おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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前回で頑張りすぎたのでちょっと、物足りないかもね。
何がとは言わんが。


さあ、やろうかミュウツー。俺達のポケモンバトルを!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハナダの洞窟の入り口付近で、一人の男がキャンプをしていた。頭部は剥げており、目にはサングラスをして白衣を纏った男。名をカツラと言う。

 カツラはレッドの助言の通りにカントー北部を目指し、ここに5日ほど前にたどり着いた。

 今でも右腕のミュウツー細胞が洞窟内部に向けて反応しているが、中に入る気はなかった。目的のミュウツーとはすでにここに訪れた際に邂逅したからだ。

 ミュウツー、あえて彼としよう。彼は持ち前のサイコパワーにより、ここにくることを察知してテレポートで目の前に現れた。

 咄嗟にボールを構えた。なぜなら彼の生みの親は自分だ。生まれたことそのものに疑念と怒りを抱いている。だからこそ、自分を殺すつもりで現れたのだと思った。

 だが、彼は念力で言葉を送ってきた。

 

 

『お前はキライだ。私を生み出した人間だからだ。だが、ワタシには会わなければいけない人間がいる』

「それは誰だ?」

『……レッド』

「レッドだって? なぜ、お前が彼のことを」

『ワタシを閉じ込めていたカプセルにいた時、お前らとは違う人間がいるのを感じた。その人間は他とは比較にならないほどの強さを持っていた。だから、一瞬だけワタシと彼との間に線を繋いで知った』

「……レッドに会ってどうするつもりだ」

『レッド……あいつなら、ワタシの望みを叶えてくれる』

 

 

 彼はそう言って再び洞窟へと戻っていた。その数日後。ヤマブキシティにあるシルフカンパニーが陥落したと知り、レッド達がロケット団を壊滅させたのだと安堵した。

 すると、それを感知したミュウツーが一部の木々をサイコキネシスで粉砕して『R』というメッセージを作った。

 そして今日がロケット団が壊滅して3日目の昼。あれからミュウツーは出てきていない。自分もただその時が来るのをただひたすら待っているだけだった。

 

 

「この音は」

 

 

 すると何処からか、エンジンの音が聞こえてきた。この音には聞き覚えがある。だんだんと音が近くなると、それは森から出てきて私の前で停まった。

 

 

「久しぶりだな、カツラ」

「レッド」

 

 

 どうやら、役者は揃ったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 FR号を走らせて2時間ほど。目的地であるハナダの洞窟の前で来ると、すでにそこにはカツラがいた。その姿を見て首を傾げる。見た感じだと数日はここでキャンプをしたように見えるが、ミュウツーとは会えなかったのだろうか。

 

 

「しかし、どうしてここでキャンプなんか」

「彼が君が来るのを待っていたんだ」

「彼?」

『──ワタシだ』

 

 

 頭の中に直接声が届くと、目の前にミュウツーがテレポートして現れた。すでに何度もナツメのテレポートを見て体験しているので、そこまで驚きはしなかった。

 

 

「お前が? なんでだ」

『レッド。ワタシはお前と戦いたいのだ』

「……お前、か。お前達ではなく、俺と。教えてくれ、何故なんだ?」

『理由は三つある。一つは自分を生み出したこの世界への怒りや多くの感情を吐き出したいがため。二つ、ワタシはここからこの間の戦いを見ていた。故に、お前と戦いたいと思ったからだ。そして三つ目は……』

 

 

 ミュウツーは何かを言いかけて洞窟の方を向いた。そこには入り口からずらりと奥まで、洞窟に生息しているポケモン達がレッドを見ていた。

 

 

『彼らはお前を慕っている。捕まえてすらいないのに、彼らはお前を主だと思っている。ここのポケモン達は他と比べれば凶暴だ。そんな彼らがお前に心を許す。それをワタシも確かめたいのだ。目には見えない、しかし確かにある人とポケモンの繋がりを』

 

 

 正直、驚いている。もっとミュウツーは好戦的なイメージがあった。でも、目の前の彼は人と同じように悩み、苦しみ、そして答えを探している。

 洞窟にいるポケモン達に目を向ける。視線に気づくと、彼らはまるで『おーい!』と言いながら手を振っているようだ。それを見てつい口角が緩んでしまう。

 

