勝っても負けても   作:冠龍

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計算外

 興奮しきったアースロプレウラが負傷したコウモリを捕獲した。先程ドレイクにしたように天井から突如として襲いかかり、大顎をコウモリの体に食い込ませると同時に、毒針から毒液を注入した。その毒性は強力で、例え相手が体重1トン近い巨大両生類だろうと一刺しで戦闘不能になる程。せいぜい体重が500kg程度のコウモリは為す術もなく沈黙するかに思われた。

 

しかしコウモリは倒れない。流された猛毒など知らん顔でアースロプレウラから逃れようと暴れ続ける。アースロプレウラは計算外の事態に困惑しつつも、より一層顎に力を込めてコウモリを抑え込む。こうなったら毒が効き始めるまで拘束しておくしかないが、どれだけ待っても一向に毒の効果は現れない。その気になれば収容部屋で暴挙に出たスクトサウルスすら一撃で沈められる毒が効かない理由。

 

‘‘それはコウモリが人類史上最悪の『生物兵器』として創りあげられた生物だから’’

 

だった。彼らには遺伝子操作の過程でありとあらゆる有毒物質や化学物質に対する耐性がある。もちろん亀裂から侵入したアースロプレウラの毒にさえ。 ――この耐性により彼らは人類滅亡後の毒霧が吹き荒れる世界にも順応することが出来るようになるが、それは遥か未来の話である。

 

だが当のコウモリからすれば未来の覇権などに興味は無い。今は眼前の敵を排除し血の海を創り上げる事にのみ神経を集中させる。しかし現状、アースロプレウラは鎌のような大顎で自身をガッチリと捕獲している。だがそこが『狙いどころ』だった。コウモリを拘束している以上アースロプレウラは無防備な腹を晒してしまっている。エコー結果からは背中の外骨格こそ硬いものの、腹の外骨格はメゴプテランの物とは比較にならないほど脆い。ならばそこを狙わない手はない。狼狽えたアースロプレウラの腹をコウモリの鉤爪が直撃した。たちまちアースロプレウラの腹から黄土色の飛沫が飛び、通路は悪臭を放つ体液で汚された。アースロプレウラが苦痛に身をよじる隙すら与えない程の速さで繰り出された神速の連撃が、遂にアースロプレウラの大顎。その可動域の付け根へ命中した。瞬間的に顎の力を緩めてしまったアースロプレウラはコウモリの脱出を許してしまう。脱出したコウモリは床に後ろ足をつけ、身体をバネのように縮めて力を蓄えると、そのまま緩急をつけて開放した力に任せて片腕を敵の腹に深々と突き刺した。薄い腹側の外骨格が耳障りな音と共に砕け歩脚のいくつかが破壊される。更には内臓の一部も深刻なダメージを負った。

 

アースロプレウラは敵の思わぬ反撃に面食らい、まともな反撃すら出来ないまま一方的に攻撃されていた。最後に喰らった一撃が自身の腹に深々と突き刺さる。その内臓を抉られたことによる想像を絶する痛みの中、アースロプレウラは気力だけで渾身の反撃を仕掛けた。狙うはコウモリの首。先程は拘束のために肩口に噛み付いたが毒の効かないとあっては従来の戦法は使い物にならない。相手の息の根を止めるには、鋭い大顎で頸部を攻撃し動脈を切断するほうが確実と言える。都合の良いことにコウモリはサソリによって与えられた傷が致命傷になっているらしく、グラリとよろめくと突き出していた片腕を引っ込めてしまった。その一瞬のスキを突いて背後に回り込んだアースロプレウラは、コウモリに巻き付いて全身を締め上げ、背中から敵の頸部へ大顎を突き刺した。今度は腹の歩脚までも動員して全力でコウモリの動きを封じる。大顎がメリメリと音を立てて奥深くへと食い込み、遂に頸動脈を切断した。今度は紅い血飛沫が通路全体に飛び散り、鉄臭い匂いを放つ。

 

勝ちを収めたアースロプレウラはコウモリの報復に備えて身構える。だが眼の前に現れたのは怒りに身を震わせるコウモリではなく、敵を一匹残らず皆殺しにしたサソリの姿だった。

 

 

 

