※今回、長めです。疲れたり、疲労が溜まったら無理せずにお休み下さい。
※H26.1.2及び1.3に一部改訂しました。
※H26.1.26に誤字修正しました。
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深海棲艦と呼ばれる、人類に牙を剥く怪物共。
そんな奴等に対抗すべき存在である、かっての軍艦の情報をコピーして再現し、そこに管制人格とでも呼ぶべき女性体が付随した存在-艦娘達と。
彼女達と心を通わせ、共に戦うことのできる能力者-提督達。
彼らの拠点であり。
人類全体にとっても重要な防衛施設が、鎮守府と呼ばれる場所である。
提督や艦娘達が数多く存在するのだから、その拠点である鎮守府の数も膨大な数に上る。
母港の大小から在籍している艦娘の違い、設備の充実性など、鎮守府ごとに規模・戦力は千差万別だ。
その中の1つが、ここである。
深海棲艦との戦線の最前線近くに設置された、小規模な鎮守府。
設備や母港等から宿舎の内装に至るまで、小さな傷や錆などが随所に見受けられるが。
そこには余計な汚れなどは無く、住人達によって丁寧に手入れされていることが窺える。
そんな鎮守府の中でも最も重要な場所である一室。
責任者である提督が腰を落ち着ける提督室。
「くそっ!」
普段は心地良い静寂によって満たされているこの空間に、怒鳴るような悪態と、物を殴打した鈍い音が響く。
室内のやや奥の執務机に身を置き、机上に振り下ろした拳を震わせる若き青年。
彼こそが、この鎮守府の提督である…が。
精悍さ・凛々しさに満ち溢れ、婦女子であるならば思わず見惚れてしまうであろうその容貌が。
今は全身を駆け巡る怒りによって強張り、朱に染まっている。
身体の血を沸騰させてしまうかのような憤りに身を震わせる彼に。
静かに、声が掛けられた。
「司令官。落ち着いてくれ」
声を掛けたのは、彼の前に立つ4人の少女達の中の1人。
いずれも幼さを色濃く残した容姿であり、彼女もその例外ではないのだが。
外見年齢には見合わぬ冷静さを秘めている。
「…響」
そんな彼女-艦娘「響」の声に、彼は顔を上げた。
「そんなに怒っていては、身体のリズムを崩してしまうよ」
抑揚のない口調だが。
向けられる言葉には労わりが強く込められていて。
「そうそう。もっと明るく、元気出して行きましょ」
次に掛けられたのは、明瞭で快活な声。
「…雷」
「私達、これからもっと頑張っちゃうから!だから、心配しなくても大丈夫よ」
持前の明るさと行動性を象徴するような大きな瞳と、八重歯の覗く口元。
活発性の塊ともいえる艦娘「雷」の笑顔は、いつだって思い遣りに溢れている。
「そうよ。もう一人前なんだから!」
続けられたのは、大人びた声…を気取った、幼さの色濃く残る声。
「…暁」
「だから。司令官が自分を傷付ける必要なんて、ないわ」
精一杯の思いで放たれた言葉。そこに込められているのは、配慮の色。
子ども扱いされることを嫌い、普段は何かと背伸びしがちな彼女だが。
内に秘めた周囲への慮りは、彼女-艦娘「暁」が確かに人を気遣うことのできる淑女である証。
「なの、です」
最後を締めるのは、気弱く、けれど暖かさに満ちた声。
「…電」
「電達は大丈夫なのです。それよりも司令官さんが自分を傷付けてることの方が、つらいのです」
悲痛を湛えた、大きく柔らかな瞳。
砲火を交える敵すら気に掛けるほど心優しき彼女は、常に周囲を心遣う。
そんな彼女-艦娘「電」の優しさは、こんな時でも。
いや、こんな時だからこそ心に染み渡っていく。
「…すまない」
第6駆逐隊の面々の思い遣りによって彼-青年提督の頭に血が上っていた頭は急速に冷まされ。
そのあとに来たのは、猛烈な自己嫌悪。
実際に戦場に出て戦うのは彼女達だ。
それを気遣い、ケアするのが自分の役割なのに。
そんな彼女達の前で感情を爆発させてしまうなど…
恥じ入るかのような青年提督の謝罪。
けれど彼女達は全く気にしていなくて。
4人を代表し、暁が胸を張って答えた。
「何も謝る必要なんか無いわ。司令官が私達のことを考えて怒ってくれたのは解ってるもの」
それは虚栄などでは無く、本心。
青年提督と彼女達が籍を置くこの鎮守府は、拠点として考えれば欠点ばかりだ。
