おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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お姉さんポイント5点を差し上げます

 

 

 ジョウト地方にある育て屋。うずまき島での一件で海へと放り投げだされたイエローはここで育て屋を経営している老夫婦に助けられた。

 特に驚いたのはいつのまにかピカとチュチュにポケモンのタマゴができていたことだった。そこでこの育て屋のことをエンジュシティで出会ったミカンに教えてもらっていたことを思い出した。

 

 

「いやあ君らが岸に打ち上げられた時、君が持っていたメモを頼りにここへ運ばれたんじゃがな? まさかレッドくんのピカだと知って驚いたよ」

「え⁉ レッドさんを知ってるんですか⁉」

「ああ。以前ミカンと一緒にここに来たんだよ」

「へーそうなんですかーふーん……」

 

 

 突然目から光が消えるイエロー。

 

 

「おやばあさん。イエローくんの様子が変じゃ」

「ばか。そこは触らぬ神に祟りなしだよ!」

 

 

 そんな親のことなど知らずにピカとチュチュは生まれたタマゴを大事そうに抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 ポケモンリーグ会場観客席にて、ゴールドはクリスと共に身を潜めながら目的である仮面の男を探していた。

 オーキド博士からの依頼でここセキエイ高原へとやってきた理由は仮面の男がジムリーダーの誰かで、そのためにこのジムリーダー対抗戦をポケモン協会理事長共に企画した。つまりはおびき寄せるための罠であった。

 博士曰く、カントーのジムリーダーが仮面の男だという線は薄いと言われ、ジョウト地方のジムリーダーに目を光らせている。

 

 

「で、どうだクリス。怪しいやつはいそうか?」

「今のところはまだ分からないわ。でもまだ信じられない。あの中にあの仮面の男がいて、ロケット団の残党を集めて悪いことをしようとしている親玉がいるなんて」

「信じまいがこれが現実だぜクリス。あいつに何度も死ぬような目に遭わされたんだからよ」

「そうだけど……でも、わたしたちだけで本当に大丈夫かしら?」

「なんだよ、やけに弱気じゃねか。博士も言ってただろ? もしもの時は先輩達がなんとかしてくれるって」

 

 

 先輩。それは自分達と同じ図鑑を託された少年少女だとオーキド博士から教えられていた。名前をグリーン、リーフ、イエロー。

 

 

「イエロー先輩とはうずまき島ではぐれちゃってそのまま。でもここにはグリーンさんとリーフさんがいるからまだ安心してできるけど……」

「イエローってやつにオレはまだ会ってねぇけど。あと誰だっけ? もう一人いたよな? たしか……れ、れ……」

「レッドさんよ!」

「そうそうそれそれ!」

「前回優勝者だってさっき説明があったじゃない」

「聞いてなかったぜ。けどよぉ、オレその人の名前どっかで聞いたことがあるんだよなぁ……どこだっけ」

「アンタがあのレッドさんと知り合いなわけないじゃない」

「ウキ」

「ん? どうしたエーたろう」

「なんだろう。エーたろうレッドさんのこと知ってるみたいな感じよね」

「まっさかー。エーたろうが知ってるならオレだって知ってるはずだろ?」

「それもそうね」

「ウキぃ……」

 

 

 エスパーでもなくイエローのように力を持っていないゴールド達には、エイパムのエーたろうの言葉は残念ながら届くことはなかった。

 すると再び会場に大きな歓声があがる。

 

 

「おっ。どうやら1回戦が始まるようだぜ」

 

 

 

 

 

『ではこれより第一試合ニビジムタケシ対アサギジムミカンの試合を開始します!』

 

 

 レフェリーが試合開始の合図を告げると、まずタケシがボールを投げた。

 

 

「改めて自己紹介をしよう! オレはカントーニビジムのタケシ! 最初に出すポケモンは──カブトプス!」

『タケシさんの先発はカブトプス! バトルお兄さん、これは意外ですね』

『ええ。カブトプスは水と岩の複合ですからね。これは攻めるのが難しいですね』

『対してミカンさんは……おや、何かするようですよ?』

 

 

 クルミの言う通りミカンは右手を構えると。

 

 

「わたしが使うポケモンは……シャキーン! はがねタイプです!!」

「……」

『……』

『かわいい(かわいい)』

 

 

