グラン・メテオを発射した直後に起きた大爆発によって吹き飛ばれたルビーとサファイアは、先程とは違う静かで穏やかな場所で目を覚ました。
ここはマボロシ島。かつてレッドが迷い込んだ島である。
そこには送り火山で行方不明になっていたフウとラン、そしてミクリの師匠であり元ルネシティジムリーダーであるアダンが二人をこの場所に導き、ここを出るまでの間に修業をすると告げた。
アダンが二人をここに導いた真の理由は、マツブサとアオギリからはじき出された二つの宝珠がルビーとサファイアに乗り移り、宝珠の制御する力を身に着けグラードンとカイオーガを止めることであった。
その目的にサファイアは気づいてはいないが、ルビーはかつてグラードンとカイオーガを研究していた人間の日記からそれを自ずと察していた。
そしてその修業を始める前に、アダンが二人に現在の状況を説明した。
キングドラが作り出した水のスクリーンにそれが投影される。
そこにはルネシティを囲むように三体の巨大なポケモンと、ルネシティ中心で未だに戦い続けるグラードンとカイオーガとレッドの姿があった。
「サファイア、キミのおかげで三体の伝説ポケモンを呼び出すことに成功した。そしてキミ達が行ったグラン・メテオを使った攻撃で、二人が修行を終える間まであの膨大なエネルギーを食い止めるはずだった」
「はずだった? それってどういうことったい?」
「見たまえ。グラードンとカイオーガ、そしてマサラタウンのレッドが未だに戦っているあの光景を」
「マサラタウンのレッド……あ!」
マサラタウンのレッド。それを聞いてルビーは今になってようやく思い出した。ジョウトに住んでいた時ちょうど第9回ポケモンリーグが開催され、その優勝者の名前がレッドだと気づいたのだ。
「そうか。レッドさんの名前をどこかで聞いたことがあると思えば、あの人があのレッドさんだったのか!」
「ウィ! 私がジムリーダーとして就任している時、彼の噂はこのホウエンまで届いていたものだ」
「マサラタウンって……リーフさんと同じ?」
「そうか。サファイアが知らないのも無理はありません。現チャンピオンリーフとレッドは幼馴染なのです」
「え────!?」
「あ、そう言えばサファイアはリーフさんのファンだった」
手を叩き以前共に尊敬しているお姉さんとリーフのことで口喧嘩したことをルビーは思い出した。互いに譲らず、こっちのが凄いんだと言い合っていたのだ。
「ですがどういう訳か、レッドは二年前に消息不明になったのです」
「そういえばリーフさんが父ちゃんの所に来た時探している人がいるって言ってたのって、レッドさんのことやったんか」
「あれ? そう言われると、お姉様もホウエンのコンテストに出場したのは探している人がいるからってインタビューであったような……?」
「どうやら我々が思っているよりも、彼の交友関係は広いようですね。ですが暢気に話をしている時間はないのです。見なさい、三人の戦いは予想以上に激しい」
映像を見ればすでにルネシティの原型などすでにになかった。あるのはグラードンの力によって干上がった陸とカイオーガの力によってせめぎ合う海だけ。民家はもう瓦礫の山となり周囲は小さなクレーターがいくつもできている。
どういう訳か、グラードンとカイオーガが共にレッドと戦っている映像ばかりが流れる。そんな二体相手にレッドは一人で戦い続けていた。映像が荒いためハッキリとは見えないが、彼の顔は正気とは思えず、ただ暴走しているようだと二人は思った。
「三体の伝説ポケモンを制御しているミクリとダイゴ、それに四天王が最後まで持つかわかりません。早速修行に入りましょう!」
『はい!』
こうしてルビーとサファイアはこの時間の流れが違うマボロシ島で修業を開始した。
アダンが最初に告げた時、二人はこの島ですでに三日意識を失っていた。その時の現実世界での時間はすでに21日が経過している。対してここで7日間特訓しても向こうではたった一日しか経過していない。
以前レッドは強引にこの島を出てしまったため、こちらと向こう側の時間の流れをさらに乱れてしまい、戻った時に二年という時間が流れてしまったのだ。
そして物語はグラン・メテオが起こした大爆発直後に戻る。
冒険競争55日目。
グラン・メテオが起こした大爆発の直後。ルネシティ中心部では未だに三人のエネルギー波がその中心で激突し、再度巨大な爆発を生んだ。
