おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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目標。ナツメとか可愛い子とイチャイチャすること。

なお、題材。


第1章 マサラタウンのレッド
目と目が合ったらポケモンバトル


 

 

 

 ここはマサラタウン。カントー地方の中では比較的田舎なこの町にはこれと言ったものはないが、ポケモン博士で有名なオーキド博士の研究所があることぐらいが取り柄の町。

 そんな田舎町のはずれに流れている小さな川辺で町の子供たちが遊んでいる。ここは何度も言うように田舎だ。遊べる遊具などはないし、やれることも限られている。だからこうして近くの川辺で遊ぶか、家でゲームをするかといったことしか選択肢がない。

 いや、正確には俺で遊んでいた。自分を除いて子供たちの周りには小さいポケモン──ニドランやコラッタといったこの辺りで捕まえられるポケモンがいるが、俺には一匹もポケモンはいなかった。トレーナーでなくともポケモンを持つのはある意味で当たり前で、そんな当たり前なことができてない俺は、少年たちにとって絶好の遊びの対象なるのは至極当然のことだった。

 

 

「やーい、レッド。お前まだポケモン持ってないのか?」

「ぷぷっ。お前ぐらいだぜ、ポケモン持ってないの!」

「まぁそれもしょうがないよなー。お前の家、びんぼーだもん!」

「レッドだけに赤字ってか? あはは!!」

 

 

 レッド。そう、俺の名前はレッド。子供のころ遊んだゲーム「ポケットモンスター」の主人公の名前で、今はそれが俺の名前になっている。

 何でこうなったのかは分からない。以前はバリバリの20代で平日は社畜のように働き、休日は家に籠って寝るかゲームか酒を飲むかの生活を送っていた。それがなんでいきなりポケモンの世界に転生し……というか、なんで死んだのかさえまったく覚えていない。

 しかし、気持ちを切り替えて心機一転この世界で生きていくと決めた。なにせ、トレーナーになればポケモンバトルで食っていけるし、ゲームの知識もあるからチャンピオンにだってなれる。そう、俺の未来は明るい。

 レッド死亡説? 大丈夫だって安心しろよ~。

 と、言いたいところなのだが。目の前のガキ共のいうように俺にはポケモンがいない。貰えるのは旅に出るときだ。だというのにこいつらは持っているんだから世の中不公平である。

 だから今現在いじめにあっているのだが……相手が悪かった。なにせ、見た目は子供でも中身は大人である。

 なので俺は、何度目かわからぬ喧嘩という名のポケモンバトルを実行した。近くに転がっている石ころ(何か重いなと思ったらイシツブテだった)で、まずは目の前のガキに向けて投げた。咄嗟の行動で反応できなかったのか、そいつの頭に直撃しそのまま後ろに倒れた。

 

 

「れ、レッドてめぇ! 何すんだよ!」

「レッドのくせに生意気だぞ!」

「は⁉ 目と目があったらバトルだろうが!」

 

 そう啖呵を切って俺はその辺に転がっている石(イシツブテ)を使って、ポケモンとトレーナーにバトルを挑んだ。

 

 

 

 

 

「いてて。コラッタはよゆーだったが、やっぱニドランは危なかったぜ。どくのトゲが怖くて中々手を出せなかったからな」

 

 

 負傷した主な要因はニドランだった。ニドランの特性にはどくのトゲがあることを覚えていたため、さすがに素手で殴りかかることはできなかったのだ。そこでイシツブテを使ってニドランを殴り倒したのは良かったが、その間に攻撃を食らってしまったのは喧嘩慣れしていないのが原因だろう。

 戦いの反省をしつつ傷跡を舐めながら自宅に帰る。しかしどういう訳か、家には誰もいない。ゲームでは母親が確かにいたのにここにはいない。

 当時はそれにすごく驚いた。ここは確かにポケットモンスターの世界なのに、所々自分の知識と違うのだ。まぁそこはリアルになればそうだよなっていう部分と、なぁにこれっていうものもあって頭を悩ませた。その最もたる要因は、現在飯だけお世話になっているライバルであるグリーンことオーキドの家である。

 玄関の前に立ち、そっとドアノブを回しながら開けつつ。

 

 

「た、ただいま……」

 

 

 それはさながら空き巣が『こんにちはー。誰かいますかーいませんよねー』みたいな感じ。なんでこんなことをするか。それは、ここにはこわーいお姉さんがいるからだ。

 

 

「あら、レッドくん。お帰りなさい」

「な、ナナミさん。た、ただいま。えーと、おれお腹空いたなー」

「ふーん、そう。でも、他にいう事あるわよね?」

 