 突然の前口上に会場が静まり返ると、まさかの反応だったのかミカンは慌て始めた。

 

 

「あれ!? あれ⁉ これを言えばカッコよくて受けること間違いないってレッドさんが……!」

「あ、あいつジョウトのジムリーダーまで……」

 

 

 タケシは知っている男の名前が出ると思わず頭を抱える。しかしそれはカントー陣営のベンチもそうで。

 

 

「ちょっとナツメさん! アレは一体どういうことですの⁉」

「レッドが仕込んだんだろ? まあ、ミカンとは一応面識はあるが……」

「あら。意外と冷静ですのね」

「ふっ。私はレッドの彼女だからな!」

 

 

 再びバトルフィールド。

 ミカンは一度ボールからポケモンを出して、コンディションがいいポケモンを選ぶ。デンリュウ、レアコイル、トゲチックが二体にフォレトス。本大会は6対6だが最後の一体の姿はなかった。

 そしてミカンが選んだ一体目はデンリュウだ。

 

 

「まずは……アカリちゃん!」

『おっと。ミカンさんはデンリュウです!』

 

 

 互いのポケモンが登場しバトルが始まる。まずは力比べをするかのように距離を詰めてデンリュウを頭を突き出しながらカブトプスに突進をすると、カブトプスはその両手の鎌で受け止める。

 タケシはこの攻防でミカンの手持ちポケモンを思い出していた。デンリュウをはじめに同じ電気タイプであるレアコイル。一見電気専門かと思えばノーマルと飛行のトゲチックがいる。

 ジムリーダーはそれぞれのタイプを極めた者が多いなか、彼女の手持ちには統一性がなかった。

 だが悩んでも仕方ないのか、タケシは攻撃に出る。

 

 

「カブトプス! げんしのちから!」

 

 

 ──カブトプスのげんしのちから! 

 これによりデンリュウはフィールドの端、ミカンの傍まで吹き飛ばされる。

 

 

『この対抗戦の特別ルールは試合中何度もポケモンの交代は可能ですが、一体でも倒れれば負けという特別ルールになっています』

『いまのげんしのちからは相当の威力ですが、ギリギリデンリュウは耐えたぞ! さあミカンさんの次のポケモンはなんだ⁉』

「よく頑張ったねアカリちゃん……」

 

 

 ミカンはデンリュウを戻しながら、タケシと再び向かい合うとボールを構えた。

 

 

「どうやらわたしのポケモンに統一性がないと思っているようですね」

「むっ?」

「実際その通りです。アカリちゃんも二体のトゲチックも幼い頃から共に育ったポケモンです。そしてわたしもあなたのように最初は岩タイプを使っていたことがあります。ですがいまは違います。この子がわたしのジムを象徴するポケモンです!」

「イワーク⁉ 先程のはがねタイプという言葉が気になるが、こちらもこいつを出さなくてはなるまい!」

 

 

 同じくタケシもイワークを出して、互いにその頭に乗ると両者が睨み合う。

 

 

『ここで互いにイワークの登場です! しかしバトルお兄さん。ミカンさんのイワークは形状が少し違いますね?』

『ええ。恐らくですか稀にいる変種でしょう』

 

 

 

 バトルお兄さんの解説が行われている中、先に仕掛けたのはタケシのイワークだった。

 ──イワークのしめつける! 

 

 

「どうだ!」

「……」

「なんだその余裕は……! な、イワークの体に亀裂が⁉」

 

 

 しめつけていたはずのタケシのイワークがむしろダメージを負う。だがミカンのイワークにもしめつけるのダメージが入っているのか、表面の岩が零れ落ちている。しかしそこには岩の肌ではなく、鉄の肌が露わになる。

 

 

「な、なんだ! 本当にそれはイワークなのか!?」

『おーと! ミカンさんのイワークの顔の表面の岩がどんどん落ちていく! なんだアレは⁉ 本当にイワークなのか!』

『これって……もしかしたらもしかするかもしれませんよ!』

「ハガネちゃん! かみくだく!」

 

 

 ──ハガネールのかみくだく! 

