おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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私は読者の皆様に絶対に屈しません!

最後まで戦います!




見て見てあれ私の彼氏なの! すごいでしょ!!

 

 

 

 

「れ、レッド!? バカな、お前は確かに私が……」

「殺した、か? 残念だったなぁ……閻魔様にも会ったが、どうやら簡単に死なしてくれなくてよ。俺を殺したければ首を刎ねるんだったな!」

「いや、そこは心臓とかじゃないの?」

「だから言ったろ? さすが私のレッド……好き」

「けっ」

 

 

 レッドの言葉に異を唱えるブルーであるが、彼女のナツメは以心伝心していたことにうっとりしていた。

 一方対峙ているカンナは一歩後ずさるがすぐに冷静に対応した。離れたところに待機していたキクコのゲンガーに視線を送ると、ゲンガーはうなずいてすぐに行動に出た。

 ──ゲンガーのふいうち! 

 レッドの死角からゲンガーが襲い掛かる。

 

 

「遅い」

 

 

 ──ブラッキーのシャドーボール! こうかはばつぐんだ! 

 レッドの背後に潜んでいたブラッキーが姿を現しゲンガーを吹き飛ばすと、左腕のガントレットにある太陽の石が輝きを放ち姿をエーフィへと変えると同時に石が砕けた。

 

 

「サイケこうせん!」

 

 

 ──エーフィのサイケこうせん! ゲンガーはたおれた! 

 ゲンガーが倒れたことにより、ナツメにかかっていたふういんが解除されると、二人を縛っていた氷の手錠を念力で破壊する。

 

 

「な、イーブイが自由に進化できるわけが⁉」

「できるのさ、俺のブイは。ロケット団に体を改造された後遺症で進化を自由にできる。だがそれにはとてつもない苦痛を伴う。それでもブイは俺のためにその力を使ってくれている!」

「ちっ。だがいくら氷を破壊しようとも、こちらで体全体に印をつければ──っ!」

 

 

 突如、カンナが手にしていた人形が燃え、そのまま跡形もなく溶けた。視線を向ければ、彼女に向けてレッドが右腕を延ばしていた。

 

 

「見えている範囲ならば、どんなモノでも燃やすことができる。だから、そんな小細工はもう通用しない」

「……ヤドラン! ラプラス! ルージュラ!」

「次だブイ!」

 

 

 ──シャワーズのとける!

 輝くは水の石。シャワーズになったイーブイはとけるを使って、三体の攻撃を回避してその場から距離を取ると再び姿を変える。

 輝くは雷の石。サンダースになるイーブイ。

 ──サンダースのミサイルばり! 

 全身の尖った体毛がミサイルのように放たれる。だが三体は止まらず再度攻撃をしかけてくる。

 ──ラプラスのれいとうビーム! 

 

 

「こちらもだ!」

 

 

 輝くは氷の石。サンダースからグレイシアへと進化し、石は砕ける。

 ──グレイシアのれいとうビーム! 

 衝突する二つのれいとうビームは互角であった。レッドはすかさずガントレットを構える。

 輝くは炎の石。攻撃を放ちながらブースターになり、口から炎をはく。

 ──ブースターのかえんほうしゃ! 

 ブースターのかえんほうしゃがれいとうビームを飲み込みながら、そのままラプラスを貫いた。

 残りはルージュラとヤドラン。

 

 

「そんな出鱈目なことを!」

「リーフブレード!」

 

 

 ──リーフィアのリーフブレード! 

 輝くは草の石。ブースターからリーフィアに進化したリーフィアは地面を駆けながら、ヤドランをすれ違い様に斬り裂いた。そして次の標的はルージュラ。

 

 

「ムーンフォース!」

 

 

 ──ニンフィアのムーンフォース! 

 輝くは月の石。リーフィアからニンフィアに進化。頭上に月の光が収束したエネルギーをルージュラへ向けて発射し、そのまま成す術もなくルージュラは倒れた。

 ニンフィアからイーブイに戻ると、ジャンプしてFR号のカウルの上に着地する。残されたのはカンナの傍にいるパルシェンのみ。だがそれよりもカンナは、目の前で起きた光景とイーブイの見知らぬ進化に驚きを隠せずにいた。

 

 

 

「バカな。こんなことが……それになんだそのイーブイの姿は⁉」

「あたしも見たことがないわ。最近ジョウトで新種の2匹が見つかったのは知ってるけど……」

「ふっ。私はレッドから教えてもらっていたぞ!」

「けっ」

 

 

 目の前にいるイーブイの頭を撫でながらレッドは言う。

 

 

「本来はできないんだが今日は特別らしくてな? 一人だけ残されたことを根に持っていて、その怒りで進化できたのかもしれない」

「だとしても。何でそんなまどろっこしいやり方をする⁉ 他の手持ちならすぐに片が付くだろう!?」

「そんなこともわからないのか、カンナ」

「な、なに?」

「リザードン達を出せばな……お前やそのポケモンまで殺しかねないんだよ……」

「っ!」

「だからブイなのさ。それに俺だってポケモンを殺したくはない。だけど殺したいほどお前らが憎い。だが、それではお前らと同じになる。だから……」

 

 

 レッドはゆっくりとバイクから降りると、一歩また一歩とカンナの下へ近づいく。その度に彼女も一歩下がろうとするが突然レッドが膝をつくと、一瞬にして彼女の態度が一転した。

 

 

「そうか! やはりお前は完全に完治してないんだな!? パルシェンとげキャノン!」

 

 

 ──パルシェンのとげキャノン! 

