金剛(壊)   作:拙作者

7 / 16
皆様の優しさで大復活!
…だったらいいかげんに遅延低空飛行を何とかしろや、の7話目投稿。

※やや長めです。疲れたり、気分を悪くされてしまいましたら無理せずお戻り下さい。

※今回、TS主の恋愛とまではいきませんが、それに近い傾斜の表現がほんの少し出てきます。
 苦手な方はご注意下さい。

※H26.3.19に一部加筆しました。


6 次なる舞台へ

 鼻孔から染み入ってくる潮の香り。

 かぐわしいとは到底言えない、むしろ捉えようによっては生臭さとして認識する匂い。

 けれど、それを嗅ぐと。どことなく懐古の念に駆られるのは何故だろう。

 それはきっと。匂いの持ち主が、全ての生命の母である海であるから。

 時として人に無慈悲なまでの残酷なる仕打ちを下してきながら、一方で常に人の傍に在り続けてきた、もはや欠かすことのできない存在。

 

 その母なる場所は今、人ならざる化物―深海棲艦によって侵されている。

 人と人との交流の場でもあり、海運等を通して経済の基点の1つでもあった海の姿は、今は無く。

 奴等に巣食われ、魔窟と変貌してしまっている。

 

 だから、それを取り戻さねば。

 自分達に力を貸してくれる存在―艦娘達と共に。

 例え幾年経とうとも、必ず―

 

 

「司令官?」

 

 傍らから掛けられた声に、物思いに耽っていた青年提督は意識を現実へと戻す。

 潮風が吹き抜ける艦の甲板上に、椅子を出して座っている彼の前。

 海を写し取ったかのような青い空を背景に、彼が今、搭乗している艦の艦娘―暁がこちらを覗き込んでいた。

 こちらの姿を映した瞳は、憂慮で揺れていて。

 

「…大丈夫なの?」

 

 大きな眼に浮かんでいる気遣い。

 その暖かな色に、独想によって凝り固まっていた神経が解されていく。

 

「(―全く、何時までもこの娘達に心配を掛け通しだな)」

 

 自らが戦いに身を置く意義について、改めて胸の内を再確認していたのだが。

 没頭し過ぎた余り、表情もそちらに引っ張られてしまったようだ。

 一体、自分はどんな顔をしていたのか。

 しかめっ面か、険しい顔か…

 少なくとも、暁に心配を掛けさせてしまうような表情を浮かべていたのだろう。

 …命懸けで戦ってくれている彼女達に、余計な負担まで掛けさせてどうするのか。

 自責と反省の念を込めた吐息を吐いて気分を整え直すと、青年提督は強張っていた表情を緩めて暁に向き直った。

 

「大丈夫だよ。―ありがとう、暁」

 

 何の詫びもできないが…

 せめて、こちらを気遣ってくれた暁に自分の抱く感謝と信頼を伝えたい―

 そう思うと、強張っていた顔にも、自然に笑顔を浮かべることができて。

 

「そ、そう。なら良かったわ。気遣いを忘れないレディーに感謝してよねっ」

 

 照れ隠しなのか、頬を染めて表情をそらした暁。

 そんな彼女の仕草を見て、青年提督も目を和ませる。

 時間がゆったりと流れるような、微笑ましい時間。

 

「―ずるい、です」

 

 そんな穏やかな時間を破ったのは、意外な人物だった。

 ―左手側。

 暁と距離を開け、ほぼ平行する形で航行している艦の甲板上。

 そこから此方を見つめる視線。

 柔らかに縁どられた一対の瞳―末妹の電の顔が向けられていた。

 幾分か距離が離れているため、人間の目では表情の子細までは読み取れないのだが…

 …何故だろうか。頬が膨らんでいるような気がする。

 どうしてそんな表情が想起されたのかと言えば…

 提督と艦娘達の間で繋がれている通信を介して聞こえてきた声が原因だ。

 別段、怒っている調子ではない。

 穏やかで、聞いているとこちらを和ませてくれる、いつもの声。

 ―ただ、何と言えばいいのか…若干、尖っているような…?

 

 そう感じた青年提督の想像が的外れでは無いことは、傍らの暁の様子を見れば分かる。

 

「…い、電」

 

 艦娘の視力であれば、この距離でも顔の細かなところまで掴み取れるはずだ。

 慌てている暁の様子から見るに、電は余りよろしくない表情を浮かべているのだろう。

 

「-暁お姉ちゃんばっかり司令官さんとお話しして、ずるいのです」

 

 続けて聞こえてきた電の声に、暁はますます焦りを加速させてゆく。

 

「いや、だから、その、ね…」

 

「そうよね~。まあ、今回の航海の旗艦だから司令官の近くにいるのは仕方ないけど」

 

 追撃をかけるようにして便乗してくる新たな声。

 ―右手側。

 左手側の電と対になり、暁を挟み込むようにして航行している艦の甲板上から聞こえてくる溌剌とした声は、姉妹の三女である雷の声だ。

 聞くだけでこちらにまで元気を与えてくれるその声が…今は、少し冷たさのようなものを宿しているような…?

