ルビーとサファイアの80日間冒険競争42日目
ヒワマキシティ管制塔。
そこの指令室と呼ぶべき場所にホウエン地方のジムリーダーが集結していた。約二名、送り火山で二つの宝珠を守護しているフウとランはこの場にはいなかった。
今回の召集はフエンジムのジムリーダーであるアスナが、現在ホウエンで起きている事件を緊急レベル7と判断し、ポケモン協会規約第118条を行使して全ジムリーダーを召集した。
議題は先日えんとつ山での事件の影響で活動が弱まっていた火山活動が昨日停止。さらにそれを起こしたと思われる青い装束を纏ったアクア団と、赤い装束を纏ったマグマ団について議論が交わされていた。
アクア団は海を増やし、マグマ団は大地を増やすという思想のもとに活動をしているという話になると、各々が両軍団を支持する発言が飛び交う。
それも仕方ない事だった。
アクア団の首領アオギリはホウエンテレビの局長として表で行動しており、その権力を使ってアクア団の悪事を隠蔽あるいはマグマ団に擦り付けていたというのもあった。
また、キンセツシティが土地不足で悩んでいるテッセンやホムラと共闘したことで悪とは断定できずマグマ団を支持するアスナ。サーフィンが好きということでトウキや水のエキスパートであるミクリは渋々アクア団を支持。
それぞの主張がぶつかり合う中、ただ一人トウカジムのセンリだけは無言を貫いていた。ここにいるのは7名。センリを除いた6人が見事真っ二つに割れて両軍団を支持していた。そのことをテッセンが彼に問うと、無言で立ち上がり言う。
「どちらにもつくつもりはない。失礼する」
「待つんだ! これは協会の名のもとに開かれた正式な召集。言わば協会の意志だ。その話し合いの席を放棄するのか!」
声を上げたのはヒワマキシティのジムリーダーであるナギであった。彼女はこのホウエン地方におけるジムリーダーのまとめ役、8人のリーダー的な存在。センリは年上であり実力も知っているが、ジムリーダーとしてはアスナ同様就任したばかりの新人同様であった。
「放棄するつもりはない。私の意見は先程伝えた。これ以上は時間の無駄だ」
「そ、それでは答えに──」
『そうそう。時間の無駄だからやめておきなさいな……もぐもぐ』
『『『!?』』』
突然聞こえた第三者の声にジムリーダーは驚きその声の方に振り向いた。それはセンリも同様で、先程の他人ごとのような顔から一変し、目を見開き落ち着きのない表情を見せていた。
視線の先。そこは先程ナギがいた上座に位置する場所に、赤いマスクを被った男が、マスク越しにフエンせんべいを食べていた。
「だ、誰だお前は⁉」
「あ、ナギさんその人です。この前、あたしを助けてくれたって言った謎の人……」
『私は太陽の戦士サンレッド。以後よろしく』
「……で、その自称正義のヒーローさんが何の用ですの? ここはあなたみたいな不審者がくるところではありませんわ!」
ツツジをはじめアスナとセンリ以外のジムリーダーが警戒の眼差しを向けながらボールを構える。が、サンレッドは暢気にせんべいをかじりながらお茶をすすっていた。
『何の用と言われるとさっき言った通りだ。こんな会議は時間の無駄だから、今のうちに住民を避難するとかしなさい』
「あ、あのサンレッドさん。一体どういうことなんですか?」
あまりにも険悪ムードであることを恐れたアスナが間に入って彼にたずねた。
『君達は先程アクア団とマグマ団、どちらを支持するという下らないことを話し合っていたな』
「下らないとはなんだ下らないとは!」
「そうだぜ! オレ達のこの会議自体が無意味だと言いたげに聞こえるぜ!」
ナギに続いてトウキが声を上げる。一番の年配であるテッセンはサンレッドを見定めようと沈黙を貫いていた。
『いいか? 海を増やす、大地を増やすなんていう発想が下らないんだよ。この世はバランスが大事なの』
そう言って指の上に一本の棒を置くと器用に水平を保ちながら、棒を落とさないように説明を始める。
『海ばかりに偏ってはいけないし、かと言って大地ばかりに偏ってもいけない。もしそのどちらかに偏ればどうなると思う? 簡単だ。今ある生態系が崩壊するんだ。陸地に生息している生物は海に呑まれ、海に生きる生物は陸にあげられる。だから今のように適度なバランスが大事なわけだ』
