けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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??-2「出航の時」

 雨が降っている。いくら鬱蒼と生い茂っているジャングルでも全ての雨を防ぎきることはできない。葉と葉の間から漏れる雨水があたしたちを打ち付ける。けど、そんな雨水の冷たさも忘れるような演奏にあたしたちは耳を傾けていた。

 カンカンと空き缶を打ち付ける音がする。雨水が不規則に空き缶を打っている。それに比するように規則的に空き缶を打つフレンズさんがいる。時折りリズムを崩したり、雨音に共鳴するように空き缶を叩いている。そんな素敵なパーカッションを打っているのはコツメカワウソちゃんだ。

 カンカンと空き缶を打っている。なんでも川のあちこちに転がっているゴミを集めて楽器にしているらしい。彼女にかかればどんなゴミや倒木でも遊び道具になるのだそうだ。塗料が入っていたであろう空き缶やプラスチックの空き容器も心地の良いドラムの音に変わっている。プラスチックの空き容器はスネアの音のようだ。鉄板や中華鍋も見事にシンバルへと変身している。緩急をつける雨水のパーカッションも聞いていて心地よい。

 コツメカワウソちゃんの頭が忙しなく揺れている。音に身を任せているのだろうか。激しく揺さぶったりリズムに合わせて頭を揺らしている。

 ひと際大きなクラッシュシンバルの音を鳴らすとコツメカワウソちゃんはほんの少し身震いした後に背をピンと伸ばした。雨が葉を打つ音だけが聞こえる。

 

「……ッハァ!」

 

 ぱちぱちぱち。

 

 あたしたちは心からの賛辞と共に惜しみない拍手を送った。他の三人も無言ながらも敬意を表するように惜しみない拍手を送っているようだ。

 

「いや~どうだったかな~?」

「すごいよ!音を完全にコントロールしているみたい!聞いててすごく気持ちよかった!心が奮い立つようだよ!」

「…あたしも野生の心が目覚めそうだった」

 

 意外なことにアムちゃんが感想を述べた。この原始的な音楽にアムちゃんも惹かれるものがあったのだろうか。それともこの荒いながらも力強い音に純粋に魅せられたのだろうか。アムちゃんにしかわからないだろうけどアムちゃんの感想はあたしも感じるところだった。

 

「雨の中なのにすごいパフォーマンスですね。雨のなかだっていうのを忘れるようでした」

「へへへ~。けどこれって雨の中でしかできないんだよ~」

「? どういうことだなんだぜ?」

「晴れてる日にはできないんだよ!」

 

 雨の日にしかできない?晴れてるときにはより良いパフォーマンスができそうなものだけど。

 

「なんで晴れてる日にはできないんだ?」

「雨が降ってるとリズムに乗りやすいからね!雨が音の基礎を作るんだよ!」

「ふ~ん」

 

 う~ん、よくわかんない…。確かに雨の音は聞いてて癒されるけどそれを基礎に音楽を作っていく…?コツメカワウソちゃんはなんだかあたしたちとは違う高次元のところにいるようだ。

 

「もっと聞きたい…」

「ごめんね~。今日はもう疲れちゃった。また次に雨が降ったときに来てくれたらやるかも!そのときまでバイバイだよ!」

 

 そういうとコツメカワウソちゃんはせっせと荷物をまとめると退散してしまった。残されたあたしたちは再び歩みを進めた。

 鬱蒼と生い茂るジャングル地方を歩いていく。遊歩道なのか獣道なのかわからない道をひたすら歩いていく。行く当てはない。ただ素敵なフレンズさんに出会えるといいなと思っていた。

 いくらか歩みを進めているとミミちゃん助手と豹みたいなフレンズさんが話しているところに出くわした。助手ちゃんが一人で行動しているとは珍しい。けどなにやら深刻な顔をしている。何を話しているのだろうか。

 

「ミミちゃん、何を話しているの?」

「ともえ…」

 

 少し悲しそうな顔をしている。鵺に関することがミミちゃんたちの間でも分かったのだろうか。

 

「やあ、アンタたちが噂に聞くともえとその一行かい?アタシはジャガー。よろしく」

「あっ、初めまして!ともえです!」

「あっははっ!アンタたちのことは聞いてるよ。いやあ、懐かしいねえ。パークを旅するヒトとフレンズの噂。かばんたちのことを思い出すよ」

「かばんさん…やっぱりすごい人なんだなぁ」

 

 またかばんさんの名を聞くことになった。改めてかばんさんが偉大なヒトなんだと思い知らされる。

 

「ところで、何を話してたの?」

「……かばんがかつて行っていたゴコクエリアというところは聞いたことはありますか?」

「名前だけは知ってるぜ。あと、セルリアンがいっぱいで危険な場所だってことも」

「…そのゴコクエリアで、フレンズではないひどく不気味なモノが徘徊しているとオイナリサマから伝達があったのです」

 

 ゴコクエリア…。かばんさんが十年かけてセルリアンを倒して平定したところだっけ…。でも…フレンズではない不気味なモノ…?鵺はもういないはずだし…。

 

