金剛(壊)   作:拙作者

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調子乗りすぎの大嘘吐きが!の4話目投稿。
低空飛行から中々脱け出せず、です。

※やや長めです。疲れたり、気分を悪くされてしまいましたら無理せずお戻り下さい。

※今回は勘違い文は無しです。

※H26.2.8に魚雷による攻撃を被弾→被雷に訂正しました。
 ご指導、ありがとうございます。





3 鎮守府海域迎撃戦・後

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

見苦しくも当たるはずもない艦砲射撃を、こちらに向けて放ち続けている戦艦級。

 

 

既に死にぞこないの状態で悪足掻きを続けているその姿に、嘲笑が漏れる。

各所から黒煙を噴き上げ、バランスを崩している船体。

もはや満身創痍と言ってもいいその様は、艦の耐久力が大幅に低下していることを雄弁に物語っている。

恐らく、あと2、3回被雷すれば沈没する可能性が非常に高い。

 

 

 

 

つまり-

 

潜望鏡が捉えている画像を見ている深海棲艦のフラグシップ級潜水艦は、ほくそ笑んだ。

 

 

 

 

-自分達がもう一度、一斉雷撃を放てば…あのデカブツを片付けられるということだ。

 

後方を見やり、随伴艦へと指令を送る。

 

青を背景とした海中。

そこに浮かび上がっている黒い流線型。

それが、3つ。

 

-深海棲艦の精鋭潜水艦隊。

フラグシップ級を旗艦とし、エリート級を2隻護衛に付けた、少数部隊である。

 

海中に潜航できる潜水艦ならではの隠密性を活かし、情報収集や輸送経路の破壊・艦娘艦隊への奇襲などの任務を行ってきた。

 

その途上で見つけたのが、この海域。

軽い調査を行い、その情報を本拠に送信したところ。

上手く確保できれば人類に攻勢を掛ける上での良い橋頭堡になるという判断の下で、この海域への侵攻の命令が下された。

 

 

…が、それは未だに果たせていない。

この海域を哨戒している、凄まじい練度を誇る駆逐艦隊。

奴等の厳重な警戒網の前に、付け入る隙を見出せなかったからだ。

 

収集した情報を元に、幾度も部隊が送られたが…その悉くが撃退・撃沈され。

幾回かは大型艦艇も投入されたが、それでさえも退けられた。

本腰を入れた攻略も検討されたが…

沖ノ島を始めとした予断の許さぬ激戦地を各地に抱えた状態で、これ以上の負担は掛けられないとされ。

さらなる大型艦艇の派遣は見送られ、参戦するのは中型艦艇までと制限された。

 

 

 

…相変わらず、それ以後も被害は増え続けているが。

 

それを嘲笑うことはできない。

他ならぬ自分達も、侵攻できていないのだから。

 

海中から接近しようとしても、攻撃可能範囲に近づこうものなら、すぐにでも勘付かれる。

詳細な位置こそ突き止められはしないものの。

極限まで張り詰めた緊張感を押し出された警戒態勢をとられては、手の打ちようが無い。

結局、ある程度の距離を離しての観察が関の山だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、ここ最近、変わってきていた。

駆逐艦隊の動きが、少しずつ精彩を欠く様になってきたのだ。

連日のように仕掛けている波状攻撃の疲労が蓄積されてきたのだろう。

 

これは近い内にチャンスがあるのではないか…そう思っていたところの、今日という機会の到来である。

 

奴等が、でかい「お荷物」を引き連れてやってきたのだ。

 

戦艦級。

そのぎこちない動きを見るだけで、配属されて間が無いと解る。

その上、奴等自身の機動も鈍く。艦列自体が隙だらけだった。

易々と接近し-

 

 

 

 

 

 

そうして、今に至る。

 

 

随伴艦の魚雷発射態勢が整ったのを確認し。

フラグシップ級潜水艦も潜望鏡で照準を合わせる。

 

まあ。あれほどの図体を持ち、おまけに動かない相手ともなれば。

わざわざ細かな狙いを定める必要も無いが。

 

 

おまけに、奴は無謀な砲撃を放ち続け。

ご丁寧にも、こちらに情報を垂れ流し続けてくれている。

 

当たるはずも無い艦砲射撃は、しかしながら海面上に着弾した水柱という痕跡を残し。

その発射主の、さらに詳細な位置と座標を教えてくれている。

 

 

これほどの好条件下で外すことは有り得ない。

 

 

あの木偶の坊-戦艦級を沈め。

間を置かずに、その後方に庇われている駆逐艦隊の1隻を撃沈して。

既に疲労困憊の体を成している残りの3隻については、その後で十分だ。

 

 

収集した情報を元に組み立てたこの後の行動シュミレーションを瞬時の内に再確認し。

フラグシップ級潜水艦は指令を下した。

 

 

 

 

-魚雷、発射。

 

振動と爆音を海中に響かせ、3隻の潜水艦から魚雷が発射される。

吐き出された気泡によって膨らんだ白い航跡の尾を引き、突き進む3発の魚雷。

 