 

「抜け駆けは、どうかと思うわ?」

 

 表情の輪郭など識別できない距離であるはずなのに。

 どうしてか、雷が笑顔を浮かべている様が、青年提督の頭の中で想像された。

 可愛らしい八重歯を覗かせた顔は、とても愛くるしいはずである…が。

  [笑顔とは、本来、攻撃的なものである]という言葉が連想される。

 青年提督の脳裏で映し出したそれは、決して大外れという訳では無かったようで。

 

「そ、そういうんじゃ、ないってばっ」

 

 顔を真っ赤にした暁が、焦りを誤魔化すためか腕を回しながら言い放つ。

 …とは言え。2人からの追及を躱すには至らず。

 

「そんなんじゃ誤魔化されないわよ?」

 

「嘘は、駄目なのです」

 

「うぐっ」

 

 逆にさらなる追及を受けて、答えに窮した。

 

「2人とも、落ち着こう」

 

 そこに、静かな声が加わった。

 ―前方。

 暁の前を航行し、艦隊の前衛を務めている艦の甲板から振り返っているのは、姉妹の次女である響。

 常に場を落ち着かせてくれる沈着な声。

 

「響…!」

 

 九死に一生を得たとばかりに瞳を光らせる暁。

 その視線を受けて、響は―

 

「申し開きには、それなりの場を用意しないと」

 

「…え」

 

 千尋の谷へ突き落す―言葉で表するなら、そんなところだろうか。

 救いどころか追撃を受けて固まる暁を余所に、響は続けた。

 

「それに、だ。後で存分に取り返せば済むことだろう?」

 

 これだけ離れているのだから、人の目では彼女の眼の様子など解るはずもないのに。

 その視線が、触れたら火傷しそうな何かを宿しているのが想像できてしまうのは何故だろう?

 そして、それは青年提督の妄想ではなかったようで。

 

「そうよね…今回の分くらい、私の魅力で直ぐに取り返してみせるわ!」

 

「―い、電の本気を、見せるのですっ…!」

 

「ち、ちょっとっ!」

 

 熱に当てられたかのように雷と電が意志を発露し。

 暁は先刻の硬直から一転して感情を噴出させるが、焦燥によって視線が定まらない。

 

 本気で仲違いをしているわけではなさそうだが…何か、彼女達の間で約束事でもあったのだろうか?

 原因として考えられるとすれば…先程、暁との間で交わした会話だ。

 その内容は、通信を通して第六駆逐隊全体に伝わっているから。

 だが…何が理由なのだろうか?

  [ずるい]―普通に会話をしていただけだった気がするのだが?

  [抜け駆け]―どこかに羨ましがる要素でもあるのだろうか?

  [取り返す]―何かを求めて、競っているのだろうか?

 ―青年提督は頭を捻るが、考えても答えは解らない。

 ただ。顔を茹蛸のようにして目を回して焦っている暁の様子を見ると流石に黙してはいられず。

 姉妹間の問題に首を突っ込むのも野暮だが…口を挟むことにした。

 

「まあ3人とも。暁は俺のことを心配してくれたんだ。余計な口出しだけど…余り追い詰めないであげてほしいな」

 

 軽い調子で柔らかく言った言葉。

 それを汲み取ってくれたのか、3人からの追及は止む。

 

「今は艦隊行動中だ。…少し気を緩め過ぎたかな」

 

「確かに。気持ちを持つのは大事だけど、時と場所を選ばなきゃいけなかったわね」

 

「そうですね。気を付けないと、なのです」

 

 元より本気で争っていたわけではないし、あくまでも戯れの範囲だったのだろう。

 青年提督からの懇願に素直に引き下がり、警戒態勢へ戻っていく。

 まあ、戯れというには些か迫真性があったようにも思えたが…

 そこに突っ込むと…なぜか、虎の尾を踏むようなイメージが湧いたので何も言わない方がいいだろう。

 

「あ、あの、司令官」

 

 と。傍らから聞こえた声に、青年提督は体を向ける。

 そこには、帽子のつばに両手を添える暁。

 目深に被ったひさしから覗く目元から頬にかけての線は、相変わらず赤く染まっていて。

 

「そのっ…助け舟出してくれて、ありがとっ。お礼はちゃんと言えるしっ」

 

 ぶっきらぼうに放たれた言葉。けれど、そこには懸命な気持ちが籠っていると解るから。

 頬が緩み、自然と身体が動いていた。

 

「なに、いつもお世話になってるからね」

 

 暁の頭部に腕を伸ばして掌を置き、帽子の上から軽く撫でる。

 布地を通して伝わってくる温もりに、心が暖かくなっていく。

 

「頭を撫で撫でしないでって、言ってるじゃない…」

 

「っとと、ごめんよ」

 

 けれど唇を尖らせた暁の言葉に慌てて手を引っ込めた。

 そう言えば常に一人前の淑女であろうとする彼女は、頭を撫でられるという行為を子供扱いされていると捉えている。

 自分としてはそんなつもりは無く、信頼と感謝を込めたスキンシップのつもりだったのだが…それを彼女にまで押し付けるわけにはいかない。

 それで迅速に腕を引っ込めたのだが…

 

「ぁ…」

 

