おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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なんか俺が物騒な人間だと思われてる。解せぬ

 

 

 

 ポケモンリーグが開催されている頃。ジョウト領海を超えホウエン地方へ向かうレッドは、ラプラスの背に寝そべりながら青空を眺めていた。まだホウエン地方ではないがたまにキャモメが飛んでいる光景が目に入る。

 生前はまともに旅行などをしたことがなく、まさかポケモンに乗って海を渡るとは夢にも思わなかった。

 

 

「しかし静かだな……なあ、ラプラス」

「きゅーい!」

「分かってはいても、やっぱ寂しいもんだな。今まで旅をしてきたあいつらと別れるのは」

「きゅーい……」

 

 

 いま手持ちにいるのはラプラスとスピアーそしてイーブイの三体のみ。リザードン、フシギバナ、カメックスはグリーン達の手助けになるよう託した。あとおまけでカビゴンもリーフに押し付けた。

 あいつ遠出ヤダとか言って暴れるんだもん。

 しかしそれだけ仮面の男……ヤナギとの戦いが激しいとレッドは予想していた。

 以前スイクン達に言った、いまの自分では彼に勝てないというのは本当だった。ナナミに釘を刺されたようにこの体はまだ完治していないし、力を使えば使う程悲鳴をあげているのだろう。氷を無効化でき、炎によって一方的にメタれるとは言え戦えるのが3分。

 最初はなんとかなるじゃろ。そう思っていたが、意外と無理だと後になって分かった。協会からシロガネ山に戻った際、一夜だけ家に戻らず手持ちのポケモンとシロガネ山にいるポケモン達に協力を要請し全力で戦ったのだ。

 それも本気の本気で。

 そして戦いの最中、本当に3分と経たずに体にガタが来た。膝をつき、全身から力が抜けその場に倒れた。しばらくは身体を動かすことがままならなかったのだ。

 ナナミの言ったように体が予想以上の限界を迎えていた。何とか打開策を考え、一つだけ案が見つかったがただあまりにもリスクが高いので止めた。一応そのための道具は持ってきてはいる。

 ただヤナギは強い。サカキとは別の意味でだ。ホウオウを従えていたその統率力に伝説級のデリバードを従えている。

 並みのトレーナーでは太刀打ちできないのは間違いない。だがそのためのリーフであるし、三犬と共に戦えるトレーナーを紹介した。

 

 

「あとはブルーが上手くやってくれるといいんだけど……」

 

 

 ブルーはあれで広い視野で見ている。きっと最善の策を講じるだろう。それにナツメにカンナ、さらにはお姉さんにも協力を頼んだ。本当は嫌なのだが、お姉さんは普通に強いしハッサムも力になる。彼女はただ一言「わかりました」そう言ってくれた。

 本当に頭が上がらない。

 

 

「けどやっぱ……戦うのが嫌なのかな、俺」

「きゅーい?」

「確かに平和が一番だけど、旅に出てから戦ってばっかり。心のどこかでは、静かに暮らしたいのかなって」

「きゅーいきゅーい」

「でもホウエンに行ってるって? まあそうなんだけどな。平穏よりも闘争を求めてるのかな……やだ、やっぱこれってマサラの血の影響?」

 

 

 アニメでサトシがスーパーマサラ人とネタにされるように、実際にマサラタウンの人間は戦闘民族の血が流れているのではないだろうか。だから新たな火種になるホウエン地方に向かっている。そう思うと納得はできるが、正直に言えば納得はしたくない。

 

 

「あ、マサラで思い出した。オーキド博士から手紙貰ったんだっけ……」

 

 

 なんでも後で読めと言われたのを今になって思い出した。

 封筒から手紙を出すと、まあびっしり書かれていた。

 

 