「だから、サンレッドさんは両軍団を支持するなと?」
『むしろ悪だろ悪。破壊活動やら誘拐やら窃盗とかやってんだろ? なら正義のジムリーダーとして行動しなさいな。それに近い内にグラードンとカイオーガ目覚めるから急いだ方がいいぞ』
「それはトップシークレットの情報だぞ⁉ それに何故そう言い切れるんだ!」
『サンレッドさん独自のルートから仕入れた情報だ。それにカイナシティにあった潜水艇も奪われてんだろう? なら行先は二体が眠る海底洞窟だろうしな』
「……貴様。なぜそこまで詳しく知っているんだ。それにそこまで知っていて、何故あなた自身がそれを止めようとしないんだ」
警戒から敵意を向けるナギ。その視線にもサンレッドは動じない。
彼は深いため息をつきながら、まるで絶望したかのような力が抜けた声で言う。
『止めるも何も。スタートで全部躓いて、さらにあの二体に戦わないでくれと頼みこんでも戦う気満々だから匙を投げた』
「は? 何を言って……」
『仮に目覚めても、私が命を懸けて何とかしよう。その際の二次被害は知らんが。さて、言うことは言ったし……』
サンレッドは立ち上がると、その視線を奥にいるセンリに一瞬だけ向けた。すると突然サーナイトが現れて、彼女の手を握りながら言った。
『では、さらばだ』
──サーナイトのテレポート!
サンレッドはテレポートによってその姿を消し、同時にセンリが何事もなかったように部屋を退室した。
センリは指令室を出ると慌てて地上へと降りていく。
最後の視線は間違いなく自分に向けられたもの。
それを察したセンリはヒワマキシティまで乗ってきたバイクを置いておいた場所に急いだ。
数分ほどかかってたどり着くと、その傍に先程のサンレッドがいた。予想通りというよりは、最初から自分と話すことが目当てな気がしていた。
「レッドさん」
『後ろじゃあない。前にサンをつけなさい』
「……」
『はぁ……わかったよ』
茶化さないでくれと目で訴えていると、彼はこちらの意図を呑んでくれたのかマスクを外してくれた。そこには数年ぶりに見る元カントーのチャンピオンであるマサラタウンのレッドが正体を現した。
「で? センリさんはあそこへ行くのか?」
「……はい」
どうやら彼はすべてを知っているようだった。もし、グラードンとカイオーガが目覚めたら私はレックウザがいると言われている空の柱へと向かうつもりだったからだ。それと同時にもう一つ果たさなければならない約束があった。
トウカで私にトレーナーとしての修行を願った彼……ミツルの願い。
そしてレックウザを目覚めさせるには私一人では不可能。そのために強いトレーナーがもう一人必要だった。
レッドが言ったようにもう残された時間は僅かだろう。だからこそ自分ができる……いや、自分が果たさなければらないのだ。
「ハッキリ言おうか。別にあの事に関してはあなたが責任を負うべきではない。むしろ悪いのは協会とそれに協力していた者達だ」
「だとしても、私はやらなければならないんです。目覚めるであろうグラードンとカイオーガの戦いを止めるためには」
「……センリさん。俺は生まれた時から一人だったからそういうのはあまり分からない。けどあえて言わせてもらうなら、子供は親の背中を見て育つとよく言うけど、それ以上に共にいてあげる方が大事なんじゃないのか?」
「だからこそです。レッドさん、私は見ての通り不器用な男です。息子……ルビーにはあの日から冷たい態度で接して来ました。そんな私をルビーは恨んでいるでしょう。それでも、私の大切な守るべき家族なんです。あの子と妻がいるこのホウエンを私は守りたい。レッドさん、あなたにもそういう人がいるはずだ。なら、私の気持ちも分かってくれると思っています」
久しぶりに零した本音を、たった数回しかあったことのない少年に告げた。彼は真剣な顔つきでこちらを見ると、ゆっくりと口角をあげて優しい笑みを作った。
