おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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げんきのかけらに関してはライダーネタじゃなくDBの仙豆な感じで書いてた




この世に光がある限り、俺は何度でも蘇る!

 

 

 

 あの世。

 魂のくせにボロボロであるレッドの目の前で、アルセウスによく似た閻魔様がラッパを咥えてその後ろに「レッド氏祝100回死亡!!」、「ご来場100回記念!!」と書かれた垂れ幕と、室内だというのに花火が打ち上げられていた。

 

「ぱんぱかぱーん! 祝あの世ご来場100回目おめでとうございまーす!! どんどんぱふぱふー」

「……こっちで最初の死と前世含めれば102回だけどな」

「いぇーい! あ、そうだ。景品何がいい?」

「なんで閻魔様はそんなにテンション高いの……?」

「んーその場のノリ?」

「あ、そう」

「もう! レッド氏ってばテンションひくーい!」

 

 無駄にテンションが高い閻魔様についていけないレッドは、その場で関わりたくないように仰向けで寝ろこぶ。そんな彼に構うことなく閻魔様はクラッカーやら風船をとばしていた。

 いまになって彼が本当に閻魔大王ではないのでは、と疑心暗鬼になる。実はアルセウスで、暇だからこうやって自分に構っているのではと思い込んでしまう。

 それも込みで現世での戦いを思い出してしまい深いため息をついた。

 

「はぁ、ちきしょーーーー! 体が万全だったら絶対にグラードンとカイオーガ倒せたのによぉ!!」

「そうだね。万全な状態だったら、一日で終わっただろうにね。あれだけ膨大な自然エネルギーだ。どんなにダメージを与えても、ハンデを負っているレッド氏が休んでいる間に回復しちゃうし、人間のレッド氏にはただのエネルギーなだけで回復はしないからねー」

「いきなり真面目に解説されるとか、ちょっと怖い」

「なんだよぉ。我とレッド氏はずっともだろ~?」

「あの世で出来た友達とか、そうそういねぇよ……」

「わ、我も、初めての友達がレッド氏で嬉しいぞい」

「その喋り方やめてくれよ……にしても、腹減った」

 

 死んだ身で腹が減るというのはおかしなことだと、自分で言っているくせに訳が分からない。実際に現世において半月以上何も食べていないからこっちでも腹が減るのは仕方ないのである。まあ、かいふくのくすりを飲んだりげんきのかけらをを食べたりはしていたが……アレはノーカンである。

 

「お腹空いたの? じゃあ、かつ丼食べる?」

「え、あんの?」

「ほい」

 

 その言葉と共にレッドの目の前にどんぶりが現れる。蓋を取れば出来立てのカツ丼があった。

 

「俺、カツ丼よりソースカツ派なんだけど」

「もーレッド氏は我儘なんだからな。そい」

 

 蓋を閉じてまた開ければあら不思議。今度はちゃんとソースカツ丼があった。

 

「いただきまーガツガツガツ!」

「おーすごい食べっぷりだぁ。ま、ここでいくら食べても現実では空腹のままなんだけどねー。あ、そうそう。現世の様子見る?」

「ガツガ……あ、見る……ガツガツガツ!」

 

 二人目の目の前に巨大なスクリーンが現れる。大きさからして映画館にある一般的なスクリーンと同等の大きさだろうか。さらに閻魔様は快適な視聴環境を提供すべく、映画館のような座席にポップコーンとジュースの用意までした。

 ソースカツ丼を食べ終えると次にポップコーンをつまみながら映像を見る。そこは以前に一度見たがある風景が広がっていた。

 

「あれー? ここ知ってるぞ、俺」

「ここはマボロシ島。簡単に説明すると、この島は現世との時間の流れが違うんだ。二つの時間が交わらないと出入りできないんだって」

「え、うそ⁉ 俺がいたのってマボロシ島だったの⁉ じゃ、じゃあもしかして俺があそこから出たら二年も時間が経ってたのって……」

「無理やり出たからでしょ? もう少し待ってたらちゃんと出られたかもしれないのに」

「……ガーンだな」

 

 がっくしと頭を下げるレッド。下を向きながらぶつぶつと「マボロシ島なんか知らねぇよていうか行ったことないから知るわけないじゃん」と、愚痴を吐いていた。

 隣にいる閻魔様が彼の肩を叩いてスクリーンを見てみろと言われそちらに顔を向ける。

 そこには嵐の中島の崖際に立つルビーとサファイアがいた。

 

『あたし……あんたのことが好きったい……』

「エンダアアアアアアア」

「うるせぇよ! なんでそんなに向こうのネタに詳しいんだよ⁉」

「我、閻魔ぞ? 知らないことなんてないのだ」

「クソ、見た目だけはアレだから無駄に説得力がありやがる」

 

