金剛(壊)   作:拙作者

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遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。
また、今回の更新の不手際についてはお詫びの申し上げようもありません。

また、甘えに塗れて稚拙乱文な前書きを書いてしまい、大変失礼致しました。

※H28.4.7に前書きと後書きを訂正しました。
 また、感想によるご指摘を受け、話数№と、内容を一部改訂致しました。
 ご指摘、ありがとうございます!




14 鎮守府防衛戦・下

 眼前に広がっているのは、悪意と戦火に染め上げられた海。

 どこか落ち着く潮の香り。

 見ていると不思議と安らぎを覚える青色。

 ……そんな平時の姿は、微塵も感じ取ることはできない。

 

 今、ここに広がっているのは……

 強さ、そして運の強弱によって命が振るいにかけられ。

 残れない者は無慈悲に淘汰されていく地獄――戦場だ。

 

 剥き出しの殺意が飛び交う、情け容赦の無い処刑場。

 

「(――良かった)」

 

 そんな空気に接して、電の胸に去来したのは――安堵だった。

 

「(やっと、戻って来れたのです……!)」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「――っ!」

 

 言葉が、出ない。

 自分達が目前としている状況に、電は体の震えを抑えることができなかった。

 

 引っ込み思案である電は、喋ることが得手では無い。

 口下手故に、自らの意思を上手く言葉にできないことは始終だし。

 気弱さ故に、相手と面と向かって話せないことなど日常茶飯事だ。

 ……だけど。

 それ以外の理由で、言葉が出てこないなんて……

 

 その原因となっているのは、彼女達が今居る場所――翔鶴の艦橋室内――に備え付けられたモニターに映し出されている映像。

 

 そこに映っているのは――

 船体を猛火に焼かれながらも、なおも深海棲艦艦隊の前に立ち塞がる【彼女】。

 装甲を撃ち抜かれ、砲塔も潰され。満身創痍のその姿は、虫の息としか形容できなくて。

 ……もう、戦えない――

 一目でそう断じてしまえるほどの、目を背けたくなるような惨状。

 

 それなのに、誰一人として其の情景から視線を逸らすことはなかった。

 そんなことなど、できるはずがなかった。

 

 ……目を、奪われていたからだ。

 ――瀕死になりながらも、なおも踏み止まり続ける【彼女】の姿に――

 

 敵艦隊からの集中砲火によって軍艦としての機能の大半を奪われた、半死半生の状態。

 ただ海面に漂うだけで精一杯。

 ……それにも関わらず、【彼女】は動き続ける。

 我が身の惨状など顧みず、己に鞭打つかのように。

 動力機関を軋ませながら舵を切り、艦上を炙られながら船首を回頭させる。

 そうして回された舳先が向けられたのは……今なお健在な深海棲艦艦隊。

 照準を定めるかのようなその体勢から伝わってくるのは、【彼女】の覚悟。

 

 ――退くつもりなど、毛頭無い。

 そんな不退転の決意を物語るかのように、【彼女】は動き出した。

 船体が迷いも躊躇も見せない一直線の軌道を描き、海面を蹴立てて突き進む。

 その先で、万全な体勢を敷いて待ち構えている敵艦隊が見えないはずが無い。

 そこから数多の砲門が自身に向け据えられていることに気付かぬはずが無い。

 ……そして、自身が瀕死であることを理解できていない訳が、無い。

 

 そんな状況で、この場に踏み止まり続ける危険性が、解らないわけもない。

 

 ――それなのに。

 戦うつもりなのだ、【彼女】は。

 

 追い詰められた時にこそ、その者の本当の姿が見えると言うが……

 ――こんな絶体絶命の危地にあって、なおも戦闘態勢を崩さない――

 その事実は、【彼女】が比類無い強靭な強さの持ち主であることを紛れもなく証明している。

 

 ……いや、解っていた筈だ。

【彼女】が、どれほど強くて優しい心を持っているのか。

 仲間の為ならば、己の身を敵の刃に晒すことすら厭わない。

 ……そして、そんな【彼女】だからこそ。

 今、この局面で退くはずもない。

 止めとばかりに深海棲艦群から放たれる猛烈な砲弾の嵐に、真向から突っ込んでいく。

 降り注ぐ砲弾の嵐。

 その中を、【彼女】の巨体は掻い潜っていく。

 重量艦とは思えぬ運動性を見せ、巧みな操舵技術で砲弾の嵐を受け流して。

 

 ――だが。

 甚大な被害を受けた今の状態では、その動きに陰りがでるのは避けられない。

 

 1発、そしてさらにもう1発。

 そして、さらに――

 次々と降り注ぐ着弾による火柱が次々と立ち昇り、船体が軋み揺れる。

 致命打こそ免れているものの、船体には甚大なダメージが蓄積されて行って。

 

 それでも【彼女】は、進むのを止めない。

 

 痛みが、ないのか?

 恐れが、無いのか?