船体から飛び出した魚雷は、海中を攪拌しながら突き進み。

吐き出された気泡によって膨らんだ白い航跡の尾が、標的-戦艦に向かって伸びて行き-

 

 

 

 

 

 

巨大な水柱が、咲いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

自身から遠く離れた対象に、モノを当てるということは簡単なことではない。

標的の大きさと性質。

それに、自らの技術と持ち弾の性能。

こういった点を把握していなければならないからだ。

 

標的が動いていたり。

距離が離れていたり。

足場が不安定になったりといった環境条件が加わると、その難易度は上昇し。

 

加えて。

ただ当てるだけでは無く。

標的の核を撃ち抜く場合は、さらに困難性が跳ね上がる。

 

 

 

 

それを考えると、第六駆逐隊の3艦-暁・響・雷の置かれた状況は、極めて厳しいものであった。

 

敵潜水艦への爆雷攻撃。

 

ただし、その姿は海中に隠れて見えず。

海上という不安定な足場。

 

そんな悪条件の中で、一手で核を撃ち抜かねばならない。

 

ズレを生じさせぬ、狙いを定める正確性。

僅かなタイミングも逃さぬ反射性。

それらを寸分の違いもなく成さねばならず。

 

失敗すれば、次は無く。

相手からの逆襲に遭い、こちらの命運が絶たれる。

 

 

 

 

 

 

-そんな、困難極まりない場面に身を置いていながら。

 

しかし、3人の精神に焦りは無い。

 

 

艦娘として顕現して以来、幾つの修羅場を潜り抜けてきたのか。

そのために、どれだけ懸命に訓練・修練を積み重ねてきたのか。

 

提督の下で、仲間達と共に築き上げてきた、成果と実績。

 

その経験を鑑みれば、こんなところで失敗する訳がない。

 

 

 

 

 

 

-いや、失敗する訳にはいかない。

 

新たな仲間-【彼女】が、その身を張ってまで作り上げてくれたチャンス。

ここで成功させねば、【彼女】に会わせる顔が無いというものだ。

 

 

 

-爆雷を装填。

 

 

心は熱く、けれど同時に冷静に。

極限まで研ぎ澄まされた精神の中。

 

暁が、迸る内面のままに呟いた。

 

「-もう、許さない…許さないんだから…!」

 

末妹と仲間を傷付けられた憤怒を迸らせ。

揺らがぬ自信と滾る高揚感のもとで、第六駆逐隊の反撃が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

-魚雷、命中。

 

先程と同じく、前部・中部・後部。

深海棲艦精鋭潜水艦隊の放った魚雷は、いずれも狙い通りの場所に着弾した。

 

それを受け、戦艦の船体がさらに傾き-

 

 

 

 

 

 

 

-だが、沈まない。

 

損害は甚大だが、轟沈までは僅かに至らなかったようだ。

 

思わず舌打ちする。

戦艦だけあって、予想以上の強度だ。

魚雷を7発も被雷しておきながら持ち堪えるとは…

 

 

 

 

だが、大した障害では無い。

あくまで沈没の一歩手前で辛うじて踏み止まっているような、半ば死に体の状態。

首の皮一枚で繋がっているだけ。

 

魚雷を幾らか余分に消費してしまうことだけが問題だ。

 

余計な手間を掛けさせてくれた戦艦に毒吐きながら、随伴艦に再度の魚雷発射を命じようとして-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その命令が発せられることは、無かった。

 

 

 

 

ふと、彼女の耳が異音を捉える。

 

 

水中に伝わる微かな振動。

 

今までは、戦艦級から放たれていた間断無い砲撃が海面を喧しく叩き続けていたせいで気付けなかった、ごく小さな音。

それを、フラグシップ級潜水艦は確かに捉えて。

 

 

 

が。その正体に至る前に。

視界の中。海面から何かが落ちてきた。

 

 

 

 

静かに、滑るように接近してきたソレは。

潜水艦隊の直上に降下し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発した。

 

フラグシップ級潜水艦が目を見開く前で。

断末魔のように泡沫を噴き上げ。

船体を折り曲げて、左後方艦-エリート潜水艦の一隻が、沈んでいく。

 

何が起こったのか、思考が理解しきれなくて。

その為の時間も与えられはしなかった。

 

瞬きする間も無く、ほぼ同時。

同じようにして落下してきた、ソレによって。

右後方艦が同様に爆散し、泡を漏らして四散した。

 

 

ここにきて漸く、フラグシップ級潜水艦は、ソレの正体に思い至る。

 

 

 

 

考えるまでも無かった。

これは、自分達の天敵とも言える兵器である-

 

 

 

 

 

その時、彼女は。

聞き取れる筈もない何者かの声を、聴いた。

 

 

 

 

 

 

「-遅いよ」

 

直後、意識が揺らされ。

急速に視界が暗くなってゆく。

 

自分もまた、他の2艦と同じように。

放たれたソレ…爆雷を急所に喰らってしまったのだと、数瞬遅れてやってきた痛覚と共に理解した。

 

 

確かめるまでも無く、致命傷だということが解って。

 

 

 

 

 

最期の力で、フラグシップ級潜水艦は潜望鏡を使用する。

 

 

爆雷を投下されたであろう地点へと視点を向けて、捉えた海上の映像。

そこに浮かんでいるのは-後で処理すれば良いと捨て置いていた、3隻の駆逐艦。

 

その視線は、何れも寸分違わずにこちらに向けられていて。

自分達をたった今、撃沈させた攻撃を放ったのが、他ならぬ彼女達であることを物語っている。

 

 

 

 

 

 

何故-?