『レッドへ。まずは色々言いたいがこれだけは言っておく。お前は勝手すぎじゃ! いくら若いといっても、たまには大人の──―』

「初手から説教だよぉ……とばして……えーとここか」

『でだ。お前はポケモン図鑑をイエローに託し、そのままあの子を正式な所有者として認めたわけだが。図鑑がなくともお前は図鑑所有者だ。それを忘れてはいかんぞ』

「図鑑所有者、ねぇ? そんな設定しらんけど。えーとなになに」

『図鑑所有者にはそれぞれ特徴がある。そのトレーナーが持つ力と言ってもいいかもしれん。まずはグリーン。あやつはジムリーダーとなりさらにポケモンの育成に磨きかかっとる。まさに『育てる者』。妹のリーフは一見お前と似て攻撃的なところがあるが守る戦いをしている。わしは敢えて『護る者』と名付けた。イエローはお前も知っている通りポケモンを癒す力がある『癒す者』じゃ。わしがポケモンの捕獲を依頼したトレーナークリス。捕獲の専門家である彼女は『捕らえる者』」

 

 

 突然出てきたクリスという名前に思わず顔をあげるレッド。

 

 

「え、クリスってクリスタルのクリス? いつの間に出てきたんだよ……」

 

 

 気を取り直して続きを読む。

 

 

『そしてブルーじゃ。あの子の口からすべてを聞いた。弟のシルバー、あの子がきっとわしのところからポケモン図鑑を盗んだのじゃろう。二人は共に仮面の男にポケモンの進化と交換について知識を押し込まれたという。なので二人合わせて『化える者』と『換える者』じゃ。そしてもう一人、わしが図鑑を託したゴールド。あの子はポケモンのタマゴを孵化させた。さらに生まれたポケモンは彼の性格に似た性格をしていた。よってあの子は『孵す者』じゃ』

「……え? タマゴってこう抱きかえて待ってればいいんじゃねぇの? ゲームと違って歩くわけないし……」

 

 

 これがジェネレーションギャップか、なんて思いながらも最後の一枚をめくる。そこには最後に自分のことが書かれていた。

 

 

『そしてレッド。お前は最初その強さ、ロケット団と四天王との戦いから最初は『戦う者』だと思った』

「なんか俺が物騒な人間だと思われてる。解せぬ」

『だがお前が失踪したあの日から、野生のポケモン達が大移動を開始した。あとでお前からも聞いたが、ポケモン達はお前を目指して移動をしていた。本来野生ポケモンは人に懐くことはなく、むしろ縄張り意識や住処を守るために敵意を持っている。なのにお前はボールを使わずとも、ポケモン達に好かれ心を通わすことができる。さらにはポケモンの言葉が分かるかのようによく会話もしておる。わしは思った。お前は人とポケモンを繋ぐ存在。まさに──』

「繋ぐ者、ね……。いや、トレーナーならポケモンの声聞こえるでしょ。な、ラプラス」

「うんうん!」

「ほら」

 

 

 独り言を言ってみてもただ虚しいだけであった。手紙をバッグにしまっていると、空から知っている力を感じた。それは次第にこちらに近づいてきた。

 それはグレン島にいるはずのミュウツーであった。

 

 

「ミュウツー! お前、グレン島から離れて平気なのか?」

『ああ。どうやらカツラを蝕んでいたワタシの細胞をどうやってか消したらしい』

 

 

 馴染のテレパシーで伝えてくるミュウツー。あのミュウツー細胞を消せる力を持った存在。思い当たるのが最近一体いた。

 エンテイだな。となると、エンテイはカツラを相棒として認めたのか。これならばらカスミもマチスも選ばれたのだろうと察した。

 

 

「これからどうするんだ? 晴れて自由の身だが……俺と旅にでも行くか?」

『それもいいな。だがワタシはこの世界を見て回ろうと思う。そして、どこかでアイツにも出会えるかもしれない』

 

 

 ミュウ。それをあえて口に出すことをレッドはしなかった。ただ笑みを浮かべて、ミュウツーの旅立ちを見送る。

 

 

「そっか。それもまたお前の選択だ。好きに生きろ。その権利がお前にはあるよ」

『ありがとう。もし力が必要な時は呼んでくれ。お前とカツラ、そしてイエローとならいつでも力になる』

「ありがとう。けど俺は平気だよ。けどもし、俺の仲間がピンチになったら助けてやってくれ。リーフ……俺の幼馴染なんだけど、あいつならお前とも一緒に戦ってくれる』

『お前がそこまで言うのなら信じてみよう。では、さらばだレッド。また会おう』

「ああ。よい旅をミュウツー」

 