 そんなやり取りしている間にも現世での時間は常に流れている。

 大胆な告白をしたあとサファイアのトロピウスでマボロシ島から脱出しルネシティ上空へと現れる。するとルビーはサファイアに取り込まれた藍色の宝珠を出させると、ポケギアで師匠であるミクリのエアカーを近くに呼び寄せ、彼女をトロピウスから突き落としてエアカーに閉じ込めた。

 それに驚くレッドと閻魔様。

 

『なして⁉ なしてこんなことすっと⁉』

『ボクもキミがすきだったからさ。小さなころからずっとずっと……思ってた。だから……キミをつれてはいけないんだ!』

「ルビー、お前ってやつは……」

「男や、あんたは男やで……。ちなみに、レッド氏だったら同じ状況ならどうする?」

「え? ナツメとラブラブサイコキネシスはかいこうせんでも撃つんじゃね?」

「うわぁー小学生みたいなネーミングセンス。お、少年が見知らぬ美人のお姉さんと一緒にグラードンとカイオーガを止めに入った」

「誰だあのお姉さん?」

 

 美人のお姉さんとはマグマ団幹部のカガリと呼ばれる女性だった。レッドは両軍団とほぼ関りがないので、リーダーのマツブサとアオギリぐらいしか知らないのである。

 

「レッド氏のお手付きじゃないの?」

「なんでそうなるんだよ」

「だって、ねぇ?」

「なんだよその言い方! あ、ルネが浮上し始めた」

 

 グラードンとカイオーガそしてレッドの戦いの衝撃で拡散していたエネルギーは、レジロック、レジスチル、レジアイスによってルネシティへと押しとどめていた。その前ではソーナノが上空からそれを閉じ込めていたが、ソーナノがいなくなったことによりそのエネルギーは空へと向かっていたのだ。その反動で膨大なエネルギーがルネシティごと浮上させたのだ。

 ルネシティが浮上したことによって、ルビー達の戦いを目撃しているのはあの世にいるこの二人のみとなった。

 ルビーとカガリが宝珠に静止の命令を送るが、逆にグラードンとカイオーガを怒らせてしまい戦いが始まる。レッドと違ってこの二人では抵抗はできても、同等の戦いをすることはできない。

 それを見てレッドが閻魔様に怒鳴り始めた。

 

「くそ⁉ まだ俺は戻れねぇのかよ⁉」

「んーげんきのかけらを食べてからもう結構時間が経っているんだけどね? 流石になんども魂が行ったり来たりしてたら、そりゃあ上手く戻れるわけないって。あ、でもほら。空から別のやつ来たよ」

「あれは……レックウザ。ということはセンリがやはり起こしてしまったのか……」

 

 映像にはレックウザの頭に乗るセンリがいた。

 だがレッドには分かっている。映像越しでもレックウザが人間に嫌々従っているのを。彼からすれば、仕方なくグラードンとカイオーガを止めにきたに過ぎないのだ。

 

 

 

 

 現世。

 レックウザは下にいるグラードンとカイオーガを見下ろし、二体もレックウザを見上げている。二体の顔はレッドと戦っている時以上に驚愕していた。まるで、彼の存在を今になって思い出したかのように。

 これは2000年前と1000年前と同じ光景だと彼は思った。

 最初は美味そうな隕石に連れられて此処へ来たら、こいつらが暴れていた。そしたらアイツが現れて、なんとなく一緒にこいつらを追っ払った。別にオレいらないんじゃないかなって思ったけど、すごい楽しくていい人間だったからそんなこと思わなくなった。

 次は、気づいたら隕石がもう落ちててその溢れ出た自然エネルギーの所為でこいつらが目覚めた。不思議なことに人間の救いの声を聞いて駆けつけたら、またアイツがいたので一緒に戦った。

 で、いちいちこいつらに起こされるのも嫌だから、アイツと一緒に戦おうとしたらまた隕石が降ってきて、それを壊したのを今でも覚えている。

 そんな中、レックウザはこちらを見上げているグラードンとカイオーガから少し離れたところに倒れている人間を見つけ……怒りを爆発させた。

 

「きりゅりりゅりしぃぃ!」

「「げぇ、レックウザ⁉」」

「お前らもこりねぇな!?」

「ち、違うんすよ! 今回は人間に起こされて!」

「そうですそうです! オレたちはむしろ被害者で……」

「うるせぇ、とにかく穴倉に戻ってろ」

 

 戦いを始めたレックウザ。その最中、ルビーはカガリの記憶のライターで父センリが5年前どうして家を空けるようになったのか、そしてどうしてレックウザと共に現れたのかを知り、父と共に戦う決意を決めレックウザの頭に乗る。

