その代わりに最近一部の方から要望のあったあるモノを別作品として投稿する予定です。
『終われねぇ……オレは、こんな所で終われねぇ……!』
時のはざまと呼ばれる空間にゴールドはいた。それもただいるのではない。仮面の男……ヤナギが作り出した氷壁によって閉じ込められたのだ。外から見ればまるで鏡の中に閉じ込められているかのようだろう。
ここに来る前にヤナギと戦っていたゴールド。たった一人で立ち向かっていた彼はヤナギを追い詰めていた。だがそこに、偶然近くを流れてきたレッドとイエローのピカとチュチュがなみのりで流れついてしまったのだ。
それを知らないゴールドからすれば、野生のピカチュウ達が偶然現れたに過ぎないがヤナギにとって絶好の人質であった。二体が守っていたタマゴを奪い取り戦いの主導権を握る。逆に追い詰められたゴールドは、目の前で二枚の羽から作ったセレビィを捕まえるボールを完成させる。ボール自体にその力があるのか、ヤナギは空間を裂いて時のはざまへと入る。
残されたゴールドの下に育て屋の老夫婦とイエローの伯父が駆けつける。そして彼にオーキドからの手紙を渡される。そこには他の図鑑所有者達のトレーナーとしての能力が書かれていた。
『ポケモン孵化』
それが自分の能力だと知ると、抱きかかえていたピカチュウのタマゴが孵る。名をピチュと名付け、彼と共にまだ閉じていない時のはざまへと向かうゴールド。
だが結果はこれだった。
何とか一太刀。ピチュの特大の電撃を浴びせる事には成功した。それでもこの氷壁の中に閉じ込められてしまった。
『許せねぇ……ポケモンを道具としか考えてないアイツだけは、絶対に許せねぇんだ!』
何度目の前にある壁を叩いても、どんな悪あがきをしてもこれは破れない。ただ目の前には何とも言い難い空間が広がっているだけ。ここへ助けに来てくれる人なんていない。否、いるはずがないのだ。
ヤナギのように「にじいろのはね」と「ぎんいろのはね」を持っていなければ、ここに入ることすらできない。
『ちくしょぉおおお!!』
再度目の前にある壁を叩く。だが割れない。
ただここで待っているだけなのか。焦りと悔しさがゴールドを責め立てる。こうして時のはざまを眺めているだけなのか。
『……ん?』
時のはざまの向こう。いや、向こうという表現は適していないかもしれない。ただ自分の目の前に広がるこの空間の奥から、人の姿をした何かが歩いてくる。
『あ、ありえねぇだろ……けど、あれは確かに人だ! おーい! そこのアンタ! 聞こえるだろーーーー⁉』
ゴールドは叫んだ。聞こえているのかさえ分からないが、とにかく叫んだ。何もしないよりはマシだと。
すると自分の声が届いたのか、それとも元々こちらに歩いてきたいたのかは定かではないが、その人はこちらにやってきた。
『あ、アンタは……⁉』
その姿を見たゴールドは仰天した。
現れたその男の顔は、まさにヒーローそのものであったのだから。
ウバメの森での戦いは終局へと向かっている。
ブルーとシルバーがカリンとイツキを倒し、敵はホウオウとルギアのみとなった。だがそこへゴールドを時のはざまに閉じ込め、一時現実世界へと戻ったヤナギが立ちはだかる。するそこへウバメの森へと逃げ込んでいたイエローが合流。さらにはリーグ会場から最後の力を振り絞り、主を救うためにやってきたライコウ、エンテイ、スイクン。
空ではフリーザー、ファイヤー、サンダーがホウオウとルギアとの戦いをしている中、図鑑所有者達は最後の敵ヤナギと立ち向かう。彼らの隣にはそれぞれの相棒が。さらにはレッドのリザードン達もいる。
戦力差は歴然である。
だがヤナギの顔に焦りはない。むしろ余裕である。ゴールドによって一時的に目を封じられようとも、自身の勝利を確信していた。
図鑑所有者達のポケモンの一斉攻撃を氷の盾で防ぐヤナギ。たがその盾の何枚かが壊れるのを耳で感じ取っていた。
そうレッドのリザードンの炎だ。彼のリザードンの蒼炎だけはヤナギの氷を溶かしていた。スイクン達も加勢しようとするが、新たに作られた氷の人形によって阻まれる。