「俺にもいるよ。でもあなたと違って、俺はそれを置いてきた人間だ。センリさん、あなたの方が立派だよ。それにさっきも言ったけど、命をかけて止めると言ったのは本気だ」
「あなたのことは噂程度には知っています。ロケット団と戦い、カントー襲撃事件もあなたが関わっていたことは。これまで戦い続けてきたあなたが、何故このホウエンでもそこまでのことをしてくださるのですか?」
彼は腕を組んで唸った。それもたった数秒程度ですぐに答えを出して言った。
「結論から言えば、俺は
「ただ?」
「今回はどちらかと言うと、私怨かな」
「私怨、ですか?」
「だってあいつら、人の頼み聞いてくれねぇんだもん」
「は、はぁ?」
「ぜってぇーぶちのめしてやる。くくっ……」
悪鬼迫るとはまさにこのことだろうかとセンリは目の前のレッドを見て思った。少年とは思えない殺意の籠った目をしながら、尋常ではない力が腕に込められているのか血管が浮き上がるほどだった。
恐ろしいのだこの少年は。
目の前の光景もそうだが、命を懸けてあの二体を止めると言ってのけるその自信もそうだ。噂では一度死んだなんてことも聞いていた。最初は疑っていたがいまなら本当のことのように思えるし、死んで生き返ったという説得力が彼にはあった。
ならばこそ、命を懸けて止めると言えるのも納得がいく。
「レッドさん、私はもう行きます」
「そう、だな。互いに全力を尽くそう」
「ええ」
センリを見送ったレッドの傍にサーナイトが現れる。彼女は複雑な顔をしながら言った。
『良いのですかマスター。あの方に本当の事を伝えなくて』
「ヒガナの話か?」
『はい』
先日空の柱であったヒガナと名乗った女。その時の会話をレッドは思い出す。
「太陽神様! 本当に太陽神様なのですか⁉」
「……確かに俺、太陽の戦士だけど神ではないんだが」
突然の事にレッドはサンレッドであるにも関わらず、演技を忘れて地声で話をしていた。
太陽神。その名の通り、目の前の女は自分を神のよう崇めるように膝ついてこちらを見上げていたからだ。その光景に少し引きつつ、レッドは彼女と同じ目線で話すべく正座で話を始めた。
「まずいくつか聞きたいんだけど」
「はい! 何でしょうか!? このヒガナ、太陽神様の命ならば何でもお答えします!」
『ん? いま何でもって?』
「サーナイト。今茶化す雰囲気じゃないから。で、ヒガナだっけ? なんで俺が太陽神なの?」
そのことをたずねれば、彼女はこほんと咳払いして如何にもな感じで説明を始めた。
「はい。太陽神様とは我々流星の民が崇める存在の一つなのです」
「一つ? まだ何かあんの?」
「それは竜神様、つまりはここにおられるレックウザ様のことです。この空の柱も、我々の先祖が建造したものなのです」
「うっそーん」
レッドは驚いた。
しかしそれも当然であった。彼が知っているのはルビー・サファイアであって、Ωルビーとαサファイアではないからである。なのであのエピソードデルタも知らないのだ。
そんなレッドを他所に、ヒガナは説明を続ける。
「えーと、そう太陽神様についてのことでしたね。我々流星の民の言い伝えでは、古くから竜神様と太陽神様はその厄災が迫る時、共に現れる存在だと言われているのです」
「その厄災って?」
「2000年前と1000年前の出来事であったと言われています。何でも『大地の化身と海の化身によって世界が混沌へと向かう時、天から竜と共に太陽の神現れん。竜と太陽の神、この戦を静め世界に光をもたらさん』とあります」
「う、うそくせぇ……。だ、だけどよ、何でそれで俺を太陽神って言えるんだ?」
「それはもう流星の民に古くから伝わる壁画に描かれたお顔そっくりなんですよ」
「……どう思うサーナイト」
『少なくともウソは言っていませんよ?』
「えぇ……。よし、この話は一旦おしまい。その流星の民とか何でここにいるのか教えてくれ」
「はい。流星の民は2000年前に落ちた隕石によってできた流星の滝に住む民のことです」
また知らない設定が出てきたと頭を抱えるレッド。
流星の滝は知っている。確かタツベイとか捕まえられる唯一の場所だった気がする。そこに隠れ里とか全く知らないぞ……。
もしやΩルビーとかの新しい設定?
