、これは見物だ)
嘘と見抜かれているとしてもサカキにはポケモンを持っていないことになっている。どういう訳か、ニビシティの住民は何故か駆けつけてこない。そうなると、目の前の惨劇を解決できうるのはレッドしかいないことになる。
どんなポケモンでもその実力とトレーナーとしての判断力を見極めることができ、この状況はサカキにとって最高の事故であった。
「で、どうするんだレッド……レッド?」
こちらの問いかけに反応せず、黙々と歩いていく。少し歩いたところで足を止めると、転がっていた二匹のイシツブテを持って、鬱憤を晴らすがごとく目の前にいるブーバーへと投げた。
「ふざけんなごらぁ!」
──レッドのイシツブテ投げ。 ブーバーの頭に当たった! ブーバーは倒れた。
想像していたのとは違う光景が起こり、サカキは演技を忘れて思わず笑ってしまった。
「ふふ、ハハハ!」
「どうしたん?」
「い、いや、何でもない。しかし凄いな。それにしても、何であんなに怒ってたんだ?」
「ただの私怨」
「そうか」
結局ポケモンの情報は何も入らなかった。
だが、それ以上に大きな成果も手に入った。それはレッド自身。彼の強さは並外れている。力だけではない。洞察力、観察力、判断力にも優れている。さらに姿を見せぬポケモンは我がロケット団幹部を撃退する程の力を備えている。
そう。実に、我がロケット団にほしい人材。
しかしそれは叶わないだろう。現にロケット団を潰して回っているし、本人はそれを望まない。
「博物館がこれでは、化石かどうかを調べることはできないな」
「そういうことになるね」
「レッド、これはお礼だ。受け取ってくれ」
サカキは手に入れた化石の中で一番きれいなモノを選んで渡す。ただ受け取った本人は酷く動揺しているようだったが。
「え、え、ま、マジでいいの?」
「ああ。それにお礼をすると言ったろ」
「あ、うん。……金がよかった」
聞こえないように小声で言ったんだろうがハッキリと聞こえている。どうやら意外と現金な奴のようだ。
「それじゃあ、俺行くよ」
別れを告げて背中を見せる。
さて、彼は優秀だ。だが同時に超が付くほどの危険人物。ならば、ここで始末するのがボスとしての仕事。
(一撃で仕留める)
腰に隠していたボールに手を伸ばし投げようとしたその時、レッドは振り返り本当の素顔を見せて言った。
「また会おうぜ、
するとレッドの周りに砂埃が舞い姿を見失うその一瞬に何かが空へと飛んで行った。
「また会おう、か。いいだろう、レッド。その時が来るまで待とうじゃないか」
サカキもまたニビシティを背にして歩き出す。
胸のポケットにしまっていた組織の通信端末が鳴った。相手は幹部の一人。どうやら例の作戦に進展があったらしい。
「私だ」
『ボス報告します。フリーザーをふたごじまにて発見。これより捕獲作戦を開始します。それと別の部隊から裏切り者を発見したそうです』
返事はせずそのまま端末を切って胸にしまう。再び歩きながらふたごじまがある方角へと目を向ける。奇しくもその方角はレッドが飛び去った方向と同じだった。
「さて。フリーザーが大変だぞ、レッド」
他人事のように言うとサカキは高らかに笑いながらヤマブキシティへ向けて歩き出した。
ふたごじまから数キロ離れた上空に島を目指すレッドを乗せたリザードンが飛んでいる。リザードンの背中に座るレッドは、サカキからもらったきれいな化石を見ていた。
「やべぇよやべぇよ。調子に乗って最後、宣戦布告みたいなことしちまったぞ……」
今になって自分の行動に後悔する。しかし一体だれが想像できる。まさかラスボスがいきなり現れて、一夜を共にさえ過ごしてしまった。どう見ても自分が目的であるのは明白で、その理由は依然不明。だから昨日から一睡もせず、隙を見せぬようずっと監視していた。
まさかその過程で、博物館が燃えるとは思わなかったが。
「あとで回収しようと思ったひみつのこはく勿体ねぇー。しかしこの化石、どっかで見たことがあるんだよなぁ。なんだっけ?」
レッドの持つそれこそがひみつのこはくなのだが、生憎最後に見たのがリメイク版発売当時、その写真を覚えているという方が珍しい。
「それにしても、ボス自ら会いにくるとか。もしかしてピカチュウバージョンじゃない?」
今更になってこの世界の時間軸に疑問を抱いた。御三家のことでてっきりピカチュウバージョンだと思っていたが、その前にオツキミ山でコジロウとムサシが現れるイベントも、化石を手に入れるイベントもなかったことを思い出す。さらに付け足すならシオンタウンのガラガライベント、本来なら先に攻略するはずのタマムシのゲームセンター。