 掌が頭上から離れた瞬間、暁が小さく声を上げる。

 その表情に、どこか名残惜しさが浮かんでいるようにも思えたが…きっと、自分が良い方向に無理やり解釈しようとしているだけだろう。

 

 これ以上、彼女に干渉してしまっては負担になってしまうかもしれない。

 そう判断し、青年提督は視線と姿勢を元の位置に戻した。

 

 

 白く大きな雲を浮かべた空の下、青く広がる大海原。

 現在は平穏な姿を見せている海の上を、4隻の駆逐艦―第六駆逐隊が進んでゆく。

 組まれた艦列は、やや特殊な形状。

 先陣を響が務め。その左後方に電、右後方に雷の2隻。

 3隻で形作られた三角形の底辺の中央に、今回の航海旗艦である暁が位置する。

 陣形としては変則的な形であるが、敢えて言うのであれば輪形陣に近いだろうか。

 動きに些かの乱れも無く、整然と航行するその姿は常と変わらないように見える…が。

 通常時とは異なる点が、2つ。

 

 まず1つが、旗艦である暁に青年提督が直接乗り込んでいること。

 提督は基本的には艦隊行動には同行せずに鎮守府にて待機し、海域に出撃した艦娘達から送られてきた映像や情報等を元に判断を下し、通信を介して彼女達に指示を出す。

 肉体を鍛錬しているとは言っても提督は脆弱な人間に過ぎず、戦場などに出れば流れ弾の1つで簡単に命を失いかねないからだ。

 故に、提督が艦娘の航海に同行するというのは重要時に限られる。

 今回の青年提督もその例に漏れず、重要な案件をこなすために第六駆逐隊に同行している。

 

 そして、もう1つが―万全とでも言うべきな彼女達の態勢だ。

 気力・耐力ともに盤石にして、一糸乱れぬ艦隊機動。

 一分の隙も見せないその様には、先日の潜水艦隊との遭遇戦時に見せた、疲労蓄積した姿は、どこにも無い。

 先刻の掛け合いを切り上げる際に、響が「気を緩め過ぎた」と言っていたが―あれはあくまでポーズであり、実際のところは警戒心は全く緩めていない。

 ―かと言って、過度に根を詰め過ぎているわけでもない。浮かべている表情にも強張りの色は無く、自然体な面持ち。

 …先程の掛け合いにしてもそうだが、彼女達がこれほどまでにリラックスして戯れ合っていたのは…いつ以来だろうか。

 無論、艦娘として顕現した当初から今に至るまで、姉妹間の固い相互信頼は微塵も揺らいでいない。

 ―が。

 補強されない戦力、際限無く湧いてくる敵。

 顕現して以来、そんな四面楚歌の中を進むうちに…いつしか、精神に疲労が蓄積され。

 互いを思い遣る心こそびくともしなかったものの、笑顔を浮かべるのにも気力を必要とするようになっていった。

 

 その4人が今、これほどまでに伸び伸びとしている。

 かと言って油断しているわけでは無く、集中力は研ぎ澄まされていて。

 実力と精神性に裏打ちされた、ほどよい緊張感と余裕。

 彼女達が、何故、このような理想的な状態になれたのかと言えば―

 

「―金剛さん、どうしてるかしら?」

 

 暁が親しみを込めて発した名前が答え。

 そう。金剛―【彼女】が、いてくれるからだ。

 

 先日の潜水艦隊との遭遇戦時。

【彼女】は、身を盾にして電を守り抜き、艦隊の勝利の為に躊躇無く己を囮にした。

 どちらの状況も自身の轟沈と隣り合わせの死地であり、事実、その一歩手前まで追い詰められ。

 それでも【彼女】は、一切の躊躇いも無く、一歩も退くこと無く。

 

 機械のような無機質な佇まいの奥に秘めた、限りない優しさと強さ。

 

 そんな【彼女】に対し、身を救われた第六駆逐隊の4人は絶大な信頼を寄せており。

 それが、安心感とゆとりを生み出している。

 そして、それは青年提督も同じ。

 潜水艦隊との遭遇戦時。もし【彼女】がいなかったら…第六駆逐隊の皆は、どうなってしまっていたか―想像するだけで身震いがしてくる。

 それだけに、4人を救ってくれた【彼女】には感謝してもし切れない。

 

 その【彼女】は、今、ここには居ない。

 今回の航海には帯同せず、鎮守府に待機しているからだ。

 その措置も、【彼女】への信頼があるからこそ。

【彼女】になら安心して後を任せられると判断したからこそ、青年提督は鎮守府を留守にできるのだし。

 帰るべき場所に【彼女】が控えてくれているからこそ、第六駆逐隊の4人は後顧の憂い無く出航できたのだ。

 

【彼女】が来てくれたことで、停滞していた状況に新しい活力が注がれたように思える。

 戦力の補充ができないことで行き詰まっていたこの先の展望にも、新たな活路が開けるのではないか―

 指揮官として、青年提督はそんな手応えを感じていた。

 

 そんな充足感に浸っていた彼は、ふと、脳裏に先程の光景を思い起こした。

 先刻、戯れ合っていた4人。その中で交わされていた、幾つかの言葉。

  [ずるい][抜け駆け][取り返す]―これらの言葉から察するに、彼女達は何かを競い合っているのだろうか?

