けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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第9話「傾国」

「きれいだなー…」

「やー、本当だねー」

 

 あたしたちは今雪山地方に来ている。ビーストと化したアムちゃんも不思議そうに周りをキョロキョロと見ている。相変わらずただならぬオーラを放っているがこうしている分にはだいぶ大人しいものだ。むしろ喋らなくなったアムちゃんという塩梅である。

 あたしたちがジャングル地方で乗り捨てた荷車を誰かが再利用して、またどこかで乗り捨てたのか再び荷車を見つけたのは大変大きかった。

 

「アライさーん、大丈夫かーい?」

「イエイヌちゃんも無茶しないでねー?」

「アライさんにお任せなのだ!バリバリ働くのだー!」

「わふ!負けませんよ!」

 

 ぞりぞりぞりぞり

 

 犬ぞりと化した荷車はぐんぐん進んでいく。しかし上り坂というのに二人の体力には驚かされるばかりだ。速度を緩めずどんどん登っていく。このままいけばあっという間に着くのではないだろうか。

 

「ふーむ。しばらくは嵐は来ないだろうけどいつ天気が変わるかわからないからねー…」

「フェネックちゃん?」

「やー、前にかばんさんを追いかけてた時にここに来たことがあってね、その時にも天気が急に変わって立ち往生したことがあるのさー」

「そ、そうなんだ…」

「やー、かばんさんが温泉の危機を救ってねー、私たちも助けられたものだよー」

「そうなんだー…本当いろんな話を聞くなー。カフェを繁栄させたり合戦を治めたり…オイナリサマも温泉にいたりしないかなー」

「この地方に来るなら真っ先に行きそうなところではあるからねー。いると思うよー?」

「…だよね!」

 

 

…………

 

 

「さ、寒い…凍え死ぬ…」

 

 急に襲ってきた吹雪をしのぐためにかまくらを作って避難していた。小さなかまくらに六人入っているから結構ぎゅうぎゅう詰めである。

 

「ふぃーさみーな本当…」

「……」

「うぉ!?アム!?」

 

 ぎゅー。

 

「へ、へへ…暖めてくれるのか?さんきゅーな…けど…本当にあったけえや…アムの体…」

「ね、寝ちゃダメだよっ!」

 

 けどなんとなくアムちゃんのもふもふさは暖かそうな感じがする。なんていうかボリュームがある。けどアムちゃん自身は平気なのだろうか。あまり寒がってる様子は見られない。

 

「わっ!イエイヌちゃん!?」

「わたしも温めてあげます!」

「わっ!わっ!イエイヌちゃん!」

 

 上から押しつぶすような感じで上に乗っかって抱き着いてくる。セントラルで再会したときもこんな感じで抱きつかれたっけ。なんだか懐かしいな。

 見た目以上にもふもふで暖かくてなんだかほぐれていくような感じがする。無垢で純真なイエイヌちゃんの思いもあって身も心もほっこりと暖かい気持ちになっていく。

 

「あはは、仲いいねー」

「フェネックも温めてあげるのだ!」

「え?」

 

 ボスッ!

 

「わわっ、アライさんっ」

「ぎゅーなのだ!」

「ア、アライさん…」

「どうなのだ?暖かいか?」

「う、うん…」

「フェネックの体はとても冷たいのだ。砂漠に住むけものだから寒さに弱いのか?」

「…かもねー」

 

 六人分詰まっていた空間に空きができる。みんなが寒さをしのぐために抱き合っているのだ。傍から見ると面白くも微笑ましい光景に見えるかもしれない。だが一度この空間に入ってしまえばフレンズさんのもふもふの虜になること間違いないはずだ。現にあたしもイエイヌちゃんのもふもふに呑まれてしまっている。特にこの寒い吹雪の中での破壊力は抜群だ。二度と出たくないとさえ思ってしまう。

 

