けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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Ex3話「キルゾーン」

 「ハァ…!ハァ…!」

 

 砂漠地方を抜けた先のジャングル地方、あたしたちは必死に化け物から逃げていた。猿の頭と虎の手足、狸の体と蛇の尻尾…恐らくタイリクオオカミさんが語っていたあの鵺なのだろう。しかし、どうしてあの鵺が三匹も四匹も、いや、五匹、十匹もいるのだろうか。とにかくあたしたちは五メートルはあろうかというたくさんの化け物から逃げていた。

 

「GWHOOOOOOOOOAAAHHHHWWW!!!!」

 

 化け物の咆哮が聞こえる。立ち止まったら死ぬ。今聞こえた咆哮はあたしたちのいるところからそう近くはないけど、周りにはたくさんの化け物がうじゃうじゃいる。あたしたちがガムシャラに走っている方向に化け物がいないことを祈るばかりだ。

 

「BRRRRRRRRRRAAA!」

「キャァッ!!?」

 

 右の茂みから化け物が飛びかかってきた。頭の中が高速で回転する。あの歯で食い散らされて死ぬだろう。あの爪で、あの前足で薙ぎ払われて死ぬだろう。あの巨体で押し潰されて死ぬだろう。絶体絶命だ。

 

「ク゛ア゛ァ゛ァ゛ッッ!!」

 

 アムちゃんが横から化け物を突き飛ばしてくれた。アムちゃんの爪が化け物の首深くに刺さっている。

 

「グゥ…!ガアアアアアッッ!!!」

 

 化け物の太い首が嫌な音を立てながら引きちぎられた。化け物が激しく体を痙攣させながら大量の血を噴いている。アムちゃんも返り血を浴びて全身が赤く濡れている。興奮しているのか体全体を使って激しく呼吸をしている。

 

「化け物はあたしがやる!早く行けッ!!」

「ッ…!!」

 

 アムちゃんの怒号に従ってあたしたちは再び走り出した。あたしの顔は死に対する恐怖から汗や涙や鼻水やらのせいでぐちゃぐちゃになっていた。

 

「ハァ…!ッァァ…!グス…」

 

 汗と涙で視界が歪む。心臓は激しく脈打っている。恐怖とパニックのせいでうまく呼吸ができない。不規則な激しい呼吸のせいで喉や肺が裂けるように痛む。デタラメに走っているおかげで足がもつれて転びそうだ。けど転んだら死んでしまう。立ち止まったら殺される。死にたくない…その一心だけであたしは走り続けた。

 

「前にバケモノがいる!左に向かって走れェ!!」

 

 ロードランナーちゃんが上空から前に化け物がいることを知らせてくれた。頭がパニックに陥ってどうすればいいかわからなくなっている。もはや右と左の判別もつかなかった。

 

「こっちです!」

 

 イエイヌちゃんがあたしの手を引いて走りだした。足がガタガタ震えて何度も転びそうになった。遠くで化け物の咆哮が聞こえる。この場に不釣り合いなヒョーという鳴き声も聞こえる。四方八方とあちこちから化け物の鳴く声が聞こえる。四面楚歌という言葉がこれ以上に似合わない状況はそうそうないだろう。あたしたちは完全に包囲されていた。

 

「走り続けろ!少し先にバケモノと戦っているフレンズたちがいる!そこまで走るんだ!」

 

 ロードランナーちゃんが先にフレンズがいることを伝えてきた。もう何でも良い。とにかくフレンズさんでもなんでも安心できる場所が欲しかった。あたしたちはそこへ向かってガムシャラに走った。

 

 しばらくイエイヌちゃんに手を引かれて走っていると五人のフレンズさんの姿が見えた。正面から鵺と戦っていて互角に渡り合っているようだ。あたしはそのフレンズさんに向かって助けを求めた。

 

「ハァッ…!ハァッ…!お、おーーーーーーい!」

「っ!?な、なんや!?」

「っ…!こんなときに…!」

「た、たすけっ…!」

 

 べしゃっ!

