おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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お待たせ。
9日間しか更新できないけどいいかな?


第2章 金銀に紅と藍を添えて
ところでレッド殿はどちら派で? 我々は全員きのこ党ですよ


 

 

 

 

 

 ジョウト地方にあるキキョウシティ。そこにはマダツボミの塔と呼ばれる場所がある。

 ここはその名の通り手持ちのポケモンは全員マダツボミであり、トレーナーはみな坊主という変わった場所。まあそんな修行僧の中にもちゃっかしホーホーを手持ちに加えている不届き者もいたりはする。

 塔の中央で揺れている柱は巨大なマダツボミの体だと言われているが定かではない。

 またここは修行の場としても有名な場所で、毎年多くのトレーナーが座禅、瞑想、煩悩を祓うためにここを訪れることもある。

 ここ最上階でもう3日間も座禅を続けている彼もその一人だった。

 塔の管理者であり、坊主達の師でもあるコウセイはその職務を一時放棄していた。それは何故か。コウセイから見ても彼はある意味で異常だったからだ。彼だけではない。彼の手持ちポケモン8匹のポケモン達も全員瞑想をしている。

 コウセイも一日目は警策を持ってその役目を果たしていたが、常人とは思えないほどの集中力で一度も喝を入れることはなかった。ただ手持ちポケモンの内、カビゴンだけがしょっちゅう寝ようとしたので喝を入れたが効果はなく、代わりに彼のポケモンであるスピアーがその槍で喝を入れていた。

 ここにいる坊主や修行に来るトレーナーでさえ、これほどの男はいない。コウセイの隣に立つ弟子が師に問う。

 

 

「コウセイ様。あの方はもうすでに3日間飲まず食わずで瞑想に入っておりますが、一体何を考えているのでしょうか?」

「分からぬか弟子よ。きっと悟りを開かれるまでその眼を開けることはないのじゃ」

「そう、なんでしょうか……! あ、師よ、見てください! あの方の目が」

「おお、ついに悟りを……」

 

 

 男はポケモン達をボールに戻し、ゆっくりと二人の前に向かって歩いてきた。コウセイの前に立つと、両手を合わせてお辞儀をした。彼らもまた頭を下げた。

 実りがあったかとコウセイは尋ねた。

 

 

「どうでしたかな、レッド殿。悟りは開かれましたか」

「コウセイさん。ええ。かなりの時間を有しましたが、無事悟りを開くことはできしまた」

「差し支えなければお聞きしてもいいですかな?」

「はい。きのこたけのこ戦争にいずれ終わりがくる、そう視えました」

「な、なんと。それは真ですかな」

「はい。途中とある謎の勢力が参戦しますが、そこには勝者がいました」

「そ、それはいつ分かるのですか⁉」

 

 

 弟子が冷静を欠いてレッドに問う。

 

 

「恐らく、今から22年後にはすべての決着が着くかと」

「これは長生きせねばならんな」

「して、レッド殿。その謎の勢力とは一体……」

「その第三勢力の名は……アルフォート」

「それはまた強そうな名前ですな」

「ところでレッド殿はどちら派で? 我々は全員きのこ党ですよ」

 

 

 弟子の禁断の質問にレッドは堂々と答えた。

 

 

「たけのこ党」

「そう、ですか。レッド殿はてっきりとこちら側だと思っておりましたが、残念です」

「例え思いは違えど、目指す場所は同じ。改めて、ご指導ありがとうございました」

「どうか良い旅を」

 

 再度手を合わせて礼を言うレッド。例え派閥が違えど、マダツボミの塔全員は旅の成功を祈り込めてお辞儀をしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 キキョウシティにある路上カフェで、彼らは3日ぶりの食事を楽しんでいた。ここはポケモンも同伴が可能なカフェであり、小型から大型のポケモン一緒に楽しむことができる所だ。店も個人ではなくチェーン店らしい。

 店員や他の客は誰もがレッドに注目した。手持ちのポケモンもそうだが、ポンチョにターバンを巻いている不審者が堂々とコーヒーを飲んでいる姿は何ともシュールである。さらに一か月前のポケモンリーグの中継は全国に流れている。お隣のジョウトなら『え、あれレッドさん?』、『まさかそんなはずないわ』、『でも、あの黒いリザードンは……』とこそこそと話声が聞こえてもおかしくはない。

