「ン……れっど……?」
重い瞼をあけながら体を起こし愛しい彼の名前を呼ぶが返事はない。まだ寝ているのかと思えば隣にもいない。シーツを触ってみてもあるはずの彼の温もりはなかった。いや、匂いや髪の毛一本すらなかった。
てっきりトイレにでもいったのかと思えばこのベッドには自分しかいなかったらしい。それがいったいいつからだったのか思い出せない。最後は間違いなく二人一緒に眠ったはずなのに。
ナツメは瞼を擦りながらベッドから降りると、テーブルの上に綺麗に畳まれていた自分の服を見つけた。
それは昨夜レッドとする前に脱いだはずの服で、あの時は畳まず床に放り投げていたはず。なのに綺麗に畳まれていると言うことはカンナが部屋に入ってしてくれたのだろうか。いや、それだったらいつもの服を用意しているはずだ。
となれば考えられるのはひとつ。
「レッドが、やったのかしら……」
旅に出る前に同棲していたときもカンナが彼の分までしてはいたが、それでも自分のできることはしていた。実家にあるタンスも見てみたがまさに男が畳むような状態だった。適当、乱暴な感じで服は収納されていて目の前にあるこれとは比べ物にならない。
考えても仕方ないのでナツメはシャワーを浴びることにした。バスルームに入れば使った形跡はなく水滴もないし綺麗な状態を維持している。
(まさかあのまま外に?)
情事のあとの体臭というのは何とも言い難いものだ。汗とか愛液とかそれらの匂いが混ざり合って、第三者にとっては汚臭以外のなにものでもない。
ナツメはこの匂いを数年ぶりに味わった。
男の匂い。レッドの匂い。彼女にとってはそれが心地よい匂いで、なによりも彼が帰ってきたということを実感できるのだ。
だが、そのレッドは部屋にはいない。まさか別の女のところに? さすがにあのあとでそのようなことはしないだろうと思いたいが可能性はなくもない。
が、彼のあの発言や素振りから見てそれはないだろうと確信は持てた。
ナツメはバスルームから出て身体を拭いたあと、バスタオルを巻いて備え付けられていたドライヤーを使って髪を乾かし始める。
「どうしようかしらねえ」
毛先をいじりながらナツメは考えた。髪を切るか切らないか。それがレッドが帰ってきたいま上位にくる悩みのひとつだった。
今の髪型に不満はない。幼い頃から今の髪型だし手入れは大変だけどカンナがいるので特に不便というわけではない。長髪の自分はよく似合っていると思うし、なによりもレッドはこの髪が好きだと言ってくれた。大好きな人にそういうことを言ってもらえるというのは、女性にとってこれ程ないぐらい満たされる。
ただ──たまにはイメチェンとか心機一転してもいいんじゃないか。
ジムリーダーだけではなく最近はポケウッドにも出演する機会が増えている。ここ暫くはレッド捜索を優先していたので現在は一時休業中。しかしこれからは違うのだ。彼が帰ってきたいまなら女優として活動再開ができる。
懇意にしてもらっている監督から次の出演のオファーはきているし、台本だけはもらって読んでみたが中々面白い作品になりそう。ただ演じる人物が今の髪型には合わないような気がしていたのだ。
それもあって女優活動を再開するなら髪型も変えて新しいスタートをきろうと考え始めていた。
「──ま、レッドに相談しなくてもいいかな。驚かせてあげたいしね」
意見を聞いてあげたいが仕事にまで口を挟まれたくないというのも本音ではある。
けれど彼ならどんな髪型でも喜んでくれるに違いない。
ナツメは考えを固め始めながらキャリーケースから着替えを出して着替え始める。少し前はタイトスカートだが最近はジーンズにへそ出しノースリーブが主な服装。露出が多いがお姉さんに比べれば至って普通だ。アレは胸がもろに見えていて逆にこちらが恥ずかしくなるぐらいだ。