 レックウザはそれを拒まなかった。センリの命令というのもあったが、ルビーが二つの宝珠を持っているというのが一番の原因であった。

 

「きりゅりりゅりしぃぃ!」

「おおおおおお!!!」

 

 レックウザの粛清の咆哮とルビーによる二つの宝珠の静止の命令が成功する。

 あれ程いがみ合っていたグラードンとカイオーガの動きが止まると、今までのがウソのように周囲一帯が静かになった。

 

「「ぺっ!」」

 

 二つの宝珠による命令権には逆らえないようで、二人は不服そうな表情を浮かべながら互いに唾を飛ばすと背を向けて動き出す。グラードンは地中深く、カイオーガが深海の底へと潜っていく。

 それを見届けたレックウザは強引に頭に乗っていた二人を下ろして浮上。自分の役目を果たしたことを確認しこの場から去ろうとしたとき、一度だけ動きを止めて地上に横たわっている人間……レッドを見た。

 

「──」

 

 しかしそれは一瞬で、レックウザは空の向こうへと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 あの世。

 

「終わりましたね」

「ああ。終わっちまった」

「感動的な場面なのに、どうしてそんなにいじけているんだい?」

「……いじけてねぇし」

 

 部屋の隅っこ、と言ってもかなり広いこの空間の端っこでレッドは膝を抱えていた。まるで親に叱られた子供のように拗ねているようだ。

 

「別に? 俺がグラードンとカイオーガをぶっ飛ばせなかったからいじけてるわけじゃねぇし?」

「子供か! あ、実際に子供か……」

「はぁー。俺、ダサくない?」

「まあ、あれだけ息巻いて喧嘩を吹っかけてこれじゃあね? 普通から見たらダサいよりも異常者だと思われるよ。102回も死んでいれば」

「もう死ぬなんて怖くない」

「我としては何回も死んで生き返るのは困るんだけど……おろ? まだ戦いは終わってないようだぞ?」

「え、マジ?」

 

 隅っこから閻魔様の隣に戻ってスクリーンを見ると、センリの前で叫ぶルビーの前にマツブサとアオギリがその手にそれぞれ紅色の宝珠と藍色の宝珠を持って立ちはだかっていた。

 

「あいつらしぶといな」

「ずっと隠れてたとか恥ずかしくないのかな? あ、二名様ごあんなーい」

「へ?」

 

 突然変なことを言いだした閻魔様の前に二つの光が降りてくると、そこから見覚えのある二人の男性がいた。

 

「センリさんとダイゴじゃん。え、なに? 二人も死んだの?」

「レッドさん……⁉」

「キミがマサラタウンのレッドか。そもそも死んだということは、ここはあの世か」

「そうそう。あ、これ閻魔様」

『よく来た人間よ。我は閻魔大王だ』

 

 と、初対面の相手にその威厳を放つ閻魔様。センリとダイゴはこの状況に驚いてはいるが、自身が死んだことについては意外と冷静であった。

 そのことをレッドがたずねれば、

 

「自分はレックウザを操る触媒を無しでやっていたので覚悟はしていました」

「ボクも三体の伝説ポケモンの制御に集中していたので。あ、チャンピオンの席はミクリに継がしてきたので安心ですね」

「たった三体の制御で死ぬとか、それでもチャンピオンなの? ちょっと筋肉足りないんじゃない?」

「えぇ……」

「しかし我々が死んだと言うことは、レッドさんも死んでいると言うことですよね?」

『そうだ。こいつはすでに102回も死んでおる』

『……え?』

「ちょっとキャラ作るのやめなよ」

『作っておらん』

「あの、目の前で彼の息子とボクの友がピンチの時にふざけるのはちょっと……」

「え?」

 

 ダイゴの言葉に反応してスクリーンを見れば、状況は先程から一転最悪となっていた。

 チャンピオンマントを纏い、ジムリーダーのミクリではなくチャンピオンのミクリとして二人の前に立ちはだかる。最初は優勢であったのがヒワマキシティジムリーダーであるナギを人質に取られ、一気に形勢逆転されてしまう。

 ミクリのナギを見る風からして、普通ではないと感じたレッドがダイゴにたずねた。

 

「なあ。もしかしてあの二人ってそういう仲なの?」

「元、がつくけどね。ミクリは彼女の傍にいたくてチャンピオンを辞退したんだ」

「なんかロマンチック」

「レッドさんにも彼女がいらっしゃると聞いていますが」

「だから、さん付けやめてよ……」

「え? ボクが聞いた噂だと、手当たり次第に女性を誑かしてるって聞いたよ?」

「事実無根です」

『ふざけているところあれだが、かなりピンチだぞ』

 

