けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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Ex7話「忌子」

 遠い昔、遠い異国の地で、私は生まれた。私の母は半人半獣の怪物だった。私の父は神に仇なす巨人だった。そして私はその父母から望まずして生まれた子供だった。人々は私を怪物の子として恐れた。化物の子だと罵った。確かに私は人ではない両親のもとに生まれた子供だ。けど、私の姿は周りと変わらない、至って普通の人の姿をしていた。少なからず私はそう思っていた。

 

 化け物の血が混ざっている。神の血が混ざっている。ケダモノの血が混ざっている。その赤い眼はなんだ。その醜い声はなんだ。その尖った耳はなんだ。

 …知らない。生まれた時から私はそうだ。お父さんは何も言わなかった。お母さんは何も教えなかった。ただ、毎日理不尽な罵詈雑言の嵐を私は一身に受けていた。

 何も教えてくれなかった私の両親だけど、私に愛情は注いでくれた。愛おしい我が子、人の言葉など恐れる必要はありません…そんな母の言葉を私は唯一の心の拠り所にしていた。父は私たちにたて突く人たちを消してくれた。そんな私たちを更に人々は恐れていった。

 

 けど、そんな私への愛情はあっという間に裏切られることになった。

 ある日、お母さんは手伝ってほしいことがあると私にお願い事をしてきた。山を開墾したいから燃やしてほしいとお願いしてきたのだ。私は口から火を吹いて山を燃やした。山はあっという間に燃えた。

 やがて空からいろんな人たちが下りてきた。お母さんはアレはカミサマだといった。お母さんは私を差し出すとカミサマたちは私を徹底的に痛めつけた。雷霆、光、炎、吸魂…いろんな方法で私を痛めつけた。私は必死に戦った。けど、ボロボロになる私をみてお母さんは怒鳴った。愚図、雑魚、ケダモノ…あの時の優しいお母さんの面影はなかった。私はこの時のためだけに育てられ、使われたのだ。15年かけて育てられた私は、たった15分で壊されたのだ。私の最後は火を吐くために開けた口に鉛を入れられて、溶けた鉛が喉を塞いで窒息したというものだった。私の最初の生はこれで終わった。

 

 

…………

 

 

 私の二回目の生は荒れた荒野から始まった。そこには私と同じ忌子と呼ばれる子がいた。私と違ってその子はいろんな人に持て囃されていた。優雅だ、美しい、気高い、賢い…黄金を発見し守護した彼女は知識の象徴と呼ばれていた。

 対する私には相変わらずの罵声が飛んできていた。化け物、醜女、怪物、キマイラ…

 キマイラ…私の生前の呼び名だ。お母さんは私にキマイラという名前を付けた。二回目の生ではお母さんではなくて人が私をキマイラと呼んでいた。

 

 けど、そんな私にも初めての友達ができた。私と同じ忌子であり、私と正反対な存在のグリフォンだ。知識の象徴とも呼ばれる彼女は、嫌われ者の私に歩み寄り、手を差し出してくれた。最初は私も断った。獅子のように気高く、鷲のように凛々しい彼女に私は不似合いだと思った。彼女は人望も厚く、人々から賢者として慕われていた。そんな彼女といては、醜く嫌われ者の私が惨めにも思えた。

 しかし、彼女から何回も手を差し伸べられていくうちに私の心にも変化が現れた。私は彼女と遊ぶようになった。私にとっての初めての友達だった。最初は私も恐ろしかった。彼女は私を辱めようとしているのではないか。彼女は私を謀ろうとしているのではないか。けど、来る日も来る日も彼女は私を謀ることなく山で、川で、森で私と遊んでくれた。私は楽しかった。初めて人と触れ合う機会をくれた。初めて心から笑う機会をくれた。

 しかし、そのような日々は長く続かなかった。彼女は私の元から離れていった。彼女が私の元へ訪ねることはなくなった。私は再び孤独となった。外へ出向くと相変わらず人が石と罵倒の言葉を投げかけてくる。私はいつも通りの嫌われ者でしかなかった。