「さあて。レッドは……ン? 外?」
彼の気配を探ってみればホテル内ではなく外から感じた。ベランダに出てちょっと乗り出して下を見れば、いた。
「なにやってんのよ……」
レッドはいた。ホテル正面玄関前にある芝生の上に寝ているカビゴンの腹の上に。それだけではない。彼に膝枕をしているであろうサーナイトにお腹の上に乗っているピカ、イーブイ、ソーナノ。カビゴンの周りにはスピアー、リザードン、フシギバナ、カメックス、ラプラス。それとリーフのラッキーとお姉さんのハッサムに二体のデオキシス。あと最後に黒い見知らぬポケモンが。
「なんか納得いかない」
彼は幸せそうに眠っていた。ナツメにはそれがとても気に入らなかった。
彼女の温もりよりポケモン達の方がよさそうに思えて不服で仕方がなかったのだ。
長い旅をはじめてからマスターは人並みの睡眠をとることはなかった。いや、正確にはとる必要はなくなったと言う方がいいだろうか。
人間やわたしたちポケモンでも言う昼寝とか小休憩などはとってはいたが、長時間の睡眠は恐らくとったことはない。長くて30分短くて5分ぐらいだろうか。それもただの気まぐれとか綺麗な場所を見つけた時に限る。
ただそれもほんの一瞬だ。少し休もうとしただけでまたどこかの時代に赴いてしまうからだ。
疲れを忘れ睡眠すら不要となった今のマスターはもう普通の人間という枠に収まらなくなっている。我らのはじまりの親にして創造神でもあるアルセウスと同等な存在になったのだから、こうもなるのは必然ともいえた。
だが、同時にマスターは大切な何かを欠如してしまった。それは人間性というのかはたまた常識という概念なのかはポケモンであるわたしにはわからない。
しかし、わたしたちは変わっていないのだと主張する。それは今日まで共にいた家族であるから断言できる。
マスターがポケモンに向ける優しさは今まで通りだ。
だからこうしてわたしの膝の上で久しぶりに深い眠りについているのだ。長く離れ離れになっていた家族との再会もそうだし、ちょっと嫉妬するがカビゴンのお腹というベッドがマスターに忘れていた深い眠りを与えているのだ。
わたしの膝枕にカビゴンのお腹。これが合わさればマスターといえどイチコロだ(睡眠的な意味で)。
「すー……すー……」
『ぬへへ……』
ホウエン地方やシンオウ地方を旅していた時に毎晩見ていた寝顔が帰ってきた。これ程喜ばしいことはない。
だが、そんなマスターの至福の時間を邪魔する存在がいるのは、とてもとても悲しいことだ。
「レッド────!!!」
「──ン」
『あ~~~』
不運にもマスターは即座に体を起こしてわたしの膝枕から離れてしまったのである。
ナツメに呼ばれて起きたレッドの顔は寝起きという割には顔を洗ったあとのようにシャキッとしており、怒号で起こされてたというのに不機嫌な顔すらしていなかった。
「おはようナツメ」
「おはよう、じゃないの!」
「?」
ただ挨拶をしただけなのに一体なにが不満なのか。レッドはただわからず首を傾げた。
「どうしてこんなところで寝ているのよ! 寝る前は一緒にベッドにいたっていうのに」
「あーごめん。ほらよく言うだろ? 枕が変わると眠れないって。俺ってそんなことないしどこでも寝れるだろうって思ってたんだけど、まさか自分がそうなるとは予想外だったんだ」
「ちゃんと理由も話しなさいよ。結果だけ話されてもわからないわ」
「……? ああ、そうだった。いつもの感覚じゃないんだもんな」
彼女がそういうのも無理はない。これは自分が悪いと素直に受け入れた。