 なんだか遠くからキュラキュラと変なが聞こえてきた。この雪山には不似合いな無機質で気味の悪い音だ。

 

「なんだろう…何の音だろう…」

「この音…聞き覚えがあります…」

 

 徐々にこっちに近付いてくる。

 

「ク゛ウ゛ッ゛・・・!゛」

「ア、アム!落ち着け!」

 

《…なんだろうアレ、ヘンなものがあるよ!》

《かまくらかな…誰か避難してるかもしれない。見てみよう》

 

 声が聞こえた。かばんさん…?ザクザクと雪を踏み歩く音がしたと思ったら入口からぬっとかばんさんの顔がのぞいてきた。サーバルちゃんの姿もある。

 

「かばんさん!サーバルちゃんも!」

「ははは、今朝方ぶりだね。気になったからついてきちゃった!」

「やぁやぁ、お久しぶり、かばんさん」

 

 暖かそうなジャケットを着たかばんさんが顔をのぞかせる。サーバルちゃんも耳が立って変な形になってるけどしっかりと防寒着を着こなしているようだ。

 

「すごいね。自分たちで作ったのかい?」

「うん!表の荷車を盾にしながら作ったんだ。もう冷たいし寒いしで死んじゃうかと思ったよ」

 

 イエイヌちゃんが離れるとかばんちゃんと向き合った。途端にイエイヌちゃんが離れたところから冷気が一気に入り込んできた。

 

「ひぃ!さむっ!」

 

「あはは、バスがそこにあるから入りなよ。暖かいよ」

 

 ぞろぞろとバスに乗り込んでいく。音の正体はタイヤの部分を履帯に改造されたジャパリバスだったようだ。

 

「あれ?かばんさんは?それにこれ…なに作ってるの?」

「かばんちゃんはボスと運転しなきゃいけないから前の席で運転するんだよ!これは私もよくわからないんだけどじょーりゅーしゅ?っていうの作ってるんだって!私が火を怖がるから火が見えないように加工してくれてるんだよ!」

 

「へ~…」

 

 かばんさんお酒飲むんだ…しかも蒸留酒って強いやつじゃ…でも…

 

「あったか~い…空気も適度に湿ってて心地いいよ~…」

「わふぅ…そうですねぇ…」

 

 車内の暖かさに身を溶かすあたしたち。フェネックちゃんたちもご満悦のようだ。かばんさんは大丈夫なのだろうか。

 風にきしむバスに揺られながら雪山を登っていく。いつしか吹雪も止み、太陽が顔をのぞかせてきた。青空が見えるだけでも心が澄み渡るかのようだ。

 しかしアムちゃんはそうもいかなかったようで低い唸り声を上げ始めた。

 

「ウ゛ウ゛ゥ゛・・・」

「ど、どうしたの…?」

 

 初めて感じるであろうビーストのただならぬ殺気に怖気づくサーバルちゃん。

 遠くに見える建物を睨みながら低く唸っている。あそこに何かいるのだろうか。もしかしてオイナリサマとキュウビキツネさんが…?

 

「ど、どうしたってんだよ!別に何もないだろ!」

 

 いつの間にか眠っていたアライさんとフェネックちゃんが目覚める。殺気立つアムちゃんを宥めながらあたしたちはその建物に入った。なんだかバタバタと館内を走り回る音がする。やがて紺色の服を着た銀髪のフレンズさんがあたしに気付くと慌てた様子で話しかけてきた。

 

「わわわ、お客さん!?ごめんなさい!今それどころじゃないの!あああ~どうしよう~!!」

「ど、どうしたの?何か手伝うことがあれば手伝うよ?」

「手伝うどころじゃないのよ~!ああ~もう!オイナリサマだけならまだしもキュウビキツネさまやヤマタノオロチまで来るなんて~!」

 

 キュウビキツネさんはわかるけどヤマタノオロチ…?

