勝っても負けても   作:冠龍

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終わりの始まり

「悪いなカッター…ここは俺に任せてくれ。」

 

 

 

 

 

男は窓の向こうにいる友にそう言い残すと、獣臭立ち込める部屋の扉を閉め鍵をかけ、一手間の細工を施す。

重々しい扉は生物を閉じ込めこそすれ、逃がす事は決してない。これでこの場は逃げようのない監獄となった。

 

束の間の安堵。

 

―しかし四方八方から響く奴らの呻き声は、男に一時の安らぎすら許そうとしない。

 

見ると天井には既に何頭もの“悪魔(未来の捕食動物)”が張り付き、その細長く凶悪な手足を持て余しながら、こちらを用心深く探っている。

…敵か? …餌か? …それとも…。

 

ふと、周囲を見やった。何時なら奴らの射程範囲でそんな事をするのは自殺行為である。

しかし今となってはどうでも良かった。その澄んだ瞳は、先程仕留めたはずの“盗賊(ラプトル)”へと向けられた。

 

顎から滴る血にも構わず、盗賊はその鋭い眼で男を睨みつける。足先には心の芯までも凍りつかせるような殺意が滲み出た鉤爪が装填されている。言葉を解すまでもなく、その鋭い眼からは純粋なまでの殺意が感じられる。

 

 

 『…殺す。』

 

 

四方八方から声にならない殺気が向けられる。もはや助かる道はない。

それは常人なら発狂しても何ら不思議ではない程のものだった。

だが、男は何処か満足げな笑みを浮かべていた。

 

後悔はなかった。

 

 

 

 (……ありがとう。)

 

 

 

走馬灯にも似た記憶の波の中、男は仲間に感謝した。決して楽しい思い出ばかりではなかったが、それでも胸にこみ上げてくるものがあった。

 

 (…無茶はするなよ。)

 

そう思い出の中の仲間に言い残すと、男は目を閉じ、辺りの立ち込める殺気の濁流に身を任せた。

 

 

 

それから3日後、施設に送り込まれたARC(亀裂調査センター)の特殊部隊が見た光景は口にするのも憚られるような光景だった。

 

辺りに散らばる骸、壁一面に遺された爪痕…それは逃げ場のない戦場に閉じ込められた者の嘆きを如実に物語っていた。

数日前までは嫌というほど獣臭が立ち込めていたであろう施設が、今や吐き気を催すほどの鉄と腐敗の臭いに支配されている。

 

その戦場に響いた銃声はたった一発。

それは愚かな野望によって引き起こされた事件の終結を意味していた。空の薬莢が血の海を滑り、部屋全体を乾いた銃声が駆け巡っていく。

 

木霊は悲しみを込めて立ち消える。

それはまるで、異世界に連れてこられた哀れな“怪物”の呪詛のようにも、戦場に散った誇り高き“狂戦士”への弔いのようでもあった。

 

 

 

……3日前。この施設にはARCの管理担当であるオリバー·リークによって過去や未来から秘密裏に集められた生物が収容されていた。

目的は言わずとしれたARCへの反乱。そして亀裂より入手した生物を利用しての強大な軍事力の獲得。

その果てに何を求めたのかは永遠の謎である。というのも当のリーク自身すら生物の餌食となったからである。

 

愚か者は己の野望を叶えるために手に入れた禁断の兵器によって命を落とした。

 

そしてこの事件を終わらせるためにARCの亀裂調査チームメンバー、スティーブン·ハートがその身を犠牲とした。

 

こうして事件は終結をみた。

 

 

 

しかし事件の最後に本当は何が起きたのか知る者は少ない。

 

かのリークによって集められた生物達は、たった2人の犠牲。その僅かな血肉では満足するはずがなかった。

彼らは互いの血を、互いの肉を、そして互いの死を望んだのである。

 

ある者は魔剣と称された牙を剥き、

 

ある者は背の棘を逆立て、

 

ある者は鱗を逆立て双剣を構えた。

 

ある者は猛毒の大顎(アギト)を広げ、

 

ある者は外殻を震わせて殺意を示し、

 

ある者は巨体を震わせた。

 

 

 

 

 

逃げ場のない戦場。

勝っても負けても…やって来るのは、

 

 

 

 

 

(絶滅)

悪魔(未来の捕食動物)

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