けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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Ex4話「砂漠の追跡者」

 ともえと別れた私たちはいつもの巣へと向かって歩いていた。あの子たちと別れてからは私の心にもなんだか晴れ晴れとしたような気持ち良さが残っていた。これもヒトと触れ合えたことによる一つの心理的な効果なのだろうか。アライさんの足取りも心なしか弾んでいるように見える。それに見慣れた夜明けの景色もいつもよりきらめいているようだ。今日も気持ちの良い朝を迎えられそうな、そんな気がした。

 そのときだった。私たちが向かっている方向から突如として大きな砂嵐が巻き起こったのだ。そのときはまたいつもの嵐だねーと談笑していたのだがよく見てみるとなんだかいつもの違う感じがした。アライさんもそれには敏感に察知していたようだった。砂嵐に稲妻と焔が走っている。それによく見てみると四つ足の獣の姿がいくつも見える。狸…虎…?よくわからない獣の姿がいくつもある。

 

「アライさん、あの獣の姿、見える?」

「見えるのだ…砂嵐に巻き込まれてしまったのか?」

「やー、私にはそう見えないけどねー…なんだろう…」

 

 今まで感じたことのない不気味な悪意のようなものを感じる。あれは自然によって生まれたものではない。何か人為的な、悪意を以って生まれた何かだと本能的に感じた。

 

「アライさん、あれは警戒した方が良いかもねー…」

「そーなのか?助けないとまずそうなのだ」

「やー、あれはまずいよー…あれは良くない何かだよきっと…」

 

 遠くに吹き荒れる砂嵐とそれの中で舞う獣の姿を見て思う。確かに砂嵐に巻き込まれているようにも見えるけど、あれは巻き込まれているのではなくて砂嵐に乗って"獲物"を探しているのではないかと思った。考えてみたってそうだ。砂嵐に巻き込まれたとき普通の獣だったらどうなるか?もみくちゃに蹂躙されてどこかへ飛ばされるか砂嵐の中で息絶えるはずだ。けど今見ている獣はどうしているか。何故あの砂嵐の中で平然としている?その答えに気付いたときあたしは明確な恐怖を感じた。

 

「アライさん…逃げよう」

「ちょっ、フェネック!?」

 

 アライさんの手を取ると私は逃げ出した。逃げなくちゃいけないと思った。アレと関わってはいけない…アレから逃げないといけない…私の本能がそう告げていた。

 

「フェネック!?どうしたのだ!?」

「っ……」

 

 アライさんの手を取って逃げる。普段ならアライさんの前に立つことなんて絶対にしないし、アライさんの手を取って走るなんてこと絶対にしないけど、そんな悠長なこと言っている場合ではない。あの獣たちが近づいてくる。あたしの首根っこを引きちぎる気でいるんだ。ありもしないようなそんな妄想が頭の中を駆け抜けていく。

 

「フェネック!上!」

「っ!!」

「GUAAAAAAAAAAAAAARRRRRRRRRHHHHHHHH!!!」

 

 身の毛もよだつような恐ろしい絶叫と共にそいつは襲ってきた。

 

 ズガーーーーーン!!!

 

「あっ…あ…」

「な、なんなのだ!?あの砂嵐の獣が襲ってきたのか!?」

 

 猿の頭、虎の体、狸の手足、狐の尻尾…助手たちが教えてくれたあの鵺だろうか。けど聞いた話と違う。私たちが聞いたのは鵺の"フレンズ"だったはずだ。けど…私たちの目の前にいるこいつは明らかにフレンズではない。ただの醜い獣だ。

 

「ぐっ…フェネックには手出しさせないのだ!やるならアライさんをやってからなのだ!かかってこいなのだー!!」

「っ…!!」

 

 アライさんの数倍はあろうかという巨躯がアライさんに襲い掛かる。大きく開かれた口はアライさんを呑み込むかのようだ。呑み込まれなくてもあの大きな口は簡単にアライさんの体を引き裂くだろう。

 …怖い。あんなの勝てるわけがない。逃げなきゃ…けど私たちの足で逃げ切れるのか。…アライさんが私のために戦ってくれている…。せっかく私のために戦ってくれているのに、アライさんを置いて逃げることなんてできない。せめて私もアライさんのために戦わなくちゃ…!

 私は手頃な石を掴むと鵺に向かって投げた。

 

 ボス!

 

「GRRRRRRR・・・」

「あんたの相手はこっちだよ、バケモノ…!」

「フェネック!?」

 

 真っ赤に染まった眼光が私を捉える。その目に睨まれただけでも私の足はガタガタと震えて崩れ落ちそうだった。けど、負けるわけにはいかない…!

 呼吸を整えてまっすぐ鵺を見つめると迎撃の体制をとった。

 

「GWAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHH!!!」

 

 耳をつんざくような絶叫と共に鵺は襲い掛かってきた。すかさず鵺の攻撃をかわす。なんとか動いてくれた私の足に感謝だ。

 まずはあの尻尾を切り落とす。獣の尻尾はスタビライザーの役目を果たすという。もっとも猿やカバみたいに別の役割で使っている獣もいるけど、おおよそ半分の獣はバランスをとるために使っているはずだ。鵺のような大きな体を持つ獣はどうかわからないけど、あんな大きな尻尾を持っているならそういう使い道をしていてもおかしくないはずだ。

 

「……!!」

 

 ズシャッ!