 

「いいだろうミュウツー。お前がそこまで言うんだ、俺も全力で答えよう」

『感謝する、レッド』

「それと俺は病み上がりなんでな。それでも、全力を出すが……そうだな、3分。時間は3分間、その間だけ俺は全力を出してお前とぶつかる。それでいいか?」

『かまわない。お前の状態は把握している』

「助かるよ」

 

 

 礼を言ってポケモン達を全部外に出す。いつもの手持ちに加えて、イーブイとラプラスも連れてきた。持っているポケモン図鑑、帽子と上着、それとシャツをフシギバナに預ける。素肌というより全身を包帯で巻いた姿が露わになる。

 そのつるで器用にフシギバナは服を持つと心配そうに鳴いた。それは彼だけはなく、フシギバナの頭に乗ったピカチュウが、その小さな手で何かを訴えている。

 

 

「また失くすとナナミさんに怒られるからな」

「ピカピカ!? (俺の手助けはいいのかよ⁉)」

「ありがとうな、ピカ。けど、今回は俺自身の力で戦うよ。サンダーからの置き土産もあるし、リハビリにはちょうどいい」

「リハビリのレベルがラスボスなんだよなぁ。と、おいらは思った」

「ふっ。もし、ヤバくなったら止めてくれよ。頼んだぞ、リザードン、スピアー」

「リザァ!」

「……(こくり)」

 

 

 手持ちのポケモンでこの二匹が一番レベルが高く、常日頃からレッドとのスパーリングをしているため、その分突出して戦闘経験も豊富であり彼とも渡り合えることができていた。

 準備が整った両名は、洞窟から少し開けた土地へ移動する。

 レッドはすぅーと大きく息を吸って吐き、拳を構えた。

 

 

「さあ、やろうかミュウツー。俺達のポケモンバトルを!」

『いくぞ!』

 

 

 ミュウツーが宙に浮くとサイコパワーが一気に膨れ上がった。

 ──ミュウツーのサイコウェーブ! 

 サイコウェーブで作り出したたつまきが発生。だがそれは、たつまきというよりもサイクロンに近い。地面を削り、飛んでくる枯葉や木々を巻き込みながらレッドに迫り、そのまま飲み込んだ。

 

 

「なぜだ、なぜレッドは避けないんだ!?」

「まあ見てなよ。うちのマスターすごいから」

「あ、ああ。ん? 私は今誰と……」

「ゴン(適当)」

 

 

 レッドがサイクロンに飲み込まれて数秒。そこに少しの変化が起きた。バチッバチッと電気が走る。まるで夕立のようで、雷が鳴り響く中レッドの声が轟く。

 

 

「はぁあああ!!」

 

 

 一瞬にしてサイクロンは消し飛んだ。

 ──レッドのフォルムチェンジ! レッドはエレキスタイルに変化した! 

 どうやらサンダーがくれた雷の玉はうまく同調していた。さすがにナツメと戦った時よりは出力が落ちるが、それでも十分すぎるほどのエネルギーが常に湧き上がるのを感じる。それに、先の戦いで限界を超えたためか、作り出せるエネルギーの量が増えたようだ。以前よりも確実に強くなっているのを感じる。

 

 

「さあ、今度はこっちの番だ!」

 

 

 レッドは地面を蹴ってミュウツーへと肉薄する。エスパーとの戦いはナツメで嫌と言う程味わった。彼女との経験から察するに、やはり遠距離より常に間合いを詰めて戦う方がエスパー使いには効果がある。

 

 

「ふん!」

 

 

 ──レッドのかみなりパンチ! 

 

 

「な⁉」

 

 

 しかしレッドの拳はミュウツーには届かず、あるモノで受け止められてしまった。

 

 

「あ、あれはスプーン! そうか、念で武器をつくりだしたのか⁉」

「エスパー使いはみんな応用がうまいなぁ」

「まったくだ。ん?」

「ゴン」

 

 

 自慢の拳はスプーンで受け止められてしまった。が、ナツメに比べれば大したことない。それは盾というよりは武器。防御力はさほどないだろうと見越し、レッドは足に力を入れ、体をねじって強引にスプーンごとミュウツーを押し込む。

 

 

「守ってたら、負けるぞ!」

『──!』

 

 

 ──ミュウツーのサイコカッター! 

