勝っても負けても   作:冠龍

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巻き添え

 通路に残った最後の命が消えたのと時を同じくして、倉庫内ではようやく勝敗が決まろうとしていた。コウモリ達が段々と敵の動きを覚え始め、やがて一方的な攻勢をかけていく。サソリは巨体と外骨格に物を言わせて尚も暴れ続けるが、水棲霊長類は既にサソリを盾に出入り口付近に引き籠もり、ラプトルもコウモリとサソリの間に挟まれて苦戦を強いられていた。敵の身体能力を知り尽くしたコウモリ達が次々に跳躍しては鉤爪を繰り出し、サソリの外骨格を粉砕してラプトルの外皮に裂傷を残していく。唯一無事の水棲霊長類もサソリを弾除けにしたまでは良かったが、この様子では離脱すらままならない。もしも脇目も振らずに逃げ出そうものなら、サソリとコウモリによる暴風雨のような追撃によって、瞬く間に哀れな最期を遂げるだろう。

 

この時点で倉庫内のコウモリ達は凶気に駆られつつも、依然として仲間意識を持ち、連携して敵を排除しようとしていた。それは彼らにとって至極当然な行動だったが、そこへ全てを崩壊させるイレギュラーが殴り込みをかけた。

 

 

 

乱戦の中、大振りの攻撃を外したサソリがバランスを崩し、途端にコウモリ達が一斉に襲いかかる。巻き込まれたラプトルは乱戦の流れ弾を躱すのに必死になるが、サソリの尻尾が無防備な横腹を強か打ち付けて弾き飛ばした。ラプトルは血反吐を吐いて床に転がったが、おかげで偶然にも地面の振動を感知する事が出来た。振動の発生源は2つ。1つは目の前の乱戦地帯からで、もう1つは反対側の出入り口の方角からだった。やがてコンクリートや配管が軋んで砕ける音が響き、伝わる振動で倉庫内の埃が舞い散っていく。やおら身体を起こしたラプトルは接近するコウモリを警戒しつつも、聴覚を最大限に働かせて轟音の正体を探ろうとした。

 

しかしコウモリの前で他に注意を向けるのは自殺行為だった。致命的な油断がコウモリの鉤爪を呼び寄せ、ラプトルの身体は再び宙を舞う。反射的に受け身をとったラプトルは、四肢の鉤爪を剥き出しにして壁にしがみつき、コウモリの第二撃は空を切った。そして今度はラプトルの反撃が火花を散らした。思い切り壁を蹴り出してコウモリに飛びつき、衝撃で露わになった胸元に噛み付いた。だがコウモリは激痛など知らん顔で腕を振り回し、胸元のラプトルを無理矢理突き飛ばす。ラプトルは運悪くサソリの前へ晒され、鞭状の腕によって容赦なく叩きのめされる事になった。

 

のたうち回るラプトルを他所にコウモリが動いた。ラプトル相手に夢中で鞭を振り回すサソリの背後を取り、唸る尻尾を捕捉して正確に切断した。鉤爪が尻尾を抜けて歩脚にまで到達し、関節部を断ち割って根本を砕く。陶器が砕けるような音を残して脚1本を削がれるが、この程度はサソリの致命傷になるはずもない。しかし体勢は崩さざるを得なかった。支えを失ったサソリが蹌踉めいて捕脚を振り損ね、ガクっ! と硬直した直後にコウモリ達が集中砲火を浴びせた。節に爪を突き刺しては外骨格をヒビ割れさせていく。更には鞭状の腕を左右1本ずつ切断して武器を半減させ、オマケに神経の集まる頭部へも鉤爪を突き立てた。水棲霊長類の噛み跡を狙って正確に放たれた鉤爪はサソリの外骨格をすり抜けて軟質部を抉る。

 

さしものサソリも武装の多くを失った状態でコウモリ6頭を相手に戦い続けるのは不可能だった。黄土色の水溜りが床に点在する頃にはサソリも防戦一方となっていた。更にラプトルがいつの間にかサソリの攻撃を掻い潜って鋭い剣撃を撃ち込んでいく。

生物史上最凶の『頭脳』と『鉤爪』が鎧武者を一方的に蹂躪し、やがては出入り口付近にまで追い詰めた。一応後退は出来るが、これ以上奥へ引き下がろうものなら進行方向に居座る水棲霊長類と否応なしに戦う事になり、それに手間取ればコウモリとラプトルによって手痛い追撃を貰ってしまう。サソリは文字通りの四面楚歌となった。

 

 

 

そこへ助け舟が来た。

 

倉庫全体が軋み、床に溢れた血液が振動で波打つ。

勝利を目前に控えたコウモリの群れへ、先程ラプトルが感じ取った振動の正体が猛スピードで向かってくる。

 