 あえて遠距離からレッドにトドメを刺そうとしたのだろう。無数の棘がレッドへと向かう。それを止めようとブルーが飛び出そうとするのをナツメが止めた。

 

 

「ちょっと何で止めるのよ⁉」

「巻き込まれたくないなら大人しくしていろ」

「え?」

 

 

 放たれた棘がレッドの前、ほんの数十センチの距離ですべて燃えた。まるでそこに見えない炎の壁があるかのようだ。

 

 

「言ったはずだぞカンナ。俺に、小細工は……通用しない……! 」

 

 

 荒々しく肩で息をするレッドにカンナは依然と怯えている。再びゆっくりと立ち上がると、レッドは左腕を延ばした。手を開き、すぐに閉じた。それは何かを掴んで握りつぶしたかのようにも見えた。

 

 

「パルシェンれいとうビームだ! ……どうしたパルシェ──!!」

 

 

 カンナが背後にいるパルシェンに目を向ける。そこにはいつの間にか凍っていたパルシェンの哀れな姿があった。

 

 

「炎でできるなら、氷だってできる……まだ、制御がうまくできんがな……さあ、あとはお前だけだ」

「来るな……来るなーーーー!!」

「言ったはずだ……お前は絶対にお……ぐああああああ!!」

 

 

 再び膝をついて叫び声をあげるレッド。彼の体から炎と氷のエネルギーが螺旋を描きながら溢れ出ている。

 エスパーであるナツメには、常人とは違ってエネルギーの流れが見える。だからこそレッドに今起きている現象にいち早く気づいた。

 

 

「レッド!」

「ちょ、ちょっとナツメ危ないわよ! それよりもカンナを──」

 

 

 ブルーがカンナに視線を向ければ、彼女はすでに背を向けて逃げ出していた。それも当然だろう。仮に彼女と同じ立場だったら自分も逃げるに決まっている。敵であるカンナに同情しながらも、ブルーもレッドに近寄る。

 だがそれを許さない存在が居た。

 ──イーブイのすてみタックル! 

 

 

「がっ──!?」

 

 

 背後からイーブイのすてみタックルを食らったカンナは、そのまま意識を失い氷の地面へと倒れた。ふんと鼻を鳴らしながらイーブイはレッドの所に戻る。

 力を制御できず暴走しているレッドをナツメが前から抱きしめる。バリアを張っているのか、それともレッドが無意識にナツメだけは傷つけまいとしているのかはわからないが、彼女は燃えることも凍ることもなかった。次第に二人を優しい光が包み見込むと、体から溢れ出ていたエネルギーが収まりレッドも落ち着きを取り戻し始めた。

 

 

「なにをしたのナツメ?」

「外からエネルギーを制御しているんだ。私が傍にいる限り暴走はしない」

「ハァハァ……ありがとうナツメ……だけど、まだキクコとワタルそれにシバを何とかしないと」

「安心して。他の戦いもすでに決着がついている。あとは、この上で行われている戦いだけよ」

「うわぁ。レッドだけには優しい言葉で話すナツメだわ」

「うるさい。ブルー、お前も肩を貸せ」

「はいはいっと……ちょっとレッド。あなたスゴイ体が軽いわよ?」

 

 

 二人がレッドに肩を貸して立ち上がらせると、その異常な軽さに驚かされる。同年代とはいえレッドは男だ。それなりに筋肉もついているし人並み以上に食事をする。それなのに女の自分より軽いとブルーは思ったのだろう。

 実際は食べるものがなく、体内にある3つの玉のエネルギーが生命維持装置の役割を担っているだけであった。

 

 

「もう半月以上水しか飲んでない……」

「大丈夫よレッド。帰ったらたーくさん料理作ってあげるからね!」

「……ナツメって料理できるの?」

「そこそこ……?」

「じゃあこのブルーさんが手料理を振る舞ってあげる! そうね、そうしましょう!」

「は! お前みたいな女が手料理ぃ? 冗談を言うな」

「なによ。そっちだってどうせ自分の手じゃなくて念力で料理してるんでしょうが!」

「な、なぜそれを……」

「……お姉さんの料理が食べた──!!」

『『ふん!』』

 

 

 禁断の言葉を口にしたレッドの両脇に制裁が下された。そのまま痛みにもがき苦しみながら二人に運ばれるレッド。

 そんな彼らの先頭を歩くイーブイは、懐かしの雰囲気が帰ってきたことが嬉しいのかステップを踏みながら歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 レッドがスオウ島に到着した直後。火山の火口にいるイエローは、自身の目の前で繰り広げられている戦いから目を離せずにいた。

 自分を助けたおじさんは、あのワタルと互角に渡り合っている。みんなで協力してやっと戦えていた中、彼はニドクインとサイホーンだけで戦っているのだ。

 あの見えないバブルこうせんをサイホーンのつのでつくで粉砕し、その砕けた岩をふみつけで押しつぶして起こした砂ぼこりで太陽光を遮断させる。そしてそこにニドクインのひっかくで的確にワタルの策略を突破していく。

 

 

「ニドクイン! そのまま頭上の泡もきりさけ!」

 

 

 宙に浮いている巨大な泡に向けてニドクインが跳ぶ。だが先程の自分のドードーのドリルくちばしと同じ結果になる。泡を切り裂くことができずにそのまま弾き返されて地上に落ちる。

 

 

「溶岩の熱さえ耐えるこのガードにそのような攻撃が効くと思ったか! くらえ! はかいこうせん!」

 

 

 ──ハクリューとギャラドスのはかいこうせん! 