 照準はあわせず、間合いをつくるために無造作に放ったそれはレッドの体を斬り裂き、地面へと無数に落ちていく。

 だがレッドはすぐに前を詰める。ミュウツーは上空で、サンダーが居ないいま飛ぶことはできない。そう跳ぶことならできる。

 ──レッドのでんじほう! 

 両手ででんじほうを地面に向けてその推進力で空へと跳び、足に力を込める。そうメガトンキックだ。

 が、なぜかミュウツーの方が一歩早い。

 ──ミュウツーのさきどり! ミュウツーはレッドにメガトンキックをした! 

 

「ぐほっ⁉」

 

 

 相手の技を自分の技として使い、さらに1.5倍のダメージを与える癖のある技を食らったレッドは地上へと激突。

 

 

「さきどり! エスパーポケモンならではの戦法か!」

「まあ、そうそう何回も続かないゴン」

「たしかにな」

 

 

 地上に激突したレッドはそのまま砕けた地面の下敷きになったまま出てこない。警戒しながらも近づくミュウツー。

 その時、何かが土の塊や岩を押しのけてミュウツーの腕に絡みついた。

 

 

「捕まえたぜ」

『──これは包帯?』

「これは痺れるぜ……おらぁ!」

 

 

 ──レッドの10まんボルト! 

 

 

『ぐぅううう!!!』

「まだまだ!」

 

 

 巻き付いている包帯を手繰り寄せ、再度拳に電気を込める。

 ──レッドのかみなりパンチ! 

 衝撃。

 その振動はカツラたちがいるところまで伝わるほどの威力だった。

 

 

「決まった。今の音、確実にミュウツーに入った音だ!」

「いや、どうやら引き分けだゴン」

 

 

 レッドの左手は確実にミュウツーを捉えていた。が、同時にミュウツーが作りだしたフォークもまた彼の腹を捉えていた。

 ──限界だ。

 レッドの体からエネルギーが消え、倒れそうになったのをミュウツーが受け止めた。

 

 

『刃は潰してある。それでも痛いだろうが』

「ああ。ちょっといてぇや……だけど、悪いな。時間切れだ」

『そんなことはない。確かにお前の拳はワタシに届いていた。お前はスゴイ』

「えへへ。満足、出来たか?」

『今まで悩んでいたのが嘘なぐらい晴れやかな気持ちだ。感謝する、レッド。お前のようなトレーナーに会えて』

 

 

 レッドはミュウツーの前で拳を作り、彼もその意図を察したのか苦笑しながらコン、と拳と拳をぶつけ合った。

 そんな二人の様子を眺めていたカツラはふと言葉をもらした。

 

 

「あのミュウツーと互角に渡り合えるレッドくんが凄いのか、それともミュウツーを生み出した私とフジ博士の研究がすごいのか。もう、訳が分からない」

「まあ、両方凄いってことでいいんじゃね?」

「そうかな……そうかもしれないな。ありがとう、カビゴンくん」

「ゴンゴン」

 

 

 ミュウツーに肩を貸してもらいながらレッドはカツラの下へ戻ると、ポケモン達が心配で駆け寄ってきてその対応に追われる。

 そんな中、カツラが手にあるボールを渡してきた。それはマスターボール。どんなポケモンでも絶対に捕まえられる、この世に立った数個しかない特別なボール。

 それを見てレッドも始めてマスターボールの存在を思い出した。

 

 

「マスターボール、これをどうしろって?」

「ミュウツーと約束していたんだ。すべてが終わったら、これに入れてくれと」

「お前も、それでいいのか?」

『ああ。ワタシの力は強大だ。それに、カツラにはワタシの細胞が残っている。離れ離れになるほど、それはカツラの命を蝕む。だから、これでいいんだ』

「……わかった」

 

 

 ボールを受け取り、そのままミュウツーの胸に押し付けるとマスターボールはその力を見せた。ミュウツーが入ったマスターボールをカツラに渡し、レッドは言った。

 

 

「二人には色んなことがあったと思う。でもあんたは、こいつの生みの親なんだ。だから、子供の面倒はしっかり見てやれよ」

「……ああ、そのつもりだ!」

 