 己が身に重傷を負いながらも、それを全く顧みることなく、微塵も動揺を見せない――

 思考にあるのは、戦いのことのみ。

 その脳裏にあるのは、対峙した相手を屠ることのみ。

 ――その様は、‘鬼,そのもの。

 感情など不要。

 何の光も宿していない瞳に映すのは、ただ敵の姿のみ。

 戦意のみで動く、殺戮兵器――

 

 ……そう思うだろう。余人ならば。

 だけど、自分達は知っている。

【彼女】が、どれほどの優しさを持っているのか。

 他者を守るために躊躇なく己の身を投げ出す――

 そんなヒトなのだ、【彼女】は。

 

 だからこそ、解る。

 今の【彼女】の目的が――

 

 離脱の気配すら見せず、あくまでも敵艦隊の前に立ち塞がり続けている――

 そんな目の前の光景が、その答え。

 

 ――【彼女】は、鎮守府をあくまでも守り続けるつもりなのだ。

 

 来襲した圧倒的な敵戦力を前にして、前線基地の1つでしかないこの鎮守府の防衛のために留まり続ける――

 

 戦略的に見れば、悪手であると言えるだろう。

 けれど、それこそが【彼女】が意思なき殺戮兵器ではないことの何よりの証明。

【彼女】の聡明な頭脳ならば、撤退が最善手であることぐらい、とうに見抜いているはずだ。

 それなのにここまで踏み止まり、鎮守府を守り抜いている――

 

 ――それは、きっと。

 5人にとって、この鎮守府がどれだけ大事なのか、汲み取ってくれていたから――

 だからこそ、今も――

 

 電は奥歯を噛み締める。

 

「(金剛さん……!)」

 

 込み上がってくる涙で滲む視界。

 

 ―その中で。

 遂に【彼女】が敵艦隊の砲撃を潜り抜け、自身の船体ごと敵旗艦に突撃した姿が映る。

 

「――っ!」

 

 声にならない悲鳴が、口から漏れる。

 

 

 ――もう、耐えられなかった。

 

「(――司令官さん!)」

 勢い良く首を傍らの青年提督の方へ向け、電は突撃を直訴しようとして――

 

「――第六駆逐隊、出撃」

 

 その前に、青年提督が言葉を発した。

 電が……いや、他の3人の誰もが待ち望んでいた号令を。

 

「単縦陣で戦闘海域に突入後、散開。速やかに戦場を制圧してくれ」

 

 もはや視認できるほどまで接近した戦場へ、硬く鋭い眼光を向けている青年提督から下された指令。

 

「既に沈黙している旗艦――レ級エリートを除く敵艦艇を、撃破するんだ」

 

 ――それは、常識的に考えれば無謀としか言えない命令。

 戦艦級が3隻に、空母2隻――大型艦艇5隻に対し、駆逐艦4隻で挑む――

 いくら戦艦級が損傷を負っているとは言っても、余りにも戦力が違いすぎる。

 

 …

 ……が。青年提督はそうは思わない。

 彼女達4人の技量ならば、十分以上に可能であるし。

 ……何より、今は彼女達の戦意はこれ以上ないほどに高まっているのだから。

 

「了解」

 

 一切の躊躇なく発せられた暁の返答が、その証。

 そこには躊躇など一切ない。

 長女であるがために代表として暁が受諾の返事を返したが、他の3人とて気持ちは同じ。

 こちらに向けられた4人の瞳は、一切の淀みなく澄み渡っていて――

 その奥にあるのは、揺るぎない決意と覚悟。

 小柄な体躯からは目に見えるのではないかとすら思わせる、激しく燃え滾るような戦意が立ち昇る。

 その源になっているのは……【彼女】への思いだ。

 身をもって自分達を救ってくれた大切な「仲間」を、今度は自分達の手で救わねば――

 

 そして、その中でも最もそれが顕著なのが――

 

「先陣は――電、君だ」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 …

 ……

 そうして、4人は船体を展開し、今に至る。

 電は、小さな拳を握り締める。

 戦うのは好きな訳では無い。

 むしろ、その逆。

 

 ――できれば、戦いたくは無い――

 

 顕現してから抱いているその思いは変わらない。

 相手を傷付けるのが、怖い。

 できれば、敵対している相手も助けたいと思ってしまうほどに。

 

 ……でも。

 脳裏に思い浮かぶのは、あの時自らの身を盾にしてまで自分を守ってくれた、あのヒト――【彼女】の背中。

 

 戦うことは、怖い。

 けれど。

 ――大切な仲間である【彼女】を失うことの方が、比べ物にならないくらい恐ろしい。

 

 だから。

 今は、戦おう。

 大事な仲間と、これからも先に進んでいくために――

 

「――電の本気を、見るのです――!」

 

 小さくも勇ましい船体が、波を蹴立てて海面を疾駆する。

 

 その時になってようやく此方に気付いたのか、深海棲艦艦隊の戦艦群が砲塔を回転させる。

 小破損害2隻と、中破損害1隻。

 被害こそ受けているものの、未だに戦闘継続が可能な状態だ。

 向けられた大きな砲口から放たれる砲弾は、電の船体など一撃で粉砕するだろう。

 