旅の中で会話をしたのは傍に居るポケモン達がほとんど。言いたいことを言えばポケモン達はそれを理解してくれるしシンクロを通さなくとも意思疎通ができていたからだ。
あとはシロナとの会話もそうだろうか。
アレと言えばコレねとか、そういえばと言えばそうだよねとか、互いの言いたいことと知りたいことが理解しあっている感覚を今でも引きずっているのだ。
「寝てる時はいつもサーナイトの膝枕で眠ってたから、それで普通の枕じゃ眠れなくなったんだ。あとベッドもなんだけど、やっぱカビゴンのお腹で寝ちゃうとどんな高級ベッドでも眠れないってこと」
「言いたいことはわかった。百歩譲ってカビゴンのお腹に関しては認めるわ。でも」
「でも?」
「なんでよりによって枕がそいつの膝枕なのよ! 私の膝枕を使いなさいな‼」
バンバンと太ももを叩くナツメ。彼女の言いたいことは最もなのだが、どういう訳かサーナイトの膝枕でないと満足できないのだ。これを説明したくても言葉は見つからないし困ったものだ。
『ホホホ。残念ですがマスターはわたしでないと満足できないんですよ』
『図に乗らないことね。所詮あなたはポケモン。レッドと愛し合うことはできないの』
『体を重ね合うことでしか互いの愛を確かめられない人間が言いそうなことですねえ』
『セックスができないポケモンの妬みなんて気にもしないわ』
『はあ?! 性行為だけが繋がりじゃあないですから! わたしとマスターは常に繋がって通じあっているんです。あなたと違って!!』
『私は直接繋がったわよ。濃厚な、ね』
『ふん。底が知れますね。それだけでしかマスターを語れないとは』
『あんた如きがレッドの何を知ってるっていうのかしら』
『知ってますぅ。あなたと違ってわたしとマスターはながいながい時間を一緒にいたんだすからね!』
『もうなんだっていうのよ!』
『そっちこそなんなんですか!』
と、サーナイトがナツメがレッドに聞かれないようにテレパシーでいがみ合っている中レッドはというと。
「なんか楽しそうだな」
あのサーナイトがシロナ以外にこうまで感情をむき出しにするとは。やっぱりエスパーであるナツメに親近感みたいなものが芽生えたのだろうか。
何を言っているのかはさすがに覗くわけにはいかないし、ここは二人だけにしておくのがいいというもの。
「とりあえず朝ごはん食べにいくか」
『は~い』
レッドは二人を置いてポケモン達と一緒にホテルへと向かっていくと肩に乗っていたピカがニヤニヤとしながら言ってきた。
「で。ナツメとはどうだったんだよレッド」
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「そりゃあ久しぶりだから盛り上がったんだろし、いくらイエロー押しとはいえどそこは気になる」
「お前も変わってないなあ」
ピカは手持ちの中で唯一の子持ちというか一番進んでいるポケモンだ。なのでそういう人間みたいなことを聞いてくるのだろう。
そこでなんでイエローの名前が出るのかはレッドにはよくわからなかった。
「それでどうだったんだ?」
「まあ……最悪の事態は防いだ、かな」
「ちょっと何言ってるのかわからないピカねぇ」
「あのね先輩。マスターはもう……」
「え、ブイ。それって……」
「それを含めてお前たちには説明するよ。今日までのことを」
「ソーナノ!」
時間は少し経ち。
今日がバトルフロンティア開催7日目にしてジラーチが起きていられる最後の日。ジラーチの願いはすでに二つ叶えられており願いは残り一つ。
それに気づいたレッドはそのことをグリーンに訊いてみれば。
「もう最後の願いはここのオーナーであるエニシダが叶えた。なんでもそういう条件でおじいちゃんに協力していたそうだ」
「ふーん。それでその願いって」
「アレだ」
