おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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ここは健全なポケモン二次創作だというのにウォズやらジョルノが湧くとかおかしい……おかしくない?


もちろんです。プロですから

 

 コトブキシティへ向けて202番道路を歩くレッドとシロナ。本来であればすでにコトブキシティへ着いていてもおかしくないのであるが、ナナカマド博士の弟子でもある彼女はその場所に住むポケモンの生態系を記録しながら旅をしているため、かなり歩みが遅いのでまだたどり着いていなかった。

 ノートに黙々と書いているシロナをレッドは頭にソーナノを乗せて眺めているだけ。暇なのか草を千切っては捨て、千切っては捨てていた。するといきなり彼女が声を上げると、それに驚いた野生のポケモン達が慌てて離れていく。

 

「あ──!!」

「どうしたんだよ。そんな大声出して」

「つい癖でノートに書いてたけど、せんせぇからポケモン図鑑を使いなさいって言われてたんだ!」

「え? ポケモン図鑑あんの?」

「ソーナノ?」

「うん。レッド、バッグから出して。すぐにわかるから」

「へいへい」

 

 肩にかけていたシロナのバッグを前に持ってきて中を探りながら、レッドは改めてポケモン図鑑のことを思い出していた。詳しい設定は忘れているが、ある世代まではすべてオーキド博士が開発に関わっているとまでは聞いている。いまがどれくらい過去の時代なのかはともかく、すでにポケモン図鑑の開発に取り掛かっていてもなんら不思議ではないのかもしれない。

 バッグを漁っていると、彼女の言う通り無駄に大きく固い金属の塊があったのでそれを取り出す。

 それはポケモン図鑑というにはあまりにも大きく、どちらかと言えば薄い動物図鑑に近い。しかしレッドはそれにある既視感を抱いた。

 

「なにこのipad proの無駄に分厚い版みたいの」

「あいぱっど? レッドってば、レディの前でパッドなんて言っちゃ『めっ!』、なんだからね!」

「あ、はい。すみません……? でもよ、これ本当にポケモン図鑑なのか?」

「そうだよ。なんでも、せんせぇの後輩が開発している……はいてくましん? なんだって! わたしが旅に出るって話したら、このプロトタイプを送ってくれたみたい」

「ふーん。デカいし重たいし、シロナにはちょっと大変かもな。ほれ」

 

 そう言って片手でポケモン図鑑を手渡すと、シロナは両手で受けとるがその顔は引きつっていた。

 

「ふ、ふん。中々の……いい重さね!」

「無理すんなって」

「ソーナノ」

「平気、よ」

 

 レッドの言葉を無視してシロナはポケモン図鑑を構えた。図鑑のディプレイは自分が知っているのとは違いカバーなどなく、そのままよく知っているタブレットのようなもの。裏にはカメラが付いており、それでポケモンを認識するのだろう。起動スイッチはほんとうにipadのごとく画面下の中央にあるホームボタンらしきもの押して起動するらしい。

 しかしすぐに起動することなく、十秒程経ってから画面に光が入った。

 

「……これ、すっごい不便!」

「まあ、俺の時よりかなりスペックダウン……ていうか、この時代ならこれが当然? ワープロみたいなもんか」

「ん? レッドもポケモン図鑑持ってたの?」

「ああ。これよりもっとコンパクトでハイテクなやつ」

「未来から来たんだから持ってても不思議じゃないか。あのムックルで早速記録開始ね」

 

 図鑑をムックルに向ける。するとカメラを通して図鑑が反応した。だいたい数秒ほどかかって、無駄にデカいディスプレイに文字だけが表示された。

 

『ムックル むくどりポケモン たくさんのむれでこうどうする。からだはちいさいがはばたくちからはひじょうにつよい』

 

 たったそれだけであった。ポケモンの絵もなく、図鑑ナンバーや高さに重さなど一切ない。説明文しかないのである。

 シロナの横でそれを覗き込むレッドは何ともいえない表情をして言った。

 

「なあ」

「なに」

「ノートに書いた方が早くね?」

「そうね。でもこれはせんせぇに頼まれたことだからちゃんと使わなきゃいけないの。いいレッド? 面倒だからって、簡単に仕事を放りなげちゃダメなの。わかった?」

「ダメもなにも、それはシロナの仕事……」

「わたしはノートに書くから、レッドは図鑑で記録をお願いね。うんうん。これも適材適所ってやつね!」

「えーめんどくさい」

「むっ。ちゃんとお仕事しないと、お薬もう上げないからね!」

「それは困るのでお仕事します」

「よろしい」

 

