その4「メイド」
四天王事件と非公開で呼ばれている事件から少し経ち。各都市は四天王軍団によって破壊された町の復興が行わていた。ここヤマブキシティは他の都市と違って被害は軽微の方であった。まず街を囲む壁に、ジムリーダーがこの時のために置いておいたバリヤードのバリアによって守られていたからだ。他にもヤマブキジムに所属しているサイキッカー達の働きがあったのは言うまでもない。
そんな影の功労者でもあるジムリーダーのナツメは、自宅でのんびりとお隣のジムリーダーであるエリカとお茶をしていた。
二人の関係はかつては敵同士であったが、いまでは知人以上友達未満といったところであろうか。それでもこうして自宅に訪れれば家にあげさせるあたり、ナツメも丸くなったのだろう。
「で。そっちはどうなんだ?」
「そうですわね。街というより私のお屋敷とジムの方の被害が大きいですわ。四天王のポケモン達は我々が持つジムバッジを探していたようですし」
「本当は四天王が持っていない8つ目を探していたらしいがな」
「ええ。こちらとしてはいい迷惑ですわ。あとカスミから聞きましたけど、ハナダは比較的被害は少ないようです」
「どうしてだ?」
「なんでもお姉様とそのポケモンが防衛に参加して、軍団を千切っては投げるという一騎当千ぶりで。あとハナダの洞窟のポケモン達も参加したとかないとか」
「ふ、ふん! そんなことで一々驚かないからな!」
「手……震えてますわよ? あら、お茶が終わってしまいました」
「──エリカ様。おかわりをどうぞ」
「あら。どうも」
空いた茶碗に新しく緑茶が使用人によって注がれる。
「それと今回の事件で協会も相当焦っているようですわ。四天王の存在自体が世間には公になっていないので、上手く情報操作しておりますし。ですが、裁くべきその四天王が誰一人していないのが問題」
「──!」
「どうかなさいました?」
「い、いえ! あ、手作りの和菓子をどうぞ!」
「これはお上手ですわね。はむ……まあ美味しい。で、話を戻しますが。一人も身柄を確保できなかったのかと、理事長から再度通達がありまして」
「何度も言わせるな。全員行方不明と言っている。レッド曰く、シバはキクコに操られていたからと言ってはいたがな」
「はむ……となると、このまま適当に黒幕をでっち上げることになりそうですわね~。知っているのは我々ジムリーダーと、四天王と戦った者達のみ」
「そうなるな」
「ところで、レッドはどちらに? 私、レッドに会うのが目的でしたの」
「よくまあ堂々と言うものだ」
「レッド様は現在シロガネ山で治療兼鍛錬中でございます、エリカ様」
嫌な顔をして答えない代わりに使用人が答えると、ナツメがギロリと目を使用人に向けた。彼女はびくびくと震え、「ごめんなさい! ごめんなさい!」と急須を持ち上げながら頭を下げている。
「シロガネ山……たしか、カントーとジョウトの間にある山でしたわね。どうしてそこに?」
「私もレッドも四天王との戦いで後遺症ができてな。その治療のためにシロガネ山にある秘湯に毎日通っているんだ。私は左手首だけだが、レッドは全身。本当は一緒にいたいがジムの経営もあって朝に送り届けて、夕方に迎えに行く生活をしている」
「あら~いいですわね。今度私もご一緒しても?」
「却下だ」
「あら残念。ですが、シロガネ山に住むポケモン達は凶暴だと聞いていますが、レッドは平気なのですか? まだ本調子ではないはずですが」
「何でも、事件の最中あそこで身を隠している時に仲良くなったと言っていたから平気だと思うぞ? 現に温泉に入っていると、野生のポケモン達も一緒に入ってくるしな」
「本当、レッドはポケモンに好かれますわね。人間のご友人は見たことがありませんが」
「マサキがいるだろう?」
「他には? 知っている限りグリーンをはじめとした幼馴染ぐらいだと思っておりますが」
「……言ってやるな」
ナツメも分かっているのか、横を向きながら言う。
