けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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Ex5話「The Number Of The Beast」

 遠くを睨む影が一つ、見覚えのあるフレンズさんがそこにいた。鈍く黄色く光る不気味な目と縁がかった銀髪の短いツインテール、その背後には八匹もの蛇が姿を見せている。かつて素戔嗚尊に倒された伝説の神獣、ヤマタノオロチだ。

 そのヤマタノオロチさんが鵺と見合っている。対する鵺はうつむいたままジッと佇んでいる。何やら悔しそうにギリっと歯を噛みしめた後オロチさんを睨み上げた。その顔には憎悪の情が見て取れる。

 

「どいつもこいつも恐れるどころか我が鵺に立ち向かい倒すなどとは…とんだ計算違いよ…あな恨めしや…」

「………」

 

 鵺が呪いの言葉を漏らす。その言葉一つ一つに明らかな憎悪が込められているようだ。言葉そのものには悔しさが滲んでいるだけのようだが、その言葉には明らかな憎悪が含まれていた。そしてそれはあたしやフレンズに向けられているように聞こえた。

 

「未知なる恐怖を忘れた畜生共が!この私が直々に恐怖のどん底に叩き落としてくれるわ!」

「思いあがるなよ…下郎!」

 

 オロチさんの背後から伸びる蛇が鵺の左腕を打ち付けた。

 

「ぐっ…!」

「もはや貴様に勝ち目などない。おとなしく引き下がってはどうだ?周りを見てみるといい。あれほどいた鵺はどこへ行ったと思う?みんな貴様の言う畜生共にあっけなく滅ぼされてしまったのだぞ。キマイラやグリフォンまで出しておいてなんというザマだ。同じ神獣として恥ずかしい限りだぞ」

「ギィィ…!!」

 

 オロチさんに煽られて悔しそうに歯ぎしりをしている。やがて鵺は何か腹を決めたように再びオロチさんを睨むとこう叫んだ。

 

「良いだろう!!!後悔するなよ!!!貴様に神の力を見せてやろう!!!」

「………」

 

 鵺が絶叫する。その目は憎悪で満ちていた。まるでこの世全てを呪っているかのようだった。オロチさんは静かにその様子を見守っている。

 

「ともえちゃん!みんな!」

「アムールトラ!」

「っ!! かばんさん!サーバルちゃん!アライさんまで!」

「アムールトラ!無事か!?鵺と戦ってた時おまえの咆哮が聞こえたから心配になったのだぞ!」

「アライさん…あたしはへーき。アライさんこそケガしてる…」

「アライさんのコレはどーということはないのだ!おまえこそ全身血まみれで…」

 

 …どうやらアライさんたちも鵺と戦っていたようだ。アライさんたちも全身のあちこちに細かなケガを負っている。鵺と戦っていたにも関わらずアムちゃんの咆哮を聞いて駆けつけてくれたというのだ。アライさんはアムちゃんのことを本気で心配してくれているのだ。

 

「……アレが今回の騒動の親玉なんだねぇ…」

「そうみたい…鵺…アレがパーク中に鵺を放ってパークのみんなを恐怖陥れたって…」

 

 フェネックちゃんと鵺を遠くに睨む。鵺は俯いてなにやらぶつぶつと呟いているみたいだ。

 

「この世に絶望を…地球よ、海よ…彼の者のために魔獣を送り給え…天よ、彼の者のために魔獣に刻印されている数字を数え給え。それは人類が用いているありふれた数字である…その数字とは、666…」

「なっ…」

「かばんさん…?」

「なんていうものを…呼び出す気なんだ…」

 

 かばんさんがわなわなと震えている。その顔はひどく絶望に染まっている。

 

「かばんちゃん、どうしたの?」

「……サーバルちゃんと情報管理施設にいた時に読んだんだ。クトゥルーに関する情報を集めているときに偶然見つけた……黙示録の獣……666を象徴とする破滅の獣だ…」

 

 かばんさんの答えに呼応するかのように空が急速に曇っていく。風が吹き、雷が鳴り始めた。得体の知れない邪悪な力を感じるようだ。やがて鵺は天を仰ぎ狂ったかのように笑い始めた。

 