 泡の中にいる二体のハクリューとギャラドスによるはかいこうせんが軌道を変えながら地上にいるおじさんとニドクインとサイホーン目がけて放たれた

 

 

「わぁ!」

 

 

 攻撃がこちらまで来るのでピカチュウを抱えて逃げる。

 だがおじさんは逃げない。

 むしろその場から動かないでいた。どういう訳か、ワタルの攻撃はニドクインとサイホーンには攻撃が当たっているが彼だけはその周囲に着弾している。まるで殺す気がないかのように。

 一体どうして? 

 おじさんは後ろに一個のボールを落とした。そのボールはコロコロと転がりある場所までいく。そこはちょうどワタルがいる真下だ。

 そしてボールが岩のでっぱりに開閉スイッチが当たった。

 

 

「──真下がガラ空きだ」

「なに⁉」

 

 

 ──スピアーのダブルニードル! 

 ボールから出たスピアーはこうそくいどうをかけながら泡目がけてその槍で貫く。それにより風船のように泡が割れ、そのままイエローのキャタピーが張った糸の上に落ちる。その際に腕が糸に絡まり身動きがとれないワタル。まるで蜘蛛の巣に引っかかった獲物のようだ。

 

 

「す、スゴイ! あのワタルをこうも簡単に……!」

 

 

 おじさんはワタルの下に近づくと、スピアーが彼の喉に槍を突きつける。

 

 

「相手が勝利を確信した隙をつく……まさかあいつの真似を私がするとはな。しかし四天王の実力はこんなものか。期待外れもいいところだ」

「そういうお前は……サカキ、だな? 最強のジムリーダーにしてロケット団の首領!」

「え⁉」

 

 

 ロケット団。二年前シルフカンパニー崩壊事件によって壊滅した組織。そして自分にとっては、大切な故郷であるトキワの森を犯した酷い組織だ。

 それがなぜ自分を助け、ワタルと戦っているのか全然わからない。

 

 

「ふ、ふふ。そこのガキとは強さの格が違う……」

「ふん。我が組織は壊滅したが、ロケット団は不滅だ。私がいる限り何度でも復活するだろう。だが今、カントーはお前達四天王による攻撃を受けている。いずれ……私が支配するこのカントーで勝手な真似は許さん!」

「……はぁ……はぁ」

「そして何よりも許せないのは我が宿敵レッドに敗北を与えたこと。奴を倒すのはこの私サカキだ! 故に私以外に負けることは誰であっても許さん!」

 

 

 何なんだこの人は。

 サカキという男がイエローにとってはまるで理解できなかった。生まれて初めて出会ったタイプの人間だ。ロケット団という悪の組織のボスだというのに、これまでに一人の人間に執着するその執念。自分とはまったく違う所にいる人間だ。

 ……そうか。この人もまた一人のポケモントレーナーなんだ。

 だから、レッドさんにここまで拘るんだ。

 

 

「くくっ。やつも言っていたぞ……お前に勝ったつもりはないとな……」

「だろうな……それでは死ね」

「それはどうかな⁉」

「なに──!」

 

 突如サカキの胸が光り輝くと、それは服を破って現れた。

 

 

「あれは……トレーナーバッジ⁉」

「そうだ!」

「ちっ!」

 

 

 下から現れたカイリューによってワタルは糸から脱出し、サカキもマグマの下に落ちる前に崖へと飛び移る。

 

 

「サカキ、ジムリーダーであるお前なら知っているだろう。集めるだけでポケモンの能力を高める……。実は俺も7つまで集めた。そして、それらをこの島の7つの石柱に収めているんだよ。集めたバッジが共鳴し力を発揮できるようにな!」

「──まさか!」

「そう、そのまさかだ! この島全体が巨大なエネルギー増幅器! そして最後のジムバッジは島の中央であるここ。それはお前が持ってきてくれたのさ!」

「ちっ。追い詰めていたと思えば、私を誘い込んでいたというわけか」

「その通り! そして8つ揃って発動したエネルギーは天へと昇る!」

 

 

 ワタルが天を指す方に目を向けた。そこには巨大な存在がそのエネルギーを吸っていた。

 

 

「あれこそが、俺が探し求めていた切り札! 奴がこの島に訪れてエネルギーを吸うことを知った俺はこれを待っていた! この島に現れる幻の存在をこのワタルのものにする!」

「まったく。とんでもない仕掛けを用意していたものだ……だが」

「お、おじさん⁉」

 

 

 突然サカキは背を向けてこの場から離れると、イエローだけが取り残された。

 

 