 かみくだく。それは本来あくタイプの技であるが、体だけではなく、その歯も鉄であるハガネールのかみくだくは、イワークにとって大きなダメージになる。

 

 

「イワーク戦闘不能! 第一試合勝者、ジョウトアサギジムのミカン!」

『きまった────! 勝者はミカンさんです!』

『えーミカンさんのイワークについていま、ポケモンの権威であるオーキド博士に聞きたいと思います。博士アレは一体?』

『うむ。最近私が依頼したトレーナーによって捕獲が確認された新ポケモンじゃ。名をハガネールと名付けた。さらにハガネールをはじめコイルやエアームドにも「はがねタイプ」として新たに学会へ再分類したこところであります。ですがミカンくん。戦う前に君は自分ではがねタイプと言っておったが、これは最近発見されたことなんじゃが……どこで知ったのかのう?』

「え? わたし、数年前にレッドさんから聞いてたんですけど」

『……あ、あいつ』

『ああレッドくんか。やっぱり博士の面目丸つぶれですね!』

『お、お兄さん辛辣すぎますよ……』

「オレからも一ついいだろうか。そのイワークはどうやって進化を?」

 

 

 タケシが頭を抱えているオーキドの代わりにたずねる。

 

 

「はい! このハガネちゃんは、わたしがレッドさんとのはじめて(のポケモン交換)によって生まれた子なんです!」

「……」

『……』

「あとこのフォレトスのフォレちゃんはレッドさんからジムリーダー就任祝いにプレゼントしてもらいました!」

「あ、もうそれ以上言わない方がいいよ……うん」

 

 

 最初に名乗った前口上よりもさらに気温が下がる会場。それは特に男性から殺意と共に放たれている。だがそれよりも、聞かれてはいけない女にそれを聞かれてしまった。

 カントー陣営のベンチにて、ナツメが静かに立ち上がると全身に力を纏いだした。

 

 

「ちょっと……行ってくる」

「ま、待ってナツメ! 行くってどっち⁉」

「そ、そうですわ! さすがのレッドも子供に手を出すわけが……」

 

 

 いまにも何処かへ行きそうなナツメをカスミとエリカが取り押さえている。男性陣に関しては特にグリーンは幼馴染として頭を抱えている。さらに妹が暴走していれば尚更だった。

 

 

『あのバカレッド! わたしに手を出さないくせになんであんな貧乳には手を出すのよ⁉』

『おいチャンピオンからマイクを取り上げろ⁉』

 

 

 それは観客席にいるナナミ、カンナ、ハナダのお姉さんにも、もちろん届いており。

 

 

「レッドくんはロリコンじゃないんだから。リーフもまだまだね」

「レッド様はどちらかと言うと年上好きな傾向がありますから。奥様も、もうちょっと余裕を持っていただけると助かるのですが……」

「あらあらあらぁ。あんな小さい子にまで手を出すなんて。レッドくんもいけない子」

 

 

 と、正妻よりも余裕の対応をしてみせるお姉さん達。

 その後もちょっとしたひと悶着があったが試合は続いた。第二試合カスミ対アカネはカスミの勝利。第三試合アンズ対ハヤトはアンズの試合放棄によりハヤトの勝利となる。そして第三試合はマチス対マツバ。

 彼らのバトルの最中エリカがナツメにレッドのことをたずねた。

 ジョウトのジムリーダー達には知らされてないが、カントーのジムリーダー達にはこの対抗戦が開かれた理由を聞かされていた。元ロケット団であるマチスとナツメが関係していると最初は疑われたが、それは他のジムリーダー達によって否定された。特にレッドがチャンピオンを辞めた後に「あのサカキがこんな事をするかよ」と助言なのかよく分からない言葉を送ってカントー陣営の疑いは晴れた。

 しかし元ロケット団残党とそれを裏で操っているという仮面の男について、あのレッドが動かないはずがないとエリカ達は思っていた。だが一向にレッドの姿が見えない。

 

 

「ん? ああ、レッドならもういないぞ」

「いない? それはどういう……」

「言葉の通りだ。あいつはカントーはおろかジョウトにいない。旅に出たよ、昨日な」

「昨日⁉ わ、私聞いてませんけど⁉」

「はて。お前にも連絡をしろとカンナに言っておいたんだがな……もしかしたらちょっとした手違いかな?」

「きぃ──! ですが、レッドが不在ではもしもの時どうするのですか⁉」

「それについてもレッドから言伝を預かっていてな? 一々俺を頼るな、だそうだ」

「そ、それは確かにそうですが……」

「私達はジムリーダーなんだろ? ならばその使命を全うするだけだ。さて……決着がつくな」

 