この時点で自分が得ている情報にあまり意味がなくなってきている。
「この先の展開がまったく読めねぇ。ジムリーダーはロケット団にいるし、ボスは直接殺しに来る。けど、このあとは絶対シルフだろ……。うぇ、リーフとグリーンが片付けてくれねぇかなぁ……。無理だよなぁ。絶対に詰む」
二人が弱い訳ではない。当然二人を信じていないわけではない。単純にロケット団という組織が大きいのだ。上から末端まで多くの団員がボスであるサカキに忠誠を誓っている。そこはサカキの指導者としてのカリスマなのであろうが、彼らはボスが不在であってもジョウトにて独自に活動を行うほどだ。憶測になるがポケモンを使っての裏稼業となると、カントーだけではなくジョウトや他の地方にも幅広く忍ばしている可能性もある。
それにこちらではその戦力にジムリーダーが加わっている。戦いは数だよ兄貴、なんて言葉があるように数の多さはそのまま力になる。
それにだ、ゲームのように体力が減ったからポケモンセンターで回復なんてことはできないだろう。
「となると戦力確保は優先ってことか。まあ、お前らだけでもいいんだけど」
「リザァ!」
ぽんぽんとリザードンの背中を叩くと、任せろと言わんばかりに答える。
「フリーザーは目前、ファイヤーは……別にバレへんやろ。セキエイにいるのに気づかないんだから」
「リザー!」
「お、着いたか」
遠くからではわからなかったが、どうやらふたごじまは予想以上に小さいらしい。それでもここにある洞窟にフリーザーがいるはず。
リザードンが島の上空に入ると、地上へ降下する。しかしレッドは、地上から約15メートル程の高さでリザードンから飛び降りる。
──レッドのスーパーヒーロー着地! レッドの足に少しのダメージだ。
「……デップーの言う通りだ、すっげー足にくる」
痛む足を撫でながら戻ってきたリザードンをボールに戻して島の洞窟の入り口を探す。おそらく盛り上がっている山のどこかに入り口があるはず。そこを目指すレッドは途中森の中で立ち止まった。
どうやらこの島にいるのは自分だけではないようだ。
音からしてここからそう遠くはない。地面を蹴って走り出して森を抜けると広いところに出る。そこにはロケット団いた。人数にして10名ぐらいだろうか。
「お前らここで何をやってる!」
「ん? 貴様はマサラタウンのレッドか。ハハハ、遅かったな!」
「一体何を──」
リーダーらしき男がいうとボールを投げた。現れたのは目的であるフリーザーで、それを見たレッドは思わず叫んだ。
「はぁあああ⁉」
「どうだ悔しかろう! このフリーザーはすでにロケット団が頂いたのだ! こうして外にいる所を捕まえらえたのはまことに僥倖!」
何ていう事だ。すでにフリーザーは捕まえられてしまっていた。そんなことが許されるのか? いや、許されるもなにもプレイヤーの目に前にいきなりライバルが現れて、いきなり強制バトル画面からのゲットみたいなことをされたら怒る。誰だって怒る。
だがそれよりも、レッドに許せないことがあった。
「──洞窟にいねぇとか初見殺しはやめろや!」
サンダーはちゃんと無人発電所の中にいたんだぞ、とレッド叫ぶ。そんな事は知ったことかと、ロケット団はフリーザーに続いて次々とポケモンを出してくる。
こちらも応戦するためにボールに手をかけようとするが、リーダーの男が持つ端末に通信が入ったらしく、離れていても声が届いた。
「なに、裏切者のカツラに手こずっている⁉ いいだろう、こちらも合流する。残念だが貴様と遊んでやる時間はないようだ。やれフリーザー! ふぶき!」
「やべっ!」
──レッドのあなをほる。 レッドは地中へ潜った。
そこら辺のポケモンとは比べ物にならないふぶきがレッドを、このふたごじまを襲う。その範囲、威力は流石伝説のポケモンと言ったところだろうか。
辺り一面が氷漬けにされ、レッドの姿がないのを確認するとロケット団一同はふたごじまを離れてグレン島に向かう。
ロケット団が去って数分後。地上から這い出るレッド。
「マップ兵器とかクソだな。まあ初代じゃぶっ壊れ技だし、当然か。それにしてにも、カツラって言ってたな」
先程の通話のやり取りを思い出す。それに裏切り者とも。助けるべきか否か、答えはもちろん前者であった。カツラのしてきた行いは許されるはずはないが、問題は彼が死んではいけないということだ。
ならば急がなければ。
レッドはリザードンを出してグレン島へと向かった。
一応報告
書き溜めが現在第一章の最後に取り掛かりました。
なので問題なく第一章は完結できると思います。
あと何話なのかはあえて秘密にしておきます