「ハハハ! 臆したかサカキ⁉ だがお前には感謝しているよ! お前を探すためにかなりの労力と時間を費やしたからな! そしてイエロー! お前はよくやったよ。だが俺の勝ちだ!」

「なに⁉」

「わからないか? もう俺を止める者は誰もいない。そして俺があのポケモンを手に入れ、カントーをいや世界を……瞬時に人間どもから解放できる!」

「あ、あのポケモンを使って……! やめろ! あなたは今以上の破壊をするっていうんですか!!」

 

 

 しかしその問いにワタルは応えない。カイリューからプテラに乗り移り上にいるポケモンへと向かう。残されたカイリューは自分を行かせまいと立ちはだかる。だがすぐに倒れた。

 

 

「お、おい⁉」

 

 

 倒れたカイリューに慌てて近寄る。どうやらワタルを助けるために長時間溶岩の中で待っていたのが原因らしかった。だがそれでもカイリューはワタルを追おうと立ち上がる。

 それを止めようとするイエローだが、そのままカイリューによって空へ飛翔した。その中でカイリューの心を読んだ。

 カイリューを始めとしたポケモン達はワタルを信じている。ポケモンのために行動する彼に忠誠を誓っていた。さらに奥深くにある記憶が見えた。幼い頃、ミニリュウの時に汚染物質に苦しむ自分を抱きながら涙を流すワタル。

 そう分かっていた。ワタルの目的はどうであれ、彼もまたポケモンのために動いている。

 けど、だけど。

 

 

「わかるよ。きみの、きみたちの想いは痛い程わかる。だけど……だけど! 人を、町をすべて破壊するなんて間違っている!」

 

 

 人とポケモンは共存できる。

 だってそうだろう? 

 昔も今も人とポケモンは支え合って生きてきた。一緒に笑って、時には一緒に泣いたり。モンスターボールなんて枷がなくたって、人とポケモンは通じ合える。

 ボクはその人を知ってる。あの人は凶暴なポケモンだって優しく受け止めていた。戦うことなく、ポケモンと心を通わせていた。だから僕は、人とポケモンは共に共存できるって信じてる。

 そうだよね、レッドさん。

 だから──

 

 

「それを証明するための力が、ボクは……力がほしい────!!」

「今更何しにきた!!」

 

 

 幻のポケモンの頭上にいるワタルに追いつき、再び対峙した。こちらに気づくとプテラがこちらに口を向ける。

 

 

 ──プテラのはかいこうせん! 

 ──……トランセルのかたくなる! 

 

 

「なに⁉」

 

 

 爆煙が晴れる。そこにはワタルのプテラのはかいこうせんを耐えた()()()()()がいた

 

 

「ばかな、トランセル……⁉」

「今までずっと図鑑のキャンセルボタンを押してきた。みんなの姿が変わってしまうのが嫌だったから」

 

 

 ラッちゃんがコラッタからラッタに進化した時、ボクは泣いた。悲しいという気持ちはたしかにあった。けど、本当は今まで一緒にたラッちゃんの姿が変わったのがショックだったのかもしれない。それはボクの甘さで、いつまでも変わらずに傍にいて欲しいという優しさの押し付けでもあった。

 だけど、それもこれで終わりにする。

 

 

「だから、もう止まらない! 絶対にワタルを止めるために、ボクは前へと進む! だから──みんなを守るための力をボクに!!」

 

 

 そしてピカチュウとラッタ以外のイエローのポケモン達が進化する。ドードーがドードリオに。オムナイトがオムスターに。ゴローンがゴローニャに。そしてトランセルがバタフリーとなりイエローの翼となる。

 

 

「二段階連続進化、だと……⁉」

「ワタル────!!」

「だからと言って、ここまで来て邪魔はさせん! ギャラドス! ハクリュー!」

「二人とも頼む!」

 

 

 ──ギャラドスのはかいこうせん! 

 ──オムスターのれいとうビーム! 

 ──ハクリューのたたきつける! 

 ──ゴローニャのまるくなる! 

 それぞれの技を受け止めるイエローのポケモン達。

 

 

「人間はポケモンの敵! やつらを排除するために、こいつを手に入れる!」

「違う! ポケモンは人間の味方だ! ボクはみんなの世界を守る! そしてこの子は誰の物でもない!」

 

 

 ワタルとの壮絶な攻防を繰り広げ中、イエローの右腕のキャタピーが作ったギプスの糸がゆっくりとほどけ、地上へと垂れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上──

 ナツメとブルーに抱えられながら洞窟を進んでいると、グリーンとリーフそしてマサキと合流したレッド。

 

 

「れ、レッド! ほんまにレッドなんか⁉」

「おう……かなりやばいけどな……よぉ、グリーン」

「ふっ。お前のことだ。生きていると思っていたさ」

「もっと心配しろよ……。で、リーフ……お前のその恰好……」

「どう? カッコいいでしょ!」

 

 

 先に心配してくれないのかと思いつつ彼女を見る。自分とは違った本格的な衣装に嫉妬しつつ、目はリーフのある一点で止まった。

 

 

「……そんなぴっちぴっちの服着たって、虚しくなるだけだぞ?」

「ふん!」

 

 

 ──リーフのはたく! レッドに大ダメージ! 