 その解答については、結局、考えても自分は解らなかったわけだが…

 

「(聞いてみるか)」

 

 心中に芽吹いた小さな興味と共に、青年提督は表情を柔らか気に崩す。

 ただし。聞くと言っても、秘密を暴くのが目的では無い。

 この疑問については、あくまで会話のきっかけとして活用するだけであり、無理に解答を聞き出すつもりは毛頭無かった。

 新たな話題とするには丁度良いし。上手くすれば、4人をさらにリラックスさせることができるかもしれない。

 そんな気遣いを胸に、青年提督は口を開いた。

 

「大丈夫さ。金剛なら何の問題も無いよ。―ところで」

 

 暁の独り言に返し、続けて言葉を紡ぐ。

 

「4人とも、一体、何を競っているんだい?」

 

 軽い問いかけ。

 答えを強要するわけではなく。ただ、第六駆逐隊の皆の気を解したいという意で発せられた気配りの言葉。

 

「できれば俺も中に入れてほしいなあ…なんてね、ははは」

 

 場を改めて和ませるために、小さく笑いを交えて冗談を放つ。

 青年提督にあったのは、第六駆逐隊への混じり気の無い配慮だ。

 航海によって溜まった彼女達の疲労を、僅かなりとも繕うことができたら―と。

 

 ―配慮の心というものは、とても大切だ。

 ただし。状況や立場を認識していないと、狙った効果を発揮できないばかりか、逆に顰蹙を買いかねない。

 ―そう、この時の青年提督のように。

 

「(―まずい…!)」

 

 笑顔で冗談を放った直後。青年提督は、焦っていた。

 真綿で首を絞められるかのように、じわじわと思考が圧迫されていく。

 首筋ぶ伝う脂汗が、今感じている焦りの大きさを教えてくれる。

 提督に着任してからそれなりの修羅場を潜ってきたつもりでいたが…今のこの瞬間は、ある意味、そのどれよりも危機感を感じる。

 その要因となっているのが、第六駆逐隊の視線。

 4人は全員、体の向きを変えて青年提督の方を向いている。

 その眼差しを一言で言うのであれば…極寒。

 距離など関係なく、雰囲気だけで感じ取れるほどの冷たい雰囲気が、4人からは発されていて。

 

 …もしかして。自分は、とんでもない爆弾を踏み抜いてしまったのでは?

 

 首筋だけであったはずの脂汗が額からも噴き出すのを感じながら、青年提督は必死に思考を巡らす。

 自分が取った行動の、何が彼女達の不興を買ってしまったのかを。

 恐らくは、先程からの自分の一連の発言に問題があるのだと思うが―

 …ただ。いくら頭を捻っても、答えは先程の4人の戯れ合いを聞いていた時のものと同じ。

 

「(…解らない)」

 

 思わず首を傾げたくなってしまう。

 そんな彼に対し、第六駆逐隊が口を開いた。

 

「レディーの内心ぐらい、察してほしいわ」

 

「司令官は、もう少し女心を勉強すべきだね」

 

「相変わらず鈍いんだから。こんなんじゃ、駄目よ」

 

「―司令官さん…ひどいのです」

 

 機関銃のように次々と浴びせ掛けられる集中砲火の前に、青年提督は頭を下げることしかできない。

 

「…す、すまない」

 

 原因も解っていないのに謝罪するのも不実ではあるだろうが、他に対処の取りようが無かった。

 

「(まだまだ至らないところばかり、ということだな…)」

 

 頑張ってくれている第六駆逐隊の面々を労おうとして、逆に不快感を与えてしまった―

 それがひどく申し訳なくて、青年提督は肩を落としかけ…しかし、気を取り直す。

 

「(落ち込むのなんて、いつでもできるさ)」

 

 ここで立ち止まってしまってはダメだ。

 第六駆逐隊の皆の気持ちを損ねてしまった過失は取り消せない。

 ならば。その失敗を次に活かすことが、せめてもの誠意ではないだろうか。

 力を尽くしてくれている4人に相応しい提督となれるように、もっと成長しなければ―

 

 青年提督が、そう決意を新たにした時。

 

「司令官、到着だよ」

 

 通信から聞こえてきた響の声につられて顔を上げ、視線を前に向ける。

 今まで何の変哲も無かった水平線。

 その向こうに現れた陸地と、それに連なる湾岸施設。

 ―ただ。それは単なる港ではないことは一目瞭然だった。

 堅牢さと威容を以って様々な建築物が聳え立っている様は正しく要塞。

 害を成す者は決して立ち入らせぬという強固な意志を表した鉄壁の拵え。

 海の上に浮かぶ広大な構えには何隻もの船舶が停泊、あるいは出入りしている。

 深海棲艦という化け物に対する人類の拠り辺である軍港―鎮守府。

 その核の1つが、ここなのだ。

 

 外部からの通信が入ったのはその時。

 

「―ようこそ、我らが鎮守府へ」

 