「レッドも色々と苦労してますわね。ところで……最初に来た時に聞こうと思っていたのですけど」
「む。なんだ藪から棒に」
「そこのメイド。四天王のカンナでは?」
「ひっ! ち、違いますぅ! 私はただのメイド、そうメイドでございます! けして、氷使いなどでは……!」
「いや、ばっちり自分で正体明かしてますわよね? 協会から頂いた資料に載ってる写真とそっくりです」
「お、奥様ぁ~」
膝をついて主であるナツメに助けを求めるメイドもとい元四天王のカンナ。
「なによりも……なんで奥様なんですの⁉ まだ入籍していませんわよね⁉」
「ふ。まずは外堀から埋めようと思ってな。こうすれば自然と私はレッドの奥さん……ぬへへ……我ながら完璧だ」
「顔が緩みすぎてますわよ……ん? でもカンナはレッドのことそのまま様付けでしたわね……あらあらあら~これはどういうことですの? お、く、さ、ま」
「ぐぬぬ」
「あ、それはですね。最初は旦那様と呼ぼうしたら、なんかヤダからやめろと言われたので。だからレッド様と……」
「カンナーーー!!」
「ひぃーーーー!! ごめんなさい!! ごめんなさい!!」
「となると、まだ私にもチャンスが……」
「あるわけないでしょ⁉」
「あります!」
「ない!」
争いは同じレベルの者同士でしか発生しない。そんな言葉を体現するかのようにナツメとエリカが言い争っていると、いつの間にか立ち直って部屋の出入りに立って言った。
「奥様。そろそろレッド様をお迎えにいくお時間なので、お先に失礼しますね」
「あ、カンナ! あなたねぇ⁉」
「おほほ。使用人に先を越されてますですよ奥様ー……あら、テレポートですか。便利ですわねそれ」
カンナは彼女のフーディンでテレポートするが、ナツメは単身でテレポートしてシロガネ山に向かう。残されたエリカは残ったお茶を飲み干してタマムシへ帰るのであった。
その5「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす」
シロガネ山。そこは認められた者しか立ち入ることが許されない場所である。何故ならここに生息するポケモン達は人が踏み入っていないためかなり自然に近い形で生存競争を繰り返していたからである。
そのため普段見られないポケモンも生息していることが確認されており、それを狙って密猟者といった者達が訪れるが戻ってきた人間の方が少ない場所でもある。
特に頂上に向けて登れば登るほど道は険しくポケモンは強くなっている。それも山頂となれば、その強さは野生にしてジムリーダーが持つポケモン以上の実力を持ったポケモンもいる。
そんなシロガネ山頂上にて、赤い帽子を被り半袖にジーパンそして裸足という格好で平然としているレッドが、震える体を抱きしめて今にも凍え死にそうなリーフに言う。
「じゃあ頑張れ」
「何も説明もせず頑張れってなによ⁉ ていうかレッドは寒くないの⁉」
「いやー俺ってば自家暖房あるし」
ファイヤーから譲り受けた『炎の玉』の力で体を熱で守ることによって寒さを凌ぐ。最初は無理であったがいまではこういう細かい力の調整ができるようになりつつあった。
そんな自分に比べてリーフは、スオウ島で見た戦闘服を纏っている。胸は成長しているというが、あまり変化が見られない。どちらかと言えばお尻がちょっと大きくなったように見えるのはあえて言うまい。
「ズルいわよレッド……へっくし! さぶい……」
「そもそもお前が鍛えてくれって言うから、ここに連れてきたんだぞ?」
「だってぇ……レッドってば気づいたらもっと強くなってるし、今じゃ空も飛べるし」
「普通に飛ぶなら多分30分はいけるんじゃねえかな」
「ズルい! わたしも空を飛びたい!」
「俺があげたプテラがあるでしょうが。そもそもリーフは基礎がなってないんだよ。まあ、俺がはたくだけ練習しろって言ったのが悪いんだけど……」
「えい」
──リーフのエアスラッシュ!