 

消失しつつある意識の中で浮かんできたのは、疑問。

 

 

 

 

彼女達のコンディションは酷く低下していたはず。

そんな状態で、一撃でこちらを撃沈させる攻撃を命中させるには。

よほど詳細な位置を把握していないと不可能だ。

攻撃を喰らってしまう前に、こちらから戦艦へと放った雷撃。

アレで、ある程度の位置は教えてしまったかもしれないが。

それにしても。その一撃だけでこうまで詳しい位置を把握することはできないはずだ。

 

 

 

 

 

 

…それこそ、最初から魚雷が放たれることが解っていて。

その捕捉に全力を注いでいない限りは-

 

 

 

 

-!

 

そこまで考え、フラグシップ級潜水艦は愕然とする。

 

自分達が、あと少しで撃沈できるところであった戦艦級。

 

まさか、奴は最初から攻撃されることを承知の上だったのか?

無防備な姿を晒したまま動かなかったのは-奴自身を囮にし。

こちらに攻撃を放たせ、味方に潜航位置を特定させるため。

 

足掻きのようにしか取れなかった艦砲射撃も、同様。

あえて派手な攻撃を放ち、それによって注意を自身に引き付け。

海面を叩いて噴き上げた水柱で、3隻の存在をこちらの意識から逸らすため。

 

事実。自分達は奴の派手な攻撃ばかりに気を取られ。

3隻が、爆雷投下の為に接近してきていたことに気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

味方が勝利を掴むために-

その為に、奴は。己自身を餌にしたというのか―?

 

 

 

 

自分達は、それにまんまと引っ掛かって-

 

 

 

 

 

 

 

-考えることができたのは、そこまでだった。

 

意識を消失し、船体を四散させて。

深海棲艦フラグシップ級潜水艦は沈没していく。

 

 

昏く、何者も居ない海底へと。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

深海棲艦潜水艦隊の撃沈を確認。

精鋭部隊3隻を。暁、響、雷がそれぞれ爆雷で沈めた-

そのことが、彼女達-第六駆逐隊の技量がどれだけ卓越したものなのかを証明している。

 

だが。

今、彼女達にとってはそんなことはどうでもよくて。

 

 

 

それよりも-

 

 

-周辺の海域の安全を確認すると、3人は弾かれたように船体を前進させる。

 

向かう先は1つ。

大切な末妹と、新たな仲間のところ。

 

 

海上で立ち往生している2隻の艦。

船体各所から黒煙を燻らせている様は、今にも沈んでしまいそうで。

早急に適切な処置を取らねば、沈没してしまってもおかしくない。

 

改めて確認するまでも無く、そのことを解っているからこそ。

3人は全速で行動した。

 

 

「電っ!」

 

まずは、雷が2隻の内の小さい艦-末妹の電に船体を寄せる。

 

 

 

 

魚雷の直撃を受けて外壁を突き破られた外観が、とても痛々しい。

 

 

が。

 

「ちょっと動けないけど…電は、平気なのです」

 

動力こそ潰されたものの、電は健在だった。

 

被雷の瞬間に。

今まで積み上げてきた戦闘の勘によって、咄嗟に致命傷だけは避けたのが功を奏したのだろう。

 

 

…それに。

 

 

 

 

 

 

「それより、金剛さんが…っ!」

 

…その後の追撃を、全て引き受けてくれた艦-【彼女】が、居たから。

 

 

 

 

 

 

 

2隻の内の、もう1艦-【彼女】。

その巨体は、今や目を背けたくなるような惨状の場と化していた。

 

大きく傾斜した船体。

既に幾らか海中への沈下が始まっているのか、海面に傾いている側の甲板上には、波が被さっている箇所も見受けられる。

 

加えて。

至る所から噴き上がっている黒煙と、力無く異音を響かせるだけの動力機関。

外装だけでなく内部機構にまで深刻なダメージを被った様子は、半死半生とも言うべき状態。

 

 

 

 

それは艦の本体であり、艦娘として顕現している【彼女】も同様。

身体を包んでいた衣は破け、肌は煤け、あちこちに傷が刻まれていて。

 

そんな有り様になりながらも、変わらぬ直立態勢で甲板上に立っていた【彼女】は。

電の言葉に、その顔を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

こんな時まで変わらない、固い瞳を。

この場の自分以外の4人-第六駆逐隊の面々に巡らせて。

 

全員が無事であることを、視界に収めて。

 

 

 

 

 

 

一瞬。その視線が、変化を帯びた気がした。

ただ周囲の情景を映すだけの機械的なものであった目が。

 

刹那の間、感情を灯したかのような。

 

 

 