気づけば氷の人形によって次々と倒れていくポケモン達。それでも彼らを守ろうとレッドのリザードン、フシギバナ、カメックス、カビゴンそしてピカチュウが立ちはだかる。グリーン、リーフ、ブルーもなんとか立ち向かうが相手が悪すぎた。いくら壊してもすぐに大気中の水分を取り込み壊れた個所が再生してしまうのだ
状況は最悪であった。
だがそこへ、ヒワダタウンのポケモンセンターのあずかりシステムから全国にいるトレーナー達のポケモンが集う。
彼らが戦っている中、リーグ会場にいたマサキは今日まで続いていたポケモンあずかりシステムが使用不能になっていた原因を突き止めたのだ。コガネラジオのスタッフの力を借りて、全国のトレーナーへと呼びかけたのだ。
今、君たちの力がほしいと──
続々と集う全国各地のポケモンが空で戦うホウホウとルギアにトレーナー達の想いを届ける。この戦いを止めたい、その小さな想いが重なり大きな力になる。
ホウオウとルギアを縛っていた悪の力が解き放たれようとするが──
「その程度の想いで、私の願いが止まるわけがない!!」
まさに人の執念と呼ぶべきものだった。ヤナギの想いが、野望が、悲願が、ホウホウとルギアを未だに縛り付けていた。
「そ、そんな。アレでもあの二体を解放できないなんて……」
空を見上げながらイエローが絶望の声をあげた。
「ハハハ! すごい、力が溢れてくる。このボールを手にした時から、肉体は変わらずとも衰えていた力が戻りつつあるようだ!」
「まさかボール単体にそんな副作用があるなんて……」
ブルーが彼の手に持つボールを睨みながら言った。
「だからこそ、その力を見せてやる! 見よ、これがすべてを凍らせる絶対零度だ!」
──ヤナギの絶対零度!
膝の上にいるウリムーとセレビィそしてヤナギの力が合わさって放たれた絶対零度が森全体を凍らせた。それは目の前にいる図鑑所有者達の体を拘束し、全国各地から集ったポケモン達をも凍らせていた。唯一抵抗できるのはレッドのリザードン、エンテイ、ファイヤーのみ。
しかしリザードンとエンテイも未だに氷の人形と交戦中で、ファイヤーは空で戦っていて助ける隙が無い。
もし仮にレッドがいれば、この三体達とシンクロすることで何とかなったかもしれないが現実は非常で、ついそのことをリーフが叫んだ。
「もぉーーーー! レッドがいればこんな事になってないのに!」
「レッド……? アハハハハハハ!」
ヤナギが嬉しそうに笑うと、その豹変した彼を見てグリーンが問いかける。
「何がおかしい⁉」
「なに、本当に私の祈りが通じたと思ってな! 本当に嬉しい誤算だったよ。私の計画において最大の障害はお前らでも、ましてジムリーダー共でもない! まさにあの小僧、マサラタウンのレッドだったのだからな!」
「な、なんでそこでレッドの名前が出てくるのよ……?」
「リーフ、グリーン。あのね、レッドは全部知ってたのよ。私を攫ったのがホウオウで、仮面の男がヤナギってことも全部」
「あ、アイツ! なんでそれを隠していたんだ!」
「きっとあたしやシルバーのためよ。アイツとの決着をこの手で付けさせるためにね」
「何で相談の一つや二つしないのよ。あのバカレッドは……」
「……そうか。そのためにアイツは俺達に自分のポケモンを……」
グリーンはレッドのポケモン達を見た。彼らだけはまだ戦っている。この時のためにリザードン達を託したのかとようやく理解できた。
そして姉であるナナミから聞いていたレッドの体のことを思い出した。度重なる戦いでアイツの体は限界なのだと。
だからか。だから戦いたくてもできなかったのかとグリーンは歯を噛みしめる。
しかしそれはそれだ。黙っていたことは許せない。これにはグリーンが怒るのも無理はなかった。
ただレッドの誤算はここまで用意していた切り札が尽き、さらには二枚の羽そのもの力が分からなかったこと。そしてヤナギのその執念を侮っていたこと。
それでもゴールドやシルバー、恐らくポケモン図鑑を託された自分達のように解決すると信じていたというのもあった。