そう言って右手を横に振ると目の前で吹雪いていた空間が一瞬だけ止んだ。レッドは特に驚きもせずただ注意だけした。
「それ、絶対に人に向けるなよ? お前手加減できそうにないし」
「……」
「へんじぃ!」
「……はーい。で、どう鍛えてくれるの? やっぱ組手とか!」
やけに目をキラキラとさせているリーフ。
組手に対してどんな期待をしているのだろうか。それに今の状態で組手なんてできるわけもない。仮にできたとしても、はたくとその応用しかできないリーフなど組手にすらならない。
レッドはボールを投げるとリザードンを出した。
「え? リザードンとやるの?」
「バカめ。お前ごときがリザードンに勝てるわけないだろう」
「えー! 結構いいとこまでいけると思うんだけど……」
「前にも言ったけど、うちじゃリザードンが一番強いからな? 俺の鍛錬に付き合えるぐらいだから」
「リザァー!」
まるでリザードンはえっへん、と言ってるかのように胸というか腹を張った。
「話を戻してお前の修行だけど」
「うんうん」
「山の麓からここまで自力で登ってくること」
「……マジ?」
「本気と書いてマジ。あとポケモンは置いてけよ。自分の力だけで生き延びろ」
「あの……登ってこいから生き延びろに主旨が変わってる気がするんだけどぉ……」
「一応監督としてリザードンを付けさせるから安心しろ。ここのポケモンとはすでに話がついてるから」
「はい師匠!」
「なんだ弟子よ」
「話がついてるとはなんでありましょうか⁉」
「問答無用で襲い掛かっていいぞって言ってある。よかったなリーフ。ここに来る頃には立派なトレーナーになってるぞ」
シロガネ山にはそれぞれの縄張りがあって、そこには一体のボスがいる。そのボスである彼らに頼んでおいたのだ。まあ殺さない程度にしてくれとは言ってある。
ちなみに、この頂上の下のボスはバンギラスである。
「あんまりだぁあああ!」
「じゃ、リザードン頼むわ」
「リザァ!」
「ちゃんとご褒美ちょーーだーーーいーーーーー!!!」
リザードンに肩を掴まれながら叫ぶがだんだんと遠くなっていく。ふむん。ご褒美となると何が言いだろうか。
「あ、そうだ」
リーフから預かったポケモンの中にいたイーブイを出す。
「ブイブイ?」
「ブイブイ!」
すると外にいたレッドのイーブイが駆け寄ってくる。
どうやらリーフのイーブイはメスらしく、オスのブイはかなりアピールしているように見える。彼女も満更ではなく、ブイと体を擦り合っている。
「ブイ。いまニンフィアになれるか?」
「ブーイ」
顔を横に振って答える。どうやらスオウ島の一件以来、イーブイが現状自由に進化できるのはブースター、サンダース、シャワーズ、エーフィ、ブラッキーの5種に戻っていた。左手に嵌めているガントレットの甲を見る。輝く炎、雷、水、草の石は健在であとは砕けたまま空白になっている。
クチバ湾にあった何回使っても消えない進化の石。これらのおかげで進化する際の負担はかなり軽減されている。エーフィとブラッキーに関しては昼と夜ならそれぞれ自由に進化できるが、そうでないと体の負担が大きいらしい。それでも以前と比べれば、修行の成果もあって最初の頃よりは痛くはないとイーブイは言う。
問題はこの草の石でもリーフィアになれないことである。原因としては正規の進化を踏んでないからであると考えている。
ただニンフィアに関しては例外で進化ができる。夜に月が見えていれば、その光で進化できることがわかった。それでも夜で月が出ていることが前提であるが。以前にフェアリー技である「つぶらなひとみ」と「あまえる」を覚えさせておいたのがここに来て役に立っている。
結局あのスオウ島での戦いで進化できたのは、イーブイの怒りと島に配置されていたバッジエネルギーの効果だったのかもしれないと勝手に納得していた。
「えーとブイブイ。お前には今からブイがやる技を覚えてもらうからよろしくな」
「ブイ!」
「やる気があってよろしい。じゃあブイ、頼んだよ」
「ブイブイ!」
そのままブイ達は少し離れた場所で特訓を開始した。恐らくリーフが戻ってくる間には覚えることだろう。そしていつの日かニンフィアに進化すると思われる。
