おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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こんにちはー大地くんと海くんいますかー?


せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ!

 

 

 

 

 

 

 ルビーとサファイアの80日間冒険競争32日から41日の間にて。

 

 ホウエン地方にある送り火山。

 ここは古くからあるポケモン達が眠る墓地でもある。カントーでいう所のシオンタウンにあるポケモンタワーのようなものだろうか。さらに外壁や山頂には霧が出ていて、陽が昇っていても薄暗い場所のためか、余程のことがない限り近づく人間は少ない。

 ポケモンが眠る場所のためか、ここには一部を除いて多くのゴーストポケモンが生息しており、それ目当てでオカルトマニアなどがいるぐらいである。

 だがここにはあるモノが祀られている。

 それは「紅色の宝珠」と「藍色の宝珠」。

 二つの宝珠はそれぞれホウエンに眠る超古代ポケモンであるグラードンとカイオーガを自由自在に操れると言われている。

 この送り火山はその二つの宝珠を祀るのと同時にそれ守護する役目を持った二人の人間が滞在している。

 そしてその二人以外にここを守護するトレーナーがいた。

 名をフウとラン。

 二人はトクサネジムのジムリーダーであるがポケモン協会理事長からの命により、この地にある二つの宝珠を守護していた。

 エースであるソルロックとルナトーンを出して、二人はこの地に迫る何かに警戒している。

 

 

「感じてるかいラン」

「ええフウ。この送り火山に何かがいるわ。見て、ソルロックとルナトーンが何かを感じている」

「二人だけじゃないみたいだ。野生ポケモン達もどこかソワソワしてるように見える」

「おかしいわ。理事長からいまホウエンでは二つの組織が暗躍していると聞いているけど、これは異常よ」

 

 

 ここに住む野生ポケモン達は比較的温厚だ。ゴーストポケモンではあるため、たまに訪れた人を驚かすことはあっても襲うことはない。それだけこの場所の意味を理解しているということでもあるのだろう。

 だが今は違う。二人と同じように落ち着きがないのだ。警戒しているようにも思えたがもっと開放的というか、むしろ何かを待っている。

 その時、ソルロックとルナトーンが何かに反応した。山頂へと続くこの道の下から、何かが近づいてきている。

 フウとランは共に構え、いつでも応戦できる状態。まずは相手を見てから判断し、もしも噂のマグマ団かアクア団ならば容赦なく戦う心構えであった。

 だがそれは、簡単に解かれた。

 

 

『おっす』

「……」

「……」

 

 

 突如挨拶をしてきたその人間は、赤いマスクを被って「争いは同じレベルの者同士でしか発生しない!!」と書かれたシャツにサンダルを履いた男がやってきたからだ。

 二人は予想外の人間の登場に呆気に取られている。

 

 

『まったく。これだから最近の若いもんは。挨拶もできないのか』

「え、あ、すみません……」

「ラン!? そこは別に謝るところじゃないよ⁉」

「で、でも挨拶は実際に大事だって古事記や民明書房に書かれているのよ?」

「た、たしかにそうだけど……」

『私は太陽の戦士サンレッド。見ての通りヒーローをやっている』

「ひ、ヒーロー?」

「どう見ても彼女のアパートに居候しているヒモにしか見えない……!」

『失礼な子達だな、まったく』

「で、そのヒーローが何のようなの?」

「悪いがここを通すわけにはいかないんだ」

『ふーん。それって、協会からの命令だったりする?」

『!!』

 

 

 口には出さないが表情に出してしまう二人。だからこそ、余計に警戒をさらに強めた。サンレッドはその二人を見ても堂々としながら続けて言う。

 

 

『ちなみに。理事長って眼鏡アフロ?』

「……そうだが」

 

 

 ポケモン協会理事長はそれなりに表に出ている人間のため、何かしらでその姿を知っている者は多い。なので隠す必要がないのかランが答えた。

 

 

『一応警戒してんのか。そこはまあよしとして。で、目的だったな」

『……』

 

 

 思わず唾を飲み込む二人に対し、サンレッドはまるで散歩に来たような軽い感じで言った。

 

 

『ちょっとグラードンくんとカイオーガくんに会いに』

 