「くっ…あっははははははは!!来る!来るぞ!!今こそ終焉の時は来たれり!さあ、魔獣よ目覚めるのだ!」

 

 ゴゴゴゴゴ…

 

「じ、地震!?」

 

 地震が起きたものつかの間、ジャングル地方の遥か先にある海が大きく隆起するのが見えた。やがて"ソレ"は海を裂くと、七つの獣の頭が姿を現した。七つの頭に十の角、それらの角に十の王冠を持っている。やがて山ほどはあろうかという超巨大な豹のような体があらわになった。あれが黙示録の獣…今までの異形の怪物とは一線を画している。酷く禍々しい姿だ。一つの首に七つの頭が付いている。七つのライオンの頭に、緋色の豹の体と熊の手足…破滅をもたらすにふさわしい獣の姿がそこにあった。

 

「あ……あぁ……」

 

 思わずへたり込んでしまった。本当の絶望を味わったかのようだ。鵺と遭遇したときはまだ足は動いていた。けど、今はどうか。その圧倒的な存在感は呼吸や瞬きを忘れるかのようだ。地面を踏み鳴らす足音の一つ一つがこの世の終焉を告げているかのように聞こえた。

 魔獣が一歩進むごとに稲妻が空を照らし、雷鳴が大気を震わす。魔獣は主を求めてこちらに歩み寄って来ているのだ。

 

「ふふふふ…この日をどれだけ待ちわびたか聞かせておくれ…お前にわたしの持つすべての権限を与えよう…この地上に在るものすべては生かすも殺すもお前次第だ…さあ、この世界に恐怖と絶望を振りまくのだ!!あっははははは!!!」

 

 鵺の姿がみるみると変わっていく。全身を赤い鱗で覆い、四肢に煌びやかな黄金の装飾が散りばめた竜のフレンズがそこにいた。やがてその赤い竜と化した鵺は右手に稲妻を走らせると魔獣に向けて放った。

 魔獣はそれを受けると甲高い絶叫をあげ、青白い炎のような光線を空へ向けて吐き出した。いよいよ世界の滅亡へ向けて魔獣が動き出したのだ。

 魔獣を本格始動させた鵺はこちらを振り向くと嘲笑するかのようにあたしたちに語りかけた。

 

「お前たちはそこで指を咥えながら世界の終わりを見届けるといい。その後にはもっと壮大なショーが待っているぞ…くっ…ふははは…あっははははは!!」

 

 鵺は高笑いをあげると魔獣の元へと飛び去って行った。もう終わりなんだと諦めかけたそのときだった。

 

「────見栄を張ることでしかヒトを敷くことができぬ小童が……」

 

 オロチさんがボソリと言葉を漏らした。

 

「オロチさん…?」

「……酒は持っておらぬか…」

「お酒…?」

 

 どうしてこんな非常な時にお酒なんて…

 

「僕のお酒でよかったら…」

「うむ、上等だ」

 

 かばんさんがバスからお酒が入った瓶を取り出すとオロチさんに投げ渡した。オロチさんはそれを受け取るとグイっと一気に飲み干した。かばんさんの作るお酒は度数が強いものだったと思うけど大丈夫なのだろうか。

 

「クゥゥ~!やっぱり貴様の作る酒は効くな~!これで我も良く戦えそうだわい!」

 

 オロチさんはかばんさんのお酒を飲み干すと肩慣らしを始めた。

 

「あんな雑種なぞ取るに足らん存在だ。我が片手で捻り潰してやるわい。神としての格の違いというものを見せつけてくれるわ!」

 

 オロチさんは自身から生えている八匹の蛇を八方に伸ばして適当なセルリアンを捕獲するとそのまま呑み込んでしまった。

 

 セルリアンを呑み込んだオロチさんの姿が変わっていく。それはセルリアンのような見た目をした大きな蛇のように見えた。八つの首を持ち、八つの又がある巨大な大蛇の姿がそこにあった。アレがヤマタノオロチの真の姿…素戔嗚尊と戦った八岐大蛇なのだ。

 

「なにィ!?」

「数々の獣を継ぎ接ぎしてその力を補おうとするその姿、まことに見苦しい!いくら凡百の獣の力を足したとて、真なる一に届くことなど決してできぬ!醜い姿のまま我が力の前に屈するといいぞ、雑種!」