城というより砦とでも形容すべきな小さな規模で、それに伴う設備も貧相としか言えない状態。
母港は小さく、艦を修理すべきドックは精々1隻が入る程度。
重機や修理機材も老朽化が進み、作業をこなすのに時間が掛かる。
それでも彼女達や提督自身、そして住み着いている妖精さん達によってこまめな手入れがされているために何とかなってはいるが。
何よりも大きな問題は-工廠が無いことだった。
これにより、建造によって新たな艦娘を増やすことができず。
新たな装備を開発することもできない。
着任の際に第6駆逐隊を拝領した青年提督は、ここに配属されると直ぐに工廠の建設を申請した。
-だが。
今日に至るまで、その許可は下りていない。
それでも青年提督は上層部に掛け合い続け、それでも反応が無いとなると直訴にも赴いた。
何度も、何度も。
しかし、その全ては徒労に終わっている。
上層部に出向いても、愚にも付かない下らない言い逃れを聞かされるだけ。
ひどい時には責任者が不在だの何だので追い返される始末。
これでストレスを溜めるなという方が無理である。
むしろ、今日までその爆発を抑えていた彼の精神力を褒めるべきであろう。
けれど、それでも彼は直訴を辞めない。
そうまでするのは-自分の艦娘である第六駆逐隊のため。
深海棲艦との戦いの最前線の1つであるこの鎮守府の周辺海域は、未だに制海権を握りきれていない。
頻繁に奴等が出没し、それを迎撃するために必然的に第六駆逐隊の出撃は多くなる。
絶え間なく繰り返される戦闘。
帰還し、入渠して修理した直後に息つく暇もなく再度出撃という事態も珍しくない。
こんな戦いばかり繰り返していては、彼女達に疲労が溜まってしまうばかり。
その蓄積が、やがては轟沈に繋がってしまいかねない。
それを防ぐには、より多くの艦娘を迎え入れて編成を組み。
戦闘行為や任務を分担させて、負担を分散させるしかない。
それには、艦を建造できる工廠は必要不可欠。
青年提督は、その為に幾度も直訴し続けているのだ。
第六駆逐隊の激務を、少しでも和らげるために。
それが解っているからこそ、彼女達はこの青年提督を心から慕い、信じている。
-そして、そんな彼女達を見る度に、青年提督は申し訳なく思う。
そもそも、こんな僻地に飛ばされてしまったのは自分に原因があるのだから。
提督としての才を授かり、着任した彼。
だが、2つの事態が不運を招いた。
1つは、彼が優秀であったこと(彼自身は己のことをそんな風に思ったりしたことは無いが)。
そしてもう1つが、彼が高貴な生まれでは無く、ごくありふれた庶民階級出身であったことだ。
旧くから続く組織というものには、ほぼ例外なく派閥や血筋が根付いており。
そしていつの時代も新参者を拒む。その者が優秀な場合は特に。
自分達の権益を邪魔されたくないために。
彼が身を置く「軍隊」はその代表的なもので。
結果、冷や飯を食わされている、という訳である。
しかも。
その冷や飯の食わせ方もより嫌らしいもので。
通常に疎むだけならば前線などに送らず、閑職にでも宛がっておけばいい。
その方が手柄も立てられないし、手間も掛からない。
なのにわざわざ戦地に送ったのは、いかに彼とて戦功は立てられまいという確信があったからこそ。
青年提督が赴任した鎮守府は、最初期の頃に試験的に建造された施設であり、当時から工廠は付随していなかった。当然、設備も古い。
深海棲艦との争いが激化する中で、いつしか最前線に放り出されるように放置されていた拠点―それが青年提督が赴任した鎮守府であり。
最前線基地と言えば聞こえはいいが、要は捨石だ。
制海権を確保できておらず、付き従う艦娘は4隻の駆逐艦のみ。
こんな状態では勢力維持すら覚束ない。
上層部の頭の中では、既にこの鎮守府は陥落予定地として計算されているのだろう。
そんな場所にわざわざ工廠を作るなど、彼らにとっては無駄でしか無い。
そして、この鎮守府が陥落したのなら。青年提督の責任が問われるのは間違いない。
事情はどうあれ、鎮守府の責任者として赴任しているのは彼なのだから。
当然、彼の経歴にはこのことが記載される。
組織・社会に身を置く者にとっては経歴というものは非常に重い意味を持つ。
