けものフレンズR ~Re:Life Again~ 作:韓非子
「ここ最近セルリアンが奇妙な動きを見せているのです」
「奇妙な動きって?」
博士たちが昨今の鵺騒動から鵺の行動を調べているらしく、その過程でセルリアンの行動が変化しているということが分かったとのことだった。
「詳細は助手が引き続き調べているのですが、フレンズを襲うことがなくなった代わりに群れを作ってあちこち移動してまわっているそうなのです」
「へえ…」
「かばんちゃんとゴコクエリアにいたときも、よく三匹くらいで集まってるのを見てたけどそれとは違うの?」
「違うのです。単独で行動するセルリアンがほとんど見られなくなったのです。数の有利がある分フレンズを襲いやすくなったと思うのですが、フレンズを襲うという報告もなくなったのです」
「それは興味深いね…」
セルリアンも鵺を探しているのだろうか。セルリアンはモノや動物の持つ輝きを奪ってその情報をコピーするのだという。鵺という新種のけもの…あの子の情報を奪おうとしているのだろうか。僕にセルリアンの気持ちはわからないけど、いずれにせよ鵺を追い詰められるならそれを利用しない手立てはない。セルリアンでもなんでも利用できるものは利用しなければ。
…………
バスをセントラルに向けて走らせていく。タイリクオオカミさんが事件の解決に向けて頑張っているのに、僕だけのうのうとゆっくりしているわけにはいかなかった。
僕たちが目指したところは管理施設、パーク・セントラルにある情報管理施設だ。欲を言えば中央管理室、トップシークレットが隠されているような施設が良いんだけど、この緊急の際にわがままを言うわけにはいかなかった。
「ココダヨ」
「ありがとう、ラッキーさん」
ガチャガチャ。
「開かない…」
押しても引いても開かない。それ以前にひどく渋い感じがする。鍵がかかっているのかドアノブもうまく回らない。それに何だか錆びついているのかガリガリと不快な感触が手に伝わってくるようだ。
「サーバルちゃん、どこか適当なところから入って中から開けてくれないかな」
「うん!」
サーバルちゃんはぴょんと跳ぶと割れた窓からひょいと中に入っていった。しばらくすると僕を呼ぶ声が扉の向こうから聞こえてきた。
「かばんちゃん!どうすればいいの?」
「ドアノブに変なぽっちみたいなのがないかな?もしあったらそれをつまんで回してほしいんだ」
「これかなあ?」
ガリッと不快な音と共に鍵が外された。やっぱり立て付けが悪くなってるせいかひどく開けにくかった。中はひどく荒れていた。なんだか争ったような形跡もある。しかし、どれも埃にまみれていて、長い間誰も中に入った様子は見られなかった。
サーバルちゃんと共に上へと上がっていく。いくつか部屋を見て回った後、情報センターと思われる部屋を見つけた。
幸いにも電気は通っているようだった。ラッキーさんたちは電気の維持もしているのだろうか。いや、今はそんなことを考えている暇はない。鵺や彼女の目的であるクトゥルーの復活について調べなくては。
「うーん…サーバーに入れない…ラッキーさん、セキュリティの解除ってできる?」
「マカセテ」
チチチチとノイズみたいな音を出している。ディスプレイにはなにやら文字がいっぱい流れていっている。どうやらラッキーさんがハッキングを試みているらしかった。これは少し時間がかかりそうだ。適当な容器を用意してラッキーさんのバンドを括り付けると僕は席を立った。
「ごめん、ラッキーさん。少し頼むね」
「マカセテ」
サーバルちゃんが窓から外を見ている。僕も窓に向かうとサーバルちゃんと一緒に外を覗いた。
「何見てるの?」