 腰に手を置き、いかにも怒ってますオーラを放っている彼女。別に女性経験は人並みにあるが、こんなにも怖いと思った女性は初めてだ。だから、どう対応したらいいかまったくわからない。なので適当に思いついた言葉を口に出すしかない。

 

 

「……遅くなってごめんなさい?」

 

 

 ふるふると顔を横に振られた。

 

 

「あ、汚れてるからお風呂入ってきたほうがよかった?」

 

 

 再び顔を横に振られる。

 

 

「じゃ、じゃあ……いつも夜更かしてることに気づいたから?」

「それは最初から知ってます」

「ファッ!? も、もしや、俺が近所の兄ちゃんから譲ってもらったエロ本コレクションを見つけたの!?」

「あ、それなら今日燃やしたわよ」

「ウッソだろお前! あれの価値がどれだけあると……はい、ごめんなさい。なので睨まないでくださいぃ」

「はぁ」

 

 

 とナナミはくそデカいため息をつき、呆れながら言った。

 

 

「今日のこと、ちゃんと言うことあるでしょ?」

「今日? ああ、それか」

 

 

 どうやら先に逃げ帰ったガキ共が親に泣きついてそれ経由で彼女は知ったのだろう。なにせ、ここマサラタウンで一人で暮らしているとは言っても保護者は必要で、それがナナミなのは運がいいと言えばいいのだろうけどこういう時は面倒だ。

 なので、俺はちゃんと報告した。

 

 

「もちろん、ぼっこぼこにしておこづかいも手に入れたぜ!」

「この……お馬鹿さん!」

「ぐえぇ!!」

 

 

 ナナミのげんこつ! レッドにはこうかばつぐんだ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前が見えなくなるほどのげんこつを食らっても次のページには元に戻ってる漫画のごとく、平然としながら夕飯をいただいた。ナナミは台所で洗い物をしていたので、小言を言われるのはもううんざりだったので帰ろうと思った矢先。ナナミの妹であるリーフが声をかけてきた。

 

 

「レッドったらまた喧嘩したの?」

「違います。目と目があったからポケモンバトルをしただけです」

「でも、レッドはポケモン持ってないじゃん」

「ふ。俺は数百年に一人生まれるスーパーマサラ人だから平気なのさ。ていうか、お前だって持ってないだろ」

「ですよねー。あはは!」

 

 

 リーフ。ナナミの妹であり、グリーンとは兄と妹の関係。ようは二卵性双生児というやつらしい。彼女こそ俺が困惑させられている一番の要因と言えた。リーフは知ってるよ? リメイク版の女主人公の名前がそれだったのは覚えている。それならば、グリーンいらないじゃん! その逆も然りだけど。

 しかし、問題はそこではない。レッド、グリーン、リーフ。いずれも同い年でライバル。オーキドからポケモンは三匹。ヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネ。うん、一匹余らないのはいいことだよ。でもさ、誰がどれを貰うのかが問題で。

 

 

「それにしてもさ、明日から旅に出る前に喧嘩なんてレッドらしいと言えばらしいけど」

「あ、うん。ソッスネ」

 

 

 そう。もう明日はついにマサラから旅立ちの時。それだというのに俺はグリーンに一度も会ってない。ていうか、いるはずなのにいないのだ。てっきりリーフがグリーン枠かと思ったが、どうやらちゃんと存在しているらしく、どっかに修行しているとのこと。いったいどこなのだよ。

 そんなことを思っているとナナミが手を拭きながらこちらに戻りながらグリーンについて話してきた。

 

 

「そうそう。グリーンなら今日帰ってきたのよ?」

「ファッ⁉」

「レッドくん、外にいたから知らないのも無理はないわよ」

「そ、それで? そのグリーンはいずこ?」

「お兄ちゃんならおじいちゃんのとこ行ってそれっきりだよ。なんかポケモン貰って草むらに行ったっておじいちゃんから聞いた」

「はぁ⁉」

 

 

 思わず大きな声をあげならリーフの肩を掴んでは揺らしながら彼女に問いかけた。

 

 

「あ、あいつ何を貰ったんだよ!?」

「し、知らないよー!」

「もう許せるぞオイ!」

「は、はぁ? もう離してよ! レッドなんか旅に出て困ってても助けあげないんだからね!」

 

 

 そう言って無理やり手を払って自分の部屋に行こうとうするリーフ。しかし、ふと足を止めて憎たらしい笑みを浮かべながら言う。

 

 

「あ、レッドにはタウンマップ上げないからね。だって、二個しかないからわたしとお兄ちゃんの分だから当然だよねぇ? じゃあ、レッド。また明日~」

 