「フフフ。お前達はよくやったよ。そして我が弟子ブルーとシルバー。お前等のおかげ今日まで時間がかかったが、それもすべて許そう! 私は時を超えるのだ!」
「待って! ゴールドは、ゴールドはどこなの⁉ あなたを追っていたはずよ!」
「ゴールドか……。彼はよくやったよ。時のはざままで私を追いかけてきたのだからな。だが今頃はどこぞと知らぬ時間で、私が作りだした氷壁の中だ」
「そんな……」
「いや、ヤツは近くにいる! 先程からポケットにある図鑑が震えている。共鳴音はなっていないが反応はしている!」
「つまり認識はしているってこと!?」
「さすがユキナリが作ったモノだ。そう、時間のはざまにいるということはここに居るかもしれないし、逆に言えば居ないということでもあるからだ。ある意味生き地獄というやつだな」
「そんな……」
『何が生き地獄だってーーーー!!』
「!」
声と同時にヤナギの背後にある祠が激しく光る。同時にシルバーとクリスのポケモン図鑑の共鳴音が鳴り響く。だが同時に別の音も鳴り響いていた。
「ゴールド!」
「ふっ、しぶとい男だ」
クリスが涙を流しながら彼の名を呼び、シルバーもゴールドの帰還を彼らしいやり方で喜んでいた。
ヤナギは目の前にいるゴールドに驚きを隠せないでいた。あの氷壁を破ることは不可能なはずだからだ。
「ば、バカな……どうやって私の氷壁を、なぜ羽がないのに時のはざまから帰ってこれた!?」
「へへへ。何て言うんっスかね。まさに、正義のヒーローが助けてくれたってヤツだ!」
自身の得物であるキューを空高く掲げる。ちょうどゴールドとヤナギの間、祠の後ろにある一本の大木の天辺。
全員がゴールドが指す場所へ顔を上げた。ただグリーン達カントー組はある核心を得ていた。先程ゴールドが現れた際に鳴ったジョウト組の図鑑の共鳴音と同じものが彼らの図鑑でも鳴っている
だがそれは同時に有り得ない現象だった。何故ならレッドの図鑑は正式にイエローが引き継いだからだ。オーキド博士曰く、レッドの登録データだけはそれぞれに入ってると三人は聞いてたが。
「まさか……」
「でも……」
「ありえないでしょ……」
「けど、もしかしたら……!」
グリーン達に小さな希望の火が灯る。
ヤナギがその視界に一人の人間の姿を捉える。だが日が沈みかけているというのに、謎の光で人の輪郭しか見えない。
『時間は残酷だ。常に前へと進むだけで巻き戻してはしてくれない。だが人は誰しもその針を巻き戻したいと、あの時ああしていれいばこうしていれば、誰もが過去をやり直したいと願う。しかし俺はあえてこう言おう。だからこそ前にしか進めないその時間を、その一生を大切に生きる……人、それを……「人生」という!』
「誰だ、貴様!」
『問われたならば答えよう……とうっ!』
「何っ⁉」
『俺は太陽の戦士! サンレッド!!
爆発。
サンレッドRXが着地して名乗った瞬間に背後で巨大な爆発が起こる。よく見れば、そのちょっと後ろに見慣れないポケモンがうちわで煙を空へと仰いでいる。
「……」
『……』
静寂。
そう、つい数十秒前までは激しい攻防を繰り広げていたのに対し誰もがその動きを止めていた。空で戦っていたサンダー達とホウオウにルギア。地上で戦っていたリザードン達とヤナギが作り出した氷の人形でさえも。
あのヤナギでさえ目の前で起きた馬鹿な光景に口を開けて固まっていた。
だからこそ、この静寂の中で音が余計に響き渡る。グリーン達のポケモン図鑑と、サンレッドから同じポケモン図鑑の共鳴音が鳴り響く。
つまりはそれが答えであり、いやそれがなくとも分かっただろう。
額に輝く太陽を模したシンボルと緑のバイザーがある赤いマスクを被り、首には赤いマフラーのようなものを巻き、「I LOVE SHINO」と書かれたダサTシャツにジーパンと極めつけの左手の甲に輝く6つの石が嵌め込まれたガントレット。
そう、グリーン達は知っている。だからこそ、すぐ口に出す癖があるリーフが言ったのだ。
「……何やってるの、レッド……?」
『違う! 俺は太陽の戦士! サンレッド!! アーエッ!!!』
「いや、レッドだろ」