 ――けれど。

 そんな大火力も、覚悟を決めた電の前には意味を成さない。

 

「――っ」

 

 砲口を据えられた電は――けれど、退かない。

 それどころか、より一層速度を上げて。

 

「魚雷、装填です!」

 

 発射管に魚雷を搭載。

 同時に、動力機関を最大稼働しつつ、船の向きを整えて――

 

「――命中、させちゃいます!」

 

 猛スピードのままに海上を滑りつつ、船体を傾けながら魚雷を投射した。

 巧みな技量によって成される、洗練された動作。

 そこから放たれた魚雷が、白い航跡を残しながら一直線に突き進み。

 狙いを違うことなく、戦艦群の1隻――タ級フラグシップの船腹に吸い込まれて――

 

 ――それが、最期。

 鳴り響いた轟音と立ち昇った水柱を残し、その巨大な船体が沈んでいく。

 

 艦隊の中核を担う戦艦は、その防御力も高い。

 巨大な船体を分厚い装甲で包み、生半可な攻撃は弾き返す。

 ……だが。その防御も、海中に沈んでいる部分――艦底までは十分では無い。

 故に、海中からそこを抉ってくる魚雷は天敵と言うに近い。

 加えて、今は夜。

 その闇の中では視界は大幅に制限され、相手の動きも非常に掴み難くなる。

 気が付いたら目の前にまで接近されていた……そんな事態も頻発する。

 そんな状況下の戦闘――夜戦において猛威を振るうのが駆逐艦だ。

 闇の中にその小型の船体を潜ませ、相手の懐にまで入り込む。

 そこから放たれる攻撃は、分厚い装甲の狭間を突き抜けて甚大な損害になることも少なくない。

 駆逐艦の練度によっては、大型艦を真っ二つにするほどの破壊力を叩き出すこともある。

 ――そして、電の技量は駆逐艦としては最高峰だ。

 条件さえ揃えば、一手で敵戦艦を撃沈させることも難しくない。

 

 まさしく、今のように。

 

 ――直接戦闘能力は低い筈の駆逐艦に、姫級・鬼級などの規格外を除けば最重量艦種であるはずの戦艦が、一方的に圧殺された。

 それも、唯の戦艦では無い。

 高い戦闘力を有する中でも特に選び抜かれた最精鋭――フラグシップ級が……

 

 その事実に、深海棲艦群に隠し切れない動揺が走る。

 

「それじゃあ、続きましょうか」

 

 ――その隙を見逃す第六駆逐隊では無い。

 電の後に続くのは、三女である雷。

 自信に満ち溢れた表情を浮かべながら、目線を自分の前――単縦陣形の先頭を切って戦闘海域へと突入した電へと向ける。

 

「(――あの子が、こんな風になれるなんてね……)」

 

 敵戦艦を一撃の下に葬ったことについては、特に驚きは無い。

 ずっと共に過ごしてきた妹なのだ。

 電が築き上げてきた強さは、誰に言われるまでもなく解っている。

 ……それと同時に。

 その優しさ故の、戦闘への忌避感と。

 そこから来る引っ込み思案な性格についても、誰よりも解っている。

 

 ――そんな彼女が、戦闘の先陣を務めるとは……

 常に後ろに控え、いつも自分達の後ろを歩いていた電が。

 自らの意思を胸に、先頭に立つ――

 

 それは、紛れも無い成長の証であり。

 そして。

 それを形作ったのは、仲間である【彼女】の存在。

 

「(……寂しくないと言えば、嘘になるわね……)」

 

 手元に居た雛が、羽ばたき、巣立っていくような。

 そんな、形容し難い寂寥感。

 

 ――だけど。

 とても嬉しく、誇らしい。

 妹の成長を喜ばない姉など、いないのだから。

 

 ――その祝福のためにも、ここは勝利を掴む以外の選択肢は無い。

 

 雷は、前方に視線を向ける。

 凄まじい戦闘力を誇るであろう、深海棲艦大艦隊。

 ――それも、恐るるに足らず。

 

「――逃げるなら、今のうちだよ」

 

 笑顔というのは、本来は攻撃的なモノ。

 その言葉を彷彿とさせる、雷の笑い。

 口元から覗く八重歯が、今は悪魔の牙となって深海棲艦へと襲い掛かる。

 

「……もっとも――逃がすつもりなんて、ないけどね?」

 

 そうして。

 目にも止まらぬ速さで疾走する船体が、1番艦の電に続いて魚雷を投射する。

 その標的にされたのは、戦艦ル級フラグシップ。

 海面へと浮かび上がった魚雷の航跡に気付くも……もう、遅い。

 つい先ほどの光景を繰り返すかのように、その巨大な船体が腹を抉られ、沈没していく。

 

 ――だが。

 まだ終わりではない。

 

「――さて、殺りますか」

 

 3番艦として、響が体勢を整える。

 冷静さを宿した静かな瞳が、自分の前を走る妹達の船体に向けられて。

 

「――ハラショーだよ、2人とも」

 