 しかし、彼女は違った。彼女は町のひと際高い所から人々を見下ろしていた。彼女は王となっていた。女王となって皆を指導する立場となっていた。対する私は生まれた時と変わらず化け物の子として皆から蔑まれるだけだった。彼女は私に気付くと憐れむような目で私を見ていた。

 

 私は町から離れて町の近くにある森林へと移り住んだ。私は己が運命を呪った。私を嫌う人々を呪った。来る日も来る日も私は泣いて、私を生んだ我が父と母を呪った。

 やがて私は近くに来る人々を襲うようになった。私を嫌って石を投げた人々に対する復讐だった。楽しかった。私を嫌う人間はこんなにも弱い生き物なのかと思った。私を嫌っていた人間のする命乞いは見ていてとても愉快だった。私へしてきた非道なことをそのままそっくり返してやった。

 私は殴った。石を投げた。服を剥いた。犯した。縛った。燃やした。閉じ込めた。埋めた。蔑んだ。そして殺した。首を切って鳥に啄ませたりもした。醜く歪んだ顔が喰われていく様は見ていてとても愉しかった。

 いつしか私の行動は復讐のためでなく、己の快楽のためへと目的が変わっていた。その内、森へ訪れるのは村人ではなく兵士と変わっていた。奴らは私をマンティコアと呼んでいた。人々を喰らう私を討伐しに来たのだ。私は許せなかった。私を嫌うばかりか殺しに来たのだ。私はいつも通りその兵士らを喰らった。その日から私は忌子ではなく怪物へと成り果てた。

 

 やがて大規模な討伐隊が私の元へと訪れた。私は矢で射られ、剣で刻まれ、呪いの言葉をかけられた。死ぬ間際、一つの姿を見た。私に初めて手を指し伸ばしてくれたグリフォンだ。彼女は相変わらず憐れむような目で私を見つめていた。怪物へと成り果てた私を見下ろしていた。彼女は私を抱くとごめんなさいと謝ってきた。どういう意味かは分からなかったけど私は悲しくなった。私の第二の生はこれで終わった。

 

 

…………

 

 

 私の第三の生はまたも異国の地から始まった。それは深い竹に囲まれた竹林の中からだった。自然に囲まれたそれは私の荒れた心を癒すようだった。

 だけど、相変わらず私の姿は醜いままだった。赤い瞳に尖った耳、そして人々を脅かす細い声。闇をも吸い込むような黒い髪は私の心を映すかのようだった。背中から生える非対称な赤い羽根と青い羽根は私が化け物と教えているように思えた。

 私と同じ声で鳴く鳥がいる。人はそれをトラツグミと呼んでいた。私はその鳥たちと歌うように竹林の中で鳴いた。私が鳴くたびにその鳥たちは鳴き返してくれる。グリフォンとは違うけど私に友達ができたように思えた。鳥たちと共に夜に鳴く。私のささやかな楽しみだった。

 

 けど、そんな楽しみも長くは続かなかった。人が竹林の中へ現れ始めた。人が私の友達を狩っている。一羽、二羽と数が減っていく。目の前で友達が殺されていっている。私はそれがとても許せなかった。私は友達を狩ると思われる人を見つけると片っ端から狩っていった。殺された友達の数だけ狩っていった。いつしか人は姿を現さなくなった。

 人が姿を現さなくなった代わりに私はある噂を耳にした。夜中に不気味な声で鳴く鳥がいる。その鳥は人を襲い、喰らうのだという。その鳴き声を聞いた者は忽ち病を患い、二度と治ることはないのだという。その鳥を討伐せしめた者には多額の褒賞と地位が約束されるのだという。

 ひどく身勝手だと思った。私の声を聞くと病気になるとその人たちは言った。私はここでも嫌われる…どこにも居場所はないのだと思った。三度目の生にしてようやく見つけた安住の地も、またしても奪われるのだと私は悟った。

 

 ひどく疲れた。生きる喜びは私には得られない。一人静かに鳥と歌うことすら許されない。深い絶望が私を支配した。

 

 私の中に黒い感情が渦巻く。体は黒い影をまとっていく。私はマンティコアと呼ばれ人々に恐れられていた。そして今、私は真の怪物となる。猿の頭、狸の体、蛇の尻尾、虎の手足…鵺と恐れられた怪物に、私はなった。