 閻魔様の声で我に返る三人。

 スクリーンの向こうでは人質を取られたことによって身動きが取れないミクリが、アオギリのドククラゲの触手によって瓦礫に叩き付けられる。

 ポケモンバトルではないただの暴力を目の当たりにしたサファイアは動けず、ルビーも先程受けた攻撃に身動き取れない。

 

『父さん! カガリさん! 師匠! ナギさん! ダイゴさん! そして……レッドさん! みんな、みんな倒れてしまった……もう戦えるトレーナーは一人も……いない』

「おいやべぇぞ! とっと俺を現世に戻せって!」

『だから言っておるだろうが。何度も死に過ぎて魂が中々定着せんと』

「キャラ作んのやめろって! 似合ってないんだよ!!」

「はあ⁉ ちょっと言っていい事と悪い事があると思うんだけど! そういう所だぞレッド氏!!」

「え? レッドさん戻れるんですか?」

『うむ。あと一回。本当のラストチャンスが』

「ボクが言えた義理ではありませんが。彼らを助けてあげてください!」

「だから、さっきからそうしてるって……あ! これだ、この感覚だ!」

 

 このタイミングで魂が肉体に戻る感覚が来た。ただ最初と違ってすぐには戻らず、ゆっくりと肉体に戻るプロセスが行われていく。

 同時にスクリーンに目を向ければ、蒸発せずに溜まっていた海水から一匹のヒンバスがマツブサとアオギリに抵抗していた。ヒンバスの名はMIMI。ルビーの元を去ったヒンバスであった。

 しかしヒンバスの抵抗はまったく効果がなく、二人によって殴られ蹴り飛ばされる。そのままルビーの前に飛ばされ、彼女は必死に痛みを堪えて彼に笑顔を向けた。

 

『MIMI……』

『なんて弱く、鈍く、不快なまでの不格好さ』

『そんな醜い存在は、生きている価値がない』

 

 ヒンバスの進化した姿を知らない二人は淡々と告げる。二人だけでなくとも、きっとそういう風に言う人間は少なからずいるだろう。

 それはルビーもそうだった。自分が求める美しさとは違い、本心では仲間にする気などなくコンテストに出場させる気もなかった。昔の彼ならば、きっと二人の言葉に同意したかもしれない。

 だが今のルビーは違う。

 旅をした。多くのトレーナーやポケモン達に出会ってきた。なによりも、あの時突き放したというにここまで追ってきたヒンバスを、ルビーは醜いとは思わなかった。

 

『そうだろうな……ボクも最初はそう思ってた。ZUZUの時だってそうだ。ボクはいつも見ためだけをみて区別していたよ。だけど、ある人が……レッドさんが言ったんだ。外見だけでしか判断できない内は真の美しさを理解できない。その言葉の意味が、いまになってわかった』

『ほう』

『なにが分かったんだ?』

『酷い言葉を浴びせたのはボクなのに、それでも慕って追いかけてくれた健気さ。敵わない相手だと知っても、それに立ち向かう勇敢さ。外見じゃない。このMIMIの想い一つ一つがたまらなく美しくそして、愛おしいんだ。本当の美しさは心の美しさだ! 誰かを愛し、想いやるそ心そのものなんだ! なあ、お前達もそうなんだろう!? 大地と海、その美しさに感動して、そして愛しているからこんな真似をしたんだろ? だったらこの惨状を見て何も思わないのか⁉ 強大な力にすべて飲み込まれる前に、そんな気持ちを思い出してくれ!!』

『ククッ。何を言いだすかと思えばそれだけか?』

『我が求めるのは自然の美しさ。そこに人間の美しさなどいらぬ!』

『たった10年程度しか生きてない小僧が!』

『美しさを語るなど片腹痛い!』

 

 絶望の中で答えを見出したルビーに父であるセンリは思わす目頭を押さえ、その言葉を送ったレッドは最後の気合を入れていた。

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!」

「レッド氏! 気合いだ、気合があればなんでもできる!」

「魂ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「あ、言い忘れていたけど。目覚めたら言葉にならない程の苦痛と薬の影響による離脱症状があるから気を付けてね」

「あの……もう戻ってしまいましたけど……」

『なんと……』

 

 すでにそこにレッドの姿はなく、閻魔様はスクリーンをルビー達からレッドに変える。そこには死体だったはずの彼の肉体がぴくぴくと動き始めていた。

 そしてカメラを再度ルビー達に向ければ、師匠であるミクリから本来MIMIが受け取るはずだった優勝リボンを受け取り彼女に送る。

 そしてヒンバスの体が光に包まれ、進化した姿ミロカロスになってその姿を露わにした。

 

 

 

 

 

 

「ッ~~~~~!!!」

 

