けものフレンズR ~Re:Life Again~ 作:韓非子
※この話は第10話「砂漠」から分岐するifストーリーという立ち位置です※
Ex1話「鵺・リバイバル」
私は眠れなかった。あの日、あの子は私に何と言ったか。読めてる?私は確かに"その本"に書かれていた"文字"を読んでいた。私は"それ"を"文字"と認識して"読んで"いた。けど……私は……
あの時、私は何を読んでいた…?思い出せない…あの時読んでいた文字は?何と書かれていた?思い出そうとするがどうしても思い出せない。確かに何か書かれていたはずだ。その前に読んだ本の内容やどういう記述がされていたかはっきり思い出せる。しかし、ネクロノミコンに書かれていた文字というものが全然思い出せない。あの子が来る前にも少しだけ読んで、あの子が来た時にもう一度読んだ。二回も読んだはずなのに全然思い出せないのだ。
…もう一度読みたい。一体あの本には何が書かれてあったのか、もう一度この目で確かめたい。いったい私は何を読んでいた?
しかし、その本はともえが燃やしてしまった。確かめる手段がないのだ。もう諦めるしかないのか。非常に残念だ。
ふと横を見る。ベッドの横にあるチェストに本が置かれている。ロッジに本を持ち込んだ記憶はないのだが…私はその本にひどい魅力を感じていた。体を起こしてその本を手に取ってみる。…忘れるはずがない。ヒトのカワで装丁された忌々しい魔導書、ネクロノミコンがそこにあった。あの時ともえが燃やしたはずなのにどういうことだろうか。
恐る恐るその本を手に取ってページをめくってみる。
いったい何が書かれてあるのだ…?全く読めない…あの時いったい私は何を読んでいたのだ?確かに私は"それ"を"文字"として読んでいた。しかし、今私が読んでいるこの本には文字が書かれていない。文字として認識できない。動悸がする。息が荒くなってくる。酷く恐ろしい気持ちになってきた。
気持ちを落ち着かせてページを進めていく。あの時私は何を読んでいたか確かめなくてはならない。確かめなくては気が済まない。
ページを進めていく。そのページにはあの鵺の姿があった。相変わらず何が書いてあるかわからない。
─────でも………あの時………私は………この文字を………
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
言葉が漏れた。そうだ。あの時の私はこの字を読んでその言葉を口にしたんだ。
ともえが言った読めているのかという問いの意味がようやく分かった。私は確かに読んでいた。この意味が分からない線の羅列を私は読んでいたんだ。酷く恐ろしい気持ちになってきた。
「死せるクトゥルー、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり」
ドクンと何かが跳ねた。体が震える。手から本がドサッと零れ落ちた。途端、本から黒い煙のようなものが舞い上がってきた。
「あ……あ……」
なにかとんでもないことをしたようなことだけはわかる。煙の合間から少女の姿が見える。
猿の頭、狸の体、虎の手足、蛇の尻尾…鵺だ。鵺のフレンズがそこにいた。
「ふ…ふふふ…あはははは!!憐れなり!よくぞ私を呼び覚ましてくれた!まさに期待通りだ!ふふふふ…大概の者はこの本を読めないのだが、まれにお前のように読めるものが現れる…お前に目を付けて正解だったぞ。憐れにもこの私を呼び覚ましてくれたのだからな!あっはははは!」
高らかに笑うこの鵺のフレンズ。よくわからないが、とんでもなく邪悪な存在ということはその言動からわかる。わたしはとんでもないものを召喚してしまったようだ。
「お前は…何者なんだ…いったい何が目的だ…!」
「うん?お前にわたしはどう映っている?」
「私には…鵺だ。キメラのような合成獣に見える」
「そうかそうか。ならばそれで良い。真の姿を見られるのは私にとっては屈辱だからな」
「………」
真の姿…あの本に書かれていた少女の姿だろうか…?
