願わくば。道端に転がっているイシツブテにつまずいて死んでくれないか、と。
あれからもう何年経つのだろうか。
偽りの体を見上げながらヤナギは目を閉じてすべての始まりを思い出していた。
あの日、ラ・プリスとラ・プルスを失ってから私は変わった。彼らが残した唯一の存在である子供のヒョウガ。この子を過去に戻って両親に再会させ二人を救ってやるのだと。
すべて私のトレーナーとしてのミスが招いたこと。だから許せない。自分が憎くて、憎くてたまらない。
その日から甘さを捨てた。大切な友人たちとも袂を分かち、暗闇の世界へと身を投じた。愛すべきポケモンも計画のための道具として扱った。
すべてはヒョウガのためだ。それだけが私の生きる原動力となった。
そして見つけた。ジョウト地方に伝わるときわたりポケモンであるセレビィを。古い文献をあさり、ウバメの祠を調査した。そしてある一定の周期、月の満ち欠けによって現れることがわかった。それから私はその都度セレビィを捕まえるために戦った。
だが相手は幻のポケモン。簡単に捕まえることはできなかった。そして長い年月が経ち、私の体も老い始めた。終いには車椅子がなければ満足に動けない体になってしまった。唯一信頼しているデリバードとウリムー、この二体が作り出した氷の体を使うことで戦う肉体を手に入れ今のように仮面を被るようになった。
ある日、時を渡るには二枚の羽が必要だと知った。ジョウトに伝わる二体の伝説のポケモン。ホウオウとルギアだ。私はその二枚を幸運にも手に入れた。そしてあの伝説のポケモンであるホウオウを手下に加え、彼を使って各地から優秀な子供を攫うよう命じた。攫ってきた子供はみな優秀であった。だから戦闘訓練を施し、知識も与えた。すべては約束の日に備えるための道具として。
しかし予想外だったのは二人の子供が裏切り脱走したことだ。さらには二枚の羽も奪われた。
これで計画はさらに遅れてしまった。しかし問題はまた起こった。ホウオウの僕である三犬が主人を取り戻すべく襲い掛かってきたのだ。
結果から言えばホウオウは私の手から離れてしまった。だが三犬は焼けた塔に封じることが出来た。二度と現実の世界に戻ってくることはないだろう。
それからは戦力の増強とセレビィの捕獲、さらにはホウオウとルギアの捕獲のための時間を費やした。
ただ僥倖なことに、隣のカントーでロケット団が壊滅した報せを聞いた。ロケット団の噂は知っていた。ここジョウトではあまり目立っていなかったが、カントーでは裏で手広くやっていたらしい。
さらに情報では行き場を失ったロケット団の団員が当てもなく彷徨っているという。これはいい手駒として使えると考え彼らを集めることにした。
さらに一年後。四天王と呼ばれる集団がカントー全土に攻撃をしかけたらしい。ポケモンの理想郷を創ると謳っていたようだが、私からすれば興味もわかない。
私が求めるのは時間だ。それだけが欲しい。
だが嬉しい報せもあった。チャンピオンのレッド。アレが消息を絶ったと聞いたときは内心歓喜したものだ。アレが唯一の懸念材料だった。
しかし残念なことにアレは生きていたらしい。本当に死んでいてほしかった。
四天王事件からさらに一年が経ち、私はこの年に勝負をかけることにした。
理由は4つ。
一つはセレビィを捕まえるための目途が立ったということ。それを作るためには例の羽が必要らしいのだが、その製造方法を知る人間までは掴めてない。だがそれも時間の問題であろう。
二つ目はルギアの居場所が大方掴めたこと。一年前に現れたという謎の鳥ポケモンがこちらに渡ったというが、それはルギアだと判明した。ルギアはうずまき島付近で消息を絶った。それを知りなるほど、と思った。あそこは四つの島の周りには巨大なうずしおがある。そのため滅多に船やトレーナーも寄り付かない。隠れるにはもってこいの場所だ。
三つ目はロケット団残党を含めた戦力が整ったことだ。私の組織はまだ知られていない。ならばロケット団を囮にして活動させれば、そちらに目が行くことだろう。
四つ目は近々協会からカントーとジョウトのジムリーダーによる対抗戦が行われるという話が出ていることだった。まあその原因がその私であるのだが。
私の計画に正義のジムリーダーたちは邪魔な存在である。そんな彼らが一同に集まってくれるのだ。邪魔者を一か所で処分できる。上手くいけば事がスムーズに運ぶことだろう。
ただそんな私にも一つの問題を抱えている。
それはチャンピオンのレッドの存在。二度だけ戦ったがそれだけで分かる。アレのポケモンは並外れているし、その本人も化け物だ。まさに触れてはいけない歩く火薬庫そのもの。
あれから何度もあの男の対策を考えていたが思いつかなかった。何をしても無駄、という答えしか出てこない。
だから祈ることしかできないと悟った。
願わくば。道端に転がっているイシツブテにつまずいて死んでくれないか、と。
四天王事件から一年後。
物語はジョウト地方へ移る。ワカバタウンから旅立った少年ゴールド、彼がこの時代の主役である。
言動や態度に一癖あるゴールドであるが、ジョウトで研究していたオーキド博士から新ポケモン図鑑を託され、ウツギ博士からワニノコを盗んだ少年シルバーを追うために旅を開始する。
だがしかし、語るのはカントーで一番の問題児であるレッドの物語である。
時はゴールドがシルバーと共にいかりの湖で仮面の男と対峙している頃からこの物語は始まる。
シロガネ山頂上──
標高が高く天候も安定しないシロガネ山であるが、山の頂上においては一日に数回は吹雪がやみカントーとジョウトを見渡すことができる絶景スポット。しかしその頂上に登ることができるのはほんの一握りであろう。
そしてこの頂上の開けた場所で、左腕にはガントレットにクソダサい文字Tシャツを着て、下はジーパンと裸足のスタイルが確立したレッドが右手を地に構え、左手を天に掲げている。俗にいう天地魔闘の構えであった。
「右手には炎……左手には氷……そして纏うは雷……」
右手に炎を纏い、左に氷が舞い、体に雷が駆け巡る。そしてゆっくりと腕を動かしながら脇をしめる。
「──覇ァーーーー!!」
爆発。
レッドを中心に積もっていた雪が舞いながら地面ごと抉れた。風吹いて彼の姿が露わになる。そこには黄金の闘気を纏ったレッドがいた。
「……完成だ」
──おめでとう! レッドはトリニティフォームを会得した!