 レッドは一杯3000円もするブルーアイズマウンテンを飲みながら、テーブルの上でご飯を食べるピカチュウとイーブイを眺める。

 この旅の目的は三つある。

 一つはブルーを攫ったポケモン。恐らくホウオウだと思われるがその情報を集めること。同時に可能ならこちらの伝説のポケモンに接触すること。

 特に三犬に関しては焼けた塔の地下にいるはずだ。金銀発売当初、三犬はホウオウとルギアに仕えているイメージだったが、ルギアに仕えているのはカントーの三鳥というのが映画で描写された。ならばホウオウの状況を知っているのは三犬である。たぶん難易度で言えばルギアが一番簡単だろう。羽はないが、うずまき島にいることは間違いないのだ。

 二つ目はポケモン達の育成と自身への修行である。手に入れてからあまり育成できなかったイーブイとラプラス、それとストライクの集中トレーニングが目的だ。ストライクは単にグリーンのストライクがカッコイイのと、ハッサムにしたいからである。

 なによりも問題はイーブイだった。実験の後遺症で未だにうなされることがある。そのための治療とトレーニングだ。

 三つ目はジョウトを単純に旅をしてみたいからである。お隣だし、色々と見て回りたいと思ったからだ。

 

 

「けど、ブイ。本当にいいのか? 一つの進化先じゃなくて、全部に進化できるようにしようなんて」

「ぶいぶい!」

 

 

 テーブルの上にいるイーブイに尋ねれば、彼はやる気に満ちた目をして返す。そう、本当はどれかに進化させるつもりでいたのだ。オーキド博士からも進化をすれば、体が安定しうなされることもなくなるだろうと。

 しかしイーブイはそれを拒んだ。それも俺の力になるために、すべての進化先を会得してやろうと。

 ついそんなイーブイが可愛くて頭を撫でてやると、隣でピカチュウがポケギアを持って教えてくれた。

 

 

「あ、そうだったな。ちゃんとナツメに連絡しないと」

 

 

 ポケギア。実を言えば普通に今まであったらしいが一回も見たことがない。登録されている番号はナツメはもちろん、グリーン、リーフ、ブルー、ナナミ、エリカ、カツラ(研究所)、マサキ。あと、ハナダのお姉さん。男女比がおかしいのは気のせいだろう。

 ナツメの番号を選択し電話をかける。案の定ワンコールで繋がった。

 

 

「おーいナツメー、元気かー」

『レッドぉ……3日も声が聞けなくて、私は死んじゃうよぉ』

「ははは。大袈裟……じゃないか、うん。でも、今日連絡がくるって未来予知でわかってんだろ?」

『うん』

「即答かよ」

『まだキキョウシティ?』

「そうだよ。なんで?」

『レッドが可愛い子といるのが予知で視えたから』

「大丈夫だって安心しろよ~」

『信頼してるわよ。でも、どうせ引っ掛けてくるのが分かってるから、こうして忠告してるんでしょ』

「あっはい」

『それじゃ、またお昼に電話するから』

「うん。わかった」

 

 

 通話を切って小さな息をはく。けしてため息ではない。ピカチュウとイーブイに目を向ければ、口角を広げてニヤニヤしていた。

 

 

「ピカピカ(お熱いね、このこの!)」

「ぶいぶい(新婚みたいですね)」

「人をおちょくるんじゃないの。それにしても……」

「あのゴールドって子のことっすか?」

 

 

 話の間にカビゴンが飯をほおばりながら言ってきた。

 

 

「そう。あのチンピラの小僧が、まさかゴールドとはなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 4日ほど前。

 トージョウの滝を超え、ワカバタウンに着いた頃のことである。

 

 

「ああ。いまワカバタウンに入ったよ。え、どんな感じかって? んー、道行く人がみんな俺を見ている」

『それはそうよ。その恰好なら特にね』

 

 

 カントーを出た時からポンチョとターバン装備のレッドの格好は、どこへ行っても目立っていた。それでも本人は気にすることなく歩いている。

 