 夜な夜な私は町に出向いては黒い影を纏い、夜の町に鳴いた。人々は私の声に恐怖し、次々と病んでいった。町からは生気がなくなり、人々の営みは次第になくなっていった。人々は衰弱し、ついには精神を病んで倒れる者も出始めた。嗚呼、愉しい。人はこんなにも簡単に支配できるのだと初めて知った。人は脆い。こんなにも簡単に支配できて、あんなにも簡単に殺せるのだと初めから知っていれば、私は三度も生を無駄にすることはなかったのだ。私はひどく後悔した。

 町から町へ私は飛んで人々を恐怖に陥れた。一鳴きもすれば簡単に人は恐怖に沈んでいく。その恐怖は私の餌となる。餌を食べれば私の心は満たされる。私は何よりもそれが愉しかった。私の顔はどれだけ醜く歪んでいるのだろう。それを想像するのもまた愉しかった。

 

 ある日、二人の男が私の前に現れた。一人の男は私を弓で射ると私の喉を射止めた。たまらず私は屋根から落ちると、もう一人の男が私の心臓を刀で貫いた。

 気付けば私は元の姿に戻っていた。貫かれた胸からは血が流れている。私の本当の姿を見た男の顔は化け物を見る目と変わらなかった。人というのはやはり化け物である私を殺すことに何の抵抗も感じないのだろう。そう思うとすごく悔しかった。憎しみを湛えた目で男を睨む。呪いの言葉を吐こうとして思わず血を吐いた。息を吸うたびに嗄声のような音が出てくる。もはや私の意思すら伝えることができない。

 

 私は人からも、世界からも、運命からも、そして親からすらも愛されない、弾かれ者なんだと知った。意識が薄れていく。悲しさが溢れて涙が頬を伝っていく。願わくばもう二度と生を授かぬよう祈るしかなった。このような苦しみを与えてくる世界に二度と生まれたくない。そう願って私は目を閉じた。

 

 

…………

 

 

 暗い闇の中、私を呼ぶ声が聞こえた。まるで私の頭の中へ直接語りかけているようだった。深い淀みを感じるような、人とは思えないような、深く深く響くような、低くくぐもった声だった。私には彼の言っている言葉が理解できなかった。けど、何を言っているかは理解できた。

 その声が私の中でこだまする。怒れ、叫べと声が告げている。

 私の中でドクンと何かが跳ねる。内なる自分というものが急速に広がっていく。私の自我が開いていく。内側に抑え込まれていた本当の私が目覚めていく。

 そのときから私は私ではなくなった。キマイラ、マンティコアと呼ばれた弱い私はいなくなった。そのときから私は鵺として生まれ変わったのだ。人々を恐怖に陥れ、その感情を食べて生きていく化け物として生まれ変わった。恐怖とは実に甘美なものだ。人々の恐怖は我が空腹を満たしてくれる。人々の恐怖は私に愉悦を与えてくれる。飽きることのない御馳走がそこらかしこにたくさん転がっているのだ。このような尽きることのない御馳走、手にしない方がおかしい。

 

 顔をあげると闇の中に巨人の頭が見えた。その全貌は見えないが、我が父テューポーンに匹敵するほどの巨体であることはわかる。タコのような大きな頭に赤く光る瞳…禍々しいようだけど、とても美しいと私は思った。

 巨人が私に語りかけてきた。今度の声ははっきりと分かった。頭の中で彼の声がこだまする。

 

 力が欲しいか。力を求めるのであれば授けよう。汝の力を以って我が眠りを覚まさせるのだ。驕れる人々を恐怖で支配し、再び地上を我が物とさせよ。

 ひどく魅力的な提案だった。この世界でこれ以上の魅力的な提案はないと思った。私が人々を恐怖に陥れ、この醜悪ながらも美しい巨人が地上を支配するというのだ。

 私は彼の要求を飲んだ。私の中に彼が入り込んでくる。私の内に悪魔が生まれる。彼の力が体の中を駆け巡っていく。彼の力が私の中を支配していく。このとき、私は人類の敵対者となった。化け物と呼ばれた私は正真正銘の化け物となったのだ。私はこの力を用いて全人類に復讐をする。そして彼を目覚めさせる。そして地上に混沌をもたらす。私の生まれた世界の破滅こそが、私のたった一つの望みとなった。彼の、我が主の目覚めこそが、私の望みを叶える唯一の手段となった。