 

 海面を飛行し水しぶきを上げながら一気に急上昇して空高くへと飛んでいくミュウツーを見送る。

 

 

「自由か。何も考えずにナツメと旅がしてえけどなぁ~俺も~。しかし……」

 

 

 レッドは改めて大陸の方に目を向けながら、自信がないのか弱気な声で言う。

 

 

「本当に大丈夫だろうか……いまになってめっちゃ心配になってきた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻

 ポケモンリーグ会場。

 現在リーグ会場は大混乱に陥っていた。

 ゴールドとクリスが謎の人物を追っている際にコントロールルームにつくと、すでにそこは仮面の男の幹部、ブルーとシルバーと共に育てられたマスク・オブ・アイスの二人組が二人を待ち受けていた。

 なんか二人を倒すことに成功するも、すでにロケット団を乗せたリニアモーターカーは走り出してしまった。

 突如現れたリニアモーターカーから出て来たロケット団から観客達を守るために車内に押し戻そうとする。同時に観覧席にいたリーフもガラスを破って加勢に入る。すぐに行動したおかげでロケット団を車内に押し戻すことには成功したが、それも仮面の男の罠であった。

 逆にリーフをはじめとしたジムリーダー達を閉じ込め、リニアモーターカーは会場から走り去る。同時にリーグ会場の天井を突き破って、スズの塔で支配下に置いたホウオウとルギアを連れて仮面の男が現れる。

 ジムリーダー達がいない今、戦えるのはゴールドとクリスのみ。二人は防戦一方であったが、互いの強みを生かしてなんとかルギアに一矢報いることはできた。

 だが伝説のポケモンであり、仮面の男の支配下にいる二体のポケモンは通常よりも凶暴である。

 

 

『先程のみらいよちはいい手だったな。だがそんな小細工がいつまで通用するかな……?』

「うるせぇ! そんなのお前を倒すまでに決まってるだろうが!」

「例えジムリーダー達がいなくても、わたし達であなたを止めて見せる!」

『威勢だけはいいな。だが私に油断や慢心はない。これまで散々私の邪魔をしてきたお前達は苦しまずに葬ってやろう……ホウオウ! ルギア!」

『⁉』

 

 

 ──ホウオウのせいなるほのお! 

 ──ルギアのエアロブラスト! 

 仮面の男とホウオウとルギアの殺気に当てられてしまって動けないゴールドとクリス。思わず目を閉じるが何も来ないし痛くもない。

 閉じていた目を開けるとそこには、氷の盾を張って二体の攻撃を防いでいる二人の女性がいた。

 

 

 

 

 

「あなた達大丈夫?」

 

 

 カンナは背後にいる二人の少年少女に振り向かずに問いかけた。

 

 

「あ、は、はい!」

「え、えーと、きれいなお姉さん達はいったい誰っスか?」

「あら。お世辞がお上手ですね」

「説明はあとよ。あなた達はそこにいなさい。あとは私達が相手をするわ。お姉様……あれを使うわ!」

「ええ、よくってよ」

『たかが女二人が増えたところでな、ホウオウ! ルギア! ん? どうした……!」

 

 

 仮面の男が二体に命令を出すが、何故か攻撃をしないことに気づいた。よく見れば二体の翼が凍り付いている。

 カンナの手にはホウオウとルギアの形をした氷人形があり、その二体の人形の翼にバツ印が付けられていた。以前はルージュラでしか使えなかったカンナの得意技は、今では手持ちのポケモンすべてで行えるようになっている。

 あのレッドさえも苦しめたその氷の枷はポケモンにも有効である。

 

 

「ルギアとホウオウの羽が!?」

「もしかしてあのメイドさんも氷使いなのかよ!」

『だがこの程度の足止めではこの二体は止まらんぞ!』

「それで十分なのよ……お姉様!」

「ッ!」

 

