おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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始めに言っておきます。
多分第5章はシリアスよりギャグです。

前回アンケートに協力してくださりありがとうございます。
実は3番が初期タイトル候補でまさか二番目に多いとは思っておりませんでした。まあ、あとは流れというか読者の皆様に対する反応から考えただけだけど。
その結果が900人以上が5番を選ぶって言うね。

ついに正体現したね? 

私が。


第5章 古代ポケモン激突!レッドがやらねば誰がやる
まさかここで一生を終えるのでは……?


 

 

 

 

 

 

 ルビー・サファイア・エメラルドには「マボロシ島」と呼ばれる場所がある。その名の通りまさに幻の島なのであるが、実際にこれを当時に拝めたプレイヤーはほとんど居ないと言われている。むしろ「デマの一つ」と言われていたこともあった。

 マボロシ島の存在を初めて知るのは、キナギタウンの一番右の家にいる老人からその情報を得た時である。

 

 

「今日はマボロシ島が見えんのう……」

 

 

 ただそれだけ。恐らく誰しもが暇があれば一度は訪れてはその台詞を聞いたと思われる。

 本作には旅の序盤で意味深な場所、レジアイス等のポケモンがいる場所や隠しギミックなどがあり今までとは違った楽しみがあった。

 だが、これだけは違うのだ。

 マボロシ島が見える条件。それは……手持ちのポケモンの性格値の下位2バイトが、セーブデータごとに一つ存在する疑似乱数由来の2バイトの出現判定値と一致する場合に出現するというもの。

 うん。意味が分からない。

 簡単に言えば。手持ちのポケモンの性格値が老人が設定している数字と一致すれば見れるというもの。

 ようは1/65535の確率でマボロシ島にはいけるということだ。

 だがそれで終わりではない。出現判定値は午前0時を過ぎてからマップの境界をまたぐと更新されるのだ。

 つまり、電池が切れればマボロシ島には絶対にいけないのである。

 もっと言えば、マボロシ島にしか存在しないチイラのみと、ここにしか出現しないソーナノの二つしか特に得る物はない。もしやラティオス、ラティアスの片方がいるのではと思った子供も少なくはないだろう。

 当時の子供達の中でこの出現条件を知る者が果たしていただろうか。例えいたとしても嘘つき呼ばれされたに違いない。

 だがここは現実のポケモン世界。そんな数字などは一切関係ない。

 マボロシ島とは現実世界とは異なる時間が流れていて、それは時には早く、時には遅く流れている不思議な空間。その流れが現実世界とマボロシ島と一致した時のみ島は出現し出入りが可能となる。

 そして不運にも我らがレッドは、その二つの時間がちょうど重なってしまった瞬間に出くわし、ここマボロシ島に遭難してしまったのである。

 

 

「……旅に出たら遭難したとです。レッドです……レッドです……」

「ソーナノ!」

 

 

 流れついた際に出会った大勢のソーナノの内の一匹に懐かれてしまい、常にこうして頭の上に乗っている。ソーナノとしか言わないから、まるで煽られているんだと勘違いしてしまうレッド。

 

 

「お腹空いたなぁ……」

「ソーナノ!」

「あのきのみ食べろって? いやだよ、マズいから」

「ソーナノ……」

 

 

 レッドが言う不味いきのみこそ、ここマボロシ島でしか取れない貴重なきのみなのだが本人はそんな事を知らずに言う。

 さらに言えば、彼はここがマボロシ島だということすら分かっていない。前世の時点でマボロシ島など行ったこともないし、その出現条件すら知らない。唯一覚えているのは、レジ系のイベントはこなしてレックウザを捕まえたぐらい。ラティ兄妹のどちらかを捕まえたことすら曖昧であった。

 

 

「まさかここで一生を終えるのでは……?」

「ソーナノ?」

「それは絶対にイヤだ! ナツメに、お姉さんに会えないなんて……死んでも死にきれない……まあ一度死んだけど」

 

 

 ナツメの次にハナダのお姉さんの名前が出てくるあたり、レッドの心の中の割合はナツメが占めていると思うと、彼も少しは成長したのだと思われる。

 

 

「あの雲は所謂結界かな。なにせ、雲を抜けようと思ってもこちらに戻されちゃうし」

 