 

 攻め続けるマチスに対してゴーストと悪タイプ特有の搦め手を使い激しい攻防を続けていたが、最後はマチスのコイルはマツバのムウマのみちづれによって両者ダウン。これによって第三試合はドローとなった。

 

 

「フフフ。先程の鬱憤をミカンに晴らせないのが残念だが、まあいいさ……」

「て、手加減してくださいね……」

「やだ!」

「即答ですわこの女……」

 

 

 バトルフィールドに上がるナツメと対戦相手のツクシ。

 ツクシはストライクを出すと、ナツメはバリヤードを出した。

 

 

『さあ第四試合が始まりました。ツクシさんストライク、ナツメさんはバリヤードからのスタートです。あと関係ありませんが、ナツメさんは元チャンピオンのレッドさんと恋仲とのことです』

『いやぁ、アサギシティの伝説は有名ですね』

『伝説って、それ最近出来たばかりじゃ……』

 

 

 二人が解説の仕事を放棄して別の話題を語っている中、ナツメがツクシ告げた。

 

 

「ツクシと言ったな」

「そうですが……なんでしょうか?」

「最初に言っておく。私はいま、すご──ーく機嫌が悪い。なので……容赦はしない」

「それはこちらもです! ストライク!」

 

 

 ──ストライクのれんぞくぎり! 

 両手の鎌が容赦なくバリヤードに襲い掛かる。だがバリヤードは平気な顔をしてそれを避ける。ストライクもそれを逃すまいとさらに迫るが、それも簡単に避けられてしまう。

 

 

「逃げてばかりですか!?」

「……さて。それはどうかな?」

 

 

 バリヤードがストライクの攻撃を回避していると、突然ストライクが見えない壁にぶつかったかのようにその場に倒れる。

 

 

「どうしたんだストライク? これは……壁⁉」

「ふふっ気づいたようだな。バリヤードの指から出る波動は空気を固めて壁を作っているのさ。ただ逃げ回っているように見えるが実際はこの見えない監獄を作るのが目的」

「だ、だが壁さえ壊してしまえば!」

 

 

 ──ストライクのシザークロス! しかし見えない壁に弾かれてしまった! 

 

 

「か、堅い……!」

「言ったろ? これは監獄なんだ。そうやすやすと逃がすわけないだろう? さあトドメだ! サイケこうこうせん!」

 

 

 ──バリヤードのサイケこうせん! ストライクはたおれた! 

 

 

『勝負ありです! 第四試合勝者はナツメさんです!』

「攻めるだけが戦いではない。勉強になったかな?」

「え、エグすぎる……」

「ぶっちゃけナツメだけでも勝てるって言わない方がいいわよね……」

 

 

 大人げない友人の姿を見てエリカとカスミはツクシに対していたたまれない気持ちだった。

 

 

 

 

 

 ジムリーダー対抗戦が行われている頃。ジョウト地方うずまき島の一つに誰にも知られていない隠れ家が存在した。

 その主はワタル。一年前スオウ島での戦いのあとジョウトへと身を隠していた。そして自分に接触してきたシルバーを弟子に迎えた。

 シルバーが行ってきた一連の騒動であるウツギ研究所のワニノコとオーキド研究所にあったポケモン図鑑の強奪もすべてワタルの指示であった。

 そしてそのシルバーが先程までここにいた。そして知っているすべてを話した。

 

 

「仮面の男の正体はまだわからないが、目的は時間を操ること」

 

 

 ホウオウとルギアから取れる二枚の羽は時間を操る力があると言う。だが問題は今になってそれが揃ったこと。

 すべてあのブルーという小娘のおかげだ。シルバーと脱走する際に盗んだ二枚の羽を失ったことで今日まで時間がかかったのだろう。調べた限りではホウオウは9年前にヤツの手元から離れたものの、ルギアはヤツに捕らえられたと見ていい。そしてロケット団を使ってのスズの塔の崩壊。これによりホウオウは戻ってくるという説が有力。

 

 

「ヤツは再びその力で伝説のポケモンを従えようとしている。ふっ、色々と手を尽くして従えようとした自分が情けなく思える」

 

 