 

 

 

 

 

 送り火山山頂。そこには二つの宝珠を守る老夫婦が慌ててフウとランに駆け寄る。年老いた自分達の代わりにここを守る役目を担っている二人が、何故か訳の分からない人間を招き入れたからだ。

 

 

「二人とも、彼は大丈夫なのですか⁉」

「どう見ても不審者にしか見えん……」

『酷い言われようだなおい』

「多分大丈夫です。ソルロックとルナトーンも彼に対して敵意を感じ取ってはいません」

「どういう訳か、この宝珠のことやグラードンとカイオーガのことも知っています」

「なんと」

『で、それが紅色と藍色の宝珠ってやつ?』

 

 

 石で出来た祭壇に紅色の宝珠と藍色の宝珠は収められていた。床と天井から伸びている支柱に収められているそれは、絶対に触れてはいけないという雰囲気を感じさせている。

 

 

「そうです。言い伝えでは、かのグラードンとカイオーガの戦いをこの宝珠を使って静めたと言われております」

「しかし並みの人間にそれを扱うのは不可能です。むしろグラードンとカイオーガにその精神を奪われてしまうことでしょう」

『んーまあ平気だろう。サーナイト』

『はい、マスター』

 

 

 サンレッドはボールからサーナイトを出すと二つの宝珠の間に立った。そんな彼をフウとランがたずねる。

 

 

「先程グラードンとカイオーガに会いにと言いましたが、一体どうするつもりですか?」

「二人が言ったように、その宝珠に触れるだけで精神を蝕むと言われているのよ。それにまだわたしたちはあなたを信用していないわ」

『どうって、ただ話をしに行くだけだ。まあ、ヤバくなったらこれぶっ壊すし、最悪あの二体が目覚めたらなんとかする』

「なんとかするって……」

「そんなこと人間に出来るわけがない」

『最近の若いもんはすぐ出来ないって言うのな。まあいいや。サーナイト、サポート頼む』

『わかりました』

 

 

 サーナイトはサンレッドの肩に手を置き、彼もまた二つの宝珠に手を置いた。すると二つの宝珠が同時に光を発した。

 

 

 

 

 

 

 自分が意識だけの存在になったのだとサンレッドことレッドはすぐに理解した。

 以前に死んだ時と同じような感覚で体が軽く、重力と言った何かと制約のある肉体と違うのがすぐに分かる。

 目を開けばそこは何もない真っ白な空間であった。穢れのない清い場所のようで、むしろ自分がこの世界の異物なのではと感じるほどだ。

 周囲を見渡していると、目の前に赤い扉と青い扉が現れると同時に頭にサーナイトからの声が届いた。

 

 

『聞こえますかマスター?』

「ああ」

『そこはわたしがマスターに分かりやすくイメージを伝えるために作った空間です。いまマスターは、二つの宝珠とグラードンとカイオーガの中間に位置しています。その扉の先にあの二体と繋がっていますので、どうかお気を付けて』

 

 

 我がポケモンながら粋な計らいをするものだ。

 赤の扉と青の扉を交互に見ながら考える。どちらにしろ両方行くのだからどれでもいいのであるが、最初は肝心である。

 彼は腕を組みながら30秒程悩んでから答えを出した。

 

 

「せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ!」

 

 

 レッドは勢いよく赤の扉へと入っていく。

 すると、真っ白い空間から赤一面の世界へと早変わりした。まるでマグマの中にいるような光景。マグマと言っても熱は感じない。精神世界見たいなところだろうか。

 辺りを見回してどこにグラードンがいるのか探してみる。景色が景色なだけに中々見つからない。サーナイトに補助してもらおうかと思った時、目の前から声が聞こえた。

 

 

「誰だお前」

「……ちっさ!」

 

 

 そこにはグラードンがいた。それもデフォルメというか、ぬいぐるみのような感じの小さなグラードンがそこにいた。

 驚いていると再びサーナイトから声が届く。

 

 

『あ、それもわたしの方でちょっと弄りました』

「なんて気の利くポケモンなんだぁ」

「おい。お前は誰だ」

 

 

 グラードンは無視されていることに怒り声を上げた。ただ如何せんぬいぐるみのようなものなので、どちらかと言えば可愛く見えてしまう。

 