アースロプレウラが傷ついたコウモリと死闘を繰り広げていた頃、サソリは2頭のコウモリ相手に苦戦を強いられていた。タイマンでは苦戦しないはずの相手だが、狭い通路で挟まれてしまっては思うように反撃できない。見ると後方ではコウモリと水棲霊長類が殴り合っており満足に後退もできない。そこでサソリは左右の邪魔者を蹴散らすために蛇のような尻尾を行使した。本来は砂の中から獲物を探知したり軽く傷つけるために使う武器だが、その気になれば音速の鞭となり敵を滅多打ちにすることが出来る。この時コウモリ達は、圧倒的優位から生まれる攻勢に身を任せ、完全に防御を捨てていた。そこへ音速の鞭が襲来し、左側の1頭があえなく餌食となった。異様な唸りをつけて放たれた鞭はコウモリの腰骨を正確に捉えると同時に皮膚を切り裂き、骨に幾筋ものヒビを入れた。突如として下半身を走った痛みに崩れた左のコウモリは反射的にサソリから距離をとってしまう。そうして生まれた左の隙間を利用してサソリは急旋回を決めると、逃げ遅れた右のコウモリの胸元へ勢いそのまま左の捕脚を叩き込んだ。棘だらけの捕脚がコウモリの柔らかな体を完璧に拘束し、肋骨をジワジワと砕いていく。サソリの巨体から生み出される怪力には何者であろうと抗うことは出来ない。

 

捕らえられた右のコウモリは悲鳴を上げて仲間に助けを求めるが、腰を強打された仲間はすぐには助けに来られない。無論、残りの2頭も別の敵を殺そうと躍起になっているため来られそうもない。その間にも肋骨はゆっくりと、しかし確実に砕かれていく。どんなに悲鳴を上げても敵は拘束を解除しようとしない。

この危機的状況は冷静沈着なコウモリに遂に覚悟を決めさせた。一か八かの反撃を仕掛けようと幾分自由の効く左腕を振り上げた。

 

その刹那、コウモリの鋭敏な聴覚が猛スピードで転がってくる『肉塊』を捉えた。

 

『肉塊』の正体はサソリの後方で乱闘を繰り広げていた水棲霊長類だった。彼は馬乗りになってコウモリの喉笛を噛み潰そうと揉み合っていたが、スタミナの多寡により形勢が逆転。終いには馬鹿力を誇るコウモリによってサンドバッグにされ、数メートル離れたサソリの所まで跳ね飛ばされてしまった。持ち前の硬く分厚い皮膚のおかげで致命的な裂傷こそ負わなかったものの、全身を鋭い爪によってズタズタにされ挙げ句の果てには片目を潰されていた。パニックに陥った水棲霊長類は、後ろから迫る『切り裂き魔』から何としても逃げ延びるために目の前にある『障害物』は全てなぎ倒し、押し潰して進むつもりでいた。

その進路に運悪く居合わせたのがサソリだった。数百キロもの肉塊が死にもの狂いで突っ込んでくる様はまさに壮絶そのものと言える。仮に激突時に上へ乗り上げられようものならサソリの外骨格は圧倒的な荷重に耐えられずに砕け、命までは落とさなくとも重傷を負うのは火を見るよりも明らかだった。

 

 

水棲霊長類が爆走を始めたと見るや、コウモリ達は勝利を確信していた。

このまま突っ込んでくれればサソリと相打ちになるかもしれない。少なくとも片方は息絶え、生き残った方も深手を負うのは確実。…サソリに捕まった1頭が助かる可能性は低いがそれも避けられない犠牲。狩りに犠牲はつきもの…

 

そして残る2頭のコウモリは、それぞれ天井と壁に張り付いて高みの見物を決めこんだ。

 

『狩りに犠牲はつきもの…』

 

それは正しい、だが彼らはもう一つの真理を忘れていた。

 

 

 

『狩人が常に勝つとは限らない』

そのことをコウモリ達は次の瞬間に思い知ることとなった。

 

 

 

 

 

途中経過

 

《生存》

ラプトル…2体

スミロドン…2体

サソリ…2体

アースロプレウラ…2体

水生霊長類…1体

スクトサウルス…2体

未来の捕食動物…23体

人間…2人

 

《死亡》

 

未来の捕食動物1体…カッターにより殺害

 

オリバー·リーク…未来の捕食動物により殺害

 

スティーブン·ハート…スミロドンにより殺害

 

デリック·バートン(リークの部下)…カミン·シャスにより射殺

 

カミン·シャス…未来の捕食動物により殺害

 

ドレイク·ジーン…アースロプレウラにより殺害

 

未来の捕食動物…???により殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)…アースロプレウラにより殺害

 

未来の捕食動物(コウモリ)×3…サソリにより殺害

 

水棲霊長類…サソリにより殺害

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