勝っても負けても   作:冠龍

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竜と獣

 通路で死を控えたサソリが最後の戦いに身を投じている頃、倉庫内では未だに激戦が続いていた。その主役は依然としてシルル紀のサソリ。負傷したコウモリを肘打ちで弾き飛ばし、背後から迫る新手を尻尾で迎撃する。更にはコウモリ2頭の同時攻撃すら体当たりで威力を相殺して痛手を最小限に食い止める。節足動物であるサソリは、脳の司令に頼らずとも全身の反射を元に動けるため、一切の無駄のない立ち回りが可能だった。

 

そんなサソリを密かに利用していた者がいた。

 

無双状態のサソリの奥。ただ一頭で戦いの行方を達観していたのは水棲霊長類だった。

彼は仮にも霊長類の末裔である。強かさにおいてコウモリにも引けを取らない。荒れ狂う鎧武者を格好の弾除けとして利用し、機が熟すのを待っていた。物音さえ立てなければサソリとコウモリ達は勝手に戦って消耗してくれる。どちらも鈍重な水棲霊長類が単独で仕留められる相手ではないため、両者が潰し合ってくれるのが一番手っ取り早い。そして不安材料となるラプトル2頭とスミロドンは、倉庫の反対側でコウモリ数頭を巻き込んだ乱戦に突入しているため、警戒を怠らなければ何ら問題はない。そして最後の1頭が決まったところで悠々と這い進み、瀕死の勝者を押し潰して殺す。

漁夫の利を目論んだ水棲霊長類は、慌てることなく観戦を続けていた。

 

その倉庫の奥で展開されている戦いを優位に進めていたのはラプトル達だった。片方は決して万全とは言えない状態だが、いかんせん乱入してきた2頭目が強い。常にもう1頭の背中に陣取って死角を無くし、不用意に近付く相手がいれば問答無用で蹴りを叩き込んでいく。特に仲間の肩を砕いたスミロドンには並々ならぬ怒りが向けられていた。

 

しかしスミロドンもあとひと押しでラプトルの片割れを倒せる状況にあった。コウモリだと抱え込んで切り裂くか、乱打に持ち込む。もしくは柔軟な腕を使って絞め技に持ち込むことで相手を仕留められるが、それでは全身武器のラプトルには即効性に欠けていた。

だがスミロドンは違う。上顎のサーベルはもちろん、前腕の一撃だけでも相手を即死させることが出来る。現在の大型ネコ科動物ですら大型レイヨウの首を一撃でへし折れるが、スミロドンは彼らよりも数段重々しい前足を備えている。かつて新生代の南北アメリカで北はマンモス、南はオオナマケモノ、と並み居る巨獣を殴り倒してきた豪腕ならば、弱ったラプトルを一撃で仕留めるのは朝飯前だった。

 

スミロドンが再び牙を剥くのに合わせて、肩を砕かれたラプトルが体表の棘を逆立てて威嚇する。甲高い叫び声が周囲のコウモリ達の注意を惹くが、コウモリ達も太古の支配者同士の決闘に乱入すれば無事では済まないことを理解し、包囲したまま成り行きに任せた。

 

相棒に背後を任せたラプトルがスミロドンに正面から襲いかかる。そのスピードは明らかにスミロドンを上回った。だがスミロドンにとって接近戦は十八番。余裕で迎撃体制を整えると、四肢に力を蓄えてラプトルが射程距離に入るのを待ち構える。

 

風を切るのように放たれた蹴りと重々しい殴打が互いの真横をすり抜けていく。両者共に敵の攻撃を寸前で回避したが、跳躍中のラプトルは尻尾を振り回して無理矢理を全身を動かして回避したため、スミロドンに無防備な腹を見せてしまった。途端にスミロドンの豪腕がラプトルの色白な腹を目掛けて放たれる。ラプトルは咄嗟にシックルクローで相殺を計った。スミロドンの手首にシックルクローが突き刺さり確実に勢いを殺したが、それでもスミロドンの腕はラプトルの胴体へ届いてしまった。出し入れ自在の爪で相手の鱗を引っ掛け決して逃げられないようにすると、スミロドンが全体重を掛けてラプトルを押し倒し、魔剣と称された牙を相手の喉に打ち込んだ。『剣歯』による正確無比な一撃が即座にラプトルの喉を遮断し、決定打となる致命傷を与える。口と喉から鮮血を漏らすラプトルを前に勝ち誇ったスミロドンは、尚も両腕で相手を抑え込み、牙をより深くへと押し込み、奥歯で頚椎を噛み砕こうとする。