 

 

…………

 

 

 眼前の獣と敵対する。かつてビーストと呼ばれたアムールトラと私は戦っていた。そいつは確実に私の急所を狙って攻撃してきている。獰猛で荒々しいながらもその技量は大したものだ。戦うためでなく殺すために私を襲ってきている。こいつは戦い慣れているだけでなく殺し慣れている。相手を殺すことに何の抵抗もないのだ。一発喰らえばそれが致命傷になることは確実だ。

 はっきり言って私は戦いは得意ではない。人を襲って殺してきたりもしたけどそれはあくまでも狩りとして襲っていただけであって、正面切って戦っていたわけではない。まだマンティコアだった頃に戦ったグリフォンの兵士たちとの戦いも、一方的にやられただけだった。

 

「ぐっ…クソアッッ!!!」

 

 アムールトラの脅威であるところは戦い慣れているところもさながら図体が大きいというところにある。その蹴りと一振りは私のそれを大きく上回っている。相手に傷を負わせるためには相手のリーチに深く入り込む必要があるのだ。

 

「ならば…!」

 

 腕に雷霆をともす。かつて私を一方的に破った神の一人が使っていた技だ。雷霆を手にまとわせると私は投げやりのように放った。ビーストに向けて稲妻が走っていく。しかし、謎の光の壁によってその攻撃は打ち消されてしまった。

 

「ッ…!!小賢しい真似を…!」

 

 上空を睨む。白い狐の姿をした女が空を飛んでいた。どうやらあの女狐が張った壁らしい。

 

「アムールトラさん!鵺の妖術を気にする必要はありません!サポートはわたしに任せてください!あなたは鵺を仕留めることだけを考えるのです!」

「っ…」

 

 鼻から私の攻撃なんて気にしていないようだったけど、あの女狐の言葉を聞いてから奴の目が変わった。鋭い眼光が私を捉える。あの目は私の喉を狙っている。油断したら確実にやられる。こうなったら…

 

「我が同胞よ!!再び我の元へ集え!!あれな獣を潰すのだ!」

 

 私のしもべであり私の生み出した紛い物の生命である鵺を召喚する。それは実際の生物ではなく、ただの幻影にすぎない。すべては私が生み出した虚構なのだ。

 壁が鵺を防ぐ。たまに壁を通り抜けることができてもアムールトラがいとも簡単に我が同胞を引き裂いてしまう。

 奴には炎も爪も牙も恐怖も通用しない。奴はすべての攻撃を退けて確実に私を仕留めようと私の懐へ飛び込んでくる。寸分の油断も許されない。少しでも遅れたり回避を誤ろうものなら確実に私は殺されるだろう。

 

「ぐっ…かわし続けても意味がない…せめて火炎や雷霆さえ通用すれば……それにはまずはあの白狐を始末せねば…」

 

 標的を白狐に変える。アムールトラから注意をそらすのはあまりにも危険ではあるが、あの女狐を始末しないことにはいつまでも攻撃が加えれず不利のままだ。リスクは多少高いけど、少しでも互角に近づくためにもやらなければならない。

 

「っ…!」

 

 女狐は自身が標的にされたことに気付いたようだ。だがもう遅い。

 

 突然耳をつんざくような甲高い音が聞こえてきた。空を見ると三角のような奇妙な影がいくつかこちらに向かってきているのが見えた。

 それは私たちの上空を通り過ぎると何かの物体を投下した。ビーストの体にそれが入り込む。すると、突如轟音を立ててビーストの体の中で大きく破裂した。

 ビーストが大声をあげて絶叫する。血を吐くように熱線を辺り一面にまき散らしている。泣いているような、苦しんでいるような叫び声が、形を得ているかのようだった。

 

「お前たち!助けに来たぞ!」

 

 鵺の姿をしたセルリアンにまたがったタイリクオオカミが姿を現した。

 

