けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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??-3「ゴコクエリア」

 大海原を行く。と言っても既にキョウシュウエリアからゴコクエリアは見えていた。思えばかばんさんと初めて会ったときも既に遠くにゴコクエリアの姿は見えていたんだっけ。

 固唾を飲んでその島を見遣る。あれがあたしたちの向かう魔境、ゴコクエリアなんだ。

 緊張から体が震えてくる。イエイヌちゃんやゴマちゃんの表情もいつになく険しい。アムちゃんはじっとその姿を睨んでいる。遠くに霞んで見える島影はまるであたしたちを呑み込もうとしているかのように見えた。

 

「不思議だな…。初めて行くときには何も知らない所に行くのにワクワクしたものだけど、今は恐怖と緊張しか感じない…」

 

 独り言のようにかばんさんが呟いた。

 

「……僕たちだけで…やれるのかな…」

 

 消え入りそうな声でぽつりとかばんさんがそう漏らした。やっぱりかばんさんも怖いと思うのだろうか。ゴコクエリアで過ごした十年という月日の重さがあたしにも感じられるようだ。

 

「モウソロソロ トウチャクスルヨ」

 

 ラッキーさんの無機質なアナウンスが聞こえた。気が付くと目の前には砂浜が広がっていた。バスが砂浜に乗り上げる。しかし場所が悪かったのかスタックしてしまった。タイヤが沈んで胴体がつんのめってしまった。

 

 そのときだった。

 

 がさがさと近くの茂みが音を立てた。もしやセルリアンかと思って身構えるあたしたち。アムちゃんが前へ出て臨戦態勢をとる。負けじとサーバルちゃんも威嚇の姿勢をとっている。

 

「だ、誰か…!」

 

 茂みから一人のフレンズさんが飛び出してきた。髪や衣服、ソックスに至るまで全身真っ白のフレンズさんだ。フレンズさんにありがちなぶち模様や縞模様のようなものもなく、辛うじて靴に当たる部分に黒いグラデーションがかかっているくらいのものだ。ロバちゃんみたいなたてがみを模したポニーテールに至るまで真っ白という全身真っ白尽くしだ。アルビノ化したフレンズさんとも思ったけどそれも違うように思えた。

 

「あ、あなたたち…!助けて頂けませんか!?」

「よ、よくわかりませんがわたしたちの後ろに…!」

「…恩に着ます…!」

 

 真っ白のフレンズさんを追ってきたのか黒いシスター服に身を包んだ"不気味なモノ"が姿を現した。

 

「あれは…!」

 

 かばんさんが驚きの声をあげた。枝のように細い腕、隆起こそあるものの目も鼻も口もないのっぺりした顔、異様に長い指のような爪…。体つきも異様に細く骨と皮だけと錯覚するようだった。あれが博士ちゃんと助手ちゃんの言っていたゴコクエリアを徘徊する"不気味なモノ"…。

 

「…ッ!!」

「アムちゃん!!!」

 

 アムちゃんが真っ先に飛び出して行った。アムちゃんがソレに斬りかかると、あっさりとソレの体に四つの裂傷ができた。しかしどういうことか、その裂傷の痕から黒い霧のようなものが飛び出すとアムちゃんの体に纏わりついてきた。

 

「ッ!!?」

「アムちゃんッ!!!」

「アム!!!」

 

 アムちゃんが必死に身をよじって抵抗している。しかし、実態を持たないそれは容赦なくアムちゃんの体を包み込んでいっている。やがて"ソレ"は顔…仮面を外すとぽっかりと空いた真っ黒な空間をアムちゃんの顔へと向けてきた。

 

「あっ…」

「ダメ!やめて!!!」

 

 瞬間、"ソレ"の首が吹き飛んだ。映像がスローモーションのように流れる。アムちゃんみたいな腕をした鳥みたいなフレンズさんが"ソレ"の首を叩き切ったのだ。黄色のような茶色い体に黒いぶち模様のようなものが散っている。頭の羽を見る限り鳥系のフレンズさんだろうか。

 真っ黒の霧のようなものが"ソレ"の首元から溢れ出てくる。首を刎ねたそのフレンズさんの元へ黒い霧が流れていく。やがてアムちゃんにまとわりついていたそれもそのフレンズさんに吸い込まれてしまった。

 

「………」

「あ、あなたは…?」

 

 その子は黙って俯いている。ぶち模様の目立つ茶色い体に鳥系のフレンズさん特有の羽がある。しかし、その腕はアムちゃんみたいな半分獣に戻ったような見た目をしている。もしかしてこの子もビースト…?