 通信機から聞こえてきたのは、聞き手である此方が思わず身を正してしまうような、凛々しく力強い女性の声。

 その声の持ち主である彼女は―第六駆逐隊の前方の海上に、その巨大な船体を浮かべていた。

 堂々と佇む様は、まるでこの鎮守府の守護者のようで。

 …いや、「まるで」「ようで」といった表現は失礼だろう。

 正真正銘、彼女こそ此処の鎮守府の最高戦力なのだから。

 かって、この国の海軍の象徴でもあった戦艦長門の艦娘の1人であり。

 弛まぬ鍛錬と幾多の実戦で磨かれてきた実力は、同艦艦娘の中でも右に出る者は居ない。

 この世界に顕現している全ての艦娘の中でも、間違いなく五指に入る戦闘力を持つ実力者。

 それが、今、声を掛けてくれた彼女―この鎮守府に所属する長門だ。

 近くに寄ると、遠くからでも大きく見えていた船体の巨大さを身を以って実感できる。

 かって原体であった頃には連合艦隊の旗艦も務め、最期までこの国の誇りと共にあったその勇姿は、兵器でありながら例えようも無い荘厳さを纏っている。

 そしてそれは、艦の現身として顕現している彼女も同じ。

 引き締まった長身と、腰まで靡く長い黒髪。揺らがぬ矜持を内包する秀麗な容貌。

 清廉さと誇りを抱いたその姿は、かってこの国で戦いに身を置いていた[武士]を思わせる。

 

 けれど、今、船体を傍まで寄せてくれた彼女の顔は柔らかなもので。

 

「よく来てくれたな」

 

 小さいながらも鎮守府を預かっている青年提督に対して、艦娘である彼女は本来なら敬語を使うべきなのだろう。

 だが、掛けられたのは、何の飾り立ても装飾も無い彼女本来の言葉と口調。

 ―それは、こちらへの信頼と親情の証だ。

 自分達を信用してくれているからこそ、何のフィルターも交えずに素顔で接してくれている。

 誇り高く、気高い心の持ち主である長門が、こうまで認めてくれている―

 その事実は、青年提督に満足心と喜びを齎し、彼女への親しみを持たせてくれる。

 そしてそれは、彼の艦娘である第六駆逐隊の面々も同様。

 長門の言葉に、先程の青年提督の発言にむくれて固まっていた彼女達も顔を綻ばせる。

 

「長門さん。ごきげんよう、です」

 

 4人を代表しての暁の返礼。

 懸命な挨拶は、尊敬する相手だからこそそれに相応しい姿を見せたい、という意志の顕れ。

 

「いや、お前達も健在なようで良かったよ」

 

 長門の顔に浮かんでいるのは、微笑み。

 気取らずとも、とうに長門は彼女達-第六駆逐隊を認めている、

 それは、彼女達の主である青年提督に対しても同じ。

 

「道中、無事で何よりだ。まずは中に入って休んでくれ」

 

「すまないね。この鎮守府の旗艦である君に、わざわざ迎えに来てもらうなんて」

 

 掛けられた気遣いに返した青年提督の労い。

 それを受け、長門は表情を更に緩やかなものにする。

 

「いや、貴男が来るのだから当然のことさ。我らが主殿の言いつけでもあるしな」

 

 その言葉は。彼女からだけでは無く、彼女の主であり、この鎮守府の最高責任者でもある人物からも信頼を受けていることの証明。

 

 鎮守府の中でも要衝であるこの地を任されている提督。

 その人物から、青年提督は厚い信任を受けている。

 それ故に様々な便宜も図ってもらっており、先日、敵潜水艦を撃沈した三式爆雷投射機も、ここの提督から譲ってもらったものの1つなのだ。

 装備の譲渡等を中心として様々な便宜を図ってもらっており。

 それほどまでにお世話になっているからこそ、自ら足を運んで礼を述べたかったのだ。

 それが力不足であり、満足に謝礼もできない自分にできる最低限のことだと思ったから。援助を受ける度に、返礼の為、空いた時間を見つけては青年提督と第六駆逐隊はこの鎮守府を訪れていた。

 そうして何回も対面していく中で、ここの旗艦である長門からの信頼も確固たるものになっている。

 

 …そんな彼女だからこそ、だろうか。

 

「…ところで。彼女達は、どうしたのだ?」

 

 こちらに漂う違和感に気付いたのは。

 

 第六駆逐隊に向けられた、憂慮の視線。

 先程の青年提督との遣り取りの間に、4人が抱いた固さ。

 彼女達はそれを表に出さないようにしていたが、長門はそれを見逃さなかったらしい。

 

「え…えっと…」

 

 暁が目を伏せ、それは他の3人も同様。

 

「(俺の起こしてしまった不手際を、表に出さないようにしてくれているんだな…)」

 

 不始末をしてしまったのは自分なのに、それに対して配慮してくれる-

 そんな4人に改めて感謝の念を抱きながら、懺悔の気持ちも込めて、青年提督は口を開いた。

 

「いや…先程、ちょっと俺の配慮が足りなくてね…」

 

「―ああ。なるほど、またか」

 

 青年提督の言葉に、間髪入れずに長門は返した。

 …すぐにこちらの事情を察してくれたのはありがたいが…[また]とは何だろう?

 それに、第六駆逐隊へ向けられている同情と憐憫の視線は、一体…?