 

「俺はレッド。ちょっとお前と話がしたくて来た」

「話? そんな人間アイツ以来だ。で、何の用だ」

「うん、それなんだけど……仮に、仮にだよ? カイオーガと一緒に目覚めたら……戦う?」

「あたぼうよ。あいつムカつくからぶっ倒すまでやめんぞ」

「話というのはですね、その目覚めた際にカイオーガと戦わずにいてほしいという案件でして……」

 

 

 まるで営業にきたサラリーマンか、上司に胡麻をする部下のような感じで頼みこむレッド。生前そういう経験があるのかやけに手慣れている感じである。

 

 

「は? やだ。絶対にあの野郎はオレが倒す」

「……どうしても?」

「どうしてもだ。そもそもなんでお前の言うことをオレが聞いてやらなきゃいかんのだ。我、大地の化身ぞ? 言い換えれば大地の神ぞ?」

「……何が神だよ。色違いだとデカいサンドのくせに」

 

 

 そっぽを向いて小さい声ではっきりと言うレッド。

 

 

「あ゛? 人間なんか言ったか? 言ったよな? 我バカにしたよな?」

「うるせぇよ! 見た目の割にカビゴンの二倍の体重しかないくせによぉ⁉」

「あります! 見た目以上に重いんですぅ! この世界でオレが一番重いんだよぉ!!」

 

 

 それを聞いてどこかのネット記事で見たのを思い出す。いつだっただろうか。確か、サン・ムーンが出た辺りの記事で見たような気がする。

 生意気なグラードンに灸をすえてやるべく、彼は容赦なく真実を告げた。

 

 

「お前、もうトップじゃねぇよ」

「ウソ言うんじゃ──」

 

 

 すべてを聞く前に世界が最初の白い世界へと戻され、レッドは赤の扉の前に立っていた。

 

 

「あれ?」

『マスター。あまり刺激するようなことを仰らない方がいいですよ。こちらでちょっとした前震が起きました』

「え、マジ?」

『マジです。なので、今度は慎重にお願いします』

「……努力はするわ」

 

 

 サーナイトの提案を渋々受け入れながらレッドは青の扉へと向かい──

 

 

「嫌だね」

「ほれ見ろ!」

 

 

 答えはグラードンと同じであった。先程よりもこちらがへこへこしながら頼んでみれば、たった一言ですべてが終わった。

 

 

「オレね、アイツ嫌いなの。陸の上から見下してくるあの感じがムカつくんだよ」

「そういうお前は海からグラードン煽るじゃん……」

「はぁ? 我、海の化身ぞ? 言うなれば海そのものぞ? 本気出せばアイツなんてらくしょーなんだよ!」

「ウソだゾ。互いの力が強すぎて、結局タイマンするんだゾ」

「例えそうなってもオレが勝つし! 二足歩行がなんぼのもんじゃい!」

「げんしのちからがなかったらヌケニンに勝てないくせに……」

「お前今なんて──」

 

 

 

 

『……現実か』

『はいマスター。地震に続いて今度は海が荒れ始めそうだったので戻しました』

 

 

 やっちまったなぁと小さなため息をつく。別に挑発する気は毛頭なかったのであるが、どうしてもあの二体の態度にイラっときてしまったようだ。

 レッドは一度深呼吸して落ち着かせる……よし、と声を出すと落ち着いたのか未だに手をついていた宝珠から手を離した。

 それを見た宝珠を守る老夫婦が恐る恐るたずねる。

 

 

「な、なにもないのか?」

「見ろ。至って普通じゃぞ」

『どっちかって言うと、私が手を出しそうだったけどな』

「そ、それでグラードンと」

「カイオーガはどうなったんだ!」

 

 

 フウとランが詰め寄りながら問いかける。

 

 

『多分目覚めたら戦うぞアイツら。血の気が多すぎなんだよ』

「やはり警戒は強めないといけないねラン」

「ええ」

『あ、そうそう。このことあの眼鏡アフロに言うなよ。サンレッドとの約束だ』

「一応聞く」

「何で?」

『だって、変に私のことを嗅ぎ回られるのは困る』

「……正義のヒーローのくせに?」

 

