おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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ナナシマ編だけに7章……これはばかうけですな()


第7章 ナナシマ炎上
ルール無用の戦いでレッドに勝てる人間なんていないもの


 

後にホウエン大災害と呼ばれた出来事から半年後。

ここカントー地方ヤマブキシティにある一軒の豪邸にて、6人の美女達が揃っていた。

その内の一人はこの豪邸の主であり、このヤマブキシティのリーダーでもあるナツメ。彼女以外にも街のリーダーであるエリカ、ミカンの二人。

さらにはナツメの従者である元カントー四天王であるカンナに、オーキド博士の孫であり医者兼お姉様の助手であるナナミ。

最後はこの非公式クラブ『レッドだいすきクラブ』の会長であるハナダのお姉さん。以上計6名がのんびりとお茶を楽しんでいる。

一応まだ会員は存在するが用事があって来れない者が何人かいたりもする。

彼女達には共通してその腕に抱えている人間をデフォルメ化したぬいぐるみがある。その目つきの悪そうな顔はどこかで見覚えのある男のように見える。

 

「レッドさんが消息を絶ってもう二年と半年。その間お姉さんが作ってくれたこの『レッドくんぬいぐるみ』がなければ即死でしたね」

 

と、この中で一番年下であるミカンが言った。

 

「お姉様は裁縫も得意でしたのね」

「うふふ。そういうエリカさんもお上手じゃないですか」

「お姉様に比べたらまだまだですわ」

「といっても、『レッドくんぬいぐるみ』だからできるだけですから。コンテストにでる衣装などは全部ナナミさんがやってくれますし」

「あら意外」

 

昔と違って表情が柔らかくなったナツメが本人を見ながら言う。

 

「レッドくんが子供のころは、よくケンカをして帰ってきたので、その流れで破れたズボンとか直してあげてましたから……チラ」

「……べ、別に裁縫が出来なくたっていいのよ。私にはカンナがいるし」

「カンナさんも裁縫得意なんですか? わたしはちょっと苦手なんですよ」

「よくポケモンのぬいぐるみを自作してますので」

「なら時間がある時でいいので、アカリちゃんのぬいぐるみ作ってもらえますか⁉」

「ええ。構いませんよ」

 

そんな有り触れた会話をしながら、次第に本題であるレッドの行方に話になった。

 

「この二年半。コンテスト巡りのついでにナナミさんと各地を回りましたが、レッドくんの目撃情報はありませんでした」

「まずレッドくんがホウエンに行くと言っていたはずが、何故かホウエンに行っていないという結論に落ち着きましたからね」

 

ナナミがお姉さんの言葉に付け足しながら説明する。

 

「それが実は本当はホウエン地方に居て、そしたら半年前にまた反応が消えてしまった。ほんと、レッドのばか」

 

ナツメは手に持つレッドくんぬいぐるみを強く抱きしめながら言う。

まずレッドの消息が完全に絶ったと判断したのは、彼に会ったウバメの森での出来事からだった。その時の発言から彼を未来レッドと仮名されており、未来レッドの発言からこの時代のレッドに何かあったのではという話になった。

まずナツメとお姉さんがレッドの反応は確かにあるが、微弱で正確な位置が分からないというのが共通の認識。

ならば現地に行って確認するしかないうということになり、お姉さんとナナミがコンテストのついでにホウエンでレッド捜索を開始。結果は誰もレッドなんていう少年は知らないという結果に。

では他の地方かもしれない。

ジムリーダーで多忙でもあるがそこは一身上の都合によりジムを休業し、それぞれ各地方を巡ったものの成果は何も得らなかった。

そんなある日。時期にしてちょうど半年前。

突如レッドの反応を感知したナツメとお姉さん。ただその反応は点いたり消えたりする電球のよう感じで反応は依然と微弱。時折強い反応があって、それで本当に彼がいるのではという結論にたどり着く。

そしてナツメが徹夜でその反応をトレースした結果、何故か最初の目的地ホウエン地方であることが判明。彼女達はそれがわかると『いざホウエン地方へ!』と意気込んだものの、タイミング悪くポケモン協会からホウエン地方へのあらゆる手段での移動を禁止された。

正確に言えば鎖国であった。

ナツメは強引にテレポートを慣行しようとするが、あまりにも距離があってそれは不可能だった。

時期にしてレッドがルネシティで23日間の死闘を繰り広げていたあの期間、ナツメとお姉さんはレッドの生と死を何度も感じてしまったせいかさらに訳の分からない状態になってしまい、最終的には彼の反応が全く感じられなくなってしまった。

それでもナツメとお姉さんには確かな繋がりがあるので、生きていることは間違いないと判断していた。

 