 

 足がもつれてこけてしまった。すると、狙ったように後ろから化け物が襲ってきた。

 

「っ…!!」

 

 今度こそダメだと思った。しかし、化け物は身をねじると軌道がそれてあたしの横へドスンと倒れこんできた。よく見ると化け物の頭にアムちゃんがしがみついている。

 

「GWOOOOOOOOOOOghhhhhhh!!GWOOOOOOOghhhhh!!」

「あたしの仲間に…手を出すなァッ!!」

 

 ゴキッという音と共に化け物の首が180度捻じ曲がった。そのまま化け物はピクピクと痙攣したまま動かなくなった。

 

 血濡れのアムちゃんの姿を認めると化け物たちは退いていった。あの化け物たちも勝てないと踏んだ相手には立ち向かわないらしい。

 

「ハッ…!ハッ…!」

 

 あたしは座り込むと自分を抱きしめたままうずくまった。体はガタガタと震え恐怖からカチカチと歯が鳴ってしまう。体がしびれて頭が痛くなってきた。意識が朦朧とするようだ。眩暈がする。あたしは恐怖と疲れからそのまま倒れてしまった。

 

 

…………

 

 

「─────────」

「───・・・──────────」

 

 誰かが話す声がする。この声は…イエイヌちゃんと…誰だろう。

 体を起こして状況を確認してみる。ここは…家の中…?

 

「いたっ…」

 

 全身のあらゆる場所が痛む。全身を強く打ったかのような痛みだ。足にはたくさんの切り傷がある。走っているうちに木の枝や細かな石で切ったり擦ったりしたのだろう。

 

「うぅ…頭も痛い…」

 

 過呼吸だろうか。気を失う前に過剰なまでに息切れを起こしてしまったことを思い出す。恐怖でパニックになってそのまま気を失ったのだった。…あたしをこの家に入れてくれたのは誰なのだろうか。イエイヌちゃんかな?

 

「はぁ…はぁ…」

 

 再びあの恐怖がよみがえる。あの化け物の顔がまぶたに焼き付いたようだった。巨大な猿の顔。あれほど悪意に満ちた恐ろしい顔をあたしは見たことがない。誰が何の目的で作ったのか、何の為に生まれたのか皆目見当がつかない。再び体が震えてくる。あたしは恐怖で泣きそうになった。

 

「おっ、目が覚めたようだな」

 

 一人のフレンズさんがあたしに声をかけてきた。黒いニット帽と白いタンクトップが特徴のフレンズさんだ。肌は浅黒いしなんだかちょっとフレンズさん離れしているような気がする。そのフレンズフレンズさんはあたしの状態を確認した後ドカッとあたしの前に胡坐をかいて座った。

 

「初めましてだな。私はゴリラだ。イリエワニやヒョウたちを束ねていてボスと呼ばれている」

「ど、どうも、ゴリラさん。あたしはともえ。ゴリラさんがあたしを運んでくれたの?」

「いいや、ここへ運んだのはイエイヌだ。後で礼を言っておきな。しかし、お前の連れのアムールトラはすごいな。全身血まみれで何事かと思ったぞ。アレ全部が鵺の返り血と聞いたときはびっくりしたものだ。しかも聞けば噂の元ビーストのフレンズらしいじゃないか。とても頼もしい味方を引き連れているな」

 

 はっはっはっと笑うゴリラと名乗るフレンズさん。こんな危機的状況だというのに余裕を持っているようだ。心なしかあたしも余裕が出てきて落ち着いてきた。

 

「ゴリラさんもあの化け物と戦ってたの?」

「鵺のことか? ああ、いくら撃退してもひっきりなしに襲ってきやがる」

 

 ゴリラさんはと話しているうちに少しずつあたしにも整理がついてきた。緊張が解けて一気に脱力してしまう。そういえばあの化け物たちはどうしたんだろう?

 

「そういえばゴリラさん、あの化け物たちはどうしたの?なんだか襲ってこないみたいだけど…」

「むう。それなんだが、お前のアムールトラを見てからは奴ら一度退いたみたいなんだ。一応私の部下たちが警戒に当たっている。ロードランナーといったか?お前の連れの鳥のフレンズも空から鵺を見張ってくれているぞ」

「ゴマちゃんが…できるだけ休ませてあげたいけど…」

「私もそうさせたいのが山々だが、空からの目というのは非常に大事だ。申し訳ないがしばらく哨戒をさせるぞ」

「う、うん」

 

 ゴマちゃんには申し訳ないけどしばらく空の目として監視させておこう。あたしも鵺たちに散々追いかけられて心身ともに摩耗しきっている。しばらく安心できる場所が欲しかった。

 

「な、なんだあれは!?」

 

 突然イリエワニちゃんの驚く声が聞こえてきた。

 

「こ、こっちに来る!?来るなあ!!」

 

 瞬間、壁が破壊される音と共にイリエワニさんに襲い掛かる鵺の姿が現れた。イリエワニちゃんの頭に鵺の口が迫っていく。壁際に追いやられて寸でのところで抵抗しているけどこのままでは鵺に食べられてしまう。どうにかしなくちゃ…!