 浮かべているのは、妹達への誇らしさ。

 自らの足を、成長という道へ踏み出した電も。

 それを姉として助けようとする雷も。

 

「(……ここに居れて、本当に良かった)」

 

 かって、原体であった頃から夢見ていた光景。

 その喜びを噛み締めるかのように、静かに瞼を閉じて。

 ――再び開かれた時には、そこに在るのは敵へ向ける冷徹な視線。

 

 開戦直後に戦艦級2隻を続けて撃沈されたことが、却って正気を呼び戻したのか。

 残るもう1隻の戦艦――ル級フラグシップが、応戦の体勢を取る。

 砲塔を向け、目標を定めて――

 轟音と火花を散らし、砲弾が迸る。

 精密性と破壊力を併せ持った砲撃。

 ――けれど。

 

「無駄だね」

 

 響は船体を捻らせ、それを難なく回避。

 その後、さらなる追撃の隙を与えぬために即座に攻撃に移る。

 

「――Урааааа!」

 

 普段は物静かな彼女の上げた、裂帛の雄叫び。

 そこに在るのは、妹達への誇りと。

 大切な仲間――【彼女】を傷付けられた、怒り。

 その激情を載せて放たれた魚雷は、容赦なく戦艦ル級フラグシップを穿ち抜いた。

 

 

 …

 ……戦艦群の、全滅。

 戦力の過半を、一方的に葬り去られた――

 戦闘の趨勢は、この時点で決したと言えるだろう。

 

 ……それが、尋常な相手であれば、だが。

 

 ――夜空を切り裂く飛翔音。

 見上げれば、そこに在るのは月を隠すかのように浮かんだ、多数の航空機影。

 それは、2隻の空母ヲ級フラグシップから飛び立った深海棲艦群精鋭航空部隊。

 深海棲艦勢力の中でも最高水準の技量を持つ飛行部隊。

 

 ……ここまで追い詰められてなお、深海棲艦艦隊は矛を収めない。

 

 軍艦の中でも最軽量船体である駆逐艦。

 戦艦を屠るほどの水雷装備を搭載しているのなら、対空能力にまでは手が回っていない筈。

 そこを突いて、一気に形勢を逆転させる――

 

「――全機、突撃!」

 

 ……そんな目論見は、援軍として派遣されてきた艦娘――翔鶴の手によって防がれる。

 甲板から翼を広げて飛んでゆく、翔鶴航空隊。

 袴富士少将の下で激戦を潜り抜けてきた翔鶴。

 その中で鍛え上げられた航空隊は、全鎮守府の中でも有数の練度を誇る。

 

 月夜の下で甲板から飛び立った艦載機隊が、深海棲艦群の航空部隊と接近して――

 忽ちのうちに、激しい乱戦へと突入した。

 

「直掩隊も、攻撃隊の援護に回って!」

 

 急遽の出動のため、数は十分ではないが。

 それを補うべく、翔鶴は的確な指示を下す。

 

「……すまない。貴方まで危険に晒してしまって」

 

 謝罪と沈痛の表情を浮かべる青年提督に、翔鶴は穏やかな表情で応えた。

 

「いえ、何も気にされることはありませんよ。私は、このために来たのですから」

 

 そう言って、再度、顔を前へ向ける。

 そこに浮かんでいるには、憂慮の色。

 

 前方空域で繰り広げられている、深海棲艦飛行部隊との空戦。

 その戦況は――互角。

 

「(……七面鳥撃ちのような惨状も、覚悟していたのだけれど……)」

 

 空母戦力比は、1対2。

 単純に計算すれば2倍差だ。

 搭載している艦載機の数の違いを考慮すれば、その差はさらに開くかもしれない。

 その上、本来であれば御法度である夜間航空行動の強行。

 

 ……これだけの不利な条件で、けれど戦況は五分。

 ……その理由を、翔鶴は正確に見抜いていた。

 

「(数が少ない上に、動きが鈍い……)」

 

 空母2隻の有する航空戦力にしては、相手の数が少なすぎる。

 その上、動きに全くと言っていいほどキレが無い。

 

 ――まるで、既に激闘を経た後のように。

 

 その原因は、1つしかない。

 青年提督に悟られぬように、翔鶴は視線を移す。

 

 そこには――敵旗艦に突撃し、共に沈黙している【彼女】。

 

「(最高練度の航空機隊を、単艦でここまで減らすなんて……!)」

 

 最初に映像で【彼女】の戦果を確認したときの、慄然とした感覚が蘇ってきて――

 翔鶴は、思わず身を震わせた。

 

 

 …

 ……航空機隊が足止め。

 深海棲艦群の逆転の目を掛けた一手が封じられて――

 

 そうして。空母2隻への道を遮るものは、何も無い。

 その開かれた道を、最後尾に付けていた艦が駆け抜ける。

 

「暁の出番ね。見てなさい!」

 

 第六駆逐隊の長女である暁。

 

「――突撃するんだから!」

 