 

 カンナの合図と共にお姉さんは三節棍を構えてホウオウ目がけて跳躍。未だにただの棒だと言い続けている三節棍を巧みに操ると、ホウオウの首を拘束してそのまま地上へとひざまづかせる。ホウオウも必死に抵抗しているはずなのにたかが人間の、しかも女に抵抗すらできないでいる。

 

「グエ──⁉」

「お、姉様すげー……」

「一体あの人のどこにあんな力が」

「ふふっ。レッドくんに頼まれたからには全力でやらせていただきます。サミュエル!」

 

 

 背後に控えていたサミュエルことハッサムが跳ぶ。

 ──ハッサムのこうそくいどう! きりさく! きゅうしょにあたった! 

 高速移動で加速してそのまますれ違いざまに縦一閃の一撃を食らわせる。急所に当たったにも変わらず、ホウオウは未だに健在。

 

 

「一撃で倒せると思っていませんでしたが、さすが伝説のポケモンですね」

『ホウオウ!』

 

 

 ──ホウオウのせいなるほのお! 

 ホウオウは自らの体に炎を纏わせ、凍っていた翼の氷を溶かす。同時にルギアの翼も溶かそうとするが、その隙をついてカンナが仕掛ける。

 

 

「パルシェン! つららばり!」

 

 

 ──パルシェンのつららばり! 

 パルシェンが作り出したつらばばりがミサイルのように二体の背中へ着弾する。悲鳴をあげるルギアに対しホウオウにはこうかはいまひとつ。

 たがそれは最初だけだ。

 止まらない。そう止まらないのだ。本来のつららばりは最大5回連続で攻撃できる技とされているが、どうみても5回で止まる気配ではない。常に休むことなくつららばりという名のミサイルが撃ち続けられている。いくら相性がいいホウオウだろうと、降り注ぐつららばりの雨の前に成す術もない。

 

 

「ショオ──ッ!!」

 

 

 ホウオウは怒り叫ぶ。

 伝説のポケモンの意地か、それともただの怒りなのかはわからない。それでも並みのポケモンでは出せない最大級の炎を周囲一帯に放つ。

 

 

「逃げろクリス!」

「わかってるわよぉ!」

「サミュエル!」

「パルシェン!」

 

 

 ホウオウを拘束していた三節棍を解除し、ハッサムは迫りくる炎から離脱すべく地面を跳んだお姉さんを空中で受けとめる。

 対してカンナは避けるのではなく攻めた。パルシェンを踏み台にして跳ぶと、何もない場所に氷の足場を形成する。

 ──カンナのシンクロ! カンナはパルシェンとシンクロした! 

 パルシェンとシンクロしていることによって、どこにどのタイミングでそれを作るかを伝える。カンナはそのまま氷の足場を経由してデリバードに乗る仮面の男へと、ここに来るまでに作った氷の剣を構えて斬りかかる。

 

 

「はあぁぁぁッ!」

『ふん』

 

 

 渾身の一撃は仮面の男の左手でいとも簡単に止められてしまった。

 

 

『そうか……お前だな? 氷使いの元四天王は』

「だからどうだって言うのよ!?」

『中々の腕前だな。だがそんな即席の力ではなぁ!』

 

 

 掴んでいた剣を離し、後方へ飛ぶとそこに再び足場を形成。続いて氷の弓を作り出し三本同時発射する。

 しかしそこにカンナも作り出した氷の盾によって矢を弾かれてしまう。

 遠距離では分が悪い。そう判断し再度接近戦を仕掛けるために、傍にいるパルシェンに陽動を指示する。

 移動しながら精密射撃モードのとげキャノンが放たれる。その弾道はたしかに仮面の男を捕らえている。カンナの目の前にある氷の盾とは別の壁が展開されそれも弾かれる。

 だが威力はつららばりよりもとげキャノンの方が上。速射に切り替えて一点集中攻撃を指示。同じ場所に何度も着弾するとげキャノンがついに氷の盾にヒビを入れてぶち破る。

 