グリーンがツッコむ。
『だから、俺は太陽──』
「レッドよね」
最後まで言わせないかのようにブルーがツッコむ。
『だか──』
「レッドさんカッコいいです!」
トドメのイエローであった。
ぷるぷると体を震わせながらサンレッドことレッドはマスクを外して叫んだ。
「お約束ってもんがわからねぇのかよ⁉ ていうかこれうるせぇ!」
レッドがポケットから分厚い板を出した。確かにポケモン図鑑から発せられている共鳴音はそれから出ていた。大きさはだいたい11インチから13インチぐらいで、厚さが2、3cmのタブレットと言えばいいだろうか。そもそもそんなものがどうやってポケットに入れていたのかすら怪しい。
「おい。レッドそれはなんだ?」
「え? なんか図鑑らしいよ。まあそれは置いておいて」
ポケモン図鑑らしきものと赤いマスクをどこかへしまうレッドを見てシルバーが目を光らせてレッドを見ていた。
「カッコいいのに……」
「シルバー!?」
隣にしたクリスが思わず叫んだ。
「ほらシルバーって二歳の頃に攫われたから、子供らしい娯楽を知らないのよ……けど、カッコいいっていうのはないわー」
「いや、オレもカッコいいと思うんスけど……」
「──貴様、レッド⁉ なぜだ、なぜ今になって現れる!!」
先程の空気を戻すかのようにヤナギがレッドに敵意を向ける。
「よおヤナギ、久しぶりだな。だがまずは……サーナイト」
『はい。マスター』
レッドだけではない。この場にいる全員にサーナイトの声がテレパシーによって届く。
空へ飛ぶとサーナイトはサイコフィールドを展開。この場にいるすべてのポケモン達の想いを増幅させる。絶対零度で凍り付いてるポケモン達からもその想いが溢れ出す。その力はホウオウとルギアへと向けられた。
光が二体を包むと、その眼に狂気はなくなり優しい目を取り戻した。
「バカな!? 私の支配から解かれたのか……!」
「ポケモンは力で支配しなくても、心が通じ合えば力を貸してくれる。こんな風にな」
──レッドのシンクロ! リザードン、ファイヤー、エンテイ、ホウオウとシンクロした!
──5人の
5人の体から炎の波動が放たれる。それは森や草木を焼くことはなく、ヤナギの絶対零度と氷の人形を溶かした。拘束されていたグリーン達や凍っていたポケモン達が解放される。
その光景に驚くヤナギであるが、すぐに冷静さを取り戻し祠に背を向ける。
「つくづくお前には驚かされたばかりだ。だがお前と戦う必要などどこにもない! 私は……私はあの子達の下へ行くだけでいい!」
「あ、待ちやがれ!」
ヤナギが祠へと飛び込むとゴールドがそれを止めようと走るが、その行く手を新たに作り出した氷の人形達が立ちはだかる。だが人形はゴールドではなくレッドを囲んだ。
ゴールドは祠の前に立ち躊躇する。時のはざまに入るためには二枚の羽が必要だからだ。
「くそぉ! ここまで来てまた足止めかよぉ!」
「そんなことはないぞゴールド」
「さん……じゃなかった。レッド先輩、それってどういうことっスか⁉」
氷の人形達に囲まれながら冷静に言うレッドの視線の先にゴールドも目を向ける。そこはイエローの麦わら帽子。そこには輝く二枚の羽がたしかにあった。
「イエロー。渡してやれ」
「え? えーとはい……あれ、外れない」
「おい麦わら君早くしろ!」
「で、でも、外したら!」
「あ、イエロー。レッドね、知ってるわよ。あなたが女の子だってこと」
「最初から知ってたゾ」
「えーーそうなの⁉」
「リーフ……お前、気づいてなかったのか?」
「え? もしかしてわたしだけ?」
「はぁ……ほれ」
ため息をつきながらレッドはガントレットを構えると、青の石が輝きイエローが被っていた麦わら帽子がゴールドの手に瞬間移動した。それにより、イエローの本当の姿である金髪のポニーテールが露わになった。
「え⁉ な、なんで!?」
「そっちの方が可愛いんだから、そのままでいればいいんだよ。さあゴールド。決着をつけてこい。俺がスイクン達とサポートしてやるから」
──レッドのシンクロ! スイクン、ライコウ、エンテイとシンクロした!