「あれ?」
グリーンが指をさした方角は海の向こう。一見ただ海が広がるだけだがレッドには見えていた。水平線の向こうから多数の大型船がここに向かっているのを。
「バトルフロンティアにたくさんの人が来ますように。初日から10万人ほど、だそうだ」
「……」
「レッド?」
レッドの目には船に乗っている大勢の人たちが見えていた。一人ひとりの名前からその生死まで見ようと思えば見える。カントーからジョウトにホウエン果てにシンオウ地方まで大勢の人達が乗っている。
しかし探しているのはただ一人。
「……ま、いないか。うん、まだその時じゃない」
「なにがだ?」
「いや、なんでもない」
「相変わらず変な奴だ」
グリーンに愛想をつかれながらもレッドは苦笑してみせた。あの船の中に案の定シロナはいなかった。
よくよく考えればそれも当然だと気づく。彼女には加護を与えてある。それはいくらジラーチの願いといえどその効果の対象には当てはまらないのだ。
会いたいけれどその気持ちをぐっと抑える。まだだ、まだその時じゃないのだと自分に言い聞かせそれを誤魔化す様にレッドは話題を変えた。
「けどさ。ブレーンたちもボロボロだし何をやるんだ?」
「ああ。それならリーフが一緒トーナメント戦をやろうって言いだした。俺達図鑑所有者だけのな」
「え、つまり俺も!」
『それはダメ』
喜ぶレッドに釘を刺したのは言い出しっぺのリーフとブルーであった。二人の隣にいるイエローは乾いた笑いをしていた。
当然レッドは反対した。
「なんでなんで! 俺だって久しぶりにポケモンバトルしてえよ!! グリーンは賛成だよな?!」
「俺も反対だ」
「理由を説明しろ!!」
「だって、なあ……」
「レッドには悪いけど……」
「ぶっちゃけていうとあなたのポケモン達に勝てないもの」
三人は少し離れた場所で遊んでいるレッドのポケモン達を横目で見た。それに気づいたポケモン達はなんだなんだと言わんばかりに首を傾げた。
「大丈夫だって。俺、普通のポケモンバトルならもう弱いから」
それは本音だった。旅の中でポケモンバトルなど一度もしてはいない。してきたのは戦いだ。命をかけた戦いなら絶対に負けることはない。
だが普通のポケモンバトルは別だ。もう普通にポケモンに指示を出しながらバトルするというのは多分すごい下手になっている。指示は全部シンクロを通してやっていたし、なによりも自分自身も戦いに身を投じていたから尚更下手になっているに違いない。
「ほんとぉ?」
とブルーがずいっと目の前に顔を寄せながら言った。
「ほんとほんと」
「でもダメ」
「ハンデつけてもいいから!」
「ダメだ」
「イーブイ一匹で戦うから!」
「それ余計にダメじゃん。ていうか一番ダメじゃん」
「なんでだ。この可愛いブイがグリーンのリザードンに勝てると思っているのか!」
「ぶい?」
レッドはブイを抱えながら必死に説得を試みた。
「シャワーズになるだろうが」
「おい、待てい。ならリーフのフシギバナに勝てると思っているのか!」
「ブースターになるじゃん」
「ぐぅ、な、ならブルーのカメックスに勝てると思っているのか!」
「サンダースになるじゃない」
「……そ、そうだ。イエローのZ戦士ポケモンに勝てると思っているのか!」
「ボクがレッドさんに勝てるわけないんですがそれは」
「諦めんなよぉ! どうしてそこで諦めるんだそこで!」
「それになんだ。そのブイの額にある……宝石は」
「こちらブイに負担をかけずに進化できる〈にじいろのいし〉となっております」
「もうスリーアウトじゃん」
「違うわ。ゲームセットよ」
「あはは……」
「ちくしょぉおおおおお!!!」
──ああ! レッドは言い負かされて逃げ出してしまった!