それによって外部・上部からの評価が定まり、配属・昇進にも関わってくるからだ。
そんな経歴にマイナス評価が記されていたら…余程のことが無い限り、取り返しはつかない。
その上で閑職に回せば…青年提督は簡単には浮き上がってこれない。
ここまで手の込んだことをするのは、それだけ青年提督の能力が飛び抜けているからこそ。
放っておけば、あっという間に自分達の権益を脅かす存在になる。
そんなことになる前に、徹底的に潰しておくつもりだろうか。
その途中で彼に預けられた4人の駆逐艦娘が轟沈しようとも。
彼が命を落とすことになったとしても。
彼らは一向に構わないのだろう。
ただ、自分達の地位の安泰の為に。
これが、権力という魔物に憑りつかれた人間の姿である。
それで苦労するのが自分だけならいいのだが。
ついてきてくれている第六駆逐隊にまでとばっちりを食わせているのが、非常に申し訳なく。
だけど。
こんな中でも彼女達は懸命に頑張ろうと決意し、なおかつこちらを励ましてくれる。
そんな彼女達に比べて。自分はなんと子供なのか。
そして、自分は幸運だ。
こんなにも素敵な艦娘達が共に居てくれるのだから。
だからこそ、絶対に彼女達を沈めさせはしない。
艦娘達は兵器だ。
…だが、それ以上に。運命を託し、共に戦い、力を貸してくれる大切なパートナーだ。
甘いと嘲笑されようが自己陶酔と嘲笑われようが、彼はこの信念だけは捨てる気はなかった。
今までも、そしてこれからも、だ。
「さて、と」
決意を新たに、彼は立ち上がった。
「そろそろ出撃しようか。いつまでも【彼女】を待たせておくわけにはいかないからね」
そして歩き出す。
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母港へと足を進めながら、青年提督はここまでの流れを改めて思い起こす。
肝心の工廠の建造こそ今日も退けられたが。
その代わりに今日は直訴以来初めてと言える成果があったのだ。
-戦艦1隻の受給-
今まで拒絶一辺倒であった上層部から初めて得た成果。
これで戦力の増強という目的は、一部ではあるが達成できた。
それも強力な戦闘力を誇る海上の覇者-戦艦を編成に組み込めるのだ。
本来であれば喜ぶべきところなのだが…彼の心を占めるのは、不安。
受領した新たな艦娘である【彼女】を脳裏に思い浮かべる。
あの佇まいと在り様は、通常の艦娘とは余りに異質で-
【彼女】の姿を思い起こし、ゴクリと唾を呑み込んだ。
果たして、今回のことは成果と呼べるのであろうか。
あの時は、無我夢中で行動したが。
もしかしたら自分は、とんでもない貧乏籤を引かされたのでは…?
そして、それは恐らく間違ってはいないだろう。
自分達では測りかねる存在だからこそ、上層部は都合良くこちらに押し付けてきたのだ。
都合の良い駒と化してしまっている己自身への不甲斐なさと。
自分に付いてきてくれている第六駆逐隊の面々の負担を取り除ききれなかったという自責から、先程は感情を爆発させてしまったが。
…冷静になった今、胸中から不安が湧き上がってくる。
人は誰しも、未知のものを恐れる。
だからこそ、上層部も【彼女】を遠ざけた。
【彼女】は。
まるで、艦娘とは別の「何か」のようで。
底知れない闇のような-
「(っ!何を、考えている!?)」
慌てて頭を振り、彼は唇を噛み千切った。
自らへの戒めの為に。
口の中に滲んできた鉄のような血の味が、思考を冷やす。
【彼女】とて艦娘であり、これから新たな仲間となる存在だ。
それを、提督である自分が疑ってどうするのだ。
そう。
【彼女】だって、仲間なのだ。
改めて強く念じ直し、自らを戒めながら。
青年提督は、第六駆逐隊と共に母港に出た。
「すまない、待たせたね」
青い空と海。
そんな情景を背景とした母港。
そこで掛けられた彼からの声に、佇んでいた影が振り返り。
-宝石のような、温かみの全く感じられぬ瞳が向けられた。
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鼻を付く潮の香りと、寄せては返す静かな潮騒の音に包まれた海辺。
その海面に映っている、1人の美少女。
さて、この少女は誰でしょうか?