 シロナ自身はもうレッドを飼いならすとか服従させる気は毛頭ない。ただレッドが相当のダメ男なので、ついつい叱ってしまうようになっているのだ。

 それから1時間ほどかけて202番道路の調査が完了したころ。

 レッドはたまたま転がっていたイシツブテを手に取ってジッと眺めていた。イシツブテもイシツブテで、何で目の前の人間は何もせず自分を見ているんだろうと思っていた。それに気づいたシロナがレッドにたずねた。

 

「どうしたのレッド? イシツブテの記録はもう終わったでしょ?」

「うん。でもなーんかイシツブテを見ていると、無性にこう……噛り付きたいんだ。すごいガリガリしてて、歯ごたえがありそう。うん、いただきまーす」

「ラッシャイ⁉」

「こらレッド! 拾ったもの口に入れたらめっ!」

「あ……」

 

 ──シロナのはたく! レッドの手をはたいてイシツブテを逃がしてあげた。

 逃げるイシツブテを名残惜しそうに眺めるレッドに、シロナは優しく話しかける。

 

「どうしちゃったのレッド? いきなりイシツブテを食べたいだなんて」

『それはわたくしが説明いたしましょう』

「知っているの、サーナイト⁉」

「ソーナノ⁉」

『もちろんです。プロですから』

 

 突然レッドの腰にあるボールから出てきたサーナイトが胸を張って言うと、シロナとソーナノが過剰なまでのリアクションをする。

 

『実はある戦いでマスターはげんきのかけらをかじりすぎた結果、あの歯応えが恋しくなってしまったのですよ』

「げんきのかけら? あーたしか、最近どこかの製薬会社がそんな薬を開発してるってニュースで見たかも」

『あ、まだこちらではないんですね。それは不幸中の幸いかと』

 

 それを聞いてサーナイトは胸をなでおろした。もしげんきのかけらがあれば、おそらくフレンドリィショップで買い占めていたに違いないからだ。

 

「やばいな。思ってたよりも重傷じゃん俺」

「やっぱりレッドにはわたしが付いていないとダメなんだから。ほら、座ってないで行くよ」

「うん。なんか代わりになる……アメとかない?」

「ありません。ほら、しっかり歩くの」

「はぁ。あの不味いんだが美味いんだかよく分からない味が恋しい……」

「だからって拾った物を食べたらめっ! なんだから」

「うぅ……」

「仕方ないなぁ。コトブキシティに着いたらちゃんとアメ買ってあげるから、今は我慢しなさい」

「……ついでに店とか色々見て回っていい?」

「しょうがないなあ」

「やったぜ」

 

 駄々をこねる子供を躾けるようにレッドはシロナに手を引っ張られながら歩き出す。腕にソーナノを抱えていたサーナイトもそれに続くように歩き出すが、彼女はどこか複雑な顔つきをしていた。

 

『……薬のやりすぎでマスターがどんどんダメ男になっている⁉』

「ソーナノ!」

 

 果たしてソーナノの言葉は肯定なのか否定しているのかは誰にもわからないのであった。

 

 

 

 

 

 結局今日中にコトブキシティにたどり着けず野宿することになった一向。学者のタマゴであるシロナにとって初めての野宿ということで、珍しくレッドが一つ一つ教えながら野営の準備を進めていた。

 しかし彼女としてはポケモンセンターで宿を取る気満々だったらしく、テントもなければキャンプ道具もない。カントーと違ってここはシンオウ。夜になればかなり冷え込むので、いくらトレーナーであるシロナといえど命の危険にかかわる。

 

「取りあえず焚き火だな。これだけは最低限しないと」

「ふーん」

 

 両手に顎を当てながら、シロナは適当に答えた。

 

「ふーん、じゃないの。お前もやるの」

「適材適所だもん。わたし、レッドのお世話ばかりで疲れちゃった」

「なあサーナイト。俺、怒っていいよね?」

『怒る権利ないと思いますよ? ずぅーっと手を繋いで歩いて……歩かされていましたし』

「ソーナノ」

「ほらね?」

「ぐぬぬ。味方が誰もいない……はぁ。まあいいや。えーとマッチとか」

「あると思う?」

「しゃーない。ま、俺がやった方が早いか」

 

 一般的な並列型で作った枯木に向けて指を向けると、ライターのように感じで指先に火が灯る

 

「えい」

 

 ──レッドのひのこ! 