 

視線を向けられた第六駆逐隊からすると。

 

 

 

 

自分達4人が無事であったことに対して、【彼女】が、まるで安堵しているように思えたのは…

都合よく考えすぎだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それをこの場で確認することは叶わない。

 

 

 

 

 

 

次の瞬間。

【彼女】は、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

 

 

 

「-金剛さんっ!?」

 

 

電の悲鳴にも反応する余力は無いのか。

 

壁に背を持たせ掛け。

そのまま肉体を支えきれず、力無く腰を崩し落とす。

 

表情こそ変えていないものの。

その顔色は血の気が引き、青褪めているように思える。

 

-当然だ。

艦の損傷は、顕現体である艦娘にも反映される。

これだけの損害を船体が受けている以上、【彼女】にも拭い難いダメージが刻まれているのは疑いようが無い。

 

 

 

 

 

 

だったら。

今、自分達がやるべきことは決まっている。

 

 

 

「響、金剛さんの船体の曳航準備を!雷は電を頼むわね」

 

「了解」

 

「了解よ!」

 

艦隊旗艦であり長姉である暁が手早く下した指示に、響と雷は返事を返し。

すぐさま準備に取り掛かる。

 

 

 

 

それを確認しつつ、暁は鎮守府へと通信を繋いだ。

 

 

「提督。現時刻を以って艦隊行動を終了。鎮守府に帰還するわ」

 

『…そうか』

 

青年提督からの返事が返ってくるまでの間の沈黙にあったのは。

 

-感謝と、安堵。

 

どんな武功よりも、どんな勝利よりも。

彼にとっては、艦娘達が無事で居られたということが何よりの報酬なのだろう。

 

『よく、やってくれた』

 

暖かな言葉の後、改めて気を引き締め直した声で青年提督は続けた。

 

『直ぐにドックを使えるようにしておく。…疲労でしんどいところを申し訳ないが、警戒態勢を維持したまま帰還してくれ』

 

「-了解」

 

最期にすまなさそうに気遣いを見せてくれた青年提督の声に、暁は胸に温もりを浮かべ。

振り返った次の瞬間には、自らのやるべきことに全精力を注ぎ込む。

 

 

 

 

「雷。電を支えながら、前衛をお願い」

 

「まっかせて!」

 

暁からの指示に、雷は快活に返答した。

そこにあるのは断固とした決意の意。

傷付いた末妹と仲間と共に無事に帰還する-その遂行に意識を燃やす雷は、どんな小さな異変でも見逃すことはまずあるまい。

何の問題も無く、艦隊の前衛を務めてくれるだろう。

 

 

 

 

 

それを確認すると、暁は自分のすべきことを成すべく動く。

向かう先は、新たな仲間のところ。

 

 

そこでは、既に先程の指示によって響が曳航の準備を整えていた。

【彼女】の傾斜して沈みかけた巨大な船体を、上手く支えていて。

 

近付いてきた暁を認めると、【彼女】の船体の片側を支えていた響が小さく首を振って告げた。

 

 

 

「被雷による損傷と浸水量が予想以上だ。余裕は、無い」

 

飾り気の無い率直な言葉。

的確な状況を把握しているその言葉が、現事態が切迫していることを教えてくれる。

 

 

 

 

「急ごう」

 

だからこそ放たれた言葉は短く。

けれど、そこに込められた思いは深くて強い。

 

仲間を失うわけにはいかないと。

そんな意志を秘めた瞳に頷きを返し、暁は響とは逆側-【彼女】の船体の、もう片側に回る。

自分も妹と全く同じ気持ちだ。

だからこそ、急がねば。

 

 

 

 

慎重に自身の船体を【彼女】へと接舷させる。

その振動で艦が揺れ、甲板上で力無く態勢を崩したままの【彼女】が視線を向けてきた。

 

 

 

その顔からは、今やはっきりと解るほど色が失われている。

 

時間を置くことで、より深くダメージが浸透し。身体にさらなる負荷を掛けているのだろう。

今、【彼女】は。じっとしているだけでも辛い筈だ。

 

 

 

 

 

 

…そんな疲弊しきった【彼女】を、自分達は一息吐かせもせず引っ張っていこうとしている。

 

 

 

「…ごめんなさい」

 

向けられた【彼女】の視線を、暁は心苦しさに伏せてしまいそうな顔を上げて受け止めた。

本当ならば。僅かでも休みを取り、その疲労を少しでも和らげたい。

 

だが…その時間は無い。

一刻も早く処置を施さねば、取り返しのつかないことになるのだから。

 

 

「できるだけ、負担を少なくするようにするから」

 

だから、自分達を信じて任せてほしい、と。

誠意を込めた、懇願の視線。

 

そんな暁の眼差しを受けて、【彼女】は-

 

 

 

 

 

 

 

 

間を置かずに。

小さく、けれど、しっかりと頷いた。

 

 

そこには、躊躇や不安・不満などといった類の色は全く無くて。

こちらに全てを委ねているかのような。

 

 

あまりにもあっさりとした承諾に、暁は思わず拍子抜けしそうになるが。

思い直し、苦笑する。

 