「ほざけェ!ビーストよ、お前のその息吹であれなうわばみなぞ消し飛ばせェ!!!」

 

 ビーストと呼ばれたそれは青白い炎をヤマタノオロチに向けて吐き出した。七つの頭から吐き出されたそれはヤマタノオロチを大きく包み込むようだった。

 

「その程度の力で我を倒せると思うてか?我も侮られたものよなぁ!」

 

 ヤマタノオロチの首が赤く光る。その光が口元まで届くと八つの頭の口が大きく開き、その大きく開かれた口から猛烈な火炎がごうと吐き出された。やがて両者の吐き出した炎は大きくぶつかり合い、辺りを多大な熱と光で満たした。

 

「あ、熱い…!」

「ぐっ…どこか別のところへ避難しよう!みんな、乗って!」

 

 あたしたちがバスに乗るとかばんさんはバスを急発進させた。

 

「ここにいては危険だ…流れ弾に当たるだけでも死んでしまう…!」

 

 かばんさんが独り言のように漏らす。確かにあの場所にいては危険だ。始まったばかりだからいいけど後に戦いが激しくなるとあっというまに蒸発してしまうかもしれない。

 

「おーーーーい!!こっちだああああああああ!!!」

 

 ふと誰かが呼ぶ声が聞こえた。声のする方を見てみるとそこにはツチノコちゃんがいた。バスでツチノコちゃんを拾うとサーバルちゃんがツチノコに訊ねた。

 

「ツチノコ!?どうしてここに!?」

「ンなことはどうでもいい!あっちの方にキュウビ共がいる!急いでそっちまで行くぞ!」

 

 かばんさんがバスを飛ばす。かなり速度が出ていてしばしば木とニアミスしている。

 

「カバン、トバシスギダヨ」

「そんなこと言っている場合じゃないよ…!早くしないと…!」

 

 後ろからは獣の叫び声や体同士を衝突させる音が聞こえる。まるでテレビで見たような怪獣バトルが繰り広げられているのだ。

 

「あそこだ!キュウビとオイナリサマだ!」

「こっちです!早く!」

 

 オイナリサマたちがいる方へ走っていき、地面に掘られた穴へと身を隠す。横に長く掘られた穴は塹壕のように思えた。

 

「ひとまずこれでヤマタノオロチとビーストの吐く炎はしのげるはずです。あとはオロチがビーストを倒すことを祈るばかりですが…」

「……オイナリサマやキュウビキツネさんではあの獣は倒せないの?」

「悔しいですがわたしたちの力ではあのビーストに太刀打ちすることはできません。わたしたちとアレとでは格が違いすぎます。私は神というより精霊に近い存在、キュウビは神霊に組する獣であって神に類するものでもなければ神の使いでもありません。……対するあのビーストは神を冒涜する獣…正面から神を否定してかつ、支配と破滅をもたらす悪しき存在なのです…」

「オイナリサマ、ビーストって…?」

「ごめんなさい、説明もなしにしゃべりすぎましたね。ビーストとはオロチが戦っているあの獣のことを指します。あの獣は外来語でアポカリプス・ビースト、またはザ・ビーストと呼ばれているのです。わたしはそれに倣ってあの獣をビーストと呼んでいるのです」

「なるほど…ビースト…黙示録の獣…」

 

 塹壕から頭をのぞかせて、遠くで体をぶつけあいながら激しく戦う二匹の姿を見る。アポカリプス…聞いたことがある。神様が真実を伝えるというニュアンスを含む言葉だったはずだ。あたしの聞くアポカリプスはどれも悲劇的なものばかりだ。世界が滅びる…人類が滅亡する…どれも救いのない未来だ。ヨハネの黙示録は読んだことはないけど、あんな獣が出てきて世界に終焉をもたらすと考えると、神様はとっても意地悪でサディストな性格なのかもしれない。

 

「ともえちゃん!危ないです!頭を引っ込めてください!」

「ん、ごめん…」

 

 イエイヌちゃんに呼ばれてあたしは塹壕に戻った。イエイヌちゃんが心配そうな目であたしを見ている。

 