「レッドがホウエンにいたというお二人の確信を信じ、チャンピオンであるリーフと私を含めた数名のジムリーダー、そして支援団体と共に災害によって被害を受けた街へと支援に行きました。そこでチャンピオンやあちらのジムリーダーのミクリさん、それに図鑑所有者でリーフの後輩の二人の話でも、確かに彼がいたのは間違いないそうです」

「エリカは行けて私がダメだった理由が分からないのよね」

「やはり協会はレッド様がいたことを既知していたのでは?」

「だからって私が行っても問題ないじゃない」

「まあそれは大した問題ではないですよ」

 

ナナミがオブラートに包むことなくストレートにナツメに言うと、彼女は未だに納得がいかないのか、その矛先をナナミに向けるが華麗に視線を逸らされた。

 

「わたしもジョウト代表で行きましたけど、災害の中心地だったルネシティはすごかったですよ。もう街の原型なんてありませんでしたもん」

「リーフが言うには、レッドくんがその中心に居たって言うけど……」

『……』

 

ナナミの言葉に全員言葉を失い無言の時間が流れた。全員が同じ想像をしているのか、それを思い浮かべた途端に『いやまさか……でも……レッドだし……』みたいな感じに行きつく。

 

「まあレッドくんですから仕方ありません。ですがそれは本当だと思います。現にレッドの反応が消えたり現れたりしてましたし」

「別にレッドが死ぬことにもう驚かないけど、さすがに心配だわ……」

「奥様。それはそれで危ない考えですよ」

「はあ。レッドくんったら私との約束を破ったのね。これはもう責任を取ってもらわなくちゃ」

 

と、さりげなく言うナナミ。

『レッドだいすきクラブ』は一見平和そうに見えるが、その実ナツメの隙をついて容赦なくレッドを狙う者達ばかりなのである。そのナツメは彼女として絶対不動の立場を維持はしているが同時に慢心していると言ってもいい。

が、何だかんだでお姉さんを筆頭にナツメがレッドの一番であることは納得はしている。納得しているだけで自分の本音を隠さないとは言っていないのである。

そんなナナミに続いて応援しているはずのお姉さんが面白半分である情報を提供した。

 

「そう言えばナツメさん。以前イッシュ地方に行った際にあの有名なポケウッドに出演したそうではありませんか」

「ぶっ! ど、どうしてそれを……!?」

「カンナさんが教えてくれました」

「ぶい」

 

主を裏切ったメイドは笑顔でブイサインを作っていた。

 

「カンナァーー!」

「いいではないですか。監督やプロデューサーからも評判がよくて、次も出てくれとオファーがきていますし」

「あらナツメさんにも意外な才能があったんですね。私も月に一度はジョウトのエンジュシティ行って舞を披露していますけど」

「へー。そのまま有名女優になって、イケメン男優と駆け落ちしたら面白いですね!」

『……』

 

笑顔で言うミカンの顔は純粋そのもの。つまり嘘偽りない本心。控えめな割には火の玉ストレート並みに毒舌を吐くのだ……特にナツメに対して。

 

「こらミカンちゃん。そういう発言はお姉さんポイント減点ですよ?」

「あ、ごめんなさい。つい口が勝手に」

「これがなければいい子なのに」

「それだけ奥様がレッド様に愛されている証拠ですよ。まあでも、女優の道も悪くないのでは?」

「でもレッドに相談してから決めたいし……」

「いくらお得意のテレポートと行っても、カントーとイッシュでは距離がありますからね」

「レッドがいれば余裕なのに」

「はいはい。愛の力愛の力ー」

「ナナミも最近容赦なく言うわね……。ところで、リーフはどうしたのよ? イエローはピカがどうとかで来れなくて、ブルーはご両親と会うって聞いてたからいいんだけど」

「あ、リーフはですね。グリーンと一緒におじい様のところですよ」

「何かあったのですか?」

 

エリカがお茶を一口呑んだ後にお嬢様らしく振る舞いながら聞いた。

 

「なんでもポケモン図鑑のバージョンアップとかで。最近は私もお姉様と一緒にコンテスト巡りで忙しくて、リーフから聞いただけなので詳しくは知りませんけど」

「ポケモン図鑑ですか。そういえばレッド様も以前は持って――あら、お客様ですね。ちょっと行ってきます」

 

呼び鈴が鳴りこの家のメイドであるカンナが対応すべく席を離れる。彼女を待つことなく話は続く。

 

「しかし、リーフさんも今では立派にチャンピオンとして活躍してますね。レッドくんはナツメさんの所為でチャンピオンのお仕事をしていませんでしたから」

「と言いましても、その内容はお世辞にもチャンピオンらしいとは言えませんけど。雑誌の取材や表紙の撮影、先のホウエンへの支援などは割とマシですが。協会もリーフさんが女性で可愛いことをいいことに、色々とそういう方面の仕事をさせてるようですもの」