 自身を遥かに上回る大きさを持つ空母に向かい、躊躇を見せずに距離を一気に詰める。

 瞬く間に制圧された戦場。

 それを成したのは、敵の戦艦群を撃沈させた妹達。

 いくらこちらに有利な夜戦という状況下であっても、深海棲艦最精鋭艦隊を相手に勝利を手にするということは容易では無い。

 

 ――それを、3人はやってくれた。

 召喚されたばかりの頃の自分達では考えられなかった戦果。

 それが可能となるまで自分達を育て上げてくれた青年提督。

 優しく、こちらを信頼してくれる指揮官と、強い絆で結ばれた妹達と。

 皆で作り上げてきた強さ。

 

 そこに更なる成長を齎してくれたのが、【彼女】だ。

 もし、【彼女】がこの鎮守府に来なかったら……自分達は早晩、行き詰っていただろう。

 それを、身を以て救ってくれた――

 

 その特異な雰囲気から、当初は拒否感を示してしまった自分達を……何の咎めもせずに受け入れてくれた。

 

【彼女】のくれた優しさを、返していこう。

 守ってくれた強さに、応えられるようになろう。

 

 そんな誓いを立てて。

 それを守るべく、5人は更に上を目指すことができたのだ。

 

 その【彼女】を、傷付けられた憤怒が、暁の思考から「恐れ」という概念を消し去っていた。

 あるのは――ただ、煉獄の如くに燃え上がる戦意。

 

「――もう、許さない……許さないんだからっ――!」

 

 放たれた魚雷は、彼女の怒りを示すかのように海中を切り裂いて――

 

 所有戦力を逆転の一手に掛けて放出していた空母ヲ級フラグシップには打つ手は無く。

 そもそも、直接火力に乏しい空母が懐に入り込まれた時点で、打開策などほとんど無い。

 

 僅かの後。

 艦艇を魚雷に抉られ、ヲ級フラグシップはその身を没していった。

 

 そうして、残ったのはもう一隻の空母ヲ級フラグシップ。

 ……だが、今更何ができるだろうか?

 

 …

 ……

 それから程なくして、戦闘は終結を迎えた。

 第六駆逐隊による、深海棲艦群の全滅という形で。

 

 駆逐艦4隻による、深海棲艦重量艦隊の殲滅――

 それは、誇るべき戦果だろう。

 けれど、その喜びに浸るのは、もう少し後で良い。

 

 ――この喜びを共に分かち合うべき大事な存在が。

 身を張って、この勝利の立役者となってくれた大切な仲間が。

【彼女】の身が、危険に晒されているのだから。

 

 第六駆逐隊の4人は、目を見合わせた上で小さく頷き合うと、船体を疾走させる。

 ……言葉は、要らない。

 誰の思いも、一緒だから。

 

 その進路の先にあるのは、絡み合うようにして沈黙している2隻の巨艦。

 既に沈黙している敵旗艦であるレ級エリートと。

 その並外れた巨体を相手に、己の船体を刃として突き立てている【彼女】。

 

 共に、船体は大破。

 戦闘艦どころか、通常の艦船としての役割すら果たし得ないだろう。

 

 外郭は凹み。

 随所から黒煙を噴き上げ、巻き上げられた炎粉が吹き乱れる――

 その壮絶な光景に思わず4人は息を呑むが、それも一瞬。

 こんなところで、一秒たりとも時間を取られている訳にはいかないのだ。

 

 このままでは、遠からず船体は海中に没してしまう。

 

 ――その、前に――!

 

「私と響が此処に残るわ。雷と電は上に登って」

 

 そこで、一度言葉を切って。

 

「――金剛さんを、お願い」

 

 そこに込められた、切実な願い。

 その重さは。その熱は、姉妹に共通したモノで――

 

 だからこそ、2人は小さく頷きを返しただけで、その指示に従った。

 

 事は、一刻を争う――

 

 雷と電は、即座に動いた。

 己の船体を艤装に収納すると、すぐに【彼女】の船体を駆け上ってゆく。

 

 ――それを確認した上で暁は己の船体を動かし、魚雷発射管を、既に沈黙しているレ級エリートに向ける。

 既に物言わぬ屍と化してはいても、深海棲艦の中でも破格の戦闘力を持つレ級エリートだ。

 万が一にでも、再起動することもあるかもしれない。

 

「(……そんなことは、絶対にさせないけどね)」

 

 ――その思いは、響も同様。

 主砲の砲口を、ピタリとレ級エリートに向ける。

 

「(……少しでも、動いてみろ……その時には――)」

 

 その目に宿るのは、冷徹な光。

 

 ――万が一にでも、大事な仲間を救う邪魔をされる訳にはいかない――

 

 その役割を託した2人の妹達と、【彼女】が無事で居てくれることを願い。

 暁と響は視線を上に向けた。

 

 

 …

 ……

 その視線の先。

 雷と電は、大切な仲間を救うべく躍動する。

 

 艦娘のとしての、人知を超えた跳躍力と身の熟しで瞬く間に巨艦の外壁を踏破し、甲板上へと降り立って――

 

「――っ!これって……!」

 