それによって吹き飛ばれる三人であるがすぐに起き上がり戦いを始めた。
丁度その頃。ルネシティの海域にホウエン地方のチャンピオンであるダイゴを筆頭に四天王がレジロック、レジスチル、レジアイスの封印を解いてここに参上した。
ここに吹き飛ばされたミクリはダイゴと共にレジスチルを操り、三体のばかぢからによって溢れ出る膨大なエネルギーをここに留めていた。
さらにこの三体の他にもう一体、レッドのソーナノが上空にて結界を張っていた。先ほどの爆発によって一時的に結界が解けてしまったためだ。伝説ポケモン達が張る結界の上に重なるようにソーナノは結界を張る。
ソーナノは普通のポケモンである。三体の伝説ポケモンと違ってその力に到底及ばない。なのになぜここまでの力を発揮できるのか。ルネシティに集まった自然エネルギーの恩恵というのもあるがそれ異常にレッドのソーナノだからとしか説明のしようがない。
まだ余裕があるのか、この状況でそれにダイゴは気づいた。
「ミクリ、気づているか?」
「ああ。いま私達がレジスチル達を操り、ルネシティを三方向からこの衝撃を防いている。しかしその穴を埋めるかのようにルネ上空を別の壁が張っている。恐らく、レッドのポケモンだと思う」
「レッド? もしや、あのレッドのことか!?」
「ああ」
チャンピオンであるダイゴにはポケモン協会から各地方の情報が入ってくる。5年前11歳にしてカントー地方のチャンピオンになったマサラタウンのレッドのことはもちろん知っている。何でもその歳で悪の組織ロケット団を壊滅させたとも聞いている。
実力は未知数でリーグの試合も一匹のみで勝ち進み優勝したという情報のみ。噂では自らポケモンと戦うなんて馬鹿げた噂もあった。
「だが何故、彼がこのホウエンにいるんだ?」
「分からない。だが確かなのは、あの場所で彼はグラードンとカイオーガと戦っているということだ」
「あの噂は本当だったのか。自らポケモンと戦うなんて──」
『あなた達と違ってわたし達のマスターは鍛え方が違うのです』
「!」
「君は、レッドのサーナイトか」
『ええ』
突然ミクリとダイゴの前にルネシティでレッドと共に戦っているサーナイトがテレポートしてきた。彼女はダイゴの方を見て彼にたずねた。
『あなたがホウエン地方チャンピオンのダイゴですか?』
「あ、ああ。まさかここまでテレパシーで人の言葉を喋るポケモンがいるとは」
「よくよく考えると、確かにすごいことだ」
『暢気に会話をしている暇はありません。我がマスターからあなたに伝言を預かっております」
「伝言? ボクは彼と会ったことも話こともないが」
『マスターはあなたの事をご存じでしたよ? まあ、それはいいのです。マスターの伝言、というよりは質問でしょうか』
「質問?」
『ええ。なんでも、「お宅の四天王は平気か?」とのことです』
『……?』
その質問にダイゴは思わずミクリと顔を合わせ、ミクリは何の事か分からないのか顔を横に振りダイゴは首を傾げる。
流石にそれだけでは分からないのか、ダイゴはサーナイトに聞いた。
「平気かと言うのはどういうことだろうか? こちらの四天王、彼らはボクの信頼できる大切な仲間だ。それ以外の答えをボクは持ち合わせてはいない」
その質問の意味を真に理解できるのは四天王事件に関わった者達だけであろう。なにせチャンピオンであったレッドは、仲間である四天王に謀反を起こされて一度死んだのだから。
その件以来、彼は軽度の「四天王恐怖症」を患っていたのだ。
大まかな説明を受けていたサーナイトからすれば、ダイゴのその返答だけで十分だったらしく頭を下げた。
『その答えだけで十分です。ありがとうございます』
「ところで、多忙な身であることは承知で聞くんだが」
『なんでしょう?』
「それは何をやっているんだい?」
ミクリが目を細めながら、先程から手に持ったかいふくのくすりをバックから出すと、それをテレポートでどこかに転送している光景が目に入る。
『マスターにお薬を転送しているのです。遠くから離れたこの距離をしかもこの状況で、直接マスターに物体をテレポートできるのはおそらくこのホウエンいえ、世界広しと言えどわたしぐらいでしょう。えっへん!』
「あ、うん。言っている意味は理解できるが、理解してはいけないことがあるということはわかった」
『では私はこれで失礼いたします』
──サーナイトのテレポート!