 

 レッドもただ遭難していたわけではなかった。周囲の雲が安定しないため、さすがにラプラスに乗ることはできないので自分で飛んで脱出を試みていたのだ。しかしそれはすべて失敗に終わっている。

 

 

「結界というか、センサーがビリビリと感じてはいたんだ。ここは何かの力場に守られている……ならば!」

 

 

 力場というよりも時間の流れそのものであるが、レッドに知る由もない。

 

 

「ソーナノ、ちょっと離れてろ」

「ソーナノ!」

 

 

 ひょいっと頭からソーナノが降りたのを確認して、大きく息を吸い脇をしめる。

 ──レッドのフォルムチェンジ! レッドはトリニティフォームになった! 

 黄金色の闘気を纏い、左足を大きく一歩前へ踏み出し腰を下げて両手を合わせて構えると、そこにエネルギーが収束していき次第に手から溢れる出る。

 

 

「……波----っ!!」

 

 

 ──レッドのはかいこうせん! 

 一気に腕を前に突き出してそれを放った。本来のはかいこうせんはノーマルであるが、レッドのトリニティフォームは雷、炎、氷の三タイプを合わせて出来た形態である。よって繰り出す技は常に三タイプの属性が備わっているのである。それぞれの属性の色が螺旋を描きながら、島を覆っていたこちら側と現実世界を隔てる壁に激突した。

 例えるならガラスをが少しずつ割れていく感じだろうか。壁あるいは結界に少しずつひびが入っていくのが見える。

 だが足りない。このままで突破できない。

 

 

「うおおおおおお!! エネルギー全開だァアアアアアア!!!」

 

 

 レッドの胸が三色に光るとさらに力を増した光線が放たれ、エネルギー弾を受けていた空間が歪みバチバチと音を立てると爆発を起こした。同時に謎の渦が現れる。まるでブラックホールのようだとレッドは思った。

 だがそれも束の間。彼はその場に膝をついて倒れた。

 

 

「ハァハァ! くそっ……一気に力を全開放したら3分も持たねぇ……!」

「ソーナノ!? ソーナノ!?」

 

 

 慌ててソーナノが声を上げながらレッドに近づき、その手でペチペチと彼の顔を叩く。

 

 

「へへ。もうひのこすら出ねぇや……」

「ソーナノ!」

「ん……? やべぇ! 空間が閉じる……動いてくれ、俺の体ぁぁぁ!!」

 

 

 全身が動くことを拒んでいるが、それでも強引に動かして立ち上がり前へと進む。すると足元にいるソーナノが飛び跳ねて何かを訴えてくる。

 まるで、自分も連れて行ってくれと言っているかのように。

 

 

「お前も一緒に行きたいのか?」

「ソーナノ!」

「へっ物好きな野郎だ……じゃあ行くか」

「ソーナノ!!」

 

 

 空いていたボールにソーナノを入れ、レッドは身体に鞭を打って走り出し目の前にできた黒い渦の中へと飛び込んだ。

 そこはまるで嵐の中のようで、ただでさえ体が動かない自分を弄ぶかのように渦の中心へと引きずり込まれる。

 そして次の瞬間、荒れ狂う海へと放り出された。

 

 

「ぐぉおおお! 溺れる! 溺れる!」

 

 何とか手と足を動かそうとするがすぐに並みに飲み込まれてしまう。先程の影響で満足に体が動かせず、ただ自然の猛威によって罰を受けているかの如く抵抗すらできない。

 

 

「はぁっ! おご……」

 

 

 海面から顔を出すのも楽ではなく、一回だけ呼吸できればマシだと言わんばかりに再び海の中へと引きずりこまれ、それを何十回も繰り返した末にレッドの意識は途切れた。

 そのままレッドの体は海へと委ねられ、何処かへと流される。不思議なことに彼が意識を失って少し経てば嵐は止み、海も穏やかになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮面の男事件から二年後──

 カントー地方セキエイ高原ポケモン協会本部にて、今日はある催しが開かれていた。

 その企画はポケモン協会主催の「交流会」と呼ばれているものだ。

 近年はロケット団による犯罪、ワタル率いる前四天王によるカントー襲撃、カントー・ジョウトを震撼させた仮面の男事件の影響で開催が見送られていたが、ここ数年やっと落ち着きを取り戻したと判断され再び開催されることになった。