 そもそもあの黒い霧を吸い込んでしまったんだ。あれは大丈夫なのだろうか。

 気が付くとそこには黒いシスター服とあの仮面が転がっているだけだった。この子によってあの"不気味なモノ"は倒されたのだ。

 

「あ、あのっ!ありがとう!良ければお名前を教えてくれないかな!そ、そうだ!あたしは…」

「……知ってる。ともえでしょ。私は…トラツグミ…。一つだけ忠告しておくわ。そいつ…その白いヤツには注意しなさい。そいつは良くないものを持ってる…」

 

 そういうとトラツグミと名乗ったフレンズさんは飛んでいってしまった。けど…あの忠告はどういうことだろう?良くないものを持ってる…?

 

「…はっ!」

 

 そうだ…。アムちゃん!何をボーっとしてたんだろう、あたし!

 

「アムちゃん!大丈夫!?」

「う、うん…。へーき…」

 

 すこしよろっとしながら立ち上がった。少し心配だけどどうやら平気なようだ。

 

「よ、よかったぁ…。もう!イノシシさんじゃないんだからやみくもに突撃しちゃダメだよ!すっごく心配したんだから!」

「う、うん…。ごめん…」

 

 少ししょんぼりしている。どうやら反省しているようだ。

 後ろの方ではあの真っ白なフレンズさんがみんなから介抱を受けているようだった。どうやらあまり体調がすぐれない様子で少し危なっかしいように見える。それともあの"不気味なモノ"にやられたのだろうか。

 

「お前も大丈夫か?なんか今にも倒れそうだぞ」

「…大丈夫です。わたくしの方は…」

「なんかトラツグミって子から良くないものを持っているって言われてたけどどういうこと?なにかあるの?」

 

 サーバルちゃんが尋ねる。

 

「…恐らくわたくしが持っているこの力のことでしょう。わたくしの名はペイル。かつてわたくしは死をもたらす獣として生を受けました。そしてフレンズ化した今もその力は変わらず…。死、疫病…そして獣を操る力…。恐らく彼女はわたくしの持つこの力を指してあなたたちに関わるなと申したのでしょう。彼女の言うことは正しい…。あまりわたくしに関わらない方が良いでしょう。一応助けてくれたことに礼を申しておきます。ありがとうございました。…後はわたくしのこの力せいで皆に危害が及ばないように森の奥深くでじっとしておきましょう…」

「ダメだよ!」

 

 あたしは叫んだ。

 

「自分の力が怖いからって森の奥で引きこもってちゃもったいないよ!あたしたちと一緒に外に出て楽しもうよ!それにペイルちゃんの力が役に立つ時だってきっと来るはずだよ!」

「わたくしの…力が…?」

 

 キョトンとしたような目であたしを見つめてくる。真っ白な外見とは正反対の真っ黒のような瞳であたしを見つめてくる。なんだかその瞳を見ていると魂ごと吸い込まれてしまいそうになるけどこれもペイルちゃんの持つ力のせいなのだろうか。いずれにせよ、この子を外へ連れ出さなければならない。森の奥で自身を封じるなんて、そんな可哀そうなことはさせられない。

 

「自身の体すら蝕むようなわたくしの力が役に立つとお思いなのですか…?」

「それはわからないけどきっとあたしたちなら見つけられるよ!だから一緒に行こうよ!」

 

 そう言うとあたしはペイルちゃんの手を取って引っ張り上げた。ペイルちゃんの細い体はひょいっと簡単に持ち上がった。その感覚はまるでガリガリにやせ衰えた病人を引っ張ったかのようだった。決して頼れるものではないけど、必死に大地に足を張ろうとするその姿はなんだか頼もしく思えた。

 

「そう…なのですかね…。わたくしのこの力が…皆の希望に…。いいでしょう。しばらくの間わたくしも皆のお世話になりましょうか。皆さま、よろしくお願いしますわ」

「うん!よろしくね!ペイルちゃん!」

 

 

…………

 

 

 かばんさんの案内で森の奥へと歩みを進めていく。なんでもこの近辺にセルリアン撃退のためにかばんさんが中心となって築き上げた要塞があるのだという。相変わらずすごいお方だ。

 

「要塞ってどんな感じなの?」

「たぶんともえちゃんが想像するようなガッチガチな要塞ではないかもね。でも僕なりに考えて造ったから見てほしいって気持ちはあるよ」

 