「ほら。私のレッドへの対応は間違ってないのよ」

「結果論ですよね、それ。まあそのリーフは楽しんでますよ。よくサインとか求められるとかないとか。ほんと、立派に成長しましたよ。胸以外は」

「それ、実の姉がいう台詞なんでしょうか。とミカンは訝しんだ」

「私もリーフに頼まれたっけ。未来予知でわたしの胸が大きくなるかって見てくれって。今でもあの時断っておいてせいか――」

『奥様ーー! 大変です奥様ーーーー!!』

「もう何なのよ……」

 

突然玄関にいるであろうカンナが大声で叫ぶので、ため息をつきながらナツメは席を立ちあがり玄関へとテレポートする。豪邸であるがゆえに玄関まで行くのは面倒なのだ。

テレポートに成功すると、玄関の外にはコートを居た男がカンナと彼女を待っている最中であった。いきなりテレポートしてきたナツメには驚く反応はしつつも、声を上げてはいなかった。

 

「で、カンナ。この人は?」

「あ、実は……」

「こほん。改めまして。私は国際警察のハンサムと言います」

「はあ? その国際警察のハッサムさんがどんなご用件でしょうか?」

「奥様、ハンサムです。ハッサムじゃなくて」

「あ、ごめんなさい」

「いえ、平気ですので。実はあなたの……夫であるレッド氏について――」

「やだぁ夫なんて! でも本当のことだしぃ~」

「奥様、落ち着いてください。話が進みません」

「あらごめんなさい。そういうワードが出るとつい惚気ちゃうのよね」

「は、はあ? で、そのレッド氏の現在の所在をご存じでしょうか?」

 

それを聞いて彼が怪しいと判断したのか、ナツメはハンサムの頭の中を読もうとした。が、どうやら国際警察というのは伊達ではないらしく、エスパー対策をしているのか頭の中は読めなかった。視線をカンナに送れば、彼女の目はすでにメイドからトレーナーとしての目になっている。

どうやら本当に只者ではないらしい。

隠しても仕方ないく、逆に相手がこちらの知らない情報を知っているかもしれないと判断してナツメは教えた。

 

「知らないわよ。こっちだって知りたいもの」

「そうですか」

「で、なんでレッドを探しているのかしら? 仮にも元カントーチャンピオンで……それなりに有名なんだけど」

 

彼女であるナツメ自身、そのレッドの有名な話は素直に喜べないものばかり。女たらしで有名だとか、トレーナーの癖に生身でバトルを挑んでくるとか。どれも本当の事だから何も言えないのであるが。

それを話すと、ハンサムは何とも複雑な顔をした。

 

「実はその有名さが仇となり、大きな問題となっていまして」

「問題?」

「その反応を見るに、まだこれを知らないようだ」

『――⁉』

 

そう言って2枚の紙きれを渡してきたのでカンナと一緒に見て唖然とした。そこには大きくハッキリと『重要指名手配書』と書かれた全国指名手配書と『WANTED』と書かれた賞金額が載っている手配書だった。

 

「そちらが一般に全国の警察に出回り始めている手配書で、もう一枚が裏の世界に出回っている手配書です」

『……』

 

二人は無言で表の世界に出回っている手配書を見た。まず目を引かれるのが『おい、レッド!』とデカデカと乗っている文字。続いて名前や出身地といった個人情報。

次に肝心の罪状が『ルネシティ破壊第1容疑者・人間詐欺罪・薬物大量所持及び使用・公然わいせつ・ポケモン虐待・女たらし等々』と書かれている。

裏の手配書に関しては『DEAD OR ALIVE』と書かれた後に『600億$$』と訳の分からない金額が指定されていた。

 

「国際警察ではすでにこれが大きな犯罪組織による裏工作だと――」

「何よこれーー⁉ 最後の女たらし以外全部適当じゃないの⁉」

「い、いや、問題はそこではなくですね?」

「ていうか何ですかこの$$って。まあレッド様のことを考えれば、賞金額はそこそこ妥当ですけど」

「やってくれたわね、サカキのやつぅ! 元上司だからって調子乗ってんじゃないわよ!」

「サカキ? もしや、あのロケット団のボスのサカキだろうか⁉」

「レッドに対してこんなことするのはアイツに決まってるじゃない……む、カンナ旅支度の用意よ」

 

突然受信した未来予知に目を細めながらカンナに言うナツメ。そんな彼女の無茶ぶりになれているカンナは問題ないが、これに付いていけないハンサムはすでに置いてきぼりで首を傾げているだけである。

