涼宮ハルヒコの憂鬱(キョン子シリーズ)   作:佐久間不安定

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(12)「今日はパソコン一式を入手することにした」

 ところで、高校生は、次のように分類することができると思う。部活に入っている者と部活に入っていない者。さらにくわしく、運動部に入っている者と文化系に入っている者とに分けてもいい。

 このちがいがもたらすものは何かというと、下校時間である。これまで、帰宅部であった私は、同じ立場のグッチやクニと帰っていた。三人とも電車通学で、駅からは歩きである。駅までの距離は10分ばかり。一人で帰るにはさみしい距離だ。

 私は強引に、涼宮ハルヒコの世界不思議発見部(仮)の一員にされてしまっている。しかし、部員増えたりとはいえ、女の子は私ひとりなのだ。

 朝比奈みつる先輩を加えたことは、部を活性化させることに成功しただろう。だが、それで私の一人帰りという問題が解決したことにはならない。

 登校のときは、一人でのんびり歩いても何とも思わない私だが、やはり下校が一人というのはつらい。人生の落伍者という感じがする。ならば、彼氏を持つべきか。冗談じゃない。帰り道がさみしいからといって、恋愛を持ちだすことなど許されるはずがない。

 つまり、女子ひとりの部活に入っていることが問題なのである。いくら、涼宮ハルヒコに流されてこんな展開になってしまったとはいえ、一週間以上、一人帰りに耐えられるほど私は強くない。

 そんなことを考えながら、私は文芸部室で、みつる先輩とオセロゲームをしていた。涼宮ハルヒコは、どこかに行き、何かをしている。長門ユウキにはSF小説があるが、私たちには何もない。ということで、みつる先輩はオセロセットを持ってきた。なぜ、そんなものが学校にあるのかわからないが、せっかくの好意だ。楽しませていただく。

 それにしても、みつる先輩は弱い。弟よりも弱いんじゃないかと思う。「ああ、しまった」と小声でつぶやいたり、私がしかるべき場所に置き、ひっくり返すときも「やられたなあ」と舌打ちする。その仕草が何とも愛らしい。だんだんとゲームの勝敗よりもみつる先輩の方が気になってくるぐらいである。もしかすると、これは策略かもしれないと思うぐらいだ。みつる先輩が腹黒い人間とは思いたくもないのだが。

「よっ」

 そんな緊張感のないオセロを続けていると、軽い挨拶で、涼宮ハルヒコが部室に入ってくる。

「今日はパソコン一式を入手することにした」

 まるで、パンを買いに行くかのように、なにげない口ぶりだ。

「だから、みつる、ちょっと来い」

「僕が? なんで」

「そんなのおまえの協力が必要だからに決まっている」

 なんだなんだ。毎度のことだが、彼の言っていることがよくわからない。

「ちょっと、どういうことなの? いきなり、パソコン一式とか言いだして」

「そりゃ、パソコンがなかったら部活動に不便じゃねえか」

「といっても、どこかに転がってるわけじゃないでしょうに」

「だから、こいつを借りてきたんだよ」

 そうして、彼が見せたのはデジタルカメラである。

「これをもって、今から、コンピ研に行く」

 デジカメをコンピ研に持っていくと、今ならもれなくパソコン一式プレゼント。そんなうまい話があるはずない。それに、みつる先輩を連れていく理由がどこにある?

 ちなみに、コンピ研というのは、コンピューター研究部の略称だ。この文芸部の隣にある部活である。

「ということで、キョン子。留守番よろしくな」

 そう私に言い残し、ふにおちない表情のみつる先輩とともに、涼宮ハルヒコは出ていこうとする。まちがいない。こいつはロクでもないことをしでかすつもりだ。

「ちょっと待って。私も行く」

 私の常識人としての血が騒いだ。これから起こるであろう彼の無礼なふるまいを、私は許してはならないと立ち上がったのだ。面倒なことに巻きこまれるのはイヤだが、まがりなりにも、私は涼宮ハルヒコ対策委員長である。これ以上の尊い犠牲者をださせてはならない。

「いいのか」

 めずらしく、涼宮ハルヒコは心配しているようだ。しかし、私はうなずく。女の子の私がいたら、変なことをすることはないだろう。それに、長門ユウキと二人きりになるのがイヤだったという気持ちもある。

「じゃあ、おまえ、これ撮る係な」

 そして、彼はデジカメを私に渡す。

「俺が合図をしたら、シャッターを切れ。そうそう、フラッシュたくように設定しているから、変にいじるなよ」

「いったい、何を撮る気?」

「まあまあ、すぐにわかるよ」

 涼宮ハルヒコはニヤリとほほ笑む。私とみつる先輩は首をかしげるだけである。

 こうして、我が部最初の活動「パソコン一式強奪作戦」が始まった。

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