それは恐慌状態に陥った子供のスクトサウルスだった。体重では大人に敵わないが、子供ならではの素早い走りで一直線に群れへ突入する。この想定外の事態が悲劇を生んだ。狭苦しい出入り口に固まっていた生物達は互いに邪魔しあって逃げ遅れ、とりわけ敵を包囲せんと外側に陣取っていたコウモリ達の内1頭が為す術もなく突進に巻き込まれて踏み殺された。一方で加速し過ぎたスクトサウルスも床の血で滑って転倒し、明後日の方向へ転がって倉庫の内壁に叩きつけられた。それでも持ち前の頑強さで衝撃を耐えきったスクトサウルスが唸り声を上げながら立ち上がる。だが唸り声の矛先は倉庫内の生物達ではない。

 

混沌を極める倉庫内に新たな影が2つ飛び込んできた。影が天井のクレーンを足場に異常なスピードで倉庫を跳び回り、流れに任せてスクトサウルスに襲いかかった。戦闘経験が少ない子供のスクトサウルスに満足な反撃が出来るはずもなく、影はスクトサウルスの腰回りを切り裂いて再びクレーンに飛び移った。正体は別の通路でケビンを仕留めたオスコウモリだった。後から続いてメスコウモリも突入し、同様にスクトサウルスを撹乱する。だが、その攻撃はスクトサウルスの命を奪うための攻撃ではない。何故なら加えられる攻撃はどれも致命傷にならないように首や脇腹を避けている。それもそのはず、コウモリペアの狙いはスクトサウルスを仕留めるのではなく、この倉庫内に巣食う『邪魔者』を1頭残らず轢き殺すことだった。

 

 

 

ケビンを仕留め、ペアが成立した後に彼らは邪悪な策略を練っていた。このまま2頭が協力して敵を1頭ずつ始末する方法もあったが、その方法では時間がかかり過ぎるだけでなく、

 

「「下手をすれば自分達が狩られかねない」」

 

という重大な欠点があった。そこでペアは通路に隠れ潜み続ける子供のスクトサウルスを利用した。余程の妨害がなければ、例え姿を見えなくともコウモリから身を隠す方法はない。当然スクトサウルスもペアによって発見された。狭い通路内では体格に劣る自分達が押し潰される危険はあったものの、相手が子供だった事が幸いした。経験不足の子供はペアの姿を見るなり怯えて逃げ出し、狭苦しい通路を強引に通り抜けていく。この機を逃すまいとペアが追撃をかけ、下半身を切り裂かれたスクトサウルスは更なる恐慌状態へ陥った。もはやスクトサウルスは向かうもの、立ち塞がるもの全てを破壊し尽くす無情の戦車となっていた。

その最初の犠牲者は施設職員最後の生き残りであるリチャード·グウィンだった。無いはずの出口を探していたリチャードは、携帯していたアサルトライフルを瞬時に発砲してスクトサウルスを仕留めようとしたが、現代火器で暴走する巨竜を止められる道理はなく、そのまま轢き殺されて惨たらしい最期を遂げた。 

 

やがて頭脳明晰なペアは、下半身に加える攻撃を加減することでスクトサウルスを『操縦』出来る事に気付いた。装甲の隙間を縫うようにして浅い切り傷を負わせ、スクトサウルスを方向転換させる。道中、サソリや無数の同族の死体が転がる古戦場に差し掛かったが、ペアに同族への同情など一切なく、容赦なくスクトサウルスを追い立てて邪魔な死骸を踏み潰させた。

 

そしてエコーロケーションによって残る敵の大雑把な位置を把握していたペアは、狙いを倉庫内の同族に絞っていた。自らの強さを知っているからこそ、今後の障害になりえる同族を生かしておくわけにはいかないと判断しての事だった。追い立てられたスクトサウルスに突っ込む以外の選択肢があるはずもなく、一行は倉庫内へと突入していった。

 

狙い通りに同族を1頭排除したペアは、次に転げたスクトサウルスを再始動させた。装甲板を避けて背中を斬りつけ、スクトサウルスを再び走らせる。当然向かう先は出入り口付近。しかし倉庫内の生き残りも今度は安々と踏み潰されようとはしない。

 

サソリが動いた。くるりと180度ターンして倉庫内を脱出しようとする。当然行く手には水棲霊長類が待ち構えているはずだったが、既に水棲霊長類は離脱を始めていた。あまりに想定外の出来事を前に泡を食った水棲霊長類は、追撃の可能性も忘れて床を這いずっていた。しかし、ここで水棲霊長類の陸上機動力の低さが致命的な仇となった。水棲霊長類とサソリの距離があっという間に縮まり、やがて複数の歩脚によって水棲霊長類は揉みくちゃにされて通路に転がった。重々しい胴体ではなく、細長い脚で蹂躪されただけで轢き殺されずには済んだが、そこへラプトルが飛び込んで来た。通路に転がった肉塊は見るからに踏切台として使える。何の躊躇いも無くラプトルが水棲霊長類を踏みつけて蹴り出し、足の続く限りサソリに続いた。ラプトルは背中に幾筋もの裂傷を負ってはいたが、まだ疾走するだけの体力は残されていた。鎧武者と盗賊によって散々な目に遭わされた水棲霊長類だったが、本当の意味での災難はここからだった。顔を上げた水棲霊長類に向かってコウモリが向かってくる。正確にはコウモリの死体が投げ飛ばされてきた。通路で決死の脱出劇が繰り広げられている間にも、倉庫内では悪魔同士の抗争が火蓋を切っていた。