 青年提督が疑問を発する前に、長門は船体を翻して先導の態勢に移った。

 

「さあ、こっちに」

 

 そう言い、奥へ進んでいく。

 それに従って第六駆逐隊も動き出すのを感じながら、青年提督は長門の言葉に首を捻り続けていたが…一度、思考を切り替えた。

 とりあえず、今はこうして無事に目的地へ着けたことを喜ぼう。

 そうして、今回の目的である返礼が疎かにならないようにしなくては。

 …その後で、今回のことについて少し相談してみよう。

 あの人なら、きっと良いアドバイスをくれるはずだ。

 

 そうやって青年提督が計画を組み立てている一方で、第六駆逐隊は微かに視線を下げていた。

 脳裏に甦っているのは、先程の青年提督との会話。

 思い起こすと、じわじわと湧き上がってくる[後悔]という苦味が全身を巡って。

 

「(うぅ…レディーの内心くらい察してって言っちゃったけど…アレ、完全に八つ当たりよね…相手の状況も考えないで、何がレディーよ、暁のバカバカ!)」

 

「(女心を勉強すべきとは言ったが…私達の為に心身を削ってくれている司令官に対して、少しばかり我儘が過ぎたかな…Простите{ごめんなさい})」

 

「(直接伝えたわけじゃないから…鈍いも何も、気持ちが伝わらないのはしょうがないのに…こんなんじゃ駄目っていうのは、私よね…)」

 

「(相手に想いを伝えないで解ってもらおうなんて…それを押し付けようとするなんて…ひどいのは、司令官さんじゃなくて電なのです…)」

 

 互いに己を責める青年提督と第六駆逐隊。

 そんな彼らは、ふと、期せずして同じ人物に思いを馳せた。

 この場には居ないもう一人の仲間―【彼女】は、今頃どうしているだろうか、と。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 

 鎮守府からコンニチハ。

 体は女、心は男の金剛(の偽物)でっす。

 この世界で艦娘として目覚めるというワケ解らん運命(笑)を背負わされ。

 肉体である金剛さんボディが、完全に表情・感情が死んでるコミュ能力欠如状態だったり。

 いきなり廃棄解体されそうになったり、初航海で敵潜水艦にボコボコにされたり。

 まるで誰かの差し金じゃね?と思うくらいの不運に遭ってきましたが。

 お優しくて格好良いリア充死ね!のイケメン提督サマと。

 ああ、貴女達は何でそんなに可愛いのハァハァ!の第六駆逐隊の皆のお蔭で、何とか過ごせております。

 さてさて、そんなワタクシが今おりますこの場所。

 人類の防衛線にして艦娘達が籍を置く[鎮守府]―その中の1つであり、イケメン提督が預かっている拠点であり、奴の艦娘となっているワタクシの身の置き場所でもあります。

 正直、鎮守府とは思えないほど貧弱極小且つボロボロではありますが…随所に細やかな手入れが成されていて清掃も行き届いている等、この場所に対する住人の愛着が窺えます。そこはかとない温もりのようなものが感じられる…まあ、狭いながらも楽しい我が家といったところでしょうか。

 

 そんな場所ではありますが…今は閑散としております。

 イケメン提督と第六駆逐隊の皆が出かけてしまったからです。

 元より小さな鎮守府でありますので、此処での労働力は妖精さん達が担っており。

 この鎮守府で働いている人間職員は居らず。

 5人が外出している今、ワタクシ以外の人影はありません。

 

 ―つまり、だ。

 今はこの鎮守府に俺1人で留守番だぜイヤッフゥー!…ということである。

(妖精さんは除く)

 思いっきり場所を専有できる快感というのは、中々オツなものなのです。

 よっしゃぁぁぁぁ!羽を伸ばすぜぇぇぇ!

 

 …

 ……

 …とはいかないんだな、コレが。

 何故かって?それは今、俺がいる場所を見てもらえば解ると思う。

 落ち着いた色のカーペットが敷かれた床。

 鎮守府湾内を一望できる大きな窓と、それを縁取るシックな色合いのカーテン。

 空間の中央奥に備え付けられた、質実剛健な執務机と椅子。

 入口であるドアに掛けられているプレートに記されている言葉-[提督室]。

 ―うん。イケメン君の仕事部屋なんだ、ここ。

 提督という責務の重さと、それに取り組む責任と覚悟が形を取ったような―そんな部屋。

 …もやしっ子の俺にとっては、居るのすら辛い空間ですな。

 なのに、何故ここに居るかって?

 それについて説明するには、俺が今、どんな状態なのかを話した方が良いな。

 

 イケメン君が使う提督机から見て斜め前方に、まるで秘書スペースのような位置取りで置かれている机と椅子。

 そこに今、腰を下ろしている状態です。

 

 まるで秘書みたいだって?

 …「みたい」じゃなくて、秘書なんです…

 正確に言うと秘書艦ですけどね。

 秘書艦―ゲームだと基本画面に常に立ち絵が表示される存在であり、提督諸氏にとっては所有する艦娘の中でも最も身近かつお気に入りの娘ではなかろうか。

 その存在は、ゲームでは無いこの世界にもあるわけで。

 ま、人間社会でいう秘書と同じです。

 …うう。

  「美人秘書を侍らせてデヘヘ」とか、男としての夢ではあったが…まさか、自分が侍る側になってしまうとか…OH MY GOD!