 ──レッドの不屈! なんとか耐えた! 

 

 

「お、お前……こっちはけが人だぞ……」

「これでもちゃんと成長してるの!」

『ウソいうな』

 

 

 何故かグリーンとマサキの二人以外にツッコまれた。

 

 

「これでもほんの少しだけ大きくなってるの! ……けど、本当にお帰り。レッド」

「ああ……!」

「それとシバから伝言よ。またどこかで拳を交えようって」

「たく。あのバカ……そんな回りくどいことしなくたって……そう言えばキクコ、あのクソババァはどこだ!  そもそもあいつがシバを……」

「問題ない。オレとキョウが倒した。もう表に出てくることはないさ」

「ちっ。あとはワタルだけか……」

「そう言えば、キョウとマチスはどうした?」

 

 

 鬱憤を晴らす相手があとワタルだけにイラついていると、隣にいるナツメがグリーンとリーフに聞いた。

 

 

「マチスはどっかに行ったわ」

「キョウは崩落に巻き込まれたので行方はわからない。だが、ヤツの事だ。死んではいないだろう」

「え、なに。あの二人とも手を組んだのか?」

「違うのよレッド。あの二人がどーしても来たいっていうから仕方がなくてね……?」

「はいはい。レッドの前だからってすぐに彼女面しないのー」

「けっ」

 

 

 リーフが釘を刺す中、事あるごとにブルーは気に入らない顔をしていた。一体何があったというのか。しかし彼女はすぐに切り替えて言ってきた。

 

 

「とりあえず今は外に出ましょう。まだ戦いは終わってないわ」

 

 

 その後外へ繋がる出口を見つけ外に出る。少し歩いた先にはカツラが倒れていた。こちらが近るよると、意識を取り戻して視界にレッドが入ったのかすぐに起き上がった。

 

 

「レッド! やはり生きていたんだな!」

「カツラも……かなり無茶したな」

「……ああ」

 

 

 彼の右腕のことを知っているのは自分のみ。ナツメは知っているかもしれないが詳しい事情は知らないだろう。ここにはいないが、恐らくミュウツーと共に戦ったようだ。

 すると空から一筋の糸が垂れてきた。糸を辿るように頭上を見上げた。

 

 

「何あれ? それにあそこにいるのはワタルと……」

「……イエローね!」

「の、ようだな」

「イエロー? 誰それ?」

 

 

 思わずたずねた後ですぐに気づいた。それはたしかピカチュウ版の主人公の名前の一つだったような気がする。

 つまりは今はピカチュウ版ってことになるのか? にしては物騒すぎる展開だ。

 

 

「ああ。レッドは知らんやったな。というかブルー。お前が説明しておらんのか?」

「おほほ。ちょっと忙しくてね」

「……」

 

 

 ブルーがそういうとナツメが横を向いた。みんなと合流する直前まで何か言うたびに口論していたのだ。

 

 

「まあ簡単に説明すると、今日までお前のピカの親になってた子や」

「そうか。ピカのやつ上手く逃げ延びてくれたか……ていうか上のあのポケモンって……」

「きっとアレがワタルが狙っていたポケモンよ」

「となれば、ワタルと戦っているイエローに」

「オレ達のエネルギーを送るんだ!」

 

 

 リザードン、フシギバナ、カメックス。それぞれのエースを出すと、レッドも自分の御三家達をボールから出す。かえんほうしゃ、ソーラービーム、ハイドロポンプ。そしてさり気無くレッドのポケモン達は究極技を放つ。

 6体から放たれたエネルギーが糸を通してイエローへと送られる中、ナツメに頼んだ。

 

 

「ナツメ。力を解いてくれ」

「え! でもそんなことしたらレッドがまた……」

「いいから! ワタルの野郎だけでも、この落とし前を付けさせてやる……!」

「……わかったわ。けど、絶対に帰ってきてね?」

「あの世から帰ってきたレッドさんを信じろ」

 

 

 心配するナツメの頭を撫でながら唇を重ねるとすぐに離す。何故か後ろから二つほどとんでもない殺気を感じたが、気づかない振りをする。

 同時にナツメが抑えていた力を解放する。蛇口を一気に捻った時に出る水のように、全身に力が湧き上がる。下手をすれば体が耐え切れず爆発することだろう。体はまだ完治しておらず、先程の戦いでまだガタが来ている。だがあそこ行かなければならない。

 

 

(なんでルギアがあそこにいるのかは、後で本人に聞けばいいことだ)

 

 

 あとはイメージだ。今までと同じように、ただ似たような力が二つ増えただけだ。イメージしろ。自分が求める戦いの姿を。

 

 

「──!」

 

 

 ──レッドのフォルムチェンジ! レッドはバーニングスタイルに変化した! 