 叫びたい声を必死に歯を食いしばることで押さえつける。この痛みはまさしく自分が現世に戻った証だ。全身がかつてない程の悲鳴をあげているのが分かる。その痛みは止まることはなく、常に体の内側から叩かれているようだ。

 しかし痛みとは別の感覚が襲い掛かってきた。薬、そう薬を投与していたときのあの一瞬の快楽、開放感を求めている。不幸中の幸いなのが、その症状は激痛によって多少和らげれていることだ。

 必死に顔を横に動かせば、隣に横たわっているサーナイトがいた。拳を作り、必死に力を入れる。気合いだ、根性だと何度も言い聞かせてやっと体が動き出す。

 彼女が持っていたバッグから、空のボールを手にとってサーナイトをボールに戻す。これだけでも一苦労だったがそうは言っていられない。

 

「お、おぉぉぉっ!!!」

 

 地面に手をついて、何とか立ち上がろうと試みる。

 その時、少し離れたところから声が聞こえた。

 

『サファイア! 二体の古代ポケモンは去った。今さらこんなことを言う資格はないけど、今度こそ一緒に戦ってほしい! ボクとキミの二人で!』

『──うん!!』

『馬鹿め。たった二人で何ができる?』

『私達のポケモンはまだ余力がある。小娘はそうだが、状況はどうみても私達が有利!』

『それにお前達を助けてくれるトレーナーはいない!』

『ここで勝てば、あとは私達二人のみ!』

『そうだとも。俺達が力を合わせれば!』

『どんなことも可能にする!』

 

 急げ、急げ急げ急げ。このまま終わっていいのか。いや、いいはずがない。グラドーンとカイオーガと戦いに決着を付けられず、ただ死んでいたのだ。それでは本当の道化ではないか。

 ならばと、あの二人だけは守らねばならぬ。

 せめてと、この戦いは終わらせてみせる。

 

『待ていっ!』

 

 何とかたどり着いた瓦礫の上に立ち、叫んだ。

 

 

 

 

 

「な、どこだ⁉」

「姿を見せよ、何者だ⁉」

「この声は……」

「ルビー、あそこったい!」

 

 サファイアの声と指をさす方へマツブサとアオギリもそこへ目を向けた。そこには瓦礫の上に立つ一人の人影があった。逆光のせいで見えず、ただこちらを見下ろしていることはわかる。

 

『愚かな者達よ、貴様らには決して勝利は来ない! たとえ殺されようとも、悪に屈しない心! それはやがては勝利の風を呼ぶ……人、それを……「凱風」という!』

「誰だお前は⁉」

「名を名乗れい!」

「貴様らに名乗る名はないっ!」

 

 瓦礫を蹴り飛ばす勢いで跳躍し、それはルビーとサファイアの間に着地する。すでにボロボロで満身創痍のレッドが二人の間に立つ。

 

「レッドさん!?」

「生きていたっと⁉」

「バカな!」

「お前は何回死ねは気が済むんだ⁉」

 

 目覚めのほこらで隠れていた二人であったが、レッドがグラードンとカイオーガに戦いを挑み何度も死んで蘇った光景は見ていたのだ。

 故に、ようやく本当に死んだかと思えばこうしてまた生き返った。彼らでなくとも、それは怒り叫びたくもなる。

 

「この世に()がある限り、俺は何度でも蘇る!」

「だとしても!」

「死にぞこないが一人増えたところでな!」

 

 マツブサとアオギリがボールを投げれば、温存していたヘルガーとトドゼルガすべてを出す。二人はこの場から背を向けるとサファイアが乗っていたエアカーに乗り込もうとする。

 

「二つの宝珠は俺達の手の中」

「お前たちの始末などいつでもつけられる」

「待て!」

「ここまで来て時間稼ぎか!」

「二人とも俺に合わせろ!」

「「──はい!」」

「いくぞ!」

「MIMI!」

「とろろ!」

「波ァ------っ!!!」

 

 ──レッドのはかいこうせん! 

 ──ミロカロスのはかいこうせん! 

 ──トロピウスのはかいこうせん! 

 放たれた3つの光線がマツブサとアオギリのポケモン達を吹き飛ばす。ルビーが顔を上げれば、すでに上空へ浮上しているエアカーの姿があった。サファイアもそれに気づき追いかけようとした時、隣にいたレッドが突然口から血を吐き出して膝をついてしまいルビーも慌てて駆け寄る。

 

「レッドさん大丈夫ったい⁉」

「ゴホッゴホッ。へへっ……体が万全だったらグラードンとカイオーガなんか楽勝なのによぉ……」

 

 視線の先。エアカーがルネシティから離れようとしてると、前方に巨大なカラクリに乗ったカラクリ大王が立ちはだかるが、いとも簡単に弾き飛ばされてしまっていた。

 それを見たサファイアがあることを思い出し、マボロシ島で再会したプラスルとマイナンに声をかけルビーに視線を送ると、彼もその意味を理解したのかうなずいた。

 