テレポートでいなくなったサーナイトがいた空間を見つめながらダイゴが小さく声を漏らす。
「……チャンピオンとして、ボクもあそこに行くべきなのだろうか」
「いや、それは違うと思う」
「そうかな……そうかも……」
「ダイゴ、気をしっかりもて! いまはレジスチルを操ることに集中するんだ! そして、我が師アダンの下で修業をしているルビーとサファイアの帰還まで持たせるんだ!」
「あ、ああ!」
冒険競争60日目。
昼夜問わず戦い続けてすでに100時間以上が経過した。
「はぁああ、あ────」
「お、ラッキー!」
──グラードンのアームハンマー!
グラードンへと肉薄していたレッドの動きが急に止まる。それを見たグラードンはすかさず彼を地上へと叩き落した。
「ついでに周りにいるお前らもくらえや!」
「調子のんな!」
「やば!」
「全員集合!」
「ビューティーガード!」
──グラードンのじしん!
──カイオーガのまもる!
──イーブイのまもる!
──ラプラスのまもる!
──ミロカロスのまもる!
グラードンのじしんからレッドを守るために三体が彼の傍に集まってできたバリアによってそれは防がれた。
『いけない!』
──サーナイトのテレポート!
テレポートによってレッド達はルネ中心部から少し離れた場所へと転送される。白目のまま意識を失ったレッドの傍にサーナイトが駆け寄り、彼を起こすために頬を叩く。
『マスター! マスター起きてください!』
「──」
「ダメだ。気を失っている!」
「もう戦い続けて5日目。わたしたちはまだ平気だけど、常に戦っているマスターは……」
「先生! 起きてください先生!」
『仕方ありません。マスターが起きるまで、わたし達でマスターを守ります!」
『おう!』
気を失ったレッドを守るために防御の陣を構えるサーナイト達であるが、幸いなことにグラードンとカイオーガはレッドのことなど気にかけておらず、二人だけで戦いを再開していた。
冒険競争62日目。
気を失っていたレッドは目を覚ますと、すぐにその場から飛び出した。
「目覚めの一発だおらぁ!!」
──レッドのきあいだま!
宙に二個のきあいだまを作り出すと、グラードンとカイオーガに向けてそれを蹴り放つ。突然の復活に対応が遅れきあいだまが直撃する。
さらに小さいきあいだまを手のひらに作り出しそれを放つ。
「だだだだだだだっ!!」
威力は先程のものより劣るが確実に二体へと直撃してる。その影響で煙が舞う中、二体はゆっくりと起き上がる。
グラードンとカイオーガはレッドを睨むと、今度は互いに顔を向けた。
「なあ。一つ提案があるんだがよ」
「奇遇だな。オレもだ」
「あいつ、さっきからウザいよな」
「それな。だから、ここは協力して」
「あいつを殺っちまおうぜ!」
「賛成!」
──カイオーガのれいとうビーム!
「んなもん効くわけ……!!」
「ふんっ!」
──グラードンのしっぽをふる!
カイオーガのれいとうビームによって足を止めていたレッドに、グラードンが一回転しその巨大な尻尾を振るった。
吹き飛ばされたレッドは瓦礫を押しのけ、迫りくる二体の内先頭にいるグラードンに向けてはかいこうせんを放つ。
「波ァーーーーっ!!」
「ぐらぐらぅるぅぅぅぅぁぁあああ!!!」
──レッドのはかいこうせん!
──グラードンのはかいこうせん!