「セルリアン…博士の言ってた通りセルリアンがいっぱい…どれも群れで行動しているよ」
「本当だね…。…サーバーに入れたら過去の文献を見てみよう。セルリアンに関することも何かわかるかもしれない。もし中に入ってこられたら困るから、サーバルちゃんには外の警戒をしてもらってもいいかな」
「うん!任せて!」
そういうとサーバルちゃんは部屋から出て行った。ラッキーさんもハッキングが完了したと僕に知らせてくれた。バンドを右腕に着けなおすと目に入る資料に目を通してみた。セルリアンのことに書かれている資料もいくつかあるけど、めぼしいものは見つからなかった。フレンズから輝きを奪ったセルリアンが恐竜のような見た目になったり、自我に近いものを持つことがあったというのは興味深かったけど、今必要な情報ではなかった。
「これは…?」
「かばんちゃん!」
気になる情報を見つけたところでサーバルちゃんが部屋の外から声をかけてきた。
「ツチノコが来たよ!どうしよう?」
「ツチノコさんが?いいよ。通してあげて」
「うん!ツチノコー!こっちだよー!」
カランコロンと下駄を鳴らす音が聞こえてくる。どうやら本当にツチノコさんが来たようだ。やがてその懐かしい姿が僕の目に入ってきた。
「おー、本当に帰って来てたか!久しぶりだな!」
「うん。久しぶりだね、ツチノコさん。元気にしてたかい?」
「オレは変わらずヒトが残した史跡を巡ってぶらぶらしてるぞ。しかしお前も随分変わったな!相変わらずヒトというのは面白いな~!」
カランコロンと音を立ててぴょんぴょん跳ねるようにしながら僕の所へ寄ってきた。
「何を見ているんだ?」
「パークの過去の記録を見ているんだ。ちょうど今面白いものを見つけたんだけど…」
「お?どれどれ…」
黒いセルリアンが過去に出現したという記録だ。その記録によれば黒いセルリアンは非常に統率が取れていて通常のセルリアンより強力だったということだった。また、フレンズさんが持っている武器を取り込んで自分の体の一部にしたとも書いてある。
「ほうほう…黒いセルリアン…あのデカブツにそんなことができるっていうのか?」
「わからない…でも、可能性は十分にある。今回のセルリアンは黒くはないけど群れで行動しているし、似たような状況下にあるのかもしれない」
「ふーむ…これによれば群れの統率が取れててそれぞれが役割を果たしながらフレンズを襲ってたみたいだが、今回はフレンズを襲ってないみたいだし…わからんな」
過去の出来事から今回の出来事について憶測を立ててみる。当時と似ているようでどうも違うというのがお互いが導き出した答えだった。フレンズを襲うはずのセルリアンが襲ってこないというのが一番の謎だ。セルリアンにとってフレンズの輝きより大事なものでもあるのだろうか。
「…とりあえず他のものでも調べよう」
ページを閉じて他の資料を漁ってみる。鵺が言っていたクトゥルーというものについて探してみる。
「うーん…どれを見ればいいんだろう…。…そういえばツチノコさん、クトゥルーってきいたことある?」
「あ?なんだそりゃ」
「うーん…知らないかぁ」
博士たちはおろかツチノコさんすら知らないという。他にもギンギツネさんの温泉で会ったオイナリサマにも聞いてみたい気もするけど今はどこにいるか知らないし…
ふと一つの閃きが頭をよぎった。
「そういえばラッキーさん、オイナリサマについて教えてくれるかな?」
「オイナリサマハ フルクハ ホウジョウノ カミサマトシテ シンコウサレテイタ シュゴケモノダネ。 オイナリサマハ ヒトツノ カミサマヲ サスモノデハ ナクテ フクスウノ カミサマヲサス コトバナンダヨ」