 

「いくよ、ルビー! 1、2──」

『3!!』

 

 カラクリ大王の発電マシーンからもらった増幅電気エネルギーを貯め込んでいたプラスルとマイナンの強大な電撃攻撃が放たれた。強大な電気エネルギーはそのままエアカーごとマツブサとアオギリを閉じ込めた。

 するとルビーがポケギアに何かを入力した。それはエアカーのリモコンコード。彼はそれでエアカーのシールドを閉じさせた。

 せめて命だけは失われないように。

 だがそんな慈悲を与えることを許す気がない男がいた。

 

「……ッ」

 

 レッドは何とか起き上がり、上空に停滞しているエアカーに顔を向ける。

 マツブサとアオギリの手にはまだ紅色の宝珠と藍色の宝珠がある。それを取り戻さなければならない。アレがある限り戦いは終わらない。

 しかし今の自分にそこまでの力はない。できるのは精々道連れにするぐらいだ。

 覚悟決めたレッドはルビーとサファイアに右手で敬礼のようなポーズを決めながら伝言を託す。

 

「二人とも。もし、カントーにいるナツメっていう人に会ったら伝えてくれ。ごめんって」

「え?」

「レッドさん⁉」

「じゃあ、達者でな……おおおおおおおおおっ!!」

 

 ──レッドのフォルムチェンジ! レッドはライジングフォームになった! 

 最後の力を振り絞って雷を纏ったレッドは電気エネルギーに包まれたエアカーへと飛翔した。雷の玉を持つレッドに電気技は無効で、むしろこの空間において彼は逆に好調であるともいえた。

 エアカーのボンネットの上に立つと、満面な笑みを浮かべてマツブサとアオギリに言う。

 

「どうせ死ぬんだ……だったらお前も道連れだぁ!」

『しょ、正気かこいつ!』

『く、狂ってる……』

「さあ、仲良く一緒にあの世へ行こうぜぇ!!」

 

 

 

 

 

「る、ルビー! あたしたちどうしたら……」

「ある。一つだけ、二つの宝珠とレッドさんを救う方法が」

「え⁉ そんな方法って言ったて、あそこに飛び込めるポケモンなんていると⁉」

 

 サファイアはエアカーを再度見た。車を中心にプラスルとマイナンが放った強大な電撃エネルギーが渦巻いている。近くまでたどり着くことはできても、あの中へ飛び込める人間はおろかポケモンなんていないということは考えなくともわかる。

 しかしルビーは腰から一個のボールを取り出して構えた。

 

「いる……一匹だけ」

 

 両手でボールを構え、エアカーに向けながらルビーはボールに入ったポケモンについて話始める。

 

「ボクも滅多にボールから出すことはなくて、不思議なポケモンなんだ。ジョウトにいた時に出会ったポケモンで、種類も名前も分からない。図鑑をもらった時に興味本位で見てみたけど、図鑑も認識しなかった。だけど、ずっと持っていた……」

 

 まるでこの時を待っていたかのように、ルビーの意志とは別の力が働いているかのようにゆっくりとボールが開いていく。

 

「ボクの……6匹目!!」

 

 

 

 

 

 ボールが開かれ、エアカーへと光が奔る。

 ルビーが持っていた6匹目。それはときわたりポケモンセレビィであった。

 セレビィはエアカー周辺の時間軸に干渉にして突入し、マツブサとアオギリが持っていた紅色の宝珠、藍色の宝珠を奪い返す。

 同時に悪しき所有者から宝珠を取り返したことにより、ルネシティを浮上させていたエネルギーが四散していき海へとゆっくり降下していく。

 

「──」

 

 セレビィは力を解放した。

 ときわたり。

 この世界においてセレビィと一部のポケモンだけが許された力を解放したのだ。本来あるべき未来へとルビーとサファイアを誘いながら、セレビィはその手に持つ二つの宝珠を砕いた。

 砕かれた欠片と共にルビーとサファイアも時間の流れに乗って何処かへ運ばれていく。

 

「よくがんばったね」

 

 二人に激励を送りながら見送るセレビィ。

 そして彼の目の前に横たわる一人の人間……レッドの手を掴む。もう片方の手には彼のバッグがあり、セレビィは彼に語り掛ける。

 

「さあ、行こうレッド。キミの旅は、これから始まるんだ」

 

 まるでセレビィの言葉に答えるかのように、レッドはその手を握り返した。

 

 

 

 

 

 冒険競争79日目。

 

 意識が覚醒する。

 不思議と長い、本当に長い夢を見ていたような気がする。あれ程痛みを抱えてた体が、今は嘘のように軽い。

 