レッドの言葉にスイクン、ライコウ、エンテイがゴールドの前に立つと、彼はライコウの背に乗った。気づけばクリスにシルバーもスイクンとエンテイに跨っている。
「へ……もう何も言わねぇや。じゃあ時間を、
「頑張れよ、後輩……さてと」
ゴールド達を見送ったレッドは自分を囲っている人形を見渡すが、その表情は依然と冷静である。
「数はざっと5体。人気者は辛いぜ」
『マスター、ワタシがやりましょうか?』
空からテレポートしてきたサーナイトが言った。
「問題ない。すぐ終わるよ」
ガントレットを構え今度は緑の石が光ると、5体の氷の人形はまるで最初からいなかったように消え去った。
「れ、レッド! あんた何をしたの⁉」
「元の水分に戻しただけ」
リーフが慌てて近づきながらたずねるが、言ってる意味がわからないのか首を傾げる。
「けどレッド。あなたどうやってここへ来たのよ? ゴールドを連れてきたってことは、時のはざまから来たってことよね? あなた羽なんて持って……」
「ブルーの言いたいこともわかるけどあるんだよなぁ。ほれ」
「ぎ、ぎんいろのはね!? レッドさん、いつの間に?」
「本人から貰った。な?」
『ほれ。役に立ったろ?』
その場にいる全員にテレパシーを送りながらルギアが空から下りてくる。
「闇落ちしてたら意味ねえだろ。だからフラグだって言ったんだ。けど、ここに来るための片道切符ぐらいの役目は果たしただろうさ」
そう言うと手にあったぎんいろのはねが砂のように風に飛ばされながらその姿を失っていく。
「だがレッド。お前、いつ戻ってきたんだ? まだ二日目だぞ」
「二日……? ああ、こっちはその時間軸なのか。まあ色々と説明してやりたいが……おっ、戻ってきた」
レッドが言うと祠からクリスとシルバー、そして三犬とゴールドのピチュだけが戻ってきた。祠に入ってまだ数分だが、こちらと時のはざまでは時間の流れが違うのだ。
「あーゴールドはまだ中か。ちょっと連れてくる」
「え、ちょレッド⁉」
リーフが手を伸ばすが、レッドは祠ではなく空間を裂いてその中へ消えていった。
ゴールドは時のはざまの中で彷徨っていた。
まるで力尽きたかのようにその身をただ何かに委ねている。この空間に存在するためには二枚の羽がなければならない。それがないとどうなるか。想像すらつかない。もしかすれば、先のヤナギのようにどこかへ消えてしまうのかもしれないとゴールドは思った。
あいつは……ヤナギは最後に涙を流して笑っていた。結果はどうであれ、ヤナギは自分の目的を果たしたんだ。時のはざまが見せたヤナギの過去。親を失ったラプラスの子供を会わせるために今日まで生きてきたんだ。
複雑な気分だった。勝ったとか負けたとかそんなモノはない。きっとそんなものなかったんだと思う。
だけど自分はこれで終わりだ。
「でも、悔いはねぇや……」
「何勝手に諦めてるんだ?」
「れ、レッド先輩⁉ ど、どうしてここに⁉」
「お前を連れ戻しにな。あ、どうやってとか聞くなよ? 羽の力とか全然関係ないから」
「……それ、逆に聞きたくならないっスか?」
「気持ちはわかるよ。で、ヤナギに今でも怒ってるか?」
まるですべてを知っているかのような質問をしてきたなと思った。
「わかんないっスよ。ヤナギは最初、ポケモンを人間すら利用できるものは道具だって言った。けどそれは違ってて、あいつはポケモンを愛していたんです自分のポケモンを。その愛を貫くために使うモノすべてが道具だって」
最後に聞いたヤナギの本心。結局の所、すべてはその愛のための行動だった。
「だからって、今までヤナギがしてきたことをオレは許せない」
「だろうな。だがゴールド、ヤナギもまた一人のポケモントレーナーなのさ。人間はほんの些細な出来事で善人から悪人に変わっちまう。すべてはポケモンのため、あるいは自分のためにポケモンを使う。ゴールド、ヤナギは根っからの悪人だと思うか?」
「……悪人ではないと思ってます。けど善人だとも思ってないっス」
「俺はな、あいつの愛する……愛されていたポケモン達にとっては、少なくとも善人だったと思ってるよ」
「……オレにはそういう難しいのは分からないっす」
「俺だってそうだよ。ちょっとカッコつけただけだ。さあ帰ろうか。お前を待ってるやつらがいる」
そう言って腕を掴むと、時のはざまの中の空間が裂ける。それに入る前にレッド先輩は確かにこう言った。
「ヤナギ。今だけは優しい時間を貴方に」
空間を裂いて現実世界と帰還したゴールドとレッド。ゴールドの帰還にクリスとシルバーが迎える中、レッドには大勢のポケモンと人間が迫っていた。