 ボッと、ひのこが出た音がなると向けていた指先から右腕から全身へと一気に燃え始めた。突然のことで当人も驚き、消火するために地面を叫びながら転がる。

 

「ぎゃああああああ!!!」

「あーーーー!! レッドの腕が突然燃えて、気づいたら上半身まで燃えてるぅ⁉」

『めっちゃ説明してくれますね』

「なんでサーナイトは冷静なの⁉ レッドが燃えてるんだよ⁉」

『覚えておくといいですよシロナ。マスターぐらいになると燃えても問題はないのです。ただこれは異常ですね。えい』

 

 サーナイトの念力でレッドの腰についていた二つのボールの開閉スイッチを強制的に開ける。飛び出したのはラプラスとミロカロスであった。

 

「消火開始!」

「ビューティーシャワー!」

 

 ──ラプラスとミロカロスのハイドロポンプ! 

 巨大な水の塊がレッドに容赦なく降り注ぐ。急遽駆けつけた消防隊員による放水によって燃えていたレッドは見事鎮火完了。シュゥと音を立てながら白い煙が彼から出ている。

 テクテクと歩いてソーナノがレッド近づくと、顔をぺちぺちと叩いて生存確認をしていた。

 

「ソーナノ、ソーナノ」

「うぅ……」

「レッド大丈夫⁉ えーと、痛くない?」

 

 このような時に一体どのような言葉をかければいいから分からないのか、取りあえずありきたりな言葉をかけるシロナ。彼をよく見れば、燃えたのは着ていたシャツだけで、肌はまったく焦げていないのである。逆に困るぐらいだ。

 

「熱くもないし痛くもないんだけど、突然のことだからつい叫んじゃった……」

「もぉ……心配させないでよね」

「ごめんなさい。でも、なんでいきなり……」

『マスター。もしや、あの戦いの反動では? それに99回も死んだことで、きっと体もおかしくなってしまったんですよ』

「99回死んだ? 冗談にしては笑えないね」

「え、あーうん。そうだね。な?」

『え、ええ』

 

 一体この世どこに99回も死んだなんて言える人間がいるだろうか。シロナの反応は当然で、これ以上追及されないようにとレッドはサーナイトに視線を送り適当に相槌をうった。

 

「レッドは火を出せるんだ。すごいじゃない!」

「あと電気と氷も出せる」

「じゃあ野宿しても火と水の心配はいらないね!」

 

 子供らしい笑みを浮かべながら言う彼女を見て、レッドのポケモン達は互いに顔を合わせた。

 

『想定していた反応と違いますよ、これ』

「んーシンオウの人ってこんな感じなんでしょうか?」

「これは将来大物になりますよ」

「ソーナノ!」

 

 と、ミロカロスがシンオウに住む人達にあられもない疑惑を植え付け、ラプラスがシロナの秘められた才能を看破していた。

 

「しかしこの状態だと火も出せないし、氷だって出せないな」

「でもどうしてなの? 今まではできたんでしょ?」

「何て言うか、史上最大の喧嘩を吹っかけたその後遺症? ていうか俺負けた? うっわぁ。すげー惨めじゃん俺……」

 

 再度地面に倒れて落ち込むレッド。あの戦いは最後レックウザとルビーの活躍によってグラードンとカイオーガは戦いを止めた。その際彼はあの世にいたため、あの戦いは自分の負けだと今になって気づいてしまったらしい。

 どちらかと言えば、三者試合放棄によるドローなのであるがレッドは素直に自分が負けたと思い込んでいる。

 そんな落ち込んで彼の頭を優しくシロナは撫でた。

 

「よしよし。よくわかんないけど、レッドはよくがんばったね。えらいね」

「……なんかすげぇダメになっていく感じがする」

「けど、どうするの? 火がないと焚き火できないよ」

「それならブイに頼めばいいか。あ、サーナイト。バッグからアレだして」

『えーと。はい、どうぞ』

 

 ボールからイーブイが現れ、レッドは久しぶりにガントレットを左腕に装着し構えた。

 ──イーブイはブースターに進化した! 

