軽食を得たラプトルが収容部屋を離脱した直後、コウモリ達が攻撃を開始した。合計4頭もの『切り裂き魔』がラプトルのシックルクローにも匹敵する程の爪を両腕に携え、負傷したスクトサウルスに集中砲火を始めた。スクトサウルスの背中は硬い装甲で覆われているため並の攻撃では文字通り歯が立たない。しかしコウモリ達はスクトサウルスと戦う前に鎧の存在を知っていた。彼らは先の戦いを見物している間に超音波を用いてスクトサウルスの肉質を探っていた。その結果コウモリ達は狙うべきポイント。つまり弱点を正確に探り当てていた。
予想外の速攻にスクトサウルスが反応できないのをいい事に、コウモリ達はスクトサウルスの全身を切り刻んでいく。喉、脇腹、膝裏。…果ては硬い装甲の隙間をピンポイントに狙って背中まで抉っていく。砕けた鎧が飛び散る中で一方的な戦いが続く。スクトサウルスの体からは滝のように血が吹き出していく。それでもスクトサウルスは黙って蹂躪されるだけだった。敵は檻の支柱や地面、果ては壁までもを足場として部屋を縦横無尽に動き回ってスクトサウルスを翻弄している。迂闊に反撃しようものなら強烈なカウンターを食らってしまうだろう。劣勢に追い込まれたスクトサウルスに致命傷を与えるべく、堪え性の無い1頭が獲物の喉元に喰らいついた。円錐形の牙が柔らかな皮膚に食い込み気管を食い破ろうとする。
だがコウモリが喉に喰らいついた途端、一帯にスクトサウルスの咆哮が響き渡った。部屋中を反響、増幅されたことで咆哮は『音の壁』となり、コウモリ達の繊細な聴覚と脳を揺さぶる。行動の全てを音に頼るコウモリ達にとって最悪の攻撃。脳内に混乱の波が押し寄せ、彼らは全く動けなくなった。とりわけ喉元の1頭は、咆哮を至近距離で食らったため一時的なショック状態に陥り、身動き一つ取れなくなってしまった。
途端にスクトサウルスの怒涛の反撃が開始された。まずはショック状態の1頭を振り落としてから踏み潰す。数トンもの肉塊に押し潰されたコウモリは断末魔を上げる暇もなく絶命した。
生々しい音によって仲間の死を悟ったコウモリ達が急いでスクトサウルスから離れようとするも、慌てた1頭が壁ではなく檻の支柱に避難しようとするのをスクトサウルスは見逃さなかった。今度は倒れ込むようにして自身と支柱の間にコウモリを挟み込んで敵の背骨を粉々に砕く。哀れな切り裂き魔は死に物狂いになって抜け出そうとするが、背骨を粉砕された後では無駄な足掻きにしかならない。やがて5分と保たずに体の穴という穴から血を吹き出して息絶えた。
ようやく痩せた害獣に一矢報いたスクトサウルスだったが、2頭の処理に時間をかけすぎていた。荒い息と共に天井を見上げると、先程を凌ぐ数のコウモリ達が仲間の仇を討とうと集まっていた。
初回の戦闘をくぐり抜けた2頭にとってスクトサウルスはもはや『餌』ではなく、排除すべき『敵』として認識されていた。眼下の敵に一切の反撃を許さず、冷たい血と肉の塊はと作り変える。この敵だけは直接息の根を止めなければ気が収まらない。そうでもなければ積み重なった怒りと憎しみによって2頭の精神は自壊してしまうのは目に見えている。そうして生き残りの2頭は激情のままに同族を呼び集め、血に染まった双腕を再びスクトサウルスへと向けた。
文字通りの復讐鬼と化した2頭を先頭に、総勢8頭もの切り裂き魔が一斉に手負いのスクトサウルスへ群がった。2頭にとっては復讐だが、残る6頭にとっては遊びのようなもの。先程まではもっと楽で面白い獲物を相手にしていたが、仲間の救援要請があっては仕方がない。幸いスクトサウルスは先程までの戦闘で衰弱しているので数分とかからずに終わるだろう。
加勢には来たものの、面倒事に巻き込まれたコウモリ達の士気は決して高いとは言い難い。容赦なく鉤爪を振り回す2頭に任せておけば貴重な体力を浪費せずとも元の戦場に帰還できるだろう。と高をくくり、ふざけ半分で蹂躪に参加した。