「それって?どんなの?」

「オイナリサマの話では遭遇したフレンズが悉く恐慌及び狂乱の状態になるという話なのです。フレンズたちの噂では不気味な教会があって、そこからその不気味なものが出入りしているという話もあるのです。調査しようにもまともに話も聞けずになしのつぶてなのです」

「へ~…」

 

 変な話を聞いたものだ。フレンズを恐慌に陥れる不気味なモノ…。やっぱり鵺の残党が生きているとしか…。

 

「鵺が実は生きていてゴコクエリアでクトゥルーを蘇らせようとしているのではないのでしょうか?」

「それはないのです。その"不気味なモノ"の姿は全身が真っ黒で顔がないということが判明しているのです。そいつは長い爪に枝のように細い四肢、かつてヒトが信仰していたある宗教のシスターのような恰好をしているらしいのです。それにオイナリサマが鵺とは明確に関連性がないと否定しているので我々はそれを信じてもいいと思うのです」

「なるほど…」

 

 どうやら鵺とは関係ないらしい。自然から生まれたものなのだろうか?サンドスターの暴走とかも考えられる。はたまた別の誰かが良くないことを考えているとか…

 

「とりあえずわたしは一度図書館に戻ってかばんと相談するのです。かばんなら何か知っているかもしれないのです」

「あたしも行く!イエイヌちゃんやみんなもいいよね?」

「もちろんです!」

「私も異論はないぜ!」

 

 こうしてあたしたちは図書館へと向かっていった。

 

 

…………

 

 

「ゴコクエリアで、ねぇ…」

 

 かばんさんが難しい顔をしながら助手ちゃんの話を聞いている。かつて自分たちの手で平和を勝ち取ったゴコクエリアで再び異変が起きているのだ。そう思ってしまうのも無理もない。

 

「せっかく私たちで平和に暮らせるように頑張ってきたのに…。いったいどうしてなの…?」

「それは分からないのです。オイナリサマが主導で目下原因を探っているのですが、手がかりの一つもつかめないというのが現状なのです」

「………」

 

 悲しそうに俯くサーバルちゃん。大きなお耳も下を向いてより一層悲しみを引き立てているようだ。

 

「ねえ、博士。僕たちでなんとかできないかな。僕たちは見てきたんだ。セルリアンの影におびえて暮らすゴコクエリアのフレンズたちを。せっかく頑張って平穏を手に入れたというのに、また得体の知れない何かに怯えて暮らさないといけないなんて僕には耐えられない」

「…そうだよ。私もそう思う。博士、私たち、もう一回ゴコクエリアに行きたい。ゴコクエリアに行ってみんなをけたい!いいでしょ!?博士!!私たちならきっとやれるよ!かばんちゃんとみんなを助けてみせるんだから!」

「…止めはしないのです。私としてはここに留まってほしいのですが…強制はしないのです」

「くれぐれも気を付けるのですよ。特にかばん、お前は鵺に魂を食べられた過去があるのです。今回の不気味なモノも似たような類だと思われるのです。危ないと思ったら無理せずにキョウシュウエリアに帰ってくるのですよ」

「…うん。わかった」

 

 かばんさんはそう言うと立ち上がった。その目には覚悟のようなものが見て取れる。

 

「まずはバスの整備をしよう。それに武器の手入れもしなくちゃ。今回の敵はどういうものかも分からないし、入念に準備しなくちゃね。サーバルちゃん、手伝ってくれる?」

「うん!」

 

 そう言うとサーバルちゃんとかばんさんは外へ出てしまった。…あたしたちも何かできることをしなくちゃ…。

 

「…お前たちも行くつもりなのですか?」

「ふぇ!?」

 

 顔に出ていたのだろうか。あっさりと博士ちゃんに見破られてしまった。けど、博士ちゃんの顔には諦めのような表情が見て取れる。

 

「…どうせ言っても無駄だとはわかっているのです。ともえ、お前もかばんと同じく鵺に魂を食べられたことがあると思うのです。かばんにも言ったことですが、危ないと思ったら無茶をせずに逃げるのですよ。そしてイエイヌにアムールトラ、ロードランナー…お前たちがいれば何の心配もないと思うのですが、しっかりともえを守るのですよ。いいですね?」

「…はい」

「…」

「あったりまえだぜ!」

 

 三人は力強く博士ちゃんの言葉に応え、あたしを守ると誓ってくれた。これほど頼もしく嬉しいことはそうそうない。三人の返事を聞けただけでもあたしはこの異変を解決できるような気がしてきた。けど慢心してはいけない。なるべく三人には迷惑をかけないようにしないと。

 あたしは外へ出るとかばんさんの元へと駆け寄った。

 

「かばんさん!あたしたちも行く!出航はいつになるの!?」

「え?」

 

 外でバスにフロートを付けていたかばんさんがなんとも間抜けな声をあげた。

 

「と、ともえちゃんが!?だ、ダメだよ!ゴコクエリアは危険なところなんだよ!?」

「大丈夫だよ!あたしにはイエイヌちゃんやアムちゃんみたいに頼れるお友達がいるんだもん!それにあたしだって弱くない!かばんさんに剣の扱い方だって教わったしね!」

 