 

「わかりました。ですがどちらへ?」

「いいからささっと用意する!」

「メイド使いが荒いんですから~!」

 

そう言ってカンナは走りだし、残されたハンサムは戸惑いながらナツメに再度たずねる。

 

「それでレッド氏のことなんだが」

「あなたまだいたの? 用が済んだなら帰ってちょうだい」

「いや、仕事上そういう訳にはもいかないのだ」

「一応訊くけど。レッドを見つけてどうするつもりなの?」

「それはもちろん、私達の方で彼を保護する手筈になっている。すでに彼の賞金を求めて多くの賞金稼ぎや裏社会の人間が動いて……」

「あ、それなら心配ないわよ」

「は?」

 

ハンサムの驚いた顔見てナツメは改めて再確認した。ああ、レッドのことを知らない人間はこうなるのかと。

だから自分達のような彼を知っている人間は口を揃えてこう言うのだ。

 

「ルール無用の戦いでレッドに勝てる人間なんていないもの」

 

 

 

 

カントーナナシマにある1の島に向かうシーギャロップ号の船内で、黒いノースリーブのロングスカートを着こなしているブルーは、ポケギアで話しながら船内を移動していた。

 

「うん。いま向かってるとこ。改めてありがとうね、シルバー。こんないい服送ってくれて」

『そう言ってもらえるとオレも嬉しいよ。それに独自に調べた情報だと、義兄さんはそういう大人っぽい女性を好む傾向があったからね』

「あはは……」

 

義兄さん。それはブルーがレッドを落とすために仕込んだ策の一つであった。二人は血の繋がりがないとはいえ、あの辛い過去を姉弟同然に共に過ごしてきたのだ。今では実の姉弟以上に強い絆があると言ってもいい。

そんなブルーがあの仮面の男事件のあとシルバーにレッドを義兄さんと呼ばせることによって、自分達の関係がそういうものだとナツメ達に見せつけるのが目的だったのである。

ただ予想を超えてシルバーが意外にもすんなりと受け入れたことにも驚いたが、こうしてレッドの好みというか性癖を調べ上げるまでするのだから、ブルーもいまとなってはやり過ぎたかなと少し後ろめたさがあった。

 

『それにいよいよだね。気分はどう?』

「まだ緊張してる。写真を見ただけで泣いたんだもの。実際に会ったらもっと酷いかしらね」

『いいんだよ。それが普通さ』

「ごめんね、あたしだけ。これでひと段落着いたら、今度はアンタの家族探しを手伝うから』

『ありがとう姉さん。でもいまはオレのことは気にしないで。今までずっとオレの面倒を見てきてくれたんだ。これからは自分のために時間を使って欲しい』

「……ありがとうシルバー。落ち着いたらまた連絡するから」

『ああ。じゃあまた』

 

気づかない内に本当に気が利くようになった。弟の成長を喜びながらブルーはポケギアをしまう。

しかしああ言っていたものの、きっとあの子は自分のルーツである故郷と家族を探し求めているに違いない。

本土に戻ったらちゃんと手伝おう。

けど、今だけは彼の言葉に甘えよう。

 

「さて。1の島までまだ時間はあるし、少し船の中でも見て……」

「バナァ!!」

 

突然ボールに入っていたレッドのフシギバナが飛び出した。ブルーの言葉など耳に入っていないのか、彼の顔はすでに戦闘態勢に入っていた。辺りにはトレーナーなどいないのにも関わらずだ。

 

「フシギバナ? どう――」

 

フシギバナが虚空……何もないただの通路の先に向かってつるのむちを振るうのと同時に、その影に気づいた。

その影はフシギバナのつるのむちを躱すと、真っ直ぐこちらに向かってくる。ブルーはハッキリとその影を捕らえることはできないが、ソレがまるで腕のような何かをこちらに向けて攻撃をしてきたことは理解できた。

 

「ッ!」

 

――ブルーのメガトンキック!

右足を蹴り上げそのまま仰け反りながら三回転程後ろバク転をして回避しながら距離を取る。同時にフシギバナはブルーと襲撃者を挟む形で回り込み、ソレを拘束しようと再度つるのむちを放つが簡単に避けられる。

 

「バナ⁉」

 

フシギバナは二度も攻撃を外した衝撃を隠せなかった。まるで、自分の攻撃が分かっているかのように襲撃者はいとも簡単に躱すのだ。

さらにフシギバナはまるで眼中にないのか、襲撃者は再度ブルーに攻撃を仕掛ける。

 

「バナバナ!」

 