「おっ、二人が目を覚ましたぞ!」

 

 聞き覚えのある声に反応して、体を起こしながら目を開く。

 そこには、驚くべき光景が広がっていた。

 

「……え」

「キミたち二人の活躍ですべての事態が収束したと聞いたぞ! ホウエンを代表して、ポケモン協会理事長であるわしから礼を言おう! お疲れさま……そして、ありがとう!!」

 

 理事長を中心に大勢の人がそこにいた。父さん、師匠、ダイゴさん、大師匠……この旅で出会った人たちがボクらを迎えていてくれた。

 そこで気づいたのは父さん、ダイゴさん、カガリさんのことだ。三人は間違いなく死んだ。なのにこうして生きているということ。ふと、何かに気づいて後ろを振り向き窓の外を見た。そこにはオオスバメに乗ってどこかへ飛んでいくカガリさんの姿があった。

 よかった。カガリさんも無事だ。

 いつ、どこで、どの時から遡ってこの未来へと着地したのかは分からない。でもそれ以上に、大切な人達が生きていることに感謝した。

 それはきっとあの子がやったのだろう。

 ルビーは6匹目のボールを手に取った。案の定そこには誰もいない。

 

「もしかして、この時のためにキミは……ボクといてくれたのかい?」

「ルビー?」

「いや、何でもないよ」

 

 思わず口に出した言葉にサファイアが顔を覗き込んできた。彼女はどうやらこの異変に気付いている様子はない。

 もしかしたら、あの子を持っていた自分だけがこの事を覚えているのかもしれないとルビーは思った。

 部屋を見渡せばみんなが自分達に賛美を送っている。口には出さないがあの父さんでさえ、昔に見た優しい顔を向けてくれている。

 そこである事に気づいた。部屋をどれだけ見渡しても、あの人がいないことに。

 

「そ、そうだ。レッドさん、レッドさんはどこにいるんですか⁉」

「げっ! やはりあの男が関わっていたのか⁉」

 

 一番に反応したのはポケモン協会理事長であった。片目と左腕に包帯を巻いたミクリがナギに支えられて呆れるように言った。

 

「だから言ったではありませんか。彼がいなければ、もっと被害が出ていたと」

「ルビーとサファイア。二人の時間を稼ぐために、レッドがグラードンとカイオーガを抑えていたんです」

 

 

 ミクリに続いてダイゴが補足した。

 それを聞いてどうやらだいたいの流れは変わっていないのだと言うことにルビーは気づいた。では、彼は一体どこにいるということになる。

 意外にも、それを答えたのは父センリであった。

 

「レッドさんはもういない。戦いが終わると、どこかへ消えてしまった」

「そう、なんですか」

「大丈夫ったい。また会えるとよ!」

「そうだね……うん。また会えるよね。その時はちゃんとコンテストの魅力を……ん? コンテスト? すみません。今日は何月何日ですか?」

「今日かい? 今日は9月16日だが。それがどうかしたのかい?」

 

 と、理事長が教えてくれたおかげで重大なことに気づいてしまった。隣にいるサファイアもそれに気づき、互いに顔合わせながら叫んだ。

 

『あ~~~~!! 明日で80日目⁉』

 

 ボクらは話した。自分がコンテスト全制覇。サファイアが全ジム制覇を80日の間にどちらが先に達成するかを。

 サファイアの最後の相手は父さんで、ボクはコンテストに顔が利く師匠に頼み込んだ。

 

「フッ。いいだろう」

「ああ。構わないよ」

『やったァ!!』

 

 この時、ボクらはようやく思い出した。今まで止まっていた日常という当たり前のことを、ようやく取り戻したんだと。

 そしてボク達の冒険はまだまだ……これからなんだということに。

 

 

 

 

 

 ルネシティ。

 町を覆っていた山は崩れ、中心にあった海には瓦礫が沈み、町は崩壊していた。これを元に戻すのはどうみても不可能。精々建物をまた建て直すことが関の山だろう。

 そこに黒のスーツを着こなす一人の男が、地面に埋まっていた美しい二つの石を手に取る。

 

「紅色と藍色の宝珠が砕け石になったか。ふむ。ルビー・サファイア、と言ったところか」

 

 男の背後で3人の人間が控えていた。その内の一人、長身の女が言った。

 

「サカキ様。例の男の消息についてですが」

「見つからない、そうだな?」

「……は」

「いまは構わん。しかしその時までに見つけろ。手段は問わん」

「と、いいますと?」

「そうだな……手配書と賞金をかけろ。金欲しさに動く人間はごまんといる。そいつらの動きからヤツを探せ」

『は!』

 

 男の命令にすぐに動く三人。

 彼は手に石を持ちながら空を見上げた。

 