一方でスクトサウルスは再び窮地に追い込まれていた。疲弊しているため先刻のような咆哮は使えそうにない。一度きりの大技を発動させた今、切り札は失われたも同然だった。一方的な戦いの中で自身の命の証たる血液が飛び散っていく。部屋全体が朱に染まっていくのを黙って見ている事しか出来ない。やがて左後ろ足の腱を切断されたことでスクトサウルスは崩れ込み、無防備な腹部をこれでもかと曝け出してしまった。
これにより後から参戦したコウモリ達も本格的に攻撃に加わった。格好の的があるのだから遊ばずに帰る手はない。最大の弱点へ殺到すると両腕の鉤爪を総動員して剥き出しの腹を攻撃していく。やがて主要な内蔵までも抉られたのか、スクトサウルスは滝のように血を吐き出し始めた。
内臓の半分以上を潰し掻き回された頃には、スクトサウルスは完全な沈黙状態に陥っていた。反撃はおろか逃げることも出来ず、ただただ死を待つだけ。こうなると異常な程に頑強な肉体が恨めしい。もはや四肢すら満足に動かせないのに意識だけは鮮明だった。苦痛の嵐に身を委ね続けるスクトサウルス。だが彼を彼たらしめているもの。…その施設随一の巨体が最期の足掻きとなってコウモリ達に牙を剝いた。
狂乱の宴に浸ったコウモリの鉤爪が偶然にもスクトサウルスの右前足を掠めた。幸か不幸か鉤爪は右前足の腱を的確に切断してしまった。その瞬間スクトサウルスが再び体勢を崩し、重力に任せて床へ倒れ込む。腹部に群がっていたコウモリ達は数トンもの巨体と床に挟まれ、新たに2頭が下敷きとなって絶命した。そして犠牲となったコウモリ達の痙攣が止む頃にはスクトサウルスも遂に息絶えていた。
この戦いは最終的にコウモリが勝利したが、その代償は高くついた。
たった1頭の敵を殺すために4頭もの仲間が犠牲となり、更には2頭が最期の足掻きに巻き込まれて負傷していた。今度も戦闘をくぐり抜けた2頭は甘美な復讐の余韻に浸っているが、残る4頭は遊びも同然の仕事で仲間を失ってしまった。内2頭は大して体力を消費せずに済んだが、残る2頭の負傷は軽視出来るものではない。それでも彼らは沸き起こる殺戮の衝動に突き動かされて行動を開始した。生き残り6頭が2頭ずつ三手に別れる。歴戦の2頭は収容部屋から右手の通路へ向かい、負傷した2頭は体力の回復を目的にスクトサウルスの肉に舌鼓を打った。
そして負傷せず体力の温存に成功した2頭は、内に秘めた目的のために動き始めた。他の個体が各々の行動に集中したのを確認すると、壁を駆け上って錆びついた換気扇を破壊した。その先には空気を供給するための太い配管が口を開けている。これに計画の成功を予見した2頭は、躊躇う事なく配管の奥へと進んでいった。
コウモリ達が知る由もない事だが、部屋から右側にはロッカールームへと向かう通路。左側の通路は臨時倉庫に繋がっていた。
そして右側には争う巨蟲、シルル紀のサソリと石炭紀アースロプレウラ。数メートルの蟲が死闘を繰り広げる様は正に地獄絵図だが、右へ進軍した2頭はある意味幸運だったと言える。
誰も通ることのない左の通路。その先には正真正銘最悪の戦場が広がっていた。
《生存》
ラプトル…2体
スミロドン…2体
サソリ…2体
アースロプレウラ…2体
水生霊長類…1体
スクトサウルス…1体
未来の捕食動物…16体
人間…2人
《死亡》
未来の捕食動物1体…カッターにより殺害
オリバー·リーク…未来の捕食動物により殺害
スティーブン·ハート…スミロドンにより殺害
デリック·バートン(リークの部下)…カミン·シャスにより射殺
カミン·シャス…未来の捕食動物により殺害
ドレイク·ジーン…アースロプレウラにより殺害
未来の捕食動物…???により殺害
未来の捕食動物(コウモリ)…アースロプレウラにより殺害
未来の捕食動物(コウモリ)×3…サソリにより殺害
水棲霊長類…サソリにより殺害
スクトサウルス…コウモリにより殺害
未来の捕食動物(コウモリ)×4…スクトサウルスにより殺害