逃げろ。あのフシギバナがそう言っているのはブルーにすら分かっている。

敵は速い。速すぎて姿を捉えきれない。薄っすらと動く際にその影が見えるぐらいで、ハッキリと姿形を見ることはできずにいる。

ここは通路で狭い。戦いの場においてはこちらが有利。それでも姿が見えない以上敵のが少し有利で、自分のポケモン達はこの空間ではまだ有利に立ち回れる。

だがここは船室が多くある。全員ではないだろうが扉の奥には大勢の人達がいる。彼らを巻き込むことはできない。

思わず唇をかむ。頭の回転が早いブルーは苦渋の選択を選び、フシギバナの言う通りに後部甲板に向けて走りだした。

 

「ハァハァ! こんな時ポケモン図鑑があれば!」

 

後ろに迫る謎の襲撃者に目を配りながらブルーはほんの少し前に会ったオーキド博士を恨んだ。ポケモン図鑑のバージョンアップとかで図鑑を一旦返している。例えアレを認識しなくても、最悪ポケモンか人間ぐらいかは区別ができるはずだ。

ただ先程の一撃で手応えはあった。直感だがアレはポケモンだ。マサキに作ってもらったこの対ポケモン用脚部装甲が早速役に立っている。これを通して感じた感覚は、フシギバナやカメックス達とトレーニングをしていた時と似たような感覚に近い。

最初はリーフの戦闘服がちょっと羨ましいと思ってマサキに頼んだが、改めて彼には感謝しなくてはならないようだ。

だが突然、なんでこんなにも余裕があるのかと気づく。

 

(おかしい。敵意を感じない……?)

 

こちらに攻撃する際は確かに意思をというものを感じてはいる。だがそれには殺意や敵意はない。

なら、試してみるか。

ブルーは右足に力を入れて跳躍し向きを変えながら敵に対して左脚を振り上げた。

――ブルーのエアスラッシュ!

リーフのエアスラッシュを見様見真似で出した技は、意外にも簡単に習得できたので重宝している。放たれた風の刃は真っ直ぐ敵に向かうと通路の奥へと消えていった。どうやら再び軽々と躱したらしい。

舌打ちしながら再び走り出す。

走って1分もしない内にすでに後部甲板へと来てしまった。ここでは相手が有利であるが、乗客が巻き込まれないようにするためにはこうするしかない。

 

「みんな、お願い!」

 

ブルーを守るべくカメックス達がボールが現れる。フシギバナは追いついていないのか、まだ船内にいるらしい。

すでに敵は通路から外に出ている。依然敵の姿は見えず、自分を見ている視線だけは感じられる。ただレッドのように精度はよくないし、その場所を的確に察知することができない。

まるで邪魔だと言わんばかりにカメックス達を襲う敵。ブルーはバックからあるモノを取り出してそれを装着した。

 

「ならば、このシルフスコープで!」

 

以前レッドと一緒にミュウを捕まえるために使ったシルフスコープ。これはブルー自身がさらに改造をしてポケモンや人間相手にも使えるようにもなっている。人間の目で見えぬのなら機械の目が捉えるはずだ。

 

「見えた、そこッ!!」

 

――ブルーのメガトンキック!

カメックス達に気を取られているその一瞬の姿を見たブルーは、それを逃すまいと右脚を振るう。

 

「なっ⁉」

 

シルフスコープ越しである今ならハッキリと見える。赤と青の色をした4つの腕の内2つが放った攻撃を防ぎ、さらに残った腕を延ばし首を絞めてきた。

 

「ッ⁉」

「……」

 

そのポケモンは防いだ右手でシルフスコープを取って放り投げると、その2つの眼で自分を観察するかのように見る。

 

『ご乗船のみなさま。長らくお待たせいたしました。1の島に到着です』

「!」

 

戦っている間に1の島に着いてしまったらしい。後部甲板にいるために外の様子がこの状況でも嫌でも分かる。すでに港には大勢の人間が集まっており、船を降りてくる人たちを歓迎している。

その中に二人の男女を見つけてしまった。

写真で見たパパとママだった。

どうやら二人も自分に気づいたらしく声を上げて手を振っている。

ダメ、来ちゃダメ。

なんとか首を横に振って伝えるも、二人は船に向かって走り出してしまう。

 

「こ、のぉ!!」

 

首と胴体を拘束されて宙に浮かされながらも、ブルーは必死にその自慢の脚で抵抗する。だが力が入らないのかまともにダメージすら入らない。

すると少し先、甲板の上に黒い渦が現れた。それは近くにあったシルフスコープの片側を飲み込む。強引に外して投げられた衝撃で破損していたのか、簡単に半分に千切って片方を飲み込んだらしい。

これもこのポケモンの能力なのか。いや、そもそも本当にポケモンなのだろうか。

仮面の男によって教育された所為か、こんな状況でも冷静に分析している自分に腹立つ。それと同時にあの男ヤナギに感謝している自分もいた。

 