 

『確かウツギ博士がいる研究所に寄るんだっけ?』

「そ。博士からのお使いでな。まあ資料の入ったデータを渡す簡単な仕事だ」

『はぁ。私もレッドと一緒にジョウトに行きたかった』

「しょうがないだろ? 協会からロケット団に関わってたっていう疑惑をかけられてるんだから」

 

 

 ロケット団が壊滅し、ポケモンリーグが終了した後。ポケモン協会はレッドを含めたロケット団と戦ったトレーナーや、被害にあった人間から首謀者を特定するため聴取をとらされた。

 幹部は誰だ、ボスは誰だ、その目的は等々長い質問をされた。当然答えは全部濁した。ナツメのためでもあり、今後のためでもあったからだ。それと、サカキに関しては個人的に執着しているというのも理由の一つではあった。

 それにレッド自身、ポケモン協会について少しきな臭い感じがしてならなかったというのが一番の要因であろう。

 

 

『そんなの過去の話よ』

「はいはい。いいから、ちゃんとジムリーダーらしくしてろって。お土産にいかりまんじゅう勝ってきてやるから」

『おいしいの、それ?』

「さぁ?」

『まあいいわ。それじゃあ、一日三回のラブコールには絶対出ること』

「わかってるよ」

『うん。大好きよ、レッド』

「俺も大好きだよ」

 

 

 ナツメ成分を声で補充するレッド。旅に出る際にナツメから言い渡された条件が一日三回以上の電話であった。本人は特に気にしておらず、むしろ聞いていないといけない体になりつつあった。

 

 

「さてと。ウツギ博士の研究者はっと……ん?」

 

 

 するとどこから声が聞こえる。それはだんだんと近づいきて、思わず後ろを振り返った。

 

 

「オラオラーどけどけー! ゴールドさまのおとおりだーい!」

「……ごーるど……ゴールド⁉」

 

 

 思わず二度も口に出してしまった。そのゴールドを名乗る子供はスケボーを巧みに操り、その肩にエイパムを乗せていた。

 そのまま避ければ彼は通り過ぎるだけでよかったのだが、何故か道端に転がっていたイシツブテと衝突し、宙へとその身を投げ出してしまった二人、ゴールドとエイパムを軽々とキャッチし、二人を掴んだまま挨拶をするレッド。

 

「うあぁあああ⁉」

「よっと。平気か?」

「あ、ありがとうっス。その……おじさん」

「おじさんだと? ふざけんじゃねぇよお前! お兄さんだろォ?」

「い、いや、どうみても変な格好してるじゃないっスか! 助けてもらっておいて、こんなこと言うのもあれだけど、すごく変だぜ!」

「変じゃない、カッコいいと言え。それと俺はまだ11歳だ。ところで、このエイパムだが」

 

 

 助けてからというもの、エイパムはレッドの体の上でとてもはしゃいでいた。幸いなことに悪戯をしてこないのは助かっているが。

 

 

「珍しいな、エーたろうがここまで他人に懐くなんて」

 

 

 エイパムの頭を撫でやると、とても喜んでいるのか笑顔を浮かべている。どうやらこのエイパムは、彼にとても懐いているようだ。

 肩にいるエイパムをそのままゴールドへと返してレッドは言った。

 

 

「そのエイパム、きみにすごく懐いているな。大切にするといい」

「あったりまえだぜ! オレのエーたろうは最高の相棒だからな!」

「ところでゴールド。この辺りにウツギ博士の研究所があると聞いたんだが、場所を知らないか?」

「博士? ああ、たしか町の郊外にそんな研究所があるっスよ」

「郊外? ああ、町に入る時に見えたアレか。ありがとうゴールド。また、いつか会おう」

「おじ、お兄さんの名前なんて言うんだよ。人の名前は勝手に知っておいてそれはないぜ!」

「俺か? 俺の名はレッドだ」

「れっど? はて、どっかで最近聞いたような?」

 

 

 腕を組んで必死に思い出そうとするゴールドに苦笑しながら、レッドはウツギ博士の研究所へと向かったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在──

 

 

