けものフレンズR ~Re:Life Again~ 作:こんぺし
??-1「新たなる旅路」
霧の立ち込める森を出た我々はこのトラツグミというフレンズを連れてパークを案内していた。迷ったフレンズを森の外へ帰すことはたまにしているが、こうしてパークのガイドをするのはわたしとしても初めてのことだ。
カンザシがトラツグミにパークの掟を説いている。パークでは自分の力で生きていくこと。セルリアンというモンスターに注意すること。そして困ったことがあればいつでも我々の元へ来てもいいということ。早速何だか矛盾しているような気もするが、あえて突っ込まないようにしよう。
そして我々は平原地方を抜けると図書館へと続く迷路へ差し掛かった。
「さて、どういう経路で行けばよかったか」
「真ん中をまっすぐ行けばよかったのではなかったか?」
「普段は飛んでいってるから忘れてしまったな」
どうしたものかと二人で頭を悩ませる。
「…飛んでいけばいいんじゃないの?」
「そうだな」
「そうするか」
我々の悩みは物の数秒で解決された。わたしたちはいつものように飛んでいくことにした。幸いにもトラツグミも鳥のフレンズであるので、三人で仲良く飛んでいくことにした。トラツグミも生まれて間もないというのに立派に鳥らしく飛んでいる。
「…あんたたちどうやって飛んでるの?」
頭の羽をはばたかせて飛ぶトラツグミが尋ねる。
「そういえばどうやって飛んでいるのだろうな」
「今まで気にもかけなかったぞ」
「…ヘンなの」
そうしてわたしたちは図書館へとたどり着いた。いつものように博士たちにじゃぱりマンを無心する。
「博士、きたぞ」
「……せめて要件を言うのです」
「言わなくても分かるはずだぞ」
「我々が来たということはボスがじゃぱりマンの配給をサボっているということなのだぞ」
「まったくお前たちは…」
いつものようにコノハたちと愉快なやり取りをする。なぜかトラツグミがジトーっとした目線を送ってくる。何か変なことをしているのだろうか。
「ほれ、1か月分はあるのです。さっさと帰るのですよ」
「…カンザシ、そいつは誰なのですか?」
水臭い対応をしてくるコノハと見慣れないフレンズに何やら冷めたように聞いてくるミミちゃん助手。聞かれたのならば答えてあげるが世の情けというものだ。知識のフレンズたる賢者にこのフレンズを紹介してやるとしよう。
「この子はトラツグミというフレンズだ。サンドスターの影響がないはずの我々の寝床に突如として生まれたのだ」
「まったく驚きであるな」
「……それは本当なのですか?あんなところでフレンズが生まれるなんてとても考えられないのですが…」
「うむ、もっともな疑問であるな」
「正直なところ我々も驚きを隠せないのだ」
何やらトラツグミがやさぐれているように見える。もう放っておいてくれと言っているようだ。しかしそうはいかない。せめてこの子の心にある壁にひびでも入れてやらねば。この子は心に何か良くないものを持っている。その呪縛から我々が開放してやらねばな。
「ところでお前、自分が何のフレンズなのか分かるのですか?」
「…鵺…。トラツグミよ」
「ほう」
彼女の名を訪ねたコノハがトラツグミの名を聞いてちょっと驚いたような顔をしている。昨日の今日で鵺が倒されてトラツグミが新しく生まれたのだ。偶然にしても少しできすぎているというものだ。驚くのも無理もないだろう。
「失礼したのです。ちょっと前に鵺という怪人がパークを混乱に陥れたことがあったので、お前の名を聞いて少し驚いたのです」
「しかしすごい偶然なのです。こういうこともあるのですね、博士」
「ですね、助手」
「………」
やはり嫌そうな顔をしながら目を伏している。あまり自分のことを話されるのは好きではないのだろうか。まあ、あまり気持ちの良いものではないのは確かなのだろう。
「…それで、もう用は済んだのですか?まさかとは思うのですがトラツグミの面倒を我々が見ろというのではないでしょうね」
「まさか、わたしとカタカケで面倒を見るつもりだぞ」
「…聞き間違えなのでしょうか。カンザシがわたしとカタカケで面倒を見るという風に聞こえたのですが…」
「聞き間違えなどではないぞ。我々で面倒を見ると言っているのだ」
「…あのフウチョウコンビが自分たちで面倒を見るとは…。またビーストが復活するようなのです…」
「お前たちは我々を何だと思っているのだ」
失敬な奴らだ。我々だって困っているフレンズがいたら助けるのだがな。特にこのトラツグミは放っておけない。せめて自立するまで我々で面倒を見てやるつもりだ。
トラツグミの紹介も終わり、ジャパリまんを受け取った我々三人は図書館を後にした。相変わらずトラツグミの表情は険しいままだ。ここは私が一肌脱ぐとしよう。