 

 手を振りながら去っていくその姿は……。

 

 

「れ、レッド君? リーフはああ言ってるけどね? 本当は……」

「大丈夫ですよ、ナナミさん。俺を怒らせたら大したもんすよ。……ていうか、マジで〇したろうかな」

「え、え? いまなんて」

「じゃあナナミさん、ごちそうさまでした。リーフにはどうぞよ ろ し くと言っておいてください。では」

 

 

 苛立ちを隠せぬまま、ナナミの制止など気にも留めずオーキド家をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 ため息をつきながら自宅へ向けて帰る。ゲームはすぐ近くのように思えるが、どうやら我が家はこのマサラタウンでは少し離れたところに位置している。不便、すごく不便なのだ。しかし明日から旅立つというわけではあるが、家の管理はどうしたものかと少し大人らしいことを考えてしまう。

「やった、明日からついに冒険の始まりだ!」と意気込みたいが不安しかない。だって、ようはリアルモンハンみたいな世界でしょ? 草むらを歩いているだけで野生のポケモンとバトル、目と目が合っただけでバトル……危険すぎる。

 何度目か分からないため息をついて顔をあげると、もう夜なのにどこか明るい場所が見えた。そこは森の方で、この時間帯ではさすがに危険でましてポケモンを持っていない自分は特に危ない。だが、好奇心が勝り俺はその場に向けて駆け出した。

 走って五分くらいだろうか。森を少し抜けたところにある草むらで、あいつ──グリーンと明るい原因であるヒトカゲが。

 

 

「は? キレそう」

 

 

 やだ! やだ! ねぇ小生ヒトカゲじゃなきゃやだ! 

 カントー御三家だったらヒトカゲだろうが。例えタケシで詰もうと、カスミでも詰むけど、ていうかタマムシにつくまでそれなりに苦戦するけど、それでもヒトカゲがいいの。

 ていうか、グリーンなんだからフシギダネ選べよ……あ、そうなるとリーフと被るのか。

 しかしあいつ、何とバトルしてるんだ? 

 そう思って目を凝らしてヒトカゲにいる先のポケモンへと目を向けると、そこには驚くべきポケモンがいた。

 

 

「は? なんでここにミュウがいるんだよ?」

 

 

 なぜか目の前には幻のポケモンと呼ばれるミュウがいた。ていうか、なんであいつ逃げないの? まぁ、ゲームじゃないから。でも、レベルはどうせ40とか70だろうし、レベル5のヒトカゲが勝てるわけないじゃんアゼルバイジャン。

 と思いつつも、俺はバトルに見入っていた。多分指示をちゃんと出してるんだろうけど、それがなんていうか……芸術的? とにかくうまいんと思います。それでも、ミュウはなんかバリアを張って何人たりとも攻撃を受け付けてはいないのだが。

 そんなミュウもどういう訳か、守るだけで攻撃はせずじっとヒトカゲ、あるいはグリーンを見ていた。

 すると突然グリーンはヒトカゲをボールに戻した。相手の実力に気づいたのだろうか。

 ならばと草むら飛び出し、そこに転がっていたイシツブテを持ってミュウへとバトルへと挑むことにする。ボールないけど。

 自分以外の存在に気づいたグリーンは特に驚きもせず、ただ俺に告げた。

 

 

「やめておけ。お前が敵う相手じゃないぞ」

「まぁ見とけよ見とけよ」

「ふん。勝手にしろ。ところで、ポケモンはどこにいる?」

「あぁん? いねぇよ」

「ではどうやってあいつと戦う?」

「もちろん……拳で」

「……話にならん」

 

 

 呆れるようにグリーンはその場を去っていった。そして、残された俺とミュウ。どこかミュウが笑っているように見える。気のせいかと思うが、ミュウはその場にいたまま。グリーンと話している間に逃げられたのに、あいつは俺を待っていた。

 

 

「いいぜ、じゃあポケモンバトルといこ──」

『いたぞ! あそこだ!』

「ファッ⁉ 誰だよ!」

 

 

 声の方に視線を向けると、そこには黒ずくめの男達がぞろぞろとやってきた。胸にはRと書かれた文字が。それはとても見覚えのある、というか知っているやつらだった。

 

 

「なんでロケット団がマサラにいるんだよ! ちょっと出番が早すぎィ!」

 

 

 突然のことではあったが彼らがここにいるのは分からなくもない。何せロケット団である。大方このミュウを探しに来ていたのであろう。

 ならば、するべきことは一つである。

 

 