激突するはかいこうせん対はかいこうせん。グラードンはノーマルであるがレッドのはかいこうせんは三タイプ複合であるため有利。無色のはかいこうせんに対して三色が混じったはかいこうせんがそれを飲み込もうとした時、突如レッドの後遺症が発症しエネルギーが途切れそのままグラドーンのはかいこうせんの直撃をもらってしまう。
さらに追い打ちをかけるようにカイオーガもしかけた。
──カイオーガのいわなだれ!
レッドがいるであろう場所に上空から無数の岩が落とされる。積み重ねられた岩の下敷きになった彼にトドメを刺すべく進撃を開始する二体。
グラードンとカイオーガを止めるべくイーブイ、ラプラス、サーナイトが前に出た。
「二人ともボクに合わせろ!」
「いえっさー!」
『はい!』
──イーブイはエーフィに進化した!
──エーフィのサイコキネシス!
──ラプラスのサイコキネシス!
──サーナイトのサイコキネシス!
三体のサイコキネシスがグラードンとカイオーガの動きを封じる。この場に溢れ出る自然エネルギーは、少なからずこの場にいるポケモンにも影響を与えているようだ。
自分達より力の劣る小さな同胞の力に驚きながら、イーブイ達のサイコキネシスはグラードンとカイオーガを吹き飛ばす。
その間にミロカロスが岩をどかしてレッドを救助していた。どうやら意識は失っていないようである。
「先生──!!」
「ぐぅ……お、おかしい。だんだん薬の効果が弱まって、発作が起きやすくなってやがる……!」
戦いはじめて7日が経過し、常にかいふくのくすりを使用してきたその反動がついにやってきたのだ。強引に薬の効果で体力を回復せて後遺症を一時的に抑えながら、今日まで戦闘を続けてきたがその効力が薄れ始めてきている。特に後遺症である状態異常を治すという効果が意味をなくしてきた。
『マスター、かいふくのくすりはすでに半分を切っています。このままでは……』
「ハァハァ……言われた通りにしろっ。薬がなくなったら、アレを使え。とにかく、薬だ! 薬をよこせぇ!」
『は、はい!』
──サーナイトはレッドにかいふくのくすりを使った!
──レッドの体力が全回復した!
体力を回復したことにより再びグラードンとカイオーガに突撃するレッド。
すでに3分間という制限時間はとうに飛び越えており、さらにこの場に溢れ出る自然エネルギーをブーストもあって予想以上に戦えてはいた。
だが──
「がっ!!」
『マスター!!』
再び動きが止まったレッドはカイオーガによって吹き飛ばされてしまう。
ここに来て一回の戦闘時間が最初よりも途切れ始め、断続的に起こる発作の所為で薬を投与する間隔が短くなってきた。
冒険競争69日目。
戦闘開始から14日目、すでに300時間以上が経過。
かいふくのくすりの所持数が半分をきった辺りで戦いをセーブしながら立ち回っていたレッドであったが、ついに最後のかいふくのくすりが尽きてグラードンとカイオーガのコンビネーションアタックによって……ようやく死んだ。
この世界で3回目の死を迎えたのである。
「──」
『マスタァァァァァ!!』
「やったやったやったやった!!」
「勝った! 第5章完!!」
『いぇ~い!!!』
ハイタッチしてレッドの死を喜ぶ二体の伝説ポケモン。
しかし協力関係はこれで終わり。当初の予定通り二体の戦いが始まる。
そんな中。瓦礫の上で死んでいるレッドにサーナイトが彼の名を泣き叫んでいると、ラプラスの頭に乗ったイーブイが現れる。
『マスター! マスター! 目を、目を開けてください!!」
「落ち着くのじゃサーナイトよ」
「そうじゃ。まだ焦る時ではないぞ」
『あ、あなたは……ブイ老師、ラプラス老師⁉』
と、シリアスな場面だというのに何故か落ち着ているイーブイとラプラス。サーナイトもサーナイトでそういうノリなのか、キャラを作っていた。
「マスターが死ぬなんてこれでまだ3度目」
「そうだとも。それにサーナイトよ、お主は大切なことを忘れておるぞい」
『は! そうでした。わたしはこの時のためにマスターからこれを……』
肩にかけていたバッグを漁るとお目当ての物があったのか、それを高く掲げていた言った。
『てってれ~! げんきのかけら~! さぁ、マスター! 食べてください!』
白目を剥いてすでに虫の息であるレッドに食べろというのは無理な話。サーナイトは無理矢理げんきのかけらを口に押し込むと、強引に口を動かしてかみ砕かせた。
──サーナイトはレッドにげんきのかけらを使った!
