そんなわけで、今でも、私は髪を結んで学校に通っている。
六月になっても、SOS団の活動はあいかわらずである。部室には、特に目的もなく、五人が集まり、何かをやっている。
最近の部室の変化といえば、黒板にはりつけられた写真だろう。イツキの提案で、SOS団の集合写真がベタベタと掲示されるようになったのだ。
私たちは暇なときに、学校近くの名所をたずねるハイキングを開始した。制服姿でとことこ歩いて、そこで記念写真を撮るのである。そして、それにまつわる様々な伝承を、公式サイトで発表する。もちろん、その文面を書くのは、涼宮ハルヒコひとりにゆだねられている。例の防空壕についても、不思議スポットとして紹介していたらしいが、それについての反応は一つもない。
雨の日などは、涼宮ハルヒコがパソコンのモニタをにらんで、うーんとうなっているのが、新たなSOS団の風景になっている。だが、長門くんとちがい、彼はBGMになりきれない。文章書きにつまったときは、髪の毛をかきむしり、そのあと、きまってみつる先輩が犠牲になる。二人の仲は、やはり、飼い主とペットみたいな感じだ。そのうち、みつる先輩のことを「レオ」と呼びだすかどうか不安である。
そんな人間あつかいされていないみつる先輩だが、部室を出れば、私たちの誰よりも人気者だ。最近、私とイツキの間では、みつる先輩ウォッチングが流行中である。オタクかつスーパーハッカーという影の姿を知るのは、私たちぐらいのもので、学校中でいろんな女子に声をかけられて、本人もまんざらではない様子だ。
個人的に、みつる先輩には彼女なんて作ってほしくない。だけど、イツキが相手だったら許してあげようと思う。この二人、実はかなり仲がいいのだ。たまに語るみつる先輩のオタク話に耳をかたむけているのは、SOS団でイツキぐらいのものである。
イツキにしたって、なぜかコスプレ衣装を持っていたりするし、知識の豊富なみつる先輩と組めば、オタク界に君臨できるんじゃないかと私は思うのだが、イツキにはそんな気持ちが全然ないらしい。
「今は、このままがいいんだよね」
彼女は集合写真を貼りながら言う。
「ずっと、五人のままでいられるわけじゃないんだからさ」
そうかもしれない、と思う。いつまでも、こんなことを続けるのはできないかもしれない。それでも、イツキとは友達でいたいと思う。
長門くんは今でもSF小説を指定席で読み続けている。どうやら、長門くんアタックというのは、イツキの妄想にすぎなかったようで、あの日以降、長門邸に招待されたことはない。
そうそう、SOS団結成間もなくのときに借りていた本は、結局、読まないまま返した。
「どうだった?」
そんな彼の質問に、私は答えた。
「ちょっと難しくて、よくわからなかった、かな?」
そう言うと、彼は本棚の前で、しばらく考えこみ、新たな本を持ってきた。
「これなら、いいと思う」
「いや、私ちょっと、いそがしくて」
「そうか」
私は言い訳にならない弁解をして、それを断る。長門くんには恩があるとはいえ、SF信者にはなりたくないからだ。
そんな私はといえば、最近、部室の大掃除を行った。残りの四人は、部室というものは私物をためこむところぐらいにしか思っていないため、放っておくと、日に日に美観が乱されてしまうからだ。そんな私の活躍を、我が団長は大いにほめたたえ、私を「掃除大臣」に任命した。
このように、相変わらずな我がSOS団だが、入部募集は打ち切っている。この五人で充分というのが、我が団長の意見である。
「でも、あんたの知らない優秀な人材もいるかもしれないじゃん」
「だったら、そいつが作ればいいんだよ。第二のSOS団を」
個人的に、それは勘弁してほしいと思う。ただでさえ、我がSOS団のことを、北高生はいかがわしい目で見ているのだ。こんなバカげた部は私たちだけで十分だ。
だいたい、今もSOS団は生徒会の認可を得ていない。あくまでも、部室は文芸部部室である。といっても、それで不便を感じたことはない。私は申請書類を提出するつもりはないし、ほかの四人もそのつもりはない。SOS団はこれからも北高の秘密結社であり続けるだろう。
しかし、体験談は今なお募集中である。もし、宇宙人や超能力者にまつわる面白い話があったら、北高の旧校舎一階にある文芸部室にたずねてもらいたい。放課後になれば、たいてい誰かがいる。
ドアを開ければ、物静かに本を読むメガネをかけた長門くんを見ることができるだろう。団長席で、不機嫌にキーボードをたたいている涼宮ハルヒコを見るだろう。その前でオセロやボードゲームを楽しんでいる残り三人の姿もあるだろう。一見すれば、あなたを歓迎しているようには思えないだろうが、私たちだって、おもてなしぐらいはできる。今なら、もれなく、みつる先輩のお茶もサービスしている。
そして、我らが団長は、いかなる非常識でバカげた話でも真剣に耳を傾けてくれるだろう。そして、残りの団員だって、のんびりしているように見えるが、いざというときは、それなりの活躍をするんじゃないかと思う。たぶん。
もちろん、本当に宇宙人や超能力者やその他もろもろの不思議な現象に遭遇したら、あなたにまっさきにお知らせしよう。私はあまり信じていないのだが、そのとき我が団長がどんな表情をするのか見てみたい。
だから、私はひそかに、そんな世界の不思議が、平和な我が北高に訪れることを神様に祈っているのである。かなり都合のいい願いごとだけれど。
【涼宮ハルヒコの憂鬱・終わり】
⇒涼宮ハルヒコの溜息(キョン子シリーズPart2)に続く