 

「カ゛ァ゛!゛」

「アム!」

 

 アムちゃんが突撃していった。

 

「ちょ、ちょっと!!」

「アムールトラ!?」

 

 アムちゃんの咆哮と鈍い音が聞こえてる。どうやら誰かと戦闘に入ったようだ。

 銀髪のフレンズさんの顔が目に見えて青くなっていく。

 

「ど、どうしよぅ……」

「い、行こう!!」

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」

 

 アムちゃんの咆哮に怒りの色が混じる。どうやら苦戦しているようだ。

 女湯と書かれた暖簾を抜けて浴場に出ると三人のフレンズさんとアムちゃんがいた。

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!゛!゛カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛ク゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!゛!゛」

「ふはははは!もっと暴れてみせよ!」

 

 そこには無数の蛇に雁字搦めにされているアムちゃんの姿があった。

 

「アムちゃん…!?」

「ほう?見物客か。もしかしてこいつの仲間か?」

「あわわわわ…オイナリサマ…」

「……」

 

 鈍く黄色く光る不気味な目と縁がかった銀髪のショートヘアのフレンズさんがいた。どうやらその子が操る蛇のようだ。クツクツと気味悪く笑っている。

 

 ブチッ!

 

「カ゛ァ゛ッ゛!゛」

 

 蛇を引きちぎりそのフレンズさんへと飛びかかる。

 

「ほう?」

 

 次の瞬間、透明な壁にアムちゃんの攻撃が阻まれてしまった。

 

「カ゛ァ゛ッ゛!゛?゛」

「さっきからギャーギャーうるさいわよ」

 

 少しウェーブがかった髪をした鋭い目つきのフレンズさんがそう言うと、突然現れた透明の槍がアムちゃんを吹き飛ばした。アムちゃんはそのまま力なく倒れてしまった。

 

「アムちゃん!」

「アムールトラ!」

「アム!」

「ウッ…アッ…」

 

 意識を失い気絶してしまった。

 

「ふん!余計なマネをしてくれる…」

「ここはあなたひとりが楽しむところではありません。ここは皆が安らぐ温泉郷なのです。和を乱すのであればあなたでも容赦しませんよ」

「はっ!そーですかー!」

 

 白髪のフレンズさんが諫めるように言う。

 

「申し遅れました。わたしは皆からオイナリサマと呼ばれている者です。さっきあなたのお仲間に無礼を働いたのがヤマタノオロチ、そしてあの子がキュウビキツネです。どうぞお見知りおきを」

「襲い掛かってきたのはアイツだってのに…」

「あ、あたしはともえって言います!この子がイエイヌちゃんでこの子が…」

 

 

…………

 

 

「なるほど…そのアムちゃんさんのビースト化を解除してほしいと…」

「うん…ダメ…かな…大切なお友達なんだ…」

「はっはっは!自分から手を出しておいてお願いごとをするとは!ヒトとはそこまで傲慢になったか!」

「オロチ!…キュウビキツネ、できますか」

「何故私がやらなければならないのよ」

「わたしがやると時間がかかるからです!さぁ、早くやりなさい!」

「まったく…さあ、そいつを連れてきなさい」

 

 気絶しているアムちゃんをキュウビキツネさんの元へ連れていく。背中を見せろと言うのでアムちゃんの背中を差し出すとベシッと叩いた。

 するとびっくりしたようにアムちゃんが目を見開き、何やら苦しそうに口元を抑え始めた。

 

「ウッ…!!」

 

 ビチャビチャと黒いものを吐き出した。これがサンドスター・ロウなのだろうか?図書館で見たものよりもなんだかすごい水っぽい感じがするけど…

 

「ハァッ…ハァッ…」

「もう少しまともな方法はなかったのですか…?」

「早くしろと注文を付けたのはあなたじゃない。私はその注文に従っただけよ」

「そ、そうですか…とりあえずこれでアムちゃんさんのビースト化は解かれたはずです。アムちゃんさん、お気分はどうですか?」

「……へいき。なんともない…」

 