 そう言って得意げに笑ってみせるかばんさん。一体どういうものなんだろう。少しワクワクしてくる。

 しばらく歩いているとなんだか木の壁のようなものが見えてきた。あれがかばんさんが言っていた要塞なのだろうか。

 

「ここに来るのもいつぶりなんだろう。みんな大丈夫かなぁ?」

「どうだろう。セルリアンが襲ってきてもみんながきちんとマニュアル通りに動いてくれれば落ちないようにはしているつもりなんだけど…」

 

 城門に近付いていく。そこには警備と思わしき真っ黒の甲冑を身に纏ったフレンズさんがいた。

 

「おっ?かばん殿ではありませんか!」

「お久しぶり、クロサイさん」

「久しぶりだね!」

 

 クロサイと呼ばれたそのフレンズさんはかばんさんとサーバルちゃんにビシッとあいさつした。喋り方もなんだか堅くていかにも騎士といった風体だ。

 

「ところで、そちらの方々はどちらで?」

「この子たちはキョウシュウエリアからきたともえちゃんとそのお供だよ。みんなも後で自己紹介しよっか」

「うん!」

 

 軽い挨拶を交わしたあたしたちがかばんさんの後に続いて要塞に入ろうとしたその時だった。

 

「待て」

 

 不意にクロサイさんがランスで道を塞いできた。何か入門許可証でもいるのだろうか。

 

「まずはお前たちの素性を明かしてもらおうか。ここ最近はセイレーンの出没やら内部情報の告発やらで我々もピリピリしているのだ。それに…そこの白いフレンズのお前、お前だけは中に入れることはできん」

 

 ランスを突き出して一直線にペイルちゃんを睨む。その鋭い目つきは底知れぬ怒りに満ちているようだった。

 

「お前が何者かは知っている…。お前の企みもすべてだ…!私の目の黒いうちは決してこの要塞を落とさせはせんぞ…!」

「………」

 

 なんだか気まずいような沈黙が流れる。一体どういうことなのだろうか。クロサイさんが異様にペイルちゃんを敵視している。ペイルちゃんの持つ死の力を警戒しているのだろうか。

 

「かばんさん、なぜあいつと一緒にいるのか説明してもらいたい。ペイルはセイレーン出没と同時期に現れた謎の多いフレンズだ。噂ではペイルこそ此度の騒動の元凶ではないかと噂されているんですよ?」

「そ、そうなんだ…」

「それにともえといったか。お前たちも素性を明かせないというならばかばんさんやサーバル共々中に入れるわけにはいかなくなる。どこから来たか、何のフレンズか、何をしに来たか、いつ生まれたか、どれ位の間いる予定か、次はどこへ向かう予定か、きっちり管理させてもらう」

「う、うん…」

 

 あたしたちは要塞の外にある詰所のようなところへ通された。周りには屈強そうなフレンズさんが厳しい目であたしたちを見ている。なんだか取り調べを受けているかのようだ。

 

「かばんさんとサーバルはいいとして…まずはともえ、お前からだ」

「は、はい」

 

 

…………

 

 

 気付けば夜になっていた。四時間はかかっただろうか。なんだかんだいってかばんさんとサーバルちゃんもあたしたちでいうところのパスポートや身分証明書を作らされた。場合によっては労働証明書や、空を飛べるフレンズさんであれば滞空時間証明書なんかも必要になってくるのだそうだ。キョウシュウエリアとは全然違う文明のようなものが根付いていてすごく息苦しく感じる。

 

「けー、なんだよなんだよ。飛んでもいいけど城壁より高く飛ぶなだってさ~。そりゃあ、私はあんま飛ばねえけどよー。こんな規制があるだけですっげえ息苦しいっていうか縛られてるっていうか…つまんねーのー!もっとけものらしく自由にすごさせろってのー!」

 

 ゴマちゃんがぶーぶー文句を言っている。文句を言いたいのはあたしにも分かるけど…それ以上に聞きたいことが山ほどある。まずはそれを解消しなければ。

 

「あの、クロサイさん。ペイルちゃんは…?」

「うん?ああ、あいつか。悪いが、ここの最高責任者として入城を拒否させてもらった。悪く思わないでくれ」

「え!?そ、そんな!なんも悪いことしてないのに…!ペイルちゃんもあたしたちみたいにパスポート作って管理すればいいじゃん!」

「…あくまで私の感覚で以っての判断になって申し訳ないのだが、あいつには不確定要素が多すぎる。不穏分子は極力排除せねばならない。それにペイルなんて名前のけものは聞いたことがない。ペイル…外来語ではあるのだが、私たちの言葉に訳すると"蒼白い"という意味になる。それを体現するかのようにあいつの毛皮は異様にまで蒼白い色をしている。君はそんなけものを中に入れる勇気があるのか?自身の本当の名を明かさないようなけものを君は信頼するとでもいうのか?」