 

 ランが疑いの眼を差し向けながら言う。

 

 

『正義のヒーローだからだ』

「じゃあもし二体の古代ポケモンが目覚めたら、サンレッドはどうするの?」

 

 

 フウの言葉に他の三人は息を呑んだ。それも当然の反応で、この男はグラードンとカイオーガと話すためにここに訪れたのだ。それが、あの二体が目覚めたら戦いを始めると言うのだから、自称正義のヒーローはどうするのかとたずねるは至極当然であった。

 その問いにサンレッドは正義のヒーローとは思えぬ台詞は吐いた。

 

 

『ムカついたから私がぶっ倒す』

 

 

 それも中指を立てて。

 

 

『……』

『では、ここにもう用はないので私は帰らせてもらう』

 

 

 ポッポが豆鉄砲を食らったかのように放心している四人を放置して、レッドはサーナイトのテレポートで送り火山を後にした。

 

 

 

 

 

 

 送り火山から数日後空の柱の最上階にて。

 レッドは忘れていたレックウザの前で土下座していた。

 

 

『あいつらが目覚めたら止めてもいいけど、人間を守るのはヤダ』

「そこをなんとか……!」

『人間の所為で大事な存在を失った。だから人間はキライだ』

「ん? 大事な存在?」

『お前のことは嫌いじゃない。むしろ好きな人間だ。以前にも一緒に戦ったし』

「ん? お前とこうして会うのは今回が初めてだけど?」

『あれそうだっけ? もう長い事生きてるからボケちゃってるわ。ほんと年は取りたくはないな』

「ポケモンに認知症なんてあんのかよぉ……。じゃ、じゃあその一緒に戦ったよしみで助けてくれよ。な? な?」

『オレ、オマエスキ。デモ、ニンゲンキライ』

「ち゛ぐじょぉ──ー!!」

 

 

 最後の頼みの綱であったレックウザにお断りされてしまったレッドは、空の柱の入り口の前に立ち柱を見上げた。

 

 

「俺のために一緒に戦って! そう言ったらよかったのだろうか……」

『どうでしょうか。離れていたのでそのお心までは読めませんでしたけど、人間に対して強い怒りを露わにしておりました』

「5年前にジョウトで捕まってたの、相当怒ってんだろうなぁ……」

『それ以上に何か大切なものを失ったようですね。わたしもきっと、マスターを失ったら人間に絶望するかもしれません」

「そう簡単に死なないから安心しろ……もう3回死んだけど」

『マスターったら冗談がうまいんですから……ん。人の気配です』

「やべっ」

 

 

 誰であろうとここにいることを悟られてはいけない。ホウエン地方と言えど、もしかしたら自分の顔を知っている人間に見つかるのは不味い。レッドは一瞬にしてマスクを装着した。

 

 

『何者だ』

 

 

 人の気配がある方へ向けて言葉は放つ。

 そもそもこの空の柱を知る人間などいるのかという疑念があった。このあたり周辺の海域を通る者ならばわかるが、見るからに不気味な場所だ。普通なら近づくとは思えなかった。

 岩陰からそっとその人物が姿を現した。

 女だ。それも若い女。

 マントを羽織り、太ももを強調するかのようなホットパンツ。あと胸がデカい。

 思わず視線がそちらに行くと、隣にいるサーナイトに抓られて我に戻る。服装からして旅人かと思えばそうではないらしい。彼女は自分を見て何故か驚いたような顔をしているのだ。

 まるで有名人に出会ったような、あるいは信じていた存在に出会えたようなそんな顔を。

 彼女はゆっくりとこちらに近づくと、膝ついて手を合わせて崇めるように言った。

 

 

「太陽神様!!」

「……は?」

 

 

 

 思わず演技を忘れて地声が出た。

 

 

 

 

 

 

 

 




若くて胸が大きい女。一体なにガナなんだ……

ちょっとしたリアル事情というか、これを書いている時に原作のΩルビーの話を呼んだので、当初の予定と大分違う話になりました。
ただ大本の部分は変わってないけど。
主に一発ネタだったサンレッドネタに色んな設定が生えた感じですかねぇ……

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