 

 

 

「(確かめるまでも、なかったわね)」

 

先程の激戦の中で、死の瀬戸際にありながら。

微塵も躊躇いを見せずに、己の命運を自分達に委ねてくるような【彼女】だ。

 

そこには、寄せてくれている信頼の大きさと。

【彼女】の、「広さ」と「大きさ」が感じ取れて。

 

 

 

そんな【彼女】が、この程度のことで駄々を捏ねるはずもなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、行きましょ」

 

軽く声を掛け、動力を稼働させる。

もう一度、軽く己の船体を揺らし、【彼女】との接舷ができているかどうかを確かめる。

 

「響、そっちは?」

 

「大丈夫だよ」

 

曳航作業の僚艦となる響にも確認を取り。

問題が無いことを確認して、出発前にもう一度呼び掛けようと【彼女】を見た暁は-

 

 

 

 

 

 

 

「(…?)」

 

 

 

目を、擦る。

今、視界に入れたものが何なのか解らなくて。

 

 

 

 

もう一度、視線を向けようとして-

 

 

 

 

 

「…暁?」

 

響から掛けられた訝しげな声に、暁の意識は現実へと向き直る。

 

 

 

「急いだ方が…」

 

「そ、そうね」

 

自分達の置かれている状況を再認識し、慌てて動力を再稼働させながら。

暁は再度、【彼女】へと視線を流す。

 

 

 

 

 

 

 

そこには、前方へと向けられている人形のような表情。

常と変らず、そこに感情という動きを感じることはできない。

 

 

「(…でも)」

 

先程、暁は見たのだ。

 

 

 

 

-【彼女】の瞳が。

ほんの僅かの時間。

陽炎のように朧げで不確かではあったが。

 

 

 

 

 

-少しだけ。揺れていた、ような…

 

 

 

 

暁と響に挟まれながら浮かべた、その揺らぎは一体何を意味するのか。

 

 

かって、物言わぬ艦船だった頃から多くの人間の目と、その動きを見てきた暁からすれば…

 

【彼女】の揺らぎは-

 

 

 

 

 

「(…戸惑ってる、のかな…?)」

 

負の感情が入り込んだものでは無く。

自身には不慣れなモノを目の当たりにし、感じ取り。

その感触に戸惑っているような…

 

 

 

 

 

 

【彼女】は。

暁と響に船体を支えられた瞬間に、一瞬、瞳を揺らした。

 

 

 

 

 

…ひょっとすると。

 

それは-仲間というものを、自分の身を通して実感できたからなのではないか。

 

 

 

 

 

艦娘として顕現して以来。

青年提督に連れ出されるまで、【彼女】は本部ドックに押し込められたままだったと聞いた。

 

そんな【彼女】に対し。

暁と響が行ってくれた、船体を支えるという心遣い。

 

-そのような、直に受ける気遣いというものは…【彼女】にとっては、未知のもので。

 

だからこそ、戸惑い。

 

 

そして。

 

-喜んで、くれているのでは…

 

 

 

その感情の動きが、微かな瞳の揺れとして現れたのでは…

 

 

 

 

 

 

 

「(…都合良く、考えすぎかしら)」

 

多分に願望が入り混じった己の推測に対して、思わず笑いそうになり。

 

でも、この推測が当たっていてほしいと。

 

そう願いながら、暁は号令を下した。

 

 

「前進全速。これより、鎮守府へ帰還するわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界の風景・光景というものは時間によって刻々とその姿を変えてゆく。

それは、この星の約7割を占める海にしても例外ではない。

 

昼間は陽の光を照り返し、青く煌めいた輝きを見せていた海原も。

太陽が西に傾き、地平線へと身を沈ませて行くに従って色彩の鮮やかさを落とし。

橙色に染まっていく大気の下で、色を失っていく。

 

 

夜という時間帯へと移り変わる狭間の、僅かな間にのみ現れる夕焼けという情景。

その朧げな斜光に照らされた岸壁に、5隻の艦艇が帰港した。

 

 

「-到着っと。電、大丈夫?」

 

「はい、なのです。何とか…」

 

まず最初に入港してきたのは、2隻の駆逐艦-雷と電。

船体を接岸させるべく、港へと少しずつ近寄っていく。

 

「-あ」

 

その途中。

岸壁へと目を向けていた雷が、顔を綻ばせた。

 

「どうしたのです…?-あ」

 

その視線を追った電も、同じく表情を緩める。

陽の光が落ちかけている岸壁に立っている人影が1つ。

 

それが誰であるかなど、第六駆逐隊の面々にとっては確認する必要も無い。

この鎮守府の最高責任者にして、自分達の主でもある-青年提督。

出撃して帰港した際には必ず出迎えてくれる、自分達の司令官。

 

その姿は、第六駆逐隊が帰投した時には必ず岸壁にある。

帰投時間がどれほど遅くなっても。

彼自身の仕事がどれだけ多忙であっても。

初陣以来、一度も欠かしたことは無い。

 

提督という立場の者としては、もう少し腰を落ち着けるべきなのかもしれない。

 