 雷が息を呑み、電が顔面を蒼白にさせる。

 

 外から見るだけでも、被害の甚大さには言葉を失ってしまっていたが……

 こうして実際に状態を目の当たりにすると、さらにその惨状が露わになる。

 

 艦上構造物はそれも倒壊し。

 ひしゃげた砲は原形を留めておらず。

 幾多もの大小の傷跡と、抉られた無数の風穴。

 至る所に巻き起こっている火災が、噴き上げる風に乗って漂わせるのは、油と焦げ臭さ。

 

 目を覆いたくなるような惨状。

 そして、2人の目的――【彼女】の姿は、そこには無くて。

 

「――まさか、もう……」

 

 もう顕現化が解け、艦娘としての形が保てずに還ってしまったのか――

 最悪の想像が思考をよぎるが――

 

「――雷お姉ちゃん、あっちなのです!」

 

 電の眼が、【彼女】を見つけ出す。

 それは、【彼女】の船体ではなく、相対しているレ級エリートの艦上で。

 

「――ここから、あんなところまで……!?」

 

 船体がぶつかり合っているとは言え、レ級エリートの甲板上まではかなりの距離がある。

 いくら艦娘の肉体能力を以てしても、一足では無理だ。

 

「っ!」

 

 思考している暇は無く、2人は直ぐに動いた。

 目にも止まらぬ速さで跳躍し、駆け抜けて――

 そうして乗り移ったレ級エリートの甲板上。

 

「――っ!」

 

 2人の目に入ってきたのは、力なく横たわるレ級エリートの顕現体。

 巨大な尾部は木っ端微塵に砕かれ、壁面に叩き付けられた体は、ピクリとも動かない。

 

 …

 ……そして。

 

「――金剛さんっ!」

 

 電が駆け出した、その先。

 ――そこに。【彼女】が、いた。

 

 ――瀕死。

 そうとしか形容しようのない重体。

 

 ……そんな状態なのにも関わらず。

【彼女】は、顔を動かした。

 それは、電の声を確かに捉えた証。

 朦朧としているであろう意識の中で、それでも応えてくれた――

 それが、【彼女】が自分達のことをどれだけ大事に思ってくれているかの証明。

 

「――金剛、さんっ……!」

 

 堪らず、電は横たわる【彼女】に縋り付く。

 ……涙が、次々と零れて。

 

「――ごめんなさい、なのですっ……!

 ごめんな、さいっ……!」

 

 ――1人で危険な目に遭わせて、ごめんなさい。

 ――間に合わなくて、ごめんなさい。

 

 思いが溢れてくるばかりで、まともに言葉にできない。

 もっと、伝えたいことがあるのに。

 もっと、上手く言いたいのに。

 しゃくりあげながら、途切れ途切れに伝えることしかできなくて。

 

「……あ」

 

 ――そんな電の頭に置かれたのは、包み込むような暖かな感触。

 

 ――どこか冷たく、それでいて滑らかな手触りは――【彼女】の掌。

 

 伝わってくるのは、震え。

 伸ばされた【彼女】の腕は、細かく震えていて――

 それは、きっと、堪え切れない激痛。

 

【彼女】は今、瀕死の状態だ。

 指を動かすことすら辛いはず。

 

 ……それなのに、その激痛を堪え、手を伸ばしてくれて。

 

 そして、こちらへと向けられている瞳。

 己の命が風前の灯だというにも関わらず、一切の揺れも乱れも見せない鋼の瞳。

 

 ――だけれど。

 その奥には光があって。

 口角が、ほんの少しだけど、緩んでいるように思えて。

 

 ―――無事で、よかった―――

 

 例え声は出せずとも。

 例え笑顔を浮かべることはできずとも。

 

 ――【彼女】は、誰よりも優しくて――

 

「――っっ」

 

 それが堪らなくて。

 電は再び【彼女】にしがみ付いた。

 溢れだす涙は止まらなくて。

 次々と零れ、弾けていく。

 

 その滴を、降り注ぐ月光が優しく映し出していた――

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 …

 ……

 

「(切り抜けられた……)」

 

 ――戦闘終結後、上陸させてもらった鎮守府で翔鶴は息を吐く。

 爆撃を仕掛けられたのか、周囲の建造物は焼け焦げ、崩れているものも少なくない。

 おそらく、復旧には相応の時間を要するだろう。

 

 ……だが。確かに鎮守府は此処にある。

 被害は大きい。付けられた爪痕は深い。

 ……しかし、鎮守府は健在なのだ。陥落、しなかったのだ。

 

 ……そんな目の前の光景を目にしながら、翔鶴は息を吐く。

 体に感じるのは、鉛を詰め込んだかのような重さ。

 主である袴富士少将の命を受けての強行進軍。

 そこで目にした敵艦隊の想像以上の陣容。

 そして、夜間にも関わらずに航空行動を実行するという自殺染みた真似をしたことによる疲労。

 

 ――だが。何よりもその疲れとなったのは……

 