「トラツグミよ。そのような顔のままだと来る福も逃げていくぞ。ほれ、わたしみたいに笑ってみるのだ。にぱー」
「気色悪い顔をするな、カンザシよ」
「失敬な」
「………」
トラツグミがジトーっとした顔で見てくる。なぜだかゾクゾクしてくるようだ。
「カンザシの笑顔はにぱーっというよりニチャァが正しいな」
「さすがのわたしも傷つくぞ」
「そのような顔では来る福も逃げていくというものだな。私の福のためにも今すぐそのニヤついた顔をやめてくれたまえ」
「ひどいぞカタカケ。ひどいぞ」
「…ふっ…」
「おっ?」
カタカケがトラツグミの微かな笑いに反応したようだ。アレはカタカケにいじめられている私を鼻で笑っているのだ。笑ってもらおうとは思ったが鼻で笑われるとは私としては大変遺憾である。
「やるではないかトラツグミよ。カンザシを嗤う時にはそのように笑うのが正しいのだぞ。笑うのではなく嗤うのだ。ゆめ忘れるでないぞ」
「…ふふっ。面白いわね。あなたたち」
目を細めてわたしたちを笑っている。笑顔になれたのならこれでいいのか?カンザシフウチョウという尊い犠牲の元トラツグミは初めて笑った。南無三わたしよ。安らかに眠り給え。
「わたしは悲しい」
「トラツグミは嬉しいようだぞ」
「嬉しがっているのはお前だろう、カタカケよ」
そんな詮無いやりとりをしながら我々の縄張りである霧深き森へと帰っていった。
…………
森へと着いた。面倒を見るとは言った我々ではあるが、懸念すべきことが一つだけあった。トラツグミはここで暮らしていけるのだろうか。我々は森で斃れているフレンズを何人も見てきた。少し目を離した隙にトラツグミも行き倒れになるのではないか。心苦しくはあるが、ここはトラツグミのためにも放してやるべきではないかと思った。
「トラツグミよ。我々が縄張りとしているこの森であるが、正直に言うとここはあまりフレンズが住むにはこれ以上にない劣悪な環境でな」
「サンドスターがない故、通常の倍近い速さで体内のサンドスターが消耗されていって、それでいて迷いやすい。ここで何年も暮らす我々もたまに迷うくらいなのだ」
「我々は無理やり一緒に暮らそうとも追い出そうともするつもりはない。ただ、今の体に慣れるまでしばらく我々とは別で森の外で見聞してみてはいかがと思うのだが」
トラツグミに我々からの提案を申し出てみる。あまり良い顔をしていないようだが一つ意見を聞いてみよう。
「私を手放そうというわけではないの?」
「いいや。わたしたちと一緒にいては、ぽっくりお前が逝ってしまうかもしれぬと懸念しておったのだ」
「今回はたまたま見かけなかったが、よく行き倒れて蟲共に喰われている獣の亡骸を見かけるのでな。そんなお前の姿を見たくないとわたしたちとしても思うのだ」
「……よくそんなところに住もうと思うわね」
「気に入ってるのでな」
「静寂こそがわたしたちの友なのだ」
「…ふふっ。やっぱりあなたたち、面白いわ」
再びトラツグミが笑ってみせた。今回はわたしを嗤っていない。純粋に我々のやり取りを見て笑ったのだ。彼女も良い笑顔を見せてくれる。
「わかった。じゃあ、行くわ。また帰ってくると思うから、その時にはここで迎え入れてくれると嬉しい」
「もちろんだ、友よ。我々はいつでも歓迎するぞ」
「私とカンザシ、いつでもお前のために門戸を開いて待っているぞ」
そういうとトラツグミは行ってしまった。新しく生を受けた彼女だが、果たして"今度"は良い生を受けることができるのだろうか。今回の生において彼女を縛るものは何もない。縛っているものがあるとしてもそれは彼女の思い込みに過ぎない。この旅を通じて立派に成長して帰ってくることを楽しみにしておこうか。
そして、今回受けた転生は偶然ではなく必然だ。彼女には望まずとも受けた宿罪がある。それを果たす良い機会になるやもしれん。
「神々よ、見ているか。お前たちの下らぬ娯楽のために背負わされた罪を彼女は果たそうとしている。わたしはこのような罪を着せたお前たちを呪う。驕れるお前たちをわたしは否定する。なんとでも呼ぶと良い。我々は何度でもお前を否定してシャーマン…フレンズとしての生き方を見せつけてやろうぞ」
天を仰ぎ神を否定する。そしてわたしたちは新しく生を受けた鵺を祝福した。新たなる旅路を鵺は歩んでいく。我々はそれを遠くから見守るとしよう。少なからず行き倒れるのは我々としても本望じゃない。だが、困難には立ち向かって見事打ち破ってほしい。我々はそれを遠くから見守ってほんの少しの手助けをしてやるだけだ。
堕ちた天使が立ち上がる時だ。物語は始まった。果たして彼女がどういう道を歩んでいくか、我々としても楽しみだ。