『ブルー!!』

「!」

 

そこへ二人が来てしまった。ブルーは再度、必死に来てはいけないと首を横に振るが、長年行方不明だった娘に会えた感動によって気づかない。

そして二人は黒い渦へと足を踏み入れてしまった。

 

「バナァ!」

「リザァ!」

「ガメェ!」

 

フシギバナがレッドのリザードンとカメックス、そしてリーフとグリーンを引き連れてやってきたのは、パパとママが飲み込まれて消えたのとほぼ同時だった。

 

「――!!」

 

首を絞められて叫ぶことすらできない。

悔しい。折角、やっと会えた二人を呼ぶことも抱き合うこともできない。ただ涙だけが流れる。

 

「ブルー!」

 

突如として現れたリーフが叫ぶ。

 

「……え?」

 

同時に拘束が解かれて甲板に足が付いた。

なぜ? 一体どうして? 

折角再会するはずだった両親が消えた悲しみよりも、その不自然な行動が悲しみを上回った。気づけば姿を現していた謎のポケモンは顔をリーフとグリーンに向けている。それも、先程自分に向けていた目と同じだ。

何かを確かめるように見定めながら自分とリーフを何度も見返す。

 

「……」

『!!!』

 

同時にフシギバナ、リザードン、カメックスも臨戦態勢に入る。この場に置いて最強のポケモンである三体に恐れてすらいない。むしろ敵だとすら思っていないのかもしれない。

そして自分と同じように今度はリーフとグリーンに向けて襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新番組『太陽の戦士サンレッドRX』

第1話 『神話』

 

 

現代から遥か昔、約2000年ほど前。

ポケットモンスター縮めてポケモン。そんなポケモンと人間が暮らすこの惑星に危機が訪れていた。ある戦いによって星全体が雲に覆われて光がさすことがなく、闇がこの世界を支配していた。

未来ホウエン地方と呼ばれるこの大陸では、光が差さない暗闇の恐怖よりも自然の脅威が生命を脅かしていた。

その自然の脅威こそがこの暗闇の原因でもあった。

 

『ぐらぐらぅるぅぅぅぅぁぁあああッ!!!』

『ぎゅらりゅるぅぅぅぅううあああッ!!!』

 

大地の神グラードン。海の化身カイオーガと人々から崇め恐れられていた二体のポケモンが自然エネルギーを求めて争っていた。

その姿は未来でゲンシカイキと呼ばれる二体本来の姿。その力は想像を絶する力。彼らに敵うポケモンはおらず、立ち向かう人間など存在しない。

同時にこの間に一つの隕石が落ちた。これが後の流星の滝である。

二体の戦う姿を離れた位置から見る人々。大勢の人間が祈り、絶望の表情を浮かべていた。その中の村の長老とも呼ぶべき自分が悲しみ叫ぶ。

 

「終わりじゃ。地神様と海神様が戦いをはじめたいま、もうアレを止める術はない……」

「そんな。なんとか止める方法ないのですか⁉」

 

若者が言う。

 

「無理じゃ。見よ、あの二体はこの地に溢れ出るマナを求めて争っておられる。戦いが終わるのはどちらかが倒れた時。しかしその時には大地は裂け赤き水が流れ、海は荒れて嵐を巻き起こす。そこはもう我々が住める土地ではない。それは彼らも同じじゃ……」

 

彼ら。まだポケモンと呼ばれていないこの時代において、彼らはよき隣人として存在した。さらには未来と違ってポケモンと言葉を交わす人間が多くいるのだ。

 

「ちょ、長老様! そ、空が⁉」

「なんと……」

 

その時、暗雲の向こうから一体の竜が現れた。彼はレックウザ。先程落ちた隕石に反応してこの地にやってきたのだ。

 

『きりゅりしゅりしぃぃ!!!』

 

レックウザの咆哮に反応してグラードンとカイオーガは戦いを止めて空を見上げた。

 

「おお。あれこそ空の神。まさに竜神じゃ……」

 

レックウザは辺りの惨状を目にして怒りを覚えたのか、それともただグラードンとカイオーガが気にくわないのかは分からないが二体に対して戦いを始めようとする。

――その時不思議なことが起こった。

 

『待ていっ!』

 

まるでこの星全体に響き渡るような声が轟く。その声は人間だけではなくポケモン達にすら届いている。もちろん戦いを始めようとしたレックウザ、グラードン、カイオーガにも。

 

「あ、あれは⁉」

 

誰かが天に向けて指を指した。

場所はレックウザの隣。その一点に光が輝いていた

 