 

『ふんぬ!』

「な⁉」

 

 

 しかしそれも仮面の男の手によって受け止められてしまう。

 カンナは氷の双剣を作り出し構える。

 

 

「レッドが強いと言ったわけもわかる……!」

『レッド……? そうか! 貴様らあの小僧の差し金か! アハハ! ヤツもついに臆したか!』

「あの子への侮辱は許さな──⁉」

 

 

 気づけば体に白い霧、恐らく冷気が体に纏い体の自由を奪われてしまう。

 

 

『言ったはずだ。即席の力では私には勝てん!』

「カンナさん!」

『まだいるか』

 

 

 カンナを助けるべく上空から落下しながら三節棍を振るうお姉さん。しかしそれも氷の盾によって防がれてしまい、カンナ同様に体を拘束される。

 お姉さんを助けるべくハッサムが迫るがデリバードが突如現れてそれを阻む。

 ──デリバードのプレゼント! 

 袋から出したプレゼント箱をハッサムへ投げると、ハッサムの顔面で爆発。そのまま地上へと落ちるハッサムを助けようとパルシェンが動く。

 ──デリバードのれいとうビーム! 

 れいとうビームはそのままハッサムとパルシェンを一瞬にして凍らせてしまう。

 

 

「サミュエル!」

「パルシェン!」

『くくっ。いいのか? お前達の相手はまだいるぞ?』

『⁉』

 

 

 今までの仕返しと言わんばかりにルギアがその翼で、空中に拘束されている二人をはたき飛ばすと、そのまま観客席へと叩きつけられた。煙が晴れると二人が気絶しているのが分かった。

 

 

「そんな。あの二人でも止めらないの⁉」

「見ろクリス! あいつの体どんどん大きくなってやがる⁉」

『どれだけ抵抗されようと、どれだけ食い下がれようと、我が計画は止まらない! 10年、10年もこの時を待ったのだ! そして──』

「な⁉ あの野郎まだ逃げ遅れてるやつまで──」

「違うわ! アレは……ボール職人のガンテツ師匠よ!」

 

 

 仮面の男はガンテツとその孫を捕まえゴールド達の前に降りる。

 

 

『さあガンテツ! 作ってもらおうか、時間を捕らえるボールを!』

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 セキエイ高原からジョウト地方に向けて走るリニアモーターカー車内では、ジムリーダー対ロケット団の戦いが行われていた。

 ただ後部車両はどういう訳か切り離されリーグ会場へと戻っていたが、前方3車両はその速度を緩めることなく猛スピードで駆け抜けていた。

 

 

「ああもう! キリがないじゃん!」

 

 

 ──リーフのおうふくビンタ! 

 リーフは迫りくるロケット団に対してひたすらおうふくビンタを食らわせていた。ただ相手は無防備で動かない的。それも一人や二人だけではなく、この車両にいるロケット団全員がかなしばりにあったかのように動かない。

 

 

「口よりも手を動かせリーフ。私がこいつらの動きを止めているんだから」

 

 

 ──ナツメのかなしばり! 

 集中しているのかナツメは目を閉じながら言う。

 

 

「だったらお得意のサイコキネシスで一撃で倒してよぉ!」

「私は手加減が苦手でな? 下手をすると車両まで巻き込みかねない。それに……他の男共はなんだかんだで楽しんでるぞ?」

「えー?」

 

 

 リーフは自分とは別の所で戦っている兄の姿を見た。そこには上半身裸の格闘家であるシジマと共に戦っていた。

 

 