 ―え?お触り?

 んなもん許さないに決まってるじゃないすか。触・即・斬ですよ。

 …とは言っても、イケメン君は無体なことなんて一切やってこないけどね。

 ―それは良い。それについては非常にありがたいし、心底感謝してる。

 

 …だけど。

 この仕事量はどういうことですかねぇ!?

 

 目の前の机の上。そこは今、紙束の海によって占拠されていた。

 右を見ても左を見ても書類の山、山、山…。

 ちっくしょう、あのイケメンヤロー…

「君になら任せられる」みたいなこと言って、大量の書類を残していきやがって…!

 目の前に積み上がった諸々の書類を、思いっきり床にぶちまけてしまいたい衝動に駆られるが…小心者の俺には、そんな度胸ありゃしません。

 できるのは内心で溜息を吐くことぐらいであります。

 

 まったく、なんでこうなったのか。

 きっかけは少し前に遡る。

 

 この世界に降り立ち、潜水艦隊を撃退した日の翌日。

 俺は、イケメン提督から秘書艦に任命された。

 イケメン君がこっそりと話してくれたところによると、そこには第六駆逐隊の皆からの提言があったようだ。

 鎮守府という場所の仕組みや一連の流れを知るには、その統括者である提督の下で補助に就く秘書艦が最適。今まで4人でローテーションで回していたこの役割を、当分の間は俺1人に任せてはどうか―という趣旨が述べられたようで。

 きっとそれは、俺を仲間として認めてくれたからで。少しでも早く任地に溶け込んでほしい、という温情からきたものだろう。

 マイエンジェルである第六駆逐隊からの好意とか、本当なら狂喜乱舞するところだが…

 この時ばかりは痛かったな。せめて戦闘以外では、のんべんだらりと過ごそうとしていた俺の目論見が、崩れ散った瞬間であった。

 しかし、これで秘書艦としての能力が低ければ、そこでお役御免で済んだんだ。

 知識も頭もパーの俺じゃ、100%そうなる未来しか見えなかったんだが…

 

 金剛さんが、荒ぶりました♪

 

 正確に言うと、やったのは俺ですけどね。

 渡された書類に目を通したら、自然と式やら言語の組み立てやらが思考の中に浮かんできて。そのまま、流れるように腕が動いてました。

 赤点常習犯の俺の頭でそんなことができるはずないから、憑代である金剛さんの頭脳によるものだろうな。

 作業の様子を見てたイケメン君が目を丸くして驚いていたほどだから、艦娘という枠の中でも破格の処理能力なんだと思う。

 金剛さん、マジぱねぇ。

 …できれば、その能力をもう少しコミュ方面に振ってほしかったぜい。

 

 うん。

 この凄まじくハイスペックな事務能力、仕事方面に極振り縛り状態なのですよ。

 具体的に言うと…筆談が、できますぇん。

 数式・数字や業務文書については簡単に書ける腕。

 その腕が、自分のキモチを書こうとすると…嘘のように止まってしまうの。

 思いを文字にすることもできないとか…シャイなんだね、金剛さんってば♪

 …

 ……

 …じゃねーよ!

 

 表情も死んでて、声も出せず。

 その上、筆談も無理とか…何このコミュ障レベルMAXボッチ縛り仕様は!?

 …泣いても、いいデスカ…?

 

 ―秘書艦にされた時。

 

「仕事は嫌だけど、これで筆談で第六駆逐隊とキャッキャッウフフできるぞ!」

 

 ―と喜んでいた俺のトキメキを返してくれ…っ!

 

 …けど。

 憤ったところで、金剛さんに八つ当たりするわけにもいかず。

 さりとて、他にぶつける相手もおらず。

 ―結局、俺が疲れちゃうだけなのである。

 

 まあ、とにかく。

 書類処理に関しては何の問題もないことが解った。

 …そこで、ある程度のところで止めときゃよかったんだが。

 自分が行う作業で、こんなに筆が進むのなんて初めてだったから舞い上がってしまい。

 たまに仕事振りを見に来てくれる第六駆逐隊の面々に良いところを見せたい、という下心も手伝って。

 思いっきり全力でやった結果―

 

 仕事くる

 ↓

 片付ける

 ↓

 イケメン君喜ぶ

 ↓

 すまなさそうにしながら、質・量がやや上の仕事を回してくる

 ↓

 片付ける

 ↓

 またイケメン君喜ぶ

 ↓

 さらにもう少しランクが上の質・量の仕事が…

 

 ―というエンドレス。なあにコレ。

 ちょっとした優等生気分と、いくらかの下心があっただけなのに…

 いささか、調子に乗り過ぎたかなあ…

 自分のやったことは自分に返ってくるって、ほんとだったんだね…

 だったら、今からでも手抜きして程々にしときゃいいって?

 いえね、その…今更引っ込みがつかないと言いますか…

 見栄とか、幻滅されるのが怖いとかそういった思惑もあるけど…

 

 ―第六駆逐隊の純真な瞳を前にして、打算を働かせることなんてできねえ!