──レッドはあの世から蘇った!
「ただいま現世ぇぇぇぇぇぇっ!!」
何度目かも分からないが蘇った途端にグラードンとカイオーガへと向かうレッド。
「うっそだろお前⁉」
「本当に人間かよ!」
げんきのかけらは、塊と違って体力を全回復してはくれない。レッドの場合ならだいたい2、3割程度体力が回復していることだろう。
上手く立ち回ってだいたい1時間後。レッドはまた吹き飛ばされて、死んだ。
「──」
『マスタァァァァァァ!!』
冒険競争7? 日目。
「ちょっとレッド氏~死んだり生き返ったりするのはいい加減やめてほしいでござるよぉ~」
「あ゛ーーーー何も聞こえないぃーーーー」
ここは天国と地獄の間にある場所。言うなれば死んで最初にたどり着く場所である。
そこにある古代ギリシャにありそうな神殿の主であるアルセウスによく似た閻魔大王が、先程から減らない書類に判子を押していた。
ちなみに手足を使わないでやっているので念力の類と思われる。
愚痴を吐きながら手を動かす閻魔大王の前で、レッドはふかふかのベッドに倒れていた。最初は死ぬたびに床に倒れていたのだが、さすがに可哀想と思った閻魔様が用意してくれたらしい。
「いまので72回も死んだけど、いつまで新記録を更新つもりでござるよ?」
「ぢら゛な゛い゛……」
「こっちは死ぬたびに来る書類にサインするかと思えば、生き返るからそれを訂正する書類作成の繰り返しで大変なんですけどぉ」
「あ……そろそろ戻る……戻る……」
戻るという割にはすぐには戻らず、現世の時間で30分ほど経ってレッドの魂は現世へと戻っていく。
「さすがに70を超えると、中々魂が戻りづらくなってきたなあ……あ、戻った」
目の前に映し出されている現世のリアルタイム映像。
今までと同じなら突撃してあの二体を何度かは吹き飛ばすまではいくのだが、そこで力尽きて死んでこちらに帰ってくる。
「ん~まさかリアルゴジラのVSシリーズを見れるとは。あ、レッド氏とうとう理性を放棄しちゃった」
先程とは違いその戦い方は乱暴であった。獣のような咆哮をあげながらレッドはグラードンとカイオーガに戦いを挑む。吹き飛ばされても何事もなかったように立ち上がり、口からはかいこうせんを放つ。
理性を失ったことにより、レッドを縛っていた枷はすべてなくなったも同然。彼は目の前にいる二体のようにただ破壊を始める。
限界の限界を超え、今まで以上に激しい戦闘を行うレッド。
次に死んだのは約3時間後で、死んだ彼の魂はまたあそこへと戻る。
「おかえり」
「ただいま……閻魔様」
冒険競争77日目。
戦闘開始から22日目にして遂に上空で結界を維持していたソーナノが力尽き、スピアーがサーナイト達のもとに合流した。ソーナノはすでに深く眠っており、スピアーは戦闘には参加していないものの、開始から今までこの膨大なエネルギーに当てられていため体力は限界に近づいていた。
それはサーナイト、イーブイ、ラプラス、ミロカロスも同様であった。
いくら無限にある自然エネルギーの恩恵を受けていようとも、これだけの長期間一度も睡眠をとっていないのだ。レッドが気絶している際も、グラードンとカイオーガの戦いの余波から守るために常に壁になっていたためでもある。
ソーナノをボールに戻してサーナイトは見るに堪えない自身の主の姿を嫌でも見る。
「GAAAAAAAAAAAAAA!!!」
「ぐらぐらぅるぅぅぅぅぁぁあああ!!!」
「ぎゅらりゅるぅぅぅぅううあああ!!!」
もう人とポケモンや、自然という括りの戦いではない。
これは……怪獣同士の戦いだ。すでにこの三人の戦いに入り込める者など存在しない。親愛するマスターのためにもサーナイトは共に戦いたいと思ってはいるが、この光景を見てしまえばそれがどんなに無謀な行動だということが嫌でも分かる。
