勝っても負けても   作:冠龍

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乱入

 ラプトルとスミロドンが衝突する寸前、想像を絶する重低音を響かせてこの場に向かってくる者がいた。

 

 

成体のスクトサウルス。

 ――かつて古生代ペルム紀末に繁栄した巨大な植物食の爬虫類。全長5m、体高2.5m、体重5〜6t。施設屈指の巨体は捕食者の群れを子雀もよろしく蹴散らした。

この怒れる巨漢が相手では細身の捕食者達に勝ち目はない。陸上が苦手な水生霊長類はもちろん、凶暴さでは折り紙付きの未来の捕食動物(コウモリ)も慌てて檻の支柱や壁に避難し、果ては獲物を仕留めたスミロドンですらセンターの座をスクトサウルスに譲った。

檻の支柱が鈍い悲鳴を伴って捻じ曲がるが、スクトサウルスは構わず中央に押し入る。

割を食ったのは群れたコウモリ達だった。せっかく支柱に逃れて一息つこうとしたところを、またもやスクトサウルスに邪魔をされる。不満そうな声を漏らしながら、彼らは這々の体で壁へと避難していった。

 

ようやく静止したスクトサウルスに向かって四方八方から罵声が浴びせられる。食事の邪魔をされたのだから当然といえば当然だが、この時すでに、鮮血の匂いと捕食者達の口から微かに漂う腐肉臭が、普段は大人しいはずの植物食動物から正気を奪っていた。

 

――自然界で最も恐ろしいのは、暴走した植物食動物とも言われている。理由は単純、彼らが『暴走』するからである。

肉食動物が戦う理由は十中八九、相手を捕食するためかライバルを排除するため。それらはエネルギーの消耗が劇しいため限度を超えて暴れることは滅多にない。付け加えると肉食動物の多くは身体が繊細で傷つきやすいため、激しい闘争になると深手を負うのを恐れて自分から逃走してしまうことが多い。

だが植物食動物が戦う理由は、それとは根本的に異なる。それは『自らの命を守るため。』であり、己の命を守るためなら何でもする。例え体力を使い果たそうと、肉体を食い千切られようと構わずに暴走し続ける。それこそ敵が息絶えようとも止まらずに。

 

更に彼らには『引き際』もない。目の前にいるのは自分を食い殺そうとする忌まわしい天敵のみ。この場で抹殺しなければ明日には自分や同族に牙を剥き、ズタズタに引き裂いて胃袋に収めるだろう。ということは想像に難くない。

「災の種は可能な限り必ず潰す。例えどんな犠牲を払うことになるとしても必ず。」

これが植物食動物の戦う動機であり、同時に『暴走』する理由でもある。

 

 

 

この悪質極まりない『殺意』は、部屋に突入してきたスクトサウルスにも当然のように当てはまっていた。

ちょうどスティーブンの遺体の真上に陣取ったスクトサウルスは、苛立ちながら周りに突き出た檻の支柱へ何度となく体当たりを喰らわせる。数トンもの巨体と金属製の支柱に挟まれてしまえば、いくら数の強みを持つ捕食者であっても、ひとたまりもなく圧殺されてしまうだろう。

彼らは口々に不平不満を吐き捨てながら部屋を脱出し、通路を駆け抜け、施設中に拡散していった。

 

 

 

だがスクトサウルスの横暴に我慢ならない狩人が、たった1頭。喧騒の冷めた部屋に居残った。

 

顎に並んだ鋭い牙と美しく伸びた2本の脚。その先端には内蔵摘出用にデザインされた爪が二振り装填されている。

 

ただ1頭残ったのは、太古の荒れ地を駆けた盗賊。獣脚類のラプトルだった。

全長3.5m、体高1.5m、体重…わずか200kg。

この体格では到底ラプトルに勝ち目はなさそうに思える。だが彼の身体は“全身武器”と形容するに相応しいものだった。

体格の割に大きな顎にはナイフ状の牙がズラリと並んでおり、これで獲物の肉を簡単に切り裂くことが出来る。顎の力も強く、一度獲物に噛み付けば決して逃がすことはない。

自在に動く前腕に装備された3本の爪は全て湾曲しているため、暴れる獲物を拘束する際に絶大な威力を発揮する。

尻尾は細かな骨によって補強されているため強靭かつ靭やかに動かせ、敵への牽制や疾走時の急な方向転換に役立つ。この竹竿のような尻尾も、時として背後の相手を強烈に打ちのめす。

 

そして最凶の武器が凄まじい筋肉を備えた後ろ脚。…の先に装填された鉤爪。そもそも彼らの後ろ脚自体が強力な武器となりえる。ラプトルの子孫筋の鳥類には、後ろ脚の蹴りだけで人間や犬を瞬殺できる種も存在する。それよりも長く筋肉質なラプトルの後ろ脚は、これは紛れもなく強力な武器だ。

しかしそれすら、ラプトル最凶の武器に比べれば見劣りするだろう。

ラプトル最凶の武器。それは15cmを軽く超える『鉤爪』 ――正式名称は『シックルクロー』―― だった。

長い地球の生命史においても他に類を見ない形状の武器であり、大半の生物の鉤爪の断面が丸く、獲物を突き刺して捕獲するのが主な用途になっているのに対し、シックルクローは鉤爪の内側面が薄い刃物のようになっているため、獲物の身体を容易に捌いて内蔵や血管を断絶させ、早急に息の根を止められるのだ。

 

 

 

対峙する『巨竜(スクトサウルス)』と『盗賊(ラプトル)』。互いの間に走った緊張。

 

その微妙な空気の変化を感じ取ったのか、目敏い数頭の“悪魔(未来の捕食動物/コウモリ)”が通路から引き返し、部屋の壁に張り付いた。この未来の捕食動物は現在の翼手目(コウモリの仲間)から進化したため、祖先と同様に視覚は無いに等しい。代わりに超音波を使ったエコーロケーションによって周囲の状況や敵の居場所を正確に探知出来るように進化した。

仮に相手が怯え慄き、喚き散らして必死の威嚇を行ったとしても、この殺戮集団が相手では逆効果となるだろう。その音は悪魔の血に眠る殺戮の衝動を呼び覚まし、数瞬の後には攻撃を開始させることになる。

 

だが絶叫と血飛沫が飛び交うかに思われた部屋は、不可解な静寂に包まれていた。ラプトルとスクトサウルスは互いに威嚇すら行わないまま、ただ静かに互いを観察している。ラプトルはおろか、スクトサウルスの眼にすら先程までの殺戮の衝動は見られなかった。

 

 

 

聞こえてくるのは微かな息遣いのみ。暫しの間、静寂が部屋を支配した。

 

 

 

 

 

 

途中経過

 

 

 

《生存》

 

ラプトル…2体

スミロドン…2体

サソリ…2体

アースロプレウラ…2体

水生霊長類…2体

スクトサウルス…2体

未来の捕食動物…25体

???…5体

 

 

 

《死亡》

 

未来の捕食動物1体…カッターにより殺害

 

オリバー·リーク…未来の捕食動物により殺害

 

スティーブン·ハート…スミロドンにより殺害

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