「がはは! どうしたグリーン! ジムリーダーになって腕が落ちたか!? お前の妹の方がいい攻撃をしているぞ!」

「オレはあいつやレッドと違って得物は刀なんです、よ!」

「それもそうだったな! しかしレッドに会えないのはちと残念だったな。また拳を交えたかったのだが……」

「まあ、いないやつのことを言っても仕方がない!」

「にしてもカントーの女子は強いな! どうだグリーンの妹よ! 今度オレの道場に来るか⁉」

「いや。わたしの先生はレッドなんで」

「それは残念。そこの……ナツメ殿のことはレッドから聞いているぞ! オレのカミさんに負けず美人だとな!」

「もうレッドったら~。あ、うちのレッドがその節はどうもお世話になりました」

「あ、ナツメさんお久しぶりです! わたしミカンです、シャキーン!」

「調子に乗るなよ小娘ぇ……レッドとの相性は私が一番いんだからな……」

「えー? ミカンはちょっとそういうことわからないです。けど相性ならわたしもいいと思います!」

 

 

 社交儀礼というか、いつものようにレッドの彼女面をするナツメと、それを煽るミカンとの痴話喧嘩が周りを無視してヒートアップする。ただその所為か、それによってかなしばりが解けて一斉に動き出すロケット団。

 その態度にイラっとしたリーフがつい手加減を忘れてしまう。

 ──リーフのはたく! 

 一人の団員の頬を叩くと、そのまま車内の床を突き破って首から上が埋まってしまう。

 

 

「ぐえー!」

「ちょっとナツメ、早くかなしばりしてよ! あとそこの貧乳。レッドはお前なんてこれっぽちも興味ないんだから勘違いしないでよね!?」

「そうよね! レッドのお師匠さんでもあるんだから、レッドの彼女としていい所見せないと!」

「ふぇ? わたしはレッドさんのこと好きですよ?」

「くそ! こいつら隙が無い!」

「あらやだ。あの団員平気でしょうか? というかナツメさんはもっと仕事して私に楽をさせてください」

「エリカも大概だと思うがな……ん? おいグリーン! ちょっと来てくれ!」

「どうしたタケシ!」

 

 

 タケシの声にグリーンはすぐさま操縦室へと戻る。

 

 

「さっきお前のおかげで停止プログラムが復旧したのはいいんだが……」

「まさかレールが切り替わったのか⁉ これでは停止するための距離が足りないぞ!」

「グリーン! それってあとどのくらい⁉」

 

 

 リーフが攻撃の手を休めずたずねた。

 

 

「もうすぐだ! もうすぐ……このまま激突して終わりだ……!」

「ならわたしが行く! ナツメ、その場所までわたしをテレポートして!」

「むっ? ……そうか、そういうことか。頼んだぞリーフ」

 

 

 瞬く間にリーフはナツメのテレポートによって最終停止地点へと跳んだ。するとナツメがその場に倒れる。息が荒く、汗も尋常ではなかった。すぐにエリカがナツメを安全な操縦室まで運ぶ。

 

 

「ナツメさん大丈夫ですか⁉」

「あ、ああ。常に移動している状態、特にこんな高速でのテレポートは危険なんだ」

「だから最初からテレポートをしなかったんですね」

「あとはリーフを信じるだけだ」

 

 

 

 

 

 リニアモーターカーが停止する地点にリーフは降り立っていた。

 線路の先へ目を凝らせば、まだ小さいが先頭車両が見える。まだ余裕があるように見えても時間がない。大きく息を吸ってボールを構える。

 

 

「わたしはレッドみたいに自分で止めらない。けどみんながいる! お願いみんな!」

「久しぶりの出番だゴン!」

「リザァ!」

「ハピィ!」

「ラッキー!」

「バナァ!」

 

 

 まず飛び出したのはレッドから託されたカビゴンに漆黒のリザードン。それに続いて進化したリーフのハピナスにレッドから送られたラッキー。そして相棒のフシギバナ。

 先頭に立つのはカビゴンとリザードン。二人を支えるようにハピナスとラッキーがそれぞれ後ろにつき、フシギバナが離れないよう全員につるのむちで体を巻き付ける。

 リーフも共に止めるためにフシギバナの頭に乗り、リニアモーターカーを待つ。

 来る──そう思った時にそれは目前。常人では捉えることがなきないリニアモーターカーのスピードなど、マサラの血が流れるリーフにとっては容易い。

 そして受け止めるタイミングを叫んだ。

 

 

「今だよ!」

「ゴォオオオオオン!!」

 

 