① 俺の彼女だよ、羨ましいだろ?
② 実は、女装癖が…あるんだ…
③ 遂に妄想(二次元)を具現化する能力を取得したぞぉぉぉ!
①は俺にとっては残念ながら外れ。未だに年齢=彼女いない歴に終止符を打てていませんし、その予兆も全くありません。
恋人なら二次元の向こうさ。フフ…
そもそも今、この場所には俺1人しかいないし。
じゃあ②なのかって?
いやいや、冗談言わんでくれ。他人に迷惑かけないんであれば、別に人の性癖にどうこう言うつもりはないが…俺には女装癖は無い。
…だが、まあ。完全な不正解とも言い難い、かもしれない。
それじゃあ、③なのかと言えば…それも違う。
そんな能力があるなら是非とも手にいれたいもんだが、残念ながら現実という壁を前にしては叶いっこありません。
…だが、これまたある意味でまるっきり大外れというわけでもない。
じゃあ正解はと言うと-
④ 目を覚ましたら、自分がゲームに登場する女の子キャラになってました♪
これが正解でっす!
正解された方、おめでとうございます!
…
……
………
ふ ざ け る な !
…と、怒ったところで。我が身に起こったことは変えようが無いのである。
艦これ、というゲームがある。
ものすごく大ざっぱに言えば。
大戦時に活躍した軍艦達を少女として擬人化させた存在-艦娘を集めて、育て。
深海棲艦という化け物(敵艦?)を相手に戦っていくというゲームだ。
奥深いところもあり、夢中になってプレイする人も多い。
まあ、かくいう俺もその1人だった訳だが。
で、いつも通りの日常を送り。
寝る前に艦これをプレイして、布団に入り。
目を覚ましたら、艦娘になってました…
いやはや、全く意味が解らない。
ひょっとしてまだ夢の中にいるんじゃないか?
そう思ってしまうくらい現実感が無くて。
とりあえず、ここに来るまでのことをざっと思い出してみる。
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
『第13工廠から連絡が入りました。間もなく完成するとのことです』
『そうか。かかった建造時間からして戦艦級か?』
『おそらくは間違いないかと』
『ふむ。では仕上がりを見に行くとするか。種類によっては直ぐ実戦投入もあり得るぞ』
『解りました。ではこちらへ―』
どこかの工場のように大勢が寄り集まって何か固い物を加工している金属音と喧噪。
その中で拡張されて聞こえてくる、電子に乗せられた音声。
電車の中で居眠りをしていたら、駅に到着した車内放送で突然起こされたような。
そんな急速に引っ張り上げられるような感触と共に、目を開けると…
そこは元の部屋とは似ても似つかぬ場所だった。
鋼鉄で組まれた幾重もの足場と、何台も配置されている重機や設備の数々。
立ち込めている油や鉄の匂い。
まるで、工場のような光景で。
けれど、これは決して現実で在り得るものではない。
なぜなら、この広大な空間のあちこちを。
童女のような姿をした、2~3頭身の生物が無数に飛び回っている。
その姿は、まるで妖精のようで。
だけど、そんなものは現実には居るはずもないのに。
そんな俺の意識を引き戻したのは、眼下から聞こえてきた声。
「ほう、金剛か」
「旧式艦ではありますが、主力に成り得る型ですよね」
…はて、金剛?
なんのこっちゃと思いつつ声の方に目を向けてみる。
そこにいたのは、軍服に身を包んだ壮年の男性の集団。
たまたま、衣装を着けているだけでなく、普段から着慣れている感がする。
それは、この集団がある職業に就いていることを示唆しているもので。
-え?
なんでこんなとこに軍人さんが?
と、そんな疑問を抱く間も無く、彼らが、固まった。
いや、硬直したと言うべきか。
「な…何だ、こいつは…?」
…
-いや、「何だ」ってあんたら。
ただ視線を向けただけじゃないすか。
どこにでもいるようなこんな平凡な男に向かって何を…
-違和感に気付いたのは、その時だった。
どうにも、身体の感触がいつもと違う。
いやにしなやかで柔らかいような…?