「ピカ!」
「リザァ!」
「バナァ!」
「ガメェ!」
「マスター! あ、ゴンゴン!」
「おーお前らも久しぶりだな。あとピカ、子供が出来たのか。やりますねぇ!」
「いやぁ~照れるピカァ~」
「照れるなよこのこの! ん? これはナツメか」
レッドの言葉と同時にナツメとカンナにハナダのお姉さんがテレポートしてきた。恐らくナツメがレッドの波動を感じとったのだろう。三人とも、特にカンナとお姉さんはホウオウとルギアとの戦いで髪はぼさぼさ、服はボロボロであった。
しかしそんなことなど気にすることなく三人はレッドを抱きしめる。
「レッド、レッドなのね⁉」
「そうだよナツメ」
「うーーーーレッドぉ。私頑張ったんだよ⁉ 負けたけど、頑張ったのよぉ!!」
「よしよし」
「レッドくん成分補給です。ぎゅー」
「お姉さんもありがとうございます」
「なんだこのフェロモンの塊みたいなお姉さんたちは……ぐえぇ!」
ハナダのお姉さんのお尻に手を延ばそうとしたゴールドがその場でかなしばりを受けたかのように硬直した。
「ゴールド。お姉さん達に手を出して見ろ……埋めるぞ」
「殺すって言わない辺り温情よね。ね、ブルー」
「んーていうか、レッドの雰囲気がちょっと……」
「……あれ? レッドさん、いつもの帽子はどうしたんですか?」
イエローがたずねると他のみんなもそれに気づいたのか、確かにとうなづいていた。
「ん? ああ帽子は……ちょっと預けてきた」
「預けたって誰に……」
「ねえレッド。もしかして……あなたなの? 最近予知が見えなかったのって」
レッドの左手にあるガントレットを見ながらナツメが言う。エスパー故に、その石の力を感じ取ったのだろう。
「今の俺が来ること知られるわけにはいかないから、ちょっと干渉させてもらった」
「今って……レッド様? それは一体……」
「そう……ですね。確かにレッドくんの気配が……あう」
何かを言おうとするお姉さんの口をレッドの指が塞いだ。その行動に思わず照れるお姉さん。
「それは言わないお約束。あとその格好だと目に毒だから」
再び緑の石が輝くと、カンナとお姉さんのボロボロだった服が綺麗に元通りになり、傷ついていた体も傷一つなく消えていた。
不思議な光景に誰もが目を丸くしているがレッドは特に気にもしていない。
『マスター、そろそろ戻らないと』
「そうだな。まあ色々知りたいだろうけど、俺戻るわ」
「え? レッド、戻るってどこに?」
ナツメの言葉に答えず、ただ苦笑して見せるだけだった。左腕を構えその先の空間が割れその前に立つレッドとサーナイト。
すると今になって思い出したのか、サーナイトがレッドの前に出てお辞儀をしながら自己紹介を始めた。
『皆様、改めまして。わたしはサーナイト。見ての通りマスターのポケモンです。以後、良しなに』
「律義だなぁ。ま、という訳だから。それじゃあみんな、未来でまた会おう!」
そしてレッドとサーナイトは空間の裂け目に消えていき、二人が裂け目に入るとそれも閉じた。
その後──
ホウオウとルギアは再び本来自分がいるべき場所へ戻り、それに仕えていたスイクン、ライコウ、エンテイもまたどこかへ消えた。またレッドの頼みでブルーに協力していたフリーザー、ファイヤー、サンダーもカントーへと飛び去っていった。
この世に現存するにじいろの羽とぎんいろの羽はすべて消え去り、二度とウバメの森の祠が開かれることもなかった。
こうしてカントー・ジョウト全域を震撼させた「
ただ──レッドという最大の謎を一つ残して。
第4章 完
上を見上げれば青い空が広がっていて、前を見渡せば雲が嵐のようにゆっくりと渦巻いている。
さらにここはちょっと走れば簡単に横断出来てしまうほど小さい島。
まるでちょっとした竜の巣みたい。
けどここにあるのは変な味がするきのみとなんか大量にいるソーナノ。
その島の中心で頭に一匹のソーナノを乗せた男が膝を抱えながら心から叫んだ。
「ここは一体……どこなんだァーーーーーー!!!」
「ソーナノ!」
第5章へつづく
運営からのお知らせ
レッドの…………―――現在異常は検知しておりません。
結局ガントレットが元ネタ通りになったのは何だかんだで予定通り、サンレッドネタは真面目に入れました。なのでそこら辺は第5章です。
次章はたぶん、皆さんからたくさんご指摘のあった物語(展開)になると思います。
‐追記‐
アンケートを締め切らせていただきました。
協力してくださりありがとうございます。