「おい、お前は俺の言葉がわかるだろう⁉ ていうか、わかれ! 俺があいつらとバトルするから、お前は逃げろ! いいな!」

「……」

「おい、小僧! 怪我をしたくなきゃそこをどきな」

「いい子にしていれば、ちょっと気絶するだけで済むぜ」

 

 

 やれやれ。まさに悪党がはく台詞だ。

 トレードマークである帽子を深くかぶり、

 

 

「おい」

「あん?」

「(ポケモン)バトルしろよ」

「バトルだぁ⁉ ポケモンを持ってないガキが調子乗ってんじゃねぇぞ!」

「ポケモンなら拾った(イシツブテ)」

「いいからつべこべ言わずとっと失せ──」

「目と目が合ったらバトルだろうがぁあああ!!」

 

 

 そして俺はロケット団に向けて突撃した。指示を出されるのは面倒だからまずはトレーナーを殴り、時にはイシツブテを投げて。ポケモンはいかにもというメンツだったのは覚えている。たしかニドキング、マタドガス、ラッタ、コイル、ベトベトン、マルマイン……。

 バトルの中で一瞬だけ覚えていることがある。逃げろといったのにまだ逃げないミュウがどこか笑っていたこと。そのあとは知らない。気づけばいなかったから。

 それに、俺の意識も途中からなくなって最後まで覚えてないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らない天井……いや、マジで知らない天井だ」

 

 

 目を開けると、そこは本当に知らない場所だった。雰囲気的には病院で、腕には点滴チューブが刺さっていたので抜いた、ちょっと痛い。

 同時に人の気配がすると白いカーテンが開き、そこにはナナミさんがいた。

 

 

「あ、ナナミさん。おはよう。ところで、ここどこ?」

 

 

 彼女に尋ねたはいいがすぐに返事は帰ってこない。むしろ、今にも泣きそうで。そう思った直後、彼女は飛び込んできた。

 

 

「レッドくん!」

「うぉ!」

「よかった、目を覚まして! 本当に心配したのよ!?」

「えーと、ごめんなさい?」

「といっても、レッドくんは生粋のマサラ生まれだからすぐに起きると思ったけどね」

「……すぐに起きる? あの、俺どんくらい寝てたの?」

「えーと、1日と9時間ぐらい?」

「一日……って!」

「うん。もうグリーンとリーフは旅に出たよ。昨日」

「……完全に出遅れてるんじゃん」

 

 

 一日とはいえど一日だ。マサラとトキワまですぐにいける距離じゃない。だってゲームじゃないから。何が最悪ってもうポケモン選べないじゃん。三択どころか二択だったのが一択になったけど。

 落ち込んでいるナナミさんに励まされながら俺はオーキドとやっと会う事になった。

 だが、さらに追い打ちをかけるようにオーキドからとんでもないことを告げられた。

 

 

「だから、ないんじゃ」

「……もう一度聞くよ。何がないって」

「だから、ポケモン」

「あれーおかしいねー。グリーンがヒトカゲでリーフがフシギダネ。じゃあゼニガメが残ってるよね、なんでー?」

「その……な。盗まれたんじゃ。てへ」

「お前の管理責任ガバガバじゃねぇかよ……というとでも思ったか、この糞じじぃ! ゼニガメが盗まれたぁ⁉ それただの金銀じゃねぇか! 二年ぐらい早いんだよ!」

「金銀ってなんのことじゃ!」

「お黙り! じゃあどうすんだよ! あれか、イーブイでもくれるってか!」

「そんな貴重なポケモンやるわけないじゃろ。ていうか、わしが可愛がるし」

「……じゃあ、死のうか」

 

 

 そこらへんにあった分厚い本をもって俺はにっこりと笑みを浮かびながらオーキドに迫ろうとした。当然のように待ったと助手共が止めに入った。なお、ナナミさんは呆れて止めにすら入らなかった。どっちに呆れてるかは知らない方がいいんだろうか。

 

 

「わ、わかった! ぼ、ボールとおこづかいをやろう!」

「……いくら」

「ごひゃ」

 

 

 レッドのこわいかお! オーキドはひるんだ! 