おまけに、いやに高い位置にいるな。
何時の間にこんなとこまで登ったんだ?
そう思い、下に視線を向けると。
足元に広がる、流線型の鋼鉄のカタチ。
それは、水の上に浮かんでいて。
その水面に映っているのは、自分とは似ても似つかぬ美少女の姿。
流線型のカタチは、いわゆる船であり。
それも、軍事装備を大量に積んだ軍艦であり。
その甲板上に立って水面に映し出されている美少女は、俺がプレイしてるゲームで見覚えがあり。
-軍艦。そして、少女。
ここから、連想されるのは…
…
……
艦これの世界で、艦娘になっちゃってるぅぅぅ!?
いやいや、そんな馬鹿な…と思いたい一方で。
その動かぬ証拠が1つある。
この広大な空間を飛び回っている童女のような姿をした生物。
まるで妖精のようだとおもったが…よく見るまでもなく、こいつら艦これの妖精さんじゃん!
おまけに、今の俺の体になってるのは-艦これの、とあるキャラのもの。
数多い艦娘のなかでも代表的な1人である金剛。
それが、今、俺になってて…
そんな混乱する思考の中でまず思ったのが…
-あ艦これ。
今の容姿への突っ込みだった。
いや、外見が金剛なんだから紛れもない美少女であるのは間違いない。
…ないのだが…
本来の金剛の魅力が全く宿ってない。
彼女の魅力は数多くあるが、その代表的なものが溌剌さと行動性だと思う。
見ているだけでこちらも元気にさせてくれるような活発性とエネルギッシュ。
-そんな彼女の特徴が、このボディには皆無なのだ。
まあ、ばっさり言ってしまえば。
――目が、死んでる。
いや、文字通り死人の目だよ、これ。
ハイライトが消えてるっていうか、瞳に光が宿ってない。
無表情無感情。
クールとか冷静とかそういう次元じゃない。
全身から漂わせる、まるでモノのような完全な無機質さ。
外見が超一級の美少女なだけに、余計にそれが際立ってる。
うん。
これじゃ、「何だ」ってドン引きされるわけだわ。
さっきから俺、色々不安とか感じてるのにまるで表情動かないし。
正直自分でもビビるね、この能面顔。
-で。いきなり軍人さん達が出て行かれて。
扉が閉められて。
船体が拘留されて。
変な機械やら妖精さんやらが拘留されている船体に取りついて。
それで、幾日かの後。
今、ぼんやりとしてる俺の目の前。
再び集まった軍人さん達は話を纏めてるようである。
「ど、どうしましょうか…?通常の金剛とは明らかに異なっていますが」
「今まで嫌というほどの艦娘に目を通してきたが…こんなモノは、見たことも聞いたことも無い」
「異常ですな、コイツは。-いや突然変異とも言うべきなのか」
「我々で御せるのかどうか…いや、そもそも本当に艦娘なのかどうかすら疑わしく思える」
「災いの元になりかねない。ここで廃棄・解体すべきでは?」
-ヲイ。
今、聞き捨てならん言葉が聞こえたんですけど。
廃棄って。解体って。
…ははは、またまた面白いご冗談を…と言いたいとこだが。
大真面目な顔で話してる軍人さん達の様子を見る限り、真剣と書いてマジである。
え。ちょ。マジすか。
目覚めたばかりでいきなり終了ってか。
コンティニューは?あ、無しですか、そうですか。
じゃあここでゲームオーバー、と。
はははは…
って冗談じゃねぇぇぇぇぇぇ!
いやいや、やめてください死んでしまいます。
土下座でも何でもやりますから!
廃棄は、解体は勘弁してぇぇぇぇぇぇ!
って内心では無様に泣き乱れてるとこなのに。
無表情金剛ちゃんの鋼鉄フェイスは全く微動だにしません。
それこそ眉1ミリすら。
ちょ、やめろって。
動け、動いてよ無表情金剛フェイス!
ここで、ここで動かなきゃ俺が死んじゃうんだ!
だから、動いてよ!
…と言っても、どこかの主人公少年でもない俺には何かの補正があるはずも無く。
相も変わらず、徹底した鉄面皮。
それを見て、ますます意見を固めていく軍人さん達。
…まあ当然である。
目の前で自分が処分されるって話をされてんのに、全くの無反応。
これで、警戒するなと言う方が無理な話だ。
-つまり。
THE・END?