 

「こっちだ!」

 

 ゴリラさんに手を引かれて二階へと上がっていく。

 

「ゴリラさん!イリエワニちゃんは!?」

「アイツはあんなものでくたばるタマじゃない!それより自分の心配をしろ!」

 

 二階に上がるとヒョウちゃんとクロヒョウちゃんが鵺と戦っていた。知らない間にこの家は鵺に占拠されていたのだ。

 

「ヒョウ!クロヒョウ!」

「ギィィ…!こいつら、しつこすぎひんか!?」

「強いだけならまだええんやけど、後から二匹三匹湧いてきよるわ!」

 

 お互いが家に湧く鵺をそれぞれ相手にしていた。丸太とも思えるような太い前足をその華奢な体で受け止めている。並の人間であれば真っ二つにされているであろう攻撃を受け止めて的確に反撃を加えている彼女たちはさすがフレンズさんといったところだ。

 

「姉ちゃん!」

 

 クロヒョウちゃんが鵺の喉を裂き、動きを封じたところでヒョウちゃんの助太刀に入った。ゴリラさんはそれを認めると再びあたしを導き始めた。

 

「こっちだ!窓から飛び降りるぞ!」

「えぇ!?」

 

 ゴリラさんは窓に飛びかかるとそのまま窓ガラスを割りながら外へ飛び降りた。

 

「ともえ!早くするんだ!さもなくば死ぬぞ!」

「はよいきーや!ここはウチらに任せればええねん!」

「うぅ…」

 

 こうなったらヤケだ!ケガも骨折も死ぬよりかはマシだ!

 

「っ…!」

 

 意を決するとそのままあたしは窓の外へ向かってジャンプした。体が宙に浮く。次の瞬間、誰かに抱きかかえられ、柔らかい衝撃と共に地面に降りたような感触を受けた。見てみるとイエイヌちゃんがあたしを抱きかかえているようだった。

 

「イエイヌちゃん…!」

「大丈夫ですよ、ともえちゃん。さあ、行きましょう!」

 

 イエイヌちゃんとゴリラさんは互いに目配せをするとジャングルの奥の方へ向かって走り出した。

 周囲からただならぬ気配を感じる。恐らく鵺が再び襲撃して来たのだろう。あのヒョーという独特の鳴き声も聞こえる。あの細い鳴き声はあたしの精神をどんどん蝕んでいく。一つの鳴き声だけでも正気でいられなくなるのにこうも輪唱されると発狂しそうになる。あの悪意に満ちた異形のバケモノはあたしの精神を食べてあの鳴き声を発しているのだ。あたしの正気度…精神はもう限界に近かった。

 耳を塞いで情報を遮断する。もう耐えられなかった。恐怖の閾値が限界を突破する。これ以上は正気を保てない。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない…」

 

 胃の中の物が込み上げてくる。

 

「ッ…!!」

「ともえちゃん!?」

 

 とっさに暴れてしまいあたしは地面に転がり落ちてしまった。

 

「オエエエエエエエ!!!」

 

 胃の中の物が逆流する。もうこれ以上の恐怖は耐えれなかった。精神が崩壊してしまう。周りから嘲笑の声が聞こえてくるようだ。鵺があたしの怯える姿を見て嗤っているんだ。鵺の悪意と狂気の渦にあたしの精神は呑み込まれていく。

 もはや何の音も聞こえなかった。無数の情報が洪水のように頭の中に流れ込んでくる。狂気とも狂乱ともいえるそれは外部のあらゆる情報を遮るようだった。

 

「おい!ともえ!」

 

 不意にあたしの名を呼ぶ声が聞こえた。見るとメガネカイマンさんを背負って走るゴマちゃんの姿があった。

 

「しっかりしろ!お前の気持ちはよくわかるけど、お前がしっかりしてくれなきゃ私たちは何にもできねえんだ!ゴリラやイエイヌみたいな頼れる存在がいるだろ!あんなバケモノ怖がんな!あんなのに怯えていればアイツらの思うつぼだ!」

 

 ハッとした。恐怖…タイリクオオカミさんは何と言っていたか。鵺はどういう獣と言っていた? 恐怖を喰らい無限にその姿を変える獣…あいつの原動力は何か…あいつが求めているものは何か…

 あたしは理解した。あたしは腹を決めると立ち上がった。まだ少し恐怖の心が残っていたけどそんなことは気にならなかった。口に着いた吐しゃ物を拭うとまっすぐと前を見据えた。もうあんなバケモノを怖がる必要はない。あいつの真の目的はあたしやフレンズさんたちの心に恐怖を植え付けること…そしてそれを喰らって自らを強くすることだ。フレンズさんが生きようが死のうが関係ない。

 あたしは負けない…もう恐怖になんて屈しない…!