いずれリーフには自分の後を継いでもらう予定でいる。なので、フェアリータイプであるニンフィアはそこそこメタれるはずだ。まあ鋼すら認知されてない今のご時世にフェアリータイプなんて出たら環境がヤバいだろうなとは思う。なにせドラゴンタイプ相手に蹂躙できるんだから。
「一応進化した時のために手紙でも書いておくとして、あとはラッキーか」
リーフの手持ちで壁役という名のタンクであるラッキー。見た感じそろそろハピナスに進化しそうなのである。自分は勘であるのだが、これがブルーなら分かるのだろうか。
しかしいざハピナスになれば、あの「ハピで止まります」が再現されてしまうことになる。だがリーフのためにレッドはある事を計画していた。
それはオーキド博士を使って、イッシュ地方にあるアイテムを取り寄せてもらっているのだ。そのアイテムとは「しんかのきせき」である。それをハナダの洞窟にいるラッキーに持たして、そのままリーフに渡す計画をしているのだ。
なにせあのラッキーは堅い。自ら鍛えたというのもあるが、あのギガトンパンチを5発までは耐えられるし、全力で放つ攻撃にも2発までなら耐えらえるという化け物並の防御力を誇っている。
ちなみに余談であるが、うちのカビゴンはそれ以上に耐えらえるはずなのだが痛いからと言ってすぐに逃げるので実際の所はわからないでいる。
特にこの世界はゲームと違ってリアルだ。いずれ自分と同じように戦うことになれば、ハピナスとラッキーがいるだけで敵に勝てるかもしれない。そうではなくても、普通のバトルにおいてハピナスを倒してもラッキーが次に控えていると知れば……絶望するだろう。
「やっぱ俺……リーフに甘いのかなぁ」
リーフは幼馴染であるのだが、どうしても妹として見てしまうことがある。なのでつい甘やかしてしまうし、危ない目に遭ってほしくないとも思っている。だから守り重視の考えになってしまうのだろうか。
レッドは頂上から麓を見下ろす。だが今はまだ吹雪いている所為か見えない。すでにリーフが修業を開始したころだろうか。
「頑張れよリーフ。これもお前のためなんだ……」
と涙を流すふりをしながらレッドは言うと、自身の修行を再開した。
その6 「シスコン」
ブルーの弟分であるシルバーはジョウト某所にある森で姉である彼女を待っていた。いつもならポケギアで連絡を取るだけで済むのだが、突然会わせたい人がいるというのでこうして秘密の待ち合わせ場所に訪れたのだ。
しかし姉さんの会わせたい人とは一体……。
互いに育った環境のせいであまり人を信用することができず、むしろ疑う傾向にあった。自分は今でもそうだがいまの姉さんは違う。カントーに赴いて以来、電話越しであるが明るくなって優しくなったように感じる。
昔はプリンのことをニックネームで呼べなかったのに、いまではぷりりと呼べるようになった。昔のトラウマを克服したのだ。
あの頃は姉さんが守ってくれたのかこれといってトラウマはなく、むしろあの仮面の男に対しての怒りと憎しみがあるだけ。今でも一人でジョウトであの男について調べつつも、自分のルーツを探していた。分かっているのは自分の名前だけ。一体自分が何処からきて、何処で生まれたのかすら知らない。だから知っているであろうあの男を見つける。
それだけが、今を生きる理由だ。
「──なあにシケた顔をしてんのよ」
「姉さん……!」
上から声が聞こえて顔を上げると、そこには見慣れたプリンとその上に乗るブルー姉さん。そして……見知らぬ男がいた。
男はそのままブルーを脇に抱えながら落ちてきて、スッとした感じで着地する。
「……?」
おかしい。アレだけの高さから落ちればもっとこう……痛そうなものだが。しかも人間を一人抱えてだ。どう見てもおかしい。その姉さんも姉さんで特に驚いていない。
もしかしてオレがおかしいのか?
男は赤い帽子を被り「LOVE&PIECE」と書かれた半袖のシャツを着て、暑いのかズボンの裾を膝まで捲っていた。どうみても、変だった。
ただ思い当たる節が一つあった。少し前から姉さんの話に出てくる男。
そう確か名前は……レッド。
ブルーに弟のシルバーに会ってほしいと言われたレッド。何でも自分から何かアドバイスでもしてあげてほしいと言うが、実際の所はよくわかってない。
実際シルバーには会ってみたいとは思っていたので、ちょうどよかったと言えばそうなるわけで。
ただいざこうして対面してみ思ったのは……。
(目つきわるっ!)