残された4人は逃げ出したレッドの背中を見ながらどこか懐かしんでいた。
「変わったと思っていたが、案外変わってないな」
「だよねー」
「そうかしら。普段は以前とは違うような気がするけど」
「でも、レッドさんはレッドさんですよ」
その後レッドを除いたトーナメント戦はとても平和だったという。
逃げ出したレッドはバトルフロンティア内にあるスタジアムの壁の隅っこでいじけていた。
「こんなのってありかよ。ずっちーずっちー俺だって普通のポケモンバトルしーたーいー」
『まあまあ。そういじけないでくださいマスター』
「けどよぉ……」
「──」
「む。どうしたスピアー。ふむふむ……おお! その手があった!」
スピアーの意見を早速実行すべくレッドはポケモン達を半分のチームに分けた。
一つはリザードン、フシギバナ、カメックス、ピカチュウ、カビゴン。もう片方はスピアー、イーブイ、ラプラス、サーナイト、ソーナノ。
新旧レッド軍団によるチーム戦をやろうとスピアーが提案したのだ。
残念だがラッキーとハッサムは新レッド軍団の数が足りないので今回はお預けということになる。ちなみにネクロズマは反則級なので参戦不可である。
「さて。じゃあ誰が誰とやるか」
「オレはもちろんスピアー」
「はいはーい! オレはブイ!」
早速声を上げたのはリザードンとピカであった。リザードンとスピアーは互いにライバルであり以前までは相性もあってリザードンが勝ち越していたのでスピアーもヤる気満々のようだ。対してピカがブイというのは珍しいと思ったが本人の希望もあるし、それにそのブイも問題なのでこれで二組が決まった。
「じゃあオレはラプラスとかなあ。同じ水ポケだし」
「わたしは別にいいよー」
「となると……オレはソーナノになるか」
「ソーナノ!」
三組目はカメックスとラプラス。四組目はフシギバナとソーナノに決まった。となると残りはカビゴンとサーナイトの組み合わせになるのだが。
『ではわたしはカビゴンとですね。よろしくねカビゴン……カビゴン?』
「……あいたた。腹が痛くなってきたんだな。きっと朝食にあたったに違いない」
ワザとらしく腹を抑えながら倒れるカビゴンに冷たい視線を送る。瞼を閉じることなくただジッとカビゴンを見つめる。視線になんとか耐えようと冷や汗を流しながら腹の痛みを訴えるカビゴン。
おかしい。これは、なにかがおかしい。
「お前出会ってから今まで腹痛なんてなったことないだろ」
「あ、あれだって。ここの食事はちょっと口に合わなかったから」
「うまいうまいって食ってたよな? 朝食をよぉ」
「そ、そうだったっけ……」
「じ~~~」
「……っ」
「よしわかった」
「ほっ」
「じゃあ最後な。その間に治るだろ」
「──!!」
安堵は束の間。カビゴンは声にならない悲鳴をあげてその場に倒れたのだった。
そんなカビゴンを放っておいて試合は始まった。
少し離れたスタジアムで大勢の観客の中、レッドを除いた図鑑所有者達によるトーナメント戦が行われているのにも関わらず、こちらには誰ひとり見向きもしない。いやそれは本当によかったのかもしれない。
ポケモンバトルと呼ぶにはちょっとこれは過激すぎるのだ。
結果──
「すげぇーリザードンはいまのスピアーと引き分け。ピカはあのブイに辛くも勝利。カメックスはラプラスに惜しくも敗北。フシギバナはソーナノの結界を破ったから実質勝利。で、カビゴンとサーナイトだが……」
『勝利のポーズ……ぶい!』
「ちーん」
仰向けに倒れたカビゴンのお腹のうえでサーナイトは勝利のポーズを取っていた。それも開始からわずか数分の出来事である。
サーナイトのサイコパワーは確かに強力である。だが常に鍛錬を怠っていないカビゴンならば持ち前のパワーで突破できたはず。つまりそれが出来ていないことはその逆だということ。
想像以上のカビゴンの衰えにレッドは悲しみを覚えつつもも厳しい態度を取った。
「どうやら間抜けがひとり見つかったようだなあ」
「お慈悲をどうかお慈悲をー!!」
「残当」
「カビゴンさんいつも食べてばっかりでしたからね……」
常に傍にいたリザードンとラッキーによる仲間想いな援護攻撃によって、カビゴンは心にトドメをさされてまた倒れた。
そんなカビゴンの足を持ってレッドは軽々と地面を引きずりながら目の前に不思議な空間を開いた。
「というわけで久しぶりのレッドブートキャンプ開幕だ。旅の中でインスピレーションが湧いたんでかなりの自信作だぜ」
「たすけてぇ~おねがいだからたすけてぇ~」
「あ、オレもやる~」
「じゃあオレも~」
「腕がなるピカねぇ!」
助けを求めるカビゴンとは反対にリザードンらは久しぶりのレッドとの鍛錬に心を奮わせながらその目を輝かせている。
それもそのはずで、先程の戦いでリザードン達はいまの自分達の力量を改めて確認できたのだ。レッドと共に成長を続けていたスピアー達に追いつくべく強くなろうとするのは当然なのだ(約一名を除いて)。
「それじゃあレッドブートキャンプ十二宮編いってみよー」
はたしてカビゴンは十二の試練を乗り越えてレッドが待つ神の間へとたどり着くことができるのだろうか……。
新番組「○○だよシロナちゃん!」
第1話 独り占めだよシロナちゃん!