 

「ともえちゃん…?」

「イエイヌちゃん!みんな!一気にここを突破するよ!イリエワニちゃんたちにはもう少しだけあそこで頑張ってもらうことになるけど…ゴリラさん、イリエワニちゃんたちは鵺たちにやられるようなタマじゃないんだよね?」

「あ、ああ…」

「じゃあ、大丈夫だね…鵺はあたしたちの持つ恐怖の心を糧にして強くなる獣…ゴマちゃんの言う通り、あんなのに怖がってちゃアイツの思うつぼだよ!あたしはもう怖がらない!あんなバケモノなんかに屈しない!みんながいればあんなバケモノなんてイチコロなんだよ!」

 

 自分に言い聞かせるようにそう口にして自らを奮い立たせた。あたしは走りだした。ガムシャラに走るんじゃない。鵺を倒す…一つの明確な目標を胸に立てて走り出したのだ。少しの恐怖と大きな勇気があたしの中に湧いてくる。後ろからはイエイヌちゃんたちが付いてきてくれている。あたしにはそれがとても頼もしく思えた。今のあたしたちならだれにも負けない…負けるはずがない!

 

「GWAAAAAAAAAOOOOAAHHHHHH!!!!」

 

 恐ろしい咆哮と共に鵺が前から飛び出してきた。けどその脅しも今のあたしには通用しない!

 

「イエイヌちゃん!」

「はい!」

 

 イエイヌちゃんの爪が鵺の顔に四つの傷をつけた。左目を潰された鵺が苦しそうな叫び声をあげる。しかし、それでも構わずに大口を開けてあたしたちに突進してきた。

 

 ガシッ!

 

 メガネカイマンちゃんがそれを防ぐ。少し力を緩めれば上半身ごとパックリ持っていかれてしまうだろう。…ダメだ。そんなことを考えては鵺の思うつぼになってしまう。あたしには信じるしかない。メガネカイマンちゃんなら鵺の攻撃なんてどうとでもないはずだ!

 

「大口勝負で私に勝てると思わないことよ!」

 

 ガチンと勢いよく鵺の口が閉じられる。大きな隙を見せた鵺の顔面にメガネカイマンちゃんの会心の一撃が叩きつけられた。

 

「GYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHH!!!!」

 

 たまらず絶叫しながら後ずさりをする。いける…あたしたちだったら勝てる!

 

「よし…!いいよメガネカイマンちゃん!やっちゃって!」

「任せなさい!」

 

 右から、左からと鵺の顔面にメガネカイマンちゃんの拳が叩きこまれる。鵺には反撃の手段がないといった様子でただひたすら殴られている。

 

「メガネカイマン!危ねえ!」

「!!」

 

 メガネカイマンちゃんの頭上に鵺の尻尾…蛇が襲い掛かる。しかし、それをゴマちゃんが間一髪のところで防いだ。

 

「ヘッ!これくらいなら私にもどうにかできるってもんだぜ!」

 

 そういいながら引っ張ったり絞めたり鵺自身の体に尻尾を叩きつけている。

 

「いいよ!その調子だよゴマちゃん!」

 

 あたしも思わず拳を握ってしまう。鵺もみんなからの攻撃を一身に受けて満身創痍といった様子だ。

 

「ゴリラさん!あなたの力を見せて!」

「ああ!任せろ!」

 

 ゴリラさんは大きく拳を引くと…

 

「くらえええええええええええええええええええ!!!」

 

 鵺の顎に向かって大きな一撃を喰らわせた。

 鵺の顎が大きく歪む。悲鳴も上げず鵺はゴリラさんの拳を受けて吹き飛ばされた。下あごは上あごとかみ合わずにだらんと床にこぼれている。ゴリラさんの強烈な一撃で粉々になったようだ。

 

「や、やった…?」

「…そのようです。やりました!みんな!」

 

