勝っても負けても   作:冠龍

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裏切りの代償

 足が吹き飛ばされる。

 

その瞬間、身体の感覚が全て失われたような…そんな妙な感覚が男の身体を包み込んだ。

 

吹き飛んだ足、床を紅く染める血。

 

それが男の頭の中で意味を成すのには、少しばかり時間が必要だった。ようやく今の状況を理解した時にはようやく身体に正常な感覚が戻り、それに伴って耐え難い激痛が体を駆け巡る。

 

「悪いな、お前に恨みは無いがお前が此処にいてくれないと、俺はちょっとばかり困るんだ。」

「!?」

「だってそうだろぉ? 今この施設には人食いモンスターが山ほどいるんだ。今はオードブルを楽しんでいるだろうが、直にメインディッシュを探し始める。それまでに非常口が見つかるとは限らない…」

 

いつにも増して饒舌となった男は、冗談めかした話を延々と続ける。

 

「だぁ!かぁ!!らぁ!!! …お前がここでスケープゴートになってくれ。そうすりゃ俺が助かる可能性はまだしも増すだろうさ。」

 

倒れ込んだ相方は、仲間の血に狂った男を虚ろな目で睨みつける。だがそこが限界だった。だんだんと灰色がかった視界が狭まり、全身の力が抜けていく。最期の恨み言すら言えないまま、その意識は深い闇の中に落ちていった。

 

 

 

「オイオイ。…事切れちまったか? まぁ、化物共に喰われて死ぬよりはマシだろ。」

 

そう吐き捨てるが早いか、男は目の前の『囮』から武器や薬品を回収し、制御屋を後にした。

こうなったら長居は無用。いずれ鮮血の匂いで怪物達が押し寄せるのは目に見えている。残された時間は残り僅か。天井に配置された剥き出しの配管を頼りに、薄暗い通路を駆け抜けていく。そして制御室から20m程進んだ時だった。

不意に感じた違和感。前方の暗闇に何かいる。

「!」

咄嗟にサブマシンガンを構え、狙いもつけずに乱射した。

 

「グレァッ!!」

 

『悪魔』の呻きは直ぐに銃声によってかき消された。

 

男は乱射を止めると、地面に転がった大量の薬莢を数えることもせずに、再び走り出そうとした。

 

しかし男は走れなかった。走り出すよりも早く男の側を『灰色の風』が吹き抜ける。男が思わず振り返ろうと身を捻った途端に胸に深い裂け目が生まれ、そこから血が勢い良く吹き出した。

 

「ガッ!?」

 

溢れ出る血液は、男の服を瞬く間に、黒々と染めていく。

 

仕掛けてきたのは、蜂の巣にしたはずの『悪魔』だった。

 

 

 

コウモリは予想外の反撃に面を食らったが、即座に回避に徹した。正面にいる獲物は手に抱えた『何か』から猛スピードで『小石』に似たものを放ってきた。

 

通常の生物では回避どころか見切ることすら難しい程の弾幕。しかし彼にとっては眠たくなるような攻撃だった。超音波を使い、向かってくる物体の量、範囲、方向を探知して躱す。この程度の回避が出来ないようでは、彼の生まれ故郷で生き抜くことは出来ない。荒廃しきった未来世界を生き抜くため、たゆまぬ進化を重ねた彼の体は一発たりとも銃弾に掠ることはなかった。

そして反撃。脚の力を開放して天井から一気に飛びかかり、獲物を腹を切断しにかかる。油断しきっていた獲物は無抵抗のまま胸を断ち割られた。勝利を確信した彼は、振り向いて獲物にトドメを刺そうとする。

 

ところが、男は予想外の足掻きを見せた。手に抱えていたサブマシンガンを握り締めたまま、地面に散らばる空の薬莢を蹴飛ばして脇目も振らずに逃げ出していた。

 

 

 

「馬鹿な!!何故くたばらねぇ。」

 

愚痴と血を垂れ流しながら、男は必死に元の道を引き返していた。

 

「…制御室。制御室にさえ行けば助かる…」

 

藁にも縋る思いで通路をひた走る男。

だが無駄な足掻きもそこまでだった。

 

背後から飛びついたコウモリは、男の脇腹を右手の爪で突き刺して固定し、左手で頭をガッチリと鷲掴みにする。

 

声にならない叫びが男の最期の言葉となった。コウモリは掴んだ頭を猛スピードで床に叩きつける。鼻と前歯がへし折れ、無理な角度に曲げられた首が、「ゴキッ」と鈍い音を立てて砕けた。

 

 

 

自分の血溜まりに倒れ込んだ男は、自分の視界が薄れていくのを実感していた。そんな朧げな視界に映っていたのは、あれだけ探し求めた制御室の扉だった。

 

 

「あと一歩だったのになぁ…」

 

 

男の敗因は、『サイレンが偽物』と気付けなかったことだった。既にシステムが崩壊していたのだから、生物が餌にありつけるはずがない。それなのに彼は生物が収容部屋に留まり、あまつ長居してくれると考えてしまった。それが決定的な判断ミスだった。

予想外の駄目押しとして、スクトサウルスの暴走もあった。部屋に集まったはずの生物が、再び施設全体に拡散してしまったのだ。これでは逃げ切れるはずがない。

 

悔しさを噛みしめる男の脳天に、コウモリのトドメの一撃が下された。

 

 

 

退屈な狩りを終えたコウモリ。

 

だが今度はコウモリ自身の首が180°折れ曲がっていた。抵抗する間もなく全身から力が失われ、皮膚感覚が遠ざかり、意識が混濁していく。

襲撃者の正体は分からない。それでも彼は『どうやって音波に探知されずに至近距離まで忍び寄って攻撃を仕掛けたのか?』という、生涯最大にして最後の疑問の答えを必死で求めていた。

しかし時間切れとなった。脳に新たな酸素が送られないとあっては超生物たるコウモリも絶命する他ない。

 

襲撃者の歯爪が自身の内臓を食い破る感触を感じたのを最後に、コウモリの意識は永遠の闇へと埋没していった。

 

 

 

 

 

 

途中経過

 

 

 

 

 

 

《生存》

 

 

 

ラプトル…2体

スミロドン…2体

サソリ…2体

アースロプレウラ…2体

水生霊長類…2体

スクトサウルス…2体

未来の捕食動物…24体

人間…3人

 

 

 

 

 

 

 

《死亡》

 

 

 

未来の捕食動物1体…カッターにより殺害

 

 

オリバー·リーク…未来の捕食動物により殺害

 

 

スティーブン·ハート…スミロドンにより殺害

 

 

デリック·バートン(リークの部下)…カミン·シャスにより射殺

 

 

カミン·シャス…未来の捕食動物により殺害

 

未来の捕食動物…???により殺害

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