 体全体に赤いオーラを纏いながら背中に炎の翼を広げその目は紅くなる。

 飛び方はすでにわかっている。あとは気合と根性のみ。

 

 

「うおおおおおお!!」

 

 

 そしてレッドは空へ向かって深紅の翼を羽ばたかせた。それを見送りながらリーフが悔しそうに言う。

 

 

「あーあ。またレッドのやつ強くなっちゃったよぉ」

「今度は空飛んでるわよあいつ」

「ふん。シジマ師匠の下で鍛えたと聞いている。それぐらいのことは平気でやるさ」

「なんや。わいの感覚がおかしいんか?」

「まあレッドだから問題はないだろう」

 

 

 マサラ出身の三人は特にレッドの姿に驚くこともなく、ただ平然としながら当たり前のよう言う。ただ普通の感性の持ち主であるマサキはまだ慣れていないのか、目の前の状況を受け入れていないようだ。カツラはすでに見慣れた光景なのでグリーン達と同じ思考をしている。

 そして彼の彼女であるナツメは──

 

 

「見て見てあれ私の彼氏なの! すごいでしょ!!」

「はいはいすごいねーわたしの幼馴染すごいねー」

「あたしのでもあるけどねー。けっ!」

 

 

 緊迫した状況なのに惚気ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「どうした⁉ 守りに入ってばかりでは勝てんぞ!」

「勝つんじゃない! ボクはあなたを止めるんだ! ピカ!」

「ピッ!」

「こざかしい!」

 

 

 飛びかかろうとしたピカチュウがプテラによって弾き飛ばされるのをうまく受け止める。するとピカチュウから記憶が流れこんでくるのを感じる。

 これは、今まで見ることができなかったピカの失われた記憶……。

 四天王との戦い。そしてそれ以前より前。ジムバッジが揃って発生したエネルギーによって力を得たポケモンと戦っている。巨大なエネルギーには、さらにそれを上回るエネルギーで吹き飛ばす光景が見える。

 つまり力には力をぶつけること。

 この島からあふれ出るエネルギーを吹き飛ばせばワタルの野望も、このポケモンも解放される。

 そしてそのためのエネルギーが伝わってくる。グリーンさん、リーフさん、ブルーさん……そしてレッドさん。

 見ててください。ボクが、ボクが守って見せます。

 だからトキワの森よ、ボクに……みんなを守る力を──

 

 

「ピカ!」

「ピ!」

「100まんボルトオオオ────!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、ここまでか──!」

「──まだだぁあああ!」

 

 

 10まんボルトを超えた100まんボルトを放ったイエローが気を失い地上へ落下しようとしたところ受け止める。

 目の前にいるワタルは今にもこのまま膨大なエネルギーとエネルギーがぶつかり合い爆発する一歩手前にいた。

 このまま放っておけば勝手に消えるだろう。だが、そうはさせない。

 

 

「あの時の借りを返すぞワタル!!」

「れ、レッドぉおおお!?」

「ルギア! エアロブラスト!」

「きさ──―」

 

 

 ──ルギアのエアロブラスト! 

 吹き飛ばされたエネルギーではなく、今まで吸っていたエネルギーを含んだエアロブラストが放たれ、ワタルはその光に飲み込まれた。そしてそれはカントー中へと光が広がり、100まんボルトによって吹き飛ばされた光もスオウ島からカントーへと向かう。

 

 

「これが人とポケモンの絆だ、ワタル……まあ、死んじゃいねぇだろ。死ぬほど痛いだろうが」

『お前もえげつないな』

 

 

 何処かへ消え去ったワタルに少しだけ心配した。一応原作キャラだし、たぶん死なないだろう。四天王だから、たぶん。

 そのあと背後にいるルギアに振り返る。

 

 

「当然の報いだ。こっちは一度あの世で閻魔様に会ってきたんだからな」

『えぇ……』

「ところでよ。お前がカントーに寄る島ってここだったんだな」

『うむ。年に数回ほど、火山のエネルギーをもらっていたのだ。だが、今回がこうなるとは思わなかった』

「で、美味いのか? バッジが生み出したエネルギーって」

『美味であった。だが……食べ過ぎはよくないな。途中で気持ち悪くなって、そこの()()とお前のおかげで吐き出せた』

「あ、ああ。じゃあまたな。ジョウトへ行ったらまた顔を出すよ」

『その時は歓迎しよう。さらばだ、レッド』

 

 

 ルギアは西へ……ジョウトへと飛び去っていくの見送り、カントー本土へ視線を向ける。ちょうど太陽が昇り、拡散したエネルギーの残留粒子がきらきらと光り輝く。

 

 

「カントーの夜明けだ……お疲れさんイエロー」

 

 

 

 

 

 

 

 スオウ島の麓でサカキは島の上空を見上げ、決着がついたことを確認した。

 爆発したエネルギーが拡散し、この荒れ果てた島に緑が生き返ったのを感じていた。芽が出たと思ったら次には花が咲く。それだけのエネルギーが含まれているのだろう。

 

 

「所詮人が手に入れるには大きすぎる力だった、ということか。ふっ、それを使いこなす人間もいるがな」

 

 

 我ながらアイツを思い出し笑ってしまう。ここにもう用はない。この場から離れようとした時、背後から人の気配がして振り返る。そこにはマチスと……ナツメがいた。

 

 

「待ってくださいボス!」

「マチス。何のようだ?」

「何って、ボスと再会するためにこの二年間組織復活の準備をしてきたんですぜ⁉ 四天王もいなくなった今がチャンス。再び暴れまわりましょうぜ!」

「マチス、それと顔を見せんキョウにも言っておけ。組織復活の準備に子供(がき)の力を借りて四天王を倒すことか? ああ!!」

「ぼ、ボス……」

「私はまだ修行の旅の途中だ。再び悪事を執行するため力を身につけるためのな。お前は自分のジムでも守ってればいいだろうさ」

 