睨むようにこちらを見てくる。ちょっと怖い。だがこの目つきには既視感があった。
そうだ、サカキだ。
レッドは金銀のリメイクであるHG・SSでのイベント思い出す。もう記憶に自信がないが、たしかそれでそんなようなイベントがあったはず。主人公のライバルがサカキの息子だと。
でもなんで? 行きつくのはそこだ。
いや待て、ブルーが言っていたはずだ。優秀な子供たちを集めていた、そう言っていたはず。となると、サカキの息子となれば将来有望は間違いなし。
ヤナギもこれを知って攫ったのだろうかと考えるが、実際に聞いてみなければわかるまい。まあ個人的にはまったく興味がない。あるのは息子ではなくサカキの方だ。
しかし出会ってしまったからには挨拶をしなければなるまい。
「えーと、初めまして。レッドです。よろしく」
「……よろしく」
その一言ですべてを悟った。これは絶対に会話が続かないとレッドは胸の内で涙を流す。なので元凶であるブルーに助けを求めた。
「ブルーは俺にどうして欲しいわけ?」
「どうって、ただあなたを紹介しにきただけ」
「……最初はアドバイスをしてとか言ってませんでしたか⁉」
「ああアレね……アレは……うそよ。本当はシルバーにあたしの彼氏よ! って感じで紹介したかっただけ」
「なんでそう混乱させることを言うんです⁉」
「だってー、あたしも外堀を埋めておこうかなって。ほら、ナツメってばアレでいい歳じゃない? やっぱり最後に勝つのは若さよ!」
「ナツメに歳の話はダメだって……ヤバいって」
「……姉さん。結局、そいつとどういう関係なんだ?」
沈黙を保っていたシルバーが凄い目つきで言ってくる。それに対して慌てて否定した。
「待てシルバーくん! 誤解だ! 俺には彼女がいる! だから違うんだ!」
「つまり彼女が居るのにブルー姉さんと遊んでるってことなのか……!」
「こ、こいつ! シスコンだ! しかもすげぇめんどくせぇ!」
「おほほ。そうなのシルバー。あたし……レッドに遊ばれてるの……しくしく」
「煽るなよこのバカ!」
「姉さんをバカと言うな!」
「もーー」
そのあと殴りかかってきたシルバーに思わずカウンターをしてしまったので、土下座で謝罪した。
なお、ブルーとは幼馴染なだけだと何度言っても信じてもらえず、最後まで誤解は解けずに別れてしまった。
それからカントーに帰宅するプリンの上にて。レッドはブルーにあることをたずねた。
「なあ、イエローの帽子についてるあの羽って」
「そ。あいつから奪った羽よ。あたしの所だともしもの時に不安だし、イエローなら自分から火種に飛び込むようなことはしないからね」
「事情は聞いたけどよぉ。あんな小さい女の子まで巻き込むとか嫌になりますよー」
「……え、イエローが女の子って気づいてたの?」
「うん」
プリンにうつ伏せで乗っているブルーが起き上がっていった。
最初は気づかなったのだが、気を失ったあの子を抱えた時に気づいた。氣の流れというか、生命エネルギーの色が男ではなく女の子というのもある。だが一番の理由はイエローのラッタだった。
「イエローのラッタな? 俺が手伝って捕まえた子なんだよ。だから分かった」
「えーつーまーんーなーいー!」
「だから彼女がいるって言ってるじゃん……」
「おほほ。でもイエロー本人はどうかしらねー」
「?」
結局ブルーの言葉の意味が分からないレッドであった。
その7 「恋愛相談」
「ピカ!」
「あはは。ピカは今日も元気だね」
スオウ島での戦いから少し経ち。トキワシティにあるイエローの家に数日に一度はピカチュウがお邪魔していた。朝方になるとレッドが送り届け、夕方には連れて帰るという感じで。
イエローからすればピカチュウとまた一緒にいられるのは嬉しく、少しだけであるが憧れのレッドと会話もすることできる。ピカチュウからしても短い間であるが、一緒に旅をしてイエローをもう一人の親だと思っている。