 

 互いに握手をして、笑みを浮かべる。

 これで残る問題はあと一つ。レッドはリザードン以外のポケモンを戻し、彼の背に乗る。

 

 

「それじゃあまたなカツラ、ミュウツー」

「ポケモンリーグがんばれよ」

「ああ!」

 

 

 別れを告げてリザードンは飛び立つ。目指すは最後の地。

 

 

「さあ、行くぞ。トキワシティへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 トキワの森を一人の少女が歩いている。

 この森は少女の遊び場である。

 自然と静かなところが大好きな自分にとって、ここはまさに大きな公園ともいえた。何も考えず森を走り抜けるのはとても気持ちいいし、息を吸えばどこから甘い匂いが漂ってくる。ちょっと森を抜ければ川も流れているし、遊ぶことに事欠かない。周りの男の子達はよくイシツブテ合戦なるものをしているが、自分には無理だと分かって一人で絵を描くのが日課になっている。

 そんな少女でも、ここ最近の森の様子がおかしいことに気づいている。静かな森がざわついている。まるで、何かに脅かされているようだ。

 だからなのか、いつもは迷うはずのないこの森で迷ってしまった。大人たちが言っていた。最近のトキワの森はおかしいから入ってはいけないよと。

 それでも、わたしの遊ぶ場所はここぐらいしかないんだと、少女は言うことを聞かずに森に入ってしまった。

 

 

「な、なに!?」

 

 

 その時、近くの茂みで音がした。それに、誰かに視られているような気もする。音がした茂みの方に思わず近づいてしまう。

 しかし、それがいけなかった。

 茂みから一匹のポケモンミニリュウが少女に襲い掛かる。

 

 

「きゃぁあああ!!」

 

 

 少女は叫びながら思わず目を瞑ってしまう。だが、すぐに自分が地面の上にいないことに気づいた。

 顔をあげれば、そこには男の人が自分を抱いて助けてくれたからだ。

 

 

「え、え?」

「もう大丈夫だ。怪我はないかい?」

「う、うん」

「きゅぅうう!!」

「──」

 

 

 すると彼は少女を下すと、ミニリュウの下へ歩いていく。

 思わずわたしは叫んだ。

 

 

「あ、あぶないよ!」

「大丈夫だって……ほら」

「きゅう~」

「ほ、ほんとうだぁ!」

 

 

 先程の怖い顔はなく、すりすりと自分の頭を撫でて貰いたいのか彼の体にこすり付けている。

 

 

「よしよし。ほら、向こうに川がある。そこへ行くといい」

「きゅー!」

「お、お兄さん。ポケモンの言葉がわかるの?」

 

 

 少女は思わず聞いた。自分にも不思議な力がある。ポケモンの言葉を聞いたり、傷を癒す力が。まさか自分の他にもいたんだとつい興奮してしまった。

 

 

「わかるさ。だって、ポケモントレーナーだもの」

「トレーナーかぁ。わたし、ポケモン持ってないんだ」

「そっか。普通は持ってると思うけど、まあ俺もそれでイジメられたっけ。あはは!」

「それ、笑いごとですますことなの?」

「だって、逆に泣かしてやったし」

「すごーい!」

「ま、鍛えてますから。しかし、ここで会ったのも何かの縁だ。そうだな……お、ちょうどコラッタが。あの子をゲットしてみようか」

「で、でも、わたしポケモンいないよ」

「ほら、これを投げてごらん」

 

 

 お兄さんがボールを一個渡してきたので、思い切って投げる。ポンっと音がするとそこにはピカチュウがいた。

 

 

「ほら、ピカチュウに指示を。でんきショックって」

「うん。え、えっと、ピカチュウでんきショック!」

「ピカ!」

 

 

 ──ピカチュウのでんきショック! コラッタの体力はのこり1だ! 