そこでようやくレッドはその存在に気づいた。だがすでに時は遅し。気づいたところですでにどうにもならない状況にまで来ている。
「そして我らはある予言と言い伝えを守り、それを実行するための存在でもあります」
「それって?」
「巨大隕石です」
「隕石?」
「はい。2000年前から千年周期で巨大隕石がこの星へと落ちてくるのです。それを回避する方法を流星の民は知っているのです」
「それはどんな方法なわけ?」
「えーといいのかな。太陽神様に教えても……けどいいはずだよね、うん」
一旦後ろを向いて他人事いうヒガナであるが、サーナイトがいる時点で心を読まれているのだと気づいていなかった。レッドもあえてそれは言わなかったのであるが。
「それは伝承者が竜神様と絆を結び……即ちメガシンカをして竜神様と共に宇宙へ行きガリョウテンセイを放ち隕石を打ち砕くのです」
『メガシンカ?』
「……なんでもうメガシンカと出てきてんの? バカなの?」
サーナイトが首を傾げていると、ひと昔前の作画崩壊みたいな顔をしながらレッドは言う。よく見れば、ヒガナの足にメガリングらしきものが見えた。
「隕石の襲来は千年周期と先程言いましたが──」
「待てい! まさかその周期が近いって言うなよ⁉」
「その通りでございます」
「ちょっといいか? レックウザはこの上で眠りついている。あいつは言ったぞ。人間を守る気はないって」
「やはり太陽神様。竜神様と言葉を交わされたのですね!! その通り、竜神様のお心は深く傷ついております。それは──」
それを聞いてレッドは今まで抱いていた協会への不信感が増した。さらに言えばそれに加担していたデボンコーポレーションにもだ。
レックウザが何故ホウエンではなくジョウトに捕まっていたのか。同時に本来の伝承者であるシガナの死。あの時、ジョウトで見たボーマンダがこのシガナのポケモンであったこと。
なんと不運が重なったのだろうとレッドは思った。そのボーマンダをルビーがとめ、結果的にレックウザは逃げ出すことに成功したが、その責任はセンリが負いその捜索を命じられた。
本当に運が悪い、そう言うことしかできない。
「本来私は太陽神様の巫女であったのです。しかしその件をきっかけに私はシガナの代わりに新たな伝承者として、予言を回避すべく竜神様の力を借りようとこのホウエンの地に眠るグラードンとカイオーガを目覚めさせるためにマグマ団とアクア団を使って──」
「このおバカちゃん! なんてことをしてやがりますの⁉」
──サンレッドのはたく!
──ヒガナに1ダメージ!
『マスター! 落ち着いてください、口調が変ですわ!』
「……太陽神様にぶたれた……ぽ」
「やだこの子。超手加減してぶったら余計に変な方向にぶっ飛びやがった。それよりもだ! よりにもよって、俺がホウエンにいる時にやりやがって! 何で面倒ごとしか起きねぇんだよ⁉ でも、グラードンとカイオーガにはムカついてたからそれは許す!」
『許すんですか……?』
「許された……」
その後なんやかんやあって。
「いいか!? 絶対に手を出すなよ⁉」
と、嫌と言うほど繰り返し言ってその場はお開きとなった。
「実際今年に隕石が落ちてくる保証はないし、センリのこともある。ヒガナには邪魔されたくはないしな」
『そうですが……もし隕石が落ちてきたらどうやって防ぐんですか?』
「ちょっと待て」
『はい?』
隕石衝突をまるで自分が防ぐような言い方をするサーナイトをレッドは睨んだ。
「なんで俺が隕石を止める前提の話をしているんだ、お前は」
『だって。ヒガナさんがあのあと色々教えてくださったではありませんか。その中に過去二回太陽神様であるマスターが阻止したとも言っておりましたし』
「俺はそんなことしてない! 俺はただの人間なの!! そんなことできるわけでないでしょうが!!!』
『そうですよね。さすがのマスターと言えど宇宙に行けるわけありませんもんね』
「だろ?」
『ところで話は変わるのですが。このあとマスターはどうなさるので?』
「とりあえずヒワマキに留まる。多分だけど、ルビーやサファイアも来ると思うんだよ。まあ、勘だけどね。そこで二人と会って、そのあと決戦の時まで体を休める感じだ」
『では今日も野宿ですね』
「いや、ポケモンセンターが……」
『いえ、いけません。ただでさえお金がないんですからここは節約しないと! ささっ、どうぞわたしの膝枕をお使いください!!』
「お、おう……」
サーナイトになってから野宿をするたび(ほぼ毎日)に彼女の膝枕で眠るレッド。今まではカビゴンの腹の上で寝ていたと話すと、彼女が何故かそういう行動をとるようになった。
手頃な大きな木の枝を見つけると、そこにサーナイトが張ったサイコフィールドの中で、レッドは今日も彼女の膝枕で眠るのであった。
ヒガナが全部悪いよヒガナがー
まあ後付けという名の被害者ではあるが。
だからオリジナルで巫女属性付けるね……
やったね太陽神! かわいい巫女さんだよ!