だが-自分達にとっては。

彼が出迎えてくれるということが、もはや掛け替えのない大事な時間となっているのだ。

 

戦場という過酷な場所から帰り、疲労困憊している自分達を。

青年提督は労い、気遣ってくれる。

例え、戦果が芳しくなかろうと…暖かく迎えてくれる。

疲れ切った身に、それがどれほどありがたいことか―

 

だからこそ、自分達は戦い続けることができる。

 

守るべき場所があり。

自分達を信じて待っていてくれる、大切な人がいる-

 

それを、実感できるから。

 

だから、頑張れる。

 

 

 

 

雷と電は、岸壁に接岸して甲板から地面へと降り立った。

同時に船体の実体化を解き、身に着けている艤装へと収容する。

 

艦娘は戦闘時には本体である艦艇を実体展開させ、そこに同化・顕現するが。

普段は身に纏った艤装にその情報を収納し、女性体としての姿のみで過ごす。

その状態での彼女達は、艤装が無ければ外見は人間の女性と何ら変わらない。

(最も、身体能力は人間など歯牙にもかけないものではあるが)

 

 

 

 

「-っあ」

 

そうして降り立った電が、小柄な身体をよろめかせた。

 

先の戦闘での、動力部への魚雷被雷。

無事を装ってはいても、そのダメージの深さは誤魔化せるものではない。

 

 

 

慌てて雷が支え直そうとして-

 

 

「-電っ!」

 

-それより早く。

既に駆け寄ってきていた青年提督が、崩れそうになっていた電の身体を抱き留めた。

 

 

 

 

「司令官、さん…」

 

青年提督が、自分のことを案じ、すぐ近くに居てくれる。

その事実に、電は目を細め-

 

 

 

 

-しかし、直ぐに現状に思い至る。

 

 

背中まで回されている、固くて力強い2本の腕の感触。

 

…つまり。

両腕で抱き締められているということで…

 

 

「っ!はわわわ…!」

 

電の顔が、赤く染まった。

思考が沸騰して、頬が火照る。

 

これほど直接的に接触があるだけでも恥ずかしいのに。

今の電の身体は、船体の損害を反映して服装がいくらか破れ、肌が所々露出している。

 

羞恥心の強い電にとって、この状態は判断処理能力を超えていて。

 

「(は、はずかしいよぅ…)」

 

口も震え、上手く動かない。

 

 

でも、ずっとこのままでいるわけにもいかない。

 

「し、司令官さん…」

 

懸命に言葉を紡いだその時。

すぐ近くにあった青年提督の顔が目に入った。

 

 

 

 

 

「-大丈夫か、電?」

 

そこに在るのは、電の安否を気遣う色。

 

 

 

 

「は、はい」

 

「そう、か」

 

何とか発した返事に、彼は力を抜き。

 

そうして。

 

 

 

 

 

「-よかった」

 

そう言って、頬を緩める。

 

そこには劣情などの生理的な色は一切無く。

ただひたすら、こちらを案じ、気遣ってくれている温もり。

 

 

頬の温度が、さらに上がるのを自覚しながら。

電は胸中で呟く。

 

 

 

「(ズルい、のです…)」

 

こんな顔をされては、こちらは何も言えないではないか。

ただ、ますます身体の奥から湧き上がってくる熱が高まるばかりで。

でも、それはどこか心地良くて-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(全く、もう)」

 

そんな光景にやや尖った視線を向ける、姉の雷。

彼女とて、妹の電が助かったのはこの上なく嬉しいし。

それを、主である青年提督と分かち合うことは喜ばしいことだと思う。

 

 

ただ、少しだけ。

そう、ちょびっとだけ不満があるだけなのだ。

 

 

「(私だって、いるじゃない)」

 

そう。

自分だって頑張ったのだ。

 

 

もちろん、自分だけで電を助けられた-などという甚だしい思い上がりなど微塵も持っていない。

姉2人と…それに、何より【彼女】。

仲間達が居てくれたからこそ、ここに帰ってこれた。

 

…ただ、少しだけ。

ほんのちょっとではあるが。

自分も、僅かなりともその力の一端を担ったと思うのだ。

 

だから、自分にも。

少しぐらいの労いがあってもいいのではないだろうか-

 

 

 

雷の抱いた、その小さな不安と不満は。

次の瞬間に霧散した。

 

 

 

 

「-へ?」

 

頭部に感じる、暖かな質感。

節くれ立って固く。けれど温もりを宿したこの感触が何であるか。

雷は…、いや、第六駆逐隊は触れただけで解る。

 

 

 

 

「雷も、よくやってくれたな」

 

電に浮かべていた笑顔を、今度は雷の方に向けてくれて。

髪の上に置いた掌で、優しく撫でてくれて。

 

 

 

 

 

 

…何を、焦っていたのだろうか。

 

常に自分達を気遣ってくれる彼が、労いを忘れるはずもなかった。

 

ただ、轟沈寸前の恐怖を味わわされた電を最初に労わったのであって。

だからといって雷への配慮も、疎かにするはずもなかったのに。

 

 

 

 