 イエイヌちゃんが正式に勝利を認めた。

 あたしはみんなのところへ駆け寄って勝ち取った勝利を喜んだ。あたしは何もしてないけど勝てないと思った相手に勝てたことが何より嬉しかった。

 

「行こう!まだまだ鵺はいるはずだよ!早くこのジャングルを抜けよう!ゴリラさん!道案内をお願い!」

「わかった!」

 

 ゴリラさんを先頭にジャングルの中を駆け抜ける。途中鵺にも何匹か遭遇したけど、一度鵺を倒したあたしたちの敵ではなかった。イエイヌちゃんが鵺の攻撃を引き受けて、ゴマちゃんが尻尾の蛇を封じて、ゴリラさんとメガネカイマンさんで倒す。完璧な布陣だった。

 ジャングルを抜けた先には開けた広場があった。そこではたくさんのフレンズさんが鵺と戦っていた。なんだか見慣れない化け物の姿がある。

 あれは…ヤギの頭、ライオンの胴と手足、蛇の尻尾…?鷲とライオンが一緒になったようなのもいる。新種の鵺か…!

 

「ごめん、遅れた…」

「アムちゃん!」

 

 アムちゃんが背後からやってきた。相変わらず全身が血に濡れているけど本人は元気そうだ。

 

「森の中の鵺は大体倒した。イリエワニたちも時期に来ると思う。ともえたちは大丈夫…?」

「うん!ねえアムちゃん!あたしたちも鵺を倒したんだよ!」

「ほんと…?すごい…」

 

 言葉は少なかったけどアムちゃんは優しく微笑みかけてくれた。けど、次の瞬間には遠くでフレンズさんと戦う鵺を睨むアムちゃんの姿があった。

 

「まだあんなにいっぱい…」

「だね…アムちゃん、やれる?」

「…うん」

 

 体を鵺たちのいる方向に向ける。その姿からは溢れんばかりの闘志が満ちていた。

 

「じゃあ、お願いするね…やっちゃえ!アムちゃん!」

 

 アムちゃんの目が見開く。瞬間、ぶわっと辺りの空気が変わるのを感じた。

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!゛!゛」

 

 咆哮をあげてフレンズさんと鵺たちがいる戦場へ跳んでいった。まずは着地点にいる鵺を両の手の爪で八つ裂きにして倒した。

 

「ヒッ…!ビ、ビースト!?」

「立てるなら戦え!ボーっとしてる死ぬぞッ!」

 

 

…………

 

 

 次々と鵺を裂いては倒し、葬っていく。返り血で体は赤く染まり、手は葬った鵺の肉や繊維でぐちゃぐちゃだ。それでもあたしはともえたちのために、みんなのために鵺を切り裂いていく。

 

「あたしはビーストだ…あたしは負けない…誰一人として死なせはしない…!」

 

 そう自分に言い聞かせ鼓舞する。みるみる内にあたしの中に闘志が湧いてくるのがわかる。

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!゛!゛死゛に゛た゛い゛奴゛か゛ら゛か゛か゛っ゛て゛こ゛い゛ッ゛ッ゛!゛!゛」

 

 みんながあたしに注目する。そのうちの一匹である鵺があたしに襲い掛かってきた。ヤギの頭と獅子の体に大きな蛇の尻尾を持っている。ヤギの頭はあたしに炎を吐いて攻撃してくる。回避した先に大蛇のような蛇の尻尾があたしに噛みつこうと首を伸ばしてくる。

 あたしも切り裂こうと足を踏み出すけど奴はひょいひょいと身軽そうにバックステップをしながら攻撃をかわしてくる。お互いがお互いに明確なダメージを与えれずにいた。

 

「グァッ!?」

 

 突如鵺が回転したと思うと尻尾の蛇であたしの横腹を殴ってきた。たまらずあたしは吹き飛ばされそのまま倒れてしまった。すかさず鵺があたしの体に飛びかかってきた。目の前に凶暴なヤギの顔が現れる。とてもヤギには不似合いな肉食獣の牙が見える。そいつはあたしの頭を喰らおうと首を突き出してきた。右へ左へかわしながら反撃の機会をうかがう。やがてあたしはそいつの頭を掴むと喉に爪を立てて切り裂いた。

 

「調子に乗るなッ!!!」

 