 この交流会の目的は、その地方のチャンピオンを筆頭に四天王あるいはジムリーダー達と提示された議題に沿って話し合うものがメインであり、バトルはおまけみたいなものであった。

 カントー地方は全国的に見ても中心に位置するので、ここセキエイ高原が会場となることが多かった。

 そして今回はカントー・ジョウト組とシンオウ組との交流であった。

 議題はここ数年立て続けに起こる事件についてとその対策。ポケモンリーグ規定の変更によって増加したトレーナー達のジム挑戦や後進の育成などなど。

 それぞれの地方のジムリーダーは共に上から下まで幅広く、多くの意見が飛び交う。特に今回は両地方のチャンピオンが女性ということもあって賑やかであり、多くの報道陣や記者団が協会へ訪れている。

 特にシンオウチャンピオンであるシロナは、チャンピオンになってから今日までその座を守り続けているまさに無敗のチャンピオン。同じ女性であり、自分と5歳ほどしか違わないシロナに、リーフも尊敬の眼差しを向けていた。

 

(ほんと、まさに年上のお姉さんって感じ)

 

 今年で年が20歳と聞いているが、大人の仲間入りをしたばかりの女性とは思えぬほど美しい女性だと感動していた。綺麗な金髪に全身黒の服を着こなしているのは、少し憧れてしまうほどだ。美しさだけではなく強さも兼ね備え、さらには考古学者という肩書もついている。特に左目が前髪によって隠れているのがセクシーだった。

 まさに全国の女性の憧れと言っても過言ではない。

 まだこうして机越しでしか会話していないがきっと優しい人なんだろうなとリーフ想像していた。身近な女性で言えばまさにハナダのお姉さんである。

 けどどうしてか。経歴も肩書もシロナの方が凄いのに、お姉さんの方が上だと思ってしまうのは何故だろうか。

 交流会は順調に進んでいる。リーフもこの2年でチャンピオンとしての責務を果たしていた。それだけのことで理事長からは泣いて喜ばれた。それほどまでにレッドの時は酷かったのだろうと簡単に想像できた。

 逆に予想できなかったのはバトルだけがチャンピオンの仕事ではないようで、メディアや雑誌の取材なども自分の仕事だった。少し前に祖父であるオーキドの使いでホウエン地方にいるオダマキ博士の下を訪れた際、その娘さんに自分が表紙の雑誌を突き出されてサインを求められたのはちょっと嬉しかったとリーフは思い出す。

 しかしこの交流会で一つ、不可解なことがあった。

 それはカントー側の席に座るナツメのことである。隣にいるエリカがもっと愛想をよくしてくださいと言っているのが聞こえて振り向いたのだが、彼女は腕を組んでジッとシロナを睨んでいたのだ。そのシロナは気づいていないのか、一向にナツメの方には目を向けてはいないのだが。

 そんこともありつつ、なやんかんやで交流会は無事終了。

 この後の予定では記者団との応対の後に食事会が予定されている。その前に一度互いに挨拶をしようと両陣営のジムリーダー達が挨拶を交わしている。

 自分もとシロナの下へ駆け寄ると、向こうも笑顔でこちらに歩いてきた。

 

 

「改めましてシロナさん。わたしはリーフです。今日はありがとうございました!」

「こちらこそ、あたしはシロナよ。今日はいい会談だった。鉄壁のリーフちゃん」

「わたし、そのあだ名好きじゃないんですけどね……」

 

 

 自分の胸を連想するんで。とは言えずそのまま受け流す。結局二年経っても胸は成長せず、むしろ成長したのはお尻だった。姉からは安産型でいいお尻よ、と言うがこちらはよくない。

 

 

「噂の桃色の双璧と戦っては見たいけど、この後ちょっと行くところがあるの。ごめんなさいね」

「え、そうなんですか? シンオウ程じゃないですけど、こっちにも美味しい料理があるのに」

「ちょっとジョウトにある遺跡が見たくて。学者としてちょっと気になってしょうがないのよ」

「あーそうなんですね。でも、そこまで急がなくても──」

 