 

「GYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 鵺が絶叫する。尻尾を失った鵺は一度跳ねた後地面に転がり込んだ。

 ……やった。尻尾を根元から切り落とした。私と同じである狐の尻尾が地面に転がる。私は尻尾を拾い上げると鵺に向かって見せびらかした。

 

「ほらほら、あんたの尻尾だよ。返してほしかったら取り返してみな」

 

「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGHHHHHHHHHHH!!!」

 

 鵺が絶叫する。さっきの絶叫とは違い怒りの感情を感じた。私のような矮小なけものに尻尾を奪われたのが悔しいのだろう。鵺は叫び声をあげると再び私に向かって飛びついてきた。むき出しの歯が私に襲い掛かる。

 恐怖を振り払い回避しようとしたその時…

 

「させないのだあああああああああああああ!!!」

 

 アライさんの飛び蹴りが鵺の顎に直撃した。鵺は舌を噛んだらしく悶絶している。

 

「大丈夫かフェネック!?」

「う、うん。なんとか…」

「フェネック、足が震えてるのだ…怖いのか…?」

「え?あ……」

 

 アライさんに指摘されて自分の足を見てみると、情けないほどに震えている自分の足があった。恐怖を抑えて化け物と戦っていたんだ。ただ抑えていただけでこんなにも怖がっていたのだ。

 

「大丈夫なのだフェネック!アライさんが付いているのだ!フェネックの怖いも鵺もみんなアライさんがまとめてやっつけてやるのだ!だからフェネックも無茶はしないようにするのだ!」

「アライさん……」

 

 ……またやられてしまった。アライさんにばかり任せてはダメだと思って私も頑張ってみたけど、結局最後はアライさんに助けられてしまうんだ。やっぱりダメだな私。

 気を取り直してアライさんと一緒にダウンしている鵺に攻撃を加える。傷こそ入りはすれど、私たちの攻撃では致命傷を与えるのはどうも難しいようだ。やがて鵺は私たちを振り払うと体を起こして怒りの咆哮をあげた。

 

「やー…これはまずいねー…」

「ううううー!どうすればいいのだー!?」

 

 アライさんも私も万事休すといったところだ。このまま鵺の攻撃をかわし続けてちまちま攻撃を与えていくのもいいけど、それではいつまで私たちの体力が持つか分からない。

 鵺が私たちに襲い掛かる。その大きな口は私とアライさん両方を食い散らすかのようだった。

 

「GRRRRRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAGHHHH!!!」

 

 鵺の攻撃が私たちに届くその瞬間だった。

 

「GYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAARRRRRRR!!!」

 

 鵺の姿をした別の何かが鵺の喉元に食らいついた。

 そのまま鵺を押し倒すと激しく揺さぶり、その牙を鵺の首深くへと刺していく。やがて鵺はおとなしくなるとそのまま息絶えてしまった。

 

「ぁ………」

「な、なんなのだ…?」

 

 二人でポカーンとその様子を見つめる。何が起きたか分からなかった。やがてそいつはくるりとあたしの方へ首を向けてきた。

 大きな一つの目が真ん中についている。あれは…セルリアン…?

 

「セ…セルリアン…?」

 

 訳が分からずボーっとしてるとアライさんが前に飛び出してきた。

 

「さ、させないのだ!フェネックはアライさんが守るのだ!」

「っ……」

 

 ……アライさんに頼ってばかりではダメだ…。せめてアライさんと一緒に戦わなくちゃ…!

 

「大丈夫、アライさん。私だって戦えるから…!」

「フェネック…!大丈夫なのか?無茶はしてはダメなのだ!」

「大丈夫…大丈夫だか…」

「おーーーーーい!!!二人ともーーーーー!!!」

「ふえ!!?」

 

 急な呼び声にアライさんがなんともいえない間抜けな声を漏らした。この声は…サーバル…?遠くを見るといつも二人が乗っている見慣れたバスがこちらに向かって走って来ていた。対するセルリアンはこっちを見ているだけで動く気配がない。やがてバスは私たちの近くまで来ると停車した。

 

「よかった!無事だったんだね!」

「う、うん。なんとか…」

 

 かばんさんとサーバルが来た安心感から私は脱力してへたり込んでしまった。

 

「鵺相手によく無事だったね。僕とサーバルちゃんでも結構苦戦したっていうのに…」

「本当なのだ…アライさん頑張ったのだ…」

「うんうん、えらいえらい」

 

 サーバルがアライさんの頭をなでている。私も頑張ったんだけどアライさんと比べるのもなんか変な気がするし黙っておこう。

 

「それよりあのセルリアンはなんなのだ?どうしてアライさんたちを襲ってこないのだ?というかなんで鵺の姿をしているのだ?」

「それがまったくわからないんだ…僕もあのセルリアンをずっと追っているんだけど、どうも鵺だけを襲っているみたいでね。それ以外は何も…鵺の姿をしているのは鵺を食べたからだね。鵺の持つ輝きを奪ったから鵺の形をとっているのかもしれない」

 

 なるほど。セルリアンは輝きを奪うとその特性をコピーするって聞いたことあるけど、そういうことだったのか。けどそれからはフレンズを襲わなくなるものなのかな?

