勝っても負けても   作:冠龍

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爪と牙

 スティーブンに真っ先に喰らいついたのはスミロドン(サーベルタイガー)だった。限界ぎりぎりにまで溜め込まれた四肢の力を爆発させ、一気に襲いかかる。スティーブンは無抵抗のまま抑え込まれて首元を切り裂かれた。

 

飛び散った鮮やかな鮮血が戦いの始まりを告げる。

 

スミロドンは獲物に飛び乗って周囲のライバルに牙を剥き、体毛を逆立てて身の毛もよだつような咆哮を上げた。かつて彼が支配していた北の大地で、この威嚇にひれ伏さない生物はいなかった。例え相手が巨大なショートフェイスベアだろうと、獰猛なダイアウルフの群れだろうと1頭残らず尻尾を巻いて逃げ出していた。

 

だが、今は違った。

ライバル達はスミロドンの威嚇を宣戦布告として受け取り、揃って臨戦態勢を整えた。とりわけ正面で背に並ぶ棘を逆立てた『2本脚の生物』は、後脚に突き出た巨大な爪を立て、顎に並んだ鈍い色の牙を見せつけてきた。故郷では感じたことのない気迫を感じるが、ここで引き下がるわけにはいかない。引き下がる事はすなわち自分が相手より劣るという事を意味する。それは自らを『餌』と愚弄するに等しい行為だった。

 

(…躊躇わずに殺す。)

 

スミロドンの潜在的な戦闘衝動が今まさに開放されようとしていた。

 

 

 

ラプトルは顎の銃創から滴り落ちる血に構わず、見慣れない“獣”を凝視していた。

かつての彼にとって獣とは餌に他ならなかった。故郷の地で何度なくその柔らかな毛皮を引き裂いてきた。愛しい我が子や新鮮な餌を掠め取ろうとする不届き者。…取るに足りない哀れな餌。それが彼にとっての獣だった。

 

だが今の彼の前で瞳を爛々と輝かせる獣は、決して餌に甘んじる存在ではなかった。

 

最強の捕食者たる自分が殺し損なった獲物を、ものの一撃で仕留めてみせたのだ。その手際の良さには、これまで一度たりとも他者に抱いた事のない『敬意』を。そしてこれまでの生涯で最も冷たい『恐怖』を味わうこととなった。

 

しかし彼は即座にその感情を一欠片すら残さず捨て去っていた。

 

戦場での恐怖は死に直結する。

これは故郷の地でも何度となく味わってきた事だった。ある時は獲物の威嚇を恐れて後退した瞬間に手痛い反撃を受け、またある時は縄張りを巡って他のラプトルと争い、結果的に相手を殺しかけた時に同族を殺す事を怖れてトドメを刺すのを躊躇した。『同族殺し』という一線を踏み越え損ねた彼は、その瞬間に瀕死の相手によって逆襲され死にかけたこともあった。

 

そうしてラプトルは感情を捨て去った。残ったのは純粋な殺意のみ。徐々に冷えていく思考に反して、身体は自然と殺しの準備を整えていた。アドレナリンを分泌し、外皮を逆立て、全身の筋肉にエネルギーを集中させる。

 

(これから始まるのは『戦闘』ではない。一方的な『殺戮』だ。)

 

噛み裂き、蹴り飛ばし、その腸(はらわた)を床に撒き散らす。最後に笑うのは他の誰でもない自分だ。

 

完全に冷え切った頭が全身に命令を下す。

 

 

 

 『殺せ。』

 

その命令を全身が受け取った。

力を込められた脚が、薄汚れた床を蹴り出し、爪痕を刻みつけたまま眼前の獣皮を食い破ろうとした…

 

 

 

…正にその瞬間だった……

 

 

 

 

 

 

 

途中経過

 

《生存》

ラプトル…2体

スミロドン…2体

サソリ…2体

アースロプレウラ…2体

水生霊長類…2体

スクトサウルス…2体

未来の捕食動物…25体

???…5体

 

《死亡》

未来の捕食動物1体…カッターにより殺害

オリバー·リーク…未来の捕食動物により殺害

スティーブン·ハート…スミロドンにより殺害

 

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