「では、この艦娘については廃棄ということで-」
NOOOOOOOOOOOO!
-と、内心だけで(外見は相も変わらず微塵も動いてない)ムンクの叫びを上げた俺に、救いの手が差し伸べられたのはその時。
「お待ちください!」
入口の方から聞こえてきた叫び声と共に、1つの影が駆け込んできた。
今までの声と比べると随分若いな、と感じたけど。
その予想に違わず、入ってきた人物は俺のことを話してた集団と同じく軍服に身を包んではいるが随分と若い男性だった。
20代前半かそこらの、青年と言うべき年頃だ。
さて、奴の顔を見て。
こんな時だというのに、俺の思考に浮かんだのは。
-イケメンは、敵だ!
などというあまりにも場違いな感想だった。
いや、だってさ。マジでイケメンなんだもん。
外見だけじゃなくて、雰囲気とかそういうのも全部含めて。
主人公という概念をそのまま現実に持ってきたような。
そんな存在を目の当たりにしては。
平凡な俺としてはついつい湧き上がる嫉妬を抑えきれないというか…ねぇ?
などという俺のコンプレックス丸出しの勝手な主張など知る由も無く。
話は展開する。
入ってきた青年に対して、軍人さん達が顔を向ける
-けど、どれ1つとして青年に好意的なものは無い。
むしろ、その逆。
まるで邪魔者を見るかのような…
「少佐。君をここへ呼んだ覚えは無いが?」
集団の中でも中心に居る軍人さんから発せられた声は硬く、冷たい。
なるほど。年から考えてもそうだけど、このイケメン青年はまだ新米か。
少佐というのは提督の中では最低位の階級だ。
返答に詰まった青年に対し、軍人さん…めんどいから爺とでも呼ぶか。
爺が畳み掛けるように言葉を続ける。
「大方、艦娘の解体の場を見てしまい、後先考えずに飛び込んできた…というところかね」
その言葉に青年は口を噤む。
…って図星っすか。
お偉方が居るところに、衝動のままに突っ込むとか…ある意味すげえ。
「情にあふれた性格は相変わらず変わらないようだねえ。我々としても、あやかりたいものだよ」
侮蔑を滲ませた嫌らしい笑いを浮かべてる時点で、嘘だって言ってるようなもんだぞ爺。
「しかしね、君は艦娘に感情移入し過ぎる。人の形を取ってはいても、彼女達は兵器なんだよ。
ならば、より強くする為の手段を取ることは当然じゃないかと…」
「-お言葉ですが!」
傲然さと優位性を滲ませた爺の言葉を、青年が強い言葉で遮った。
おお、臆することなく自らの意見を言うとは…すごいぜイケメン君。
…だけど上官に反抗するって、軍という組織じゃヤバイんじゃね?
「自分とてそのことは承知しておりますし、その為に近代化改修の礎として解体される艦娘がいることも解っています」
近代化改修。
艦これの世界では重要な要素であり、ゲームの進行・攻略の為には不可欠な項目だ。
簡単に言えば-ある艦娘を強くするために、他の艦娘を…言い方は悪いが餌にするということである。
「しかし。その際にも彼女達を説得して納得してもらった上で眠りについてもらい。
そのことに感謝しつつ残った船体を礎にするのが、力を貸して貰っている者としての最低限の
礼儀だと、そう考えます」
なるほど、この世界じゃそういう方法も取れるのね。
で、爺共は無理やり解体しようとしてた訳ね。
しかし、まあ。
かっこいいじゃないかイケメンさん。
俺が女だったら惚れてるとこだぜ。
…ってあれ? 俺、今、女になってね?
「意見を聞くことなく解体に取り掛かるのは、余りにも無体が過ぎるのではないかと-」
「過ぎるというのならば君は言葉が過ぎるな、少佐」
なおも言い募ろうとした青年の言葉を、今まで話してた爺とは別の爺が遮り。
青年は再び口を閉ざす。
やっぱ、軍ってタテ社会だからね、階級にはそう逆らえないか。
「そもそも君は-」
「まあまあ、待ちたまえ」
なおも叱責を続けようとしていた爺を、先程までの爺…区別するのが疲れてきたからボス爺でいいや…ボス爺が宥める。
「我々としても、君のその姿勢には頭が下がるよ」
気味が悪いほど穏やかな声。
猫撫で声って、こういう声音のことを言うんだな。
「思えば君が再三申請してきている工廠の建設要請にも、我々は諸事情から応えられていなかったからね。丁度いい」
そして、その声のままボス爺は続ける。
その顔には冷たく、黒い笑み。
まるで格好の策略を思いついたか悪役のような…
「君に、この金剛を渡そうじゃないか」
…
……
………
…………What?