「ともえちゃん…」

「大丈夫…大丈夫だからね…」

「冷静ですね、ともえさん」

「うん…神様って意地悪だなって思って…」

「え!?」

「え…?あ、いや、そんな意味じゃなくて…」

 

 別にオイナリサマが意地悪とかそんな意味で言ったわけじゃなかったんだけどちょっと言葉が悪すぎたようだ。

 

「別に間違ってはいないわよ。気分次第で災害を起こしたり横取りするのはどこの神様も同じよ。与えたのは私だから奪うのも私だっていうのがあいつらの考えなのよ?それどころか与えてやったんだからって有無を言わさず崇拝させるんだからタチが悪いわ」

「キュ、キュウビ…」

 

 確かにそんな話はよく聞くけど今は聞きたくなかったかも…

 オイナリサマが気まずそうにこちらを見ている。

 

「だ、大丈夫だよオイナリサマ!オイナリサマは現に今、あたしたちを守ろうとしてくれているじゃん!温泉で見せくれたあの和やかな顔を見たらオイナリサマがそんな意地悪な神様だなんて思えないよ!オイナリサマはあたしたちを守ってくれる神様だってあたし信じてるから!」

「ともえさん……そうですね。あなたのその期待に応えるためにもわたしも頑張らなければなりませんね…!わたしは今も昔も人ともに在り、人の成長を見守ってきました…その人に仇なすのであれば、この私が許しません!」

 

 オイナリサマはふわりと舞うと塹壕の外へ出た。じっと睨むその瞳はビーストに向けられている。

 

「ツチノコ、この近辺にはまだ他のフレンズさんがいるはずです。その子たちをここに連れてきなさい。キュウビはここを襲ってくるであろう鵺から皆を守ってください。わたしはオロチと共に戦います」

「戦いの神でもないあなたにいったい何ができるっていうの?一端の豊穣の神に破滅をもたらす獣にどう対抗しようっていうのよ」

「わかりません……けど、わたしにもできることはあるはずです。…かつてセルリアンの襲撃からパークが救われたように、今回もパークを救わなければなりません。そのためにわたしは、戦います!」

 

 オイナリサマはビーストに向けて走っていった。アムちゃんはその様子を見てからなにやら難しそうな顔をしている。やがてアムちゃんは塹壕の外へ身を乗り出すとあたしたちにこう告げた。

 

「……あたしも行く。あたしもかつてあの獣と同じようにビーストと呼ばれて恐れられていた。あたしもあいつと同じビーストなんだ。あたしはかつてパークでフレンズたちを殺して回った。……あたしは償わなければならない。あたしはビーストを倒す。倒して乗り越える…あたしはこの手でビーストを打ち倒す…!」

 

 そう言うとアムちゃんはオイナリサマの後を追うように走っていった。……放っておけない。あたしはアムちゃんの後を追おうとしたが、キュウビさんに止められてしまった。

 

「よしなさい。あなたが行ったところで足手まといになるだけよ」

「けど…!」

「……あの子たちを信じなさい。あの子たちはきっと勝つわ」

「……」

 

 オロチさんやオイナリサマたちは勝つ…。勝つのかもしれないけどあの圧倒的な存在を前にしてはどうしても放っておけなかった。あたしはどうすればいいか。何ができるか……この塹壕の中でうずくまるだけしかできないあたしがとても悔しく思えた。

 

「オイナリサマの命令だ。行ってくる」

「僕もいく。僕のバスだったらたくさんのフレンズさんを乗せられるはずだから」

「私も行く!」

「イエイヌちゃんも行ってあげて。イエイヌちゃんの鼻と耳があったらツチノコちゃんたちの役に立つはずだよ」

「は、はい」

 

 かばんさんのバスは四人を乗せると行ってしまった。この場所にはあたしとゴマちゃん、キュウビさん、アライさんたちに他ゴリラさんたち数人が残った。

 

「私たちはここを襲ってくる鵺に対して備える。そして必要があればケガ人の看病をする。わかったわね?」

「う、うん」

 

 鵺…襲ってくるのかな…けど、オイナリサマやツチノコちゃんを手伝えないあたしでもここに来るであろうフレンズさんのケアはできる…そう信じてあたしは待つことにした。

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