「そ、それは…」

 

 思わず口をつぐんでしまう。たしかにペイルなんて名前は聞いたことがない。クロサイさんのいうことはもっともだとあたしも思った。ここにはここの事情があるのかもしれない。けど、あまりに除け者にするのはなんだかかわいそうと思えて仕方がなかった。見た目もすごく痩せていて今にも倒れそうなほど虚弱な体をしているペイルちゃんだ。彼女の持つ力は自身をも蝕むとも言っていた。そんな彼女をあたしは放っておけなかった。

 

「外へ出るのもいいが、その場合にはまた手続きをしてもらうぞ」

「う、うん…。お願いします」

 

 カリカリカリ…

 

 手続きを終えて外へ出たあたしはペイルちゃんを探した。門の外にある近くの木陰にペイルちゃんはいた。木の根元で横になって寝ているようだ。あたしはじゃぱりマンを一つ取り出すとペイルちゃんの横へと置いた。

 

「ごめんね、ペイルちゃん…。何もしてあげられなくってごめんなさい…。明日にはきっと中に入れてあげるからね…」

 

 ペイルちゃんの安全をしっかり確認するとあたしは再び要塞の中へと戻っていった。

 

「なんだ、もう戻ってきたのか?」

「うん。また何か書かないといけないものはあるの?」

「もちろんだ。一分も外にいなかったんじゃないのか?これだと書類を描いてる時間の方が長いものだぞ」

「うぅぅぅん…」

 

 カリカリカリ…

 

「だはー!疲れたぁぁぁぁ…」

「これも要塞内のフレンズの安全のためなんだ。我慢してくれ」

「なんだか人間社会にいるようだよぉ…」

「そりゃそうだ。かばんさんのアイデアなんだからな」

「だと思った…」

 

 こう言っては悪いのだが、元々動物だったフレンズさんがこんな高度な文明社会を築くのは普通に考えてすごく難しいと思う。けど、外部から情報を持ち込まれた場合は別だ。何かきっかけの一つでも与えてやればそこから発展していって、クロサイさんの要塞のような文明を築くことができるかもしれない。難しいかもしれないけど不可能ではないはずだ。

 

「………」

 

 要塞内を見て回りたい気もしてきたけどこれにも許可証か何かいるのだろうか。

 

「ねえ、クロサイさん。ちょっと要塞の中を見て回りたいんだけど…」

「見て回るといい」

「許可証の手続きとかはいらないの?」

「別に見て回るくらいならいらんぞ」

「わかった!じゃあ、行ってくるね!」

 

 あたしは要塞内を見て回ることにした。もう夜だというのにまだ要塞内には活気がある。それに小さいながらも明かりがぽつぽつと灯っている。この明かりは火でも焚いているのだろうか。

 なんだか見たことのある設備がある。あれは…鉄を作ってるのかな…?

 

「あの~、すいません…」

「ん?」

 

 目つきの怖い熊さんみたいなフレンズさんだ。全体的に灰色っぽい色をしている。

 

「見かけない顔だな。なんていうんだ?」

「あたしはともえって言います!あなたは?」

「私はハイイログマだ。見ての通り鉄を作っている」

「へぇ~…」

 

 かばんさんが教えたのだろうか。周りを見てみるとみんな何かしら作っているようだ。なかには何を作っているのか皆目見当もつかないようなフレンズさんもいる。

 

「今月はノルマがきつくてね。昼夜交代制でずっと鉄を作ってるのさ」

「鉄を…?昼夜交代制で…?」

「そう。セルリアンやセイレーンに対抗するための道具さ。ピーチパンサーやヌートリアみたいな戦闘に不向きなフレンズでも戦えるための道具を昼夜問わず作ってるんだ。私たちが作った火薬や鉄をクロサイがまとめて回収してそれぞれ適した形にして再分配するんだよ。私的な利用は一切許されない。作ったら作っただけ帳簿に記入してクロサイに提出する。厳しいものだよ」

「へ、へぇ…」

 

 なんということだ。徹底して統率が図られている。まさかこれほどまでとは思わなかった。けど、経済の概念がないのであればこれが一番効率が良かったりするのかな…?なんだかまるで…

 

