勝っても負けても   作:冠龍

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決戦(4)

 異様な均衡は突如として崩壊した。

絶叫のままに危険域へ飛び込んだメスコウモリが、追い詰められたスミロドンへ目にも留まらぬ連撃を打ち込む。天井から急加速して羽交い締めにし、かなり無茶な姿勢から次々と鍵爪を突き刺し、躊躇なく骨を砕いて全身を引き裂こうとした。しかし極度の興奮によってか、荒っぽく単調になった攻撃では、負傷したスミロドンでも容易に捌き切れる。振り下ろされた腕に合わせて背中を曲げ、上手い具合に敵の懐へ潜り込むと、お返しとばかりに右のジャブを打ち込んだ。さらに軽業師ゆえの軽量さが仇となり、メスはスミロドンの目論見通り軽々と弾き飛ばされた。ここで周囲のコウモリ達も動く。突然の乱入者に驚愕しつつも、彼らはメスへ注意を向けた。そしてあわよくば抹殺を謀った。何故かは知らないがメスはスミロドンに対して尋常では無い憎しみを抱いているらしく、血反吐を吐いて起き上がるなり、金切り声を上げて鉤爪を向けようとした。

 

だがそんな隙だらけのメスは絶好の標的となった。

 

戦友の仇討ちとばかりに倉庫組の1頭が急追をかける。スミロドンにばかり気を取られていたメスが対応できるはずもなく、一撃目は耐えられたものの、二撃三撃と喰らって、またもや彼方へと吹き飛ばされる。とはいえメスもやられてばかりではなく、吹き飛んだ弾みで壁に着地し、そのまま壁を踏み切って倉庫組へ体当たりを成功させた。強烈な反撃により倉庫組の動きが一瞬なりとも遅れ、その瞬間にメスが両腕を敵の両肩へと叩きつけた。猛スピードで振り下ろされた腕が相手の体勢を崩す。ようやくメスの攻勢が始まるかと思いきや、待ってましたとばかりに倉庫の片割れが応援に駆けつけた。それを察知したオスコウモリも急いで救援に向かうが、天井からでは距離が離れ過ぎている。あと一歩のところでメスは新しい鉤爪の餌食となり、三度宙を舞った。ところがメスと入れ替わるようにして参戦したオスコウモリは、絶妙のタイミングで倉庫組への反撃を成功させていた。メスの影を利用して蛇のように敵の横へ滑り込む。傍から見れば相手の間合いに入るのは自殺行為に思えるが、腕の長いコウモリ相手に限ればそうでもない。ここまで密着されると十分な威力を得るためには腕の振りが余計に必要となるため、攻撃開始から直撃までの間に僅かなタイムラグが生まれる。それを狙ってオスは零距離まで接近していた。迎撃のため腕が動き出したのと、オスがメスの意趣返しを成功させたのは同時だった。メスに与えたダメージを上回る張り手が倉庫組の脳を揺らし、次いで跳び上がりながら放たれたアッパーが特徴的な下顎を削り取る。さながら格闘技の試合のごとく鮮やかな連撃が決まっていく一方、薄暗い部屋の隅では、立て続けに不覚を取ったメスがようやく再起動していた。黄色の支柱を足場に駆け上がって地の利を得ると、これまた絶妙のタイミングで攻撃を仕掛ける。オスが何撃目かの突きで倉庫組を後方へ突き飛ばし、飛び込んだメスが阿吽の呼吸で敵の頭部を的確に掴み、急激に手指へ力を加えて相手の顎関節を外した。鈍い音に合わせて不自然に口が開かれ、倉庫組のコウモリは悲鳴も上げられずに悶絶したが、それでも即座に反撃に打って出た。

 

反撃は成功した。

 

だが絶命の憂き目に遭ったのは倉庫組のコウモリだった。

 

 

 

彼がメスへ腕を伸ばすよりも早く、猛獣が牙を鈍く光らせながら跳躍していた。スミロドンも先程までのお返しにと120°も開く顎を全開にして突撃し、完全に不意を突かれたコウモリの腹へと喰らいついた。的確に肋骨を避けて柔らかな内蔵だけを破壊する。一撃必殺を誇る魔剣の餌食ともなれば、超生物たるコウモリにも手の施しようがない。

 

しかし戦局は常に変わり続けていた。

そして今度は、優勢のスミロドンが新手の矛先となった。

成体のスクトサウルスの躯へ1頭のコウモリが叩きつけられた。見ると全身に刀傷を負っている。衝撃で血を吹き出したコウモリには目もくれず、犯人の双剣士はスミロドンを急襲した。スミロドンは間一髪のところで咥えていたコウモリを手放し、側方へ飛び退くことで続く攻撃を回避したが、地に伏したままのコウモリは容赦なく切り飛ばされた。

 

花吹雪のように舞い散った棘が『盗賊』の乱入を告げる。

甲高い咆哮を伴いながら、血塗れのラプトルが乱戦へと復帰した。やはりラプトルとコウモリの一騎討ちは互角だったらしく、ラプトルも少なからず全身に裂傷を負い、体表の棘もあちこち剥げ落ちていたが、武器の量が明暗を分けたらしく、劣勢となったコウモリは撤退を余儀なくされた。しかし手負いの敵を黙って見逃す程ラプトルは生易しくはない。重力など知らん顔で支柱へ逆様に飛びつき、先回りするかたちでコウモリへ蹴りを見舞った。計算外の機動力を前にコウモリは回避しきれず、辛くも受け身を取りながらも中央の骸まで蹴り飛ばされた。そしてラプトルは流れに身を任せて同胞の仇であるスミロドンに狙いを絞った。負傷具合で比べれば僅かにラプトルが優位だが、互いに必殺の刃を身体に仕込んでいる。迂闊に動こうものなら文字通り斬首されるだろう。

 

ところが魔剣による内蔵破壊と、シックルクローによる滅多切りを食らってなお、コウモリは息絶えていなかった。たしかに何度も抉られた下半身の自由は効かなくなってはいたが、切り飛ばされた勢いで支柱にしがみつき、大車輪よろしくグルっと一回転してスミロドンへ襲いかかろうとしていた。この重傷では助かる見込みはないが、こうなればスミロドンどころかラプトルもまとめて死出の道連れにしようと、限界まで腕に力を込めて飛び出した。

 

牽制中で身動きのとれない2頭は、腹を食い破られたコウモリの格好の餌食となるはずだった。

 

 

 

しかし今度こそコウモリの命運は尽きた。

 

圧倒的な重量が飛び出したコウモリの頭と腕を押し潰し、割り箸よりも楽に端から端までもを砕き割る。そして轟音が部屋全体に響き、長きに渡る沈黙を経て最古の殺戮マシンが息を吹き返した。こびり付いた血と砂が軋むような音と共に周囲へ飛散する。

奇声を交えながらコウモリと子供のスクトサウルスの死体を踏みつけたのは、戦闘不能になったはずのサソリだった。

 

 

 

 

 

 

 

《残存》

 

 

ラプトル…1体 

スミロドン…1体

サソリ…1体

未来の捕食動物…6体 

 

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