 

「鵺の姿をしたセルリアンがフレンズを襲ったっていう報告なんかはないのかい?」

「僕はまだ聞いてない。あのセルリアンもフレンズたちには見向きもしないんだ」

「へぇー…」

 

 うーん…襲わないとも限らないし警戒するに越したことはないよね。一応目を光らせておこう。

 ふとセルリアンが上を見上げた。見ると五匹もの鵺がまとめて襲い掛かって来ていた。あの砂嵐から飛んできたのだろう。

 

「あの砂嵐から飛びかかってきているみたいなんだ。逃げながら戦わないとキリがないよ」

「そうなんだ…クッ…!」

 

 みるみるうちに囲まれていく。最初は五匹だけだった鵺も続々と数を増していっている。いくらかばんさんとサーバルが来たところでもこれでは分が悪いというものだ。けど…あのセルリアンがいれば…

 やがてセルリアンが一匹の鵺に飛びついた。

 

「GRRRRRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAGHHHH!!!」

 

 首元に大きく噛みついている。鵺は血を流しながらも大きく抵抗している。爪がセルリアンの体を傷つけているけど当の本人は全く意に介さないといった様子だ。

 

「僕たちも負けてられない!サーバルちゃん!」

 

 かばんさんの号令と共に私たちの戦いも始まった。向こうで十年間戦い続けた腕は伊達ではなく、その大きな一振りは確実に鵺にダメージを与えていっている。

 サーバルも鵺の巨体を物ともせずにそのジャンプ力で鵺を翻弄している。狙いを澄ましたところに飛びついては自慢の爪で鵺を傷つけていっている。

 ……もしかしたら勝てるかもしれない。みんなの戦いぶりを見ていたら私たちだけでも勝てるような気がしてきた。私も負けてはいられない…!

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!゛!゛」

 

 突如遠くから絶叫が聞こえてきた。皆の戦う手が止まる。鵺も戦いをやめてその絶叫に耳を傾けているようだ。しかしあの叫び声は聞いたことがある。一体何だったか…

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!゛!゛死゛に゛た゛い゛奴゛か゛ら゛か゛か゛っ゛て゛こ゛い゛ッ゛ッ゛!゛!゛」

 

 再び叫び声が聞こえてきた。ヒトの言葉を話している。どうやら私たちとは別に戦っているフレンズがいるようだ。やっぱりここ以外にも鵺が湧いているということなのだろう。

 

「この咆哮は…アムールトラ!」

 

 アライさんが叫び声に反応した。言われてみればアムールトラの声に似ているような気もする。普段の静かなしゃべり方とは全然違う野太い叫び声から別人と思ったけど…こういう時のアライさんの勘はよく当たる。多分アムールトラなんだろう。しかし…恐ろしい絶叫だ。

 

「っ…!鵺が!」

 

 かばんさんの声につられて周りを見回した。鵺がアムールトラの声がした方向へ走っていく。……どういうことかはわからないけどどうやら助かったようだ。

 

「ダメなのだ!アムールトラが危ないのだ!」

「やー、多分大丈夫じゃない?仮にも元ビーストなんだし鵺くらいどうとないと思うけど…」

「だけど…!アライさんはまだアムールトラに教えてないことがたくさんあるのだ!もし万が一のことがあったら…あまりにも報われないのだ!」

 

 そういうとアライさんは走りだした。……こうなったら私もついて行くしかない。アライさんのやることは私も付き合うと決めた。アライさんが行くところは私もついて行くと決めた。それがどんな理由や結果であろうとそれが私たちと決めているんだ。

 

「………」

「……行こう。かばんちゃん!」

「……うん」

 

 かばんさんはエンジンを鳴らすとバスを走らせた。私も同乗させてもらおう。

 

「かばんさん、私もいーかなー?」

「もちろん。もし乗っていかないと言ったらどうしようかと思ったよ」

「ふふん、楽できる時にはちゃんと楽しないとねー」

「あはは、フェネックちゃんらしいね!」

 

 少し走ってセルリアンの前まで行くといきなりバスを止めた。バスと同じくらいの大きさの巨体がバスと並ぶ。

 

「……言葉が通じるかわからないけどキミにも聞きたい。キミはフレンズを襲わずに僕たちと一緒に鵺退治をしてくれた。もしキミも僕たちと同じ思いを持っているなら付いてきてほしい」

 

 セルリアンにそう問いかけた。当然ながらセルリアンは答えない。けど、無機質な一つ目はじっと私たちを見つめていた。

 

「…行こう」

 

 かばんさんは再びバスを走らせた。

 この先にはとても大きな戦いが待っている気がする。かばんさんの表情もいつになく険しい。ここからでも感じるただならぬ気配…アムールトラたち以外にも何かいる。鬼が出るか蛇が出るか…最後の決戦が始まるんだ。

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