 逆に言えばそれだけヤツのトレーナーとしての力が異常なのだろう。純粋な力のみでポケモンを従える。ある意味トレーナーとポケモンの本来の関係なのかもしれない。

 だが一年前自分に歯向かった少女の言葉を思い出す。

 人とポケモンは共存できる──

 

 

「しかしイエロー。こうして人は力でポケモンを行使するんだよ。お前が言う真の意味で共存できる日が来るのか……いや、一人いたな」

 

 

 力でもない。ましてモンスターボールという道具を使う訳でもない。まさに人とポケモンが共に共存し支え合うことを体現してみせた男がいたのを思い出す。

 

 

「あの時、間違いなくレッドはルギアを知っていた。そしてルギアもまたアイツの言葉に耳を貸した。ふふっ、つくづくお前は規格外だな、レッド」

 

 

 だがヤツはこのジョウトに姿を現さなかった。恐らくかなり激しい戦いになるだろう。

 シルバーよ。お前があの仮面の男に執着するのは分かる。だが忘れるなよ。お前を育てたのは紛れもなくあの男。そしてその力を身を持って知っているはずだ。

 

 

「油断するなよシルバー」

 

 

 

 

 

 

 その後の第六試合はグリーン対シジマの師弟対決となり、新たに育てたサイドンでその実力を師に見せるグリーンが勝利となる。

 そして第七試合が始まる直前。ワタルの下からここセキエイ高原に移動したシルバーもまた仮面の男を探していた。

 だが突然後ろから声をかけられる。そこに先程までいなかった場所に。

 

 

「お、お前は誰だ⁉ いつからそこに!」

「細かいことは気にしなーい」

 

 

 眼鏡をかけて腕にケーシィを抱えた男は、どういう事か訳の分からないこと言ってくる。

 

 

「ところでこれから大きな戦いに挑むキミにひとこと忠告。もーし、戦いをやめて帰るっていうなら、おじさんがどこへでもテレポートさせてあげるよ?」

「な、なにを言っている!? オレが戦いをやめるという選択肢などない!」

「そっか。それは……残念」

 

 

 すると体を何かが覆い始める。目の前のケーシィが自分を何処かへテレポートさせようとしているのだ。

 

 

「ま、まさかお前もあの男の手下!? つまりは新しい敵!」

「敵? バカ言うんじゃないよ。あたしはあんたを安全な場所へテレポートするだけよ」

「そ、その声は……」

「いつだってどこだって変わらないあんたの味方で……たった一人の姉よ」

「ぶ、ブルー姉さん!?」

 

 

 そうか。これは姉さんが得意とするメタモンを使った変装。どうりで気づけないわけだ。

 だがどうしてこんな真似を? 二人の目的は同じはずなのに。

 

 

「なんでだぁあああ⁉」

 

 

 そしてシルバーはケーシィのテレポートでどこかへ跳ぶ。

 残されたブルーはシルバーと対になる白い手袋をはめる。

 

 

「ごめんねシルバー。今まであなただけに頑張らせて、一人ぼっちにさせて。だけどここからは……あたし一人で決着をつける!!」

 

 

 

 

 

『えーここで報告がありました。次の第七試合ですが、カツラ選手の体調がすぐれないため先に第八試合であるエリカさん対ヤナギさんの試合を開始いたします』

 

 

 カンナはそのバトルを観客席から見ていた。

 フィールドに立つエリカとヤナギは互いにボールを投げる。

 最初にエリカが出したのはキレイハナだった。「はなびらのまい」を使うことによって壁を作り出し、さらにヤナギが出したウリムーの性質であるにおいに反応して張り切り出す習性を逆手に取った。

 確かにウリムーはそのまま「はなびらのまい」の壁に突進してダメージを受けてしまう。だがエリカは止まらずポポッコをだし、さらに「しびれごな」を繰り出す。

 ここからが異常であった。

 突如ウリムーはその小柄の体を生かし、素早く攻撃を躱しながら「こなゆき」を放つ。小さなダメージだが草タイプであるポポッコに氷は不利。エリカはすかさず「こうごうせい」をして回復をする。

 身を守りながら攻撃されては回復する。あえて不利な戦いを自分が得意とする戦いにし持久戦へと持ち込むエリカ。

 だが突然舞っていたはなびらが散り、ポポッコの花びらが凍った。これでポポッコは戦闘不能によりエリカの敗北。

 そして先程の戦いを共に見ていたハナダのお姉様が試すように言ってきた。

 