『どんな夜にも必ず終わりは来る。夜が解け、朝が世界に満ちるもの……。人、それを……「黎明」という!』

『『誰だお前は!?』』

 

グラードンとカイオーガが叫び、レックウザはその声がする光へと視線を向けた。

 

『俺は太陽の戦士! サンレッド!! アーエッ!!!』

 

光が放たれその声の主が姿を現した。それは赤き仮面を被り、左手に輝く6つの宝石を宿した人の形をしていた。

 

「暖かい。なんて暖かい光なんじゃ。まるでそう……太陽のようじゃ」

「太陽……あぁ、久しく忘れていた。これが太陽なんだ!」

「そうか。あの方は太陽そのもの。つまり、太陽の神」

「太陽の神……太陽神様か」

『太陽神様! 竜神様! どうか我らをお救いください!』

 

光を浴びた人々とポケモンの顔に絶望から希望の光が灯され、救いの言葉を叫ぶ。

 

『ゆくぞレックウザ! 今こそ共に駆けるとき!』

『え? あ、うん』

『アクセス、フラッシュ!!』

 

――サンレッドのアクセスフラッシュ(おおきくなる)!

左腕を構えて右腕でクロスさせると、宝石が輝きサンレッドを飲み込んだ。そして地上にいるグラードンより少し大きくなったサンレッドが空から落下しながら大地に降り立った。

 

『チェア!!』

『『『⁉』』』

 

突然自分達と同じサイズになったことに驚きを隠せない三大ポケモン達。そんな彼らなど気にせずサンレッドは戦いを始めた。

大地を蹴ってグラードンへと走るサンレッド。未だ放心しているグラードンに容赦なくドロップキックを繰り出した。

 

『フン!』

『ぎゅらぁ⁉』

『チェア!』

 

倒れたグラードンに対して追撃のエルボー・ドロップ……肘落としを彼の首ともいえる場所に叩きこむ。初めて味わう激痛なのか、彼は出したことない叫びをあげる。

 

『あ、自分用ができたんで帰りますね』

『逃がすと思ったか』

 

カイオーガはグラードンの無惨な姿を見て、サンレッドとの力の差を明確に感じ取ってその場から逃げようとするが、それを逃さんと空にいたレックウザが足止めに入った。

 

『ンンン……ハ! チャァァァァ!』

 

逃げるカイオーガに気づいたサンレッドはグラードンを両手で持ち上げると、そのままカイオーガに向けて投げ飛ばした。数メートルもある巨体はそのままカイオーガを覆うように叩きつけられてしまった。

 

『おまっ、どけよ!』

『もう何がなんだか』

『……チェア!』

 

サンレッドは胸の前でクロスした腕を延ばしながら、それを開くように広げて右腕を軸に十字のように構えると、そこから謎の光線を出した。それは倒れているグラードンとカイオーガに容赦なく放たれて……爆発した。

爆煙が晴れれば、そこには黒焦げになって目を回している二体の神々がいた。サンレッドはそんな彼らに左腕を空高く構えた。

 

『サンレッドフラッシュ!』

 

左腕から眩しい光が周囲を照らす。光は傷ついたグラードンとカイオーガの傷を癒し、荒れ果てた大地と自然を元に戻している。

それを見ていたこの土地の民やポケモン達はその神々しい姿に膝をついて感謝をしていた。

 

「おぉぉ! 太陽神様が二体の神の戦いを鎮めてくださった!」

「なんと。太陽神様は神々の傷を癒すだけではなく、我々が生きるこの大地まで……! なんて慈悲深いお方なのじゃ」

「見て! 太陽神様が地神様と海神様とお話しているわ!」

 

そこには二体の前に立つサンレッドが。彼に対しグラードンとカイオーガは頭を下げてひれ伏していた。

 

『お前達、もうこんなことしちゃあダメだからな』

『は、はい! もう二度とこんなことしません!』

 

と、一番痛めつけられたグラードンは素直に従っている。

 

『……なんだよ。いきなり現れて偉そうに』

 

と、カイオーガは気にくわないのかハッキリと目の前にいるサンレッドに聞こえるように言う。

 

『なんか言ったか?』

『馬鹿野郎! すみません、ちゃんとこいつにも言い聞かせますんで!』

『けっ!』

 

グラードンはカイオーガの頭を掴んで何度も頭を下げさせる。まるで無能な部下の失態を一緒に謝る上司のようだ。

そんな中、空中にいたレックウザがサンレッドの隣まで降りてくると、彼の肩を叩いて教える。

 

『上、上』

『うえ?』

「あ、あれは⁉」

「そんな! 先程よりも大きい星が降ってくる⁉」

 

空を見上げればすでに大気圏に突入している巨大な隕石がここに落ちようとしていた。隕石を食べると言われているレックウザといえど、この大きさは流石に食べることはできない。

 

『レックウザ。あそこにいる人たちを頼む』

『それはいいが……お前はどうするんだ?』

『こうする――サンレッドォーーービーーーーム!!』

 

――サンレッドのサンレッドビーム(はかいこうせん)!