…限界まで疲れが溜まった中での激戦で、危うく妹を失うところだったせいだろうか。

今の自分は、ひどく過敏で不安定になっているのかもしれない。

 

 

 

 

「-ありがとう。雷」

 

-そんな雷の気持ちを汲み取ったかのように。

もう一度、青年提督は感謝の言葉を口にして。

柔らかく頭を撫でてくれる。

 

雷の、自分でも知らずに強張っていた精神を。

ゆっくりと、ほぐしてくれるかのように。

 

 

「-っ」

 

それが、気恥ずかしいような、くすぐったいような感じがして。

 

「そうそう。も~っと、私に頼っていいのよ!」

 

身に感じている嬉しさを、直ぐには感謝の言葉に繋げられなくて。

でも。

今の自分が抱いている喜びを、何とか伝えたいと、胸を張る。

 

 

青年提督へのお礼の気持ちが、少しでも伝わるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

-その一方で。

 

「(…ずるい)」

 

妹と同様の思考に至っていた。

 

 

「(私の魅力には気が付かないくせに…こういうとこは見逃さないのよね…)」

 

いつも改装が済んだ後、魅力はどうかと聞いても。

こちらの期待とはズレた答えしか返してくれないのに。

 

精神の動揺や乱れには必ず気付き。

配慮と労わりは欠かさない。

 

 

こちらの想いには気付かないのに。

優しく見守ってくれている-

 

これでは、率直に非難もできない。

ある意味、相当にタチが悪い。

 

 

「(なによ、もう…)」

 

溜息を吐きそうになりながら。

 

だけど。

そういうところも、彼らしいのかもしれない、と。

 

そう考える雷の口元は、柔らかく緩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

そんな青年提督が。

暁と響。

そして、今回の最大の功労者とも言える【彼女】を放っておけるはずもなく。

 

雷と電にしても、それは同様。

 

 

3人の眼が、同じ方向-後方に向けられる。

そこには。

今まさに入港してきた、3隻の艦影があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「(とりあえず、間に合ったか…)」

 

帰投し。船体の実体化を解きながら。

 

響は、先程まで自分の船体で支えていた【彼女】を見上げた。

 

自分達より遥かに大きな、重厚感を醸し出す船体。

その巨体は-

敵の攻撃に晒され続けた結果。今や轟沈寸前の様相を呈している。

立ち込める噴煙。大きく傾いた船体。苦悶のような異音を響かせる動力機関。

 

 

 

そんな姿は、見ているだけで痛々しくて。

 

 

 

 

 

 

-でも。間に合った。

 

その事実を噛み締め、安堵の息を吐く。

 

 

-途端。

身体が、どっと重くなる。

 

 

沈没しても可笑しくなかった【彼女】を曳航するという作業を行う中で。

己がどれほどの重圧に覆われていたのか…改めて思い知った。

 

仲間が、いつ沈んでしまうか解らないという不安は。

戦闘にも劣らぬ緊張感があって-

 

 

 

 

 

でも、無事に着けたのだ。

 

やや気を緩めながら、自分と同じく船体の実体化を解いた【彼女】に視線を移す。

 

 

この後、早急にドックへと移動し、船体を再展開した上での修復作業に入る必要がある。

そのために移動しなければならないが…

 

ひどいダメージを被っている今の【彼女】にとっては、歩くことすら重労働だろう。

 

そんな【彼女】を支えようと、近付いた響は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ふと、違和感を覚えた。

 

それは-【彼女】の浮かべている、瞳が原因。

 

 

 

 

 

 

 

船体の実体化を解いて降り立ちはしたものの。

金縛りにあったかのように足を止めている【彼女】。

 

その視線の先には…青年提督と雷、電の3人で形作っている輪。

見ているだけで互いの信頼感が伝わってくる、そんな仲。

 

 

-それを見る【彼女】の瞳は。

愁いを、色濃く映し出している。

 

 

 

 

 

 

まるで-

自分が、そこに入っていいのか、と。

自分には、相応しくない、と。

 

そう、言っているようで-

 

止まった足取りは。

【彼女】の躊躇と気後れを、雄弁に物語っているように思えて。

 

 

 

 

 

 

安心感で緩めたはずの唇を、響は無意識の内に噛み締める。

 

そんな風に、【彼女】に壁を感じさせてしまった原因は…自分達の対応の拙さに他ならない。

自分達が最初から距離を詰めなかったことが、【彼女】に躊躇いを生じさせてしまったのだ。

 

極めて不器用ではあるが確かな優しさを持つ【彼女】を、これだけ傷付けてしまった…

その結果を、まざまざと見せつけられる。

 

 

 

 

 

 

 

でも。

 

「…」

 

【彼女】を挟んで隣り合う暁。

前方でこちらを待ってくれている青年提督と雷、電。

その4人と視線で頷きを交わして、響は動いた。

 

 

暁とタイミングを合わせて【彼女】の両隣に立ち、左右から肩を貸すようにして身体を支える。

 

 

 

 

 

2人からの支えを受け。

 

 

-【彼女】は、表情を揺らした。

無表情の裏から覗いた、感情の機微。

 