「ふん、そうか…ならあの本に描かれていたあの少女の姿がお前の真の姿というわけかい。いいさ、その姿…必ず暴いて見せる…!」
「……余計なところまで見よってからに…ふん!恐怖の心がある限り私の真の姿は見破られん。あの方を目覚めのためにもこの島を…パークを恐怖で埋め尽くす!未知なる恐怖に怯えて死ね!!」
高笑いをあげながら鵺は飛び去って行った。あの方の目覚め…?
"死せるクトゥルー、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり"
まさか…あのクトゥルーというものを呼び覚ますつもりなのか?クトゥルーなんてけものは聞いたことがない。…パークを恐怖で埋め尽くす。そうすることで目覚めるとあいつは言っていた。きっとろくでもないものに違いない。何が何でもあいつの計画を阻止してみせる…!
…………
「ヌエ…ですか…」
この危機を伝えるために私は博士たちの元へ向かった。この島の長であるこの二人であれば今回のパークの危機も広めてくれるはずだ。けどまずは私の話を信じてくれるかだ。
「新種のフレンズでしょうか、博士。トラツグミのフレンズなのです」
「違う!妖怪のフレンズだ!ヤマタノオロチのような…神獣に類する獣だ」
「ああ、鳴き声が気味悪いからとヒトに倒されたあの鵺ですか。その鵺がフレンズ化したのですか?」
信じてくれているのだろうか…フレンズ化したところではない。アレは確実に悪意を持って動いている。どうにかして事の重大さを伝えなければならない。
「したのですかではないんだ!そいつがパークを恐怖で埋め尽くすと言っているんだ!クトゥルーというものを復活させようとしているんだよ!」
「なんと」
「知っているのですか?博士」
「いいえ。くとぅるーなんてけものは聞いたことがないのです。タイリクオオカミこそ、くとぅるーというけものを知っているのですか?」
「うっ…」
博士たちすら知らないけもの…博士たちが知らないものを私が知っているはずがない。博士たちなら何か知っているかもと思ったのだけど、あまり良い答えはもらえなかった。
「いや…私もどういうけものかは知らない…ただ、鵺の口ぶりからするにロクでもないけものであることだけは確かだ。鵺の計画を阻止するためにも、目覚めを阻止しなくてはいけないと思う」
「ですね。我々の方でも調べておくのです。助手はパークにくとぅるーの復活を企む鵺というフレンズがいるということを知らせるのです」
「わかりました、博士」
助手が外へ飛び出して行った。なんとかこの危機がパーク中に広まってくれることを祈る。
…私にもできることを探そう。もとはといえば私が原因で起こったことだ。私がどうにかしなくては…
「どこへ行くのですか」
「私にできることを探す。この騒動の原因は私だ。私が起こした始末は私がつけたい」
「…無茶をするのではないですよ。例えお前が原因だったとしても、困難は群れで分け合うのです。パークの危機は皆で救うのですよ。何も一人で背負い込む必要はないのです」
「…すまない、博士」
「…僕にも手伝えることがあったら遠慮なく言ってほしい。僕もサーバルちゃんと一緒に可能な限り手伝いたい。僕はパークで生まれたときから、キョウシュウエリアを出るまで、いろんなフレンズさんに助けられてきた。今度は、僕の方から恩返しをする番だ。僕もオオカミさんやパークのみんなを助けたいって思うんだ」
「そうだよ!タイリクオオカミ!一人じゃないんだから!くじけそうなときや泣きそうなときは遠慮くなく頼ってもいいんだからね!かばんちゃんもすっごく強いんだし、私にできることがあったら全力で手伝ってあげるよ!」
「…うん。ありがとう」
私たちの長い戦いが始まる。パークを脅かす巨悪、鵺。永い眠りから覚めるであろう未知なるけもの、クトゥルー。これらの悪行を決して許すわけにはいかない。私はフレンズのため、パークのため、自分の犯した罪のため、皆の笑い合う平和な美しい世界のため、そして鵺を倒すために、パークを救う旅に出る。