「君ならば、この艦も上手く使えると思うのだが…引き受けてくれるかね?」
呆然としてる俺のことなど無視してボス爺は話を切り出した。
(相変わらず無表情顔は全く動かないんだけれども)
しかし、ボス爺め…言葉こそ好意的だが、その裏にはイケメンさんへの明らかな害意が透けて見えるぞ。
要は自分達じゃ手に余るから押し付けようってことじゃないか。
それでイケメンさんが上手く扱えれば深海棲艦への有効な戦力になるし。
上手く扱えなければ、イケメンさんに責任を取らせることができる。
むしろ、それを望んでるのだろうか。
どうにも爺共はイケメンさんが邪魔のようだからな。
なかなかエグイ手を考える。伊達に年食ってるわけじゃないってか。
…
……
なんて、冷静に分析してる場合じゃねぇぇぇ!
ここでイケメンさんに拾ってもらえなかったら、俺、解体処分じゃんか!
「…は…」
イケメンさんも流石にすぐには対応できないようで。
視線をこちらへ向けてきた。
見れば見るほど芸術品みたいな顔だぜ。
スター俳優や芸能人みたいな…
…普段なら反射的に反感を持って見返してしまうところだが。
この状況じゃそんなことできやしない。
ってか、何とかせんと解体行きだ。
ここで拾ってもらわないと…
拾ってもらっても戦場行きは避けられないし、下手したらもっとつらい状態になるかもしれないが…
少なくとも、この場は凌げるのだ。
お願いです、イケメン提督様!
どうか、どうかこの私を拾ってください!
この通りでございます!
どうか、どうか…!
内心ガクガクブルブルの鼻水・涙まみれ。
おそらく本来の心身でここにいて、同じ立場になってたとしたら。
恥も外見も無く、見苦しいまでに土下座し、懇願してただろう。
事実、俺は心底、そう行動するつもりだった。
だが…
今の俺の体である鋼鉄金剛ちゃんが、全く動いてくれないんだ♪
俺の内心など知らないとばかりに、最初の状態から微動だにせず。
不安そうな顔も、庇護欲を掻き立てるような笑顔も全く浮かべず。
徹底して無表情顔のまま。
…終わった。
こうまで感情の動きを見せない艦娘を拾おうなどと思うだろうか。
不気味さと胡散臭さに包まれた得体が知れないような存在など、戦力として計算し難く。
むしろ、艦隊に不和を齎しかねない。
真っ当な提督なら遠慮するところだろう。丁重にお断りするのが当然の流れである。
ふ、短い生だったぜ。
辞世の句でも詠むか。
俺、俳句なんてできないけど。
「-承りました。こちらの金剛、受領させて頂きます。元帥のご厚意に感謝致します」
ふぁ?
今、ありえない言葉が聞こえたような…?
「そうか、受け取ってくれるか」
厄介者を邪魔者のところに追い払えてご満悦のボス爺の様相も、今の俺の視線には入らない。
「君ほどの能力ならば、この艦も上手く運用できるだろう。期待しているよ」
「-は!」
嫌味と恫喝も入り混じったボス爺の言葉を正面から受け止めるイケメンさんを、見ていた。
…正気デスカ?
いや、俺としても嬉しいけどさ。
こんな存在を自艦隊に迎え入れるとは…
そんな俺の視線に気付いたのか。
イケメンさんはこちらに顔を向けると。
表情を緩めて、言った。
「これからよろしくな。色々と至らない所ばかりで君にも迷惑をかけてしまうと思うけど…
頼りにしてるよ、金剛」
そう言って浮かべた笑顔は、どんなスターよりも輝いてみえて。
透き通った、優しげな笑み。
こんな顔を見せられては大抵の女性は一発で参ってしまうだろう。
普段なら、嫉妬渦巻くとこだけど。
さすがにこんな場面では湧き起こらない。
イケメンさん、アンタ、凄いよ…!