 

 そうだとも。今回はたまたま力を貸してやったにすぎない。私が支配するカントーで勝手に暴れまわった四天王を倒すため。そして宿敵レッドが関わっていたからに過ぎない。助けるのは今回が最初で最後だ。二度とそのようなことはないだろう。

 私はまだ弱い。まだまだあの男に勝つには程遠い。

 

 

「それとナツメ。お前は何のようだ?」

 

 

 すでにナツメはロケット団ではない。それが何故マチスといるのか、些か疑問だった。

 そんな彼女から驚きの言葉が出た。

 

 

「一応……ちゃんと言った方がいいと思ったからだ。私はロケット団を抜ける。私は……私は! レッドと共に生きる。だから……ケジメをつけにきた」

「ふん勝手にするがいいさ。だが私はいずれレッドを殺す男だぞ。いいのか?」

「レッドは負けない。それが答えです」

「くくく。そうだとも、そうではなくては戦い甲斐がない!」

 

 

 再び空を見上げる。あの幻のポケモンが西へと飛び立つのが見えた。

 イエローが最後に放った技『100まんボルト』。簡単に計算すれば10まんボルトの十倍。はたして、同じことをできる人間がいるだろうか。

 いや、いる。

 それが私の宿敵。倒すべき男。

 

 

「また会おう。レッド」

 

 

 私はアイツが立つ場所と同じところに立たなければならない。そのために強くなるのだ。

 

 

 

 

 

 

 何処かで波の音が聞こえる。それはとても優しい音で、心地が良かった。同時に何だか暖かいのだ。まるで誰かに抱きしめられているかのような、そう人の温もりだ。鼻で息を吸うと潮の香がして、まるで波で出来たゆりかごの上にいるような感じだ。

 だけど目を開けたくないのに、どうしてか自然と目が開いてしまう。

 目を開けたその先にはピカと……レッドさんがいた。

 

 

「よっ。目が覚めたか」

「ん……はい……レッドしゃん……ん⁉ レッドさん⁉」

「おう。レッドさんだ」

 

 

 一瞬にして意識が覚醒する。そして自分の置かれている状況をすぐに把握した。どうやらゆりかごだと思っていたそれはレッドさんの体だった。そして彼の後ろにナツメさんが首に手を回して抱き着いていて、自分の膝の上にピカがいた。

 どうやらラプラスの背に乗って海を渡っているらしい。隣にはゴルダックの背に乗ったグリーンさん、ギャラドスに乗ったリーフさんとブルーさんにカツラさんとマサキさんもいた。

 

 

「そ、そうだ! ワタルは⁉ あのポケモンは⁉」

「ワタルならどっかへ吹っ飛んだ」

「ふ、吹っ飛んだ⁉」

「まあ死んでないだろうさ。伊達に四天王じゃないだろうしな。それとアイツなら西へ行ったよ」

 

 

 アイツって、なんだかとても親しい間柄のように言うなと思ったら、ブルーさんがポケギアを片手に言ってきた。

 

 

「いまオーキド博士と連絡がついたわ。カントーにいた四天王のポケモン達はあの光を浴びて大人しくなったらしいわ!」

「しかし不思議なのはイエローくんのポケモン達だ。いくら図鑑のキャンセル機能を使ったとはいえ、最後には全員が進化した。特に通信交換でしか進化しないゴローニャまでいる」

「それだけあの力が凄かったってことじゃないの?」

「リーフの言う通りやな。あの光で島に自然が戻ったちゅうことは、それだけジムバッジのエネルギーが凄かったってことやろ」

「あ、そうだ図鑑!」

 

 

 みんなが戦いのあとに起こったことを話している中、図鑑という言葉で思い出した。ポーチから慌ててポケモン図鑑をレッドに渡す。ナナミさんとの約束をようやく果たすことができる。

 

 

「レッドさん。これレッドさんのポケモン図鑑です。ナナミさんから頼まれて借りてたんですけど、レッドさんに会ったら渡してくれって」

「ああナナミさんが……ぐぇ、首を絞めるなよナツメ……」

「いま邪な想像したでしょ」

「してないしてない。にしても図鑑ね……」

 

 

 手に持ってポケモン図鑑を見回すと、再度自分の手に戻ってきた。

 

 

「お前にやるよイエロー」

「えーーーー!?」

「レッド。おじいちゃんがまた怒鳴り散らすから素直に受け取っておけ」

「いいんだよ。あとで俺からも言っておくし。それに……」

「それに? なんなんですか?」

「俺には必要ないしな。なんだっけ? 図鑑所有者だっけ? ガラじゃないからいいよ。それに頑張ったご褒美だ。よくやったなイエロー」

「えへへ~」

 

 

 麦わら帽子越しに頭を撫でてくれる。撫でてもらったのは二年ぶりで思わず顔がにやけてしまう。

 

 

「むぅ~」

「はいはい拗ねないの」

「じ~」

「ふーん」

「お前らも何なんだよ……」

 

 