 

 

「よし。今度はボールを投げるんだ」

「えい!」

 

 ボールが弧を描きコラッタへと当たると、簡単にコラッタを捕まえることができた。

 

 

「おめでとう。これで、コラッタは君のポケモンだ」

「ありがとう、お兄さん! ……ん? あ、う、うしろ!」

 

 

 礼を言うために彼の方へ向いた少女の目には、彼の背後に一匹のスピアーが近づいてきていた。しかし、彼は大丈夫だよと言ってスピアーの頭を撫でた。

 

 

「こいつも俺のポケモンさ。ピカもこいつもここの出身なんだ。で、どうだスピアー」

「──」

「そう、か。わかった。お嬢ちゃん、ここは危険だ。家まで送ろう、どこの子なんだい?」

「トキワシティだよ」

「奇遇だな。俺もトキワシティに用があったんだ。さあ、行こうか」

「う、うん」

 

 

 そしてわたしは、お兄さんと手をつなぎながら生まれ故郷であるトキワシティへと帰った。

 ただ、帰りの道はさっきと違っていた。

 まるで、いつもの森みたいにとても暖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トキワの森の生態系がおかしい。ミュウツーとの一件のあと、ハナダのポケモンセンターに寄った際に出会ったマサキに言われた言葉だ。

 なんでも、本来いるはずのないポケモンがいるとのことだった。住処を移動し、そこに住み着くポケモンは少なからずいるのは学会の調査でも判明している。だが、それを理由にしてもいるはずのないポケモンがいるんだと。

 その例が先程のミニリュウだった。

 ゲームではサファリゾーンとコインの景品の二つが有名な入手方法ではるあるが、ここでは海にいるのだと聞いたことがある。だが、トキワの森には川が流れているといっても、ミニリュウはいきすぎている。珍しいと言うなら精々トサキントやアズマオウだろう。

 偶然森で助けた少女を町の大人たちのところまで届けたレッドは、そのまま彼らから森の詳しい状況を聞いていた。

 

 

「少し前からなんだ。やけに凶暴なポケモンが現れたのは」

「幸いにもニビシティへと続く道は舗装されているし、人もいるからいいんだが、子供たちが遊ぶようなところにまで現れていて困っているんだ」

「ふむ……」

 

 

 レッドは腕を組んで考えた。思い当たるのはロケット団ぐらいしかいなかった。ただ、何の目的でこのトキワの森を利用しているかはわからなかった。共通点があるとすれば、ボスであるサカキがこのジムリーダーであることぐらい。いや、だからなのだろうか。

 まあ、凶暴な野生ポケモン達に関しては自分が行けばなんとかなると思うが、それよりも優先すべきことがある。

 

 

「ありがとう。俺もジムでの用が片付いたら手伝うよ」

「ジム? うちのジムリーダーは長らく不在で、もう老朽化がかなり進んでるよ」

「……だろうね」

 

 

 レッドは振り返ってジムのある方へ歩き出すと、あっと声を出して先程の少女の前に戻って頭を撫でながら言った。

 

 

「いいかい、ポケモンは友達で大切な家族だ。だけど、きみが悪い子になるとポケモンも悪い子になっちゃう。だから、大人の言うことを聞いて、いい子にしてるんだぞ」

「わたし、悪い子にならないもん!」

「あはは。そうだね。トレーナーになる気がなくても、これは大切なことだ。よく聞いてくれ」

「うん」

「最後までポケモンを信じるんだ。どんなに辛い時でもね。そうすれば、ポケモンはきっとその気持ちに応えてくれるよ」

「わかった。ね、ラッちゃん!」

「ちゅー!」

 

 

 最後に思いっきり頭を撫でて、今度こそトキワジムへ向かう。

 トキワジムは町のはずれにあって、確かに町の人がいったようにかなり老朽化が進んでいるようだった。前にある看板には閉鎖中。

 

 

「いくか」

 

 

 帽子を深くかぶり直し、入り口のドアを開けた。

 中は真っ暗で何も見えない。そう思った瞬間天井のライトに光が灯った。

 

 

「うっ」

 

 

 思わず腕で光を遮る。薄っすらと前方、そこに一人の影が見えた。だんだんと目が慣れると、フィールドの中央に誰かが立っている。いや、誰かではない。サカキだ。

 いつもの真っ黒いスーツを身を纏い、他のジムリーダーとは圧倒的に違う何かを思わせるその佇まい。

 背中に冷や汗が流れるのがわかる。自分は生まれて初めての感覚を味わっているのだと気づいた。

 それは──。

 

 

「さあ始めようか。私達のポケモンバトルを」

 

 

 その感情はまさしく、恐怖であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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