 

 その時後ろから、他のジムリーダー達を押しのけてナツメが凄い形相をしながら近づいてきた。

 

 

「ちょっとあなた、シロナって言ったわよね?」

「な、ナツメいきなりどうしたの!? いくら年下だからって失礼だよ!」

「黙ってなさいリーフ。答えなさい。なんであなた、壁を張ってるのかしら?」

「……」

「壁……? そんなものないけど」

 

 

 ナツメの言葉で再度シロナを見るが、特にこれと言って壁なんてものはない。てっきり心の壁かなと思ったが──

 

 

「ハッキリ言いましょうか? エスパーとは違う力で頭の中……心を覗かれないようにしてるでしょ? それも、私に覗かれることが分かっていたようにも感じたわ。教えなさい、あなた何を隠しているのよ」

 

 

 リーフは知らないことだが、ナツメには協会から内密に密偵を依頼されていた。かつてのヤナギのようにジムリーダーが悪に墜ちた例のこともあって、この交流会で密かにそれを調査しようとしていたのだ。

 そしてシンオウ組の中でただ一人、心を読めない者がいた。それがチャンピオンのシロナだった。

 

 

「し、シロナさん……?」

「……ふふっ」

「?」

「フフフ……アハハハハハハ!」

 

 

 おかしくなったのか突然笑いだすシロナにリーフは思わず後ずさる。ナツメはジッとシロナから目を離さず、すぐに対応できるように臨戦態勢に入っていた。そんな彼女達の異変に周りのジムリーダー達の視線が向けられる中、落ち着いたシロナがリーフとナツメだけを見た。

 

 

「ヒッ──」

「あなた……」

 

 

 リーフは思わず声に出してしまった。シロナの目、片目しか見えないその右目がまるで獲物を刈るような目に恐怖してしまったのだ。そこに先程までの美しく優しい顔をしたシロナはいない。口角をぐんと引き上げ、般若の面あるいは笑ったピエロに似た表情見せている。

 対してナツメはリーフと違って確かに感じ取っていた。彼女の目は自分達二人をまるで怨敵のように睨んでいる。

 

 

「流石ナツメさんですよ。彼から聞いていた通りの女性だ」

「彼……? 私と親しい男はこの世に一人だけだ」

「でしょうね」

「なに?」

「そうそう。私からも一ついいですか?」

「……言ってみろ」

 

 

 ナツメは渋々シロナの要求を飲んだ。

 だがそれを許さなければよかったとナツメはおろかリーフさえ後悔した。

 

 

「彼、まだあのダサTを好んで着てます?」

「え──」

「貴様……!」

 

 

 ダサTと言われて思い当たる男などこの世に一人しかいない。彼女であるナツメや幼馴染である自分とブルーや他の皆でさえ「そのTシャツはダサいからやめろ」と何度言っても、彼はカッコいいだろの一点張りで言うことを聞いてはくれなかったのだ。

 だけど、何故彼女がそのことを知っているのだろうか。面識はないはずだ。

 シロナは苦笑して見せると、少し前までの表情に戻って見せると背中を向けて出入口へと歩き出した。

 だが数歩歩いて立ち止まると、左手を上げてパチンと指を鳴らした。

 ──シロナのエアスラッシュ! 

 

 

「──!?」

 

 

 肩に髪の毛が垂れてようやく自分の身に何が起きたのかリーフは理解した。

 最近この戦闘服を着るときは、長い髪が邪魔になるのでポニーテールにして束ねている。その髪留めが切れたのだ。いや、斬られた。

 気づかなかった──

 ただの指パッチンだと思った。そこに何の意志も感じなかったから。

 そしてシロナは前髪が隠れている左側を向いて、その表情を見せないかのように言った。

 

 

「またお会いできる日を楽しみにしていますよ」

 

 

 だがその言葉とは裏腹に、シロナは今後数年の間に開かれた交流会に一度も現れることはなかった。

 

 

 

 




カントーを出てたった数日でホウエン地方入りだって⁉
ラプラスはサラマンダーよりはやーいんだよ⁉()

あと誤解を招く前に言っておくゾ
シロナはとてもピュアなんやで。

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