 

 

 

 

…とは言っても。

目も、眉も、頬も。

目立って動いた訳では無く。

外面上は、相も変わらずの仏頂面。

 

 

 

 

-ただ。

その奥の奥には。

さざ波のように、ごく僅かな揺れ。

 

 

 

そこにあるのは、先程、暁が曳航の際に気付いたモノと同じ-戸惑い。

 

ただ、その時と異なっているのは。

支えている腕を通して伝わってくる、【彼女】の身体の強張り。

 

 

そこに感じ取れるのは-不安。

 

 

自分がこんな立場に居ていいのか。

近くに立っていていいのか。

 

そんな後ろめたさが、【彼女】の肉体を固くさせているのだろう。

 

 

 

 

 

そんなことは、余計な心配に過ぎないのに-

 

それを伝えるべく、暁は【彼女】を覗き込むようにして語りかけた。

 

「仲間を待たせるのは、レディとしては相応しくないと思うわよ」

 

感謝と歓迎の意を、言葉にして【彼女】に届けたくて。

 

 

 

【彼女】を挟んで隣に立つ響も、姉に続く。

 

「-貴女がいないと、始まらないよ」

 

2人とも、【彼女】の対して思うことは同じ。

 

 

-自分達の輪の中に加わってほしい、と。

 

それは、2人だけではなく。

この場に居る者達の総意を代弁した言葉。

 

 

青年提督と第六駆逐隊全員の思いを乗せた暁と響の言葉を受け。

 

【彼女】は-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表情を柔らかくすることも、頷きを返すこともなく。

ただ、視線を前方に据えたまま。

 

それだけで。

何の反応を返すこともない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…拒否されて、しまったのだろうか?

 

だが。

例え、そうだとしても。

【彼女】のことを「冷たい」などと言える資格は、自分達には無い。

最初、【彼女】を遠ざけていたのは自分達であり。

それを、これから仲良くしたいなど-

今更、虫が良すぎると言われても…返す言葉など無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-それこそ、余計な心配であったと証明されたのは、次の瞬間。

 

 

 

暁と響に預けられている【彼女】の両腕から力みが消え。

より確かな重みが2人の肩に圧し掛かってくる。

 

それは、【彼女】の身体が弛緩したということであり。

緊張を解いて。己の肉体を、完全に委ねたということであり。

 

 

 

つまり。

こちらを-自分達を、受け入れてくれた証。

 

 

-その事実が、たまらなく嬉しくて。

 

 

 

「さ。しっかり掴まって」

 

「無理しないで。ゆっくりで、いいさ」

 

【彼女】に付き添う暁と響の声も自然と弾み。

それをじっと待つ青年提督と雷、電の顔も綻ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

その一方で。

彼らは皆、一様に気を引き締め直していた。

 

 

自身が受けた仕打ちに何も拘らず。

何事も無くこちらを受け入れてくれた【彼女】。

 

 

 

だが、その優しさに甘えるだけでは、駄目だ。

 

 

自分達が、最初期の対応によって【彼女】を傷付けてしまったという事実は、消えないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

…起こしてしまった過ちは、無かったことにはできない。

 

 

-でも。

これからより良くしていこうと努力することはできる。

 

少しずつで、いい。

ゆっくりで、いい。

 

【彼女】に対して。

傷付けてしまった分以上に暖かく接して。

 

見せてくれた優しさを、返していこう。

護ってくれた強さに、応えられるようになろう。

 

 

 

 

今。

暁と響に支えられて歩く【彼女】の足取りのように。

それによって、全員の距離が縮まっているように。

ちょっとずつ。

でも、確実に。

 

 

 

 

新しい輪が作れる日は。

きっと、そう遠くはないから。

 

 

 

 

 

青年提督と、第六駆逐隊。

5人でずっと形作ってきた、「仲間」という輪の中に。

 

-今、【彼女】も加わって-

 

 

 

 

 

 

 

-茜色に染まった空が、そんな彼らを優しく照らしていた。

 




ここまで来ていただいた方、誠にありがとうございます。
そしてご負担をお掛けして大変申し訳ありません。

今回も反省点だらけになってしまいました。

まず最初にお詫びさせていただきます。
頂いた感想への返信でも述べさせていただきましたが、更新内容が告知した内容と異なるものになってしまいました。
前回の後書きで、後編と勘違い文を纏めて上げさせていただく予定だと述べたのですが…
私事都合により上手く纏まらなかったたため、先に後編だけを上げさせていただきました。
告知内容を私的都合で守らず、申し訳ありません。

また、今回も色々と至らない点が噴出してしまいましたが…
特に、戦闘描写が薄くなってしまいました。
迫力とスリルある戦闘を描きたかったのですが…上手くいきませんね。

まだまだ筆力不足ですが、精進を重ねて少しずつでも改善していけるように頑張りたいと思います。

次回は(というより次回こそ)勘違い文を上げさせていただきたいと思います。
おそらく、内容が色々と酷いものになるのは間違いないでしょうけれど…

ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございました!
皆様のお時間の足しに少しでもなりましたら幸いです。


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