「上の方ではバリスタを作っているよ。良かったら見てくるといい」

「うん、わかった。ありがとう」

 

 バリスタ…。気になりはするけどなんていうか…。けものらしさというかそれぞれの個性がなくなっていっているような気がする。まるで人間の営みを見ているかのようだ。バリスタも鉄も火薬も人間が生み出したものだ。恐らくはかばんさんが自衛の策としてフレンズさんに教えたものなのだろう。それがこうもフレンズさんの営みを変えてしまうとはなんだか業が深いような気がする。これらはフレンズさんが扱うにはあまりにも手に余りすぎるというものだ。これもゴコクエリアが真の平和を手に入れた時にはなくなってくれていることを祈ろう。

 しかし、イエイヌちゃんたちはどこへいったのだろうか。探すのも骨が折れるだろうし今日はもうクロサイさんのいる詰所で寝ようかな…

 あたしは詰所へ戻ると堅い床に横になって眠るのだった。

 

 

…………

 

 

 ともえちゃんと行動を別にしたわたしたちは宿舎と呼ばれている場所に来ていた。簡素ながらも生活に必要な最低限のモノは一通り揃えられている。壁が薄いのか左右の部屋からはフレンズさんのいびきや生活音が聞こえている。

 しかし考えれば考えるほど異様なところだ。この要塞は常に硫黄のニオイや鉄の焼けるニオイで満ちている。ここに帰ってくるフレンズさんも部屋に入るとすぐに寝てしまうのか五分もしないうちにいびきが聞こえてくるのだ。よほど疲れているのだろう。

 ニオイと言えばペイル…あの蒼白いフレンズさんもフレンズというにはあまりにも異質に思えたっけ。彼女からはフレンズとしてのニオイや生物としてのニオイが一切しないのだ。死のニオイとでもいうべきか、そんなニオイがあのペイルさんから感じるのだ。クロサイさんが不穏分子は極力排除せねばならないとは言っていたけど、わたしからしてみても彼女からはとてつもなく不穏なものを感じる。未知に対する恐怖とでもいうべきか…かつて鵺が言っていたことを思い出すようだ。

 

「何か考え事?」

 

 不意にアムールトラさんが訊ねてきた。

 

「あ…いえ。ここって不思議なところだなーって思って…」

「うん…。フレンズらしくないよね」

「そう…ですね…」

 

 不意な問いかけにしどろもどろになりながら答える。普段は無口なアムールトラさんが語りかけてくるのは意外なことだった。

 

「…あたし、ペイルと一緒にいるのは良くないと思う」

「なぜですか?」

「あいつは何を考えているのかわからない…。考えがまるで読めない。それにあいつからは死のニオイがする。あたしの本能があいつは危険だってずっと警鐘を鳴らしてるんだ…」

「…移動中ずっとピリピリしてたのはそのせいだったのか」

 

 かばんさんに連れられて要塞に移動している最中ずっと後ろから殺気のようなものを感じていたけど、あのただならぬ気配はアムールトラさんのものだったんだ…。どうやらずっとペイルさんのことを警戒していたようだった。ペイルさん自身がどう感じていたかは分からないけど、あれでは彼女も気が気ではなかっただろう。

 

「私にはよくわかんねーけど普通のフレンズじゃねえってことはわかるぜ。ペイルっていう名前も変だしな。なんていうかぶぼぶぼみたいな名前だぜ」

「…なに?ぶぼぶぼって」

「…なんだろうな。私もパッて思いついただけなんだけど…」

 

 奇妙な沈黙が流れる。なんだか居たたまれない気持ちになったわたしはなんとか場の雰囲気を変えようと話を切り替えた。

 

「は、はい!この話はお終いです!あまり長く特定のフレンズさんの話をするのは良くありませんからね!今日はもう遅いですし寝るとしましょう!おやすみなさい!」

「…うん。おやすみ」

「…すまねえな、イエイヌ…。おやすみなさい」

 

 こうしてわたしたちは一日を終えることにした。ペイル…謎の多いフレンズだ。果たして本当にフレンズなのか?考えれば考えるほどわからない。フレンズとしての特徴はばっちり当てはまっているけどわたしが見てきたフレンズさんの中でも特に異質だ。最も鵺やヤマタノオロチさんにも言えることなんだけど…。

 …だめだ。考えれば考えるほど分からなくなってくる。おとなしく今日は寝るとしましょう。考えるだけ無駄な気がする。明日はともえちゃんと合流して今後のことを話し合おう。おやすみなさい…。

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