それは彼女だけではない。最古参であるスピアーにカントーからの付き合いであるイーブイとラプラスは悔しそうな表情を浮かべていた。彼らも限界なのである。一睡もせずレッドを守りながら伝説の古代ポケモンからの攻撃を防ぎ、時には足を止めて時間を稼いでいた。それもげんきのかけらを使用してからはほぼ守りに徹していた。
最初は戻ってくるのはすぐであったのに、だんだんと現世に戻ってくる時間が延びていったのだ。
その隙を逃すまいとグラードンとカイオーガがレッドを肉体ごと消し去ろうとするのを彼らは必死に防いでいたのだ。これ程までに二体の伝説ポケモンの攻撃を防いだポケモンは他にはいないだろう。
サーナイトは自分の手にある残り2つとなったげんきのかけらを見た。すでに97回もレッドは死んで蘇っているのである。
──レッドのはかいこうせん!
──グラードンのはいこうせん!
──カイオーガのはかいこうせん!
レッドのはかいこうせんはグラードンとカイオーガのダブルはかいこうせんがぶつかり合い、最初は拮抗していたが次第に飲み込まれ、最後には彼もろとも飲み込んだ。
──レッドはたおれた。
──サーナイトのテレポート!
サーナイトはその直後に自分たちのもとへレッドを転送。残り一つとなった手にあるげんきのかけらを握り締めながら、もう一つを彼の口に押し込んで無理やり噛ませる。案の定すぐには戻ってこなかった。
対してグラードンとカイオーガ。彼らもレッド同様に限界が近づいてきていた。本来であればこの膨大な自然エネルギーの影響で戦うことはせず、ただ行き場のないエネルギーが溢れ出ているだけだったのに、レッドが加わったことで戦いが始まった。
弱体化されたレッドとはいえ、さすが伝説の古代ポケモンは一筋縄ではいかなかった。かといって協力して彼を何度も殺したとはいっても、相手はあのレッドである。この長期間の戦いの中で傷ついても自然エネルギーの力によって癒されるが、それを上回るほどのダメージを何度も受けていたのだ。
ゲームで例えるなら赤ゲージと言ったところだろうか。
「ハァハァ、いい加減しつこい……」
「ちょっとつれぇわ……」
「──!!」
「それは、こっちも、だっつうの!」
「ぜぇぜぇ、もうふざける気力も、ない」
「
『マスターには、指一本、触れさせません!!』
戦いは再開した。
レッド軍団対グラードンとカイオーガの戦いが再び始まり、この数時間後レッドは蘇った。
冒険競争78日目。
この日、ついにマボロシ島と現世の時間の流れが交わるそのタイミングでルビーとサファイアの修業が完了しこのルネシティへと向かっていた。
さらには空の柱でミツルと共にレックウザを目覚めさせることに成功したセンリも、この場へレックウザと共に向かっている。
だがそのほんの少し前。
ルネの中心。すでに片目しか開いていないグラードンとカイオーガは、伝説のポケモンとは思えないほどの外傷を負いながら息を荒くして地上に横たわる人間を見ていた。
「ぜぇぜぇぜぇ……!!」
「ハァハァハァ……!!」
「──」
『ま、す、た……』
すでに一人となったサーナイトが、地を這いながら主の口に最後のげんきのかけらを押し込み、最後の力を振り絞った念力で口を動かして噛ませたあと彼女は意識を失う。
戦闘開始から23日目にしてレッド軍団全員戦闘不能。
これによりレッドは23日間の間に死亡回数99回、通算102回という偉業を達成してしまった。
レッドが生き返るまであと──
???「なに!? 四天王とは仲間の振りをしてあとで裏切るのではないのか!?」
まさかそれをする奴が一人現れると思わなんだ……。