 

だがラプトルにも意地があった。スミロドンと倉庫で初めて相対してから何度となく攻撃され続け、今や致命傷を負わされてしまった。だが彼は1億年以上に渡って地球を支配した竜の末裔。ぽっと出の獣如きに黙って屈するつもりはなかった。拘束に夢中になっているスミロドンの横腹へ、生涯最後となる蹴りを叩き込む。気力を振り絞った一撃が肋骨を砕き、シックルクローが主要な内蔵を切り潰した。今度は両者の攻撃が致命傷となって互いの命を削っていく。ラプトルは紛れもなく瀕死だがスミロドンも最後の蹴りで重傷を負った。

そこへ相棒の危機を察知した2頭目のラプトルが飛び込んでくる。側のコウモリ達を振り切って、スミロドンの背中に勢い良く上顎を振り下ろした。上顎に並んだナイフ状の牙が敵の毛皮に深々と食い込むが、全身を筋肉で覆っているスミロドンには大したダメージにならない。それでも重傷のスミロドンが耐える力はなく、脆くも膝をついた。

 

ラプトルが怒りに任せてトドメの蹴りを打ち込もうとした瞬間、敗者を狙ってコウモリ達が一斉に襲いかかってきた。たまらずラプトルが身を翻して包囲を突破しようとするが、流石に相手が多すぎた。反射が間に合わず、長い腕を使ったラリアットを食らって倉庫の反対側まで弾き飛ばされる。間髪を入れずサソリが新たな獲物に捕脚を振り下ろした。しかしサソリの視力の悪さがここで災いし、捕脚はラプトルの頭部を掠めただけだった。運良く絶対絶命の窮地を脱したラプトルは、直ぐに飛び退いて追撃を躱すと、報復の衝動を押し殺して瀕死の仲間の元へ向かった。

 

だが既に仲間は出血多量により事切れており、その生温かな死体の側では虎の処刑が行われていた。満足に動くことも出来ないスミロドンは、コウモリ達によって一方的に切り裂かれていく。八つ裂きにされた腹部からは内臓が溢れ、血は濁流となって床を紅く染めていくが、鉤爪の嵐は一向に止む気配がない。特徴的なサーベル状の牙も左右揃って根本から折られる。血と体毛が吹き荒れる中で、遂に頭骨を砕かれたスミロドンが絶命した。

 

両腕を鮮血に染めたコウモリ達は、ゆっくりと冷めたくなるスミロドンに興味を失った。いくら勇猛果敢な獣であろうと、彼らにとっては単なる邪魔者か獲物でしかない。次なる排除対象を求めてエコーロケーションを展開する。倉庫中にはまだ心拍が9つある。内6つは同族のもの。残りは水棲霊長類とラプトル、そして2頭のコウモリ相手に大立ち回りを演じるサソリだった。

現状最も厄介なサソリさえ潰せればコウモリ達の勝利は目前となる。残ったラプトルと水棲霊長類は数の暴力で蹂躪してやれば良い。ならば何を躊躇う必要があるのか。コウモリ達は即決すると、雪崩を打ってサソリへ突撃していった。

 

 

 

 

 

《生存》

 

ラプトル…1体 

スミロドン…1体

サソリ…2体

アースロプレウラ…絶滅

水生霊長類…1体

スクトサウルス…1体

未来の捕食動物…14体

人間…1人

 

 

 

《死亡》

 

未来の捕食動物1体…カッターにより殺害

 

オリバー·リーク…未来の捕食動物により殺害

 

スティーブン·ハート…スミロドンにより殺害

 

デリック·バートン(リークの部下)…カミン·シャスにより射殺

 

カミン·シャス…未来の捕食動物により殺害

 

ドレイク·ジーン…アースロプレウラにより殺害

 

未来の捕食動物…???により殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)…アースロプレウラにより殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)×3…サソリにより殺害

 

水棲霊長類…サソリにより殺害

 

スクトサウルス…コウモリにより殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)×4…スクトサウルスにより殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)…水棲霊長類により殺害

 

アースロプレウラ…コウモリにより殺害 

 

未来の捕食動物(コウモリ)…ラプトルにより殺害

 

ケビン·ウィリアムズ…コウモリにより殺害

 

ラプトル…スミロドンにより殺害

 

スミロドン…コウモリによって殺害

 

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