 撫でられながら目を向けるとナツメさんは頬を膨らませ、リーフさんは目を細めて、ブルーさんは手に顎を乗せながら見てくる。

 すると膝の上にいたピカチュウがレッドのお腹を叩いた。スオウ島に来た時から上半身が裸だっため服を引っ張れないからだ。

 

 

「ああピカもよくやってくれたな。それと、一人だけにしてごめんな」

「ピカピぃ~」

「そう言えばイエローが今の親なんだったな……どうする? このままイエローの子になるか?」

「ピ……」

 

 

 レッドとイエローの顔を見ては悩ましい顔をしているピカチュウ。

 

 

「ま、それでもいいんだぜ? 俺のピカチュウであることに変わりはないしな」

「ピカ!」

「いいんですかレッドさん?」

「ん? 別にいいさ。チョコパイを食べに行く感覚で行ったり来たりすれば」

「ちょ、ちょこぱい?」

「あ、知らないか。まああれだ。ガサツな男より優しくて()()()()の方がいいだろうなってこと」

「え……え?」

「ピカピ~」

「な~」

 

 

 レッドさんとピカがニヤニヤして互いの顔を見ている。も、もしかして気づいている? そ、そんな訳ないよね? 

 疑心暗鬼になって思わず麦わら帽子を深くかぶるイエローは手に持ったままでいたポケモン図鑑のボタンをうっかり押してしまう。

 ピーと音が鳴ったので開けて画面を覗いた。

 

 ──『レッド』 

 ──種族/人間

 ──レベル40/?0

 

 思わず目を擦った。けど次に見た時は画面が消えていた。というより電源が落ちてしまったようだ。ボタンを押してもうんともすんとも言わない。思わず首をひねる。

 ま、いっかとイエローは図鑑をしまってそのまま彼の胸に背中を預けて瞼を閉じる。聞こえてくる痴話喧嘩を聞きながら、イエローは再び眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 

 第三章 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スオウ島での戦いから一夜明け、四天王の一人であるカンナはカントー地方にある隠れ家の前までなんとか戻ることが出来ていた。

 目が覚めた時には戦いは終わっていた。さらにワタルやキクコとも連絡がつかなくなり、氷のポケモン軍団の指揮権も気づけばなくなっていた。残っているのは手持ちのポケモンのみ。

 何度も考えたことだが、私達は負けたのだと自分に言い聞かせる。

 幼い頃から人間達の身勝手な行いによって傷つくポケモン達をみた。だからこそキクコ様に付いていき、ワタルの思想に協力した。

 けど、たどり着いたところがこれだ。

 もう四天王の肩書など意味がなく、本土では犯罪者として追われている可能性もある。これ以上は表舞台に出ることもできない。

 

 

「もう……いいわよね。故郷に帰ろうかしら……」

 

 

 すべてを失った。ならばもう自分を縛り付けるものも、求めるものもない。兎に角、今は休んでそれから改めて考えよう。持っていた鍵をドアノブにさして回す。同時に聞こえるはずのない声が中から聞こえた。

 

 

「あら。お帰りカンナ」

「──ナツメ⁉ なんでここが⁉」

「私はエスパーよ? あなたに糸を付けたのよ。そこからあなたの隠れ家を見つけたわけ」

「な、何故今更。私になんのようだ!」

「用があるのは私もだけど、本命は……」

「!」

 

 後ろに人の気配。だが振り向けない。足が震えて立っているのが不思議なくらいだった。そして聞きたくない声が耳に届く。

 

 

「よお、カンナ。会いたかったぜ」

「れ、レッド……!」

「約束を果たしに来たぞ」

「や、約束? そんなの、私はした覚えが……ない……」

「まあこっちが一方的にしたからな。それに四天王とかはもうどうでもいいんだよ。個人的に用というか鬱憤を晴らしたいのはお前個人だし。氷漬けにされて、あの世にまで逝って許すわけないじゃん」

 

 

 それを聞いて唾を飲み込む。覚えがないというのは嘘だ。はっきりと覚えている。

 

 

「あの時……何度も犯してやるって言ったろ? 本当はナツメには連れてきてもらうだけだったんだけど、どうしてもって言うから」

「私もしてみたかったのよね~調教ってやつ」

「うーん、俺が手を出す暇がないかもなこりゃあ。ナツメってばすげーキレてるもん」

「お、お願い……なんでもするから……助けて……」

「ん?」

「今」

「何でもするって言ったよね?」

「ひっ──!」

 

 

 その瞬間カンナの意識は途切れた。覚えているのは何度も意識を失っては起こされるたびに快楽と苦痛と絶頂を味わっていたという記憶のみ。

 そして目覚めてから数日後。私は仕えるべき主達の下にいた。

 

 

「あ、おはようございます! 奥様!」

 

 

 

 

 

 

 第4章へ続く

 

 

 




一応補足ですけどイエロー目線でのレッドの評価なのでかなり美化してますからね?

レッドくんはこの章で2回目の強化をしました。レベルが40なのは四天王戦と死んで生き返ったボーナスとファイヤーとフリーザーの力を得たボーナスです。
うーんなんという温情なのでしょうか。
ちなみに第三章の開始時点でレベルは31。二年頑張って1レベルしか上がってません。その分技量は上がりましたけどね。


あと最後に。
私はメイド服はロング派です。

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