 

疲労困憊の5頭はペアを威嚇するも、未だに状況を飲み込めてはいない。それもそのはず、彼らはまさか同族から命を狙われるとは思ってもいなかった。そこに漬け込んでペアが先手を取り、再始動させたスクトサウルスを混乱した同族へと向かわせる。5頭は跳び上がって突進を躱したが、どうしても散り散りになってしまった。その内最もペアに近い場所へ飛び退いてしまった1頭が集中攻撃の的となった。息のあった連携攻撃が絶え間なく喉や胸を抉り、やがて心臓を潰されたコウモリは出入り口まで投げ飛ばされて水棲霊長類に直撃した。ペアは躊躇せず攻撃を続行し、今度もスクトサウルスを刺激して残る4頭へ突撃させる。ここで4頭はようやく『闘争』ではなく『逃走』を選択し、壁を蹴り出して出入り口を抜けていった。またしても水棲霊長類は揉みくちゃにされるハメになったが、今回は先程よりも数段悪い事態となっていた。狭い通路に4頭ものコウモリが殺到したため、仲間同士で文字通り足を引っ張る事になり、巻き添えを食らった水棲霊長類は出入り口付近まで押し戻されてしまった。

そして同族が逃走を選択したのと同時にペアが最終攻撃を下した。衰弱したスクトサウルスを強制的に出入り口へと走らせる。コウモリ、水棲霊長類、スクトサウルスの絶叫が入り混じったかと思うと、水棲霊長類は想像を絶する重量によって引き摺られていった。持ち前の柔軟かつ頑強な肉体のおかけで致命傷こそ負わなかったが、踏みつけられた右鰭には力が入らない。数百キロはある水棲霊長類も1トンを超えるスクトサウルスにとっては障害物の意味を成さず、数百キロのローラーを追加装備した戦車は暴走を続ける。だが先を行くコウモリ達にとって水棲霊長類の存在は大問題だった。最後尾の1頭がローラーに脚を巻き込まれて引きずり込まれ、たちまち気色の悪いミンチとなって通路に四散した。先にペアによって投げ飛ばされていた死体もローラーの餌食となって薄気味悪いカーペットとなる。そして障害物を巻き込み続ける水棲霊長類が無事で済むはずもなく、自慢の牙を半分も砕かれ、外皮にも無数の切り傷を負い、打ち付けられ続けた右鰭は複雑骨折によって思うように動かせなくなっていた。

 

ペアは後から余裕をもって破壊の痕跡を辿っていった。元の生物が何かもわからない程に潰され、引き伸ばされます肉塊を前にしてもペアの歩みが止まることはなかった。

 

 

 

逃げ惑う生物達が知るはずもないが、ペアは最初から狙った場所に生き残りを追い詰めていた。

 

自慢の俊足でサソリを追い抜いたラプトルは、ようやく狭く危険に満ちた通路を脱出した。

 

その先には、始まりにして終わりの地 ――収容部屋が広がっていた。

 

 

 

 

 

《生存》

 

ラプトル…1体 

スミロドン…1体

サソリ…1体

アースロプレウラ…絶滅

水生霊長類…1体

スクトサウルス…1体

未来の捕食動物…12体

人間…全滅

 

 

 

《死亡》

 

未来の捕食動物1体…カッターにより殺害

 

オリバー·リーク…未来の捕食動物により殺害

 

スティーブン·ハート…スミロドンにより殺害

 

デリック·バートン(リークの部下)…カミン·シャスにより射殺

 

カミン·シャス…未来の捕食動物により殺害

 

ドレイク·ジーン…アースロプレウラにより殺害

 

未来の捕食動物…???により殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)…アースロプレウラにより殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)×3…サソリにより殺害

 

水棲霊長類…サソリにより殺害

 

スクトサウルス…コウモリにより殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)×4…スクトサウルスにより殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)…水棲霊長類により殺害

 

アースロプレウラ…コウモリにより殺害 

 

未来の捕食動物(コウモリ)…ラプトルにより殺害

 

ケビン·ウィリアムズ…コウモリにより殺害

 

ラプトル…スミロドンにより殺害

 

スミロドン…コウモリによって殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)×2…サソリにより殺害

 

サソリ…アースロプレウラとコウモリによって殺害(既に毒によって死は避けられなくなっていた。)

 

リチャード·グウィン…スクトサウルスによって殺害(引き起こしたのはコウモリペア)

 

未来の捕食動物(コウモリ)×3…コウモリペアによって殺害

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