「しかし、キキョウジムのジムリーダーがハヤトじゃなくてハヤテってやつだったけど、もしかして親父か?」

 

 

 メタ的なこと言えば、金銀が始まる前のジムリーダーならば何ら不思議はない。ゴールドからしても、恐らくまだ10歳にはなっていないだろうし、旅立ちの日はまだ先だろう。

 それにしてもエイパムをすでに持っているとは。自分とは大違いだ。

 

 

「普通は御三家もらったり、すでに持ってるやつが大半の中、ポケモンを持っていないだけでイジメられたのは俺ぐらいだろうな。HAHAHA!」

「それ、笑ってごまかすことなのだろうか。とカビゴンは思った」

「ピカ(で、次どこいくんだ?)」

「そうだな。とりあえずはつながりの洞窟を通って、ヒワダタウンだな。といっても、お目当てはウバメの森にいるセレビィなんだが」

 

 

 セレビィ通称ときわたりポケモン。その名の通り時を渡れる力を持つポケモンだ。ゲームではその入手手段が非常に限られていて、当時でゲットできたトレーナーは極少数であろう。世代を重ねごとに公式から度々テコ入れがあって手に入れやすくはなった。

 

 

「でも、セレビィって映画だとたくさんいたような……。もうだいぶ前だから覚えてないや」

 

 

 映画のラストでたくさん登場したのはまだ覚えている。ただ、今考えると別の時間軸のセレビィが一つの時間に集まった、という可能性もあるのではと思えて仕方がない。

 またセレビィの上位互換でもあるディアルガも存在するが、シンオウなんてどうせすぐには行かないだろうから後回しだ。

 ホウオウや三犬、ルギアも重要ではあるが、特にセレビィはその特殊な力のため特に優先度が高かった。できれば本人と会って話をしたいところである。

 

 

「よし。そろそろ行くぞお前ら」

『はーい』

 

 

 ポケモンをボールに入れて伝票をもって会計にいく。レジのお姉さんが伝票を見ながらレジに数字を入力していく。その割には長いような気がする。

 

 

「えー合計で14万3000円になります」

「14万⁉ うせやろ!」

「間違いありません。お客様のカビゴンが次々とおかわりなさっておりましたし。それによくいるんですよ。カビゴンからつい目を離して金額を見たら驚かれる方」

 

 

 なんということか。まさかポケモンフードがこんなにも高いとは。

 しかし問題ない。俺はチャンピオンだ、リーグで優勝した賞金がある。と、思って財布を除いたら半分もなかった。レッドは忘れていた。賞金なんて使い道がないと思って、大半をナツメに預けておいたのを。

 中々会計をしないお客に対して、お姉さんは催促しはじめた。

 

 

「お客様。まさか、お金がないなんてことはありませんよね?」

 

 

 怒っている。それもすぐに警察を呼ぶ構えだあれは。

 仕方がない。こういう時のための奥の手を使おう。

 

 

「あ、請求はカントーにあるヤマブキシティのヤマブキジムのナツメにお願いします……」

 

 

 その日の昼頃。レッドは人生で初めて、ポケギアの前で土下座をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カン、カン、と氷を削る音が薄暗い部屋に響き渡る。

 男はただひたすらに彫る。そこに感情はない。ただ思い描いたモノだけを彫るだけだ。ただ一心に、これを彫っているときだけは何も考えずにいられる。

 そこに雑音が混じる。

 傍に置いておいた通信機が鳴ったからだ。

 

 

『報告します。微弱ではありますが、また反応を示しています』

 

 

 通信機の電源を切り、氷ノミとハンマーを置く。

 

 

「おかしい。先月の月の満ち欠けからまだそんなに経っていない。いや、理由などどうでもいい。チャンスがまた来たと前向きに捉えるか」

 

 

 すると目の前に頭がない氷の人形が、男が座る椅子ごと載せると立てかけておいたマントと仮面をつけ、デリバードに乗ってウバメの森へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 




こんな感じでジョウトぶらり旅がスタートです。
一話一話が短いのは許して……。
それとこの旅で生死をさまような戦いなんてありません! ゆるふわです!
それに僕はシリアスなんて書けません。

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