 カビゴンの咆哮。

 重い衝撃が彼からリーフにも伝わる。コンクリートで舗装されているレールを削りながら後ろへ押される。それでも確かに速度が落ちていることを感じ取っているリーフ。

 だがまだ勢いは完全に殺せていない。

 思わずレッドの顔がよぎる。

 あいつならどうするんだろう。

 きっと自分でポケモン達と一緒に止めるに違いない。けど自分にはそんなことなどできない。

 でも諦めることは絶対にしない。

 

 

「止まれぇえええええええええ!!」

 

 

 その時。ほんの一瞬だけ、リーフはこの世界が止まったかのような錯覚を感じた。無音で何も感じないそんな世界を。

 だがドンっと軽く何かに当たった音が、彼女を現実世界へと連れ戻した。

 

 

「と、止まった……?」

「ああ。お前のおかげだリーフ」

「ぐ、グリーン……よかったぁ」

 

 

 操縦席からグリーンが無事を知らせると思わずフシギバナの上でへたり込む。

 

 

「いやぁ今回は死ぬかと思ったゴン」

「生きてるよ」

「二人とも何か言った?」

「ゴン?」

「リザァ?」

「けど、どうする? このままリーグ会場に戻るの?」

「いや……お前たちには行くべきところがある」

「ナツメ⁉ 大丈夫なの?」

 

 

 エリカに肩を借りながらナツメは外に出てきて言う。続いてグリーンも外へ出てきた。中ではまだロケット団の残党達とジムリーダーが戦っているのにだ。

 

 

「一瞬だが見えた。戦いの終わりはセキエイではない。グリーン、リーフこれを持って行け」

 

 

 そう言って何か棒のようなものをリーフへと投げるナツメ。それは以前スオウ島で見たものと一緒だった。

 

 

「これって、運命のスプーン?」

「それが戦いの場所へと導く」

「けどナツメはどうするの?」

「まだこちらが片付いていないんでな。私も少し休んだらカンナ達を拾って合流する」

「わかった。いこグリーン!」

「ああ。だがこのまま地上で行けばまだ罠があるかもしれない。となると……サイドン!」

 

 

 グリーンの新たな手持ちであるサイドンの背に乗る二人は、そのままサイドンのつのドリルで地下を進みながら運命のスプーンが示す場所へと二人は向かう。

 

 

 

 

 同時刻。

 ウバメの森から少し離れた場所にてイエローは足を止めて呼吸を整えていた。

 少し前までは育て屋にいたのだが、突如ロケット団の残党が襲撃してきた。タマゴを守るためか、満足に戦えないピカとチュチュを守るためにイエローは残党との戦いを始めた。育て屋の老夫婦とヒデノリとはその際に別れてしまい、残党の数も半端ではなくある程度の所で逃げることに専念した。

 

 

「はぁはぁ……ピカとチュチュは多分平気だ。おばあさんの内職で作ってた風船を使って逃げていたのを見たから。けどおじさんたちはどこなんだろう……ここは一体……?」

 

 

 無我夢中で走ったためかどの方向へ逃げていたのかも分からないでいたイエロー。ここが普通の森ではないことは感じていた。故郷であるトキワの森とは別の意味で特別な雰囲気を感じるからだ。

 

 

「でもなんだろう……まるで、あの時のトキワの森みたいに震えているような」

 

 

 ざわついている。その言葉がピッタリかもしれない。

 

 

「それにロケット団はどうしてボクを狙って……ん? あれは……」

 

 

 何かに気づいて空を見上げた。

 そこにはルギアともう一体知らないポケモンが三体のポケモンと戦っているところだった。

 

 

 




運営からのお知らせ
レッドがカントー及びジョウト地方からの離脱を確認しました。
お姉様の情報を更新しました。


ようやく明かしましたレッドの称号というか異名。
戦う者はまさしくピッタリなのですが、あえて人とポケモンを繋ぐ存在「繋ぐ者」としました。
没案には「統べる者」もありました。まあその言葉の通りなんですけどね。レッドくんぽくないのでこちらにしました。

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