 利己的な計算など、少女の無垢さの前には意味を成さないのである。

 

 …まあ、それに、だ。

 イケメン君の嬉しそうな顔を思い浮かべると、手抜きすることに妙な後ろめたさを感じると言いますか…

 奴には、一方ならぬ世話になってる。

 廃棄寸前のところを拾ってもらっただけではなく、ここに来てからも、だ。

 思い起こすのは先日のこと。

 鎮守府に電話が掛かってきた時、つい反射的に出てしまったんだが…俺、喋れないのよね。

 気付いたところで既に遅く。

 一切の応答もしない(できない)俺に対して、電話口の向こうの人物はひどく気を悪くされたようで。

 イケメン君がそこで代わってくれたんだが。漏れてきた声や会話から察するに、相手は海軍のお偉いさんであり。俺の対応について、相当に嫌味やら文句・お小言を言われていたらしい。

 その時はさすがに居た堪れない気持ちになったが、口も利けないので謝ることもできない。

 そんなふうに所在なさげな状態でいたら、こちらに視線を向けたイケメン君と目が合って。

 …叱責されるのを覚悟したが…奴は、すまなさそうな顔をして、言った。

 

「ごめんな、君に嫌な思いをさせて」

 

 …俺の拙い応対のせいで、元より低かった上層部からの評価を下げてしまったというのに、この対応。

 自身に不利益を被らせる原因となった相手を気遣うとか…誰にでもできることではない。

 

 奴が向けてくれた、愁いのある、けど優しげな顔を見て。

 思わず、胸がキュンと…

 

 …

 …って。

 いや!

 いやいやいや!

 してないしてない!するはずが無い!

 俺、肉体は女性だけど心は男なんだって!

 だから奴に対してドキドキなんてしてない!うん!

 

 …ふう。

 書類に囲まれてるせいか、血迷ったことを考えてしまった。

 ここは気分転換にラジオでも点けてみるか。

 第六駆逐隊の皆とイケメン君は、もうそろそろ目的地についてる頃だろうが…ちょっと心配だからなあ。

 あ、この心配ってのは深海棲艦からの襲撃に対するものじゃないよ。

 百戦錬磨の第六駆逐隊の皆が不覚を取ることなんて、ほぼありえないから。

 潜水艦隊撃破以来、何回か練習航海や艦隊内演習を重ねてきたが。その中で、彼女達の桁外れの練度はこの目で見てるからね。

 この間の潜水艦隊に襲撃されたのは、本当に最低最悪のコンディションだったからであり。

 万全の状態である今なら、フラグシップ級大型艦によって構成された重量級部隊でも来ない限りは大丈夫だろう。

 心配してるのは、天候だ。

 低気圧の接近によるスコールにでも巻き込まれたら…降雨による視界不良の中で高波が蠢く海上を航海せねばならず、負担も倍増するだろうからな。

 事前に聞いた予報だと特に問題はなさそうな感じだったけど、一応ね。

 それ、スイッチぽちっとな。

 

 ―だけど。

 いつもラジオから聞こえてくる、電波に乗った音は響かず。

 聞こえてきたのは―耳障りな、ノイズによる雑音。

 

 …はて?故障でもしたかな?昨日までは何ともなかったんだが。

 直そうにも、俺、こういう機械の取り扱いについては秀でているわけじゃないし。

 天候を確認した後、他のチャンネルに回して幾分か気を紛わせるつもりだったけど…

 聞こうとしたときに調子悪くなるとか…これは早く仕事を片付けろという啓示ですかね、チクショウ。

 …しょうがない。とりあえず、目の前に積み上がった書類の山に戻るか。

 そう考え、椅子に腰を落ち着けて書類に目を通した始めた時。

 ―大きな音を立てて、ドアが開いた。

 驚いて顔を上げた俺の視界に飛び込んできたのは…この鎮守府の陰の功労者であり、縁の下の力持ちとして欠かすことのできない住人である妖精さんの1人。

 どこか抜けていて愛嬌のあるその顔が。けれど、今は焦りに彩られていて。

 

 …この時の俺は、忘れていたのである。

 今、身を置いているこの世界において。日常や平穏とは、容易く引っ繰り返されてしまうものであることを。

 

 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 




ここまで来ていただいた方、誠にありがとうございます。
そしてご負担をお掛けして大変申し訳ありません。

まず、御礼とお詫びを申し上げさせていただきます。
前回、私のしょーもない弱音にお言葉を下さった方々、本当にありがとうございました!
そしてここまで遅くなってしまい、申し訳ありません。
この遅筆癖、なんとかしないといけませんねえ。

今回についても反省点が多々ありますが…
まず、ほとんど話を動かせませんでした。
繋ぎの話ですから、ある程度はしょうがない部分もあるのかもしれませんが…それにしても説明が多くなり過ぎて平坦すぎたかな、と。
退屈さを感じられた方がいられましたら申し訳ありません。
あとは…天使である第六駆逐隊の表現に悔いが残ります。
恋する女の子ってどうやったら上手く書けるんでしょうか(泣)。
非リア充である私には無理なんですかね、とほほ…

他にも多々至らないところがありますが…
少しでも精進を重ねて、僅かなりとも拙作の質を改善していけるように励みます!

ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございました!
皆様のお時間の足しに少しでもなりましたら幸いです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。