 

 アムちゃんが元に戻った…!けどこんなに簡単に解除するなんて…

 

「ありがとう!オイナリサマ!キュウビキツネさん!」

「ふふふ。ほら、キュウビ」

「……ふん」

「まったく、素直じゃないんだから…さあ、せっかく温泉に来たのですから、あなたたちも入りなさいな。ギンギツネの管理する温泉ですもの。きっと身も心も安らぎますよ」

 

 オイナリサマに誘われて服を脱ぎ温泉に入っていく。…本当に気持ちいい…関節や筋肉の緊張がまとめてほぐれていくようだ。体中の力が抜けていく。

 

「ほら、ギンギツネ、あなたも入りなさい」

「は、はぃ…」

 

 ギンギツネちゃんが神様相手に完全に委縮している。同じ狐でその上、神様が相手なら委縮してしまうのも当然なのかもしれない。

 

「そういえばキタキツネはどうしたのですか?」

「…あの子、どさくさに紛れてまたゲームしてるわね…」

 

 そう言うと素っ裸のまま館内に行ってしまった。良いのだろうか。

 

「ふふふ、毛皮を脱ぐというのがあまりなかったのですものね…可愛らしいわ」

「イエイヌちゃんは普通に脱いでたけど…」

「ヒトに最も身近なけものですもの。一度毛皮や衣服を脱ぐという認知をしてからはヒトのように順応できたのでしょう」

「わたしのお話ですか?」

 

 すすすとイエイヌちゃんが寄ってきた。

 

「良き主を持っているようですね、イエイヌ」

「はい!わたしの大好きなご主人さまです!」

「ふふふ、良いことです。イヌというものはどこまでも健気で、純真で、穢れを知らない善いけものです。あなたが愛情を示せば必ず応えてくれます。生き別れ、死に別れても、何度でも生まれ変わって大好きなあなたの元へと必ず帰ってくるはずです」

「………」

 

 イエイヌちゃんに視線を移す。ニコニコとあたしに笑いかけている。イエイヌちゃんの笑顔を見ているとなんだか本当にそのような気がしてくる。

 

「オイナリサマの言う通りです!わたしは何度だって死んでも何度でもともえちゃんの元に帰ってきますよ!ともえちゃんに忘れられても、わたしだって認識されなくても、ともえちゃんの元に帰ってきていつもみたいにじゃれてみせますから!」

「イエイヌちゃん…」

「それに…」

「??」

「そんな奇跡、もう既に起こしてますしね!」

「…え?」

「ほう?」

 

 一瞬言われた意味が分からなかった。けどその意味を理解したとき、あたしは泣きそうになってしまった。

 

「イエイヌちゃん…!」

「ともえちゃんの方から戻ってきたんです!わたしたちの友情はホンモノです!」

 

 ぎゅうっとイエイヌちゃんを抱きしめる。ケガワと違っておすべすべのお肌が直に当たる。けどそんなことがどうでもいいと思えるくらいあたしはイエイヌちゃんが愛おしく思えた。

 イエイヌちゃんとあたしは魂を超えて繋がっている。そんな気がした。

 

「ふむふむ、お二人の仲は相当に良いようですね。あなたたちの魂はもう結ばれているよう…一柱の神であるわたしもそう感じます」

「はっはっはっはー!!!!」

「!?」

 

 急にけたたましい笑い声が聞こえてきた。ヤマタノオロチさんだ。見るとかばんさんとつるんでいるようだった。

 

「貴様もよく飲むではないか!」

「いやぁ、それほどでも…」

「む、貴様の持っているそれ…酒か!?」

「あ、うん。自分で作ったウォッカだよ」

「なに!?」

「飲んでみる?」

 

 サーバルちゃんが遠くからフェネックちゃんと一緒にジトーっとした目で眺めている。あの目がお友達に向けられる目線なのかと少し悲しく思えた。それともかばんさんに悪がらみするオロチさんに向けられているものなのだろうか。

