勝っても負けても   作:冠龍

14 / 30








矜持

 この時点で施設内では主に2箇所が主戦場となっていた。一つ目は倉庫、ニつ目はサソリとアースロプレウラが対峙する通路だった。どちらも地獄と呼んで差し支えない光景が展開されていたが、その中で『主役』として暴れまわっていたのがサソリだった。倉庫内では2頭のコウモリを相手に捕脚をフル稼働させ、隙を伺うスミロドンやラプトルには鞭のような尻尾を振り回して威嚇する。そして通路でも巨蟲同士の因縁の対決が始まろうとしていた。

 

アースロプレウラにとってサソリは憎むべき敵だった。それは先祖の記憶に起因するもの ――かつて彼らの先祖は荒涼としたシルル紀の砂漠でサソリ達に日夜追われていた。せいぜい1m程度の祖先達では、最大では10mを超えるサソリ達に敵うはずがない。絶対的な強者のテリトリーで彼らは逃げ続けるしかなかった。

 

だが今は違う。3mを超える身体を手に入れ、ナイフのような大顎を装備し、巨大生物あるまじき俊敏性を獲得している。シルル紀から石炭紀にかけて延々と続いた進化は、ちっぽけなヤスデを明らかな強者へと創り変えていた。

しかし運命の悪戯か、アースロプレウラが力を手に入れた時には仇敵たるサソリ達はシルル紀の砂漠に取り残され死に絶えていた。その顎(あぎと)は宿敵の血を浴びることなく無為に他者へと向けられ、この個体も幾度となく石炭紀の沼地で他者を屠ってきた。…それでも一族が持つ鎧武者への憎悪は彼のDNAの奥底に刻み込まれていた。

 

 

 

そして今、アースロプレウラはサソリが対峙した。シルル紀と石炭紀の覇者が顔を合わせるなど通常ではありえない状況。それでも彼は直感的に眼前の生物が一族の宿敵であることを理解した。

 

ならばどうする…? 答えは彼の行動が示していた。

 

電光石火の攻撃がサソリを襲う。通常サソリは振動で獲物を感知し行動するが、それはアースロプレウラ相手では後手に回ることを意味した。右の捕脚が敵の胴を捕えるよりも早く、左の捕脚に激痛が走った。攻撃を掻い潜ったアースロプレウラは敵の武器へ正確に噛み付く。コウモリとの戦闘で既にボロボロになっていた外骨格が脆くも砕け、軟体部が露わになるやアースロプレウラは傷口に毒針を突き刺した。

 

新たに鋭い痛みと何かが体内へ入り込む違和感を感じたサソリは、咄嗟に右捕脚を切り離す。この行動は『自切』といい現代でも多くの生物が行う防衛手段だが、サソリはこれを反撃に活用した。切り離された右捕脚が激しく悶えアースロプレウラの気をそらした隙に、残る左捕脚を使って敵を滅多打ちにする。凄まじい乱打を受けたアースロプレウラは血反吐を吐きながら壁に叩きつけられるが、壁はアースロプレウラのホームグラウンドだった。無数の歩脚を使って壁に張り付いたアースロプレウラは、敵の捕脚が届かない場所へ滑り込むと長い身体を活かして一方的に攻撃し始めた。

硬い頭部を重りにして全身を針金のように撓らせると、無防備なサソリの背中を何度も打ち付け叩きのめす。大顎が背中を掠めていく度に、コウモリとの死闘でヒビ割れていた背中の外骨格が破片になって四散する。サソリも鞭状の尻尾や腕を無我夢中で振り回すが、アースロプレウラは構わず攻撃を続ける。

 

やがてサソリが膝を付き、鎧武者が沈黙した。まだ致命傷は負っていないはずだが、先の戦闘の影響で体力を使い果たしてしまったらしい。宿敵を倒したアースロプレウラは勝ち誇るかのように顎を鳴らし、サソリの背中へ降り立った。数千万年に及ぶ宿命の対決は石炭紀の覇者に軍配が上がった。 ――はずだった。

 

 

 

直後にサソリが再起動した。節足動物特有の打たれ強さを甘く見たアースロプレウラは予想外の反撃を受ける。急角度に曲がった捕脚がアースロプレウラの胴体を的確に捕らえると床に引きずり降ろし、容赦なく挟み潰そうとする。先程まではスピードの対決だったが今や戦いは肉弾戦と化していた。こうなると頑強なサソリが圧倒的な優位に立った。今度はアースロプレウラの外骨格が軋む番になり、細長い胴が悲鳴を上げながらヒビ割れていく。こちらもコウモリとの戦闘で負傷していた箇所が真っ先に砕かれていくが、アースロプレウラも黙って降伏はしない。

 

まだ動かせる上半身を相手の胴体へ伸ばして脇腹へ噛み付き、そこを起点に大蛇のように巻き付いてサソリを締め上げ始めた。サソリには到底真似出来ない芸当だが、これは相手に対して無防備な腹を剥き出しにする博打でもある。敵の捕脚が胴を真っ二つにするのが早いか、それとも自身の怪力が相手を締め潰すのが早いか… 

 

限界を超えた両者の外骨格が軋み合い、騒音が偶然にも収容部屋から出て来たコウモリ達を呼び寄せた。2頭は巨蟲の動きを遠巻きに観察し、あわよくば両者の共倒れを望んだ。そしてコウモリの願望は半ば実現されることになった。

壮絶な死闘の果てに再びサソリが沈黙した。関節部から黄土色の体液が滴り床を汚していく。一方のアースロプレウラもサソリの拘束から抜け出す力は残っていない。もはや骸同然の巨蟲を始末しようとコウモリ達が近づくが、気丈にもアースロプレウラが抵抗した。