 そういって剣を振るうような動作をしてみせた。でたらめに剣を振るうようなあたしの姿を見てかばんさんが苦笑するような顔を見せた。まるではしゃぐ子供を見ているかのような顔だ。

 

「ははは…。そうだね。でも、真面目な話、向こうで戦っていける覚悟はあるのかい?僕ですらあっちから帰ってくるのに10年かかったんだ。今回は前回と違うとは言えど、どれくらいかかるか分からない。正直に言えば僕もゴコクエリアに行くのはとても怖いと思ってるんだ…。それにセルリアンが復活しているかすら定かじゃないしね。それに話を聞く限り、ゴコクエリアを脅かしているのはどうもセルリアンやフレンズの類とは違うみたいなんだ。ともえちゃんは…僕みたいになる覚悟はあるのかい…?」

 

 少し悲しそうな眼をしながら上からあたしを見下ろしている。それは戦うために、生き残るために一人のお友達を捨てたヒトの目のように思えた。そんなかばんさんの目を見てあたしの中に迷いが生まれた。本当に行くべきなのか。あたしの感じているこの義憤のような感情は一時的なものではないのか。一晩寝て考えよう。起きてこの気持ちが冷めていたら行くのを止めればいい…。そう思えてきた。

 ああ、あたしはなんて冷たい人間なのだろう。かばんさんの放つ言葉だけであたしの気持ちは揺れ動くものなのか。あたしの感じるこの気持ちはただの醜悪なエゴでしかないのか。そう思うと悔しくてならなかった。けど、そんなあたしにかばんさんは優しく語りかけてくれた。

 

「僕はキミの気持ちを尊重するよ。怖いという気持ちもよくわかる。さっきも言ったけど僕もとても怖いんだ。初めてゴコクエリアに足を踏み入れた時もそう。ワクワク感とちょっぴりの怖さにたじろいたものさ…。けど、それもあっという間に潰れてしまった。ワクワク感なんてなくなった。あるのは死に対する恐怖と、いつセルリアンに襲われるか分からない恐怖だけ…。それをもう1回体験するのかと思うと…怖くて泣きそうになるんだ…」

 

 かばんさんは言い終えると小さくうずくまってしまった。その姿は幼い少女のように思えた。あれほどたくましく見えた後ろ姿も鎧を脱いでみればただの幼い少女でしかなかったのだ。あたしにはなんだかそれが衝撃的に思えた。

 

「かばんさん…」

「…ごめんね、しおらしくなっちゃって。それで、どうかな。ともえちゃんにはゴコクエリアで戦っていく勇気はあるのかい?」

 

 かばんさんは立ち上がると再びあたしの目を見つめてきた。

 少しの間逡巡する。本当にこれでいいのか。後悔はしないか。やや後ろめたような感情があたしの決断を鈍らせる。けど、あたしの感じたこの確かな気持ちは…

 イエイヌちゃんに目を見遣る。イエイヌちゃんはまっすぐこちらの目を捉えると黙ってあたしに頷いてみせた。だったらあたしの出すべき答えは一つだ。あたしはかばんさんの目をしっかり見返すとこう答えた。

 

「…行きたい…。行きたいです、かばんさん!あたしの感じているこの気持ちはきっと本物だと思うんだ!アムちゃんとお友達になった時もあたしは似たような気持ちを感じた…。あたしもイエイヌちゃんやかばんさんといっしょにみんなを助けたい…。あたしもかばんさんみたいに強くなりたい!!」

「…っ!」

 

 かばんさんの目が大きく見開いた。まるで予想だにしていなかった発言を聞いたかのようだ。けど、あたしの気持ちは本物だ。あたしはゴコクエリアで苦しむみんなを助けたい。そしてかばんさんみたいに強くなりたい。それにかばんさんは決して強いだけじゃない。かばんさんがどうして強くなったかはあたしは知らない。けど、みんなを助けたいから自分の腕を磨いていって強くなったんだと分かる。それだけは確かなんだとあたしは自信を持って言える。かばんさんが時折見せる悲しそうな目は苦しみや痛みを乗り越えてきた目だ。それには皆を助けるために斬り捨ててきたものがいっぱいあるのだろう。あたしにはそれが分かるんだ。

 

「……僕もまだまだみたいだね…。いいよ、一緒に行こう。出航は明日の朝の予定だよ。それまでには準備を済ませなくちゃね。サーバルちゃん、新しいお客さんだ。じゃぱりマンも多めに必要になってくるからそっちの手配をお願いするよ。キミたちにはこの部分をお願いしてもらえるかな」

 

 かばんさんの指示に従ってあたしたちは準備を進めていく。あたしたちもいよいよゴコクエリアに旅立つ時だ。かばんさんたちを10年にわたって閉じ込め続けた魔境の地…。ゴコクエリアを彷徨う"不気味なモノ"とは…。博士ちゃんや助手ちゃんの話によればフレンズでもセルリアンでもない別の何かという話だ。あたしたちはそれらと戦っていく。痛みや恐怖に屈しないようにあたしは戦っていくんだ。長い戦いが始まる。

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