 

「クゥー!効くではないか!お前も良いものを作るではないか!気に入ったぞ!ヲッカといったか?」

「ウォッカだね。僕のはじゃがいもをベースにしてるからオロチさんのとはちょっと味わいが違うかもしれないね」

「うむ。しかしこいつはかなりの辛口でよく沁みるわい!」

 

 なんだかすごく盛り上がっているようだ。アレに近付くと間違いなく嫌な絡まれ方をされるだろう。君子危うきに近付かず。くわばらくわばら。

 

「サーバルちゃん!こっちに来なよ!楽しいよ!」

「はっはっはっ!!近うよれ!」

「うみゃ!?」

 

 南無三サーバルちゃん。慈悲もなくオロチさんから生えている蛇に絡まれて彼女たちの元へと引きずり込まれていく。文字通りオロチさんの毒牙にかかってしまったようだ。毒牙にかかったサーバルちゃんはヒトの魔の手によって蹂躙されるのみであった。

 

「オロチさ~ん。サーバルちゃんの耳ってすごくかわいいと思わないか~い?ふへへ。こうやってお耳や尻尾をさわさわするのが向こうでの唯一の楽しみだったんだからね~」

「や、やめてかばんちゃん!なんか変だよ!?それにすごい臭いよ!」

「そりゃあ、お酒飲んでるからね~。あ~ふわふわして気持ちがいいや~…かわいいなぁ、サーバルちゃん…食べちゃいたいかも」

「た、食べないでよ!?」

「ぬ、ぬへへ…」

 

 夫婦漫才を見せられているようだ。そして既にオロチさんの毒牙にかかっていたフレンズさんの一人であるアライさんがフェネックちゃんの尻尾を懸命に洗っていた。

 

「ははは、洗い上戸なんだねー、アライさん」

 

 わしゃわしゃわしゃわしゃ

 

「ぬへ、ぬへへへ…」

「あー、そんなとこまで…そこはちょっとストップしてもらったほーが良いかなー、あははははー……ふへっ……」

 

 ぶくぶくぶくぶく…

 

「あはは…みんな楽しそうだね…」

「和を以って温泉の静かな雰囲気を楽しもうと思ってここへ来たのですが…これは咎めるのも野暮なのかもしれませんね」

「だね。そっとしておこっか」

 

 楽しそうに自由に遊ぶフレンズさんを和やかに見守っていると、隅っこでゴマちゃんと一緒に入っていたアムちゃんが目に入った。なにやら口をもごもごと動かしている。

 

 ぺっ!

 

「っ!!!アムちゃん!?」

「な、何吐いてんだお前!?」

「……サンドスター・ロウ?」

 

 黒い液体みたいなのがふよふよ浮いている。これは唾以上にまずいものなのではないか。

 

「イイィィィィィ!?こっち来んな!!あっち行け!!」

 

 バシャバシャと自慢の足で向こう側へ追いやろうとするゴマちゃん。その抵抗も空しく波に逆らうかのようにゴマちゃんの元へと漂着するとゴマちゃんの体に吸い込まれてしまった。

 

「なっ!?」

 

 顔が絶望色に染まっていく。青くなった顔でワナワナと体を震わせるとアムちゃんに襲い掛かった。

 

「どうすんだよおい!ビーストになっちまうだろーが!」

「そしたらあたしの仲間だよ。嬉しいでしょ」

「ちっとも嬉しかないわい!」

「あたしは嬉しい」

 

 バシャバシャとゴマちゃんに揺さぶられながらあはははと絶妙な棒読み加減で笑うアムちゃん。もしゴマちゃんがビーストになるとしたらどうなるだろうか。ビーストになる兆候も見られないしあの程度の量であれば特に問題もないのかもしれない。オイナリサマたちもさしたる反応も見せないしやっぱり問題はないのだろう。

 