巻き付きを解除すると上半身だけでコウモリ達に向き直り、そして背筋も凍るような金切り声を上げて襲いかかるコウモリ達を何度も跳ね返していく。右、左、と頭を振り回して懸命に抗うアースロプレウラだが2対1では敗色は濃厚だった。一方でコウモリ達は序盤こそ跳ね返されていたが、やがてコツを掴んだのかタイミング良く攻撃を躱したかと思うと反撃を仕掛け始める。やがて一方的な連撃が始まり、為す術もなく上半身を抉られたアースロプレウラは遂にコウモリ達に屈した。もはや動けなくなったアースロプレウラに興味をなくしたコウモリ達は、次の獲物を探して再び施設内を徘徊し始めた。

 

だが彼らはその直後、ある異変に気づいた。

この場に心拍が4つある。2つは自分達、1つは瀕死のアースロプレウラ、そして最後の心拍は…後方から聞こえた。

 

瞬間的に回避行動をとったコウモリ達は投げ飛ばされたアースロプレウラには目もくれず、後方の敵を探る。それは力尽きたはずのサソリだった。

 

実はアースロプレウラがサソリに巻き付いた時から、事は全てサソリの掌の上で進んでいた。アースロプレウラもコウモリ達も役者としてサソリにとって最適な状況を創り出すために踊らされていたに過ぎない。アースロプレウラの巻き付きが思いの外危険だったためサソリは意図的に死んだふりをして攻撃をやり過ごすことにした。その後疲弊していたアースロプレウラはトドメを刺す暇もなくコウモリ達との戦闘に突入し、やがて力尽きた。そしてコウモリ達は油断し自身に背中を向けてしまっている。

直後にコウモリ達を嘲笑うかのような奇声と共にサソリが突撃した。片方だけになった捕脚を振り回して1頭を弾き飛ばし、距離を取った2頭目には倒れたのアースロプレウラを再び投げ飛ばして攻撃する。無茶苦茶な戦法を前にコウモリ達は動揺したが、彼らも先程まで巨竜スクトサウルスとの激戦を潜り抜けた強者。投擲を躱すと風を切るような速さでサソリの捕脚にしがみつき、片方が捕脚を封じている間に跳ね飛ばされた一頭が体制を立て直して襲いかかった。鞭状の腕を掻い潜りサソリの頭部に爪を突き刺して無理やり引き裂こうとする。それでもサソリは止まらず突進してコウモリ2頭を押し返していく。

 

 

 

こんな正気の沙汰とは思えない光景が展開される中でもアースロプレウラの意識だけはハッキリとしていた。全身の力が失われ立ち上がることすら出来ないが、壮絶な闘争の様子だけは嫌でも目に飛び込んでくる… 

 

不意に悔しさが滲み出てきた。節足動物は基本的に感情を持たないとされているが、このアースロプレウラは確かに悔しさを噛み締めていた。 ――ようやく復讐を遂げられたと思ったのに、いつの間にかサソリは息を吹き返して闘争に明け暮れ、そして自分は倒れ死の淵にいる…

ここで倒れる訳にはいかない。例え助からない命だとしても一族の屈辱を叩き返し、復讐を成し遂げるまでは死ねなかった。

 

 

アースロプレウラは身体を崩壊させながら立ち上がった。僅かに動いただけでヒビ割れから体液が漏れ出るが、お構いなしにサソリへ突進する。あまりの気迫を前にコウモリ達は飛び退くが、サソリは止まらず突っ込んだ。衝撃が両者の身体を駆け巡り、ただでさえ崩壊しかけていたアースロプレウラの肉体を破壊していく。それでもアースロプレウラは執念からかサソリの頭部に喰らい付いた。今度こそ研ぎ澄まされた大顎が軟体部にまで達し、サソリの口器を粉砕する。そして満を持して発射された毒針がサソリの頭部へ侵入し毒液を流し込んだ。サソリは必死の抵抗で次々とアースロプレウラの体節を砕き割っていくが、もはや痛覚を捨てたアースロプレウラに効く道理はなかった。

サソリがようやくアースロプレウラの顎をもぎ取った頃には、既に全身に毒が全身に回りつつあった。全身が麻痺し急速に動かせなくなっていく。サソリの耐久力を以てしても残された時間は数分といったところだろう。しかしサソリは『最期の晩餐』に取り掛かることにした。目標は前方のコウモリ2頭。こうしてサソリの最期の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

《生存》

 

ラプトル…2体 

スミロドン…2体

サソリ…2体

アースロプレウラ…1体

水生霊長類…1体

スクトサウルス…1体

未来の捕食動物(コウモリ)…14体

人間…2人

 

 

 

《死亡》

 

未来の捕食動物1体…カッターにより殺害

 

オリバー·リーク…未来の捕食動物により殺害

 

スティーブン·ハート…スミロドンにより殺害

 

デリック·バートン(リークの部下)…カミン·シャスにより射殺

 

未来の捕食動物…???により殺害

 

カミン·シャス…未来の捕食動物により殺害

 

ドレイク·ジーン…アースロプレウラにより殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)…アースロプレウラにより殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)×3…サソリにより殺害

 

水棲霊長類…サソリにより殺害

 

スクトサウルス…コウモリにより殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)×4…スクトサウルスにより殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)…水棲霊長類により殺害

 

アースロプレウラ…コウモリによって殺害 

 

未来の捕食動物(コウモリ)…ラプトルにより殺害

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。