 ──ブースターのひのこ! 

 今度こそ枯木に火がついてやっと焚き火の完成となった。暗い空間に暖かい光が照らされるも、シロナはそれよりもイーブイに目を輝かせていた。

 

「え⁉ え⁉ イーブイがブースターになったと思ったらまたイーブイになった!」

「ドヤァ」

「こんなドヤ顔をしていますが、うちのブイが特別なだけだからな?」

「へー! なんで!? どうして⁉」

「それは……うん」

「ちょっと辛いっすね」

「あーうん。色々あったんだね。よしよし」

 

 レッドとイーブイは互いに顔を合わせ、如何にも聞かないでくれと言うような顔をシロナへ向けた。それで彼女は察したのか、イーブイの頭を撫でていた。

 

『あとマスター。そのままでは風邪を引いてしまいます。こちらを』

「お、さんきゅー。やっぱこれだよなぁ」

 

 サーナイトがレッドのバッグからTシャツを取り出してそれを渡す。それは目覚めのほこらで入れておいたシャツで、今残っている最後のシャツでもあった。「天を見よ! 見えるはずだあの死兆星が!!」とデカデカとプリントされた文字に、白髪のおっさんが天を指さしているものだ。

 レッドは見せつけるようにシロナに見せる。それを見てサーナイトも小さなため息をついているが、案の定彼女の反応も他のみんなと同じであった。

 

「なにそれダサい」

「お前までそれを言うのか……。こんなにカッコイイのに」

「文字は百歩譲っていいとしても、全体的にダサいよそれ」

「みんな同じこと言うんだよなあ。センスが古いんじゃない?」

「古いのはレッドだよ。そんなんじゃすれ違う人に笑われて、わたしが恥ずかしい目に遭うのが目に見えるもん」

「ふっ。人の美的センスを理解してもらえないのがこんなにも辛いとは思わなかったぜ。あのお姉さんにも否定されてしまったぐらいだからな……」

 

 背を向けて小さく体を震わせるレッド。そんな彼に小さなため息をつきながらシロナが背中を優しく叩く。

 

「はいはい。泣かないの」

「泣いてねぇし」

「みんなそう言うんだよ。コトブキシティについたらわたしが選んであげるから、今日はもう寝よっか」

「……うん」

『となればマスター! どうぞこちらに!』

 

 寝ると言った傍からサーナイトが地面に座り込むと、膝をぱんぱんと叩きながらレッドを手招いていた。彼もホウエンでの旅では常に彼女の膝枕で眠っていたため無意識に体が動く。それを見てシロナも続くようにレッドの体をベッドの代わりにして寝そべる。

 

『な⁉』

「うわぁ。レッドの体暖かい~。これなら何もいらないね!」

「まあ、体温を維持するぐらいだったら平気っぽいから。でもさ、俺が寝返りできないんだけど?」

「気にしない気にしない。じゃ、お休みー」

「……ま、いっか」

『マスター⁉』

 

 そんな三人のやり取りを見ているイーブイ達の上で気づけばボールから出ていたスピアーが周囲を警戒はじめていた。それでもソーナノが周囲一帯を結界で覆っているので、ここに生息しているポケモン達ではまず破れないので問題はないが、その行動はもう彼の性分だろうか。

 

「ねえ、ラプラス」

「なんだい、ブイ」

「あの子……ちょっと危険すぎない?」

「うん。お姉さんとは別の意味でマスターをダメにしているね」

「元の時代に戻ったら、ナツメが苦労しそう……」

「それ以上に修羅場よ修羅場」

「でもさ」

「うん」

『マスターが幸せそうだからいっか』

「ソーナノ!」

 

 二人は未来の不安よりも現在の平穏を選ぶのであった。

 

 

 




※シロナはサーナイトのテレパシーの応用でポケモンの声が聞こえているだけです。今は。

あと英語力ないんで教えて欲しいんですけど。
rowdiesって、ローディーズでいいんですかね?
え、いきなりどうしたのかって?
アッセンブルって言いたいだけ。たぶん意味的にはレッド軍団にピッタリだと思うの。

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