だからこそイエローの悩みだって簡単に分かってしまう。現に今日もレッドについて聞かれている。
「ねえピカ」
『?』
「レッドさんって、ナツメさんと付き合ってるんだよね……」
『そうだけど……』
「やっぱりボクなんかじゃダメだよね。子供だし……」
『イエローもレッドが好きなのか?』
「う、うん……やっぱりその、初恋の人だし……」
『ちなみにレッドのどこか好きなの?』
「えー!? 優しくて、やっぱりカッコいいところとか」
『なんか普通』
「あとあと! レッドさんってすごい鍛えてるんだね! あの大胸筋がその、すごく男らしくて……」
『あ、これ普通じゃねぇや……』
まさかイエローが筋肉フェチだと見抜けなかったピカチュウ。思い出せばたしかに彼の筋肉は年相応ではない。細マッチョというか、指でピザの生地を作るような感覚でカビゴンを回せるぐらいには鍛えている。力を入れれば服が破れることをたまに自慢するぐらいだ。
「ほら! スオウ島からカントーに戻る時さ、ボクレッドさんの胸で寝てたでしょ? もうね、すごく気持ちよかったんだ……。暖かくてほどよい筋肉だったよ。でねでね、耳を澄ませるとレッドさんの胸の鼓動が聞こえて……きゃっ!」
『そこ、照れる所なの?』
「ところで。ピカはレッドさんの好みの女性とか知らないの?」
『それがナツメだと思うよ』
「えーそうなの? そうは見えないんだけどなあ」
『なんでみんなナツメのことをそんな風に言うのだろうか……。まあ強いて言うなら……』
「言うなら?」
『胸の大きな人……?』
「……」
瞬間イエローの目から光が消えた。
ピカチュウもピカチュウで適当に言ったわけではなく、以前見たレッドのお宝本の女の大半が胸の大きい写真ばかりであったからで。
だが問題は目の前のイエローの様子が一変し、ぺたぺたと服の上から胸を触っていたことだった。
「ボクはこれからだし……まだ成長期だし!」
『……まあボクっ娘はポイント高いんじゃない?』
「そういえばレッドさんは、ボクのこと気づいてるの?」
「ピカァ?」
「なんで都合のいい時だけ教えてくれないのピカ!」
「ピ、ピカチュウぅ~」
「もう! ピカ!」
そのあとなんやかんやあり夕方。
チャイムがなって慌ててイエローが玄関を開ける。もちろん麦わら帽子を被って。
「あ、レッドさ……なんだ、ナツメさんですか……」
「ねえ。なんであなたにまでそんな冷たい対応されなきゃいけないの私……? ほら。ピカいくわよ」
「ピカ!」
「……」
「な、なによ。人の顔をじろじろ見て……」
「いえ。ただボクにもチャンスがあるかなって」
「……大丈夫よ。あなたもあの人を見ればそんな風な考えなんてできなくなるから」
「へ?」
ナツメはどこか遠い目をしながら言う。正確にはハナダ方面を見て。
「まあ精々頑張りなさい。お嬢さん」
「な、なにを言うんですか! ボクは……」
「私はエスパーよ。あなたの考えてることなんてお見通しなんだから。それに隠したいなら隠せばいいけどね」
「うぅ~」
「それじゃあまたね。イエローちゃん」
テレポートで消えたナツメとピカチュウを見送って麦わら帽子を外して、じっと帽子を見つめる。
「やっぱり責めるなら被らない方が……でもまだ恥ずかしいし……」
それから数日後。そこには相変わらず麦わら帽子を被ってレッドと話すイエローの姿があるのであった。
次の更新はしばらく休みます……と思ったけど、第4章まではぶっ通しで行くことにしました。
なんかキリがいいので。第4章が終わり次第しばらく休みます(多分)。
一応全8話です。
あともう一個短編があったんだけど、「ナツメ家の日常(微エロもある?)」内容はレッドとナツメとカンナの生活風景的やつとかあったけど断念した。たぶん現時点で出てるヒロインズ出す気でいたのが原因……
書きたい短編はあるんだけど、かなり先まで行かないと書けないの。キャラの都合で。
本当はイチャイチャ書きたいだけどなぁ。