 血しぶきがあたしの顔にかかる。やがてごぼごぼと泡を立てるような音を立てながらそいつは倒れた。

 そいつを皮切りにあたしは次々と鵺を切り伏せていった。戦場が赤く染まっていく。心なしか周りのフレンズたちの士気も上がっていっているようにも見える。中には単独で鵺を倒すものまで現れた。既にフレンズたちには鵺に対する恐怖がなくなっていた。あるのは倒さなくてはならない相手というこの場にいるフレンズたちが得た共通の認識のみ。もはや鵺など相手ではない。恐怖を克服したあたしたちの敵ではなかった。

 次々と鵺を斬り捨てていく。右手で鵺の体を切り裂く。次の獲物に狙いを絞り、左手の爪を鵺の首に突き刺す。あたしは足元に斃れている鵺の亡骸を横目に辺りを見回した。

 

「………」

 

 どのフレンズも苦戦している様子はなかった。あたしたちは完全に優勢になっていた。もはや鵺など物の数ではない。

 しかし、奇妙な姿をした鵺を見てあたしの思考は止まってしまった。鵺自体が奇妙な姿をしていると言えるのだが、そいつは鵺の姿をしているようで、同時にセルリアンのようでもあるのだ。頭についている無機質な一つ目が、まさしくそれをセルリアンと強調しているようだ。それはあたしたちフレンズではなく、鵺を襲っている。鵺の姿をしたセルリアンが次々と鵺を狩っていっているのだ。目を凝らしてみると次々といろんなセルリアンも戦場に姿を現してきている。どれもフレンズではなく鵺を攻撃しているようだ。鵺は次々とセルリアンに呑み込まれていき、鵺の形をとっていっている。なるほど、こうして鵺の形をしたセルリアンが生まれていっているのか。

 しかし、このセルリアンはどうすればいい?フレンズを襲う気配はないが、襲わないとも限らない。しっかり警戒を怠らずにいつでもあのセルリアンを倒せるように気を張っておく。

 そうこうしているうちにすべての鵺がセルリアンに呑まれてしまい、戦場にはぽかんとしているフレンズと鵺の姿をしたセルリアンしかいなくなってしまった。そのセルリアンもフレンズを一瞥するとほとんどがどこかへ行ってしまった。辺りには鵺の亡骸とフレンズしかいない。

 

「アムちゃーん!」

 

 ともえの呼ぶ声がする。この声が聞けたことはあたしたちの勝利を意味していることと同じだ。

 あたしたちは勝ったのだ。

 

 

…………

 

 

「アムちゃん!大丈夫!?ケガはない!?」

「うん。へーき。でも一発だけもらっちゃった」

「あれには私もヒヤってしたぜ。けどあのセルリアン共はなんだろうな。鵺だけ襲ってどっか行っちまった」

「フレンズ以上の輝きを持っているから襲った…としか考えられないですけど…どうなんでしょうか」

「それだと後からフレンズさんたちも襲いそうなものだけど…うーん…」

 

 考えても埒が明かない。今はただ、鵺の襲撃を乗り越えたということを祝福したい。最初は恐怖と絶望から狂乱の状態に陥ってたけど、今は鵺たちを完全に退けここに立っている。それがたまらなく嬉しかった。

 

 ふと遠くを見るとフレンズさんたちに交じって奇妙な影が二つ見えた。どうも二人は相見合っているようだ。一人は黒いボロボロの浴衣のようなものを着た薄い緑色のショートヘアをしたフレンズさん。もう一人は…あの姿は鵺のフレンズさんなのだろうか?あの子が今回の騒動の原因とでもいうのだろうか?

 

「イエイヌちゃん、あの子…」

「はい…恐らく鵺です。今回の鵺騒動の元凶に違いありません…」

 

 牙を剥いて臨戦態勢をとるイエイヌちゃん。今にも襲い掛かっていきそうだけど今は抑えてもらわなければ。あたしたちが戦った鵺は倒せるけどあの子は倒せるか分からない。どんな手を使ってくるか分からない以上こちらから戦いを仕掛けるのは分が悪い。

 

「あれはあたしでも勝てるか分からない。とんでもなく邪悪な気配を感じる」

「アムちゃん…」

 

 アムちゃんでも勝てるか分からないと言っている。アムちゃんでも勝てないならなおのこと戦わない方が良いだろう。けど、もう一人の子、あれは…ヤマタノオロチさんだよね…?オロチさんが鵺と対峙している…あの二人が戦うというのだろうか。なんだかとんでもないことが起きるような気がする。もう既に起きているのだろうけど今回は…戦争に近いことが起きるような、そんな感じがした。

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