「うぅぅぅ~…さむさむ…」

「ふぁぁ…」

 

 ちょうど忘れていたところにギンギツネちゃんが他の狐っぽい女の子と一緒に入ってきた。ギンギツネちゃんにそっくりでいかにも狐っぽい色合いをしている。

 

「ほら、挨拶なさい。キタキツネ」

「キタキツネだよ~。よろしく~」

 

 しっかり者のギンギツネちゃんに対して何だかダウナーな雰囲気を醸し出している。だるだるとした雰囲気が何とも言えない。

 

「ふあ。本当にオイナリサマとキュウビキツネさんがいる…」

「わざとらしい…あたしと一緒にあたふたして走り回ってたのに…まさかゲームをするための演技だったの?」

「まぁね」

「あんたねぇ…」

 

 キタキツネちゃんが呆れている。けどゲームって…?

 

「キタキツネちゃん。ここってゲームがあるの?」

「んん。あるよ。やる?」

「うん!やりたい!」

「いいよ。行こっか」

「だーめ。まだ入ったばかりでしょ!それに出るときはちゃんと30数えてから!」

「えー…」

 

 なんだかオイナリサマとキュウビキツネさんみたいだ。それとも姉妹と言うべきか。いずれにせよぴったりのコンビのように見える。

 オイナリサマはゆったりとくつろいでいる。けどなんだかあたしは少しのぼせてきちゃったかもしれない。もうそろそろあがろうかな。

 

「あたしそろそろ上がろうと思うんだけどイエイヌちゃんはどうする?」

「わたしもあがります。体お拭きしますよ!」

「いや、いいよ!自分でやるから!」

「そう言わずに!」

「うわぁ!イエイヌちゃん!」

 

 

…………

 

 

「はぁ~、いいお湯だった~。体がふにゃふにゃになったみたいだよ~」

「そうですね~。温泉がこんなに気持ち良いなんて~…毛皮の下もすべすべで心も体もほぐれちゃいました」

 

ヴヴヴヴ

 

「ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」

 

 アムちゃんがマッサージチェアに背中をごりごり刺激されているようだ。小さく呻きながらその快感に身を任せている。あたしの身長だとちょうどあのごりごりが頭のところに来て脳みそにすごい振動が来るのだ。こういうときにアムちゃんの身長が羨ましく思ってしまう。

 

「気持ち良いのか?それ」

「気゛も゛ち゛ぃ゛ぃ゛……」

「すげえ声出してんぞ…」

 

 もっともな感想を言ってくれてどうも。

 アムちゃんの体が振動に合わせて小さく揺れている。見ていてちょっと面白い。

 

「ともえちゃんともえちゃん!」

 

 イエイヌちゃんが小走りで駆け寄ってきた。手に何かを持っているようだ。

 

「はい!これ!」

「おお、これは…」

 

 温泉の定番、牛乳である。持ってきてくれるのはありがたいけど大丈夫なのだろうか。

 

「フリシアンさん印の牛乳ですよ!パークでも大人気のミルクです!」

 

 フリシアン…たしかホルスタインだっけ?ちゃんと牛乳を作るフレンズさんがいるんだなぁ。けどイエイヌちゃんに牛乳は大丈夫なのだろうか?イヌに牛乳は栄養過多で体調を崩すって聞くけどフレンズ化した今は大丈夫なのだろうか?ルンルンと器用に蓋を開けるイエイヌちゃんだけど一応聞いておいた方がいいだろう。

 

「イエイヌちゃんって牛乳大丈夫なの?体調崩したりしない?」

「大丈夫ですよ!パークのみんなも喜んで飲んでますし、わたしもたまに行商のロバさんからいただいた牛乳を飲んでましたから!」

 

 えへへと小さく笑いながらあたしの牛乳瓶も開けてくれた。小気味良い音と共に開かれた牛乳瓶からは、ひんやりとした冷気が手を伝ってくる。澄んだまろやかな良いにおいが鼻の中に流れてくる。