 翔鶴は視線を向ける。

 その先には、雷と電に両脇から支えられてゆっくりと歩を進める1人の艦娘。

 青年提督と、暁と響。

 そして総出の妖精さん達に迎えられる、金剛――【彼女】。

 

 常識という枠を遥かに超える規格外。

 ――その存在への警戒心……いや、恐れが翔鶴の肉体を蝕んでいた。

 

 

 火力・耐久・装甲・回避――そういった軍艦としての性能で【彼女】を上回る艦娘はいくらでもいるだろう。

 

 ――だが。

【彼女】を、〔強さ〕で上回る者は、居ない。

 達人という域を超越した、怖気すら感じさせるほどの技量。

 

 

 どのような境地の果てに、こんな境地にまで至れるのか――

 想像すらつかない。

 

「(――長門さんでも、太刀打ちできないでしょうね……)」

 

 自らの所属する鎮守府の第一艦隊旗艦の強さは良く知っているが……彼女でも、歯が立たないだろう。

 ……それどころか、現在顕現している艦娘全員の中でも、相手になる者が果たして居るのか……?

 少なくとも、翔鶴の知る中では居ない。

 この国の最後の切り札と謳われる〔近衛艦隊〕でも同様だろう。

 

「(いえ……)」

 

 ――1人だけ、例外が居た。

 規格外には、規格外。

 艦娘という存在が確認されて以来、屠った深海棲艦の数では右に出る者は居ないとされる古強者。

 遥か昔から戦って、戦って、戦い続けて。

 ――そして、誰をも置き去りにして、誰も立ち入れぬ極致にまで至ってしまった……

 

「(……あの〔艦娘提督〕なら、恐らくは五分か、やや優勢か……)」

 

 ……そんな埒外の相手に匹敵できるだけの【彼女】は、やはり異常なのだ――

 

 ……その異常点は、艦隊戦での強さに限った話では無い。

 状況を確認した雷と電の話からすると、【彼女】は白兵戦闘でレ級エリートの顕現体を斃したと思われると言う。

 

「……」

 

 信じられない事態に、逆に笑い出しそうになってしまう。

 軍艦の現身である艦娘は、人類では及びもつかない肉体能力を持つことは紛れも無い事実。

 ……しかし、それとて限度はある。

 少なくとも。

 距離を隔てた敵艦へ一足跳びで乗り移ったり、自らを遥かに上回る質量を持つ怪物を一振りで殴殺するなんて、できようはずが無い。

 満身創痍の状態でなら、なおさらのこと。

 

 ……だが、状況を伝え聞く限りでは【彼女】がそれを成したのはほぼ疑いようが無い。

 ……そんなことができるのは、これまた〔艦娘提督〕ぐらいで。

 他に、生身の戦闘で【彼女】に歯が立つ者はいないだろう。

 艦娘体のスペックとして、余りに逸脱している。

 

 艦艇戦も、肉体戦も、共に異次元。

 …

 ……これを、異常と呼ばずして何と言うのか。

 

 

「……翔鶴さん?」

 

 近くから聞こえた青年提督の声に、慌てて翔鶴は意識を戻す。

 ふと気付くと、6人が直ぐ近くに来ていて。

 どうにも、思考に埋没してしまい過ぎたようだ。

 恐らく、援軍に対する礼を言いに来てくれたのだろう。

 

「(集中力を乱し過ぎね……)」

 

 せっかく相手が礼を尽くしてくれようとしているのに、これでは申し訳ない。

 気を取り直して、翔鶴は視線を彼らへと向けて。

 

 ――そうして、【彼女】と視線が交わった瞬間。

 

「――っ!?」

 

 ――怖気が、迸った。

 

 そこにはあったのは、透き通った眼。

 まるで磨き抜かれた鏡の様に、曇り1つ無く翔鶴の姿を映し出している。

 

 ――そのことに、怖気を覚えたのだ。

 

 曇り1つ無い――

 ……つまり。何も浮かんでいないのだ、其処には。

 

 激戦を潜り抜け、先ほどまで己の身を死地に置いていたことに対する昂りや乱れも。

 ようやく味方に邂逅したという安堵も。

 何も、読み取れない。

 

 自身の感情を示すことが苦手な者も居る。

 或は、表情を仮面で押し隠す者も居る。

 ……だが、【彼女】は根本的に違う。

 〔目が笑っていない〕などという表現はよく使われるが……

 

 ――目が無いのだ、【彼女】には。

 眼球は在っても、そこに宿っているモノが無い。

 

 ――まるで、屍が動いているかのようで。

 

「(どうやったら、こんな目になるの……!?)」

 

 ……いや。

 人形のような目を浮かべている相手に、そういった考察をするだけ無駄かもしれない。

 常識の通じぬ、人知を超えた場所に居る相手。

 

「(……まるで、バケモ……)」

 

 ――その時。【彼女】が、僅かに動いた。

 視線を逸らすようにして、首を微かに前後に傾げる。

 

「(……?)」

 