「なるほど…じゃあ、鵺について教えてもらえるかな」
「ヌエハ トラツグミノ ベッショウトシテ シラレテイルヨ。 ヨルニ アヤシイコエデ ナク トリヲ ヌエト イウンダネ。 トラツグミハ ソレノ ダイヒョウテキナ トリナンダヨ」
「うんうん…じゃあ、クトゥルーについてはどうかな?」
「クトゥルー… ケンサクチュウ。ケンサクチュウ。ボクノ データニハ ソンザイシナイヨ。 オソラク パークニ ソンザイシナイ ケモノ ナノカモネ」
「うーん、そうかぁ…ごめんね。ありがとう、ラッキーさん」
ダメだった。ラッキーさんだったら何か知ってるかもと思ったけどラッキーさんも知らないようだった。
引き続きパソコンで情報を漁っていく。どうやら情報管理室ではすべてのエリアの図書館に所蔵されている本を調べられるようだ。鵺は妖怪だ。どうぶつ図鑑で調べられるような獣ではない。加えて鵺が口にしていたというクトゥルーという名前…間違いなく海外の獣…妖怪だろう。調べるとしたら…
「聖書…」
新しくタブを開き閲覧モードにして本を読み進んでいく。独特な表現や注釈の多さに早速出鼻をくじかれてしまう。
「こ、これは骨が折れるぞぅ…」
「……ま、オレはオレで調べておくからがんばんな」
「う、うん…ありがとう…」
…………
───いつの間にか寝てしまっていたようだ。時計を見ると時刻は12時を回っていた。適当に流し読みをしていたがクトゥルーに関する記述はなかった。内容は頭に入ってこなかった。しかし、読むのにひどく疲れてしまった。
ふと傍らを見るとコップに入った水とジャパリまんが置かれていた。サーバルちゃんが気を聞かせて置いてくれたのだろうか。
ジャパリまんを口に運ぶ。一人で食べる食事はひどく寂しい感じがする。思えばいつも僕のそばにはサーバルちゃんがいたっけ。ゴコクエリアでは無意識のうちにひどいことをしてきたんだ。これからはサーバルちゃんともいっぱい遊んであげなくちゃいけないな…。…そういえばサーバルちゃんはどこに行ったんだろう?それに変な笛のような音もする。
「何の音だろう…」
ぽつりと呟いた。音は外から聞こえてくる。ふと下を見るとサーバルちゃんがぽつんと一人で立っていた。あちこちに耳を動かして音の正体を探っているようだ。
「トラツグミノ ナキゴエダネ。ケド…」
「けど…?」
「キヲツケテ。ヌエカモ シレナイヨ」
「…っ!!」
トラツグミの鳴き声…鵺の鳴き声だ!
「サーバルちゃん!」
「!!」
「急いで上がってきて!近くに鵺がいる!」
「え!?う、うん!」
近くにいる…!デーンアックスを構える手に力が入る。まだ見ぬ未知なる敵への恐怖は計り知れない。息が荒くなってくる。額からは脂汗がにじみ出てくる。
「かばんちゃん!」
サーバルちゃんが部屋に飛び込んできた。僕が寝ている間にもあの鳴き声に対して一人で警戒に当たっていたのだろう。なんと労えばいいのか…
「ごめんね、僕が一人で寝ている間にも一人で鵺と相見合っていたんでしょう?怖かったよね…」
「え?あの音って鵺の鳴き声だったの!?」
「サ、サーバルちゃん…」
鵺の鳴き声と気付いてなかったようだ。そういえば僕も知らなかったっけ…ラッキーさんに教えてもらって初めて鵺の鳴き声と分かったんだ。
『ふふふふ…はははははははは!』
「っ!?」
不意に笑い声が聞こえてきた。音の所在がわからない。どこから聞こえているのか。
「サーバルちゃん、気を付けて…鵺かもしれない…!」
「う、うん!」
まるで室内に反響しているかのようだ。全方向から"そいつ"の笑い声が聞こえてくる。
『さぁ…沈め!』
不意に部屋に影が現れた。まるで炎のように踊るそれはやがて獣の形をとり始め、僕たちに襲い掛かってきた。あっけに取られていた僕は何もできずにいた。