よ~し。
救ってもらったわけだし、ここは心を込めたお礼を言って。
ウインクの1つくらいはサービスしてあげちゃうぞ♪
…
……
まあ諦めざるを得ませんでしたが!
何しろ表情が全く変わらないのである。
こんな状況でウインクをしたとする。
無表情で目だけウインク…うん、逆に怖いわ。
ならせめて笑顔でも…と思ったが。
口元を綻ばせて笑顔を浮かべることもできません。
目を閉じたり、食物・飲料の摂取のために口を開けたり、等といった生理的動作については問題なくこなせるようなんだが…
感情・表情といった類の、コミュニケーションに関する能力が、全くのゼロ!
俺が心中で何を思っていようが、外面は相も変わらずの能面顔。
恩人に感謝の気持ちも伝えられないって、どうなのさ。
さすがにちょっと落ち込むぜい。
こうして暗鬱たる気持ちで、俺はイケメンさんについて行ったのであった。
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…
……
それで、今、イケメンさんの赴任地であり。
これから俺が居を置く拠点でもある鎮守府に来てるわけだが。
最初に見た時の印象は…
小っさ!ボロい!
いや、仮にも提督に預ける拠点としてこれはどうなのよ。
設備や機械の老朽化が進んでるから、作業効率が低下して通常より余計に時間が掛かる。
その1つである艦の修理にしたってドックが狭いから1艦ずつしかできない。
極め付けに、工廠が無い。
だから新しい艦娘の建造も武器の開発もできない。
ゲームの初期状態よりさらに劣悪な環境。
普通なら詰んでるぞ、コレ。
それを保たせてるあたり、イケメンさんの優秀さが解るな。
救いなのが、資源だけは大量に備蓄されていることだ。
もちろん最初からあったものではなく。
戦闘の合間に、イケメンさんと彼の艦娘である第六駆逐隊で遠征に出かけ、少しずつ貯め込んだらしい。
全くもって頭が下がる。
そうそう、ここに来てイケメンさんの艦娘である第六駆逐隊と先程対面したが。
ヒャッハー!
ロリは正義だー!
…この鋼鉄ボディに感謝する時が来るとは思わなかった。
そうでなければ、通報モノのツラを晒してただろうからな。
いえね。だってこう、しょうがないんですよ。
可愛いんだから!
可愛いは正義!
ロリ万歳!
-ま、彼女達は明らかにこちらから距離を置いてましたけどね。
俺の内心が漏れてるはずは無いから、純粋にこちらの在り様を見て警戒したんだろう。
うん、俺でもそうする。
こんな得体の知れない相手に戦場で背中を預けるなんて、御免蒙りたいよな。
で、先程イケメンさんは第六駆逐隊と一緒に鎮守府内に入ってった。
ここで待ってるように言い残して。
俺は母港に1人残されたわけである。
さ、さびしくなんか、ないんだからねっ!
…はあ。
ツンデレごっこなんてやっても気は紛れんな。
とりあえず、当面の危機は乗り越えたけど。
これから、やっていけるのか?
一体どうなってしまうのか?
そんな不安に悶々としていたところに、聞き覚えのある声が掛けられる。
「すまない、待たせたね」
振り返れば、イケメンさんとその後ろに続く第六駆逐隊の面々。
時間か。そろそろ出撃のようだ。
内心の溜息を押し殺し、立ち上がる。
正直、不安だらけだが。
まあ、やれるところまではやってみようか。
とりあえず、今回の出撃だが…
まあ心配は無いだろう。
何しろゲームでいうのならまだ序盤海域。
それほど強い敵は出てこないはずだ。
大丈夫大丈夫♪
…
……
そんな、軽い気持ちで赴いた初出撃が。
まさか、あんなことになってしまうとは…
この時の俺は、思いもしなかった。
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ここまで来ていただいた方、誠にありがとうございます。
そしてご負担をお掛けして大変申し訳ありません。
少し長くなってしまいました。途中で切っておくべきだったかな…
さらに最後の方で燃え尽きて尻切れトンボのようになってしまいました。
おまけに、今回も戦闘に行けず。一体いつになったら行くんだよという感じですね。
テンポよく、削るところは削っていかないと…反省点ばかりです。
もっと凝縮して、面白く読み易くという目標に少しでも近づけるように頑張ります!
ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございました!
皆様のお時間の足しに少しでもなりましたら幸いです。