 

 

「一万円あげるわい……。ボールも10個もやる。あとおまけでポケモン図鑑」

「メインがおまけとか泣きたくなりますよー」

「あと、レッド」

「なんだよ」

「これからはトレーナーへのダイレクトアタックは控えるんじゃぞ」

「うん、おかのした」

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで。

 自宅に帰り何も入ってないバッグにボールを入れ、鍵を閉めて家を見上げた。一人しかいない家がとうとう誰もいない家になってしまった。一人で暮らすには快適だが寂しいものだった。ていうか売ったら大金になるかと思ってしまう自分は最低だなと思いつつも、帰る場所はやっぱりあった方がいいかなと考え思いとどまった。

 家を背にナナミと待ち合わせしている場所へと向かう。彼女はマサラからトキワへと向かう道の出入りで待っていた。その手には小さく四角いタブレットのようなものが。

 

 

「あれ、それって」

「うん。タウンマップ」

「え、普通紙媒体じゃ」

「私からレッドくんへのプレゼントよ。もちろん二人には内緒よ?」

 

 

 口に指を当てるそのポーズはとてもエロく見えた。

 

 

「一応最新版だから他の地方のも入ってるけど、ないよりはいいよね」

「あっふーん」

「それにしても、ポケモンを持たないトレーナーが旅に出るって。本当に信じられないね。レッドくんがはじめてよ、きっと」

「いやぁ、照れますな」

「もう。そうやって調子に乗るんだから。……レッドくん」

「……え」

 

 

 すると彼女はそっと抱きしめてきた。まだ11歳であるので身長は平均より少しある程度。それでもナナミの方が少し背が高い。だから、もろに彼女の胸の感触が伝わってくる。とても柔らかい。そして、彼女の秘密を知りつい口に出してしまう。

 

 

「ナナミさんって」

「うん」

「着やせするタイプなんですね」

「レッドくんのエッチ」

「今のなんかエロいっす」

「うふふ。私ね、レッドくんのこと……好きよ」

「俺も好きっす」

「じゃあ、両想いね」

「え、マジでそっちの意味?」

「さぁ。どうかしら」

 

 

 そっと体を離すと、ナナミは目を瞑って俺の頬にキスをしてきた。なんか、健全な行動がとてもエロく見えるという新しい境地を見出した気分。

 

 

「おまじない、無事に旅ができますようにって」

「じゃあ死ねないっすね」

「うん、そうだよ」

「「……」」

 

 

 会話が途切れる。

 何て言うかとても甘酸っぱいのだ。まさにこれが青春と言わんばかり。いやまあね? ナナミってほらちゃんとした立ち絵とかなかったからとても美人だってすごい驚いているわけ。だから、すっごい緊張するんだ、これが。

 いやしかし、俺にはポケモンで好きな人がいるし。でもでも、ちょっとギャルゲーの主人公みたいなことしてみたいし。

 的な欲望の結果。浮気しても……バレへんやろの精神でいくことにした。

 

 

「じゃあ、チャンピオンになったら……デートしてください」

「なれなかったらどうするの?」

「その時は……慰めてください」

「……どっちがいい?」

「ちょっと何を言ってるかわかりませんね」

「とぼけちゃって。でも、うん。いいよ。待ってる」

「はい。それじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい、レッドくん」

 

 

 

 ナナミに別れを告げ、俺はマサラタウンをあとにする。

 遂に始まる俺の旅。でもまずは……。

 

 

「ポケモンだよな……」

 

 

 道中の危険を避けるため、俺は近くに転がっていたイシツブテを拾いトキワシティを目指すのであった。

 

 

 

 

 

 しかし、レッドは知らなかった。

 この世界がポケモンはポケモンでも、ポケットモンスターSPECIALだということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小さくても、自分が知る大人の誰よりも逞しい背中をしている少年が見えなくなるまで手を振った。もう彼とは会えない。どれくらいの時間がかかるだろうか。半年、いや一年かも。

 それは辛い。きっとその間に彼は私のことなんて忘れてしまうだろうと思った。だからなのか、自分でも驚くほどに攻めた行動に出た。

 

 

「だってリーフったらレッドくんのこと好きなのバレバレだし。お姉ちゃんもどうしたらいいかわからないんだもん。旅に出ちゃえばリーフが有利だし、これぐらい許されるよね! まあでも」

 

 

 妹は知らない私だけが知っている秘密。それは絶対に揺るぎない圧倒的有利なこと。

 それは──。

 

 

「レッドくん、お姉さん物ばかり集めてたからよかったわ。うん、きっと私のことを意識していたに違いない。さあて。レッドくん家へお掃除にいきましょ!」

 

 

 漏れなく、彼のお宝を見つけたら処分して私のとすり替えておかなくちゃ(使命感)。

 

 

 

 

 

 

 データ

 レベル12

 なまえ レッド

 タイプ ワイルド

 とくせい スーパーマサラ人

 わざ  イシツブテ(殴)

      イシツブテ(投)

      あといっぱい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すっげぇ久しぶりに帰ってきた。
なんでポケモンかって、イチャイチャしたいから。

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