シンオウ地方にあるリゾートエリア内にあるビーチ。ここは多くの人が暖かいこの時期にその身を解放し時には己の美貌を見せびらかせ、時には己の欲望のために訪れるそんな場所。
しかしそんなシンオウ地方でもトップ10には入る名所だというのに、いまこのビーチにいるのは一人の女とそのポケモン達だけ。
女の名はシロナ。シンオウリーグチャンピオンにして考古学者でも有名な女性だ。
彼女はビーチチェアに寝転がりながら傍に置いてるパラソルの下で現在バカンスを満喫中。ただ……その姿はいつもの真っ黒なコートにいつもの服装。ビーチだというのに水着ですらないのはまさにマナー違反といえよう。
そんなシロナの隣でルカリオことリュウがソフトクリームを持ってやってきた。
「アイスだシロナ」
「ありがとリュウ。……ん~ビーチで食べるアイスはやっぱ格別ね!」
「……そうだね」
「もう。そんなつまんない反応しないでよ。折角の貸し切りなんだからもっと楽しまなきゃだめよ」
「ならシロナだって行けばよかったではないかバトルフロンティアに。一応招待されていたんだろ?」
「うん。でも面倒だったからパスしたわ!」
「……はあ」
リュウは肩を大きく落とすがまあいつものことだから問題はない。
普段なら一瞬で食してしまうアイスを味わいながら今更になってこの状況について口にした。
「なんで私達以外に誰もいないのかしら」
「え、今更それかい?」
「あら。リュウは知ってるの?」
「さっきも言ったろ。みんなバトルフロンティアに行ったんだよ。だからこの時期でもたくさんいるはずのビーチにオレ達だけしかいないんだ」
「つまりラッキーってことね」
遠めからみてもこのビーチは大勢の人で賑わっているのだ。一人だけでここに来ればあられもない噂が広まることに違いない。やれ独身女だとか喪女とか。まだ二十歳過ぎだというのにその言われはない。なのでこういう時でないとここには来られないのがチャンピオンの悲しい性なのだ。
「ところでシロナ。さっきから聞こうと思っていたんだな」
「ん? なによ藪から棒に」
「なぜ君は水着じゃないんだ?」
「だってレッド会うまでに素肌を晒すわけにはいかないじゃない。いつどこでパパラッチが狙ってるかわからないし。まあ気配でわかるけど」
「言いたいことはわかるが、日を浴びるなら水着のがよくないか?」
「あ、それなら問題ないの」
「なんで?」
「私ね? 何着てようが太陽にさえあたっていれば常に元気満タンお肌つるつるなの」
「えぇ……」
シロナこそこの世でただ一人〈太陽神の加護EX〉を与えられた人間。太陽の下にいるならばどんな怪我も一瞬にして回復してさらには健康促進金運上昇あらゆる祝福が与えられるのだ。
そんなシロナとレッドが再会するまであと数年。
エメラルド編はこれでおしまい。
今後の予定はレッドとナツメ関係を数話。
上記の中に他のヒロインといまのレッドとの関係とかやる予定。
HGSS編を一話で簡単に終わらせて本編とシンオウ編をやる。そのため時間は結構飛ぶ。