あの戦いから治療と鍛錬を続けてようやくたどり着いた新たなる境地。『雷の玉』、『炎の玉』、『氷の玉』を一つにすることで可能となったこれは、放つ技はどれもが3つのタイプを複合したものになり、さらにはその属性の攻撃も無効化しエネルギーとして吸収することができる。なにせ伝説のポケモンの力、それぐらいは可能なのだ。
レッドは傍に控えていたカンナに言った。
「カンナ。適当になんか撃ってこい」
「はい! パルシェンれいとうビーム!」
主の命令とはいえ即座に対応する辺り、さすが元四天王と言うべきなのだろう。
パルシェンから放たれたれいとうビームは真っ直ぐこちらに向かってくる。だがレッドはそのまま何もしない。そしてれいとうビームがレッドの体から出ている闘気に触れると、そのまま吸収されて消えた。
「問題なしっと。ふぅーあとは慣れだな」
「お疲れ様ですレッド様」
「ああ。ありが、とっと……」
パルシェンをボールに戻してカンナがその手に自分の帽子を持って駆け寄ってくると、その手前で足に力が入らなくなり前に倒れる。が、積もった雪の上に倒れるのではなく、その前にカンナの胸に受け止められた。
あれから一年も経つが、未だに体の後遺症は残ったままだった。それでも最初に比べればかなり治ってはいるのだ。最初はちょっと歩くだけで倒れるし、手にだって力が入らなかった。左腕だけだったナツメはすでに完治しているのに対し、毎日シロガネ山の秘湯に浸かっていてまだ完治しないのは、皮肉であるが流石四天王というべきだろう。
だが今の本人にとってはそれがトラウマというか、罪の象徴らしく。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 罪を償うために腹を斬ります!」
「しなくていいから……はぁ……」
自分がこうなるたびにこれである。それも毎日だ。さすがのレッドも罪悪感のようなものが生まれてしまうほどだった。
ただ、どういうわけがこうなる事にタイミングよくカンナの胸に受け止められるのだ。ロングのメイド服を常に着るようになり、体のラインはそこまで目立たないのであるが、カンナは意外と着痩せするタイプ。なので毎回乳房という名の柔らかいクッションが受け止めてくれる。さらに謝るたびに抱きしめてくるので服越しでもその感触が伝わってくる。
ナツメより大きいとは死んでも言えない。
そんな事を考えていれば、そろそろその彼女が現れるはずだった。
「──レッドーお待たせーって! カンナ!」
「ひぃぃ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
これがいつもの日常である。足に感覚が戻ると自分で立つレッド。カンナに軽いお仕置きしてからナツメがレッドに言った。
「今日はナナミの所で定期検診よ。そのあとセキエイ高原の協会本部で会議だけど、何でジムリーダーも召集するのかしら?」
「ん? てっきり予知で知ってるかと思ったけど」
「最近見ないのよ。ま、私とレッドならどんな状況でも対応できるから平気よね!」
「まあな」
ポケモン協会の召集については恐らくジョウトで起きている事件だろう。ブルーからの連絡では、ついに仮面の男……ヤナギが動き始めたらしい。それに伴ってロケット団の残党も活動していると報告をすでに協会からも言われている。
だがレッドには今回の事件に関わる気はなかった。治療に専念したいというのもあるし、二年後に控えているホウエンのこともある。なのでもう少し経ったらホウエンへ向かう計画をしていて、そのために今日のジムリーダーの召集は今後の事を含めてかなり重要なのである。
その件についてナツメにはもう伝えてあるがまあ苦労した。泣かれるし、浮気するんだとかあれこれ言われた。大泣きしながら縋り付くナツメにカンナはどうしたいいかオロオロしながら何もできず、それから説得するのに数日を要した。
「それじゃあ行くか」
「ええ。あ、カンナは先に家に戻ってていいから」
「奥様はメイド使いが荒いです……」
以前とは比べ物にならないぐらい表情が柔らかくなったカンナに思わず口がにやける。
そして見せつけるようにナツメが腕に抱き着いて、落ち込むカンナを見ながらマサラタウンへとテレポートした。
運営からのお知らせ
レッドの性能を上方修正を行いました