「あ…っ!」
「みゃあああああああ!!」
サーバルちゃんが"獣"の側頭部を攻撃して吹き飛ばした。寸でのところで僕は助かったのだ。
「ご、ごめんサーバルちゃん…油断した…」
「だいじょーぶだよ!かばんちゃんのピンチは私に任せて!」
「…うん!」
気を取り直して"獣"を睨む。猿の頭、狸の体、虎の足、蛇の尻尾…あれが鵺…
「くっ…ダァ!!」
鵺の元へ駆け寄り脳天を叩き割るようにアックスを振り下ろす。デスクやパソコンのせいで自由に身動きが取れない。それはサーバルちゃんも同じようだった。
「うみゃあ!みゃああああああああ!!」
サーバルちゃんがデスクから飛ぶたびにパソコンやテキストが床に散乱していく。これでは僕もどんどん動きにくくなる。どうにかして開けた場所…外に出なくては…
対する鵺はそんなものを物ともせず突撃してきて僕たちに攻撃してくる。虎の腕はデスクを薙ぎ払い、おぞまし気な猿の頭は僕の体を食いちぎろうとしてくる。
「このままじゃいずれ負けてしまう…どうすれば…!」
そのときだった。
「かばんちゃん!セルリアンが!」
「え?」
三匹のセルリアンが部屋に入ってきた。鵺を取り囲むように戦いに乱入してきたのだ。
「こ、こんなときに…!」
しかし様子がおかしい。その目は鵺に向けられていた。僕たちのことには目もくれずに鵺に飛びかかって攻撃している。
「かばんちゃん!こっち!」
「う、うん!」
僕を窓の方まで誘導すると僕を抱きかかえて外に飛び降りた。
「ありがとう、サーバルちゃん。あのままじゃどうなるかと思ったよ…」
「私も…狭くて全然思うように動けないもん」
「WOOOOOOOOOOAAAAAAAUUWWWW!!!」
不気味な咆哮が聞こえてきた。あの鵺の咆哮だ。あの細い笛のような鳴き声からは想像もできないほどの野太い咆哮だ。
瞬間、僕たちのいた部屋の壁が吹き飛ばされ、ズンという衝撃と共に鵺の体が落ちてきた。セルリアンたちを相手に意外と苦戦していたようだった。
一匹のセルリアンが鵺の体に覆い被さった。二匹目、三匹目と覆い被さり、やがて鵺の体を呑み込んでしまった。呻き声をあげ、バタバタと抵抗しているようだが、やがておとなしくなるとセルリアンに完全に呑まれてしまった。
「セルリアンに食べられちゃった…」
「……」
セルリアンの体が変形し始める。色こそセルリアンの色と変わらないものの、変形したその姿は鵺そっくりだった。猿の頭にあるセルリアンの単眼が僕たちを見下ろす。
「っ…」
「さ、させないんだから!」
鵺の形をしたセルリアンは僕たちを一瞥するとどこかへ行ってしまった。僕たちは二人その場に取り残されてしまった。
「た、助かったのかな…」
「ど、どうなんだろう…」
僕たちは訳も分からずその場に立ちすくんでいた。
建物を見遣ると見事に僕たちの使っていた情報管理室が破壊されていた。アレではもう調べ物もできないだろう。
ふと後ろを振り向くと一人のフレンズさんが立っていた。虎の手足に狸の体、蛇の尻尾を持っている。あれは…鵺のフレンズだろうか。
「キミは…」
「ふん、運のよい奴め…今回は見逃してやる。だが、調子に乗るでないぞ。未知への恐怖を忘れた者は必ず死ぬ。それだけはゆめ忘れるな」
そう言うとそのフレンズさんは飛び去って行った。
僕たちが見た妖怪・鵺、鵺をコピーしたセルリアン、鵺のフレンズ…僕たちは何の手掛かりをつかむことはできなかったけど、確実に一歩前へ進むことはできた。タイリクオオカミさんやパークのためにも、もっと頑張らなくては。事件解決にはまだほど遠い。まだ戦いは始まったばかりだ。