左腕のガントレットから放たれた虹色の光線は真っ直ぐ上空にある巨大隕石に向かう。その発射された反動で突風が巻き起こる。この星全体を覆っていた暗雲をすべて消し飛ばし、巨大隕石を丸々と飲み込んで消滅させた。

雲が晴れたことで太陽の光が大地に降り注ぎ、久しぶりの太陽に喜ぶ人々。そんな中、グラードンが腰を低くしながらサンレッドに尋ねた。

 

『あの……もう行っていいですか?』

『いいけど、あんまり迷惑かけるなよ』

『うっす。大人しく寝てます!』

『……うっす』

 

まだ納得がいかないがとりあえずグラードンに合わせて頭を下げるカイオーガ。グラードンは地中深く、カイオーガは海底の奥底に向かっていく。彼らを見送ったサンレッドはレックウザの方に振り向いた。

 

『レックウザ。また何かあったら助けてやってくれよな』

『まあいいぞ。別にオレいなくてもよかったんじゃないかなって思ったけど』

『そんなことはないさ……むっ?』

 

ふとサンレッドは地上で自分を呼ぶ人々の声に気づいた。元のサイズに戻って彼らの前に降り立つと、夫婦らしき二人がその腕に幼い女の子を抱えていた。熱があるのか顔は赤く、何度も咳をしている。

 

「太陽神様! 厚かましく身勝手な振舞をお許しください!」

「ですがお願いします! どうか、この子を助けてください!」

『その子は病気なのか?』

「そうですじゃ。どういう訳か調合した薬も効かず、彼らの力をお借りしたのですが一向に治る見込みがないのです」

 

杖を持った長老が言った。

 

『ふむ……サンレッドアイ!』

 

彼が叫ぶと緑のバイザーが光る。

サンレッドアイはすべてを見通す。数キロ先にいるであろうイシツブテはもちろん透明人間だろうが病気だろうが彼にはすべて筒抜けなのだ。

 

『ほう。この子は体質的に力を持つものらしい』

「と、いいますと?」

『この地に溢れている自然エネルギーを人より多く吸収してしまい、それを放出できずに体内に留まっているのだ。サンレッドヒーリング!』

 

――サンレッドのサンレッドヒーリング(いやしのはどう)!

それはポケモンの技で言ういやしのはどうである。だがそれはポケモンの比ではない。彼の力の源である石の力によって傷はおろか失った命さえも戻しかねないのだ。

虹色の光によって包まれた少女の顔は苦しみの表情は消え、明るい笑顔を取り戻した。彼女が元気になると、両親は泣いて抱きしめる。

 

『これでもう安心だ』

「ありがとうございます!」

『礼には及ばない。では人々よ、常に彼らと共にあれ。いつかまた会おう。チェア!』

 

別れを告げてサンレッドは飛び立つと、空間を裂いてどこかへと消えてしまった。

 

 

 

以後。この戦いを見ていた民が最初に落ちてきた隕石によってできた『流星の滝』に移り住み、後に『流星の民』と呼ばれるようになる。彼らは他の民との関わりを避けて後世に渡って『竜神』と『太陽神』を信仰することとなる。

同時に『竜神』を崇める祭壇として空の柱を建設し、先の戦いを壁画に残した。

また『太陽神』によって治療された少女を、後世では太陽神の祝福を授かった者と伝えられるようになる。記録では少女は不思議な力が覚醒し未来を見通す力を持ったという。それもあって太陽神を祀り仕える巫女として『流星の民』を導いた。

さらには彼女の血筋は能力の差はあれど、治癒能力が高く常人離れした子供が生まれるようになり、彼女の家系は竜神と心通わせる『伝承者』と太陽神に仕える『太陽の巫女』になる者が今も存在しているらしい。

真偽は定かではないが、祝福を授かった初代巫女は成人してまもなく子を宿したという。ただそれには処女受胎したという伝承もあるが、それは歴史の中に消えてしまったようだ。

 

民明書房「ホウエンの隠された伝説」より抜粋。

 

 

 

 




以前に募集したレッドくんの罪状をやっと公開。その節はありがとうございました。
絵力がないんで手配書をかけない無力な私を許してくれ。

最後のは別に本編と時間軸はリンクしてるわけではないです。

それと設定集ですが。まだ書いてる途中なのでもう少し待ってください。
一応人間とポケモンとか色々と別ける予定です。



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