 こちらの視線を避けたようにも思える動作だが、小さく会釈したかのようにも見える。

 ……ひどく解り辛いが、援軍に来たことへの返礼のつもりだろうか。

 ただ。何一つ言葉も無く、淡々と行われたその動作は外から見ると、無礼とも取られかねない。

 

「……あ、あの、翔鶴さん……」

 

 言葉を発したのは、【彼女】を片側から支える電。

 翔鶴の様子を伺うその表情は、どこか切迫としていて。

 

「えっ……と、お気に障られたのなら、ごめんなさいなのです……」

 

 顔を真っ赤にしているのは、何とか的確な言語を紡ごうとする必死さの表れ。

 

「金剛さん、喋るのが得意じゃなくて……あの、だから、翔鶴さんを蔑ろにしてるわけじゃなくてっ……!」

 

 会話としては不十分な言葉の羅列。

 だけど、その根底にあるものはしっかりと伝わってくる。

 

 ――【彼女】を、庇おうとしているのだ。

 翔鶴に悪感情を持たれないように、と。

 

 ……その電の言葉を、青年提督が引き継ぐ。

 

「すまない。【彼女】は少し不器用なところがあってね」

 

 読み取れるのは、揺るがぬ信頼。

 

「【彼女】は本当に君に感謝しているんだ、私達と同じくね……どうか、気を悪くしないでほしい」

 

 懇願するようにして掛けられる青年提督の言葉。

 そこに込められているのは、一途さ。

 そして、それは【彼女】と寄り添っている第六駆逐隊の面々の顔にも浮かんでいて。

 

 …彼らとて、【彼女】の異様な在り様には気付いているはず。

 なのに、そこには疑義も嫌悪もありはしない。

 あるのは。

【彼女】と共に居ることへの感謝と、誇り。

 

「(……ふぅ)」

 

 揺らがぬその有様に、翔鶴は僅かに息を吐いた。

【彼女】への猜疑を捨てた訳では無い。

 畏れも恐怖も、未だに胸の中に巣食っている。

 

 ――だけど。

 

「いえ、解っていますよ。……素晴らしいものを見させて頂きました」

 

 ――彼らの間には、確固とした絆がある。

 ならば、外部の自分がどうこう言うべきではないのだろう。

 信頼と絆で結ばれた6人の姿を見て、口元も綻んで。

 

「(……けれど……)」

 

 翔鶴は沈痛な思いを抱かずにはいられない。

 この先の、彼らのことを考えると。

 

 今回、深海棲艦の襲撃を退けることはできた。

 ……だが。

 それは同時に、規格外の艦娘――【彼女】の存在を、知らしめることにもなってしまった。

 

 深海棲艦共は今後、血眼になって【彼女】を狙ってくるはずだ。

 今回の襲撃艦隊は沈没する前に、恐らく戦闘の一部始終の模様を伝達している。

 つまるところ、【彼女】の立ち回りは余すところなく奴等の根城に伝わっているだろう。

 

 決戦用戦力を単艦で押し戻す【彼女】の出鱈目な戦闘力を、奴等はしっかりと認識した。

 ……今後、最優先目標として狙いを定められることも在り得る。

 

 そして、人類側も。

 深海棲艦の一大攻勢を凌いだことで、一致団結!……とはなるまい。

 これだけの攻撃を防いだことは殊勲ものだ。

 ……だが、上層部が着目するところは其処では無い。

 

 厄介払いを兼ね、足枷にと押し付けた存在が。

 実は、単独で戦局を変え得るほどのとんでもないジョーカーだった。

 

 ……果たして、その事実がどう解釈されるか。

 まして、今は沖ノ島での決戦に備えている準備期間。

 その中で起きたこの事態に、果たして大本営がどのような判断を下すのか……予測が立てられない。

 

 ――どちらにしても、険しい前途が待ち受けていることに違いは無い。

 

 ……余計な気遣いだとは解っていても、それでも翔鶴は憂いずにはいられない。

 

 ふと頭上を見上げれば、そこには夜空に青白く浮かぶ月――

 ――月夜の水平線が、ただ静かに此方を見下ろしていた。

 




ここまで読んでいただいた方、誠にありがとうございます!

まず最初にお詫びをさせて頂きます。
今回の更新に際しての一連の不手際については、誠に申し訳ありませんでした。

更新予告で3月27日に次話を投稿すると告知しておきながら、それを守れずに延長。
さらに活動報告で公言した3月中の更新も結局できずに再延長。
そこで最後通告として通知させて頂いた4月3日にも私の私的都合でそれを破ってしまいました。
その上、その後も更新を行わないという体たらく。
いかに事情があったとしても、拙作を投稿させて頂いている身としては言語道断でした。
改めてお詫びさせて頂きます。
大変申し訳ありませんでした。

また、こんな醜態を晒しているにも関わらず、暖かなお言葉を下さった方々には感謝の言葉もございません!
本当にありがとうございます!

4月ということで心機一転、周囲の環境が変わられる方も多くいらっしゃるでしょうが、
どうか無理をせず、体を壊さないようにしてください。

今回は本当に申し訳ありませんでした。
次も頑張ります!

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