「舞台は整うぞ、レッド。私は一人のトレーナーとして強さを求め、ロケット団のボスとしてその力をふる……ぐっ!」

 

 ロケット団のボスと名乗る男……サカキは突然胸を抑えながら膝をついた。咄嗟の発作に思わず手に持っていた石を落とす。

 サカキは荒い息を整えながら目の前に広がる世界を見てながら呟く。

 

「くくっ……焦っているのは、私か。だがまだ死ねん。ヤツとの決着、そして息子と会うまではまだ……!」

 

 その眼にあるのは絶対に生きるという覚悟が宿っていた。胸の痛みが引いて落ちた二つの石を拾うと、サカキは戦闘艇へと歩き出した。

 

 

 第5章完

 

 

 

 

 

 

 

 カントー地方から北に離れた場所にある場所、その名をシンオウ地方。

 ここは北の大地と呼ばれ今なお古き伝承が多く残る場所。他の地方と比べて寒冷地であり、大陸中央付近にあるテンガン山や山間部には雪が積もっている。そのためここに住む人々は一部を除けば皆厚着をしている服装が目立ち、暖かい時期を除けば半袖で過ごす人間は滅多にいない。ましてや裸など論外である。

 そんな大自然に囲まれた町、マサゴタウンにあるナナカマド研究所の前に一人の少女が立っていた。幼い少女にぴったりなスカートを着こなしているが、服装の色はすべて黒で統一されているものの、彼女の金色の髪が逆に中和させることによってバランスを保っている。背中にはリュックを背負い、今まさに旅に出そうな状態である。

 否、まさにこれからこのシンオウ地方を旅する新人トレーナーなのだ。

 少女の名はシロナ。未来において、このシンオウ地方における最強のチャンピオンとして君臨する女。

 しかし彼女は未だにその第一歩すら踏んでいない。なにせ踏んでしまえば、その前に転がっている人間を踏んでしまうからだ。

 

「……」

 

 シロナの目の前に転がっているのは男だった。身に着けているのはジーパンだけで上半身は裸だし靴すら履いていない。体のあちこちが漫画でしか見たことがないような満身創痍と言った感じで、あちこちに血が固まった跡が残っている。あとは倒れている横に、見たことのないブランドのショルダーバッグがあった。

 考古学者のタマゴである彼女が推測するにこれは凍死体というやつだろう。きっとナナカマド博士を恨む輩が嫌がらせにやったに違いない。

 こういう時はどうするべきか。子供らしく大人に頼ればいいのだ、と結論を出したシロナは振り返って先生の名を叫んだ。

 

「せんせぇー! ナナカマドせんせぇー!」

「どうしたんだシロナ? まだ旅立って数分しか経っていないぞ」

「目の前に死体があって旅に出られないのー」

「なんだと? そういう時は警察に電話しろと言っているだろう」

「そんな便利な道具なんてないよ」

「それもそうか」

 

 この時代にポケギアはなく、あるのは固定電話のみ。通信手段はそれと、古き良き伝統ある手紙しかない。

 

「……ぅ」

「あ! せんせぇ、この死体まだ生きてる!」

「だからそういう時は……えーと、ポケモンじゃないからポケモンセンターは使えんのか?」

「もー。これじゃあ旅に出れないぃーって、きぁーー?」

「……すり……れ……」

「?」

 

 不満の声を目の前に男に向けると、突然男の手がシロナの足首を掴んだ。彼女は慌てて叫ぼうと思ったが、彼が発した言葉で一気に冷静になった。

 

「……くすり……くすりを……くれっ……!」

「せんせぇ、この人ヤク中だ」

「それはいかん。早く警察に連絡をせねば」

 

 ここはシンオウ地方。神話が息づいている神秘の大陸に、一人の男が迷い込んだ。

 

 

 

 第6章へ続く

 

 

 

 

 

 




運営からのお知らせ
レッド、グラードン、カイオーガ三選手の試合放棄により、この度の試合はドローとさせていただきます。


まず謝罪。カガリも死んでたのを忘れてました。修正が大変なのであの世では二人だけしかいません。お兄さん許して……。

最後に出したレッドの手配書なんですが、裏の世界では賞金。表では指名手配書ということで何か罪状を書きたいのですがそれを募集します。ていうか「ヤマブキ破壊工作疑惑」「人間詐欺罪」ぐらしか思いつかないの。
レッドの賞金と罪状、可能な限り本編に配慮した内容かつ面白いネタだったら使わせていただきます。

あと最後にシロナの答え合わせです。
はい、一人ほぼ当てた方がいました。まあ薬物中毒は流石に無理だったけどね!
第5章の一話目の感想にその方がいます。

神龍「さあ正解者よ、願いを一つ言え。その願い叶えてやる(かもしれない)」




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