「セルリアン!出番だ!」

 

 タイリクオオカミの背後にいるセルリアンたちがビーストの元へ津波の如く押し寄せてくる。あの程度どうということでないが…

 

「ビーストよ、焼き払え!」

 

 ビーストが地面に向けて熱線を吐く。地面に放たれたそれは大きく放射状に広がり、木々やセルリアンを次々と焼き払っていく。ある程度のセルリアンは駆逐することはできたけど、大半のセルリアンは上空に回避していった。七つの首から放たれる熱線でセルリアンを焼こうとビーストが頭を動かす。しかし、羽虫のように飛び回るセルリアンにはあまり効果がなかった。奴らは知能も持たない虫のような存在だというのに、的確に間合いを呼んで私たちに攻撃してくるのだ。

 再び甲高い轟音が聞こえてきた。音のする頭上に目をやると先ほどの三角形の形をした何かが私たちに向かって突っ込んできているところだった。

 

「次から次へと…小賢しい虫けら共がァ!!死ねェッ!!」

 

 あらん限りの力を込めて稲妻と火球を放つ。一機は撃墜することはできたけどもう一機の進行は防げなかった。爆弾槽から爆弾が放たれる。爆弾が一直線に私に向かって落ちていく。回避するのも束の間、アムールトラが私に向かって飛びついてきた。アムールトラに捕らえられた私はそいつ共々地上に向かって落ちていく。やがてアムールトラは私を地上へ向けて投げ飛ばした。アムールトラに投げられた私は地面にたたきつけられた。地面に叩きつけられた衝撃から思わずせき込んでしまう。

 目の前にアムールトラが着地する。そいつは得物を仕留めるような目で私を見下ろしている。私の四度目の生もここで終わる。またしても私は私を嫌う者共の手によって終わらせられる。悔しかった。悲しかった。許せなかった。だけど…簡単にやられるわけにはいかない…せめて一矢報いて…傷の一つでもつけて…道連れにしてくれる…!

 

「ビースト!!!」

 

 ビーストは上体を大きく上げると地面を揺らした。不意の地震にアムールトラがバランスを崩した。そのチャンスを逃すまいと奴の腹部に向けて私の爪を叩きこんだ。手応えはある…奴にしっかりとダメージを叩きこんだのだ。血の滲む腹を抑えて悔しそうに私を睨んでいる。いいぞ、その顔だ…その感情こそが我が糧となるのだ。

 黙示録の赤い竜の姿から鵺へと姿を戻していく。右手を虎に変えてその爪で切り裂こうと飛びかかろうとしたそのときだった。

 

「そこまでだ!!!」

 

 突如、タイリクオオカミの声が聞こえた。私をこの世に召還した張本人だ。その目は私の目の奥深くをのぞき込んでいるようだ。

 

「鵺の正体、見破ったり!観念するんだ!キマイラ!」

「なっ…!?」

 

 突然私の真名を呼ばれた。急速に私の力が失われていく。正体不明であることこそが私の力の源だ。真の姿を隠し、未知なる恐怖を与えて力を蓄えていく…それができなくなってしまえば私は人にも劣るただの脆弱な生き物に過ぎない。

 

「アレに怯える必要はない!アレを恐れることこそがキマイラに力を与えることになるんだ!さあ、恐れずしてかかれ!!」

「あ…あぁぁ…!」

 

 私の鵺としての姿が解かれていく。もはやビーストを操る力も残っていない。失われつつある力を振り絞って姿を保ちつつなんとかアムールトラと戦おうとした。

 

「このままで終われるものか…せめて貴様を道連れに…!」

 

 最後の力を振り絞ってアムールトラに飛びついた。その攻撃も空しく空を切ると、アムールトラは流れ作業でもするかのように私を地面に叩きつけた。もはやこれまでだった。私の命運もここで尽きるのだ。

 もはや抵抗も無意味だ。一矢報いることも叶わない。嫌われ者は最後まで嫌われ者なのだ。だったら嫌われ者なりに最後まで醜く抗って醜いまま死ぬとしよう。私は立ち上がると最後の悪あがきをするのだった。

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