 

「見えましたか、カンナさん」

「はい。あのウリムーはキレイハナの最初のはなびらのまいで突進した時、すでにこなゆきを撒いていました。そこから吐いていたこなゆきは花びらに付着し、花びらの回転を逆手に取って冷気……つまりは冷風扇になったというわけですね」

「ええ。静かですがおしとやかに、そしてさりげない。まるで目立つことを拒んでいる戦いです。そしてどうですか? 同じ氷使いとして」

「年季の差と言えばそうなります。ですがレッド様の言う通りです。『すげー氷使いがいるからすぐわかる』と、仰っていた言葉の意味を理解しました。レッド様が言うにはもう一体デリバードがいるそうですが、同じ氷使いとしては負けですね。さらに氷そのもののレベルが違うと言われましたから。まあ……意地で特訓して近い所まできてますけどね……!」

「うふふ。冷静さを欠かさず、その胸に熱い闘志ですか。主のために頑張るその姿勢、お姉さんポイント5点を差し上げます」

「ありがとうございます」

「え、何ですかそれ……ていうか、私とんでもないことを聞いたような……」

 

 

 隣にいたナナミにはどうしても耳に入ってしまうのだが、トレーナーではない彼女には先程の戦いは理解できないのも無理はなかった。

 だがそんなナナミに対してお姉様は悲しい表情をなされた。

 

 

「はぁ。状況が飲み込めていないナナミさんにはお姉さんポイントマイナス2点です」

「それどういうものなんです?」

「お姉さんポイント計100ポイント貯めると、もれなくレッドくんからいいことあるかも?(本人には承諾済み)が進呈されます」

「い、いつのまに……あ、ちなみにナツメさんってカウントされているんですか?」

「ナツメさんはレッドくんの彼女さんですからノーカンです」

「ちなみに奥様には内緒です」

「……もちろんマイナスにされたからには、私にもその権利があるということで?」

「もちろんです」

「よし」

 

 

 小さくガッツポーズをするナナミを見てお姉さんが再度採点をした。

 

 

「可愛らしい仕草にお姉さんポイント3点です」

「やったー」

「喜ぶナナミさんは置いておいて。肝心のナツメさんは気づいてるでしょうか?」

「ええ。奥様もレッド様から話は聞いているので間違いなく。ただ……」

「どうしました?」

「少し空気が変わりました」

 

 

 それを聞いてお姉さんの顔から笑みが消え、戦士の顔に早変わりした。

 

 

 

 

 

「すみません。負けてしまいました」

「仕方がないと言っても慰めにはならんな」

「あら。あなたからそう言ってもらえるなんて、私は嬉しいですよ?」

「ふん。だが……決まりだな」

「何がです?」

「こっちの話だ」

 

 

 ナツメは先程の戦いでヤナギが一連の黒幕だと確信した。距離があるため深くまでは読めなかったが、顔に似合わず並外れた願望を持っている男だということがあった。レッドが言っていた氷使いなのも筋が通っている。

 そもそもレッドはすべてを語らなかった。恐らく初めからヤナギが黒幕だと知っていたのだということは、その話しぶりから察してはいた。なぜ最初に語らず、もっと早くに行動をしなかったのかは最後まで教えてくれなかった。

 ただ彼は言った

 ──アイツと戦うのは俺じゃない他のヤツだから。

 それが誰を指しているのかは分からない。ただレッドと同じその宿命を背負ったトレーナーがいるのは間違いない。それもポケモン図鑑を持っているトレーナーが。そのような話を以前レッドが言っていたのだ。

 そしてレッドは続けて言った。

 ──俺が真に戦うべき相手はサカキだけだ。

 二人を知っている人間からすれば、本当に似た者同士といったところか。

 肩をすくめながら思いにふけっていると、エスパー特有の感覚が来た。

 これは……何かが動き始めたことを知らせている。

 

 

「エリカ、それとお前らもだ。構えろ、何か来るぞ……」

『──!』

 

 

 その言葉と同時に突然フィールドが裂け、レールが現れるとリニアモーターカーが停車し中から馴染みのある黒服を着た集団、ロケット団が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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