 お互い目配せをすると一緒に喉を鳴らしながら牛乳を一気に飲み干した。冷たい感触が体の中を駆け抜けていく。牛乳のまろやかな味がたまらない。やっぱり温泉にはこれがないとね。

 

「ぷはー!サイコーだね!」

「はい!フレンズ化した今、ヒトとこうして楽しむのがとっても幸せです!」

 

 冷たい感触がよく沁みる。イエイヌちゃんも良い顔をしていてとてもほっこりする。当初の目的とは違えど、解決した今はこれくらい楽しんでも良いはずだ。それとももう既に楽しんでいたか。当のアムちゃんもずっとマッサージチェアに夢中のようだしいいよね?

 

 ガハハハとけたたましい笑い声が聞こえる。温泉から上がった後もあの方たちは酒盛りを楽しんでいるようだ。そういえばサーバルちゃんとアライさんとフェネックちゃんの姿も見当たらない。恐らくあの二人に巻き込まれたのだろう。ご愁傷様である。

 

「サーバルちゃんたち、大丈夫でしょうか」

「たぶん大丈夫じゃないと思う。かばんさんもお酒飲むと変わるんだなぁ…温泉でサーバルちゃんのお耳をすごいもふもふしてたし、今ごろどうされちゃってるんだろう…フェネックちゃんもちょっと心配かも」

「あはは…全身くまなく洗われてましたもんね…」

 

 あの光景は見ていてすごかった。セクハラなんてものじゃない。悪意も何もないのだろうけど、アライさんは純粋に洗っていたのだろうとあたしは思うことにした。抵抗せずにアライさんにされるがままのフェネックちゃんもフェネックちゃんとも思った。洗い上戸…恐るべし。

 

 その後あたしはキタキツネちゃんのいうゲームで遊んで、いつも以上にふっくらになったイエイヌちゃんをもふもふして眠るのだった。

 

 

…………

 

 

「じゃあ、またね!ギンギツネちゃん!キタキツネちゃん!」

「ええ、またいらっしゃいな。道中気を付けるのよ?」

「またね」

 

 あたしたちはギンギツネちゃんたちとバイバイした後ジャパリバスで下山していった。

 

「頭が痛いのだぁ…なんなのだ…?」

「かばんちゃんも頭が痛いって言ってた。朝から吐いたりお酒の臭いがすごかったりしてたけど大丈夫なのかなぁ…?それにアライさんからも臭うよ…?」

 

 二日酔いに苛まれる二人がいた。アライさんからもお酒のにおいがする。あたしでも臭うんだからサーバルちゃんやイエイヌちゃんからしたらすごく臭うのだろう。運転席でうなだれるかばんさんからは時おりえずく声が聞こえる。明らかに飲みすぎである。

 お酒はほどほどに飲むのが大事なのだとなんとなくわかった気がした。特にかばんさんの様子を見ていると強くそう思ってしまう。しかしあの人に運転を任せて大丈夫なのだろうか。

 

「あの…かばんさん大丈夫なの…?

「んん…うぅーん…」

 

 返事がない。ただの酔い潰れのようだ。

 

「カバンガ ウンテンスルト アブナイカラ ボクガ バスト リンクシテ ハンジドウウンテンデ ウゴカシテイルヨ。 ダカラ アンシンシテネ」

「そういうことだから…安心していいよ…」

 

 なるほどと思って少し安心する。よく見るとハンドルが勝手に動いているのがわかる。本当に自動運転しているようだった。こうして見るとすごい技術だなーって少し感心してしまう。

 

 いろんな余韻を残すあたしたちを乗せてバスは雪山を降りていく。無事ビースト化が解けたアムちゃんも気持ちよく風に当たっているようだ。神様と触れ合えたこと、フレンズさんたちが楽しく温泉で遊んでいた光景をまぶたに浮かべながらあたしたちは図書館への帰路についたのだった。

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